「Sam Altmanでさえ、債権回収の領域には触れたくないと言った」──Domuの共同創業者でCEOのNick Diazはそう語ります。
アメリカの大手銀行トップ20のうち8行、デジタルバンク「Nubank」、後払い決済「Affirm」、世界的保険会社「Chubb」、そしてBPO最大手「Teleperformance」など、誰もが敬遠する債権回収の領域で、Domuは名だたる顧客を持つAIエージェント企業に成長しています。
1年間で500ヶ所のコールセンターを巡り、1,000件超の債権回収のコール録音を通じてわかってきた、業界課題と勝ち筋。そして、彼らは「回収を通じた顧客体験を標準化したい」と起業を決意。月3,500万件の通話を95%AIで完結し、10倍の成長率を達成しながら、高い顧客満足度を記録しています。
「とにかく勝ちたい」信念と、Domuを形作った「粘り強い」文化。ALL STAR SAAS FUNDの前田ヒロとRice Capitalの福山太郎が、“爆速”では語れない強い成長を続けるDomuの根底から実践例まで、最新AIエージェント企業の「勝ち方」に迫ります。
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挑んだのは「世界をすぐに動かせる、難しい技術課題」
──Domuは金融機関や保険会社向けの「債権回収とローン管理のAIエージェント」として存在感を増していますね。
Nick:ええ、アメリカの大手銀行トップ20のうち、すでに8行に導入いただきました。中南米で人気のデジタルバンク「Nubank」や、後払い決済サービス「Affirm」もクライアントです。BPO世界最大手の「Teleperformance」とも組んでいます。音声、メール、WhatsApp、WeChatなど、あらゆるチャネルを通して債権を回収するAIエージェントを開発しています。
──なぜ、債権回収の領域に目をつけたのですか?
Nick:2年半ほど前のことです。きっかけのひとつは、僕たちがずっと「世界をすぐに動かせる難しい技術課題」に挑みたかったこと。
そこで、債権回収の世界を覗いてみたら、回収する側と借りる側の利益がまるで噛み合っていなかったんです。1年間で500ヶ所のコールセンターを巡ってわかったのですが、回収担当者の報酬の6割は「いくら取り立てたか」の歩合制。だから何としてでも回収しようとする強烈な動機が働いてしまう。でも、そもそも取り立てが好きな人なんていません。
僕たちがやりたいのは、回収を通じた通話や会話を標準化すること。脅すように払わせるのではなく、データへ向き合う仕組みを作ることで、もっと良い顧客体験を作ることに全力を注ぎたいんです。
Domu社内には対人通話が1,000件以上入っている「リーガルフォルダ」があります。そのなかには、回収担当者が「払わなきゃ刑務所行きだ」なんて脅しとも取れる記録も入っているんです。もちろん、これは完全に違法です。妊娠中でどうしても払えない女性に、担当者が「刑務所に入ることになる」と告げて、通話中に泣き出してしまう……というゾッとする話も。
こういったことに直面したのが、問題に挑もうと決めた理由です。
──Domuを創業する前は、何をされていたんですか。
Nick:ある会社で、1人目エンジニアとして働いていました。カーネギー・メロン大学の教授と卒業生がピッツバーグで立ち上げた会社で、コールセンター向けのソフトウェア会社です。そこで取り組んでいたのが、コールセンターの本人確認です。「Wells Fargo」や「Citi」みたいな米大手銀行と組んで、本人確認のシステムを展開していました。ここでの経験が、債権回収やローン管理といった業界について学ぶきっかけになりました。
AIコールは90%の人に出てもらえる
──実際のところ、人とAIでは回収の結果に差は出ますか?
