小学生のころ、家業の税務申告を手伝いながら「原価の恐ろしさ」を知った少年は、プログラミングに出会い、ソフトウェアビジネスの可能性を直感した──その原体験が、後にビジョナルCTO、メドレーCHROを歴任した竹内真さんの「商売人」としての核心を形作っています。
自らを「エンジニアではなく商売人」と定義する竹内さんは、エンジニア組織の育て方についてもユニークな哲学を持っています。それは元部下たちの優秀さからも伝わってきます。「ビジネスに効果のあることが最も大事」という考えを、どう組織に浸透させてきたのか。
今回はALL STAR SAAS FUNDのマネージングパートナー・前田ヒロが、竹内さんのエンジニア哲学、CTOの定義、そしてAI時代の組織論について深く掘り下げました。「仕組みとムーブメント」「300人に1人のCTO」「昨日の戦友を今日涙を流しながら解雇できる経営者」といった、一見は過激な言葉の裏にある竹内さんの真意とは何か。
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「原価を憎む少年」がプログラミングに見たビジネスチャンス
前田ヒロ(以下、前田):突然ですが、竹内さんが初めてコードを書いたのは、いつ頃のことですか?
竹内 真(以下、竹内):小学5年生か6年生のころですね。雑誌の裏表紙の広告に出ていたような工作キットに夢中になって、親のハンコを勝手に使って申し込んで(苦笑)、怒られながらも取り組んでいました。
前田:工作キットから、どうやってプログラミングへつながったんですか?
竹内:最初はトランジスタや抵抗を組み合わせるシンプルな電子工作だったんです。でも「こうしたら、こう動く」と仕組みを学んでいくうちに、だんだん難しいものを作るようになって。そこで「ICチップ」と出会うんです。ICチップには回路が埋め込まれていますが、中で何が起きているのかわからない。このシンプルなブラックボックスがわからずモヤモヤしはじめた。
どうやらソフトウェアでプログラミングして焼き付けると、複雑な処理を一つの回路に詰め込められる、ということがわかりました。そこから「どうやって勉強したらいいのか」を探していたら、たまたま古本屋である漫画を見つけたんです。実は僕たち世代のCTOやテクノロジーのリーダーにとってのバイブル的な漫画があってですね。
前田:え、そんな漫画があるんですか?
竹内:1982年に発行された『こんにちはマイコン』という漫画で、BASICというプログラミング言語も教えてくれるニッチな漫画なんですが。ここで「こんなふうに『ドラゴンクエスト』もできているんだ」と学ぶわけですね。当時、自宅にコンピュータはなかったんですが、年上のいとこの家にパソコンが一台あって。そこに入り浸ってコードを書きはじめたのが小学6年生ごろです。
前田:小学生でコードを書き、実際にプログラムが動いた快感を体験してから、ずっとエンジニアに一途という感じですか。
竹内:そうなんですよね。ただ、プログラミングにのめり込んだのにはもう一つ理由があって。実家が飲食店を営んでいて、小学3年生か4年生から家の税務申告を僕が担当していたんです。算数が得意だからという理由で(笑)。売上とコストと利益を見て、「こんなに原価がかかり、こんなに儲からないことをやっているのか」と子供心ながら気づいたんです。
前田:すごいですね。小学生でそこまで……。
竹内:それでプログラミングの勉強をはじめたときに、ゲームって結局「コードを焼き付けた基板をプラスチックで覆っているだけ」だとわかったわけです。素材としては高くない。ほとんどはソフトウェアの価値で売られている。つまり、原価がほとんどかからずにお金を稼げるツールであると。原価を憎んでいた身からすると(笑)、これはすごい、と。自分でもお金を稼げるかもしれない、と思ったんです。プログラミングも楽しかったですしね。
前田:ちょっとビジネスセンスがありすぎじゃないですか(笑)。
