「今週のSaaS×AIニュース」ピックアップ!
*SaaS×AI Weeklyは、ALL STAR SAAS FUNDが毎週ピックアップした記事を日本語で要約し、一部メンバーからのコメントを入れてお届けしています。

知性のコストは"ゼロ"へ向かう──専門知識が"無料"になる時代に、企業が築くべき本当のMoat(競争優位)とは?
「The Great Descent」 by Chamath Palihapitiya on X
本記事はChamath Palihapitiya氏が執筆したもので、スマートフォンが高級品から60億台以上に普及する日用品になった軌跡と同じ"下降曲線"を、今度は「知性(AI)のコスト」が辿っていくと論じています。専門知識(エキスパートの判断力)が誰でも安価に使える時代に、企業が本当に築くべき競争優位は何かを解説しています。
汎用AIをそのまま使うだけでは差別化が消滅するという指摘は、AIをどう自社の"独自資産"に転換すべきかを問う、AI/SaaSスタートアップの事業戦略そのものに直結する内容です。
インターネットは「情報」を無料にしたが、「専門知識」は無料にしなかった
インターネットは知識の流通コストをゼロに近づけたものの、症状をすべて検索できても自分が病気かどうかの"判断"はできなかったと筆者は指摘しています。専門知識や判断力(judgment)は訓練された少数の人間の頭の中に閉じ込められたままであり、これが経済における最も古いボトルネックだったとしています。
スマートフォンが辿った"下降"のパターン
2007年に約500ドルの高級品だった初代スマートフォンは、15年後には50ドル未満で入手可能となり、地球上に60億台以上普及したと筆者は説明しています。
このパターンは3段階の"マスタープラン"だと筆者は述べています。
①高価格帯の少数向けに投入
②収益でコスト曲線を下げる
③誰もが使えるほど普及する
知性のコストはスマホよりも速く下落する
知性(AIの推論能力)は、スマートフォンと同じ「ハードウェアのコスト曲線」に加えて、「モデル自体の効率化」というもう一つの下降曲線が重なります。この2つの割引が複利的に効くことで、下落速度がスマートフォンよりも速いと筆者は分析しています。
専門知識の民主化が仕事を奪うという不安は的外れ
「仕事の総量は一定で、機械がやった分だけ人間の仕事が減る」という前提は歴史上一度も正しくなかったと筆者は主張しています。安価になったものは使用量が激増し、これまで想定できなかった新しい用途が生まれるため、専門知識が安価になっても仕事自体は消えず、"どの問いを立てるべきか""誰が結果の責任を負うか"という、より上位の判断へと人間の役割が移行するとしています。
誰もが同じAIを"レンタル"するだけでは競争優位は消える
優れた企業は常に、汎用的な能力ではなく、自社だけの独自のやり方(物流網、リスクの見極め方、製造プロセスなど)によって勝ってきたと筆者は指摘しています。これまでその"独自のやり方"の大半は人の頭の中に閉じ込められ、エンジニアリングというリソース自体が希少(人手不足)で高価だったゆえにシステム化できませんでした。
AIの安価化は"自社の強みをシステム化するチャンス"であり"諸刃の剣"でもある
知性がほぼ無料になることで、<yellow-highlight-half-bold>自社の強みを恒久的なシステムやソフトウェアに組み込むコストも激減する<yellow-highlight-half-bold>と筆者は述べています。しかし、汎用AIをそのまま消費し、他社と同じ仕組みに流し込むだけでは、差別化要因を自ら消し去り、競合と入れ替え可能な存在になってしまうと警鐘を鳴らしています。
"下降"の先にあるのは専門知識のユビキタス化
スマートフォンが少数派の贅沢品から誰もが持つ道具になったのと同じ軌跡を、知性は今たどっていると筆者は総括しています。その到達点では、資本のない一人の創業者でも、自らの"エッジ(強み)"を専門知識の力で具現化できる時代が訪れるとし、これこそが自身がこれまで見た中で最大の機会だと述べています。
『計算資源不足の終わり』は本当か?──GPU貸し出しが映す"本当の需給"
「The End of Compute Scarcity? Not So Fast」 by Jamin Ball on Substack
本記事はAltimeterのJamin Ball氏が執筆したもので、SpaceX(xAI)やMetaが自社の計算資源(GPU)を外部に貸し出しはじめた動きが「コンピュート不足の終焉」を意味するのかを検証しています。さらに、オープンソースモデルの台頭がAnthropicやOpenAIに与える影響も分析しています。
