SaaS企業のCEOが自らコードを書く。そんな光景が珍しくなくなってきた2026年の今、その最前線にいるのがトレジャーデータCEO兼共同創業者の太田一樹さんです。
2011年にシリコンバレーでトレジャーデータを創業し、CDP(Customer Data Platform)の分野でグローバルに事業を拡大。2018年に当時一部報道で6億ドルとも報じられたArmによる買収後、2021年に再独立してCEOとして経営に復帰しました。
そして今年に入り、「Treasure Code」や「Marketing Super Agent」、AIボイスレコーダー「Plaud」と協業した「Treasure AI Voice」といったAIネイティブなプロダクトを矢継ぎ早に発表しています。
「スーパーマリオでいえば、スターを取ったような状態」と表現する太田さんに、ALL STAR SAAS FUNDの前田ヒロとRice Capitalの福山太郎が迫りました。AIの大波をどう読み、いかにプロダクト・組織・競争戦略を再設計しているのか。具体的なエピソードとともに語っていただきました。
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CEO、無敵モードに入る
──2026年の今、何が一番エキサイティングですか?
太田一樹(以下、太田):ここ1年の間で、AIを活用しながら私自身でもコードを書く機会が劇的に増えました。プロダクトに関わることはもちろん、社内データを集めて自分の業務に活かしたり、顧客状況を調査するためのAIを構築したり、マーケティングのコンバージョン率が低下した原因を分析したりと、幅広く取り組んでいます。
今まではどちらかというと「作ること」がボトルネックで、ディストリビューションにおいてもさまざまな壁がありました。それがいろんなアイデアを試せるようになったんです。まるでスーパーマリオでいうとスターを取ったみたいな感じで、いろんなものを作れて「無敵モード」に入っている。だから、すごく楽しいんですよ。
──太田さんはもともとCTOとして創業され、CEOに転じたご経歴ですよね。やはりエンジニアリングのバックグラウンドが、今この変化への追い風になっていると感じますか?
太田:それはそう思います。私自身でコードを書きはじめて、「ここから違う領域に入る」と先行して感じられたのは、エンジニアリングのバックグラウンドがあったからこそかもしれません。
アメリカで進む、AIによる「社内リプレイス」の実態
──コーディングやAIツールの活用で、結果的に何がリプレイスされましたか?既存の仕事や社内スタッフの役割が変わりましたか。
太田:私らがアメリカの会社という前提を踏まえたうえで、一つの事例があります。
昨年の3月にドキュメントチームのメンバー全員を解雇しました。彼らは、PRD(Product Requirements Document、プロダクト要求仕様書)をもとに、ユーザー向けのドキュメントを作成するチームで、https://docs.treasure.ai/ の運用を担当していました。現在は、プロダクトマネージャーとGitHubをベースに、AIがドキュメントを生成する仕組みに切り替えています。
このように、いくつかの職種や個別ロールが増減しながら、大きな変化のなかにいますね。
──ほかにも、解約やリプレイスしたソフトウェアはありますか?
太田:SaaSについては大きな整理を実施しました。SaaSはポイントソリューションでしたが、AIはバンドル型のほうが動きやすいという考えがあって。これは自社プロダクトでも同じ方向性なのですが、社内でも以前はSalesforceとその周辺に15個ほどのSaaSを使っていました。それらをほぼ一掃してHubSpotに集約しています。
あとは、会計システムと人事システム、その周辺10個ほどのツールをまとめて解約しました。顧客系、人事会計系、プロダクト系のデータを少しずつ集約した結果、結果的に数億円のコスト削減につながりました。
──リプレイスはトップダウンで決めたのですか、ボトムアップで出てきたのですか?
太田:基本的に私とCFOで決めました。「ここはAIでリプレイスしてコストを削減できる」という判断で、横断的なプロジェクトとして推進しています。ツールがバラバラだとワークフローもAI活用もバラバラになりがちです。チームには1年間、移行の苦労をかけましたが、どうにか堪えてマイグレーションしましたね。
──「vibe coding」による内製化は検討しましたか?
太田:内製化はまったく考えませんでした。セキュリティやマネジメント機能のことを考えると、自社で作る気にはなれません。私たちの規模でHubSpotを使うと数千万円ほどかかりますが、ソフトウェアエンジニアを3〜4人採用するコストと比較すれば、HubSpotを使う経済合理性のほうが明らかに高い。その判断は今でも変わりません。
コーディングエージェントがすべてのAIエージェントの土台になる
──今年に入って「Treasure Code」や「Marketing Super Agent」などAIネイティブなプロダクトを次々と発表されていますが、どのようなシグナルを見てリリースを決めたのでしょうか?