竹内:いや、家業の影響が大きいですよ。それ以降は「これだ!」と決めて、ずっとこの道を歩んでいます。高校のとき一度、数学にどっぷりハマって「数学者になりたいかも」と血迷った時期があったんですが、どうやら絶対に儲からないと気づきまして。「お金を稼がねばならぬ」と考え直し、ソフトウェアの世界へ戻りました。
商売人のマインドセットはチームにも必要か
前田:竹内さんはご自身のことを「エンジニアではなく商売人」とおっしゃっています。それも、やはり「原価を憎んだ」ような家業の経験からきているのでしょうか。
竹内:そうですね。原価がかからないビジネスへの憧れと、家業への問題意識がベースにあると思います。こんなに頑張っていても、こんなに儲からないというのは、子どもながらに「良くないことである」と感じていました。家業でお金が儲からないと家族も殺伐としていくし、日々の売上で一喜一憂するわけです。だから、利益がちゃんと大きく残っていくビジネスを営むことこそが、幸せの第一歩だという感覚が強く刷り込まれています。
コンピュータサイエンスへの興味と、ビジネス的な確信が全部ミックスされて、「プログラミングを使ってビジネスをやっていくこと」に幸せなイメージを持てた。だから、エンジニアやCTOとしてキャリアを歩んでいても、根底にはものづくりへの好奇心はあるものの、それ以上にビジネスが先にあります。仮に作らずとも同じだけ稼げるなら、そのほうがコストがかからない。「まずビジネスがあり、そのうえでエンジニアである」という感覚ですね。
前田:商売人のマインドセットは、周りのメンバーにも持ってもらうべきだと思いますか?
竹内:持てるに越したことはないですが、難しい面もあります。スペシャリストになればなるほど、個々の世界にどっぷりはまっていくじゃないですか。人事の観点で言えば、良い人を採用しなければとか、より良い研修を作らなければとか、そういう発想になりやすい。
でも究極を言えば、人がいなくても儲かったほうがいいかもしれない。「自分の職能がそもそも存在しないほうが価値が高い」という考え方は、職能を持った人が信じたくないことではあってもビジネスの真理として存在するわけです。原理主義的ではありますが。
前田:なるほど。そのギャップを理解できる人と、できない人がいるということですね。
竹内:そうです。ただ、スペシャリティを追い求めるあまり、「ビジネスが成功する方向」と「自分が走っている方向」が大きくずれている、あるいは逆を向いてしまっている、という瞬間も出てくると思うんです。
そうならない程度にはビジネスのことを理解しながら動いていたほうが、時代の変化がより激しくなっていくなかでも、大きな潮流に間違わずに乗り込めるのではないでしょうか。
ただ、その感覚は、みんながみんな持てるものでもないとも考えます。「自分がやっていることの正しさ」と「ビジネスの正しさ」は、往々にして違う方を向くことがある。それは「2つの宗教を自分の体の中に入れておく」ような感覚に近く、正しさが同時に存在するという状態は非常に難しい。だから、できる人にはそういう話をしますが、できない人にはあえて強制しないようにしています。混乱するだけなので。
マネジメントスタイルとしては、ポテンシャルが高くリードしていけると感じた人には、必ずどこかでこういった話を伝えるようにしていました。
良いCTOの条件と「300人に1人」の現実にどう立ち向かう?
前田:「2つの宗教を自分の体の中に入れておく」ような感覚は良いCTOには必須の要素なのでしょうか。竹内さんの中で「良いCTOの定義」はありますか?
竹内:CxOはそもそも経営メンバーの一員ですから、財務諸表や市場への軸足をぶらさないことが前提であるべきだと思います。テクノロジーへのこだわりによって、ビジネスとしての成長を蔑ろにするような選択肢は取ってはいけない。ただ、現実にできているCTOは、今でもそこまで多くはないですね。業界全体で見ても2〜3割ほどではないでしょうか。
前田:スタートアップを支援していると、経営者がCTO採用において「技術力・マネジメント力・ビジネス感覚の3つをすべて求める」とよく聞きます。これは求めすぎですか?
