今、AI導入に取り組む企業は枚挙にいとまがないほど。業務効率化プロジェクトを立ち上げ、全社展開ツールを導入し、AIオペレーション専任チームを持つ企業も増えています。それでも「業務が2倍速くなった」「人員を半分にできた」という話はなかなか聞こえてきません。
「AI面接官」などHRテック領域でプロダクトを開発・提供するVARIETASは、現在10名弱の組織ながら全国規模のクライアントを支援しています。従業員一人当たりの生産性は「大手上場SaaS企業の平均(2,000〜3,000万円前後)と比較しても一般的な水準を遥かに凌駕するレベル」に達するといいます。
なぜ、それが可能なのか。答えの一つが「経営OSの再設計」と呼ぶ取り組みにあります。ツールの導入で解決できる問題と、そうでない問題を明確に区別し、組織全体をシステムとして再設計していくアプローチです。
今回「AI探求ラボ」シリーズの一環として、同社のChief of Staffの久保拓也さんにその取り組みを伺いました。AIが急速に進化し、決定的な答えのないこの時代に、一つの組織がどう向き合い、試行錯誤しているかのヒントになるでしょう。
AIが下げた2つのコスト、変わらない2つのコスト
久保拓也:最初に問いを立てさせてください。「AI時代のはずが組織の意思決定や戦略推進のスピードが上がらない」という課題、皆さんの社内で議論したことはありませんか。
AIを導入し、ツールを全社展開し、業務効率化プロジェクトを走らせている企業は多い。しかし、組織が劇的に変わったという実感が生まれていない。シリコンバレーではエンジニアをレイオフするような話を聞くが国内では進んでいないのはなぜか……。
そういった問いが、今日お伝えしたいテーマの出発点です。
私たちVARIETASは、現在10名弱の組織で全国規模のクライアントを支援しています。従業員一人当たりの生産性は、2,000〜3,000万円前後といわれる大手上場SaaSの平均と比較しても一般的な水準を遥かに凌駕するレベルに達しています。それを可能にする答えの一つが「経営OS(組織OS)の再設計」というコンセプトです。
一点お伝えしておきたいのは、「10名規模のシードだから」という目線で捉えると、今日の話の本質からずれてしまうということです。人数規模ではなく、事業規模が大きいという前提のもとで、なぜその生産性が実現できるのかという問いとして聞いていただきたい。今回紹介するコンセプトは、数十名や数百名の組織にも当てはまるものだと考えています。ぜひ、自社であればどう活用できるか、という目線でお聞きいただければと思います。
前提として、組織運営には4つのコストがあると考えています。「情報処理コスト」「実行コスト」「調整コスト」「承認コスト」の4つです。
1.情報処理コスト:調べる・分析する・検索する・まとめるといった行為のコスト
2.実行コスト:作る・動かす・届けるといった決めたことを形にする行為のコスト
3.調整コスト:部署間の調整など、複数の主体の方向を揃えるコスト
4.承認コスト:個人の判断を「組織として」認めていくコスト
AIは「情報処理コスト」と「実行コスト」を劇的に引き下げました。市場調査や競合分析が数分でできる。コードを書く、提案書を作るといった行為のコストも大幅に下がっています。これは多くの個人がすでに実感していることではないでしょうか。
一方で、変わっていないのが「調整コスト」と「承認コスト」です。
調整コストについて言うと、AIが高速でドキュメントを作り、選択肢を増やしてくれるいま、むしろ合意形成のコストは上がっている傾向があります。情報が増えた分、「何をやらないか」を決めることの重要性が増しています。根拠となる哲学や原則がなければ、無数の選択肢を一つひとつ議論し続けることになってしまいます。
調整コストはそもそも、情報が少なく、各領域のプロフェッショナルがそれぞれの知識を持ち寄って集まり、合意形成や意思決定をするために支払われていたコストでした。しかし今は、情報収集のレイヤーが爆発的に拡張したことで選択肢は無限にあります。一瞬で無数の選択肢を提示されるなかで、一つひとつ議論し続けることは時間の無駄でしかありません。そもそもの根拠や哲学、原則が明確であれば、考える必要のない判断が増えていく。AI時代の調整コストはそういう使い方で考えなければならないと思っています。
承認コストも同様です。個人の判断を階層構造で縦方向に承認していく仕組みは、今も大きく変わっていない企業が多い。個人・チームのアウトプットを組織のアウトプットに変えるという組織設計の問題であって、ツールを導入すれば解決するものではありません。
ブレーキが軽自動車のまま、300馬力のエンジンを積んでいる
そもそも組織の存在意義を改めて考えてみると、階層を作ること、レベニュー組織でもマーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスと機能を分けることは、人間の認知負荷に限界があるからです。ある単位やKPIに特化した組織を作ることで、業務効率・コスト効率・資本効率を高めるためにやっていたことでした。
AIによって情報処理コストが大幅に下がり、実行コストも下がってスピードが速くなった。しかし、そのために作られた組織の箱自体は何ら変わらずそのまま残っています。この状態が、今の時代に合っているとは言い切れないのではないかと思っています。

