計画を立てた瞬間、その計画はもう古い。そんな時代が実際に来ています。
AI技術の進化は今、企業の意思決定サイクルそのものを書き換えました。6ヶ月ごとに戦略ドキュメントをまとめ、計画を粛々と実行する……そのやり方では、もはや変化の速度に追いつけない。では、どう組織を動かすべきか。その問いに正面から取り組んできたのが、世界1億人以上が日常的に使うコラボレーションツール「Notion」を率いるCEO・Ivan Zhaoです。
Notionは、創業期の混乱を経て日本・京都で再起し、クラフトマンシップと人間性をプロダクトの根幹に据えてきた会社として知られています。いまやAIネイティブな組織へと変貌を遂げ、プロダクト開発の思想もウォーターフォール型の「橋を架ける作業」から、創発と試行錯誤を前提とした「ビールを醸造するような作業」へと刷新されたと言います。
今回、ALL STAR SAAS FUNDのマネージングパートナー・前田ヒロが、ニューヨーク・SoHoの外れにあるNotionオフィスを訪ねました。1930年代に建てられたというビルの一室、四方から自然光が差し込む静かな空間で、二人の対話ははじまりました。「ジャズモード」経営の実態、AI時代に輝く人材の条件、「ダブル・オア・ハーフ」の野心的な目標設定、そして「エージェント界のスイス」を目指すNotionの次の賭けまで。変化を恐れずに経営を組み替えてきたファウンダーの思考の解像度は、そのまま日本のファウンダーへの宿題にもなっています。
\このセッションは、YouTubeでも公開中/
6ヶ月ごとなんて言ってられない。経営は「ジャズモード」へ
Hiro:最後にお会いしてから5年くらい経ちましたが、当時お聞きしたストーリーは日本の多くの起業家にとって刺激になりました。だから、こうしてまたお話しできるのが嬉しいです。
Ivan:こちらこそ。お招きありがとうございます。
Hiro:この5年で、世の中は大きく様変わりしましたよね。いま、みんなが気になっているであろう問いから聞かせてください。意思決定が追いつかないほど、ルールそのものが速く変わっている。そんななか、Ivanさん自身の意思決定のやり方はどう変わりましたか。
Ivan:型にはまらなくなりましたね。世界そのものが、ものすごい速さで動いていますから。コロナ禍のころは、戦略ドキュメントをきっちり書いて、戦略を明確にして、6ヶ月サイクルで計画を立てるやり方でした。いまは関係者が部屋に集まって、キーリーダーが何かに合意したら、そこからすぐに走り出す。
6ヶ月ごとなんて言ってられません。意思決定のリズムも流動性も、以前とはまったく違う。ただ個人的には、前より良くなったと思っています。
Hiro:リズムが速くなり流動性も高まると、もう計画を持つこと自体に意味がない、という話にさえなってきますか。
Ivan:いや、戦略を持っておくことは引き続き重要です。そこは変わらない。変わったのは、更新の頻度がとんでもなく速くなったこと。そして、計画の更新を許容するカルチャーが、以前とはまったく違うものになったことです。
以前は、リーダーが計画を変えると、チームから「また変えるんですか?変えすぎでは?」と返ってくることもありました。でも、いまのNotionで働くチームは「世界はこれほど速く変わっているのか」と肌で感じているはずです。全員が、この環境に適応していかなくちゃいけません。むしろリーダーのほうが、自分の前提を常にアップデートして、この新しい働き方に適応していかなくてはいけないんです。
最近、HubSpot創業者のBrian Halligan氏と話す機会があって。彼が言った言葉を私たちも使わせてもらっているんですが、これがすごくしっくりくる。「ジャズモード」です。
即興でやるしかない。流れに乗りながら一緒に作っていく。ビッグバンドとジャズの違いと言えばわかりやすいかもしれません。ビッグバンドは、6ヶ月サイクルの計画で一直線に進む。一方でジャズは、もっと流動的で、状況に応じて変わる。いまはまさに、ジャズそのものという感覚です。
Hiro:ジャズモードを実際に機能させるためには、どんな仕組みが必要なのでしょうか。
Ivan:アドホックなものが増えましたね。
具体的に言うと、プロダクト開発サイクルにおいてNotionでは、3年くらい前からAIで開発をしてきたんです。その過程で気づいたのは、作りたいものが必ずしも作れるわけじゃない、ということ。結局、私たちはモデルが与えてくれるものを使うしかないからです。
従来のプロダクト開発は、まず顧客が何を求めているかを考えて、そこからPdMが要件をまとめてデザイナーに渡し、デザイナーがデザインをエンジニアに渡す。良いデザインさえあれば、顧客が望むものはエンジニアが必ず作れました。これは私たちのなかでは、橋を架ける作業のような感覚です。クラシックなエンジニアリングは、設計できるものは必ず作れる。3ヶ月かかろうが9ヶ月かかろうが、最終的には必ずリリースできます。
ところがAIで開発するというのは、ビールを醸造するような感覚に近いんです。
Hiro:その表現、面白いですね。
Ivan:思うようにはコントロールできないし、根底にある技術が酵母のようなものですから。それ自体に意志があるかのように動く。だから、技術が与えてくれるものをそのまま受け取るしかない。
もちろん、この3年でモデルはずいぶん良くなったし、制御もしやすくなっています。しかし根本的に、新しく手に入る能力というのは、モデルから創発的に立ち現れてくるものなんです。顧客がこう望んでいるはず、という想定から生まれるものではない。モデルが与えてくれるものなんです。
だからこそ、PdM→デザイン→エンジニアというウォーターフォール型のやり方を、もっと流動的なものに変えないといけない。私たちが求めるデザイナー像も、コードが書けて、モデルと直接プロトタイプを作りながら、その手応えをつかめる人に変わりました。PdMにも同じことを求めています。だからプロトタイピングが圧倒的に増えるし、みんなで集まって作業することも増える。プロトタイプの形がある程度見えてきたら、エンジニアが引き取って仕上げていく。だから役割の境界が、かなり流動的になるんです。
ここまでは、あくまで「役割」の話。ケイデンスで言うと、月次や四半期でレビューするものはいまも残っています。ただベースはすべて週次で、しかも週に何度も回しています。組織にはやはり「鼓動」が必要ですから。ただ、その頻度は以前よりずっと増しているんです。
