「今週のSaaS×AIニュース」ピックアップ!
*SaaS×AI Weeklyは、ALL STAR SAAS FUNDが毎週ピックアップした記事を日本語で要約し、一部メンバーからのコメントを入れてお届けしています。

AIコーディングツールを「買っただけ」では、まだ入口にすぎない──BVPが示す、エージェント組織を支える4つの土台と開発の「無人工場(ダークファクトリー)」化への道筋
「Build the Churches」 by Bessemer Venture Partners on The Agentic Awakening
米Bessemer Venture Partners(BVP)によるAIプレイブック「The Agentic Awakening」の第1部で、人とAIエージェントが大規模に協働するための技術基盤(コーディング基盤・AI Ops・計測・セキュリティ)を、4段階の成熟度モデルで解説した記事です。少人数で開発速度を競う日本のAI・SaaSスタートアップにとって、トークンコストの管理やSOC 2などのセキュリティ対応まで含めた「エージェント前提の開発組織」の設計図であり、現状診断にも使える内容です。
土台は4つ、最も弱い一つが全体の上限
BVPは、組織の変革は意気込みだけでは広がらず、まず「教会(Churches)」にあたる基盤、つまりインフラ・運用プロセス・専任の専門家づくりが必要だと述べています。その基盤は、コーディング基盤、AI Ops、計測、セキュリティ&コンプライアンスの4つで、それぞれに成熟度のスケールがあります。
<yellow-highlight-half-bold>コードの90%をAIが書いていても、それだけでエージェント型の開発ができているとは限りません。<yellow-highlight-half-bold>AIコーディングのライセンスを購入しただけの企業は「入口に立っただけ」と位置付けられています。
コーディング基盤の4段階
レベル1は、IDE内でCursorやGitHub Copilotと対話しながら書く段階で、まだ人間が処理速度のボトルネックです。
レベル2では、CI/CDにAIによるPRレビューやテストの切り分けを組み込みます。開発のやり方を変えずに導入でき、単独でも投資を回収できます。それにもかかわらず、派手な自律型の取り組みが優先され、飛ばされがちだと指摘されています。
レベル3は、サンドボックス内で長時間動くエージェントを開発者一人が並列で走らせる段階です。ここから10倍以上のレバレッジが生まれ、Claude Codeが主流のツールとなっています。
レベル4は、バグや障害、Slack上の議論などをきっかけにエージェントが自ら作業をはじめ、修正からデプロイまでを完結させる「ダークファクトリー」の段階です。人の承認はすべての工程ではなくリスクに応じたものになり、重大な変更は人が管理します。
AI Opsは、新しいDevOpsにあたる戦略機能
モデルやツール、価格体系は週単位で変わるため、通常業務を抱えるエンジニアが追いかけることはできません。調査対象の企業で共通して見られるのは、2〜5名の専任チームが部門横断で社内AI基盤を担う形です。
このチームは、新しいSaaSを導入する際にMCP対応でエージェントから操作できるかという基準で選別する役割も持ちます。最終的には、PdMや財務、デザイナーなどエンジニア以外の作り手も支え、管理外のAI利用(シャドーAI)やアプリの乱立を防ぐ全社的な推進役になるとされています。
最も遅れている計測と、トークン費用の暴走
計測は「利用状況→品質→生産性→他社比較」の順に難しくなり、多くの組織は利用状況の把握で止まっています。先進的な組織の多くでも、エンジニア一人あたりのトークン費用は月額平均1,000〜2,000ドル程度です。ただし、実態は二極化しており、重度のユーザーは月8,000〜10,000ドル、全社平均でエンジニア一人あたり月12,000ドルに達した企業もあります。
ある企業では、1回の実行で50体のエージェントが起動してループし、それだけで約16,000ドルを消費しました。また、Uberは2026年のAI予算をわずか4ヶ月で使い切り、Salesforceはトークン費用に約3億ドルを見込むと同時にエンジニアの採用を凍結しています。人員の代わりにトークンへ投資する動きが、公の場でも示されています。
生産性は「分布」と「難易度」で測る
Cursorのレポートによると、上位1%(p99)のエンジニアは、中央値の46倍のAI生成コードを出荷しています。AIの恩恵は、使いこなせる一部の人に集中して積み上がります。BVPは、コード行数やトークン量は投入量を示す指標にすぎず、タスクの難易度で重み付けしたスループットこそが本当の生産性指標だと述べています。
