MITで出会った共同創業者2人がつくった、リモートチームのために作られたグローバルな給与計算とコンプライアンスHRサービス「Deel」は、今や伝説の存在となりました。2019年の創業後、わずか3年でユニコーン企業となり、20ヶ月という超短期間でARR100万ドルからARR1億ドルにまで成長させるという実績を上げたのです。
以前にDeelの「凄さ」については、こちらの記事で紹介しました。そして2022年11月17日開催の「ALL STAR SAAS CONFERENCE 2022」では、共同創業者でありCRO(Chief Revenue Officer)のShuo Wangさんが登壇。ALL STAR SAAS FUNDのマネージングパートナーである前田ヒロが、事業拡大のポイントなどを直接インタビューしました。
(※この記事は講演内容をテキスト化し、抜粋・再構成したものです)
Deelが見つけた課題とは何だったのか?
前田:Deelは驚くべき急成長を遂げました。SaaS企業は「T2D3」を目標とすべし、というある種の“思い込み”を遥かに超えた存在です。これまでの経験を通して学んだことをブレイクダウンしながら聞いていけるなんて、今日はワクワクしています。
まずは、Deelがどういったビジネスを展開しているのか、急成長を遂げた当時の顧客層がどのような人たちだったのか。改めてそこから、お聞かせください。
Shuo Wang:Deelのことをお話しする前に、私が向き合っている2つの課題からはじめたいと思っています。これらの課題こそが、Deelを設立した理由につながりますから。
まず、企業が人材を同じ場所、同じ国の中で採用することがとても難しくなっています。サンフランシスコには、たくさんの大企業がありますよね。そのような環境の中で、開発チームのすべてのメンバーを、サンフランシスコで集めるのは本当に難しいことだ、とかつての同僚から聞いたのです。そうなると、プロジェクトや契約を委託できる先を、サンフランシスコ以外の場所で探さなければなりません。
そして、オフィス勤務も難しくなっています。会社から遠くに住む人たちにとって「通勤」は大きな問題です。LinkedIn、Google、Facebookなどの大企業は、パンデミック前からリモートワークをサポートしていました。
LinkedInで働いていた仲の良い友人がいて、彼はサンフランシスコ在住でしたが、オフィスはマウンテンビューにありました。彼は2018年当時から「週に3日」リモートワークをして、5日間連続でオフィスには出勤しなかったといいます。今では、それが働き方のトレンドになっていますよね。
みんなが使っているSlackやZoom、Google Meetなどのツールもすでにありましたし、当時から人気のあるツールでしたが、テクノロジーの進歩によって、リモートワークはとても快適なものになっています。
こうした背景から、リモートワークを実現し、支援する「Deel」というプロダクトが誕生したのです。雇用市場をグローバルレベルで開放することによって、企業はすぐに人材プールに無制限にアクセスでき、雇用のスピードを上げるだけでなく、最終的にはR&Dも加速させられるわけです。これが最大の利点ですね。
社員は無限のリソースと機会が得られ、居たいと思える場所から、想像できないような大きなチャンスを得ることもできます。これが、今まさにDeelが作り出している価値なのです。
Deelが実践しているのは、グローバルな雇用を促進し、世界的な事業展開を支援することです。優秀な人材が、場所を問わず、協働の機会を見つけられるような、All-in-Oneな解決策を提供したいと考えています。
機能拡張に必要だった「200社・400名インタビュー」
前田:面白いですね。最初のプロダクトは単一機能だったのですか?また、最初のターゲットは「スタートアップ」など、特定のセグメントだったのでしょうか?
Shuo Wang:とてもいい質問ですね。私たちは決済プラットフォーム、あるいはFinTech企業としてスタートしました。
リモートワークやグローバル採用を課題としたときの「典型的な問題は何か」を考えると、筆頭は「支払い」です。特に、国際間での支払いは大きなテーマで、多くのFinTech企業が、海外送金の問題を解決しようとしています。Swiftは最もトラディショナルな方法であり、PayPal、TransferWise、Revolutなどの決済プラットフォームもありますよね。
Deelは「グローバル人材向けの決済プラットフォーム」の提供からスタートしました。その後、Y Combinatorにも採択されたのです。Y Combinatorでは、同じバッチで採択された企業の起業家たちにインタビューをしました。たしか、約200社、400名の起業家たちだったと記憶しています。
前田:それほどの数の企業にインタビューした理由は?
