大手企業、コンサル、メガベンチャーでの経験を積んだ方が、SaaSスタートアップ企業へ転職する。そして、さらなる実績を挙げ、リーダーやマネージャーとなり、事業を力強く推進させるキーパーソンとして活躍する──そういったケースがより多く見られるようになってきました。
しかし、スタートアップへの転職は、身近な事例もまだ少なく、経営面や給与、働き方などの面で不安を抱えてしまいがち。キャリア設計の選択肢とはわかりながらも、「なかなか一歩を踏み出せない」という方もいるのではないでしょうか。
そこで、ALL STAR SAAS FUNDでは、キーエンス、ミルボン、ワークスアプリケーションズという大手企業からSaaSスタートアップへ転身し、自らのキャリアをさらに広げた3名にお集まりいただき、オンライントークイベントを開催しました。
SaaSスタートアップの市場価値を上げられる理由、給与面の変化、入社後に活躍するために必要なポイントなどをテーマにお話を伺います。モデレーターはALL STAR SAAS FUNDのPartnerである神前達哉が務めました。
【登壇者プロフィール】※50音順
阿部 樹生さん
株式会社hokan セールス
東京都出身。2016年ワークスアプリケーションズへ入社、大手企業向けに企業の基幹業務の統合化を図るERP(Enterprise Resource Planning)パッケージのコンサルティング営業を担当。2019年Works Human Intelligenceへ転籍し、大手企業向けに人事システムのコンサルティング営業に従事。過去全社受注額の記録を更新し、売上に大きく貢献する。保険業界のDXへの可能性に興味を持ち、2021年7月hokanへ入社。地域密着型代理店を中心とした保険代理店への営業ならびにコンサルティング提案を担当。
髙橋 優斗さん
株式会社ログラス 営業統括部フィールドセールス
新卒で株式会社キーエンスに入社し、製造業向けのSMB〜エンタープライズ向けコンサルティング営業として従事。数々の表彰を受け日本製造業の中心地とも言われる中部エリアを担当する。ログラスでは1人目セールスとしてジョインしフィールドセールス兼フィールドセールス採用人事を担う。
吉田 光さん
株式会社SUPER STUDIO セールスグループ/ユニットマネージャー
大阪府立大学卒業後、株式会社ミルボンへ新卒入社し美容化粧品の営業を経験。2019年SUPER STUDIOに入社。ECプラットフォーム「ecforce」の新規及びリプレイスの営業を担当。計200社以上のクライアントにシステム提案のみならず、サプライチェーンを含めたD2Cノウハウを提供し、ECにおける事業成長をサポートしている。
(※2022年7月22日開催のイベントより、内容を抜粋・再構成してお届けします)
SaaS企業でキャリア形成していく事例が増えてきた
神前:身近な友人や知り合いから「スタートアップ転職って、実際のところはどう?」と悩み相談を受ける機会が増えています。一つの選択肢として興味はあるけれども、成果をちゃんと出せるのか、市場価値が上がるのかといった不確実性への不安があるようです。
また、スタートアップも千差万別。いいスタートアップの見極め方、ジョインした後の活躍できる道筋、決め手になったポイント、リアルな働き方の環境など、まだまだ情報は多くないと感じてしまうといいます。
確かに大手企業からスタートアップへの転職は、数年前までは一般的ではなかったと思います。しかし、現在はBtoB SaaSを中心に資金調達がうまく進んでいる企業も増え、大手企業出身者がアーリーフェーズから上場後フェーズまで、SaaS企業でキャリア形成していく事例が多くなり、それらはデータにも表れています。
給与面などの条件に関しても、数年前までは年収を半分ほど下げてチャレンジするといった事例も聞かれますが、現在は差が少なくなっているケースもあります。たとえば、ALL STAR SAAS FUNDでも支援させていただいている、SmartHRさんの採用資料から抜粋してみますと、給与制度も透明性が高くなってきていることがわかります。