Nick:いま証明できている成功例は、リテールバンキングの全商品では、既存の業者と同じだけの債権回収ができているということ。延滞中の個人ローンやカード残高を1ヶ月半から2ヶ月で回収しきることができます。僕たちが特に注力しているのは「最初の90日で回収できるかどうか」です。
顧客体験も大切です。プロダクトの設計を考えるとき、どこにログインボタンがあれば良いかを考えるようなUIの視点ではなく、僕たちの設計の中心にあるのは「心理学」なんです。心理をプロダクトの裏に置いて、最高の顧客体験を出すためにプロダクトを最適化する。
具体例を挙げましょう。通話の最後に毎回、何か不満はなかったかをお客さまに尋ねる仕組みがあります。そうすると不思議なことに、平均的な回収代行よりクレームが減ったんです。なぜかというと、この仕組みによってお客さまが意見を言いやすくなるからです。「クレームを出す」という感覚になりにくく、さらに「自分の声が届いた」と感じてもらえる。
こういった実験をたくさん経験し、最高の顧客体験を出す方法をデータで突き止めています。実験や経験を数多く回している自負がありますね。
現在、最大のボリュームを扱っているフラッグシップ顧客では月に500万人以上のお客さまから回収対応しています。そこでも、人間の回収担当者より良い顧客満足度スコアやNPSが出せています。
──エンドユーザーは、AIと話していると気づいているのでしょうか。それとも完全に人間を装っているんですか。
Nick:基本的には人間を装いますが、アメリカの一部の州では規制によってAIであることを開示しなくてはなりません。その場合は「AIか」と問われたら、「はい、バーチャルアシスタントです」と応える必要があります。
ちなみに開示が必要ない場合は、それ自体をスコアとして測る仕組みを持っていたりもします。通話を分析して、話し方やプロセスから相手がAIだと気づいたかを判定するんです。
──スコアの差は、相手がAIと知っているかどうかで出ますか。知っていると評価は下がるのか、上がるのか。何か相関データはありますか。
Nick:大きな差が出たのは、会話の入り口の設計でした。僕たちが考えているのは、どうやってお客さまがその通話にたどり着くかという「体験の流れ」です。つまり、もし誰かにいきなり電話をして「こちらNubankのAI、Nickです」と言えば、7割の確率で電話を切られます。完全に不意打ちの電話だからです。
でも先にショートメッセージを送って、「お悩みで頭がいっぱいかもしれませんが、最もベストなご対応の選択肢を用意します」とひと声かけておく。そのあとバーチャルアシスタントが電話すると、まず切られることはありません。7割の確率が1割まで下がります。全部、チャネルをまたいだ体験次第なんです。
ですので、通話だけでやろうとする場合は、最初の10秒でAIだと明かすと切られる確率は上がりますね。
「Nubank流」を再現する仕組み
──回収の電話や接触は、会社ごとにやり方が大きく変わるのでしょうか。たとえば、A社は顧客への接し方に細かなこだわりがある。B社は全然違うやり方かもしれない。そこに合わせないといけない場合は、どう対応しているのですか。
Nick:ええ、やっていることを仕組み化する方法を複数見つけてきました。
たとえば、Nubankからは「Nubank流で進めてほしい」と求められました。彼らは顧客体験を大事にしているからこそ、AIエージェントにもフレンドリーであってほしい。それを「Nubank流」と呼んでいるんです。
まず僕たちが実行したのは、通話録音にラベルを付けていくことでした。その通話が成功か失敗か、良いか悪いかでラベルを付けていき、それをもとにAIエージェントを訓練して、とにかく一番うまい人の動き、話し方や振る舞い、会話の入り方に近づけて再現するのです。
あとはプラットフォームにQAチームが入り、「自分ならこうした」とフィードバックを返してもらう仕組みも作りました。こうした取り組みを続けていくうちに「Nubank流」に近づけていくことができます。
──どういったやり取りや会話が、プラットフォームと顧客の間で起きているか、顧客側は詳細に見ているのですね。そのうえでフィードバックをして、改善していくと。
Nick:まさにその通りです。
──バリューチェーンのどれくらいが自動化されていますか。完全自動はどこまでで、まだ人が入っているのはどこまでですか。
Nick:ほとんどは自動化されています。コンテインメント率(AIだけで完結する割合)は約95%です。人が介入するのは、誰かが「人と話したい」と要望されたときのようにエスカレーションしたケースだけですね。
