いま、世界のスタートアップ業界でホットなトピックの一つが「フィジカルAI」ではないでしょうか。
CES2026に合わせてNVIDIAが出した発表で、CEOのJensen Huang氏が「フィジカルAIにもChatGPTモーメントが訪れた」と発言しました。世界のテクノロジー業界をリードするアメリカの経営者や投資家は、フィジカルAIが次の巨大なフロンティアだとこぞって謳っています。
そして日本には、稀有な市場環境があります。製造業を背景にした、ハードウェア技術に強い人材と産業基盤。そして、現場の人手不足。供給と需要の両側に強みを持つ国は、世界を見渡しても多くありません。
今回のAI探求ラボでは、「フィジカルAI」の定義にはじまり、世界の事例にみる現在地とトレンドを整理しました。そのうえで、「いま、日本のスタートアップが賭けるべきホワイトスペースはどこなのか」。その風穴を見出す記事を書いてみることにしました。
この記事が「フィジカルAI」の領域に挑戦する日本発のスタートアップにとって、少しでもインスピレーションにつながりますように。
フィジカルAIは次のフロンティア

実際に、フィジカルAIスタートアップへの投資は急速に加速しています。直近の2026年第2四半期(4〜6月)の案件数では、産業用ヒューマノイドロボット開発とロボット向け基盤モデル開発が、ベンチャー全体で案件数の多い市場の上位3つのうち2つを占めました。
AI駆動型コラボレーションロボット開発のNEURA Robotics(評価額70億ドルで14億ドルを調達)や創業1年足らずでユニコーンになったMind Robotics(評価額34億ドルで4億ドルを調達)といったメガディールがけん引しており、勢いを増していることがわかります(CB Insights)。

熱狂の一方で、不確実性も大きいのが実情です。元MIT CSAIL所長でiRobot共同創業者のRodney Brooks氏は「TeslaのOptimusやFigureなど各社が掲げるように、ヒューマノイドが人間と“プラグ互換”になり、人間より安く、しかも同等に手作業をこなす。それが今後数十年のうちに起きると信じるのは、純粋な空想的思考だ」と批判。Meta元チーフAIサイエンティストでAMI Labs共同創業者のYann LeCun氏も「LLMはロボティクスにおいて、ほぼ絶望的だ」と語り、現在主流のアプローチでは物理世界の理解に到達できないと主張しています。
BCGが紹介するアナリスト各社の予測では、2030年時点のヒューマノイドロボット市場は、年間生産台数100万台未満から600万台以上までとかなり幅があります。上振れすれば大きな産業インパクトが生まれる一方、外れれば「近年で最大級の産業資本の誤配分」になりかねない、と指摘しています。
今回は、フィジカルAIの基本的な整理をはじめ、スタートアップへのVC投資の状況や主要プレイヤーなどをまとめました。日本の起業家はどこで勝負すべきか、その道を見いだせればと思います。
フィジカルAIとはそもそも何か?
NVIDIAは、「自律システム(カメラ、ロボット、自動運転車など)が物理世界を知覚し、理解し、推論し、複雑な行動を実行またはオーケストレーションできるようにする技術」と定義しています。
これまでのAIブームをけん引してきたChatGPTやLlamaのようなLLMは、インターネット上のテキストや画像から学習し、人間の言語や視覚的概念を自然に扱えるようにしました。
しかし、物理世界の空間関係や物理法則(重力、摩擦、衝突など)についての理解はまだまだ限定的です。フィジカルAIは、この生成AIの弱みに「空間認識」や「物理的な動作への理解」を追加。画像・動画・テキスト・音声・実世界のセンサーデータといったマルチモーダルな入力を、機械が自律的かつ具体的に実行できる行動へ変換します。そのテクノロジー群の総称が「フィジカルAI」です。
CB Insightsによると、ハードウェアを除くフィジカルAIの技術スタックは、大きく4つのレイヤーに分かれます。
• データ&シミュレーションレイヤー:合成学習データの生成、実世界でのロボットデモンストレーションデータの収集、安全にロボットを「失敗させながら」学習させるシミュレーションプラットフォーム
• モデルアプローチ:視覚と言語を統合するVLM(Vision-Language Model、視覚言語モデル)、そこに行動生成能力を加えたVLA(Vision-Language-Action Model、視覚言語行動モデル)、環境の時間的変化を予測する「世界モデル」
• 基盤モデル:汎用的なロボット向け基盤モデル、自動運転向け基盤モデル、複数ロボットの協調を司るモデル
• 観測性(オブザーバビリティ):本番稼働中のロボットの挙動を監視・デバッグし、実世界での失敗を再びトレーニングデータへと還流させるプラットフォーム
なぜ、いまフィジカルAIなのか?