AIインフラのコスト構造やトークン価格の二極化は、AI/SaaSスタートアップの技術選定・コスト戦略・資金計画に直結するテーマであり、押さえておくべき内容です。
GPU貸し出しの動きが「供給過剰」のシグナルに見える
SpaceX(xAI)がAnthropic、Google、Reflectionに対し月額約23.2億ドル規模でGPUを貸し出し、さらにMetaも余剰計算資源を売る新事業の立ち上げを計画していると報じられています。この2つの動きから「計算資源が余りはじめている」「ハイパースケーラーの資本支出が過剰だった」という悲観シナリオが浮かび上がっていると筆者は説明しています。
この悲観シナリオを否定
SpaceXの契約はいずれも短期(90日で契約解除可能)であり、価格も非常に高く設定されている点を筆者は指摘しています。買い手(Anthropic、Google、Reflection)が高値を払ってでも契約したのは、他に調達手段がなかったためであり、これは供給不足の裏付けだと分析しています。
売り手側の"個別事情"が真因
SpaceX(xAI)とMetaはいずれも自社モデルの開発が難航しており、xAIはチームのほぼ全体の離脱とモデル利用の急減、Metaは自社Llamaモデルの競争力低下という課題を抱えていると筆者は指摘しています。学習用途に計算資源を全振りすると収益化できないため、モデルを立て直すまでの資金繰り対策として、一時的に余剰キャパを貸し出しているに過ぎないと分析しています。
「計算資源不足終焉」説は成立しない
計算資源を売る意思のある事業者(ハイパースケーラーや新興AIラボ等)がいれば即座に買い手が現れる状況が続いており、システム全体に余剰は存在しないと筆者は結論づけています。今回の動きは<yellow-highlight-half-bold>AI開発で後れを取っている企業がコストセンターを収益源に転換しようとしているだけ<yellow-highlight-half-bold>だと述べています。
トークン利用は"量"と"収益"で二極化する
今後、AI利用トークンの約8割は安価なオープンソースモデルなどの「低コスト」選択肢に流れる一方、残り2割の「フロンティア(最先端)」トークンが単価の高さゆえに収益の大部分を占める未来を筆者は予測しています。Rampの調査でも、AI支出の上位1%の企業は従業員1人当たり月間約7,500ドルを支出しているのに対し、中央値の企業はわずか11.38ドルと、約680倍の差があります。支出はミッションクリティカルな用途を担う一部のパワーユーザーに集中している実態が示されています。
「トークンマキシング終了」でもラボの成長トレンドは崩れない
無駄なAI支出の見直しは短期的にOpenAIやAnthropicへの支出の逆風になるとしつつも、AI活用へのマクロな支出拡大トレンドがそれを上回るほど大きいため、長期的な成長軌道は崩れないと筆者は分析しています。

"いつ"CMOを採るべきか、そして"なぜ"多くのCMOが失敗するのか
「The #1 Reason CMOs Fail」 by Jason Lemkin on SaaStr
ARR 200万ドル程度の初期段階では、CMOのような役職は不要で、VP of Marketingで十分です。しかし、ブランドが確立し、マーケティングが機能し、デマンドジェネレーションがルーティン化してくる段階(目安としてARR 2,000万ドル前後)になると、状況は変わります。多様な専門チームを束ねる「マーケティングの司令塔」としてCMOが必要になると述べています。
CMOは「CEOのビジョンの実行者」であるべき
真のCMOは単にチームを管理するだけでなく、<yellow-highlight-half-bold>CEOが描く会社や製品の見せ方・戦略の優先順位を体現し、実行する役割を担います。<yellow-highlight-half-bold>CMOが失敗する最大の理由は「自分自身のビジョンを推し進めようとすること」にあります。特に、その役割に対して経験が十分とは言えないCMO(stretch CMO)に多く見られます。
ARR 1,000万ドルを超えるころには、CEO自身がマーケティングについて強い持論を持っていることが多く、CMOがそれと異なる方向性を独自に打ち出すと、よほど自分の判断が正しく、結果が伴わない限り軋轢が生まれます。
成功の鍵は「既存の成功パターンの改善」であり、「独自路線の実行」ではない
着任時には、まず現状のマーケティング施策全体を洗い出し、今後12ヶ月の優先順位についてCEOとすり合わせることが最も重要です。