QAサイドの話をすると、僕たちにとってのQAとは、フィードバックを集めて、エージェントを上位25%の回収者に育てること。平均ではなくトップ層に育てることです。この育成の部分には、かなりの人を割いています。フィードバックをもらって通話対応を磨くところは、人が入る領域だと思います。通話の質だけは絶対に妥協したくありませんから。今、月3,500万件の通話に対しても、質のチェックの多くは人が担っています。
──プロダクトを作るうえで、技術的に最も困難だった点は何ですか。
Nick:データフライホイール(※製品やサービスの利用によって生成されたデータを、継続的にAIモデルの学習・改良へ使用し、パフォーマンスを向上させるためのメカニズム)ですね。
心理学の面から理解してプロダクトの設計を行い、お客さまのタイプごとに求めるものへ合わせていきます。あるお客さまはテキストを好みますし、メールを好む人も、電話を好む人だっている。いずれも「後払い決済」を扱っていたとしてもAffirmとKlarnaではお客さまの層が異なり、好むチャネルもメッセージも、AIの人格まで違うんです。
信頼できるデータフライホイールを設計して、何が最適なAIか見極めること。これが今、最も難しい技術課題です。そもそも、こんなことは今まで不可能だったので、誰もやったことがないわけですから。
たとえば、テキサス州で回収するとき、使うAIがテキサス訛りだと、回収できる確率が17%上がります。でも、その実験を回すには、テキサス出身者を大量に雇って、ニューヨーク出身者も雇ってABテストをしなくちゃならなかった。今みたいなスピードではとても無理でした。だから、これをAIで実現できることは非常に価値がある一方で、最も難しい技術課題なのです。
クリスマスイブ、SUVの前で3時間待ち続けた創業期
──最初の顧客はどうやって獲得したのですか。実績もコネもない状態で、エンタープライズに飛び込むわけですよね。
Nick:Domuの文化を一言で言うなら、とにかく粘り強くて、しつこい。
僕は元アスリートでした。卓球のナショナルチームの選手だったんです。アスリートとして、ずっと信じているのは、誰もやらないことをやれば勝てる、ということ。
学生時代は、朝5時に起きて8時まで練習、学校へ行って、15時に授業を終えたら16時から22時まで練習。そこから1時間宿題をして……という日々を繰り返していました。ほかに誰もそこまで練習していなかった。だから勝てたんです。このアクションをDomuに置き換えました。
最初の顧客は保険会社の「BNP Paribas Cardif」でした。BNP Paribasはフランスの大手銀行で、Cardifという保険部門を持っています。まず、彼らのフランスにある本社オフィスの隣でAirbnbを借りて、アプローチを続けたんです。
あとはプロジェクトを動かすにはフランスの認可と、ラテンアメリカ、特にコロンビアの認可も必要でしたから、そこにもAirbnbを借りて、行ったり来たり。1ヶ月半で彼らのオフィスに少なくとも55回は通いましたね。
──とにかくAirbnbを借りていますね(笑)。その訪問中は何をしているんですか。ただ居るのか、それとも動き回るのか。
Nick:最初の2週間は、とにかくできる限りの人を巻き込んでプロダクトを理解してもらう。最初、提案していたプロダクトはホリゾンタルの対話型AIで、主に通話に絞っていたんです。でも最終的に、彼らの一番のペインは保険、特に保険料の回収だと分かった。それを実際に彼らと一緒に定義していったんです。
そこからの接点はすべて「MVPをどう作るか、UIをどうするか、連携をどうするか」と、彼ら専用に作り込んでいきました。そして1ヶ月半が経ったころ。人生ってこういうことが時々起きるんですが……クリスマスイブでした。僕たちはCEOを3時間待っていたんです。夜19時から22時まで待って、ついに彼がSUVを降りてきたところで話しかけにいきました。そしたら、車の中に入れてくれて、その場で契約書にサインをしてくれた。
まあ、こんな感じでいろんな物語があるわけですが、僕たちは全部勝ち取ってきたんです。
コンプライアンスへの全振りが、大手金融の信頼を生んだ
──Nickさんたちの粘り強さは確かに感じられました。その粘り強さ以外で、どうやって大手金融機関からの信頼を得たんですか。スタートアップとはかけ離れた世界ですよね。
Nick:ひとつは、とにかく最初からコンプライアンスに徹底的にこだわったこと。サイバーセキュリティもプライバシーも絶対に妥協しませんでした。エンジニアチームは最初、僕ともう1人だけでしたが、とにかくセキュリティに集中。僕の前職での経験も効いたのだと思います。大手金融企業を相手にしていたので、彼らが必ず求めてくる認証をすべて最初から準備することができていたんです。
あとは、すごく透明に、オープンに、一緒に作っていると示したこと。それが顧客にも刺さったんだと思います。結局、顧客との間でも「自分と気の合う人」が見つかるんですよ。たとえば、先ほどのBNP Paribas CardifのCEOも元アスリートで、AIやイノベーションにも本気でした。だから彼は、僕たちのアーリーアダプターになってくれたんです。