フィジカルAIに注目が集まる理由は、「供給側の変化」と「需要側の変化」が重なっているからです。それぞれの観点から見ていきましょう。
供給側の変化:AI人材のシフトとテクノロジーの急速な進歩
Bessemer Venture Partnersは、フィジカルAIへの投資を後押しする背景として以下を挙げています。
• トップクラスのAI人材が大手研究所からロボティクス系スタートアップへシフト。これはかつてLLMがブレイクスルーを迎えた時期の人材移動パターンと酷似しています。
• ロボット工学分野の学術ならびに産業研究の急加速。2020年以降に発表された論文数は10倍に増加しました。2024年単年で、2000年代の10年間を上回る数のロボット工学の研究が行われました。
• ハードウェアのコモディティ化。異なるマシン間で技術を転用する「クロスエンボディメント」が容易・安価になりました。
• エッジコンピューティング基盤の進化。NVIDIA Jetsonのような基盤がリリースされ、データセンターの外でも数十億パラメータ規模のモデルを低コストで稼働させられるようになりました。
• Meta DINOv3のような「自己教師あり学習モデル」の登場。これによって、AIはテキスト単体の理解からマルチモーダルな視覚推論が可能になりました。
需要側の変化:先進国を中心とした喫緊の労働力不足
供給側の技術進化のみならず、需要側の切迫感がフィジカルAIを力強く後押ししています。ドイツの産業用ロボットを開発するNEURA RoboticsのCEO David Reger氏はMcKinseyのパートナーとの対談で「ヨーロッパ・中国・日本を合わせると今後5年間で働き手が1億人減る」と指摘しています。
同氏は「産業用途では万能なヒューマノイドは不要で、ボタンを押す・スイッチを入れる・部品を機械に入れるといった単純作業だけでも、人間と同じ設置面積で動きながら、世界の労働タスクの約50〜60%を担える」とも語っています。
Bessemer Venture Partnersも同様に、アメリカ、ヨーロッパ、日本、中国の労働力不足と人口動態がロボット技術への需要を後押ししていると分析しています(BVP)。
「AI人材が流入し、技術が追いついた」タイミングと「需要が待ったなしになった」タイミング。この2つが交差したのが、まさにいまフィジカルAIへの注目が集まった背景と言えるでしょう。
フィジカルAIの成熟度
ヒューマノイドロボットがスムーズな動きを見せるデモ動画は数多く流れてきます。ただ、実生活で見かけることはまだ少なく、爆発的に普及している肌感覚もない。そう感じている方が多いはずです。
フィジカルAIには、自動運転と同じように、いくつかの成熟度のレベルがあります。どのようにフィジカルAIが成熟していくのか、現在はどのような段階なのか。BCGが提唱する「フィジカルAIの5つの成熟度フレームワーク」を用いて解説しましょう。

- レベル1. 明示的プログラミング:ロボットは、安定しており厳密に制御された環境下で、あらかじめ定義された動作シーケンスを高精度で実行します。これらのシステムは成熟しており、広く導入されていますが、手動による再プログラミングなしには変動に対応することができません。
- レベル2. 視覚知覚:リアルタイムの3次元的な知覚により、ロボットは物体を認識し、その位置や向きを推定することができるため、柔軟なハンドリングや迅速な切り替えが可能になります。このレベルでは、正確な位置決めが保証されない半構造化環境での自動化が拡大されます。
- レベル3. 器用な操作:ロボットは、知覚、動作、力を連携させることで、接触の多い作業や、形状が変化したり変形したりする物体の取り扱いをはじめます。能力は大幅に向上しますが、その性能は依然として特定の具体化形態や学習環境に強く依存していることがよくあります。
- レベル4. ワークフロー計画:システムは、高レベルの目標を解釈し、タスクの順序を自律的に決定することができ、明示的なプログラミングからインテントドリブンに実行します。しかし、物理世界に対する因果関係の理解がないため、その挙動は依然として主に確率的かつ反応的なものになります。
- レベル5. 推論:ロボットは、因果関係を理解する世界モデルを保持できます。これにより、結果を予測し、不確実性のもとで推論を行い、長期にわたって複雑な目標を追求することが可能になります。このレベルでは真の汎用自律性が実現されますが、現時点では依然として主に理想として語られるレベルです。
現在のフィジカルAI技術の成熟度でいうと、レベル1はすでに広く普及しており、経済的なインパクトも実現できています。全体としては、主にレベル2からレベル3に入っている段階と捉えられます。