すでに機能しているものを土台にしつつ、コストの低い実験を加えていくアプローチが推奨されています。Benioff氏やElon Musk氏、Levie氏、Stewart Butterfield氏など、優れたCEOの多くは自身も優れたマーケターでした。
資金調達ニュース
[海外]
🏢 エンタープライズ
- Together AI — オープンソースAIモデルを低コストで実行できるAIネイティブクラウド基盤。シリーズCで8億ドルを調達。評価額は83億ドル。投資家はAramco Ventures(リード)、Vista Equity Partners、General Catalystなど(TechCrunch)
- 8090 Labs — 元Facebook幹部でSocial Capital創業者のChamath PalihapitiyaがCEOに就任し率いるAIコーディング企業。主力製品「Software Factory」は、企業の開発チームが監査証跡などのガバナンス機能を維持しながら、プロトタイプ止まりではなく本番品質のソフトウェアをAIで構築できるエージェント型プラットフォーム。シリーズAで1億3,500万ドルを調達。リードはSalesforce Ventures、WndrCo・Craft Ventures・The Production Boardが参加。(TechCrunch)
- TwelveLabs — 動画を認識・検索・推論できるフルスタック型動画インテリジェンスAIプラットフォーム。シリーズBで1億ドルを調達。投資家はNEA、NAVER Ventures(共同リード)、Amazonなど(Bloomberg)
- Venice AI — プロンプトを保存しないプライバシー重視の生成AI・分散型モデル推論プラットフォーム。シリーズAで6,500万ドルを調達。評価額は10億ドル。投資家はDragonfly(リード)、Coinbase Ventures、North Island Venturesなど(TechCrunch)
- Pie — 中小企業向けAI集客・カスタマー対応プラットフォーム。1,950万ドルを調達し正式ローンチ。投資家はLightspeed Venture Partners(リード)、Capital One Ventures、SciFi VCなど(SiliconANGLE)
💰 フィンテック
- Quantifind — 金融犯罪・国家安全保障向けのAIネイティブなリスクインテリジェンスのリーダー。グロースラウンドで2億ドルを調達。リードはSummit Partners、Citi Ventures・S&P Global・Deloitte・Stephens Groupが参加。(PR Newswire)
- Jota — WhatsApp経由で利用できるAIネイティブな会話型銀行・デジタルアカウントプラットフォーム。シリーズAで3,000万ドルを調達。評価額は1億8,500万ドル。投資家はHaun Ventures(リード)、HOF Capital、Alter Global、Greyhound Capitalなど(FinSMEs)
- MDOTM — 資産運用会社向けのAI投資プラットフォーム「Sphere」を提供。グロースエクイティで2,700万ドルを調達。投資家はExpedition Growth Capital(リード)(Fintech Global)
- LinqAlpha — 機関投資家向けのAIエージェント型市場インテリジェンスプラットフォーム。シリーズAで2,200万ドルを調達。投資家はAVP、Atinum Investment、GFT Ventures(共同リード)(FinSMEs)
🛰️ ハードウェア×AI
- Dominion Dynamics — 北極圏向けの自律運用ソフトウェアと次世代防衛システムを開発するディフェンステック企業。旗艦は自律協調プラットフォーム「Scout」とデータ融合基盤「AuraNet」。カナダ・オタワ拠点。シリーズAで1億3,900万カナダドル(約1億ドル)を調達。投資家はGeorgian(リード)、Valor Equity Partners、OMERSなど(FinSMEs)
- CarbonSix — 製造業向けの実装可能なロボットインテリジェンス・自動化ソリューションを開発するフィジカルAI企業。シリーズAで4,000万ドルを調達。投資家はDSC Investment、LB Investment(共同リード)、IMM Investmentなど(Yahoo Finance)
- Luxonis — ロボティクス・産業自動化向けのOAKカメラとDepthAIソフトウェアを開発。シリーズAで1,400万ドルを調達。投資家はDenali Growth Partners(リード)、Taiwania Capital(SiliconANGLE)