彼との出会いは運もありましたが、とにかく数をこなしたことが大きかったですね。最初の2ヶ月で210件くらいは商談をしていたので。僕の一日は、最初の1社が見つかるまで15件の商談を立て続けにこなしていましたね。
──大企業と組むとなると、基幹システムとの連携作業や顧客のオンボーディングにかなり手間がかかりますよね。オンボーディングは、やはり手厚めに対応する必要がありますか。
Nick:ええ、手厚く対応するようにしていますね。でも、それを差別化のチャンスと捉えています。彼らのビジネスのなかで、本当に価値を生むものを届けるチャンスだと。
FDE(Forward Deployed Engineer)という考え方がありますよね。僕たちも似たようなことに取り組んでいて、「Ruthless FDE」と呼んでいます。オフィスへ出向いて、すばやく連携を実現させます。僕たちの対象はペイメント側、つまり基幹の金融システムの連携対応を求められることが多いです。
もう一つの僕たちの強みは、大規模なシステム連携をしなくても、価値を証明できるやり方があること。Domuを別の回収代行業者やコールセンターみたいに受け入れるだけでいいんです。DomuのAIエージェントが電話をかけて、他社と同等以上に回収できると証明する。そこから連携作業に入ることができれば良い。
大手銀行や大手保険会社は年初にプロジェクトを決めてしまうので、リソースがすごく限られていることが多いんです。だから、できるだけ簡単にスタートを切れるようにしています。
70%のコスト削減を実現する、アウトカムベースのプライシング設計
──プライシングはどう設計していますか。
Nick:今は、アウトカムベースとボリュームベースプライシングのハイブリッドです。分単位の課金ですが、使用量が増えるほど安くなります。業界標準は回収額の一部をいただくアウトカムベースなんです。だから僕たちは、アウトカムベースにボリュームのメリットを足すような形に寄せていっています。
一部の顧客がアウトカムベースを好まない理由は、コストが線形に増えるからです。「100万ドル回収したら3%払う」として、もし回収額が1,000万ドルになっても3%がかかりますから、コストは比例して膨らむ。
Domuの設定するプライシングは「100万ドルなら3%だけれど、1,000万なら2%にする」といった具合にしています。テクノロジーによる「規模の経済」が効くようにしているわけです。
──顧客は「人を雇うより安い」など、どういった計算のもとで検討しているのでしょうか。その検討では、おおよそいくらの差がつきますか。10%安くなるのか、50%安くなるのか。
Nick:40〜70%ですね。アメリカだと70%削減できたケースもあります。あるBPOの顧客はフィリピンで運用しており、フィリピンは世界でも安くコールセンターを運営できる場所の一つですが、そこでも雇用コストから30%は下げられています。
──顧客の使用量は、どのように広がっていくんですか。一部の通話からはじめて、扱う通話数を増やしていくかたちですか。
Nick:ええ、その通りです。Domuでは、トップ5社の債務を合計すると15億ドルくらいあります。成長の打ち手はシンプルに、他社より良い結果を出すことで価値を証明し、任せてもらう口座をどんどん増やしていくこと。まず1万口座のPoCからはじめて、10万、100万と増やしてスケールしていきます。
システム連携は「商談中に1時間で作る」
──組織として、そしてご自身は、どれくらいAIに振り切っていますか。社内のどんなシーンでAIを使っているのでしょうか。
Nick:もう至るところで使っています。
たとえば商談中、相手がDomuにはまだ無い連携について聞いてきたら、いくつか合図を仕込んでいて、AEが「すみません、その連携はまだ……」と言った瞬間にトランスクリプトからライブでWebhookが走って、連携を作りはじめる仕組みを持っています。
PRを出して、コーディングエージェントがその場で連携を組みはじめる。そして、エンドツーエンドでテストしてみることもあります。もちろん、うまくいくときも、いかないときもありますが、商談の終わりにはこう言えます。「うちのAIチームがもう動いています。このような仕様で構築ができそうです。これでご希望に合っているかどうか技術チームに送ってみてください」とね。
こうやって証明を続けるんです。僕たちは、システム連携の仕組みを1時間もあれば作れる。エンタープライズソフトと比べてみてください。向こうは10万ドル取るうえに2ヶ月もかけてその仕組みを作る。だから、みんな僕たちの対応に前のめりになってくれるのです。