私自身も大手企業での勤務経験がありますが、昇進やグレードのアップは早くても年1回というスピード感だと思いますが、スタートアップは評価の見直しが3ヶ月に1回といった高頻度で行なわれるケースも多いと感じています。つまり、一時的に年収は下がったけれども、1年後には前職と比べても上がっていた、という状況も発生しうるということですね。
転職先にSaaS企業を勧める3つの理由
神前:スタートアップは広しといえども、私たちは名前の通りSaaS企業に特化して支援をさせていただいています。決してポジショントークではなく、転職先にSaaS企業をおすすめする理由としては、3つありますので紹介させてください。
1つ目は、SaaSのビジネスモデル自体が非常に高収益であり、フリーキャッシュフローが優れていること。サブスクリプション契約が前提という制約から生まれる魅力がある一方、自分たちの出しているバリューを継続的に届けていかなければいけないという、売り切りのビジネスモデルではないゆえの難しさもあります。
ただ、カスタマーサクセスなどの面白みは独自なものだと感じていますし、求職者側から見ても、セールスやカスタマーサクセスとして、自分たちのプロダクトやサービスに自信を持って売っていけるというよさが宿りやすいはずです。
2つ目は、成長産業であり、成長しているカテゴリーであること。本日ご登壇いただいているSUPER STUDIOも2022年6月に44億円の資金調達を発表されましたが、高い市場ポテンシャルと圧倒的な成長スピードが、ファクトベースでも見られます。そういった成長の過程にジョインしていくと、そのぶん変化も激しく、経験の獲得やスキルアップの機会にも多く恵まれるのではないかと思っています。
3つ目は、プロダクトとサービスの両輪で課題を解決していくこと。ITに関する素養を持ち、プロダクト開発のメンバーと一緒に仕事ができるのは、魅力に挙げられるでしょう。
本日は大手企業での実績を踏まえて、BtoB SaaSスタートアップに比較的アーリーフェーズから参画されているお三方に集まっていただきました。どのように転職後、活躍をされてきたのかを深堀りしながら、皆さんと一緒に学んでいければと思っております。
大きくは3つのパートに分けて進めていきます。まずは「転職前」で、どういった検討や決め手があったのか。次に「参画後」で、どういった環境でパフォーマンスを出し、昇格していったのか。そして「BtoB SaaSで活躍できる人」というテーマについても掘り下げていきたいと考えています。
スタートアップだと全部の筋肉をバランスよくつけられる
神前:それではここからは、お三方ともお話ししていきましょう。早速ですが、ログラスの高橋さんは、経歴からして異色ですね。
高橋:私はもともとプロキックボクサーで「痛くなければつらくない」という鉄のメンタルを手に入れたんですが(笑)、そのメンタルと体力を買われて、まずは株式会社キーエンスに入社をしました。キーエンスでは100種類はある「センサー」という商材をお客さまに合わせて売る、ソリューション営業をしていました。
ログラスには当時社員11人のときに「1人目セールス」でジョインしました。現在は売上創出のためにミッドマーケットチームの一員として、売上高1,000億円以下の会社様との契約を目指しています。
BizDevマネージャーと一緒に戦略を立案するところから関わっていますが、自分の仕事で最も重要なのはフィールドセールスの採用です。ログラスは「全員採用」を掲げて、「自分たちが働きたい仲間は自分たちで採っていく」というスタイル。採用戦略を引いたり、実際に面接したりするのも職務なんです。正直言って、営業で1件成約するより、採用で1名採るほうが難しいと感じてもいますね。
営業だけを担っていると、たとえば「腕の筋肉だけしか鍛えていない人」みたいになりがちですが、スタートアップだと全部の筋肉をバランスよくつけられるので、早い段階でより全身をよりよくできるのは、僕は魅力に感じていますね。ただ、大手企業からスタートアップへ移って、よいことも悪いこともありました。洗いざらいお話しできればと思っています!