しかしながら、レベル2の視覚知覚の段階でも、すでに大きな経済効果が見込めます。従来のロボットのTCO(総保有コスト)の約75%は、ワークフローの構成、新製品への適応、既存オペレーションへの統合といった「セットアップとリエンジニアリング」に費やされていました。
このコストは、ソフトウェア定義のアプローチによって最大50%削減でき、TCOの約37.5%が改善余地になるとBCGは試算しています。実例として、Googleのロボティクス部門であるIntrinsicが独TRUMPFと協業し、反射する不規則形状の金属部品をカスタム治具なしで検出・ハンドリングする技術を実証したケースなどが挙げられています。
さらにレベル3では、VLAモデルの進化により、接触の多い複雑なタスクへの対応が進んでいます。Amazonの倉庫ロボット「Vulcan」は、100万点を超えるユニークな在庫アイテムのうち約75%を扱えるとされています。
ただしBCGは、レベル3の重要な限界も指摘しています。その器用さは特定のハードウェアに強く依存しており、あるロボットで学習したスキルは、別のハードウェアのロボットにはそのまま転用できません。器用さのスケーリングは、依然としてコストがかかり複雑です。
次のレベル4〜5は、最先端の領域であり、まだテクノロジー的なチャレンジが多い状態といえます。
レベル4の「ワークフロー計画」は、LLMの進歩によって高レベルの目標から自律的にタスクを分解・実行できるようになった段階です。ただ、その知能は生成的・確率的なモデルに依拠しており、物理世界について因果的に推論しているわけではありません。もっともらしい行動計画を生成できても、それが未知の物理的な条件で成功するかどうかは、ロボット自身には確実に評価できません。
フィジカルAIの最終段階とされるレベル5の「推論」では、ロボットは状態・因果についての世界モデルを保持し、統計的な確からしさだけでなく期待される結果に基づいて選択肢を選べるようになります。
たとえば、「皿を食洗機に入れる」のはレベル2・3のタスク。「台所を片付ける」となるとレベル5相当の推論が要ります。ヒューマノイドロボットが暗黙のうちに約束しているのは、この知能のレベルです。そこに、現状ではほとんど手が届いていない。BCGはそう結論づけています。
フィジカルAIスタートアップの資金調達トレンド
ここからは、フィジカルAIのどの分野に、どれだけのVC投資が集まっているのかを見ていきます。昨今、スタートアップのEXITに懸念があるなかで、この分野も同様の課題を抱えているのでしょうか。
ロボットを含めたフィジカルAI分野へのVC投資のトレンドは、PitchBookのレポートが参考になります。海外の事例から、現状を追ってみましょう。
VC投資は過去最高を記録中
2025年の世界のロボティクス/フィジカルAIスタートアップへのVC投資総額は261億ドル(約4.2兆円)、件数は1,509件でした。対前年比で、投資額は81%増、件数は57%増。過去最高の記録です。
2026年は、さらに上回るペースで急拡大が予想されています。第1四半期は、たった3ヶ月で2024年の通期をすでに超える163億ドル(約2.6兆円)、件数は492件に達していました。前四半期比154%、前年同期比256%の伸びです。
ただし、このうちShield AI(15億ドル)、Saronic(18億ドル)、NEURA Robotics(14億ドル)の3件のメガディールだけで約50億ドルを占めています(案件の集計はPitchBook、NEURA Roboticsの調達額はCB Insightsによる)。それでも、外れ値を除いた数値として過去最高です。

特に注目すべきは、ステージ別の内訳です。グロースステージ以降(ベンチャーグロース/レイター)が、案件全体の40%以上、金額では全体の73%を占めています。前四半期の30億ドルから118億ドルへ、わずか1四半期での変化です。
つまり、投資家の評価の基準は「テクノロジーとして実現可能か?」から「量産・定着していくのか?」へシフトしてきており、「R&DステージからIPOの準備ステージへ移行したスタートアップ群」がすでに明確に存在していることを表しています。
たとえば、Agility Roboticsがトヨタ自動車のカナダ製造法人と、ヒューマノイドロボットでRaaS契約を結び、オンタリオ州の工場にDigit 7台の導入を発表したケースが好例です。
また、プレシード・シードにおいても、2026年第1四半期は113件で過去最多を記録しています。過去3〜4年続いたVC資金の後退を乗り越えて、フィジカルAIのスタートアップの層が今後も厚みを増していく勢いが見て取れます。

防衛/セキュリティ領域を中心に投資
では、どういった分野のフィジカルAIスタートアップに資金が集まっているのでしょうか?