あとは、ちょっとクレイジーな例かもしれませんが……Slackにbotを置いていて、社内の誰でもDomuのバーンレートを見られます。その日にいくら使ったのか、ランウェイはあと何ヶ月か、顧客がいくら払っているか、リアルタイムで全部明かしています。
──それはすごいですね。
Nick:もう一つ注力しているのが、スキルとメモリの活用です。会社について知っていることはすべてメモリに。社内の全プレイブックはスキルにする。たとえば、僕の特技がコールドメールなら、それをスキルにして、SDRやAEや全員に渡す。だから、業務のすべてにスキルがあって、おかげで圧倒的に速くスケールできる。
採用のときにも有効です。今のエンジニアの比率は、以前なら3〜4人は必要だった仕事を1人で回せることを想定しています。雇用したら、すでに用意したスキルでオンボーディングする。それらがClaude CodeやClaudeに入っているんです。
社内でAI活用を進めるための、2つの仕掛け
──いまのところを深掘りしたいのですが、どうやって社員やチームに「スキルを作る気」にさせて、さらにオープンに共有してもらっているのですか。インセンティブを揃えているのか、カルチャーとして根づかせているのか。
Nick:まだ小さな組織ですが、かなりのインセンティブが要りますね。大きなところでは2つの仕組みがあり、「AI Leader Board」と「Show-and-Tell Meeting」を設けています。
AI Leader Boardは、AIを最も使っている人=トークンを一番使っている人を映すダッシュボードです。そして、使用に応じて報酬を出します。みんないつもそれを見ているから、良いピアプレッシャーにもなります。「自分はAIを使えていないな、もっと使わなきゃ」と。すごく効果がありましたよ。
また、AIのインパクトをわかっているシニアエンジニアでも、慣れたやり方を変えるというのは本当に難しいという課題もありました。だから週1日、環境を丸ごと変える日を設定しています。Codexを使ってみたり、Claude Codeと比べたり、ほかのコーディングツールを試す機会を与えたり。
Show-and-Tellの会では、おすすめのAIツールやセットアップを共有しています。Patrick Collison氏の「Stripeオンボーディング」の話を知っていますか。Patrickが、Y Combinatorのプログラムに参加している会社を回って、「eコマースの事業ですか、決済が要りますか」と聞く。「そうです」と返されたら、その場でラップトップを取ってStripeに繋いでしまう(笑)。
僕たちも良いAIツールを見つけたら、その場でみんなのパソコンを奪って、すぐそのツールに繋ぐんです。Domuには「最高のスキルやツールを展開して広める」専任の社員が2人いるんです。エンジニアのラップトップを取って、ツールに繋いで、ほぼ強制的に使わせています。
──「AI Leader Board」は面白いアイデアですね。トークン使用量の「見える化」をしていると。参考までに、エンジニアは月にいくらトークンを使っていますか。
Nick:先月は全エンジニア合計で9万ドルくらいだったと思います。1人あたりだと、ほぼ給料分と同等くらいですかね。
──給料と同じ額とはすごい。適切なトークン消費量を考えたりしますか。それとも、多ければ多いほどいいのか。
Nick:ROIが伴うなら、多いほどいいと考えています。
僕たちにとって、全部が数字で判断できるんです。リリースするすべての機能は、回収額を増やせたかどうかで評価します。債権回収はお金で測れるビジネスなので、シンプルなんです。すべてを金額換算できるから、ROIが見合えばやるだけです。エンジニアリング費が3倍に増えても、回収が5〜6倍になれば正当化できます。
──これだけトークンを使っていると、社内でもプロダクト側でも、グロスマージンは気になりますか。短期的には気にしないですか。
Nick:グロスマージンはすごく気にします。ただ、分あたりコストの観点で見ています。今のマージンは65%くらい。もちろん改善できますが、いい数字を維持できています。
だから今はトークン消費に注力して、最適なモデルを見極めています。どのタイプの通話、どのやり取りに合うか。会社全体としては、エンドの顧客に届ける価値をずっと大事にしています。それがいずれ、さらに顧客を増やし、ボリュームが増えることにつながるので。
“Build vs Buy”の問いを説明するための根拠
──顧客側から「Domuを使うより内製化したら、最終的にはコストも削減できるんじゃないか」みたいな質問はきますか。
Nick:きます、きます。珍しくないです。たとえば、音声AIのElevenLabsやSierra、OpenAIにも音声のリアルタイムAPIがありますから。むしろ、こちらから勧めることもあります。「ElevenLabsでもなんでもリアルタイムAPIを繋いで1週間試して、僕たちと比べてみてください」と。