竹内:いえ、そうあるべきだとは思いますけどね。CFOだって数字とマーケットを理解しながら部下のマネジメントもできなければならない。CTOも根本的には同じです。
ただ、日本の歴史的に見ると、「作る」と「売る」を分離したほうがうまくいく会社が多かった。作り手として優秀になればなるほど、「売る」や「稼ぐ」とは異なるものを大切にしはじめる。
前田:作るものに対するこだわりも一層増しそうですね。
竹内:あまり良いものを作りすぎると、その価値を理解できるお客さまがそれほど多くなくなっていくという現実もありますね。ある程度の良いものを、ある程度まで抑えられた価格で提供できることのほうがベストだと思うんです。作り手がディープになっていくほど、時にコストを度外視して、凄まじいものを作り出していく。
もちろんそれに価値が無いというわけではないです。ただ、そういった例を考えても、ビジネスに軸足を置きながらも作り手として大切にするところは無くさない、言わば「エゴみたいなもの」を持ち合わせながらうまく判断できるようになることは、やはり難しい。製造業の歴史的な歩みを見ていても感じるところですね。
ご質問に帰ると、「技術力・マネジメント力・ビジネス感覚」を高次元で備えたCTOは、採用したいと思えるエンジニアのなかでも300人に1人くらいではないでしょうか。僕は要求しないようにはしています。
前田:そんなに珍しいのですね......。では、CTOにおいては「技術力・マネジメント力・ビジネス感覚」のどれを起点にすべきだと考えますか。
竹内:「技術力」です。作り手の世界は、どの業界でも職人的な階層構造を生みやすい。現代的なマネジメント構造に移行していく必要はあっても、源流としての職人階級は色濃く残ります。ですから、作り手として優秀でなければ、良い作り手を採用することもできない。
AIの進化によってプロトタイピングは確かに簡単になってきています。MVPをさっと作り出し、体感を得て、改善していくスタートラインに立つことは容易になった。しかし、100万人のユーザーが押し寄せ、1億レコードのデータが飛び交うような規模になったとき、パフォーマンスをチューニングするためにどこに当たりをつけるか。大きくなったときに何が危険になるか、何をモニタリングすべきか。
AIに聞けばある程度はわかるかもしれませんが、「ここが問題になる」というトリガーポイントを把握していなければ、そもそも見過ごしてしまいます。大きなビジネスを運営していくうえでは、プロダクト全体のパフォーマンスを問題なく維持する、いわば「運用」の高度版とも言える仕事は、熟練したエンジニアをある程度揃えていないと、プロダクトのダウンや競合からの逆転を招くことは十分に想定できます。
現状の生成AIの進化と、使い手側のリテラシーを踏まえると、そうした人材はビジネスをするうえでまだ多く必要です。だからこそ、技術のトップには腕がなければ難しいのです。
「ビジネスのわかるエンジニア集団」の育て方
前田:竹内さんの元部下の方々とお会いしたことが何度かあり、非常に優秀だと感じた印象が多かったんです。これは育成方針にあるのか、それとも人の選び方なのでしょうか?
竹内:前田さんがお会いしたようなエンジニアたちは、おそらく新卒で僕が採用したメンバーが多いのではないかと思います。特に新卒だと、僕のやり方が「一つの正しさ」として刷り込まれ育っていきますよね。その方針が、その印象につながったのかもしれませんね。
ビズリーチの新卒エンジニアを例に挙げるなら、「ビジネスを理解できるエンジニアでなくてはならず、ビジネスに効果のあることを手掛けていくことが、ビズリーチのエンジニアとして最も大事である」と折に触れて伝えてきました。また、コミュニケーションも非常に重視していました。ビジネスの課題を引き出すためには話せなければなりませんから。
「良いものを作れたらいい」という、エンジニアとしてのエゴが過半数を超えているようなメンバーは、あまりいなかったはずです。
前田:コミュニケーション力の高いエンジニアって、希少性が高いですよね。
竹内:そうですね。ときに、エンジニアリングっぽく説明することもありました。「何かをアウトプットするとき、新しいインプットがなければアウトプットの質は変わらない。自分というプログラムに情報が足りなければ、クオリティは上がらない。だから、小さな情報だけで判断せず、コミュニケーションを通じてインプットを増やしなさい」という感じです。これを自分で気づける人は放っておきますが、気づけない人にはそういう話をしていましたね。
前田:面白いですね。1on1はどんな感じで行っていましたか?