具体例として、LLMでPRの難易度を採点するLemonadeのオープンソースツールや、作業をT0〜T7に分類し、人手を介さず一発で完了した割合を追う企業の手法が紹介されています。将来的には、「エンジニア一人あたり」ではなく「人件費とAI費用を合わせた総コスト1ドルあたり」の指標へ移行すべきだと述べています。
セキュリティは、4つの攻撃面とコンプライアンスが対象
対象となるリスクは4つです。エージェントが書くコード、エージェントの行動(プロンプトインジェクションや、悪意あるMCPサーバー経由のサプライチェーン攻撃)、攻撃者側のAI、そしてモデルやプロバイダー自体です。攻撃者はすでにAIを使っているため、「自社ではAIを使わない」という姿勢は防御にならず、脆弱性に後から気づくだけだと強調しています。
また、学習へのデータ利用をオフにすることと、データを保持させないこと(ゼロデータ保持、ZDR)は別物です。モデル・ルーター経由で、意図せず第三者にデータが流れるリスクにも注意を促しています。SOC 2の人手によるコードレビュー統制がエージェント活用の壁になっている事例も挙げられています。
あわせて、SOC 2が想定してこなかったエージェントの自律性に向けて、AIUC-1やISO 42001といったAI向けの認証体系が形成されつつあります。記事では、セキュリティ対策全体を「エージェント・セキュリティの十戒」として整理しています。
差がつくのは、エージェントではなく「文脈の与え方」
RampやStripe、Shopifyなどは、社内エージェントを自前で構築しています。たとえばRampでは社内エージェントがマージされるPRの半分超を書き、Stripeでは週1,000件以上のPRをマージしています。
一方で、Claude CodeやCodexといった実行基盤自体は入れ替え可能なコモディティです。競争力の源泉は、社内のスキルやツール、コンテクストをどうエージェントに渡すかにあるとしています。そのため、自社固有の部分(コンテクスト、サンドボックス、評価)は自前で持ち、残りは購入して、その線引きを数ヶ月ごとに見直すことが推奨されています。
調査対象企業の中央値は「コーディング3・AI Ops 3・計測1・セキュリティ2」で、計測とセキュリティが共通の弱点です。最後に、基盤の完成を待たずに、エンジニアがエージェントを使って働く形への転換を並行して進めるべきだと締めくくっています。
「コスト削減」ではなく「売上回収」で売るAI:a16z投資先Prosper AIが示す、米専門クリニックの1,080億ドル規模の機会
「The $108 Billion AI Opportunity for Specialty Practices」 by Xavier de Gracia on a16z
AIが米国の専門クリニックの売り上げの取りこぼしをどれだけ回収できるかを、Prosper AIの共同創業者兼共同CEOであるXavier de Gracia氏が、a16zへの寄稿で自社データをもとに試算しています。<yellow-highlight-half-bold>業務効率化ではなく「失った売り上げの回収」でROIを示すこの設計<yellow-highlight-half-bold>は、業界特化型AIエージェントを日本で展開する起業家にとって、プライシングやセールスでの訴求を考えるうえで参考になります。
専門クリニックの収益圧迫
米国の専門クリニックでは、運営コストの上昇ペースが売り上げの伸びを上回っています。メディケアの報酬を一時的に2.5%引き上げる措置は2026年末で期限を迎え、CMSは更新しない方針です。民間保険もメディケアの料金表を基準に契約単価を決めるため、影響は保険全体に波及します。
また、医療グループの84%が前年より運営コストが上がったと回答しており、平均の上昇幅は11%です。インフレ調整後のメディケア医師報酬は2001年から33%下がっています。
4つのレバーで、1医師あたり年12.5万ドルの増収
医療AIの議論はコスト削減に偏りがちですが、この寄稿は売り上げ側への効果に注目し、Prosper AIが扱った30億ドル超の医療費に関するやり取りのデータ、MGMAの診療科別データ、29州・約2,000施設に架電した独自調査「CallIQ」を組み合わせて分析しています。4つのレバーを合わせると、1医師あたり年約12.5万ドルの増収が見込めるとしています。
電話の取りこぼしを予約に変える
診療時間内でも18%の電話がつながらず、時間外は81%が不在着信になっています。さらに予約枠の19%が埋まっていません。