直近1年間では、長引くウクライナ紛争やイラン情勢、米中の対立などを背景に、防衛/セキュリティ向けロボット分野が119億ドルとセクター中トップを維持しています。無人航空システムや無人海洋システムが含まれる領域です。最近の大型ディールでも注目されるAnduril、Shield AI、Saronicが代表的なスタートアップです。
これに追随するのが産業用ロボットのセクターで、案件ベースではトップ。金額ベースでも108億ドルと、防衛/セキュリティセクターとの差は10%以内にまで縮まっています。PitchBookによると金額・件数ともに防衛/セキュリティより速いペースで成長しており、2026年内には産業用ロボットがVC投資でトップに躍り出る可能性があると分析しています。代表的なスタートアップとしては、Figure、Apptronik、RivianからスピンアウトしたMind Roboticsが挙げられます。
産業用ロボットでは、セクター全体108億ドルのうち72%(78億ドル)が「組み立て・製造用ロボット」に集まっています。この分野では、日本企業が世界的にも強みを持っています。しかし、今後は日本のこの地位が脅かされるリスクがあります。
ロボット向けソフトウェア&AI分野は、投資総額62億ドル、225件とナンバー3のポジションにいます。ただし、セクター比較では最速の成長率(86%増)で拡大しており、Skild AI、Physical Intelligenceなど名の知れたフィジカルAIスタートアップが連なっています。
そのほか、Jeff Bezos氏らが創業したPrometheusが2026年6月に120億ドルを調達し、評価額410億ドルへ到達。ロボット向け基盤モデルを手がけるGeneralist AIも、評価額20億ドルでのラウンドをクローズして、今後のさらなる拡大が期待されます。

フィジカルAIスタートアップのEXIT動向
近年は日本でも、スタートアップ投資においてEXITはシビアにみられるようになりました。フィジカルAIは、バズワードとして、ここ数年で急浮上してきた新興セクターのように思える方も多いかもしれません。実際のEXITの状況はどうか。同じくPitchBookのデータから見てみましょう。

結論から言うと、2026年第1四半期のフィジカルAIスタートアップのEXIT(IPO、M&A)は18件、総額62億ドル。直近数年の累計EXIT額を単四半期で上回る規模です。
中国発の手術支援ロボットのShenzhen Edge Medical(20億ドル、四半期最大)や組立・製造ロボットのHuayan Robotics(9.8億ドル)、倉庫内物流ロボットのGalaxis Technology(8.3億ドル)、米国のSPAC上場を果たした防衛UAS領域で、航空機向け自律飛行ソフトウェアを開発するMerlin Labs(8億ドル)など、中国発スタートアップを中心にIPOが多く見られました。
M&Aでは、自動運転支援のMobileyeがイスラエル発のヒューマノイド開発スタートアップMentee Roboticsを買収した案件が、開示額ベースの最大案件です。特筆すべきは、買い手の顔ぶれです。防衛関連の大手だけでなく、自動車(MobileyeがMentee Roboticsを買収)、eコマース(AmazonがRIVRを買収)、倉庫自動化(SymboticがFox Roboticsを買収)、インフラソフトウェア(Bentley SystemsがPointivoの技術を取得)など、M&AによるEXITの幅が広がってきたことが、最も注目すべきトレンドです。
海外・日本の「フィジカルAIスタートアップ」地図
ここまでは、数字ベースでの投資・EXITのトレンドを中心に見てきました。ここからは、フィジカルAIのサブセクターにディープダイブします。海外ではどんな領域とプレイヤーが生まれているのか。日本にはどんなプレイヤーがいて、どこに市場機会があるのか。順に見ていきます。
海外スタートアップのマップについては、Insight Partners、ならびにCB Insightsのレポートより整理しました。