竹内:実は、1on1ってあまりやってないんですよね。30分や1時間を固定でブロックするのは生産性が悪いと感じていて。大事なときはもちろんやりますが、日常的にはできるだけオフィスを歩き回って、顔色を見ながらちょいちょい声をかけるスタイルでした。
前田:オフィスを歩き回って、その場でフィードバックするんですね。
竹内:リモートではないことが前提ですけどね。うろうろして顔色を見ながら、「どうしたの?これに悩んでるの?それなら、あの人に聞いたほうが早いよ」みたいな。何かに迷っているなら「判断するための情報はもらっているの?今、聞きに行ったほうがいいよ」とか。
止まっている人にはヒントになることを言い、うまく進んでいる人にも「すごいいっぱいコード書いてるね」なんて声をかけて状況を確認する。1時間歩けば10人、20人と話せますから。元部下の方に聞いていただけると、「フラフラ歩いて話しかけてくる人」というイメージがあると思います(笑)。
エンジニアの年収に天井がある理由を、ロジカルに伝える
前田:部下への具体的なアドバイスとして、よく伝えていたことはありましたか?
竹内:若いメンバーには「一人前のプレイヤーになりなさい」という基本的な話。その先に行く人たちには、もう少し踏み込んだことを話していました。
「作り手は、物を作るために必要なコストだと会社から見られている。だから、ビジネスとして正しい選択は、すごく安く仕入れ、すごく高く売ることなのだから、作る人にかけるコストをできるだけ抑えることになる。どれだけ能力が上がり、アウトプットが2倍や3倍になっても、年収が同じように2倍や3倍になるわけではない。なぜなら、経営はそういうふうには動いていないから」といった話です。
作るという能力を極めても、どこまでいっても相対的な評価が指標になるわけです。要は、「この人に作ってもらうためには、対外的に考えてもこれくらいの給与は出さないといけない」と相対評価で比べられる。もし、その相対評価が3,000万円でアッパーとなっていたら、それ以上に上げるのは至難の技になっていく。
前田:厳しいですね。
竹内:でも、エンジニアはロジカルなので、ちゃんと説明すると納得するんですよ。「そうだよな。作らなくて同じだけ儲かるならその方がいい」と(笑)。エンジニアとしてのロードマップの先に行き止まりがある。では、どうすればもっと年収を上げられるか。
そのためには「あなたを採用したことで、100億円だったビジネスが130億円になった、と言える状態にすることが重要。その利益の一部を分けてほしいと言えるレベルなら通るかもしれない。作る能力は携えていたほうがいいけれども、ビジネスの課題を見つけ、コンパクトにそれをうまく解決する手段を見つけ、自分の力で一足飛びに実装できることができたとしたら、あなたの価値はビジネスマンとしての対価に変わる」という話をしていました。
つまり、エンジニアの価値を上げようと思うなら、どこまでいってもいずれビジネスに軸足を置くタイミングが来ますよ、というメッセージです。それらをすべてひっくるめて、「ビジネスのわかるエンジニア集団であろう」と話をしてきました。
作り手と売り手が背中合わせで戦う、「仕組みとムーブメント」のある組織
前田:竹内さんが過去のインタビューで話されていた名言に「仕組みだけでは人は動かない」があります。エンジニア集団に伝えるべきムーブメントや思いとは、どういうものでしょうか。
竹内:ビズリーチでは南(壮一郎)とよく「仕組みとムーブメント」という話をしていましたね。
仕組みは時計のようなもので、それ自体があっても、ぜんまいや電池などの動力がなければ何も回りません。流しそうめんの機械があっても、水とそうめんが流れてこなければ意味がないように。
エンジニアリング側の人間は「良いプロダクトを作れば儲かる」という発想に陥りやすい。でも、お客さまを連れてくるマーケティングや営業という「ムーブメント」があって初めて仕組みは回る。「営業が使えない」なんて発想は仕組み側にどっぷり浸かっている作り手が陥りやすい罠で、実際は自分たちが不得意なムーブメントを彼らが担ってくれている。だから背中合わせで戦っている仲間だ、という考え方をカルチャーとして大切にしていました。