事例として、ノースカロライナ州のPiedmont Plastic Surgery and Dermatology(医療提供者37人)では、AIが電話対応を担うようになり、2026年8月の予約数が前年同月の19,209件から22,524件へ17%増えました。ピーク時の待ち時間は7分からゼロになり、同時に対応できる発信者数は15人から50人に増えています。増加分の予約はこの1ヶ月だけで約130万ドルの売り上げに相当すると推計されています。
既存患者を呼び戻す
再診予定の患者のうち、予定どおり戻ってくるのは54%にとどまり、40%は遅れて来院し、6%は戻ってきません。無断キャンセル率は全診療科の平均で18.8%、最も高い消化器内科では25.7%です。2026年に無断キャンセルが前年より増えたと答えた施設は32%で、減ったと答えた10%を大きく上回りました。
予約日が空くだけの無断キャンセルと違い、予約されなかった再診は失った売り上げとして認識すらされにくい点が問題とされています。AIによるリコールと双方向SMSで、再診時期が来た患者に自動で予約を促す仕組みが有効とされています。
事前の資格確認で、請求の却下を防ぐ
初回提出の保険請求のうち平均10%が却下されており、整形外科では22%、消化器内科では16%に上ります。却下のほぼ半分は、受付段階のミス(失効した保険への請求、必要な事前承認の漏れ、患者名の誤記など)が原因です。
医療財務担当者の84%が、却下や不服申し立てへの対応を大きな課題に挙げています。来院前にAIで保険の有効性や承認状況を確認すれば、こうした却下は防げるとしています。
患者の自己負担分をAIで回収する
医療費のうち患者の自己負担は平均36%で、皮膚科では55%に達します。しかし、診療時点で回収できているのは自己負担額の39%にすぎず、残りは診療後の回収になります。
複数拠点を持つ皮膚科でランダム化比較を行なったところ、3回目の請求書が届いたあとの約50日間で、AI架電を受けたグループの回収率は31.2%、通常の督促を受けたグループは21.1%でした。AIによる回収額は通常の督促より48%多かったことになります。
次のフロンティアは、4つをつなげた「収益が保証された予約」
記事が描く統合像では、予約の段階でAIが保険を確認し、患者の自己負担額を計算して来院前に伝えます。保険を正確に確認すれば請求の却下が減り、費用が事前にわかっている患者は来院しやすく、支払いもしやすくなります。その結果、新規患者も集まるという好循環が生まれるとしています。
なお、Prosper AIは2023年創業で、100以上の外来医療グループに導入され、27以上の診療科で15万人超の医療提供者をカバーしています。athenahealthやModMedなど主要な電子カルテと連携しており、出資者はa16z、Emergence Capital、Y Combinatorです。

目標が明確な人ほど、周囲は助けやすい
「Lessons from History’s Greatest Leaders & Conquerors | Ben Wilson」 by David Senra on YouTube
「Founders」を手がけるDavid Senra氏が、「How to Take Over the World」のBen Wilson氏と、歴史上の偉人に共通する思考と行動を語るポッドキャストをピックしました。集中、信念、コミュニケーションをテーマに、周囲が協力しやすくなるよう自分の目標をどう明確にするかを、歴史上の人物と両氏の経験から考える内容です。
自分にもできるはずなのに、まだできていない。その痛みが熱意になる
熱意(zeal)とは、自分と似た資質を持つ人の成果を見て感じる「痛み」だと、Wilson氏は説明しています。21歳のThomas Edison氏は、Michael Faraday氏の伝記を徹夜で読み、自分も同じくらい成し遂げられるのかと奮い立ちました。
すでに成功した人をただ尊敬するのではなく、自分にもその可能性があるからこそ、現在地との距離が苦しくなります。Wilson氏によると、過去の人物と世代を超えて競争する感覚が、行動の原動力になるといいます。
自分を動かすロールモデルは、性格の似た人のなかにいる
Leonardo da Vinci氏からは多くを学べても、思考の仕方が違いすぎて、自分も同じことができるとは感じないと、Wilson氏は語っています。
一方で、Walt Disney氏には、まだ存在しないものを想像し、そのビジョンに人を巻き込むという、自分にも通じる資質を感じるそうです。Wilson氏が目指すのは、聞き手が「この人は自分に似ている。自分にもできるかもしれない」と感じる人物に出会ってもらうことです。