太田:まず、OpenAI o系などを検証して「コーディングエージェントがすべてのエージェントの土台になる」と確信しました。
トレジャーデータはエンタープライズ向けの複雑なソリューションで、できることが非常に多いプロダクトです。むしろ、複雑さを売りにしてきたところもあります。
あるとき、マイクロソフトのCMOとお話しした際に、「マイクロソフトにも何百万という機能があるが誰も見つけられない。<yellow-highlight-half-bold>AIをフロントに置くことで機能を発見できるようになる。複雑な多機能プロダクトこそアドバンテージになる<yellow-highlight-half-bold>」という話をされていて、強く共感しました。
LLMの最も有力なアプリケーションが今はコーディングです。各システムのAPI仕様やバックエンドを読み込んでその場でコードを生成できるようになると、トレジャーデータの機能をすべて自然言語にしておくだけで、その上にさまざまなアプリケーションを構築できる。その発想から最初にリリースしたのが「Treasure Code」です。
──Treasure Codeとは、具体的にどんなプロダクトですか?
太田:Claude Codeにはエージェントを構築するためのSDKがあります。そこにトレジャーデータの知識とコマンドラインを大量に実装したプロダクトです。具体的には、プロダクトドキュメントをMCPで読み込めるようにして、AIが問題解決や目標達成の際に自律的にドキュメントを参照してタスクをこなせるようにしています。
加えてトレジャーデータのAPIを全部コマンドライン化し、Claude Codeがそれを呼び出すことで、Claude Codeを使いながらトレジャーデータを完璧に使いこなせるようになるプロダクトです。顧客にとっては、トレジャーデータを活用するための工数と時間が劇的に短縮されます。使いはじめたら戻れない商品で、トークンが次々に消費されている状態です。
──どんなユースケースをイメージしているのですか?CMOがClaude Codeのインターフェースを通じてアクセスするのでしょうか?それとも、各自がインターフェースをカスタマイズして裏側のデータにアクセスする感じですか?
太田:デモを見ていただくとわかりやすいのですが、ここに「Treasure Bikes」という架空のバイクショップのデモがあります。マーケティング担当者がこのシステムを通じてオーディエンスデータを分析し、「スーパーユーザーを5倍に増やすキャンペーンのアイデアを考えてほしい」と自然言語で指示すると、AIがデータを分析してさまざまな施策を提案します。
裏側ではコマンドラインをすべて叩いているのですが、ビジネスユーザーにはそれが見えない。単純にAIがコマンドラインを実行して適切なデータを取得し、提案しているんです。最初の話に戻ると、コーディングエージェントがすべての土台になると考えていて、各システムにアクセスするためのコードを高精度に生成できれば、その上にエージェンティックなアプリケーションを重ねられる、というわけです。
※実際のデモ動画は、こちらのYouTubeでご覧いただけます
トークン課金とNRR経営は「AIの売上比率10%」
──プライシングの設計についてもお聞きしたいです。追加チャージしているのですか?
太田:基本的にトークン課金にマージンを乗せて顧客に提供しています。今、全社的に「AI売上」をメトリクスとして設定していて、直接的なAIプロダクトの売上比率が全体の約10%まで達しました。
──エンタープライズは従量課金よりサブスクを好む、という話も聞きますが、パッケージングはどうしていますか?
太田:エンタープライズ向けには、年単位でコンバセーション数やトークン数をバケットで購入してもらい、月次の上限を設定しています。1〜2ヶ月の超過は許容しますが、3ヶ月目からは追加課金する仕組みですね。月次でスパイクして顧客が驚くのは私たちとしても一番避けたいパターンなので、徐々に増えていって3ヶ月目に入ったらお知らせするという設計にしています。
──グロスマージンはどのように計算しているのですか?従来のSaaSとは大きく変わりますよね。
太田:従来のSaaSでは通常グロスマージンが約80%でしたが、AIプロダクトではそれよりも低く設定しています。ただ、これが面白いのです。従来のSaaSは主に人間が使うソフトウェアでしたが、今は「AIエージェント」という新たなユーザーが生まれています。
たとえば、あるホテルの顧客がバケーション計画のAIエージェントを導入すると、そのエージェントがCDPからデータを取得して個別提案をします。そうなると、CDPへのアクセスが増え、Eメール、SMS、モバイルプッシュの送信ボリュームも増加します。ですから、AI単体のマージンだけを見るのではなく、全体のエコノミクスで評価する経営判断をしています。AI導入コホートのNRRが上がり、全体で回収できれば問題ないという考え方です。
データを保有しているプレイヤーとして、そこに一定のMoatがあると認識しています。アクセスを増やすことで価値が上がる戦い方ができる。それが強みだと思っています。やはり、トークンなど周りのワークフローで固めるだけでは結構キツイんじゃないかなと。
AIボイスレコーダー「Plaud」と組んだ戦略的意図
──もう一つ気になるリリースがありました。AIボイスレコーダー「Plaud」と協業したハードウェアプロダクトを出されましたが、どのような戦略的意図があったのですか?