Shuo Wang:海外にいる、またはリモート人材を採用するときに直面する最大の課題を見つけようとしたんです。その課題を解決するために、どのようなプロダクトを開発すべきか、その理解を深めようとしました。そして、私たちは2つの課題を見つけました。第一は「海外送金」、第二は「所在地で異なるコンプライアンス」です。
労働法をはじめ、国や地域でコンプライアンスは異なります。たとえば、アメリカでは市や州によって税金が変わり、社会保障や福利厚生、保険についても現地の労働法に従う必要があります。グローバル展開なら、なおさら複雑です。起業家がすべての国際労働法を学んで人を雇うのは、現実的ではありませんよね。
課題を理解した私たちは、すぐに労働法コンプライアンスをプラットフォームに追加しました。これで、グローバルで人材を採用しようとする企業が、採用、社員のオンボーディング、請求など多くのプロセスを自動化できるようになりました。それが、Deelです。
前田:そこまでの過程の中に「aha moment(これだ!)」と思った瞬間はありましたか。まさに「このソリューションが必要なんだ!」といったような。
Shuo Wang:Y Combinatorに採択され、たくさんの企業の起業家にインタビューすることに時間を費やしたときでしょうか。クライアントからのフィードバックを集め、クライアントと一緒にプロダクトを作り上げていきました。コミュニティやクライアントに使ってもらえるプロダクトになるために、完璧なPMFを目指して、徐々にプロダクトを構築していったんです。
なので、「これだ!」という瞬間よりも、ゆっくりと作り上げていったと言ったほうが正しいのかもしれません。もっとも、あくまで私の感じ方であって、Deelの初期チームや共同創設者に聞いたら、別の答えが返ってくるかもしれませんね。
Deelの急成長を叶えた、2つの要因
前田:では、ここからはセッションの本題である「20ヶ月でARR100万ドルから1億ドルに成長した裏側」について、聞かせてください。率直に言って、これほどの速さで、これほどの規模に達した要因は何だと思いますか?
Shuo Wang:Deelの急成長には2つの要因が挙げられます。
一つ目は、市場が巨大であり、プロダクトに対する市場からの需要があったこと。私たちは市場の持つ「本当の課題」を解決したのです。Deelでいえば、それは従業員や雇用主が抱えていた課題ですね。つまり、PMFを達成した優れたプロダクトであることが、確実に私たちの成長を支えてくれたと思います。
二つ目は、早期にグローバル進出したこと。創業初日の時点から、アメリカだけでなく、グローバル市場をターゲットにしていました。現に私たちは、ヨーロッパ、アジア・パシフィック、ラテンアメリカにも小さなチームを持っています。日本にもありますよ。
チーム自体はとても小さく、1人が一つの大陸全体を担当しているような状況ですが、それは問題ではありません。その市場を理解するのに役立つ情報を、その人が収集できるからです。市場がどんな状況なのか、何が最大の課題なのか、どのように売り込むのか、営業戦略をどう策定するのか……もっと言うならば、パンデミックが起きたとき、どうしたら優れたPMFを達成できるのか。
これらを把握することが、非常に速いスピードで事業を拡大しやすくするのです。
前田:グローバル進出で、ターゲットとする市場はどのように決めましたか?
Shuo Wang:プロダクトとローカライズされたカルチャー、そしてその成長段階によると考えています。
一部の市場では、プロダクトをそのまま投入するだけで、すぐに売れることがあります。一方で、カスタマイズしてローカライズを施したうえで参入しなければならないケースもあるでしょう。プロダクトの価値をよく理解し、そのプロダクトが特定の市場で解決できる具体的な課題を理解するのです。そうすることで、とても優れた戦略を立てることができます。
また、ROIにも大いに依存すると思います。どの国でも、どの市場でも、売上を生み出すことはできるはずです。でも、その市場に「どのくらい投資をしたいか」、が重要です。その市場から、どの程度のリターンが得られるのか。まずは試して、早い段階でROIを理解し、損失があるようなら、まずは損失を減らすこともできます。特定の市場でROIの“効率性”を見つけることができたら、それこそが狙うべき市場です。
前田:どのくらいの速さで市場を拡大しましたか。たとえば、一度に異なる5つの国に拡大したのか、それとも順を追ったのでしょうか?
