「顧客のコストを削減しながら、自社も成長する」。一見、矛盾する戦略を掲げながらも、創業からわずか5年で評価額1兆円超、ARR10億ドルのユニコーン企業へと急成長したのが、財務オペレーションプラットフォームであるRampです。
Rampは、企業の支出管理を一気通貫で自動化するプラットフォームを提供。カード発行から請求書支払い、経費精算の自動化、会計の自動化まで対応し、現在5万社以上の企業にサービスを展開中です。導入企業は平均して年間約5%の支出削減を実現し、顧客企業全体で累計100億ドル以上のコスト削減と2,700万時間の業務時間短縮を達成しているといいます。
急成長の裏側には、「デイリーカウント・カルチャー」「経験豊富なVPより、ポテンシャルのある若手を採用する」「自社開発のAIツールで営業生産性を6倍にする」など、AI時代のスタートアップ経営の理想的なロールモデルとなる数々の選択がありました。
今回は、Ramp共同創業者兼CEOのEric Glymanさんにインタビュー。Rampの異次元な成長を支えるプロダクト構想、AIをフル活用したオペレーション、独自の採用哲学までお聞きすることができました。聞き手は、Rice Capital・代表パートナーの福山太郎さんが務めます。
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「デイリーカウント・カルチャー」がスピードを生み出す
福山太郎(以下、福山):まずは改めて、Rampについて教えていただけますか?
Eric Glyman(以下、Eric):Rampは企業の支出を削減するために設計された「ファイナンシャル・オペレーション・プラットフォーム」です。カード発行から請求書支払い、経費・会計の自動化まで一気通貫で対応できます。現在、アーリーステージのスタートアップからグローバルリーダーまで、5万社以上にサービスを提供しています。
バリュープロポジションは企業の支出額削減です。導入企業は平均して年間約5%の支出を削減しています。アメリカ企業の利益率が約8%であることを考えると、大きな意味を持ちます。
こう言い換えるとわかりやすいかもしれません。1ドルの節約は1ドルの売り上げではなく、12ドルの売り上げに相当するんです。このバリュープロポジションは市場で非常に強力で、私たちは歴史上、最も急成長している企業の一つになりました。
約5年前にプロダクトを公開し、今年の夏にはアメリカでの年間売上高が10億ドル(約1,570億円)を超えました。
福山:Rampはプロダクトローンチから5年でARR10億ドルを達成しましたね。驚異的なスピードです。そのスピードを実現するためのRampのカルチャーは何だと考えますか。
Eric:<yellow-highlight-half-bold>「デイリーカウント・カルチャー」<yellow-highlight-half-bold>ですね。今日は、私たちRampにとって2415日目。私たちは常に日数を数えているんです。理由は大きく2つあります。
一つは、リーダーの役割について考えたこと。Snowflakeの元CEO・Frank Slootmanの著書『Amp It Up』から大きなインスピレーションを受けています。彼は「リーダーの役割は、テンポとペースを設定し、緊急性を高めることだ」と語っています。日々が過ぎ去るほど「どうすればもっと速く進めるのか?」と考えるようになるのです。だからこそ、時間管理には多くのリソースを費やしています。
もう一つは、時間の使い方の効率を測れること。これは最初の取締役会での経験が活きています。社外取締役と初めて会う場で、私たちは「まだ創業133日目です。これまでに実施した内容はこれです」と話しました。取締役はとても満足してくれたんです。
2ヶ月後、私は次の取締役会に向けて資料を作っていました。最後に、日数を133日から199日へ更新したとき、「ちょっと待てよ」となったんです。「もう66日が経過している!この間により多くのことを成し遂げられたのか?」と。
それでカレンダーを見返してみると、会社の価値を大きく左右する「特定の時間」があることに気づきました。たとえば、実験したEメールキャンペーンが多くの売上を生み出していたんです。あるプロダクトの意思決定によって顧客にとても強いインパクトも出せました。一方で、多くの時間を費やしたけれど、インパクトはそれほどなかった出来事もありました。
10万人以上の従業員を抱えるような競合に、当時7人のチームが労働量で勝つのは不可能でしょう。でも、「時間の使い方の効率」ならば勝負できるかもしれない。私たちが日数を数える理由は、どの時間がレバレッジを生むのかを慎重に考え、インパクトの大きな活動に「Yes」と言い、インパクトが小さいことには毎週「No」と告げる時間を確保するためなんです。
福山:このカルチャーは会社全体へ浸透させているんですか?