そもそも、「ライセンスが必要だから内製は無理」となってDomuが選ばれることもあります。債権回収のライセンスがあること自体が僕たちの差別化ポイントの一つです。でも、それ以外でもプロダクトに積んできた運用ノウハウによって、僕たちが回収の面で5倍は優れていることを証明できる。それが、“Build vs Buy”を経営会議で説明するときの論拠のひとつになります。
たとえばChubbは、何千人もエンジニアがいますが、債権を回収する会社ではありません。だから、僕たちがそのノウハウを持ち込むんです。銀行系の顧客もほぼ同じですね。
差別化ポイントの2つ目は連携のスピードです。彼らが2年半かけて作るものを、僕たちはもう持っているか、1ヶ月で作ることができるのですから。
──なるほど、長期のMoatはこの領域にこそ生まれそうです。他社も追いつこうと、似たプロダクトを出してきますよね。
Nick:2年前、自動運転の「Cruise」の最初のエンジニアと話す機会があったんです。彼らのエンジニア文化は、「しくじったら(事故で)人が死ぬ」という前提に立っていた。僕たちの場合、しくじったら僕たちか顧客が訴えられる。だから僕たちの見立てでは、競合の少なくとも半分は自滅で消える。コンプライアンスに本気で取り組まず、エージェントアウトカムを測らず、訴えられて崩れる会社が半分はいるはずだと。
つまり、規制を理解し、遵守して、プロダクトを安全に保つことに、大きなMoatがあるのです。実際にメトリクスを見ると、人がやるより安全なんですよ。ヒューマンエラーだってありますから。実際に回収代行会社が規制当局に罰金を払っているケースを見かけますよね。
それから、データフライホイールの設計も重要です。いかにより良い顧客体験で、誰よりも安く回収できるか。ユニットエコノミクスで見れば、ショートメッセージやWhatsAppなど通話以外のチャネルのほうが安いわけです。
だから、「通話以外で支払いにたどり着ける」かが確実にMoatになります。同じか、それ以上の結果を顧客に安く届けられることになりますからね。利害が完全に一致したうえで、顧客はもっと僕たちに任せてくれるようになるんです。
最後に、規制に絡むのがライセンスとコンプライアンスです。規制当局と組んで、プロダクトの仕組みや顧客の反応を理解してもらい、一緒に規制づくりにも貢献しています。
「Sam Altmanでさえ触りたくない」領域に築いたMoat
──Domuは、シリーズA調達を達成しましたが、今、シリーズAを取るには何が要りますか。みんな動きが速くて、バーが上がっている印象を受けます。
Nick:強く感じていることの一つは、自分たちの守り方を理解することです。潤沢な資金を持つAIフロンティアラボを前にすると、「もしClaudeやOpenAI、ほかの誰かがその領域に入って何かを作ってきたら、僕たちはどう守りきれるのか」となる。
僕たちの場合、ひとつの強みは領域が全然「セクシーじゃない」こと。1ヶ月前にSam Altman氏とオフィスアワーをやったとき、彼は「債権回収なんて触りたくない、考えたくもない」と言っていました(笑)。だから「そりゃ、最高だ!」となったんです。
いかに守りを築くか。顧客にどんな価値を届けるか。そこに強い仮説と信念を持つことが大事だと思います。
僕たちの場合、指標で見ると、高いNDR(Net Dollar Retention)が事業で最も重要です。良いNDRを持つことが最重要。持っている巨大な口座を速く伸ばせると投資家に証明する必要があるからです。だから、チャーンとNDRがDomuの鍵です。
実際、すごい勢いで成長してきました。昨年の成長率は10倍です。50万ドルの売上から、500万ドルを超えて、今年はその10倍に乗せる軌道にいます。
──つまり、2年で100倍になる可能性があると。ものすごい速さです。
Nick:僕は、何がどこまで可能なのか、とにかく頭を柔らかくして考えています。確か、シリーズAかCのころの話だったと思いますが、「3倍、3倍、2倍」みたいなセオリーがありますよね。「3倍、3倍、2倍にできれば大丈夫だ」と。そのとき僕はこう思った。「僕たちにはそんなの物足りない」と。だから、とにかく10倍を掲げて、なんとかそこに到達しようとしました。
ちなみに、最初のAEを雇ったとき、彼の目標は1年で110万ドルでした。でも彼はなんと、3ヶ月で200万ドルをクローズしたんです。だから今、AEそれぞれの目標は500万ドルになりました。
AE1人で45社を回す。“2年100倍成長”の目標を支えるGTM自動化
──営業1人あたり3ヶ月で200万ドル!それは一体、どうやって可能にしているんですか。社内ツールやプロセスなど、実現するために実践していることを挙げると?