「優しく、率直に」から「率直に、優しく」へ
Hiro:Brian HalliganのPodcastで、「SaaSの時代は平和だったが、いまは戦時だ」と話していましたよね。この時代、確実に優位性を保つために、自身のルーティンやマネジメントの仕方、コミュニケーションの取り方を変えたりしましたか。
Ivan:つい最近、会社のバリューを更新しました。「Kind and Direct(優しく、率直に)」というバリューがあったのですが、それを「Direct and Kind(率直に、優しく)」に変えたんです。
Hiro:順番を逆にしたんですね。
Ivan:そう。優しさは、これからも必要です。それが私たちの人間性であり、誠実さであり、価値観ですから。でも、「率直さ」を、もっと強める必要があるんです。そうすれば、もっと速く学べるし、もっと率直なフィードバックを互いに渡せて、軌道修正も速くできる。パフォーマンス管理も、フェアに、すばやくできる。最高の人材に、これまでより速く、きちんと報いることができるようになります。そのためには、互いにもっと率直であることが求められます。みんな、このバリューに応えようとギアを一段上げてくれています。
Hiro:そのほか、特にここ数年で変えなければならなかったことで、思い浮かぶものはありますか。
Ivan:少人数のチーム単位で動くようになって、私たちの組織は「きれいに対称な形」ではなくなってきました。以前はエンジニアの組織、GTMの組織、プロダクトの組織があって、それぞれが1本の「木」のようになっていたんです。いまは、そのすべてをずっとフラットにしようとしています。それぞれの組織が互いに鏡のように対応する必要はありません。
昔ながらの定石では、組織のかたちはプロダクトのかたちに合わせるべきだ、と言われてきました。でも、私たちはそうしなくていい。本当に優れたキーになるリーダーがいるならば。いまNotionには、そういうリーダーがいて、エンジニアリングもデザインもプロダクトも、彼がまとめて見ています。これによって、最善の判断が下せるようになるし、組織もよりフラットになりました。
以前なら、こんな発想はしなかったでしょう。でも、ジャズモードの話に戻りますが、AIがこれほど流動的だからこそ「流動性」に最適化する必要がある。だから、「組織の形をそろえること」に最適化する必要はない。それが、私たちがいま選んでいる、重要なトレードオフのひとつです。
これは結果的に「特別な人材」をたくさん採用しなくてはいけないということになります。ほかの伝統的な企業には、なかなか収まりきらないような人材です。非常に得意なことが複数あるのに、1つの役割にはめ込まれていたような人。私たちは、そういった人たちに「Notionにおいでよ。きみのために特別な場所、ワークストリームを用意するから」と言えるんです。そういう人たちが、本当に輝くんです。
Hiro:こうした変化は、AIが世の中に登場したことの結果だと思いますか。一人の人間が、ビジネスセンスとプロダクトセンスの両方を兼ね備えていることへの期待が、ずっと高まっている感じがするんです。人々が、より多くの役割を、複数の「帽子」をかぶり、より広い管掌範囲を持つようになってきているように感じます。
Ivan:そう思います。センスの話に戻りますが、センスを言い換えると「あなたはどの方向に進もうとしているのか」ということなんです。さらに言えば、「あなたのビジネスを見抜く力は、どれほどのものか」ということ。
ケイパビリティがコモディティ化して、誰もがAIに頼んでいろいろなことをやらせられるようになると、大事になってくるのは、「何を頼むのか」「どんな問いを立てるのか」「それでどこへ向かおうとしているのか」です。優れたビジネス感覚というセンスを持つ人には、プレミアムがつく。もちろん、自走力と切迫感を持って、自分のアイデアを最後までやり抜く力も必要ですね。
いまは、「ビジネス型」の人がずっと増えていると言えます。彼らは、足りない技術力をエージェントで補える。デザインでも、プロダクトでも、エンジニアリングでも、GTMでも。自分でものを作りはじめられる人こそが、今のNotionで最も成果を上げています。
PdMやエンジニアに求める、主体性・切迫感・センス
Hiro:この新しい方向性によって、PdMやエンジニアの評価の仕方は変わりましたか。
Ivan:PdMという役割は本当に興味深いですよね。確かにその役割は大きく変わってきていると思います。ただ、ベースラインは変わっていません。「自走力が高くて、切迫感がある人」。加えて、健全な意味でややパラノイア気味の人です。
いまは、自走力が飛び抜けて高くて、センスがそこそこあれば、できることが本当に広がっています。コーディングエージェントを開けば、チャットボットを開けば、手元のツールだけでかなりのことができてしまう。自走力と切迫感さえあれば、たいていのことはすぐに学べる。これがベースラインです。
デザイナーの評価軸も、ほぼ同じ基準で考えるようになりました。以前は、ピクセル単位で完璧な仕事をして、システム思考も完璧な人でないと採用しないと考えていました。でもいまは、自走力と切迫感があって、周りを巻き込んで動かせる人のほうがいい。そういう人のほうが、技術は飛び抜けて高くても、周りの人を動かせない人より良い選択になることが多いんです。
Hiro:この“センス”というのは、どうしたら見極められると思いますか。Ivanさんもセンスという言葉をよく使われますし、ご本人にもセンスがある。
Ivan:すごく難しいですね。特定の領域では、センスがわかりやすく表れます。たとえば、デザインのセンス、エンジニアとしてのセンスのようにね。ただ、もっと深いレベルでは、内的なエネルギーの源、つまり人間性につながってくるのではないでしょうか。
テックの問題、特にAIは、あまりに最先端を走りすぎていること。いじって試すのが好きな文化ですから、何でも自分たちでやろうとしてしまう。目の前のものだけを見ようとしてしまうんです。コンピュータサイエンスの外側には、人類が何千年も積み上げてきた、面白いアイデアに満ちた広大な世界があることを忘れがちなんです。