Eric:取締役会でスタートしましたが、今ではニューヨーク、サンフランシスコ、マイアミのオフィスに入ると、日数カウントが最初に目に入ります。days.ramp.comにアクセスすれば皆さんも見られますよ。
私たちがこの取り組みを続けている理由は、約1,400人の従業員がいるからこそなんです。大企業では誰もが経験することだと思いますが、皆さん素晴らしいビジョンを持ち、会社をより良くするために、やりたいことがたくさん出てきます。でも現実は、予定になかったミーティングに閉じ込められてしまう。ミーティングの繰り返しで、気づけば週の半分が過ぎています。自分が本当に信じている仕事をする時間は限られているんです。
今でも日数を数えて公開しているのは、どの従業員でもミーティングを断ったり、キャンセルしたりできるようにするためです。実際、年に一度すべての会議をキャンセルし、必要なものだけオプトインし直す仕組みにしています。会社から自動的に送られる「招待」の犠牲者にならないように。
AI活用は営業チームからボトムアップではじまった
福山:AIを積極的に活用する動きは、トップダウン、ボトムアップのどちらで起こりましたか?
Eric:営業のエントリーレベルであるSDR(Sales Development Representative)チームが、何年も前に使いはじめたんです。彼らは、見込み客に連絡を取ってミーティングを打診し、相手が同意すれば報酬を得られます。
当時、私たちは米国市場で何年も出遅れていると言われていました。資金力ははるかに劣っていたし、思うようにマーケティングに投資できなかった。だから、営業の効率を上げることが唯一の勝ち筋だったんです。
そんなとき、今ではRampの主要リーダーでもある、当時の営業担当者に注目しました。彼はミーティングのアポ取りが非常に得意だったんです。問題は、彼のような存在をさらに採用する方法です。だから彼とエンジニアをペアにして、「日中は何をしているのか」を徹底的に観察しました。
わかったのは、彼が毎日、資金調達ニュースをチェックし、会社の担当者のメールアドレスを推測し、メールを生成して送信する。これを繰り返していたということ。やっていること自体は面白いんですが、手動ステップが多すぎました。そこで手動作業の自動化からはじめたんです。
LinkedInをスクレイピングして「資金調達をした人」や「転職した人」を集めるデータベースを作りました。全員のメールアドレスを取得するサービスを構築し、100パターンのメッセージを用意してA/Bテストを実施。おかげで、彼は自分にしかできない「深く人間的な部分」だけに集中できるようになりました。
これらのシステムは、今ではほぼ完全にAI主導です。結果、彼が獲得するミーティング件数は月に20件から100〜200件に増えました。メール送信とアウトリーチはほぼ全部自動化され、彼がやっているのは返信対応のみです。
つまり、私たちは得意な人をさらに良くするため、最高の人をもっと最高にするため、この取り組みをはじめたわけです。結果的に非常にボトムアップな動きになったんです。最初は「必要ない」と思っていた営業もいましたが、周りのメンバーが2倍、3倍、4倍と稼いでいるのを見て、「自分もあれだけ稼ぎたい」となりました(笑)。ボトムアップの欲求が強かったんです。でも、同時にトップダウンも進めましたよ。
福山:将来、AIによって営業も不要になると思いますか?
Eric:メールアドレスを推測するような作業など、人間の時間を無駄にするアルゴリズム的な作業は存在します。メモの下書きを手書きするのも、A/Bテストを手動で回すのも馬鹿げている。こういうのはシステムで自動化すべきです。
では、人間がやるべきことは何か。優れた営業が本来価値を発揮するのは、彼らが持っている関係性です。ミーティングでの時間、鋭い質問、人と人をつなぎ購買意図を読み取ること。深い人間関係こそ時間を使う価値があります。私たちがやろうとしているのは、アルゴリズム的な作業を徹底的に自動化し、コンピュータに任せることなんです。
エンジニアの採用面接にLLM必須の課題を出す理由
福山:ボトムダウンからはじまった、ということでしたが、トップダウンではどういう動き方をしていますか?