前田:仕組みとムーブメントを対等に置く、ということですね。
竹内:そのためには、営業やマーケティング、あるいは採用に予算をしっかり割くことの意味を、作り手側の人間がちゃんと理解している必要があります。意思決定が反発されないためのフレームワークとして、それを組織設計のなかにしっかり組み込んでいましたね。
AI時代に広がる「奥行きを取れることの差」
前田:AI時代になって、竹内さんの身の回りで変わったことはありますか?CTOのコンテクストなのか、竹内さん自身のコンテクストでも構いません。
竹内:正直に言うと、個人的にはやる気をなくす部分があります(苦笑)。
「生産する」という工程において、何かに手をつけても1ヶ月後に追い越されるかもしれないという虚無感がある。生成AIを全力で使って何かをはじめることに、少し怖さがある。バックドアのようなツールがなかった時代は、早く手がけて早く作り込んだほうが積み上がる世界線でした。ところが今はそうとも言えない。
プロトタイピングはするものの、その先にある「奥行き」を取りにいくときに一抹の躊躇があります。生成AIを全力で使って本格的なビジネスを立ち上げることに、少し怖さがある。「早くやったほうが勝ち」だったはずが、「今すべきなのか?」という感覚を持ちがちになると言いますか。
ただ、そう言い続けていたら永遠に動けないので、あと2年くらいのどこかで決着をつけなければと思っています。今は様々な企業のお手伝いをするなかで、AIの使い方や作り方を幅広く見て、面白いことを知っていく期間として活用しているところです。
複数の会社を見ていると「これをやればいいのに」と感じることもあれば、「こうやってAIを使うのはすごい」と感じることもある。20年前にはIT企業と非IT企業の間にITリテラシーの差がありましたが、今はIT企業同士でAIリテラシーの差が途方もなく開いています。
前田:わかります。その開きがどんどん大きくなっている感覚は、私も持っています。
竹内:表面を触るだけで結果につながっていない人たちと、一点突破で「奥行き」まで取って「これはビジネスになる」というレベルに到達している人たちの差が、急速に広がっています。「奥行き」を取っている人たちの強さは本当にすごい。ここ1〜2年で猛烈な差がつくと感じていましたが、すでに驚愕するほどの開きが生まれはじめていますね。
前田:早くから取り組んでいるのはどういう方が多いですか?
竹内:プロダクトやエンジニアリングの思考回路を持った経営者が早いですね。たとえば、AIファーストで仕組みに人間を合わせればいいじゃない、という考え方ができる人。ある種の原理主義的ではあるけれど、でも正しいとも思うんです。おそらくアメリカでは、もともとそういった組織設計が当たり前でしょうから。
2人がAIを活用して残り8人の仕事を全部奪え
前田:組織設計にも大きな変化は生まれていくでしょうか。
竹内:日本ではメンバーシップ型雇用で和を重んじてきた会社と、そうでない会社の差が、AIの導入速度に如実に表れています。10人のチームにAIを入れていくとき、本当に必要な10人分の仕事があるか、という問いを自分に課せるか否か。
僕自身は「本当に必要な10人分の仕事があること」に懐疑的な立場です。むしろ、10人のチームがいるから10人分に必要な仕事を開発したのではないか、と。
前田:イーロン・マスクがTwitter買収後に人員削減をしたケースが思い出されますね。
竹内:確かにいろいろ問題はあったけれど、今もXは運営されていますから。本当に必要なものに限定してみると、それだけの人数はおそらく不要なのです。「クオリティを99%から100%へ近づけるようなこと」をやっていたりするかもしれませんが、「本当に必要か?」と問われれば、実際には無くても構わないかもしれない。
僕としては、10人の組織なら2人と8人に分けて、「この2人がAIを活用して残り8人の仕事を全部奪え」というやり方をするでしょう。10人全員でAI化を進めようとすると、できない理由をディテールで持ち出して、なかなか前に進まない。あるいは、10人で10人をAI化しても、また新しい仕事を生むだけでしょう。でも2人に任せれば、さっぱりいける。