最初からうまく書こうとせず、まずはひどい文章を書く
Isaac Newton氏が思考の断片を書き留めた「waste book」を、Wilson氏は創作の手本として挙げています。最初から洗練されたアイデアを求めず、雑な考えや下手な絵、短い文章を自由に残すことで、番組に使える発想が生まれるといいます。
いちばん苦労する導入部分も、あえてひどい文章を書いて先に進みます。まず本題を書き、導入を磨くのは後に回すことで、書き出しに詰まって全体が止まるのを防いでいるそうです。
優先順位をつけるとは、何を捨てるかを決めること
NeXT時代とiPod時代のSteve Jobs氏を、Wilson氏は対比しています。NeXTでは、価格、発売時期、性能など5つの優先事項をすべて満たそうとした結果、発売が遅れ、予算を超え、過剰に作り込まれたプロダクトになったと振り返っています。
一方で、iPodでは、容量や対応するファイル形式で競合に劣る部分があっても、聴きたい音楽にすぐたどり着ける体験を優先しました。何が重要かを理解するだけでなく、そのために何を重要ではないと判断できるかが、優れた意思決定につながると、Wilson氏は述べています。
Wright兄弟が集中したのは、飛び上がることより飛び続けること
Wilson氏の説明では、多くの競争相手が推進力や揚力に注目するなか、Wilbur Wright氏は飛行中の制御に着目しました。鳥が絶えず翼を微調整している様子を見て、空中に上がったあと、どう姿勢を保ち、進む方向を変えるかが難しい問題だと考えたそうです。そこでWright兄弟は、North Carolinaで何年もグライダーを使い、制御の実験を重ねました。
周囲が取り組んでいる問題をそのまま追うのではなく、本当に解くべき問題を見極めた例として、Wilson氏は紹介しています。
集中するために、すでにお金になる仕事をやめる
番組を続ける資金を得るために、Wilson氏はほかのポッドキャストの制作やイントロ音楽の仕事を引き受けていました。しかし、次第に、自分の番組に集中するには、それらをやめる必要があると気づいたそうです。ほかの番組の制作をやめ、新しいサイドビジネスをはじめるのをやめ、最終的には自分のエージェンシーも閉じました。
「How to Take Over the World」をできる限り成功させるために、実際に仕事を手放したと語っています。
優れたリーダーの共通点は、ビジョン、伝える力、集中
征服者、芸術家、起業家を横断して、Wilson氏が見いだした共通点は3つです。<yellow-highlight-half-bold>達成したい目標があること、それを人に伝えられること、そのためにほかのことを締め出せること<yellow-highlight-half-bold>です。
伝え方は、文章、スピーチ、1対1の会話、大勢への発信など、人によって異なるといいます。同じ性格である必要はなくても、目指す先を示し、人を巻き込み、集中するという行動は共通していると語っています。
助けてもらいたいなら、何を目指す人なのかを明確にする
Senra氏は、Spotify創業者のDaniel Ek氏に、何をしたい人かがわかりやすいので、助けるのも簡単だと言われた経験を紹介しています。関心がポッドキャストに集中しているため、周囲もどんな紹介や機会が役立つのかを判断しやすいそうです。
Wilson氏によると、Arnold Schwarzenegger氏も目標を明確に伝えたことで、同級生から体を大きくするための牛乳を分けてもらうなど、協力を得られるようになったといいます。自分を「助けやすい人」にすることは、明確なビジョンを持ち、それを伝えることにつながると指摘しています。
頭がよくても、やり抜く力がなければ成果につながらない
Senra氏は、知性と決意の強さを比較するPaul Graham氏の思考実験を紹介しています。知性を高いままにしても、決意を弱めていけば、賢いけれど何も成し遂げられない人になります。逆に、決意が強ければ、試行錯誤を続け、人に価値を提供できる事業にたどり着くという説明です。
Steve Jobs氏やElon Musk氏についても、Wilson氏は、周囲で最も知能が高いかどうか以上に、並外れてやり抜こうとする姿勢が際立つと語っています。
売るものへの信念が、セールスを変える
Phil Knight氏の『Shoe Dog』に登場する、百科事典や投資信託のセールスと、Tigerのランニングシューズのセールスの違いを、Wilson氏は紹介しています。前の2つではうまく売れなかったKnight氏が、シューズでは在庫が追いつかないほど売れるようになりました。その違いを、売っているものへの信念だったと振り返っているそうです。