Eric:今、私たちは本当に面白いフェーズにいます。これは実は公にはしていないのですが、エンジニアとしてRampに入社テストでは、LLMなしでは解けない課題に遭遇します。
これはLLMを使わない人が優秀じゃない、と言っているわけではありません。「あなたは本気でAIの可能性を信じているか?ワークフローで使っているか?」をテストしているんです。
私が求めているのは、全力でコミットしている人。だから営業、カスタマーエクスペリエンス、エンジニアリングまで、実質的にすべての役割でAIを使いこなせているかをテストしています。
福山:つまり、優秀でもAIを使っていなければRampには入社できないと。
Eric:はい、その通りです。
福山:採用面では、ほかに変化はありますか?AIで人々がより多くのことができるようになったので、当初の計画より採用人数が少なくなっていたりしますか?
Eric:ええ、100%そうですね。今はRampの営業一人あたりの目標数値は、最も近い競合と比べると約5倍です。
私たちは少人数しか採用しません。一人ひとりがより多くの契約を成立させ、はるかに高い報酬を得られる構造です。だから最高の人材が入社したがるのです。低コストで大量採用する企業もありますが、仕事がコンピュータで処理できる世界では、少数精鋭でより優秀な人材を雇うほうが理にかなっています。
エンジニアリング側では、研究所が注目するより前から、私たちは競技プログラマーやCodeforces(※世界最大級の競技プログラミングサイト)に参加するエンジニアを積極的に採用してきました。世界トップクラスの競技プログラマーであるtourist(※Gennady Korotkevichのハンドルネーム)もRampで何年も働いてくれていました。Rampには、実際にほとんどの"国"よりも多くのIMO(国際数学オリンピック)とIOI(国際情報オリンピック)の金メダリストがいるんです。
以前は売り上げが2倍になれば従業員も60%増やしていました。でも今は30%ほどです。一人で5倍売れる営業をできる限り採用したい。大量採用か、少数精鋭か。私たちは後者を選んだんです。
福山:ちなみに、お気に入りのAIの活用方法はありますか?
Eric:AIは常に使っていますが、社内で作った最も活用されている事例としては「Ask Ramp Research」を挙げたいですね。
社内のほとんどの人はSQLを書けません。何か調べたければ、誰かが作ったダッシュボードを見るか、助けを求めて1週間待つか......といった感じでした。だから質問をしなくなってしまうんです。会社で起きていることに関心を持たないように訓練されていたんです。
そこで私たちは、AIエージェントを作りました。優秀なアナリストと同じようにすべてのデータテーブルにアクセスし、英語でも日本語でも、社内の誰からのどんな質問にも1分以内に答える。推論プロセスも示してくれます。
新人営業が「今月、あの競合から何社獲得できたか?」と疑問に思っても、すぐに答えがわかります。「なぜ勝てたのか」を知りたければ、商談の記録から答えを引き出してくれます。全員が賢くなり、より好奇心を持てるようになりました。「Ask Ramp Research」は社内ツールですが、みなさんも作れると思いますよ。
マーケティング組織をCTO直下へ移したメリット
福山:AIのために作った新しいポジションはありますか?
Eric:少し話は逸れるんですが、実は過去1年間で最高の意思決定の一つが、マーケティング全体をCTO直下へ移したことなんですよね。結果、これまで以上に速く成長しています。
福山:なぜ、その体制が成長に寄与したのでしょう?