「僕自身が売るイメージが湧かないもの」を売りたかった
神前:よろしくお願いします。まずは、転職先をログラスに決めた背景や、他の選択肢はあったのかを聞いてみたいです。
高橋:やはり他にも選択肢はあって、何社か悩みました。それこそ子どもを授かった背景もあり、「自由に働けて、お金も稼げる」という観点で外資系の大手企業を見ていました。ただ、たまたまログラスではないスタートアップの社長の方とカジュアル面談をする中で、自信満々に自社を語ったり、会社のミッションを熱弁したりする姿に、「楽しそう」と感じたのが、スタートアップにまず興味を持った瞬間でした。
そこから転職先をスタートアップに絞りました。その中でも大きく二つの軸があり、一つは「エンジニアが優秀なこと」で、もう一つは「僕自身が売るイメージが湧かないもの」でした。
エンジニアに関しては、僕はコードのよし悪しはわかりませんから、コミュニケーション能力の高さに軸を置いていました。密にコミュニケーションを取って会社を作っていきたいという考えがあったからです。ログラスでは選考段階でエンジニアの方とお話しする機会があり、エンジニアの方からもセールスに対する尊敬の念を感じました。「自分たちが作っているものをデリバリーしてほしい」という情熱にも触れたのが、とてもよかったなと思っています。
前職のキーエンスは「営業が強い企業」といわれがちですが、実は商品力がとても高いのです。製品がよいもののほうが自信を持ってお客さまに説明できて売れやすい。SaaSで「ものを作る」のはエンジニアですから、その人たちが優秀であることは私にとっての必須条件だったといえます。
神前:エンジニア力の高さは、面接などでどのように見極められたのですか?
高橋:本物の実力は僕にとって未知数ですから、略歴などを見るしかないところですが、コミュニケーション力の高さであれば、自分でも判断できると思っていました。もともと理系出身なので、「エンジニアっぽい人」と話す機会は多かったんです。ログラスはフランクに話してくれる方が集まっていたので、「こういう人たちとだったら、お客さまから引き出した課題をもとに、作ってほしいものを伝え合えるだろう」と感じました。
神前:もう一点の「売るイメージが湧かないもの」は、なぜですか?
高橋:せっかくキーエンスを出て、スタートアップに転じるのであれば、同じような領域で戦っても面白くないな、と。だからこそ、売ることが難しそうなところに飛び込みたい気持ちがありました。
あとは、携わる前から「売るイメージが湧くもの」なんて、おそらく競合他社がたくさんいるだろうとも考えました。自分がイメージできないくらいのものでなければ、競合優位な市場を作っていくことはできないと思ったんです。その2点で、ログラスに決めましたね。
神前:キーエンスで製造業向けの営業を担当していたところから、ログラスでは相対しているお客さまやカウンターパートが大きく変わったと思います。それでも前職から生かされている部分や、あるいは変えざるを得なかった部分はありますか?
高橋:キーエンスの文化として「これが売れると、誰の、何が、どうよくなるのか」まで考えることが徹底されていましたから、そこに共通性はありました。一方で、やはりキーエンスという看板で営業してきたのも事実です。ログラスではお客さまの信頼を得たり、商品だけではなく会社をまず知ってもらったりするところからスタートしたので、最初は大変でした。
ログラスのステークホルダーは経営陣やCFOといった視座の高い方々ですから、対等に会話できるようにインプットも変えないといけません。おかげで自分のマインドにも大きな影響がありましたね。
OTE制度で給与の不安も解消できる
神前:それでいうと、入社後すぐではパフォーマンスも出しにくかったですか?
高橋:そうですね。最初の3ヶ月くらいは結構苦しんで、結果も出せなかったんです。とはいえ、ログラスにとって僕は「1人目セールス」だったので、社内に営業のことを聞ける人もあまりいなくて。それこそ投資を受けているALL STAR SAAS FUNDが用意してくれている、メンターの向井俊介さんに相談したり、Twitterで見かけて話を聞きたいと思った方にDMを送り続けてみたり、という活動から共通解を見出して、何とかパフォーマンスを出していけるようになったと感じています。
嘘をついたり、お客さまの信頼がなかったりすると売れず、プロダクトに自信を持って関係が作れるからこそ売れる。SaaSビジネスのすばらしさが生きているな、とも感じます。
神前:給与面の部分にしても、キーエンスは高給でも知られていますが、それらが変化することへの不安はありませんでしたか?