いわゆるAIスロップ(※AIが垂れ流す質の低いコンテンツ)が増えれば増えるほど、結局のところ、本当に大事なのは人間性なのだと気づかされます。ただ新しいものを生成すればいいわけではない。何らかの歴史や人間の価値観に根ざしていて、将来にわたって価値を持ち続けるもの。それこそが大事なんです。
人間の本質は変わらない。ほとんど変わることなんてありません。だからこそ、言語を話せること、人間性を理解すること、異なる歴史的文脈のなかで大切なものを理解できること。そうした力こそが、これから先、スロップだらけのノイズを突き抜けていくうえで、ますます重要になっていくでしょう。
Notionは、まさに「人間性」と「テクノロジー」の橋渡しができる会社だと考えています。ただ新しいものを作るのではなく、5年前にお話した京都のクラフトマンシップに根ざしたような、意味と価値のあるものを作る。
Steve Jobs氏が体現していた、テクノロジーと人間性の交差点に立つ、という姿勢です。
方向は戦略から、実行は現場から
Hiro:いまNotionは、みんなが自由にプロトタイピングや実験をできるようにして、その中から良いアイデアが自然と浮かび上がってくるようにしているのでしょうか。それとも、Ivanさんご自身が最新のモデルを触ってみて、試したいことをトップダウンで動かしているのでしょうか?
Ivan:大方針は会社の戦略に基づいていますが、ボトムアップが多いですよ。ただ、何をやるかという方向性の多くは、会社の戦略から生まれています。やれることがあまりに多いからこそ、迷子にならないために戦略が必要です。むしろ最近は、会社として「何をすべきか」が以前よりずっと明確になってきました。だからこそ、おのずと一点に集中せざるを得なくなっています。
Notionをより大きなエンタープライズに対応させていくこと。データベースをスケールさせて、真の意味でのシステム・オブ・レコードにしていくこと。他社のエージェントやモデルとしっかり連携できる、業界トップクラスのエージェント・オーケストレーション基盤を持つこと。この数点さえ押さえれば、それが私たちのビジネスになります。
根底にある技術というのは、極めて汎用的です。データベースも汎用技術だし、エージェント・オーケストレーションも極めて汎用的な技術ですから。しっかり作り込めば、それをパッケージにして、業界ごとに異なるバーティカル市場へ展開していける。だから、いまの私たちが手掛けているのは、非常にレバレッジの効くものづくりなんです。少数のものに絞って徹底的に磨き上げ、それをいかにパッケージ化して、多様な形で市場に届けるか。
Hiro:「実験をより許容している」ということでしたが、目標やゴールはどう設定しているのでしょうか。大枠の方向だけを示して、その範囲内なら誰でも自由に実験していい、というやり方なのか。
Ivan:数字とゴールでしっかり縛ることもありますし、方向だけ示しているものもあります。システム・オブ・レコードはまさに後者です。「数億レコードのデータベースまでスケールさせること」、これが具体的なエンジニアのゴールになります。
ただ、そこに至るまでには当然トレードオフも必要になる。でも、どんなトレードオフを取るかは、あえて縛っていません。正直言って、まだ私たちにもわからないからです。エンジニアがプロトタイプして、実際に作ってみて、初めて理解できるものなんです。だから、ここは「押したり引いたりして構わない領域」としています。
一方、エージェント・オーケストレーションのほうは、方向性だけを示しています。ラボに属さない良いポジションの会社として、中立的なプラットフォームとして、いわば“エージェント界のスイス”を作るイメージです。そういった存在は、いまの市場にまだ存在していませんからね。だからこそ、そのトップの一つに、そして最初の一つになれる可能性がある。
これは非常にオープンエンドな領域です。コーディング系のユースケースに振り切るべきか、非コーディング系に振り切るべきか。これを見極めるには、自分たちが顧客と話し、チームも顧客と話して、一緒に答えを探していくしかありません。
ソフトウェアづくりを「チームの体験」に変えた
Hiro:Notionにとってのイノベーション、プロダクト開発のペースを加速させるような社内ツールを作ったりしていますか?そのなかで、いちばんレバレッジが効いたと感じるものを教えてください。
Ivan:具体的な例を挙げましょう。Notionの開発環境をまるごと「箱」に詰め込んだ、社内向けのコーディングエージェントを作りました。これによって、社内の誰もがこのエージェントに「何か新しいものを作って」と頼めるんです。出来上がると、プレビューリンクが返ってくる。ビルドシステムをイチから組んだり、複雑な設定をしたりする必要はないんです。
Hiro:環境がセットされているということですか。
Ivan:その通りです。クラウド上に存在していて、開発に必要なものは全部そろっている。完成したら、リンクを通じて成果を他の人と共有できる。魔法みたいなことができるんです。
さらに魔法のようなのは、これをNotionのエージェント・オーケストレーションと結びつけると、もはやボットとやり取りをするのに、ターミナルすら要らなくなるんです。Notionでチケットを登録して、「このボタンを赤にしたい」と書く。そしてリンクを作って、そのToDoをNotionのカンバンボードに放り込むだけ。
すると、20分も待てば、赤いボタンになったプロダクトが、レビューしてマージできる状態でできあがっている。それを他の人と共有もできるんです。
これは、ソフトウェアづくりを「ひとりの体験」から「チームの体験」へと大きく変えました。
そしてこれは、さまざまなエージェントを使い分けるやり方でもあります。Codexを動かしてもいいし、Claude Codeを使ってもいい。このオーケストレーションレイヤーの上で、好きなエージェントで開発できる。本当に、魔法のようですよ。
Hiro:社内の誰もが、面白いプロダクトのアイデアをそれを通じて形にすることができると。
Ivan:実際、そこまでやる人はまだ出てきていないはずで、ほとんどがバグ修正や小さな機能の追加に使われていますね。ただ、これまではそもそも不可能でしたから、「まったく新しい機能を作ろう」という発想を、まだみんなが持つに至っていないだけでしょう。これはナレッジワークの未来がどんなものになりうるか。その入り口なんだと思います。