Eric:現代のマーケティングって、本質的に2つの課題を解こうとしているんです。
1つ目は、リーチしたい人々を理解すること。彼らは誰で、どのタイミングで、どんなメッセージを届けるべきなのか。すべてのツールがどう連携しているか。これは完全にビッグデータの領域です。
誰が何を見ているかわかったら、次は優れたクリエイティブを作れるかどうか。今やコンピュータがアート、音声、動画を作成でき、しかもどんどん上手くなっています。かつては職人技で深い専門知識が必要だったものが、今ではシステムを構築できるかどうかの話になってきているんです。
LLMの世界では、モデルはどのアーティストよりも芸術を知っています。どの弁護士よりも法律を、どの会計士よりも会計を知っています。適切なインフラさえ構築すれば、すべてがテクニカルな機能になっていくんです。
その点では、FDE(Forward Deployed Engineer)も良い例です。私たちのエンタープライズビジネスは既に数百億円規模で急速に成長していますが、顧客が購入しているのはプロダクトではないんです。カードでも、請求書支払いでも、調達でも、銀行口座でもない。彼らは「変革」を購入している。「何かがおかしい。経費を使いすぎている。会社が複雑すぎる。直してくれ」と言っているんです。
これまでは、多くのコンサルタントが高いコストで大企業に入り込んで売り込みをしていました。でも、今は違う。主にエンジニアがどんなサービスが提供されているかを理解し、顧客ごとにシステムを構築しています。さらに重要なのは、ソフトウェアではなく業務そのものを提供できることです。
経費をレビューしたり、カードをスワイプするたびにリアルタイムでポリシー準拠をチェックしたり、勘定科目の仕分けをしたり。確実に顧客自身が実施するより速く、より正確に。FDEの役割は、おそらく米国のテック業界で最も急成長している役割だと思います。
FDEを投入する「顧客の条件」
福山:RampにはFDEが何人いますか?
Eric:最も急成長しているチームで、今は50人くらいです。全員が元エンジニアです。あとは、「Solutions」と呼ばれる別チームもあり、こちらは従来のコンサルタント的な役割を担い、問題の全体像を理解します。一方、FDEについては、私たちは顧客に「私たちのエンジニアを、あなたのエンジニアだと思ってください」と伝えています。
彼らは顧客がずっと望んでいたシステムとの統合を構築し、すべてをつなぎ合わせる。Solutionsが定義した問題をFDEが解決するという流れです。
福山:彼らの主戦場は顧客のオフィスですか、それともリモート?
Eric:場合によります。でも、できるなら実際に赴くべきです。「顧客の重力圏」に入ると、1時間が10回の電話に相当しますからね。顧客がどう動いているかを学べるし、信頼も圧倒的に速く築けます。必須ではないですが、時間に対するリターンが何倍にもなります。
福山:SaaSは従来、エンタープライズ顧客向けの過度なカスタマイゼーションを避けてきましたよね。でもFDEは顧客ごとにカスタマイズしようとしている。その境界線はどこにあるのでしょうか。どうやってバランスを取っているのですか?
Eric:FDEを投入してコードの最後の10〜20%をカスタマイズする場合、私たちは顧客を慎重に選んでいます。非常に先進的で、世界がどこに向かっているかを体現しているような顧客です。
たとえば、Shopifyの構築方法は非常に先進的だと思います。AirbnbやStripeもそう。彼らが求めていたカスタマイゼーションは、その後ろにいる何千もの顧客が同じものを欲しがるだろうと思えるものでした。
私たちがやらないこと。それは、古い体質の企業のために過去に向けたカスタマイズをすることです。だから、このモデルで関与する相手は慎重に選ぶ。それが私の基本的な考え方です。
福山:FDEのプライシングはどのように設定していますか。
Eric:最終的には顧客のライフタイムバリューに帰結します。私たちの売り上げの大半は従量課金です。カードをスワイプするたび、請求書を送るたび、私たちは手数料を受け取ります。つまり、速くプロダクトを展開して、プロダクトがより多く使われるほど、私たちの売り上げも増える構造なんです。
導入までの時間を圧縮できれば、回収期間が早まります。回収が早ければ、成長により多く投資できます。使うプロダクトが増えるほど、リテンションが高まり、消費も増えるという強い相関関係があります。
だから、理論上は導入支援を無料で提供して、すべてのコストを負担しても採算が合うんです。顧客がより早くアクティブになれば、あとから従量課金で十分回収できますから。でも実際には、導入費用を満額支払うか、「通常は3万ドルかかりますが60日以内に完了すれば半額または全額免除します」という条件を出すとアクティベーションが格段に早まります。無料で提供する、お金を払って購入したもののほうが価値を感じ、組織の足並みを揃えるのに役立つんです。
「SaaS is Dead」は言い過ぎだが、モデルの再考は必須
福山:SaaSとの違いについて、もう一点。昨今は多くの人が「SaaS is Dead」と言っていますよね。個人的に同意していますか。
Eric:まだ死んでいない、というのが私の答えです。ただ、モデルを再考していないSaaSオペレーターは現実を見ていないと言えます。
地球上で最高のSaaS企業でさえ年間20〜30%の成長です。でも、AIネイティブ企業は100%、200%、500%、800%で成長している。この状況下で「もっと良い方法があるんじゃないか?」と疑問に思っていない人は……考えはじめるべきでしょう。
多くの顧客はバリュー・エクスチェンジを明確に理解したいと思っています。一般的に10〜30ドル払ったら100ドルくらいのバリューを求められます。顧客のインセンティブをより密接に一致させるためにも、従量課金やアウトカムベース、サクセスベースのプライシングを採用すべきです。最終的には「顧客のインセンティブをどう整合させるか」が重要です。
ソフトウェア開発コストがゼロになる世界で、差別化要因を持つには?