本当に信じている人の熱意には人を惹きつける力があり、逆に、自分の仕事を半信半疑で続けていることも相手に伝わると、Wilson氏は語っています。
1年と20年、二つの未来を同時に生きる
ステージ4のがんと向き合うWilson氏は、二つの人生を同時に生きようとしていると語っています。一つは、これから1年ほどで自分がいなくなる可能性に備える人生です。
もう一つは、まだ20年先があるつもりで生きる人生です。家族のために準備をしておく必要を感じる一方で、新しい治療への希望もあり、自分の人生がまだ長く続く可能性も手放さずにいるといいます。
未来が脅かされても、もう一度同じ人生を選べる
愛する妻と四人の子どもがいて、毎朝楽しみに起きられる仕事にも出会えたため、Wilson氏は、もう一度選べるとしても同じ人生を選ぶと語っています。歴史上の戦争や病気を学ぶほど、自分がどれほど恵まれた人生を送ってきたかを感じるそうですが、闘病がつらい瞬間もあると率直に認めています。
さらに、自分は番組のリスナーや周囲の人から多くの支援を受けられていることにも触れています。最後には、自分と同じように支援を必要としながら、資金や発信力を持たない人にも目を向け、がん研究への寄付も考えてほしいと呼びかけています。

ARRと売り上げの乖離を説明できないCFOは、取締役会で信頼を失う
「ARR vs GAAP Revenue | Spotting “ARR” Lies」 by OnlyCFO on OnlyCFO's Newsletter
多くのAI企業のARRが、「Annual」でも「Recurring」でも「Revenue」でもなくなっている実態を指摘し、ARR→売り上げ→現金の3段階で整合性を確認するフレームワークを提示しています。CFO・FP&A担当者が取締役会への報告の信頼性を保つために使える、実践的な手法です。
ARRはもはや「Annual Recurring Revenue」ではない企業が多い
多くのAI企業のARRは、以下3点を含んでいます。
①短期利用を年換算した、「Annual」ではないもの
②一過性の取引を含む、「Recurring」ではないもの
③GAAP収益として計上できない、「Revenue」ではないもの
ARRと売り上げの乖離が大きいこと自体は、急成長でも起こるため、直ちに問題とは限りません。ただ、その乖離を説明できないことは、CFO・CEOが取締役会で信頼を失う最も早い原因の一つです。
ARR→売り上げの調整項目を把握し、定期的に照合せよ
ARRと売り上げの差異を生む主な調整項目は、無償期間の契約期間にわたる按分、プロフェッショナルサービスへの配賦、利用量ベース収益の見積もり、回収懸念契約の収益認識停止、グロス/ネット表示の差異、返金、クレジットなどがあります。これらを把握して定期的に照合すれば、ARRの定義が事業の変化からずれていないかを見直せます。
売り上げ→現金の照合で「隠れた問題」をあぶり出す
「ARRは希望、売り上げは判断、現金は事実」という考えのもと、売り上げから現金への照合(cash proof)も行います。売上税・グロス/ネット表示のズレ・外貨換算差異なども確認対象ですが、特に見るべきは「Other adjustments」のバケツです。現金にならないものの捨て場になりがちで、最大の項目は多くの場合、貸倒損失です。増えている、または大きい貸倒損失には注意が必要です。
取締役会への定期開示とARR定義の見直しが信頼構築の基礎になる
ARR→売り上げの調整表をボードデッキ(取締役会プレゼン資料)の付録に入れると、全員がARRの意味を同じ認識で共有できます。ARRの定義も、AI時代に変わった価格や契約の形に合わせて見直す必要があります。ARRは、そう長くかからずGAAP売上へ転換されるべきものです。<yellow-highlight-half-bold>ARRが最終的に売り上げと現金につながらなければ、見せかけの指標に過ぎません。<yellow-highlight-half-bold>

「コードを書くPdM」は失速した──Atlassianが採用の軸を変えた理由
「Atlassian’s Head of AI: We Bolted AI Onto 20+ Apps, Almost Didn’t Ship Chat, and Flipped Our Hiring Toward Juniors」 by Jason Lemkin on SaaStr