人間の役割は非常にバーティカルである
Hiro:もし誰かに「Notionとは何か」と聞かれたら、この3年で定義は変わってきたでしょうし、いまや本当にAIネイティブな会社になりましたよね。今日のNotionをどう表現しますか。
Ivan:4年前に聞かれていたら、おそらく「Notionはチームがコラボレーションし、問題を解決するのを助けるもの」と答えていたと思います。今は「チーム」の定義が、人間のチームからエージェントのチームへと広がってきている。それでも依然としてボトルネックは「人間の集団がどうやって意思決定し、ビジネスを前に進めるか」です。
新しいテクノロジーの恩恵は、多くの助けを得られるようになったことです。もはや、問題を解決するために意思決定するのは人間の集団だけではない。エージェントがその役割をますます担えるようになっています。私たちがやろうとしているのは、こうしたワークスペースや環境を作り上げるための「ビルディングブロック(構成要素)」をすべて提供すること。「人間のチーム」と「エージェントのチーム」が、どんな問題でも解決できるようにね。
私たちのミッションは、あなたとあなたのビジネスが、人生をかけた仕事を成し遂げられるよう、美しいツールで支えることですから。
Hiro:近い将来私たちは、ひとつは人間の組織図、もうひとつはエージェントの組織図のように、2つの組織図を持つようになるのでしょうか。
Ivan:組織図はひとつのままだと思います。ただ、そのなかでエージェントと人間が、さまざまなプロジェクトやワークストリームに織り込まれるように混ざり合っていく、と考えていますね。
Hiro:いつか、ある役割が完全にエージェントに置き換わる日が来ると思いますか。それとも、人間がエージェントがずっとペアを組み続けると思いますか。
Ivan:難しいですね。完全にエージェントに置き換わることは、確実にあり得るし、避けられないかもしれません。そして、もっと多くの人がそれに備えるべきだとも思います。
すでにその兆しは見えていて、カスタマーサポートの一部の領域では、ほぼ完全にエージェントが担うようになっていますし、コーディングも、ローエンドな部分や一部のコーディングはエージェントが完全にこなせるようになりました。だからこそ、いまAIで最も爆発的に伸びている領域は、顧客体験と開発体験なんです。
一方で、ナレッジワークの大半は、状況が異なります。ナレッジワークの多くは、一人ひとりの仕事の「型」が、ひとつのプロセスにきれいに対応しているわけではない。たいていは4つも5つものプロセスを同時にこなしています。だからエージェントは、ホリゾンタルに動く傾向がある。ある人から次の人へ、さらに次の人へと、情報を受け渡していくような動き方ですね。
たとえば、PdMの仕事のうち、連携チームに議事録を共有することが全体の20%くらいを占めているとして。それをエージェントに置き換えても、「エージェントがPdMをまるごと置き換えた」ことにはなりません。その作業はPdMの仕事の一部にすぎませんから。
でも、現在のエージェントでも、Notionのようなツールを使う・使わないにかかわらず、こうした「異なるチーム間で情報を受け渡す」ようなごくローエンドな部分はこなせるようになりましたよね。だから、いまエージェントが労働力として入り込んでいくのは、一般的なナレッジワークにおいてはホリゾンタル。それに対して人間の役割は、カスタマーサポートやコーディングを例外として、非常にバーティカルなんです。
なぜ、Notionはシステム・オブ・レコードに賭けるのか
Hiro:Notionは社内で何百ものエージェントを使っていて、「Nosey」や「Smiler」といった名前のついたエージェントもあると聞きました。コーディングやカスタマーサポート以外で、組織にとってAIが最もレバレッジを生んでいるのはどこだと感じていますか。
Ivan:やはり「ホリゾンタルの情報の受け渡し」「意思決定の受け渡し」「意思決定の集約」、それから「シミュレーション的なワークフロー」ですね。いま挙げてくれた人気のエージェントは、部門をまたいだ「チケット(対応依頼)」を出すことができるものなんです。
「Smiler」は、HRチームがチケットを提出する際に使っているものです。たとえば、カーペットに水をこぼしたとしましょう。以前ならオフィスマネージャーが対応依頼をして、あれこれ動かなければなりませんでした。いまはエージェントがチケットを出して、対応が終われば、そのチケットをクローズしてくれる。
こうしたパターンは、ほぼあらゆる部門で起こり得ます。顧客からのリクエストもあれば、ITへの依頼もあるし、エンジニアのバグ報告もある。これらはどれも似た「かたち」をしていて、エージェントはこれを人間を超えるレベルでこなせる。
肝心なのは、エージェントのオーケストレーションレイヤーを持つこと、そしてそれを保存しておくシステム・オブ・レコードのレイヤーを持つことです。だからこそ私たちは、顧客にこれを最高水準で提供するために、この両方のレイヤーに重点的に投資しています。
Hiro:VCというものは「フレームワーク」が大好物です。すぐ「システム・オブ・レコード」「システム・オブ・インタラクション」「システム・オブ・アクション」と言う。Ivanさんは、Notionを位置づけたり戦略を判断したりするときに、こういったフレームワークを使いますか。
Ivan:「システム・オブ・レコード」という言葉は、好きですね。理にかなっているし、ある意味で必要なものです。
まず大前提として、私たちは「個人向けエージェント」の領域では戦っていません。戦っているのは「ビジネス」の領域です。では、ビジネスとは一体何なのか。ビジネスとは、ある目標を持った人間の集団であり、その目標を解決するために協働する必要がある存在です。
もし、自分の知識を自分のPCのなかに保存しておくだけなら、システム・オブ・レコードは要りません。でも、人間のチームがいるからこそ、あなたのビジネスについての「真実」がどこかに必要になる。それがシステム・オブ・レコードそのものです。「あなた個人」ではなく、「あなたのビジネス」についてのものなんです。