福山:今や、ものすごいスピードでソフトウェアを構築できるようになりました。この環境下で、マルチプロダクト戦略はさらに重要になるのでしょうか。
Eric:そう思います。シートやSoR(システム・オブ・レコード)を売っていた世界から、「仕事を売る」世界がやってきました。ワークフローやアクションのシステムを売るんです。仕事の現場に入り込むプロダクトになれば、企業のオペレーションについて学べますよね。その結果、かなり早い段階でコンパウンドスタートアップになれると思うんです。必須ではないですが、AIは、マルチプロダクト戦略と相性がいいんです。
福山:理論的には新しいスタートアップが、はるかに速くプロダクトを構築して競争相手になり得ます。Ericさんも「もっと速く動かないとまずいぞ」と怖くなったりしませんか。
Eric:もちろんです。だから日数を数え続けているんです。
これまでの世界では、自分がメガプラットフォームになれていさえすれば安全でした。他のシステムとの連携には長い時間がかかったし、データもロックインされていた。でも、ソフトウェアを構築するコストが急速にゼロに近づいている世界では、アイデアがあれば動作するアプリができる。連携が必要ならAIモデルが構築してくれます。
この変化に気づいていない人、「まだ時間がかかる」と思っている人は現実が見えていないと言えるでしょう。ソフトウェア開発のコストは限りなくゼロに近づいています。だから真の差別化ができているのか、価値を創造できているのかをしっかり考えなくてはいけないんです。
独占を生み出す要因としてよく挙げられるのが4つです。1つ目は開発したIPなどを含むテクノロジー。2つ目はブランド。LVMHだけがLVMH製品を販売できる、任天堂だけが任天堂製品を販売できるといったような。3つ目はネットワーク効果。4つ目は規模の経済です。
これらすべてがより重要になってきています。もし、あなたのビジネスに、これらのいずれかへの道筋がないなら今すぐ取り組むべきでしょう。この4つの要因以外で顧客を囲い込む方法はもう通用しなくなっていきますから。
福山:この変化によってRampの長期戦略も変えなくてはいけないと考えていますか?
Eric:はい、実際に影響しています。たとえば、請求書の支払いを自動化する「Bill Pay」はRampで最も急成長しているビジネスです。このプロダクトには本物のネットワーク効果がある。誰かが支払えば誰かが受け取る。両方が同じプラットフォーム上にいるわけです。
ソフトウェア開発コストがゼロになる世界で考えるべきは、「ネットワークの両側にいることの本当の優位性は何か」ということです。たとえ、完璧なAIがいても、支払う側と受け取る側の両方が同じプラットフォームを使っていれば、競合より速く安くサービスを提供できるかもしれません。こういった構造的な優位性がさらに重要になってくると思います。
既存の支出マネジメント系のプレイヤーが横から攻めてくることはあまり心配していません。私が心配しているのは、ガレージにいるたった2人のチームが1,000のAIエージェントを駆使して、まったく異なる戦略で一気に攻めてくることです。だからこそ、私たちもパラノイアになりますし、もっと速くデリバリーしなければと危機感を持っています。
重要なのはアウトプットではなく「インプット指標の管理」
福山:これだけ多くの指標やセグメント、プロダクトがあるなかで、Ericさんが「毎日必ずチェックするKPI」といえば?