Nick:もちろん、プロダクトへの引き合いという要素は常にありますが、社内では別の指標で測ってます。AE1人あたりで何社をちゃんと回せるか。一般的なプレイブックなら、AE1人で8社ほどが目安だと思います。
しかし、DomuではAE1人あたりの平均は45社です。これがどうして可能なのかというと、ミーティングや出張以外は、ぜんぶAIが代わりにやっているんです。価格提案も即時その場で。ミーティングの最後に「提案を送ります」と言えば、自動で提案書が作られ、メールの下書きも生成されます。
──それは既製のソフトウェアを使っているのですか?それとも自社開発?
Nick:自社開発です。僕たちは早い段階で「GTMエンジニア」を採用しました。言い換えるとオートメーション担当ですね。彼は今、DomuのHead of Automationsです。こうした仕組みは基本的に全部、自分たちで作っています。
──つまり、GTMチームの自動化を助けるエンジニアですか?
Nick:まさにそうです。フルタイムでやってくれています。本当に強力な武器になるんですよ。彼が社数をどんどん増やしていくので、新規開拓でもAEやSDR1人あたり週で約4,000件のコールドコールをやってます。
──その件数になるとコールに次ぐコール……ですよね。AIに電話させているんですか?
Nick:ええ。AIパラレルダイヤラーがあります。AIが一度に5人に電話をかけて、相手が電話に出たら人間へ繋ぐんです。あとは、とにかく出張が多いですね。先週は5都市回りました。いつも記録を更新しようとしています。今の記録は週で7都市だと思います。さあ、今後どうなるでしょうね。
──営業チームのパフォーマンスは、どうやってトラックしていますか。試験導入も売上に入れるのか、それともAEが本契約の締結まで担当していますか。
Nick:本契約までAEの担当です。GAAPの会計基準に沿わないといけないので、試験導入は売上に数えられません。だからAEのパフォーマンスは会社として計上できる分だけ。契約にサインして、ローンチするまで彼らが担当し、そこからカスタマーサクセスに引き継ぎます。
朝4時始業・週7日。「勝ちたい人とチームを作る」という哲学
──あの……Nickさんは何時から何時まで働いているんでしょう。“996”ですか。
Nick:実は、僕が一番すごいわけじゃないんですけどね。一番は共同創業者のCamila Zancanellaです。彼女はもう100日連続でオフィスに来ている(笑)。僕はたいてい朝4時〜4時半に起きて、7時まで働き、それから1時間ジムへ行きます。そしてまた仕事に戻って、遅くとも夜20時には仕事を終えて、7〜8時間は休むようにしています。
──朝4時や5時から、もう働いているわけですか。
Nick:そうですね。インタビューや商談が多いので自分の作業時間が要るんですよ。
──朝4時から夜20時まで、週5日……
Nick:いやいや、週7日です(笑)。
──これは失礼しました……(笑)。この凄まじい強度は、AIスタートアップでは今や必須なんでしょうか。確かに競争は増えているし、ますます激しくなっていますよね。
Nick:ちょうど採用活動を強化しているところなので、チームともよく話し合っているトピックなんですよね。僕たちがたどり着いた答えは、原則やフィロソフィーの面で、僕と共同創業者にとって一番ウソがないのは「とにかく勝ちたい」ということ。そして、勝てる人、勝ちたい人とチームを作りたい。僕たちは、勝ちたいんです。バーティカルAIでは誰もやらないことで、この信念こそが勝つための一つのピースであり、必須条件だと思うのです。
このレベルのコミットメントこそ、Domuがこの業界・領域で勝つために必要なのだと信じています。競争の激しさ、プロダクトに対する需要、抱えている技術課題の多さゆえにね。
うちのオフィスは誰も出社を強制されていません。オフィスを思いきり楽しい場にして、行きたいと思えるようにする発想なんです。僕たちはチームで一緒にバイクで走りに行ったりもするし、一緒にジムに行ったり、ヨガもやる。いろいろ一緒に過ごすから、僕たちと働くのはとても楽しいはずですよ。
──どうやって燃え尽きないようにしていますか?