Notionは、コラボレーション型のチームワークスペースですから、ここはしっかりやり遂げなくちゃいけません。しかも、さらにそのスペースは、エージェントが情報を取りに来る場所にもなった。エージェントをめぐっては、コンテクストウィンドウや継続学習などさまざまな論点がありますが、結局のところ、ビジネスについての「真実」はどこかに存在していなければならない。それがシステム・オブ・レコードなんです。
だから私はこの用語に賛成ですし、「本当に優れたシステム・オブ・レコードであること」が、Notionにとってますます重要になってきていると思います。人間同士が協働するためだけでなく、人間とエージェントが協働するために。
私たちが開発者プラットフォームを公開したのもそのためです。エージェントがNotionのシステム・オブ・レコードを使いこなすうえで、そのゲートキーパーに当たるのが、開発者です。開発者の仕事を簡単にすれば、自然とエージェントの仕事も簡単になります。
先ほど「システム・オブ・アクション」の話も出ましたが、私は、システム・オブ・レコードは今後も残り続けるし、むしろますます重要になると思っています。一方で、それ以外のレイヤーは少し曖昧になってきているように感じます。
ちょっと立ち止まって「SaaSとは何か」を考えてみると、過去15年のSaaSというのは、いわば、開発者たちが集まって生まれたようなものです。さまざまなビジネスには特定の業務ワークフローがあって、彼らはそれらを3つの要素で接着させていた。
まず、そのビジネスについての真実を保存する「システム・オブ・レコード」。次に、そのビジネスがどう運営されるべきかという「ワークフローのロジック」を、彼ら自身が書いたコードにしたもの。そして最後に、その上に乗る「ユーザーインターフェース(UI)」です。
いま世界で起きていることを言うなら、システム・オブ・レコードは残る。ワークフローの部分は、もはや開発者がいちから書く必要さえなくなってきている。エージェントが、あなたのビジネスに合わせて非常にうまく、すばやく書けてしまうからです。この部分はいま、猛烈な勢いで置き換わっているところです。
UIのレイヤーも変わってきています。人々は自分専用のチャットボットと過ごす時間がどんどん増えて、たくさんのチームのチャットボットを束ねる場所が必要になっている。ただ、それはまだ存在しません。私たちはまさに、ビジネスが複数のエージェントを1ヶ所で管理できる場所を作ることに注力しているんです。そのうえで、Claude、Claude Code、Codexなどの個々のパーソナルなチャットボットをNotionに迎え入れ、それらがNotionのシステム・オブ・レコードやオーケストレーションレイヤーに接続できるようにする。
言ってみれば、従来の「ハードコードされたUI」や「ハードコードされたワークフロー」の価値は下がってきている。逆に、システム・オブ・レコードの価値は上がり、エージェントたちが協働し、互いを認識できる「中立的なスイスのような遊び場」を提供することの価値も上がってきている。だからこそ、私たちはその領域に賭けているんです。
Notionはとにかく「あらゆる場所」にいる必要がある
Hiro:NotionのエージェントをNotionの外からも使えるようにしていますよね。Slack上からNotionのエージェントを呼び出すことができる。これは「UIの重要性が下がっていく」という賭けなのでしょうか。それとも、何か別の賭けがあるのでしょうか。
Ivan:あらゆる場所にいたいんです。私たちは、SlackやNotionのなかで多くの時間を過ごしています。Notionのすべてのエージェント、そしてNotionを介して動く他のすべてのエージェントも、人々が時間を過ごす場所に現れたい。すでにやり取りが起きている場所、つまりSlackにだってちゃんと現れるべきなんです。
同時に、エージェントは、こうした繰り返しの多い作業の多くを、Slackから直接引き取って自分たちで処理できてしまう。たとえば、顧客からチケットが届いたとします。これまではSlackにメッセージを投げて、複数のチームがどのチームが担当すべきかを考えて、誰かがその依頼をNotionなり何なり、あなたのシステム・オブ・レコードにコピー&ペーストして貼り付けていました。これを、Notionのエージェントがプロセス全体をオーケストレーションして、まるごとやってくれる。いちいちSlackを通す必要がなくなるんです。
ユースケースによっては、Slackのようなコミュニケーションがより必要なものもあります。でも、エージェントを通じてそのまま進められるユースケースだってある。だから私たちは、とにかくあらゆる場所にいる必要があるんです。
Hiro:このダイナミクスは、どこに向かうと思いますか。ひとつのソフトウェアがエージェントのオーケストレーションやアクセスをすべて支配するようになるのか。それとも、カスタマーサポート用、マーケティング用といった高度に専門特化したエージェントがいて、オーケストレーションレイヤーがその一つひとつにアクセスしにいくような、そんな形になるのでしょうか。
Ivan:いまの時点では、本当に何とも言えません。ただ、モデルはますます強力になっていて、そのぶんモデルプロバイダーができることも増えていくのは間違いない。同時に、モデルプロバイダーは複数あるので、彼らの間でも綱引きが起きています。3ヶ月前は、Codexが最高のコーディングエージェントと言われ、今度はClaude Codeが最高だと言われる。コーディングエージェントの「いちばん人気」は、常に移り変わっています。
顧客はその流れを見ている。だから、ひとつのベンダーにロックインされたくない。選択肢を持っていたいんです。だからこそ「中立であること」に価値が生まれます。クラウドの時代は、多くの人がインフラに投資し、そのインフラを軸にして作り込んでいましたよね。それに比べるとエージェントは、相対的に入れ替えがずっと簡単です。かなりすばやく入れ替えが利く。それでいてエージェントは、このUIとワークフローのレイヤーにとどまり続けます。
私はチームに「私たちはラボではない」と言い続けています。ラボのゲームを戦うべきではない。私たちは「中立のゲーム」を戦うべきなんです。
私たちはユーザーインターフェースの設計が得意です。そして「システム・オブ・レコード」であることが得意です。これを徹底的にうまくやろう、そして、さまざまなラボのさまざまなモデルをNotionのプラットフォームに迎え入れよう。逆に、人々がすでに集まっている場所、SlackやMicrosoft Teamsのような場所にも出ていこう。中立であり続け、オープンであり続けることが、いまのNotionのような会社にとって最善の戦略だと思います。