高橋:不安はあったといえばありましたが、個人的にはもともと「もらいすぎていた」と感じていたんですよね。ログラスから提示された金額でも全然生活はしていけましたし、何かを切り詰めなければいけないほどの金額でもなかったですから。
現在のログラスでは「OTE制度」という営業インセンティブ制度を導入していまして、給与全体の6割が基本給で、4割が歩合制になっています。成果次第ではキーエンスと変わらない水準にもなってきます。
神前:プロダクトも固まっていなかったり、仕様変更があったりする中で、OTE制度は本当に有効なのか否か。この点、高橋さんのお考えを伺ってみたいです。
高橋:僕はOTE制度をスタートアップが導入することには賛成です。理由としては、営業である以上は結果で見せなければいけないという大前提があります。年俸制の営業は、むしろ僕の中で違和感が強かった。売っている人はより多くもらうことは自然かなと。
特に元外資系企業の方の場合、年棒制だとスタートアップでほぼ給与が下がることになるので踏みだしにくいという実情があると思いますが、OTE制度なら頑張り次第でチャレンジングなことができますから、やはり賛成ですね。
1年刻みで昇格、営業統括を務めるまでに
神前:では次に、SUPER STUDIOの吉田さんに、転職前のあれこれを聞いていきたいと思います。
吉田:はい、よろしくお願いします。私は2017年に大阪府立大学を卒業して、新卒でミルボンという化粧品メーカーに営業として入社しました。美容院向けのカラー剤やシャンプー、パーマ液といった頭髪に関わるプロ向け用品に強い、東証プライム市場に上場している企業です。
転職のきっかけは、自分のキャリアプランを考えたことですね。業界的に美容院の営業時間外に訪問するため、朝早くから夜遅くまで仕事をするのが慣例でした。休日も講習などに当てることも少なくありません。先輩の女性社員たちをロールモデルとして見たとき、今後の私はPCを1台持ってどこでも仕事ができるような、時間に縛られず女性が活躍できる環境に身をおいていきたい、と考えたんです。ミルボンは2年で退職し、2019年にSUPER STUDIOへ入社しました。
入社したときは60名ほどの規模感で、私は「2人目のセールス」でした。入社後の1年半ほどは2名体制でしたが、そこから急激に人数が増えまして、徐々にリーダーマネージャー、グループマネージャーといったように1年刻みで昇格していったという経歴です。
現在はグループマネージャー(イベント当時)として営業統括の立ち位置から、グループのKPIをひたすら追っています。導入件数のアップ、MRR達成のための戦略、Salesforceを用いたデータ活用の構築や運用のほかに、組織生産性を向上させるためのコンテンツ制作やトレーニングにも携わっています。
「未完成な部分」も共有してくれる会社を選ぶ
神前:早速、転職軸についてお聞きしたいのですが、ミルボンという大手企業の経験を生かすとしたら、同じく化粧品会社の資生堂やコーセーといった企業も視野に入ってくるかとは思います。その中で、スタートアップやITにキーワードを絞った理由は何でしたか?
吉田:化粧品自体は大好きなものでしたが、業界で働いてるときに感じたのは、景気の変動にいい意味でも悪い意味でも左右されない商材だということです。「景気が悪いから美容をやめよう」とはなりにくいですよね(笑)。そのせいか、業界自体もアナログなところがあり、世間の流れやビジネストレンドに「取り残されている」という感覚が強かったです。一方でITはこれからも伸びていく部分で、私が転職を決断した3年半くらい前には、特にECが盛り上がっている只中でしたから、興味を持ちましたね。
神前:未知の業界に飛び込むことに不安はありませんでしたか?