Shuo Wang:Deelでは、小さなチームを置いて、同時にすべての国を試しました。そして、それぞれの国でROIの結果と効率性を分析しました。より多くの投資とリソースを割り当てるべき最良の国を見極め、最も効率的だと判断したすべての国で、カントリーマネージャーを採用しています。そして、それぞれ専任のセールスチーム、パートナーシップチームを置き、各国にマーケティングリソースを配分しました。
日本にも小さなチームがあり、私たちは日本をとても重要な市場だと考えています。
前田:それは嬉しいですね。早期にグローバル展開する際の「最大の課題」は何ですか。
Shuo Wang:「不確実性」だと思います。成功を判断するのがとても難しいからです。
成功を測るための適切な方法を見つける必要があります。早い段階で利益を出すのはとても難しく、一定期間内に成果が出ないために諦めてしまう人も多いと思います。
ただ、利益が出なかった場合は「リソースが不十分であった可能性」を確認する必要があると思います。そのローカルな市場における理由を見出さなくてはなりません。それを早い段階で解釈するのは、非常に難しいことだと考えます。
前田:Deelは20ヶ月でARR1億ドルを達成できたわけですが、最初にどういった計画を立てていたのか興味があります。「計画していた数字の50%以上は達成していた」とか、「100%以上の達成度だった」とか。当時のスプレッドシートの精度はどうでしたか?
Shuo Wang:具体的な数字は覚えていないんですよね。なぜなら、ある時点から収益の予測数字を定期的には追わなくなるからです。
投資家に届ける一部のレポートには数字を盛り込みます。でも、予実の数値を常に比較するわけではありません。「新しいビジネスの契約がどのくらい成立しているのか」と「予測に基づいた人員計画を立てられているのか」という点においては、毎月の数字を把握しています。ただ、前月比、または四半期比の予測に基づいて、人員計画は異なることがあります。
もっとも、私は非常にデータドリブンな人間なんです。データに基づいて戦略を策定します。計算、スプレッドシート、モデル、あらゆる数式で計画を立てることを好みます。でも、予測できないこともありますよね。数式がどれほど完璧であっても、どれほど数学に優れていても、関係ありません。予想外のことがあって、現実があるものです。
私たちにできることは、何があってもいいように準備することだけです。できる限り速く進めるようにベストを尽くします。チャンスを捉えて、良いタイミングをつかんで、ベストを尽くしたら、あとはサービスを届けるだけです。
社員が500人になるまでは、共同創業者がすべて面接した
前田:おそらく、市場からの莫大な需要があったと想像できますが、「成長が速すぎる」と感じたことはありますか?また、それを確認するために見ていた要素は何でしたか。
Shuo Wang:Deelは、私にとって2つ目の会社です。共同創業者のアレックスにとっても2つ目の会社です。最初の会社の経験から、「何が良い機会なのか」「何が良いタイミングなのか」を理解していて、それに備えて準備をして、時が来たら捉えるだけです。
指数関数的に成長しているなら、リソースを再配分して、人員計画を再予測し、成長をサポートするためのシステムを追加したり、プロセスを構築したりする必要があるのです。たとえば、2019年当初は社員5名でしたが、今では1,300人の従業員がいます。これは人員計画に沿った採用の状況です。
前田:そのような短期間で多くの人員を増やすなど、想像もつきません。採用を成功させるために、どのようなプロセスやシステムが必要でしたか?
Shuo Wang:社員が400〜500人くらいになるまではアレックスと私が、直接インタビューをしました。カスタマーサポートやセールスでも、ディレクターレベルからトップレベルでも、どのようなポジションであっても。
社員が500人になるまでインタビューを直接行なうことで、私たちのカルチャーにフィットするかどうか、必要なプロファイルに適合している人材かどうか、完全なリモートワークとなる環境に適応できるかどうかを確認していたんです。これは今振り返っても、私たちのその後の成長や事業の拡大のために非常に重要なことだったと思います。
前田:会社のカルチャーについても聞いてみたいです。カルチャーは、CEOや取締役レベルで決められているのですか?