そこで私たちが考えているのが、「組織のハーネス(制御具)」という概念です。AIが巨大な馬力だとしたとき、その馬力を組織のハーネスがどうコントロールするかが重要です。
仮にAIが300馬力のエンジンだとしたとき、ブレーキとステアリングが軽自動車のままであれば、スピードを正しく活かせませんし、曲がりきれない。そういう状態が多くの組織で起きているのではないかと考えています。
このハーネスは、企業のカルチャーやアイデンティティから生まれ、制度設計として機能します。AIを入れたのに速くならないのは、組織設計がAIの馬力に対応していないからです。そこで私たちVARIETASが真剣に取り組んでいるのが「経営/組織OSの再設計」です。
「ワークフロー代替」と「インテンシティ」の2軸で捉える
AIネイティブ組織を語るとき、「AIの組み込みレベル」が議論されることが多いでしょう。
日本国内では、LayerXさんが提示したワークフロー自動化や、MicrosoftにおけるAgentic AIの成熟度モデルなど、参考になる整理はいくつかあります。
「AIの組み込みレベル」として考えると、次のような段階が考えられます。

- レベル100:計画なしで個人依存でやっている状態
- レベル200:一部タスクで活用されている状態
- レベル300:ガバナンスと標準化がされており、ワークフローにもエージェントが標準で組み込まれている状態
- レベル400:レベル300を複数のシステム横断でオーケストレーションしているような状態
- レベル500:エージェントファーストな組織で設計されており、自己組織化や自己最適化が勝手に進んでいく状態
ただ、このモデルには2つの欠陥があると感じています。一つは「レベル200の企業がレベル400に到達する設計図がない」こと。もう一つは「AIの進化に対して人間がどう変わるべきか」が定義されていないことです。AIモデルは半年ごとに飛躍的に成長しています。人間がその進化の速度にどうアジャストするのかという問いが、抜け落ちています。
そこで私たちが考えているのが、2つの軸です。横軸が「ワークフロー代替(リプレイスメント)」として、既存の業務をAIがどこまで担えるか。縦軸が「インテンシティ」で、AIが存在する世界で「人間はどこまで実力を発揮できるのか」というインテンシティの基準を引き上げられるのか。