太田:「Treasure AI Voice」ですね。ウェアラブルに身につけられるペンダント型のAIボイスレコーダー「Plaud NotePin」などを活用して、そこから得られるデータを活用するプロダクトになります。狙いは主に2つあります。
1つ目は、今まではデジタルデータを収集してきましたが、物理世界のデータも取れないかという発想です。ある銀行のCEOの例で言えば、従業員5万人が1日3〜4回ミーティングをすると、毎日約20万件のミーティングデータが集まります。そこから得られる経営インサイトは非常に大きい。CDPのデータと組み合わせることで、経営の根幹や営業組織に活かせる「会社のAI」を作ることができると考えました。
2つ目は、ピュアなソフトウェアだけに注力していると、バイブコーディングが発達した先にはワンショットで競合に作られてしまうかもしれない、という漠然とした危機感もあります。物理的なハードウェアに参入することで、そのリスクをヘッジする狙いもあります。
──ターゲットはどのような顧客を想定していますか?
太田:コンシューマー向けに出た「Plaud」のようなプロダクトに、チーム機能、シングルサインオン、オーディットログ(監査ログ)などエンタープライズ向けの機能を実装する方向で開発しています。5万人や10万人規模の従業員に活用してもらえるプロダクトにしたい。簡単に言うと「AIを使って組織の長期記憶を作る」イメージです。
今までの組織は人間がヒエラルキーになり、マネージャーが情報を集め、それを集約してまた、マネージャーに渡して決断していくような形でした。しかし、そのプロセスはAIに渡したほうが情報処理能力は高い。とある人事会計SaaSの経営者とも話しましたが、組織の情報処理を人間のヒエラルキーではなくAIに担わせる時代が来たときに、このデータは非常に価値を持つと考えています。
「作る」コストが下がった今、社員総出でAIを使い倒す
──ソフトウェアの開発で根本から考え直した部分はありましたか?
太田:従来のソフトウェア開発では「作ること」がボトルネックで、PRDを書き、ERDを書き、モックを作り、その擦り合わせに時間をかけることで手戻りを少なくしていました。しかし、「作る」コストが限りなく下がった今、デザイナーもプロダクトマネージャーもエンジニアも、さまざまな領域を取り込んでいく必要があります。
私自身がデザイナーチーム、ITチーム、HRチームにClaude Codeの使い方を教えました。背中を押されればすぐ動く人が多いのですが、最初の一歩の踏み出し方がわからないケースが多い。月1回の「マンスリーイノベーションデー」を設けて、エンジニアが一日好きなものを作れる環境も整えています。実は「Treasure Code」もここから生まれたんです。
──社内のAIに関する予算はどのように設定しているのですか?
太田:全員にTreasure Codeを配布していて、使いたいだけ使える状態です。私も月150万円ほど使っていますし。トークン消費量は非常にばらつきがあります。大量に使うエンジニアは以前の1日1,000行から今では4,000行になっていて、そういう人にはどんどん使ってもらっていますね。
──AIの使いすぎを管理する、そういったマネジメントは気にされていますか?
太田:今のところあまり管理していません。投資フェーズだと割り切っています。そもそも、特定職種の人件費とSaaS解約に伴い、コスト削減できている部分が大きいですから。
また、ソフトウェア会社として自社プロダクトを自ら使ってTreasure Codeを改善しているので、社内に「自分たちのプロダクトはこう使うんだ」というノウハウが行き渡ったのは大きいですね。さきほどお見せしたデスクトップアプリも、HRが活用したり、リーガルがNDAをレビューするスキルを構築しはじめたり、RevOpsの人がパイプラインのヘルスを分析するスキルを使いはじめたりしています。
「トークンを10万円使ったけど、何かあるの?」とは言っていないし、私自身もいろいろ使い倒しているので、そこで何か言われるようなことがあったら、どこかからお金を見つければいいかな、という感じです。
「AIブートキャンプ」で社長を動かす!