Eric:期待する答えとは違うかもしれませんが、Rampの初期フェーズで社外取締役だったKeith Raboisから学んだ、最も重要な教訓をお伝えしましょう。それは、多くの企業がアウトプット指標ばかり管理しようとするが、本当はインプット指標を管理すべきだ、ということです。
たとえば、あなたがロサンゼルス・ドジャースの監督で練習初日にみんなが集まったとします。そこで「よし、ワールドシリーズ優勝に向けて練習するぞ」と言った。……何の意味もないですよね?
実際に彼らが実施するのは「今日はスプリントを走る、ウェイトトレーニングをする、打撃練習をする」という具体的なことです。こうした基礎的なことを実施して、上手くなっていく。そうすれば、結果は自ずとついてくる。ビジネスも非常に似ています。
よくあるのが「よし、今年は30%成長するぞ、もっと利益を出そう」みたいな言い方です。でも、エンジニアからすると「何をすれば?」となる。私たちが実施しているのは、まず達成したい成果を明確にして、その上流にある先行指標をすべて洗い出すことです。
営業の場合、「いくら売れたか」ではなく「今日何件のミーティングをしたか」を見ます。ミーティングはどれくらい効果的だったか?ピッチの質はどうか?もっとミーティングを獲得するには何が必要か?誰のピッチがうまくいっているか?……といったように。
エンジニアであれば、コードシフトのベロシティです。実際にどれだけのことを完了できているか?仕事をもう少し楽にするにはどうすればいいか?
全体のフレームワークとしては、日々のマネジメントではアウトプットのことは忘れるということが大事です。インプットに向けてマネジメントすればスコアは自ずとついてきます。
福山:見ているKPIは、初期、スケール期、現在といったように分けると、各ステージで変わってきましたか?
Eric:ライフサイクルとプロダクトの成熟度によって変わりますね。私たちは常に新しいプロダクト開発を進めており、エンジニアリングチームの大半はまだリリースされていないプロダクトに取り組んでいます。この段階ではPMFがテーマになることが多いです。
PMFが見えて、ユーザーが本当に気に入ってくれるようになったら次のステージです。10人が気に入ってくれるだけじゃなく100人、1,000人を見つけられるのか。それが繰り返しできるようになると、今度は「採算の取れるコストで実現できるのか?」という話になります。
大企業が忘れがちなのは、ここです。「このビジネスは年商10億ドルの見込みがある。それなのに、年商500万ドルの新プロダクトなんて気にする必要があるのか?」と言って投資をやめてしまう。もっと悪いのは年商500万ドルの事業に10億ドル事業と同じ重厚な体制を強いることです。弁護士、経理、ガバナンス......いわば「抗体」が新しいプロダクトの仕事を難しくして、育つ前に潰してしまうんです。
私たちは初期段階のプロダクトには、ガバナンスをできるだけ少なくしています。失敗してもいい。スピードと反復に集中します。チームも50人や100人にはせず5〜6人以内に抑えています。小さく制約してスピードを上げるんです。
アウトライヤーを見つけ、全員をそのレベルに引き上げる
福山:AIの進化を受けて、以前はあまり気にしていなかったけど今は注目している指標はありますか?
Eric:基本的には各部門でアウトライヤー(外れ値)を見るようにしています。「このタイプの人たちは何が違うのか?」「理解したらどう広げていくか?」というアプローチです。
トップダウンで「エンジニアリングでもっとAIを使おう」とルールを決めて、それなりの結果を出すこともできます。そうではなく、最もコードをリリースし、AIを使っている人を見て、何をしているのかを理解する。そのやり方を他の人に広げていくほうが効果的なんです。
たとえば、本番環境に残ったコードの行数を見ることで、他のエンジニアの3倍、4倍、5倍と生産性が高い人がわかります。その手法やフローを理解して、他のメンバーに教えていく。
カスタマーサポート、営業、デザイナーなど、部門によって違いますが、<yellow-highlight-half-bold>アウトライアーを見つけて全員をそのレベルに引き上げること<yellow-highlight-half-bold>を考えています。
福山:AIによってトップパフォーマーとボトムパフォーマーの差がはっきり見えるようになりましたよね。営業以外の部門でもトップパフォーマーには、より高い報酬を払っていますか?