Shuo Wang:会社のカルチャーが取締役会で決められているとしたら、それはとても悲しいことだと思います。会社のカルチャーは、特に創業者が創るべきものでしょう。
Deelの場合は、共同創業者である私とアレックスで決めています。共同創業者として、私たちがカルチャーを創る責任を負っている、ともいえます。カルチャーは、ミッションやバリュー、会社が成し遂げたいこと、なぜこのプロダクトを作ったのか、何が大切なのか……といったことから生まれるものだと考えています。
あとは、人材をトレーニングするためのイネーブルメントプログラムがあることです。Deelでは従業員400人のときに導入したのですが、実は遅すぎたと思っているんです。200人のときに導入できていたら、と後悔しています。ただ、私たちの場合、数ヶ月で従業員数が200人から400人になったので、大きな問題にはなりませんでしたが。
話を戻すと、私たちは社員のトレーニングセッションであるイネーブルメントプログラムを確立させました。Deelに入社したら、十分なトレーニングを受けてもらいます。私たちのシステム、バリュー、プロダクトをしっかり把握しているかどうかを確認します。そして、課題を確認し、Deelのミッションについても理解してもらいます。
このトレーニングプログラムは、新入社員を定着させるのに確実に役立っています。さらなる規模拡大のための基盤を築くためにも、重要な役割を果たしてくれていますね。
前田:イネーブルメントプログラムは何人で運営しているのですか?
Shuo Wang:プログラム全体では5〜6人ですね。あとは、セールスチーム向けの「セールスイネーブルメントプログラム」もあって、そちらは7〜8人で運営しています。
前田:特にオンボーディングやトレーニングにおいて、「成功するイネーブルメントプログラム」を構築する秘訣のようなものはありますか?
Shuo Wang:欲しいと思われるコンテンツをマイルストーンに基づいて設計することですね。そして、このトレーニングを、最初の2日ですべて終わらせようとはしないことです。2日以内というのは、ほとんど不可能に近いですから。
コンテンツを見て、マイルストーンとクラスを設計して、「なぜこの機能や部門があるのか」といった会社のストーリーなども加えます。私たち自身が経験してきたことを伝えるためです。このストーリーは、Deelが今のDeelである理由を、社員が理解するために間違いなく役立っていると思います。
前田:ShuoさんとAlexさんは、プログラム作成にどのくらい関わりましたか?
Shuo Wang:ほぼすべてと言ってよいくらいです。自分たちの会社のことは、自分たちがより知っていますから。もし、私たちがイネーブルメントプログラムのコンテンツと基盤の構築に関わらなければ、無用の長物になってしまうことでしょう。
前田:まさにそうですね。もし今、ARR100万ドルのときに戻れるとして、やり直したいと思うことはありますか?
Shuo Wang:それこそ、イネーブルメントプログラムをもっと早い段階で作っていたでしょう。
あとは、レベニューオペレーションの機能をもっと早く持たせました。レベニューオペレーションの機能は、セールスチームを内部から支えてくれますから、チームをより適切に構築できたと思います。
報酬とインセンティブは、あくまでも基礎になるものです。レベニューオペレーションというのは、「プロダクトとビジネスのためのデータチームのようなもの」だと考えてください。マーケティングチームとセールスチームに、「どのくらいの予算を割り当てたいか」や「より多くの収益を生み出すための最も効率的な戦略は何か」といった、必要となる関連データを提供するんです。優れたインセンティブ設計によって、セールスチームはもっと効率的かつ生産的な方法で、より多くの売上を生み出すこともできるでしょう。
イネーブルメントプログラムとレベニューオペレーション。これらが、私が(急成長の過程で)学んだ大きな2つのことだと思います。みなさんの会社にも強くお勧めしたいですね。
すべては、データを分析し、それを基にした戦略を立てること
前田:これは僕なりの見解で、Shuoさんと検証してみたかったことなのですが、Deelが急成長を実現させられたのは、お客さまに対するオンボーディングが非常に綿密に準備されていること、もしくはお客さまがプロダクトを導入する方法がとても分かりやすくなっているからなのではないかと。
トップダウンのセールスでは、このような規模で急速に成長することは不可能だと思うんです。だから、DeelはもっとボトムアップのGo-to-Marketアプローチをとっていて、それが成長の鍵になったと考えていますが、どうでしょう?