多くの企業は、インテンシティをそれほど変えないまま、既存業務をAIで代替することに取り組んでいます。しかし、インテンシティを考慮すると議論の射程がまったく変わってきます。
インテンシティを上げることが、AIネイティブ化の本質
インテンシティをシンプルに言うと「仕事の基準」です。基準が低いままAIに任せても、得られる成果はたかが知れています。人間の基準をAIを前提として引き上げることで、ワークフローの代替も高い水準で機能するようになる、といった考え方です。
少し具体的な話をしましょう。私たちはAI面接サービスを提供していますが、お客さまへの提供時には統計的な正確性の担保が不可欠です。人とAIの評価基準の相関係数を算出し、統計的に正しい意思決定が行われているかを証明しなくてはなりません。
以前であれば、専門チームが時間をかけて行うような作業です。今は、AIを活用して3兆パターンの統計分析を一夜で実行、ユースケースとして定義し、汎用可能なモデルまで作り込んでお客さまに提供しています。
これが「インテンシティが上がる」という事例です。AIがある前提で人間の思考や体力を限界まで突き詰めることで、従来の専門チームでなければ到達できなかったアウトプットやアウトカムが、個人レベルで実現できるようになります。
インテンシティがなぜ見落とされやすいかというと、ワークフロー代替はROI(投資対効果)が測定しやすいからです。「人が費やしていた時間をAIで代替できる」という計算は直感的で、稟議も通りやすい。一方で、インテンシティは「質的な変化」なので、数字では見えにくい。ただ、インテンシティを前提にしなければ、AIの導入は単なる業務の機械化にとどまります。組織のハーネスが本当の意味で機能していない状態です。
カスケード断絶を防ぐ、経営OS「9つの要素」
自社にAIを組み込んだときに、どういった到達地点を目指すのか。それを決めながら設計をしていかなければなりません。自社のケイパビリティ、ビジョン、バリューといった制約条件下で、いかにAIを組み込んでインテンシティを高め、ワークフローを刷新するか。それを決めることが大切です。
この設計時に、よく「OS」という言葉が使われます。言い換えると「経営OS」の再設計が必要なのです。私たちは経営OSの構造を「9つの要素」に分けて整理しています。「我々は何者か」「どう勝つのか」「何を信じているのか」「何を基準に判断するのか」といった問いに対応する要素群です。
重要なのは、これらの要素がカスケード(※滝のように上位から下位へ流れる)構造になっていることです。アイデンティティが決まることで戦略の方向性が決まり、哲学が判断基準を与えて行動規範を生む。ケイパビリティが能力要件を定義し、そこから組織とカルチャーが作られ、最終的に戦術と実行に落ちていきます。このカスケードのどこかが途切れれば、組織の意思決定は遅くなります。

VARIETASは「社会構造を再定義する」というパーパスを持っています。「市場の完全支配」からなるアイデンティティもあり、それらが市場の要請と接続されます。たとえば、市場や社会を変えるにはボトムからでは難しいため、「超大手企業」のレイヤーをまず顧客に据える戦略をとっているのです。
私たちの場合、上位5層を相互に影響し合う「密結合層」として整理し、下位3層の行動レイヤーは「高速更新層」と決め、「密結合層」と「高速更新層」をつなぐ役割にカルチャーを据えて「常時同期」を図るという構図にしています。

なぜそうしているのか。AIプロダクトを開発している私たちにとって、AIモデルの変化は週次レベルで起きています。だから、四半期や半年単位の戦術サイクルで考えていると、どんどんズレていく。理想は、毎日物事を変えられる状態です。
その一方で、私たちが扱うHRドメインは「採用・労務・制度企画」という従来分かれていた機能がAIで統合されていくことが必然な領域です。この統合テーマが、組織の上位レイヤーに対して「密結合」を要求しています。
「密結合」はスピードを落とします。すべての情報を常に同期しなければならないからです。足元は高速で変えなければいけないのに、上位層の同期コストが高い……この構造的なジレンマをどう解くか、というのが私たちの現在進行形の問いです。
ただ、密結合には同期コストが下がる側面もあります。常に上位層で同期しているため、細かな意思決定がズレにくくなる。抽象レイヤーが揃っているほど、足元の変化は受け入れやすくなる。コストを分散している、という感覚です。
VARIETASの経営OSはどのように働いているのか
経営OSの実践について、私たちの事例を3つ挙げてみます。どのように駆動しているのか、という具体例として捉えていただければと思います。
事例1:日次で戦術を更新するためのチェックイン・チェックアウト
1つ目が「日次での戦術更新」です。「戦術を毎日変える」というのは文字通りの話で、月曜に立てた計画を火曜に全面破棄することもあります。「昨日までに積み上げた新しい能力」や「新しいお客さまへの対応」といった観点をベースに、今日の動き方を変えていく。モデルや環境の変化に対応するために、覚悟を持って進めています。
日常的な仕組みとして、私たちはAIエージェントとの「チェックイン」で1日をスタートさせます。AIにチェックインを告げると「おはようございます。あなたが今日解く試練は何ですか?」と問われます。そこから議論し、「今日何に取り組むか」を毎日再設定するんです。昨日までの地続きではなく、今日の目標を白紙から設定するイメージです。全メンバーがこれをチェックイン・チェックアウトで回しています。