ただ、このやり方を選ぶ経営者は、より原理主義的な方になるでしょう。日本的メンバーシップの和を重んじる経営者は「残りの8人はどう思うか」という発想になってしまう。あるいは、和が無くなることにリスクを感じてしまい、なかなか踏み切れない。
前田:足枷になりますよね、確かに。
竹内:ビズリーチはカルチャーとして和を重んじることを意識してきました。ただ、それは自分たちの精神性の核にまで浸透しているというより、あくまでテクニックとして活用していた部分が大きい。僕も原理主義的な部分がありますし、南も金融出身なので、状況に応じて方向転換はできるはずです。
そんなふうにテクニックとして和を活用できている人たちは問題ないでしょうが、それを自分自身の本質と勘違いして経営してうまくいってきた方々は、今後厳しい状況になっていそうです。
前田:「仕事を奪う小さいチームを作る」という発想、面白いですね。
竹内:インターネット系スタートアップが10〜20年前に感じていたジレンマとも似ていますよね。当時は、社内で破壊的な行動ができるかどうかが重要だった。現状を変えなければならないとわかっていても、外からベンチャーが破壊的なアプローチで攻めてきても、その流れに乗れない。理由はわかっているのに動けない、という……。
ただ、AIによるコスト改善という文脈であれば、社内の複数人チームから1〜2人を切り出して、チーム内競合として戦わせるだけで実現できます。以前のような大掛かりな構造変革と比べると、はるかにシンプル。目的は既存メンバーを排除することではなく、ルーティン業務をAIに任せることで、人員をより売上や利益に直結するマーケティングやフロントセールスなどへ振り向けることです。
たとえば、判別業務を担うチームであれば、AIが90%を処理して残り10%のイレギュラーを人間が対応するだけで、コストを大幅に圧縮できます。そこに多くの人員を張り続けるよりも、その分を前線へ回したほうが、明らかに良い結果につながるはずですから。
「昨日の戦友を今日涙を流しながら解雇できる」経営者になれ
前田:最後に、CxOや経営者の方々に向けてアドバイスをいただけますか?特に「ここは早く手をつけたほうがいい」とか、「無視すると遠回りになってしまう」とかいったことがあれば、ぜひ教えてください。
竹内:二面性を持って経営できる人が、もっと増えるといいと思っています。人に対して和を持ち、トラストとリスペクトを抱いて向き合うという側面と、生成AIが台頭するなかで「ほとんど人はいらない」という原理的な判断ができるという側面。プロセスとしては和を重んじながら、結果へのアプローチはドライに。
ひどい言い方になりますが、「昨日の戦友を、今日涙を流しながら解雇通知する」ということを毎日できる精神状態で突っ走れる経営者になってほしいですね。
前田:めちゃくちゃパワフルなメッセージです。
竹内:そうじゃないと、これから勝てないですよ、おそらく。冷徹な判断ができるのは、それだけで強い。ただ、それだけでは弱いので、仁義に厚い仮面をかぶれることも大切です。血と汗と涙をかみしめながら、冷徹に判断し続ける。それが本質だと思っています。
たとえば、Anthropicはタイトすぎるほどにその要素を感じます。あの会社を凌駕するのはなかなか難しい。サービスやプロダクトというよりも、人として、考え方として、ですね。滲み出てくるものだけを捉えても、感心させられますから。
前田:確かに、冷徹な判断をする経営者ほど競争相手として厄介な人はいませんからね。今日は本当に良いメッセージをありがとうございました。竹内さんが踏み出されるという2〜3年後の新しい取り組みも楽しみにしています!
竹内:ありがとうございます。面白いビジネスをフルコミットで立ち上げたいと考えています。儲かるなと感じたら、ぜひみなさん投資してください。
前田:殺到しそうですから、一人の投資家としては隠してほしかった(笑)。竹内さんの新しいビジネスが本当に楽しみです!
(この収録は、2026年4月22日に実施しました)