──トレジャーデータでは、お客さまのオフィスに来てもらってAIエージェントを一緒に作る取り組みをされていると聞きました。詳しく教えてもらえますか?
太田:「AIブートキャンプ」と呼んでいる取り組みで、Palantirからヒントを得た施策です。AIに対して「何ができて、何ができないのかわからない」という人が多いのですが、私はAIのトップダウン導入を重要視しています。経営トップが知識を持っていないと組織への導入は難しい。
そこでオフィスに2時間ほど“カンヅメ”にして、それこそ著名な企業の社長や副社長にもお越しいただいて、AIエージェントを実際にプロンプトから書いて実行してもらう取り組みをしているんです。
──その重役たちはIT企業の方ですか?
太田:いえ、それだけではありませんね。非IT業界といわれてきたような業界の方もいらっしゃいます。皆さん、「これはすごい」と体感すると、会社に戻って「自分もAIエージェントが書ける」となります。そうした体験がきっかけで営業機会につながる仕組みです。
──特に印象的な例があれば、どんな体験をしたか教えてくれませんか。
太田:新聞社の方の例で、デザイン、リサーチ、執筆、編集といった「新聞記事の制作工程」の担当執行役員が、自分の担当業務のAIエージェントを構築しました。最後に社長が全エージェントを呼び出し、あるテーマで記事を書いてみると、一気にエージェントが連携して動き出す。途中で編集担当者が「ここを直して」と指示を出すと、新聞業界では「差し戻し」というそうですが、AIが自動的に差し戻しまで実行した。それが非常に衝撃的だったようで、「これは企業として変わらないといけない」という強い認識が生まれました。
そこまで体感できるのに、たった2時間です。こうした活動をきっかけに、「AI化を進めるならトレジャーデータに頼もう」という第一想起になっていくわけです。
エンジニアを増やし、GTMをフラットに。AI時代の採用戦略
──ICONIQのレポートでは「AIは既存のプロセスを早くするだけでなく、組織そのものの設計を根本から変える」と主張しています。太田さんはどう受けとめていますか?
太田:まさにそう思います。情報処理や共有のコストがゼロに近づいたので、いわゆる「THE MODEL」の形でいうと、組織間の溝でタスクが落ちるケースが減っていきます。また、さまざまな職種と業務において「AIのほうが得意なタスク」が生まれるので、業務の変更や見直しは必然です。
たとえば、営業の準備でも、アカウントプランニングや情報収集はAIのほうが得意です。営業の仕事の「7割準備して3割売る」という比率が逆転して、顧客と向き合う時間が倍近くになる。一方でリスクなのは、みんなが忙しくなってバーンアウトすること。エージェントを走らせながら常に処理を取られ、脳のキャパシティが占有される感覚は実感としてあります。
──採用計画はどう変わりましたか?人を増やしていますか、絞っていますか。
太田:エンジニアは増やしています。多くの会社がエンジニア採用を絞るなかで、今年はR&Dのバジェットを増やしてソフトウェアエンジニアを積極採用する方針にしました。
一方でGTM(営業・マーケティング)側はフラットか、必要に応じて削減していく方向です。会社維持に必要な最小限の役割を除けば基本、<yellow-highlight-half-bold>「コードを書くか、売るか、どちらかだ」という考え方<yellow-highlight-half-bold>ですね。
──エンジニアを増やす判断の背景は、作りたいものが多いからですか、それとも競争上の理由ですか?
太田:両方ですね。試行回数が多ければ失敗も増えますが、成功確率も上がります。打席に立つ回数を増やすことが重要です。加えて、競合が同じことをしてきたときに自分たちのほうが早く動けるかもしれないという競争の論理もあります。
──エンジニアはどのレイヤーを採用していますか?
太田:ミドルからシニアクラスですね。AIがジュニアレイヤーの業務を代替しているのは事実です。ただ、ジュニアエンジニアをどう育てるかは、私たち一社だけでなく業界全体の課題だと思っています。
──その答えは太田さんのなかでは出ているのでしょうか。OJTで育てる構図が崩れていますよね。このジレンマをどう解消するのですか?