SaaStr AIのセッションをまとめた記事で、AtlassianのAI戦略とプロダクトマネジメントを統括するSherif Mansour氏(在籍17年)が、AI導入下での組織・採用の見直しを語っています。
同社はPdM約450人、デザイナー約800人、20超のアプリを抱え、AI機能の定期利用者は500万人超です(同氏の発言による)。単に人員を減らす・増やすのではなく、役割の線引き、世代の組み合わせ、学びの仕組みを設計し直す重要性が浮かび上がる内容です。
コードを書くPdMは、速さと引き換えに舵を失った
約10のプロジェクトで、エンジニアに加え、コードを書けるPdM・デザイナーを配置する「AIビルダー」体制を試しました。当初は非常に速く進んだものの、数週間から数ヶ月で失速し、PdMやデザイナーは自然に元の役割へ戻ったとされています。
原因は判断を下す人が不在で、「全員が漕いでいるが、舵を取る人がいない」状態だったことです。初期の速さを成果と誤認したことが、同社自身が挙げる失敗の一つです。
プロダクトチームの比率はエンジニア約10人に対しPdM・デザイナーそれぞれ一人ですが、PdM・デザイナー自身の体感ではエンジニア30〜40人に一人まで広がっています。AIビルダー職は設けるものの、小規模な新興企業向けの形で、中規模以上では大半のPdM・デザイナーには当てはまらないとしています。
採用は、ジュニアとシニアの両端へ
「ジュニアを採らず、AIを使えるシニアを一人雇えばよい」という経営層の意見に対し、Atlassianは逆の方向へ舵を切りました。かつての中堅・シニア中心の構成から、ジュニアとシニアの両端に重心を移し、中間を減らしています。
理由は、R&Dの数千人が長年の働き方を捨てる必要がある一方、新卒には捨てるものがないことです。社内調査では、ジュニアはAIを使う可能性が最大38%高く、実験する可能性もほぼ2倍でした。
一方で、ジュニアは質の低い出力を生みやすく、シニアは導入が遅いものの、その出力を見抜いてAIからより良い成果を引き出すのが得意です。<yellow-highlight-half-bold>人材面の結論は「個人の10倍」ではなく「チームの10倍」を目指すこと<yellow-highlight-half-bold>です。
2ヶ月ごとに全社で行う「AI Builder Week」
両端の採用を機能させるため、同社は約2ヶ月ごとに4日間、R&D全体が通常業務を止めて参加する「AI Builder Week」を開いています。全員が同じ時期に通常業務を離れるよう、日程をそろえています。
ジュニアが新しいツールを紹介し、シニアが品質管理や差別化されたAI活用を発表する構成で、世代間の強みを交換する場になっています。プログラム、スケジュール、動画はオープンソースとして公開されています。
資金調達ニュース
[海外]
🏢 エンタープライズ
- Ramp
法人カード、経費精算、支払い管理のAI搭載プラットフォーム。18億5,000万ドルを調達。評価額は600億ドル。投資家はDragoneer Investment Group(共同リード)、Thrive Capital(共同リード)、Founders Fund(共同リード)、Sands Capital(共同リード)、Avenir Growth(共同リード)など(TechCrunch) - TypeSafe AI
自由文ではなく型付きの「判断」を出力するAIモデル「Jev」を開発。シリーズAで8億7,000万ドルを調達。評価額は75億ドル。投資家はAndreessen Horowitz(リード)、Sequoia Capital、DCVCなど(TechCrunch) - Modal
AI推論・学習ワークロード向けのサーバーレスなクラウド基盤。シリーズDで7億5,000万ドルを調達。評価額は157億5,000万ドル。投資家はAccel(リード)、Kleiner Perkins、Menlo Venturesなど(BusinessCloud) - Oxide Computer Company
ハードとソフトを統合した、オンプレミス向けラック型クラウドコンピュータ。シリーズDで4億4,500万ドルを調達。評価額は60億ドル。投資家はEclipse(リード)、Atreides Management、AMD Venturesなど(Forbes) - Labelbox
フロンティアモデル向け強化学習(RL)基盤とエンタープライズ向けマネージドAIエージェントを提供するAIプラットフォーム。シリーズEで1億ドル超(エクイティと融資枠を含む)を調達。投資家はInfinitum Partners(リード)、Wipro Ventures、a16zなど(FinSMEs) - North.cloud