最も重要なのは、顧客のビジネスにとっての「信頼できる唯一の情報源」になること。そして、人々が行動を起こす場所になることです。まさに「システム・オブ・レコード」の部分であり、そこには「引力」があり、ディフェンシビリティがある。
知識とデータベースに関しては、私たちはすでに世界でもトップクラスです。だからこそ、そこで圧倒的な一番にならなければなりません。モデル企業が自分たちのモデルとエージェントに強く集中している以上、私たちはエージェントと人間のためのシステム・オブ・レコードに集中できるんです。
Notionが開発者フレンドリーになった2大理由
Hiro:Notionがより開発者フレンドリーになっていく動きを、私は非常に優れている動きだと思うんですよね。
Ivan:なぜそう思うのですか?
Hiro:一つは、人が自分のアプリを作るとき、どこにどう保存するか、どこからアクセスするか、そういう面倒や複雑さに煩わされたくないからです。私自身、Claude Codeをよく使いますが、新たにデータベースをセットアップしたり構造を考えたりするのは、すごく時間がかかるんですよね。だから、すでに自分の情報がすべてある場所に頼りたい。
Notionは、会社の情報のほとんどがある場所です。だったらいっそ全部移して、すべてアクセスできるようにすれば、クロスリファレンスも速くなります。より開発者フレンドリーになるということは、より多くの情報がNotionに保存されることを意味する。そして結果的にビジネスに多くの価値を提供できる——それが狙いだったのかなと。
Ivan:ええ。大きく二つの理由がありますが、第一にはシンプルに、開発者がそれを求めていたからです。この開発者プラットフォームを公開する前から、開発者経由のトラフィックは、この4〜5ヶ月ですでに4〜5倍に伸びていました。
Notionが優れたシステム・オブ・レコードであり、エージェントにとって非常に使いやすいから、開発者はさらに使いたくなる。開発者に「サーバーを立てて、Notionとデータをシンクしてくれ」とお願いするくらいなら、それをサービスとして提供すればいいじゃないかと考えたんです。既存の顧客がやっている作業を、もっとラクに、もっと使いやすくする。それがひとつの目標でした。
2つ目は、もっと大きな視点の話です。ナレッジワークそのものが、プログラマブルになったということ。そもそもナレッジワークとは、会社のなかで人が集まって、あるビジネス上の課題を解決しようと決めて、そのために情報をあちこちに受け渡していくことです。大量の情報が行き交い、溜まっていく。ただ、これまではそれが煩雑だったゆえに、メールやMicrosoft Teams、Slackを使ったりしてやりくりしてきました。
でも、そのなかには繰り返しの多い作業もたくさんある。さっき話したチケット対応がまさにそうです。これまでは人が手作業でさばくしかなかった。いまは、その判断の一部をエージェントが担える。きちんと準備さえしておけば、その多くをこなせるんです。
だからこそ私たちは「カスタマーエージェント」を出して、開発者でない人でも、繰り返し作業を処理するエージェントを作れるようにしました。でも、それ以上に、私たちは開発者に力を与えたい。
開発者にきちんと力を渡すことができれば、あらゆるコーディングエージェントもその使い方を理解できるからです。開発者でない人でも、コーディングエージェントを使ってNotionの開発者プラットフォームを活用できる。そうすれば、会社のナレッジワークをもっと幅広くプログラム化できる。顧客の仕事も、もっと効率的になります。
Hiro:これは、将来的にすべてのアプリケーションやサービスレイヤーの提供者が、プログラマブルでなければならなくなる、ということでもあるのでしょうか。
Ivan:そう思います。市場が二手に分かれていくのが見えるんです。どちらが正しいのかは分かりません。でも私たちは、よりオープンに、よりプログラマブルに、より開発者に開かれた方向に賭けているんです。
一方で、逆により閉じていくソフトウェアベンダーもいます。彼らの多くにとって、データこそがMoatだからです。自分たちのコントロールの及ばないところで、データが出入りするのを望まない。
私たちは「オープン」を選びました。この考え方は、おそらくまだマイノリティかもしれません。でも、みんなが不安で怖がっているときこそ、むしろ開いて逆のことをやるべき瞬間なんだと信じています。
あとは、とにかく最高のシステム・オブ・レコードを作って、情報がNotionに留まるようにすること。そしてNotionの上に、最高のエージェント・オーケストレーションを作って、顧客がそれを使ってより意味のあるエージェント活用ができるようにすること。それこそが、望みうる最善のことです。自分を守るために閉じこもるのではなく、自分たちのクラフトとプロダクトで市場を勝ち取ればいい。
目標の立て方は「ダブル・オア・ハーフ」を基準に
Hiro:少なくとも外から見ていると、Notionは実際にリリースのスピードが上がっているように感じます。プロセスや組織構造、意思決定の仕方など、それを加速させるためにどんなことに取り組みましたか。
Ivan:プロダクト開発のスタイルを、より「ジャズモード」に変えたことですね。そして、チーム間の境界をより少なくしたこと。あとは、チームにより多くを求めるようになりました。「いまは、これまでとは違う局面だから一段ギアを上げよう」と。
目標の立て方も変えました。「20%良くする」という発想から、「ダブル・オア・ハーフ」という新しい考え方を持つようになったんです。「それは、2倍にできないか?」と。「20%良くしよう」と考える前に「100%良くしよう」と。「1ヶ月かかりそう」と言ったとき、「半分の2週間にできないのか?」と問う。
本当に極限まで振り切ってみるんです。コーディングエージェントがあれば、多くのことが実現できますから。あとは、ただ問いかけるだけ。大胆な目標を、自分で掲げなくちゃいけない。この「筋肉」を社内でしばらく鍛えてきたことが、私たちをより野心的にしてくれています。