太田:今の時代は情報もツールも溢れていて、新卒でもミドル・シニア相当のポテンシャルを発揮できる人が出てきています。年齢がジュニアかシニアかを決める時代ではなくなってきた。AIを使いこなすという意味では、「脳がやわらかい」と有利な側面もありますしね。
採用プロセスも変わっています。エンジニアのコーディングテストはバイブコーディングで通り抜けられてしまう。面接でリアルタイムに補佐するAIも登場しているので、できるだけオンサイトで実施するなど、対策を工夫しています。
──GTM側の採用を増やさないということは、一人当たりの予算が増えていくのでしょうか。
太田:そうですね。ただ私たちは従量課金モデルへのシフトを進めているので、クォータ自体は下がるのですが、顧客に実際に使ってもらうことがより一層重要ということになります。
そのほか削減したポジションは、ドキュメント作成やコンテンツ制作、SNS運用などAIに任せやすい業務ですね。その分、顧客接点を持つ役割は増やしたい。
最近の例ではSEマネージャーをAEに転換しました。「今まではSEとしてAEを助けてたんだけど、あなた自身が直接売れるよね」と話したりして、営業キャパシティを増やしています。逆に、SEみたいな人がAEに向いてる時代になってきてるのかもしれません。
10年に一度の波に乗るための「混沌を楽しむ」マインドセット
──CEOとして、自分が変わったと感じる部分はありますか?
太田:かなりトップダウンになってきていると感じます。日々もうとにかく早く実行したい。2021年ごろはチームを作って回して……という進め方でしたが、今は実行モードに切り替わっています。
ただ、それだけで人は動かない。「なぜそうするのか」というストーリーがあることは非常に意識しています。世界各国に社員600人がいるなかで、文化的背景も異なるので、伝え方には今も苦労しています。
──精度を高めるために、どんなインプットをしていますか?
太田:自分専用のAIエージェントを約50個構築していて、各部門のデータを収集するものを自分で運用しています。400社の顧客それぞれのミーティングログがカスタマーサクセス・Gainsight・CRMに入っていて、それをまとめてリスク分析や新プロダクトへの関心把握に活用するといった形ですね。半年前とはインプットの仕組みが大きく変わりました。
──プライベートでのAI活用は?
太田:最近ゴルフにハマっていて、シミュレーターのデータを食わせてスコア改善AIを作りました。ただ実際のゴルフコーチに習いに行ったら違うことを教わって、コーチの言う通りにしたほうがスコアが伸びた(笑)。AIを100%は信じきれていないですね、まだ。
──シリコンバレーにいて、現地の経営者と話して感じることはありますか?
太田:シリコンバレーはある意味で宗教的で「テクノロジー」一辺倒になりがちだと感じます。本当にAIが人類の60〜70%の職を奪うとしたら、ラッダイト運動のような反発が起きてもおかしくない。ピュアな技術視点はありつつも、社会的にどう受け入れられていくかという視点がシリコンバレーには欠けている気がします。
LLMの次はワールドモデル、世界をシミュレーションしようという動きがあり、それが物理世界にまで及ぶと、生産労働に従事する人たちがすべてロボットに置き換わるような波が来るかもしれない。そういった話も含めて、シリコンバレーの人たちはある種かなりラディカルだなと感じています。
──トレジャーデータの創業が2011年で、ちょうど15年ほど経ちます。同じくらいの年数・規模感のシリコンバレーのCEOたちは、AIネイティブではなくSaaS企業として創業した人たちです。AIネイティブの時代にどう変わっていこうとしているか、共通項のようなものはありますか?
太田:まだ解がないかもしれません。あるとすればIntercomくらいでしょうか。カスタマーサポートデスクのソフトウェアでしたが、サポートAIエージェント「Intercom Fin」を構築して、売上の柱として育っていますよね。
正直に言うと、燃え尽きているCEOは多いですね。朝起きてAIに話しかけ、寝る前までAIと会話しているような状態になってくる。結局、起業はマラソンなので、そのバランスをどう取るかは個人的にもチャレンジです。
──最後に、AI時代に起業している、あるいはこれからしようとしているファウンダーへ、意識すべきことをぜひ教えてください。
太田:「混沌を楽しむ」ということです。あらゆるものがスピードを増しているなかで、この波にいかに乗るか。今は10年に一度の大波だと思っています。
私たちは前の「波」で売上を2,000万ドルから2億ドルに成長させましたが、今回も10倍にできると信じています。変化が激しいときこそチャンスがある。ブレインフライ(※AIやデジタルツールの「使いすぎ」に起因する脳の慢性疲労)には気をつけながら、楽しむしかないですね。本当に楽しい時代だと思いますし、すごい時代だと感じています。
──まさに、太田さんの時代ですね。今日はありがとうございました!
(本記事は、「ALL AI PODCAST」のセッションから抜粋・再構成しました。記事中の在籍企業・肩書きは収録当時のものです)