クラウド・AI・データ支出を一元管理・自動最適化するインフラ支出インテリジェンスプラットフォーム。シリーズBで6,000万ドルを調達。投資家はPeakSpan Capital(リード)、Litquidity Ventures、Companyon Venturesなど(FinSMEs) - LearnUpon
AIエージェントが研修運営を自動化するエージェント型の企業研修プラットフォーム(LMS)。5,000万ドルのグロースファイナンス枠を確保。提供元はデットファンドのClaret Capital Partners(Yahoo! Finance) - Scuba
チームとAIエージェントが知識・意思決定を共有するコンテクストエンジン。プレシード・シード合計で3,400万ドルを調達。投資家はAccel(プレシードリード・シード共同リード)、IVP(シード共同リード)、BoxGroupなど(Yahoo! Finance) - Mistlabs
現在はApple端末上で常時文脈を把握し、リアルタイムで提案するアンビエントAI「Ambi」。プレシリーズAで2,600万ドルを調達。投資家はLuminous Ventures(共同リード)、Huaqin Technology(共同リード)など(Yahoo! Finance) - Tamr
CRM・ERP等に散在する企業データを統合・クレンジングするAIネイティブなマスターデータ管理(MDM)プラットフォーム。グロースエクイティで2,100万ドルを調達。投資家はVolition Capital(リード)、既存投資家など(FinSMEs) - Clueso
画面録画から製品デモ動画やマニュアルを自動生成・更新するエージェント型動画プラットフォーム。シリーズAで1,000万ドルを調達。投資家はDharana Capital(リード)、Founders Future、Neotribe Venturesなど(Inc42)
🏥 ヘルスケア
- Suki
臨床記録を自動作成するアンビエントAIスクライブと医療向けAIエージェント。シリーズEで9,000万ドルを調達。投資家はHealthier Capital、Crosslink Capital、Zoom Venturesなど(Fierce Healthcare) - Abby Care
家族を有資格の有償介護者として育成・雇用する在宅ケアプラットフォーム。シリーズCで8,200万ドルを調達。投資家はTransformation Capital(リード)、CVS Health Ventures、Pivotal Venturesなど(FinSMEs) - Sirona Medical
PACS、レポーティング、読影ビューア、ワークリスト、ワークフローAIを単一クラウドに統合した放射線科向けOS「RadOS」。シリーズDで4,000万ドルを調達。投資家はAvidity Partners(リード)、8VC、GreatPoint Venturesなど(Radiology Business) - Sunbound
シニアリビング・介護施設向けに入居手続き、自費請求、RCM、運転資金を統合するAIレベニューOS。シリーズAで2,400万ドルを調達し、請求代行のRichter Healthcare Consultantsを買収。投資家はTTV Capital(リード)、Bling Capital、Fika Venturesなど(Health Technology Net) - Brellium
診療記録を請求前に監査するAI臨床コンプライアンス基盤「CortexLM」。2,300万ドルを調達。投資家はLeft Lane Capital(共同リード)、First Round Capital(共同リード)、Digital Health Venture Partnersなど(FinSMEs)
🏗️ バーティカル
- Scanntech
中南米のスーパー向けPOSデータを使ったリテール・インテリジェンス基盤。シリーズFで1億8,000万ドルを調達。投資家はL Catterton(リード)、Partners Group(共同リード)、Bradescoなど(FinSMEs) - Albert Invent
化学・素材R&D向けの化学特化型AI OS。シリーズBで5,500万ドルを調達。投資家はTCV(リード)、Coatue、J.P. Morgan Growth Equity Partnersなど(Business Wire) - Duvo
小売・消費財企業を起点に、社内の業務プロセスをAIエージェントと従業員が既存システム上で一緒に実行できる「Enterprise Execution OS」。シリーズAで3,200万ドルを調達。投資家はBalderton Capital(リード)、Index Ventures、Northzoneなど(Tech.eu) - Scimplify