Eric:そうですね。スポーツ界で起きていることが、あらゆる仕事で起こることの良いアナロジーです。
ロサンゼルス・ドジャースのたとえをもう一度使うなら……大谷翔平の年俸はクレイジーでしょうか?スポーツスターがかつてないほど稼いでいる世界で、彼はドジャースにとって最も利益を生む選手だと思うんです。これは仕事の世界でも起こるはずです。
OpenAIのトップ研究者、Metaのスーパーインテリジェンスチーム……年間3,000万ドルを生み出す営業が、実際に会社にとって他の人よりも効率的なら、年収500万ドルもらってもいいんじゃないでしょうか。成果の幅は今後さらに広がっていくでしょう。
システム構築に非常に長けている人がいるとします。従来の「手作業の世界」では自分の10本の指に制限されて、せいぜい5倍優秀だったかもしれません。でも、AIエージェントを使って自分と同じように仕事をさせられる世界では、それが50倍、100倍優秀になるかもしれない。格差はこれからもっと顕著になっていくと思いますよ。
完璧を求めすぎず、速く反復することが成功の鍵
福山:最後に、グローバルに進出したい、アメリカ市場で挑戦したいと考える日本のスタートアップCEOへのアドバイスをいただけますか。
Eric:まず、ここ数年、日本へ来るたびにスタートアップの活躍ぶりを見られて嬉しいです。そして、世界中を見渡してもこれほどクラフトマンシップを大切にして、完璧を追求する文化はほかに知りません。
人生で食べた最高の料理や、最も精巧に作られたプロダクトの多くが、この国で生まれています。そこでいつも疑問に思うのは「なぜ、日本からグローバルなスタートアップリーダーがもっと出てこないのだろう」ということ。これから出てくるとは思いますが……今まで、なぜ少なかったのか?
これは私なりの考えで的外れかもしれませんが、<yellow-highlight-half-bold>アメリカのスタートアップがうまくいく理由の一つは、不完全さを受け入れられること<yellow-highlight-half-bold>だと思います。ソフトウェア開発というのはバグを受け入れながら進む不完全なものなんです。完璧を求めるあまりに妥協できない文化が、日本の企業を制約しているのではないか、と思うことがあります。
またしても野球のたとえで話しましょう。打率3割でも殿堂入りレベル、史上最高のバッターの一人になれるんです。言い換えると、打席に立った70%の時間は失敗しているということです。ソフトウェア開発も似ています。「完璧とは何か」の仮説を持っていたとしても、70%の確率で間違っている。だから、小さな間違いを時間をかけて修正していくんです。
私がチームに伝えているのはとにかく速く反復することです。アメリカ式のスタートアップの作り方は速く、頻繁にローンチすること。4週間でローンチして失敗。8週間で失敗。12週間で失敗。16週間……ようやく突破口が開ける。4打席目でヒットを打れば、そこから加速できます。
一方で、スピードと品質のトレードオフがあると考えて、品質のために時間をかけようという企業もあります。でも、6ヶ月かけても間違っていたら、結局は時間を無駄にしたことになります。それなら何度も試して、速く正解にたどり着くほうがずっといいはずです。
日本ほど高品質なプロダクトを作れる人がいる国は、世界でも稀です。だからこそ、このバランスがうまく取れれば、企業はもっと速く、大きくなれると思いますよ。
福山:Ericさん、今日は来てくれて本当にありがとうございました!
(本記事は2025年10月27日に開催した「ALL STAR SAAS CONFERENCE 2025」のセッションから、オフレコ情報等を除いて抜粋・再構成したものです。記事中の在籍企業・肩書きはイベント当時のものです)