Shuo Wang:Go-to-Marketにおける「トップダウン」「ボトムアップ」というのが、どういうものになるのか私はわかりませんが……最も重要なのは、データを分析して理解し、
それを基にした戦略を立てること。これに尽きると思います。
最初は、さまざまな市場や方法を試してみて、お客さまにインタビューをして、アウトバウンドを行なうべきです。「最も理想的なお客さま」のプロフィールを考えたうえで、ピッタリだと思うお客さま100人にメールを送るんです。そのプロセスの中で、自分のプロダクトのPMF達成の道がどこにあるのかが見つかるはずです。
そうすれば、かなり早い段階で、Go-to-Market戦略の立て方を非常によく理解することができるようになるでしょう。私はこれが、とても効率的なやり方だと思っています。
もう一つ、私たちがPLG戦略を取っていることも言えますね。自分たちのことを「給与管理やHR対応ができる会社」と言うと、多くの人はグローバルなサービス企業なんだと思いますよね。この領域は、本当に多くの人の手を介した仕事が必要なので、サービス企業がいくらお客さまを手厚くサポートしたとしても、最高のユーザー体験はなかなか与えられません。
私たちは、そんな大変なプロセスのうちの95%を自動化させようとしているんです。オンボーディングやバックグラウンドチェック、源泉徴収や雇用契約書の作成、地域固有のコンプライアンス対応などのプロセスを効率化するわけです。たとえば、雇用契約書の自動作成
なら、「どの国にいる、どの社員で、どんな条件で、どの役職なのか。給料はいくらなのか。その従業員の責任範囲はどこまであるのか」といった情報をベースに作成します。
そして、Deelのプラットフォーム上でオンボーディングプロセスがはじまるのです。
前田:すごいですね。プロダクト体験の大半を自動化したということですよね。
Shuo Wang:その通りです。それが今日のDeelのコアバリューだと思います。
前田:セルフサーブでスタートするお客さまは、実際いるのですか?インサイドセールスのような営業活動を通じて獲得したお客さまもいるのでしょうか。
Shuo Wang:Deelのプラットフォームは、お客さま自身でサインアップもできます。私たちのサイトを訪れたお客さまがデモをリクエストすることもできますし、すぐにサインアップをして契約することもできます。
でも、国をまたいで人材を採用するとなると、どうしても不安要素が出てきますよね。数字や給与の内訳、雇用契約などすべてのコンテンツがプラットフォームに揃っていたとしても、その地域固有の労働法があるなど、実態は非常に複雑です。お客さまである企業の人事のリーダーや法務の方は、どんなプラクティスがあるのかといった詳細を確かめたり、プロダクトをきちんと理解したりするために、私たちと話をしたいと考えるのです。
ですから、プラットフォームにどれだけ詳細な情報を掲載しているかどうかは関係なく、シンプルに人々は「話をしたい」と思っている。たとえば、大学には物事を詳しく解説した教科書がありますよね。学生はそれを読むだけでも学べるはずですが、その場に教授がいるということに、大きな価値があるんです。
成功しているCROとは、常に目標を達成しているCROである
前田:Shuoさんはご自身の「CRO」という仕事をどのように定義していますか。
Shuo Wang:とても単純です。「会社がお金を稼ぐための意思決定を行なうこと」です。
前田:CROとして成功するためには、スキルや経験など、何が必要だと思いますか?
Shuo Wang:「成功」にも色々な定義がありますし、何を成功と見るかは人それぞれで違いますね。でも、根本にあるのは「物事の結果が、私たちの期待と合致しているかどうか」ではないでしょうか。「結果と期待が一致すること」を「成功」と呼ぶのではないかと。
結果が期待を超えれば大成功ですが、結果が期待に沿わなかった場合は成功とは言えませんよね。ですから、CROの成功の定義は、ステージごとに大きく異なるのだと思います。初期の段階では「PMFを見つけること」かもしれません。100人の見込み顧客と話をして、100通のメールを送ったとして、返信率が50%ならば大成功と言えますね。
そこからスタートしたら、次は「取引を成立させること」でしょう。10人の見込み顧客と話をすることを目標として、そのうちの50%、つまり5人と成立させたなら、また大成功。
PMFを見つけた後なら「チームを構築すること」が目標になるでしょう。どのようにしてチームを作るのか、いかにセールスチームのインフラを築きはじめるべきか、セールスチームの基盤をどのように作れば良いか、どうやってセールスチームの人材を採用すべきなのか……最初のセールス人材を採用することは、CROにとって良い成功となります。
さまざまなステージや課題を数値化し、それぞれをマイルストーンとして細分化し、達成できなくてはなりません。ですから、シンプルにするならば、「成功しているCROとは、常に目標を達成しているCROである」というのが私の答えです。
前田:やるべきことをやり遂げる、ということですね。
Shuo Wang:そうです。第4四半期までに1億ドルの売上を達成する必要があるとしましょう。そのためには、いくつかのスキルセットが必要です。
まずは1億ドルの売上を達成できるようにチームをモチベートしなくてはいけません。また、それが達成可能な数字だと明確にすることも欠かせませんし、社内のリソースを確保する必要もあります。社内のリソースで足りない場合は、大規模なセールスチームを採用することができませんから、あなたの予測が間違っていることになります。
前田:話題を重ねて、経営スタイルについても聞かせてください。従業員数が5人から1,300人へ増える過程で、リーダーとして自分自身を変えなければならないこともありましたか?