ハードウェア系
ハードウェア系は、業界に特化したRobot as a Service、通称「バーティカルRaaS」と、汎用型のヒューマノイド、非ヒト型のコボットでそれぞれ進化しています。この点はSaaSにおけるバーティカルとホリゾンタルの進化とよく似ています。
なかでも特に多いのがバーティカルRaaS系スタートアップです。従来のロボット開発系スタートアップでは、設備投資費狙いの売切り型のハードウェアが一般的。多額の初期費用、高いシステム統合コスト、そして長い販売サイクルが、持続的な成長の課題でした。
近年はAI技術や研究の発展により、ロボットが知能を備えた「アクションシステム」へと進化。同時に、固定費を変動費化するSaaSモデルにユーザー企業が慣れ親しむにつれて、RaaSモデルの採用が拡大しました。
RaaSモデルのマネタイズでは通常、一括販売ではなくリース形式を採用します。現場での稼働時間ではなく、投資対効果やタスクの完了状況に基づいた従量制、または定期課金制の料金体系が主流です。この点は近年のAIエージェントと同様といえます。
バーティカルRaaS系スタートアップでは、製造業などの産業用オートメーションに資する産業用ロボットと物流/倉庫が、ツートップでプレイヤーの多い領域です。この2つのセクターは、労働人口も多い一方、慢性的な人手不足やスキルの伝承の課題感が社会問題化しています。実現すればTAMの大きさと社会の課題解決の両面で大きな産業インパクトが期待できます。
労働人口が多く、労働環境も厳しい建設や介護・医療などのヘルスケア、小売などのリテール、農業、清掃・設備管理にも、大きな市場機会が存在します。また、人間が立ち入ることができない、あるいは危険を伴う環境、たとえば宇宙や海洋、鉱山、電力インフラなどの保守・点検業務向けでもRaaSスタートアップが見られます。
汎用性を狙うヒューマノイドやコボットについては、数こそRaaSスタートアップよりは少ないものの、汎用のロボット基盤AIモデルとともに業界・職種の垣根を超えて大きなTAMが狙えます。実際に、FigureやApptronikなど大型調達をするスタートアップが多く存在します。
ソフトウェア系
ソフトウェア系の主戦場は、ロボット基盤モデル、VLM、VLAなど、大きなくくりとしての「モデル系」です。
ロボット基盤モデルは、データとアーキテクチャを統合し、知覚・推論・行動が可能な「事前学習済みのロボット向け知能」といえるもの。GAFAMのようなアメリカ勢、BaiduやHuaweiなどの中国勢といった大手テクノロジー企業が多数参入しました。
そのなかで、DeepSeekやPhysical Intelligenceも注目度の高いスタートアップとして競い合っています。VLMやVLAについても、MistralやMoonshot AIなど大きめのスタートアップが主流です。
また、「モデル系」で資金が集まっている注目分野として挙げられるのが、世界モデル開発です。CB Insightsによると2025年の世界モデル開発スタートアップへの投資は過去最高の69億ドルに到達し、前年の14億ドルから急増。特にレベル5を目指した、予測的推論を付与した世界モデルを開発しているWorld LabsやRunwayなどが注目されています。
モデルレイヤーとともに注目されるのが、データ&シミュレーション領域です。フィジカルAIの最大のボトルネックはデータ不足。コストや入手可能性の面から、実世界のトレーニングデータを獲得することが非常に困難だからです。
だからこそ、競争優位は「自前のトレーニングデータ」に宿ります。独占できれば、高性能なフィジカルAIモデルを開発できるだけでなく、そのアクセス権を競合他社にライセンスする道も開けるからです。
ほかにも周辺領域として、ロボットを実際に導入する前にテスト・検証を仮想環境で行うシミュレーションプラットフォームや、ロボットの開発と本番環境とのギャップを監視・最適化するオブザーバビリティプラットフォームなどの領域もあります。

日本のフィジカルAIスタートアップの状況は?