🏗️ バーティカル
- Higharc — 住宅建築の設計から施工まで一貫して支援するAIプラットフォーム。シリーズCで9,500万ドルを調達。投資家はInsight Partners(リード)、Wellington Management、Fifth Wallなど(FinSMEs)
- 1001 — 空港・港湾・エネルギーなど重要インフラ向けのソブリンAIオペレーティングシステム。シリーズAで3,000万ドルを調達。投資家はLux Capital(リード)、Sanabil Investments、General Catalystなど(FinSMEs)
- Almetra(旧:Deltia)— 製造インテリジェンス企業として、映像データ・機械データ・ITシステム・作業者の知見を一元化したプラットフォームを提供。シリーズAで1,630万ユーロ(約1,850万ドル)を調達。リードはblisce/、NAP・Merantix Capital・Robin Capital・Underline・Critical Venturesが参加。(tech.eu)
🔒 サイバーセキュリティ
- Straiker — AIエージェント専用のセキュリティプラットフォームを提供する「Agentic Security Company」。エンタープライズ環境に展開されるAIエージェントの発見・事前テスト・ランタイム保護の3機能を統合し、Codex・Cursor・Claude Codeなどのコーディングエージェントや、Microsoft Copilot・ChatGPT Enterpriseなどの生産性ツールに対応。シリーズAで6,400万ドルを調達、累計調達額は8,500万ドル。リードはMarathon Management Partners、Citi Ventures・Illuminate Financial・Workday Venturesが参加、Bain Capital VenturesとLightspeedが追加出資。(SiliconANGLE | PR Newswire)
- StirlingX — 防衛・重要インフラ向けのソブリンデータインテリジェンス・脅威対応自律プラットフォーム。ドローン検知・対処機能も持つ。シリーズAで2,000万ドルを調達、累計調達額は3,100万ドル。投資家はVentura Capital(リード)、RCM Private Markets Master Fund(参加・既存株主)(SiliconANGLE)
[国内]
- ビットキー — ID認証・認可技術とスマートロックを組み合わせたコネクトプラットフォーム「homehub」「workhub」を展開。政府系ファンドJIC VGIから追加で40億円の資金調達を実施(デットとエクイティの中間に位置するメザニンファイナンスを一部活用)。これにより累計調達額は390億円超に達した。投資家はJICベンチャー・グロース・インベストメンツ(JIC VGI)(PR TIMES)
- M2X — 工場・製造現場向けの設備保全クラウド「M2X」を開発・提供。前回調達以降で売上高700%成長を達成し、トヨタ自動車九州・ロッテ・レンゴーなど40業種に導入。AIとIoTを活用した予防保全により「Zero Downtime Vision」の実現を目指す。シリーズAエクステンションラウンドを実施し、シリーズ全体の累計調達額が総額11.4億円に達した。(PR TIMES)
- スパイクスタジオ — 製造・金融・広告・リテール・フィットネスなど幅広い業界向けにAIエージェントを開発。シードラウンドで3億7,000万円を調達(エクイティ・デット・ベンチャーデットを組み合わせた資金調達)。投資家はB Dash Ventures、あおぞら企業投資、日本政策金融公庫(PR TIMES)
- WeDraft — 企業向け個人情報・情報資産管理プラットフォーム「Flows」を提供。個人情報台帳管理からリスクマネジメントまでをノーコードで一元化し、国内大手企業への導入が進む。シードラウンドで1億円を調達。DNX Venturesが出資。(PR TIMES)
- リチェルカ — 受発注・サプライチェーン領域の非効率業務をAIで自動化するAgentic ERP「RECERQA」を開発・提供。帳票のデータ化から業務ルールの構造化・既存ERPとの連携まで一体実現する。NXグローバルイノベーション投資事業有限責任組合(NIPPON EXPRESSホールディングス)より出資を受け資本業務提携を締結。(PR TIMES)