Shuo Wang:とてもいい質問ですね。会社の規模、成長、ステージによって、異なるリーダーシップが必要になりますから、もちろん異なるスキルセットも必要です。
アーリーフェーズであれば、とにかく実行力が求められます。CROの自分にとっての「実行力」とは、チームにとって最初のディールを成立させるモチベーションを与えることでした。そして、ある段階を迎えると、戦略立案力が求められるようになるでしょう。目標を達成するために優秀な人材を採用できるような人員計画も立てなくてはいけません。
チームができてきたら、マネジメントがすべてです。モチベーションを高め、インセンティブを与えて、効率的かつ生産性の高いチームを築くための戦略を追求します。一人ひとりが強いパッションを持ち、チームで取り組むことで、価値あるものを売ることができるのです。
こうした取り組みによって、潜在的なお客さまが持つ大きな課題を解決することもあります。あとは、初期段階でさまざまな戦略やプロダクトを持つことで、収益を生み出す仕組みは複数つくっておくべきですね。販売組織が成長しても、その効率を維持する方法を見つけるのも大事だと思います。
前田:今、組織も顧客もどんどん増えている急成長企業で、Shuoさんと同じような役割にチャレンジしている方や経営者たちへ、アドバイスはありますか。
Shuo Wang:データに加えて、数字ドリブンでいてください。そして、あなたが創業者ならば、営業を経験してからCROになってみてください。あなたは、プロダクトとその価値を最もよく理解しているはずだからです。あなたがビジネスのパートを担うことができれば、非常に速く、生産的に成長させられるでしょう。
もう一つ伝えたいのは、親切であること。一方で「No」と言う方法も知ることです。チームからは色々な要求が出てきます。そういった要求に対して「No」を伝えることは、あなたが不親切だからではないのです。
経営者ならば、とにかく早くスタートしてください。早くスタートすればするほど、よりオープンエンドになって、あなた自身のキャパシティも大きくなるのです。そして、色々なことを試せるようにもなります。
前田:ちなみに、Shuoさんの個人的なルールはありますか。「ある時間帯にはSlackやEメールに答えない」みたいに。
Shuo Wang:ないですね。それは、創業者がすべきではないことでしょうし、贅沢だと思います。
次は日本へも事業を拡大していく
前田:日本での展望もお伺いしたいです。どのような部分を魅力的に感じていますか?
Shuo Wang:日本にも私たちのチームがいるので、何度も日本には行っているんです。私自身も日本が大好き。また近々、訪日できればと思っています。
前田:ぜひ。お待ちしています。
Shuo Wang:展望や魅力についての質問でしたね。日本は人材不足が深刻だと思います。パンデミックもありましたし、人々が大都市に集中しています。日本の大企業が、ローカルな地域で人材を採用することも難しくなっているでしょう。人材プールをグローバルへ広げたいと考えている企業が増えていますよね。日本に拠点を置く企業が、海外人材を採用するためにもDeelは役立つでしょう。
逆のケースもあります。海外に拠点を持っていながら、日本で採用を進めているクライアントもたくさんいます。彼らは日本市場でビジネスを拡大するために、日本で働いてくれるメンバーを確保したいからです。日本はとても国際的です。東京は非常に多様性のある国際的な都市であり、多くの外国人も住んでいますよね。グローバル人材を採用するのに、最適な市場である条件が揃っていると考えています。
Deelは日本での事業を拡大しています。すでに小さなチームがありますが、日本のチームにジョインしてくれる仲間を絶賛採用中です。興味のある方がいたら、Deel.comの採用ページを見てみてください。ご連絡をお待ちしています。
創業者と企業の皆さん、ビジネスをグローバルに拡大したいときには、ぜひお手伝いをさせてください。そして、Deelがグローバルに拡大した初期の頃の経験を共有させてください。
前田:ありがとうございました。Shuoさん自身のお話、そして事業拡大の興味深いストーリーを聞くことができて嬉しかったです。ぜひ皆さん、Deelをチェックしてみてください!