最後に、日本のフィジカルAIスタートアップについても押さえておきましょう。
(他分野にまたがるケースはできるだけ掲載しておりますが、抜け漏れや配置間違いなどがあれば、ぜひご一報いただけると助かります)
こちらも海外同様に、製造にかかわる産業用ロボットや物流/倉庫向けロボット、自動運転基盤モデルは、日本の産業の強みを反映して数多くのスタートアップが参入しています。最近では、海外でもホットなヒューマノイド分野でも、新興スタートアップが見られるようになりました。三菱自動車と協業を発表した東大発のHighlandersや、「完全自動運転」の実現を掲げるTuringの共同創業者である青木俊介氏が設立したアトムなどです。
ただ、海外に比べると日本はフィジカルAI分野に参入するスタートアップの層はまだ薄く、多くの市場にホワイトスペースがある状況ともいえます。

フィジカルAIは技術的なチャレンジが多い領域ですが、今後、日本発のスタートアップが数多く生まれてくることに大きな期待を持っています。
日本はフィジカルAIの一大需要地
リクルートワークス研究所が2023年3月に発表した「未来予測2040」によると、2030年には約341万人、さらに2040年には約1,100万人の労働供給不足が発生すると試算しています。特に深刻なのが、輸送、生産工程、介護、飲食などの現場仕事です。フィジカルAIの可能性を後押しする状況と言えるでしょう。
モデルの優秀さではなく、実運用性の高さでの戦い
海外では、Physical IntelligenceやSkild AIのようなレベル4・5の汎用基盤モデルを目指すフィジカルAIスタートアップが注目されがちです。ただ、巨額の資本と人材を投じて競争している領域であり、日本のスタートアップが正面から挑むには資本力の差が大きすぎます。
また、Applied Intuitionの共同創業者兼CTOであるPeter Ludwig氏は、業界が知能だけに賭け続ければ、今後10年のフィジカルAIは停滞しそうだ。目を見張るデモと10年がかりの開発プログラムが積み上がる一方で、ラボでできることと実際に稼働しているものとの差は開いていくと述べています。そのうえで「20年後に記憶されるのは、2027年時点で最も優れた世界モデルを持っていた企業ではなく、知能を継続的に実運用システムに転換できた企業だ」と指摘しています。フィジカルAIでは、優れたモデルを持つプレイヤーが必ず勝つとはかぎらない。そう見られています。
だとすれば、あえて高次のレベルを目指さない道があります。レベル2(視覚知覚)とレベル3(器用な操作)という、すでに経済的価値が実証された「実用性」で戦う。日本のスタートアップにとっても、可能性がある視点だと思います。
特に、日本の製造業が長年培ってきた精密機械・センサー技術・現場改善のノウハウと直接的に親和性が高い領域です。レベル2・3の価値は「汎用的な賢さ」ではなく、「特定タスクにおける精度と再現性、そして段取り替えコストの削減」から生まれます。ここは日本の得意領域だともいえます。
日本の「フィジカルAIのねらい目」初期仮説
以上を踏まえると、日本のシード・アーリーステージの起業家にとって、バーティカルRaaSという入り口は最有力な候補といえます。
汎用基盤モデル競争を避けながら、規制対応や既存システム統合という「参入障壁そのもの」を武器にできるからです。また、CB Insightsの整理でいう「マルチロボットコーディネーション」も興味深い領域かもしれません。アメリカでもField AIやIntrinsicなどが存在はするものの比較的スタートアップの参入が少なく、日本の強みであるすり合わせ型のシステムインテグレーションの知見が活かせる可能性があるからです。
フィジカルAIはすそ野が広い分野です。より知見を深めて、仮説を構築していきたいと思います。ALL STAR SAAS FUNDとしても、日本の野心的なフィジカルAIスタートアップを応援していきたいので、「我こそは」という方はぜひ気軽にご連絡ください、お待ちしています!連絡先は、オンラインオフィスアワー、またはXのDM(湊 雅之、前田 ヒロ、神前 達哉)まで。
※本連載シリーズは、私たちがAIにまつわるスタートアップの事情について学んだことや感じたことを記事にしています。その時々の考えや学びを書いていくので、粗い部分も多々あるかと思います。そして急速なAIの進化によって、記載内容の鮮度が失われるペースも速まるかもしれません。どうかご容赦ください。この記事が皆さんの新たなインサイトにつながるきっかけになりますように。
参考ソース一覧
1. NVIDIA「What is Physical AI?」
2. McKinsey「The robotics tipping point: Physical AI and the race to scale」
3. BCG「How Physical AI Is Reshaping Robotics Today—and What Comes Next」
4. CB Insights「The physical AI models market map」
5. CB Insights「Our top AI market maps of 2025」
6. PitchBook「Q1 2026 Robotics & Physical AI VC Trends」
7. Bessemer Venture Partners「Intelligent robotics: The new era of physical AI」
8. Insight Partners「The state of the robotics ecosystem」
9. Lux Capital「The Age of Embodied Intelligence: Why The Future of Robotics Is Morphology-Agnostic」
10. Eclipse Ventures「The Industrial Scaling Playbook: Why Most Hardware Startups Fail」