事例2:組織図より戦術が先に決まる
2つ目が「戦術の変化に合わせたリソースの再配置」です。通常の企業は組織図が先に決まり、それに対して戦術を当てはめていきます。私たちは逆で、戦術が先に決まり、それに合わせて組織構造や役割を変えていきます。今後重視するクライアントの変更はもとより、「昨日までプロダクトマネージャーをしていたが、今日から別のプロジェクトのプロジェクトマネージャーをお願いします」というアサイン変更を、毎日のレベルで行なっています。
もちろん、そのような頻繁な変更にはオペレーション上の不具合が伴います。これに対して実施しているのが、変更前のシミュレーションです。市場環境・クライアントのフェーズ・メンバーのケイパビリティを入力した状態で、オペレーション変更が1ヶ月後にどういう結果をもたらすか、複数のシナリオで事前に検証します。

「このシナリオではKPI達成率が7割落ちる」といった結果が出れば、代替案を再度シミュレーションします。毎日のリソース変更とオペレーション変更に耐えられる組織として機能するための仕組みです。
事例3:「ビルダー」と「ドライバー」しかない
3つ目が「役割を溶かす」という話です。従来のジョブディスクリプション型の役割分担ではなく、AIが入った組織における職種の区分は「作り手(ビルダー)」と「進める人(ドライバー)」の2つしかないのではないかと考えています。役割が溶けることで、リソースの再配置がしやすくなり、一人ひとりのできることが広がっていきます。
私自身、お客さまへの営業にAIが生成したコードを持参して説明・実装まで対応することがあります。今回のプレゼン資料もPowerPointではなくHTMLで作成しています。このように、あらゆる生成物にレバレッジをかけているのです。誰かが作った生成物をすぐ次に活かしていく連鎖を作るには、職種を不必要に分けることが邪魔になります。
ここで挙げた3つの行動を支えるのは、あくまでAIとコワーク(協働)していることが前提になっています。加えて言うなら、僕らは一人が常時複数のClaudeなどとコワークしている状態をベースにしています。各社でそのようにClaudeやChat GPTを常時活用している方が一部いらっしゃるとは思いますが、VARIETASではそれを「全員がAIと常時協働している状態」を標準とする組織を目指しています。
また、3つの事例を紹介しましたが、これらを単独で真似しても、おそらく機能しないことでしょう。「戦術を毎日変える」だけを取り入れようとすれば、必ず破綻します。組織をシステム全体として捉え、「自分たちは何者で」「何は譲れないか」「何を高速で変えたいか」という設計があって初めて、これらの実践が成立するからです。
言い換えると、インテンシティとワークフロー代替のデザイン、組織OS全体の設計といった要素が揃って初めて、個々の実践が機能するということです。
VARIETASのワークフロー代替レベルは、ガバナンスと標準化が整い、ワークフローにエージェントが組み込まれた状態です。今後は複数のシステムを横断したオーケストレーションや、エージェントファーストな組織設計で自己組織化・自己最適化が推進されるといった、より高次のレベルを目指しています。
一方で、インテンシティの水準をかなり高く設定しているのが特徴だと思います。ツールだけ導入してもこの水準には到達できませんから、やはり全体の設計ありきといえます。
組織だけでなく、個人のOSアップデートも当然必要
最後に、少し個人的な話をします。私自身が、代表の木下隆太朗にSlackのDMを送って相談を持ちかけたときの話です。
私は今年3月にVARIETASに入社しました。入社初日、もともとオファーをもらっていたミッションが初日の朝10時の時点ですでに変わっていました。そして当日の夜20時には、そのミッションもまた変わっていた。それまで異なるSaaS企業で働いていた自分は大いに惑いました。

「いったい、どこを定数にして働けばいいのか」。つまり、VARIETASにおける変数と定数を知りたかったんです。それと同時に、自分自身がこの組織に馴染むには、私個人のOSを入れ替えなくてはならないとも考えました。
そこで理解したのは、そもそも「AIネイティブ企業に定数は無い」ということです。変数を仮置きしながら絶えず進んでいくものだと。それだけに、自分自身のOSをアップデートするプロセスは正直とても大変でした。組織や仕組みだけでなく、個人のOSアップデートも当然に必要になるということは、フォローアップとしてお伝えしておきたかった話です。
VARIETASでは、現在採用を強化中!詳細はこちらをご覧ください:https://varietas.co.jp/recruit
(記事中の在籍企業・肩書きは取材当時のものです)