Hiro:他には、ありますか。
Ivan:コーディングエージェントは、間違いなく大きな存在です。私たちのサーバーでもGitHubでも、プルリクエストの数が以前の何倍にもなっている。同じ理由で、GitHub自体にかなりの高負荷がかかっているほどです。みんな「いまが特別な局面だ」と気づいている。この瞬間に勝つために、強度を上げなければならない、と。
Hiro:「ダブル・オア・ハーフ」を実現する筋肉は、どうやって鍛えたんですか。もともと持っていたものなのか、鍛える必要があったのか。どうやってみんなを巻き込み、徹底させたのでしょうか。
Ivan:自ら手本を示すことです。私には、ずっと変わらない個人的な信条があります。自分自身がやる気がないことをチームには求めない。これは、会社の主要なリーダーたちにも同じく当てはまります。
CTOのFuzzy Khosrowshahiは、週末になると自分であれこれいじっている。コーディングエージェントを使えば以前よりずっと生産性を上げられることを、自ら手を動かして示してくれます。共同創業者のSimon Lastも、毎晩や毎週末Codexを動かしている。テクノロジーをちゃんと使いさえすれば、生産性は段違いに上がることをみんなに見せるためです。先頭に立って引っ張ることが良い手本になる。おそらく、いちばん効く方法だと思いますよ。
何を作るにせよ、人間の「本質」に触れるものでなければならない
Hiro:人間性に近い場所に居続けるために、あるいはテクノロジーに正しいセンスを乗せるために、Ivanさんが個人的にやっていることはありますか。
Ivan:とにかく本をよく読みます。週末はだいたい本を読んでいるし、オーディオブックもよく聴いています。
Hiro:ジャンルはどのようなものを?
Ivan:いまは建築デザインにどっぷりハマっていて。最近だとChristopher Alexander氏の本をちょうど再読したところです。彼は数学者であり建築家でもあって、建物は「設計する」のではなく「進化させる」べきだ、どうすれば進化した建物を設計できるか、ということが書かれています。
Hiro:読書を通じてセンスを磨くことは、Notionにどんな影響をもたらしているのでしょう。
Ivan:Christopher Alexanderの本は2巻あって、一冊は『The Timeless Way of Building(時を超えた建設の道)』、もう一冊は『A Pattern Language: Towns, Buildings, Construction(パタン・ランゲージ―環境設計の手引)』です。
彼は、建物を有機的に作り上げていく方法について語っていて、その考え方の一部は、会社を有機的に作っていく方法にもつながっています。たとえば(会社にとって大切な)カルチャーのようなものにも置き換えられるのです。人類が何百年、何千年とかけて築いた、組織をうまく機能させる「型」のようなものがある。それをわざわざ一から作り直すべきではありません。
それを会社に取り入れることが、うまくいくかどうかはまだ分かりません。でも少なくとも、私にとってのインスピレーションにはなっています。
Hiro:人間性やデザイン、カルチャーといったものが表れている建築や他の領域から、アイデアを取り入れたり、真似したりしようとしている、そんな感じですね。
Ivan:これらは「制約」の話に近いんです。私の考えでは、人間の「本質」は最も大きな制約のひとつです。私たちには誰しも一定の好みがあります。きれいなものが好きで、友人と一緒に食事をするのが好きで、「忠誠」や「裏切り」といった心を持っている。こうしたものは、日本、中国、アメリカ、ヨーロッパ……あらゆる文化に共通して存在します。なぜなら、それらが人間の「本質」だからです。
私たちが「人間性」と呼んでいるものは、こうしたことを何千年、何万年とかけて研究し、観察し、物語や詩に書いてきた、その営みなのです。普段はそれらを「テクノロジー」だとは見なしませんが、ときにそれらはテクノロジーでもある。人間の「本質」を、さまざまな形式へと蒸留したものだからです。
そして今日のテクノロジー、いわゆるテックやAIは、その最前線にあるもの。プロダクトマーケットフィットを実現するようなものは、何を作るにせよ、どこかでこの人間の「本質」に触れていなければならない。結局のところ、私たち自身がその顧客なのですから。
それは要するに「人間とは何か」「人間は何を求めるのか」「人間の組織は何を求めるのか」を理解するための、別の見方にすぎません。それらがわかれば、より良いプロダクトを作ることもできるし、より良いストーリーを語ることもできる。
日本は伸びしろだらけ。プロセスをエージェントに渡せ
Hiro:日本でNotionを展開してみての印象はどうですか。私たちの投資先にも、Notionを使っている会社がたくさんあります。日本ならではの違いを、何か感じたことはありますか。
Ivan:日本は私たちにとってずっと良い国であり続けています。そもそも、Notionは「日本で生まれ変わった」というストーリーを持っていますしね。昨年、訪日したとき京都にまた行ったんです。
Hiro:いいですね。ルーツに戻ったんですね。
Ivan:ええ。京都市長と京都府の方とお話をする機会がありました。
彼らは、Notionが京都で生まれ変わり、京都から着想を得たことを、誇りに思ってくれていました。Notionのあらゆる部分を作り直しているにもかかわらず、根っこにある着想のひとつは、いまも日本から来ているんです。クラフトを大切にすること、人間性を大切にすること。
日本は、AIワークフローの導入では、世界でもトップクラスの国のひとつです。AI Meeting Notesは日本では驚くほど人気です。「しっかり記録を残す」というドキュメントの文化が根強くあるんだと思います。みんな、いろいろいじるのが好きなので、エージェントも日本市場でとてもうまく機能している。
日本の開発者に関する最新の数字も、かなり良いはずです。みんな、ものを作るのが好き、いじるのが好き、記録して整理するのが好きで、そのどれもが、Notionの強みに当てはまる。エージェント向けのオーケストレーションレイヤーとシステム・オブ・レコードのレイヤーにぴったりとハマるんですよ。
Hiro:アメリカの顧客と比べて、日本が遅れていると感じた領域はありますか?