製薬・農薬・半導体材料向けのスペシャリティケミカル開発・製造プラットフォーム。シリーズCで2,500万ドルを調達。投資家はHitachi Ventures(リード)、Henkel、Teknor Apexなど(TechCrunch)
🔒 サイバーセキュリティ
- Reach Security
既存セキュリティ製品の設定をAIが読み取り、攻撃経路の遮断状況を判定・自動修正するプラットフォーム。シリーズBで5,000万ドル超を調達。投資家はTop Tier Capital Partners(リード)、Ballistic Ventures、M12(Microsoft)など(Fintech Global) - Harmonic Security
小規模言語モデルで従業員のAI利用を文脈単位で分類・制御するワークフォースAIセキュリティプラットフォーム。シリーズBで5,000万ドルを調達。投資家はCrosspoint Capital Partners(リード)、既存投資家など(Yahoo! Finance) - Opsin
Microsoft Copilot、Claude、ChatGPT Enterprise、Gemini等で作られたAIエージェントのアクセス範囲・想定用途・逸脱行動を可視化するガバナンス/セキュリティ基盤。2,100万ドルを調達。投資家はSYN Ventures、Race Capital(共同リード)(FinSMEs) - Harbor
企業のAIエージェントのリスクを計測・制御し、残余リスクを保険で引き受けるプラットフォーム。シードで1,000万ドルを調達。投資家はBase10 Partners(共同リード)、Abstract(共同リード)、8VC(共同リード)など(FinSMEs)
🛰️ ハードウェア×AI
- Bedrock Robotics
既存の建設機械を後付けで自律化するシステム。シリーズCで6億ドルを調達中と報じられている(正式発表前)。評価額は35億ドル(プレマネー)と報じられている(This Week in VC) - ICON
多層階対応のロボット3Dプリント建設システム「Titan」と制御ソフト・独自建材を展開する建設テック。シリーズDで2億ドルを調達。投資家はBaillie Gifford、BlackRock、Capital Factoryなど(Yahoo! Finance)
💳 フィンテック
- Stand
住宅ごとのデジタルツインで災害時の挙動をシミュレーションし、補強提案と保険引受を組み合わせる災害リスク地域向け住宅保険。シリーズCで7,000万ドルを調達。評価額は10億ドル。投資家はSaga Ventures(リード)、Lowercarbon、Eclipseなど(Yahoo! Finance) - Mogul
戸建て賃貸物件の部分所有権を扱う、AI活用の不動産小口投資プラットフォーム。シリーズAで1,550万ドルを調達。評価額は1億2,600万ドル(プレマネー)。投資家はDraper Associates(リード)、Draper Dragon、Blizzard Fund(Ava Labs)など(Crowdfund Insider)
[国内]
- Beff
電池開発・製造向けプラットフォーム。材料データ・設計図・評価条件・測定結果を統合する解析ソフト「Beff Navigator」と、自社ラボでの共同開発を組み合わせた電池製造の基幹システムを提供。シリーズA Finalクローズで約3億円を追加調達し、ラウンド累計約7.5億円。投資家はジェネシア・ベンチャーズ(リード)、住商ベンチャー・パートナーズ、JM Strategic Innovation Fundなど(PR TIMES) - AZOO
宿泊業向け統合型ホテルOS「WASIMIL」。PMS・CRM・会計・マーケティングなど15以上の機能を統合し、AIエージェントによる宿泊バックオフィス業務の自律処理を推進。シリーズAで累計4.9億円を調達。投資家はモバイル・インターネットキャピタル(リード)、DNX Capital、京信ソーシャルキャピタルなど(PR TIMES) - ACIMUS
生成AIとの対話で建物のBIMモデルを作成・編集できるクラウドサービス「ACIMUS」。IFC形式での書き出しに対応し、企画・基本設計段階や既存建物の維持管理向けに展開。シードで約6,500万円を調達。投資家はLink Capital(リード)、インキュベイトファンド、JR東日本スタートアップ(PR TIMES)