Nick:とにかく、よく運動します。あと、これは逆説的でクレイジーかもしれないんですが、僕は会社の外でも自分が「勝っている」と感じられる何かがあることが、すごく大事なんです。
だから、サブ3(※)に向けて練習し、ちょうど3週間前に走り切りました。今は年末のアイアンマンレース(※)に向けて準備中です。とにかく走って走って走る。そうして気分を良くして、バーンアウトしないようにしています。
※サブ3:フルマラソンを3時間未満で完走すること。全完走者の上位3〜5%程度しか到達できないといわれるレベル。
※アイアンマンレース:スイム3.8km、バイク180km、ラン42.195kmの合計226kmを制限時間以内に走破し、合計タイムを争う競技。そのハードさゆえに「世界で最も過酷なトライアスロン競技」とも称される。
日本市場参入は「できるだけ早く」。ルールの制約を嫌うCEOの野望
──日本市場への進出は、いつごろを考えていますか。
Nick:皆さんが良いと思う、然るべきときに、できるだけ早く。
すでにアジアにも顧客がいます。今まさに日本のある保険会社と試験導入を実施しているところなんです。海外市場への進出は、いつものパターンだと、2週間ほど現地へ行って市場に浸かり、できるだけ多く人と会って、それからオフィスを開設するかどうかを検討し、その市場に深い人を置くようにしています。
──プロダクトのレベルは、AIで言語の壁は多少はラクになりますか。
Nick:もうそれは、完全にラクになりました。
──それでも市場参入において、日本語話者はボトルネックになるのではないでしょうか。日本に限らず、現地語を流暢に話せる人がいるのは、変わらず重要だと考えますか。
Nick:フォーカス次第でしょう。ここまでのセッションを通じても感じていただけたと思うのですが、僕はルールや思い込みの制約がすごく苦手なんです。
たとえば、僕はコロンビア出身のヒスパニックで、12歳のときにアメリカに来ました。多くの人は「移民のヒスパニックが銀行へプロダクトを売るのは難しいはずだ」と言うんです。僕は、そんなふうに考えたことさえありませんでしたが。
とあるエンジェル投資家にも言われました。「銀行をひとつクローズするのに1年半かかるよ」と。僕は「そんなはずはない」と返しました。実際、2ヶ月でクローズしましたからね。
話を戻すと、もちろん市場を熟知する必要はあります。しかし根底には「僕たちならできる」という信念がある。だから、何よりも大事なのは、その市場にフォーカスできる人を置くことです。日本やアジアに一点集中で動ける人を置いて仕事を任せられるようにすること。プロダクトに集中してもらう発想に近いと思います。
コントロールできることだけに集中せよ
──日本のAI起業家に向けて、「自分に問うべきテーマや問い」を一つ挙げると何でしょう。
Nick:「もっと早く読めばよかった」と思う本が2冊あるんです。自分がもっと早く問うべきだった問いに気づかせてくれました。
1冊は、Ryan Holiday氏の『The Obstacle Is the Way(邦訳:苦境(ピンチ)を好機(チャンス)にかえる法則)』。これを読んで、何が自分のコントロール下にあって、何がないかを、たくさん問うようになりました。コントロールできないことにエネルギーを使うのをやめて、コントロールできることにずっとフォーカスするようになった。
たとえば、週に7都市、10回も移動するのは、たぶん健康的じゃないけれど、自分のコントロール下にある。一方で、規制や、社内政治の変化、国家的な政治の流れは、コントロールできない。だから、コントロールできることにフォーカスして、それをどう速く変え、試すか。結局、アウトプットよりインプットにフォーカスするのが、僕が得た学びです。問いにするとしたら、「何が自分のコントロール下にあって、何がないか」ということですね。
そして2冊目は、Ray Dalio氏の『Principles: Life and Work(邦訳:PRINCIPLES 人生と仕事の原則)』。本書は二次的、三次的な結果について考えるのに、すごく役立ちました。それらは、僕の考えが及んでいなかったことで、主に人材については一番難しい問題であり続けています。タレントがどれだけ重要で、人を理解してマネジメントすることがどれだけ大切なのか。もっと早く自分に問うべきでしたし、答えは僕が思っていたよりずっと肝要なものでした。
Y Combinatorには「とにかく作って売ることにフォーカスしろ」というアドバイスがあるのですが、それが有効なのはスケールが必要になる手前までなんです。そこから先は、話が変わってきます。インセンティブや人、人が何を大事にするか、そして自分の決断。それらの連鎖的な影響まで理解する必要が出てきますから。
──すばらしい薦めです。最高でした。今日は本当にありがとうございます。日本にいらっしゃるときはぜひ教えてください。