Ivan:「遅れ」というより、「伸びしろ」と言ったほうが近いと思うのですが。京都で学校を訪ねたり、東京でいくつかのオフィスを訪ねたりして、改めて日本は業務プロセスがとてもよく整理されていると思いました。
日本の人は、プロセスに従うのが得意ですよね。プロセスはすでに本当によく整理されている。だったら、そのスキルをまるごと、NotionなりClaudeなり、何でもいいのでエージェントに渡してしまえばいい。おそらく、そのプロセスはすでにNotionに記録されているはずですから。エージェントに向けて「これがプロセスだ、まず一度やってみて」と言えばいい。きっと、驚く結果になると思うんですよ。
私たちの社内でも、こういう使い方が多いです。たとえば「人間向けの業務マニュアル」があります。それをエージェントに指し示して、そのままやらせる。3ヶ月ごとにエージェントは賢くなっていくので、できることがどんどん増えていきます。
日本にはすでにたくさんの顧客がいて、おそらく自社のプロセスをNotionに記録しているはず。だったら、そのプロセスにエージェントを向けてみて、自動で回せるか試してみるといい。それこそ、もっと多くの人が試すべき「伸びしろ」だと思います。
Hiro:たしかに、そのとおりです。私たちは、とにかく何でも記録しますからね。
Ivan:そうでしょう?本当にドキュメント化がすごい。だから、それを実現するのに十分なコンテクストが、すでに揃っているんです。これは本当に「伸びしろ」であって、「欠けているもの」ではない。あとは、みんなが試してみるだけ。
エージェントをもう少しだけ、信じてみればいいんです。エージェントは、3ヶ月ごとに別物になります。3ヶ月前にはできなかったことが、今日はできるかもしれない。
Feel the AGI──そして、変わらない「制約」は何か?
Hiro:最後に一つ、日本のファウンダーへメッセージを届けたいです。彼らは会社をAIカンパニーへと生まれ変わらせる瞬間をまさに探しています。そんなファウンダーたちが、自分自身に問うべきテーマや仮説、問いがあるとしたら何でしょうか?
Ivan:Marshall McLuhan氏の言葉で、私が大好きなものがあります。「We look at the present through a rear-view mirror. We march backwards into the future.(私たちはバックミラーを通して現在を見ている。私たちは未来へと後ろ向きに進んでいる)」。あらゆる大きな技術転換の瞬間を言い当てていると思うんです。
人間の本質として、未来はそのままでは見えないのです。私たちは、過去というレンズを通して、その馴染み具合からしか未来を理解できない。
LLMは多くのことを解き放てますし、もっと実現できると私は信じています。もし、バックミラー越しに見るのをやめて、もっと第一原理で考え、テックの閉じた世界から少し外に出て、人間性に目を向け、自分のまわりの世界に気を配れば、できることは本当にたくさんある。この道具で生み出せるアイデアやできることは、あふれるほどあるはずです。
そういうマインドセットを持つことが、アメリカでやっていることをただ真似したり、日本国内の誰かをただ真似したりするようなことより、ずっと大事でしょう。自分自身の頭で未来を見据える。人間性から、そして他の領域からも学び続ける。テックのバブルのなかに閉じこもろうとしないこと。そこからはきっと、たくさんの素晴らしいものが生み出せると思います。
Hiro:それを実現するための最初の一歩は何でしょう。
Ivan:最初の一歩は、この「新しい素材」の能力を、自分の肌で感じること。みんな、よく「Feel the AGI」と言いますよね。実際に何かを作ってみて、それとともに暮らし、自分の習慣を変え、行動を変えてみる。そうすれば、その強みと弱みが見えてくる。しかも、それは数ヶ月ごとに変わっていくんです。
そして、少なくとも私自身が未来を考えるときのやり方ですが、変わらないものから考えるんです。変わらない「制約」は何か。人間の「本質」は、私の考えではほぼ変わらないであろう制約です。あなたのビジネス、あなたの会社、あなたの領域において、構造的に変わりそうにない制約は何か。そうしたものを全部持ってきて、LLMという新しい素材にぶつけてみて、何が飛び出してくるかを試してみる。たいてい、驚くような結果が出てきますよ。
Hiro:まさに、そのとおりですね。本当に素晴らしい時間でした。今日は、ありがとうございました。
Ivan:こちらこそ、ありがとうございました。次回は、日本でお会いしましょう。
Hiro:ええ、ぜひ。