吉田:わくわく感が勝って、不安はなかったです。正直、自分が何をするのかもそれほど考えずに、SUPER STUDIOは人の魅力で入社を決めたところがありました。わくわく感の源は、新しいことにチャレンジしていけることです。高橋さんもおっしゃったように、自分が経験したことのない領域を、学びながら取り組むことに楽しさもありました。
面接の過程でオフィス訪問をさせていただいたのですが、SUPER STUDIOのメンバーの目がいい意味でギラついてるというか(笑)。生き生きしていて、いい雰囲気だったので、私の中でも楽しみが増しましたね。
神前:一緒に働く人を見極めるために必ずしている質問や、相手から返ってきたら好ましい反応など、吉田さんなりの分析術があれば、ぜひ教えてください。
吉田:SUPER STUDIOの面接を受けたときはフランクな雰囲気で、他愛もない話から真剣な将来のことまで、ざっくばらんに話してくれたんですね。ルールなどが整っていないベンチャーならではの面も率直に教えてもらえました。そういう「未完成な部分」もちゃんと伝えてくれたのはポイントになったと思います。
神前:カジュアル面談で確認したほうがよい点など、アドバイスはありますでしょうか。
吉田:ビジョンも含めて「会社が何を大事にしているのか」を見ることですかね。弊社は人をとても大事にしている会社ですが、会社の成長に合わせて事業形態や組織がどんどん変わっていくからこそ、会社が軸にしている部分が何なのかが大切だと思います。
アンラーンしている人ほど立ち上がりが早い
神前:ミルボンという大企業からSUPER STUDIOに移られて、相対しているお客さまが変わり、向き合うスタンスやコミュニケーションにも変化があったと思います。そこでのギャップ、あるいは経験が生かされたポイントはありますか?
吉田:化粧品メーカーですと新商品が頻繁に出て、商品ラインナップが変わることはあまりなかったのですが、SUPER STUDIOはSaaSとして、特にECプラットフォーム「ecforce」の場合は毎月20個程度の新機能が出るため、サービスそのものがずっとアップデートされていくことは驚きでした。次々と出る新たな機能のキャッチアップをし続けないといけません。
また、ECだけでなくITやシステムにまつわる幅広い知識を持って営業しないといけないところが、最初にぶち当たった壁でしたね。高橋さんも最初は苦労されたとのことでしたが、私も入社後の半年くらいはくすぶっていました(笑)。
SUPER STUDIOにとっての「2人目セールス」で、マニュアルなども全然なかったため、セールスの1人目として入社された先輩の商談に同席したり、セミナーをたくさん聴講したり、業界本を読み漁ったりと、ひたすらインプットしていきました。そういったことを半年ほど続けるうちに、知識の点と点がつながっていく感覚が持てるようになりましたね。
神前:前職の経験からアンラーンすることも多かったですか?
吉田:両面ありまして、経験が生きた部分としては、前職で美容師さん向けに毎日のようにセミナーをしていたことで「伝える力」や「プレゼン力」がつきました。わかりやすく内容を伝える、しかも面白くないといけない。つまらないと寝てしまう方も多いので(笑)。
新しく学んだ部分で言うと、営業スタイルでしょうか。どちらかというと前職はルートセールスで新規開拓がメインではなかったので、オンライン商談の1時間で確度を上げきる営業というのは、まったくスタイルが違いました。だからこそ、アンラーンしている人ほど立ち上がりが早いと感じますし、それまでのプライドを捨てて学び直すことが大事だと思います。
主体的に誰もボールを持っていない業務を取りにいく
神前:では最後に、hokanの阿部さんに、来歴から伺っていきましょう。
阿部:私は1993年生まれの東京出身で、今年29歳になります。2016年に新卒入社でワークスアプリケーションズに入りまして、いわゆる人事や会計のシステム、サプライチェーンマネジメントといわれる基幹システム周りの新規提案をしておりました。
2019年にWorks Human Intelligenceという別会社に転籍して、引き続き人事システムの新規営業をしてきましたが、2020年の7月にhokanへ転職しました。きっかけはワークスアプリケーションズ時代の同期がhokanの事業責任者を務めていて、声をかけられたことでした。
ワークスアプリケーションズは多いときには約8,000人の従業員がいましたが、私がhokanに入ったときは20名くらいの規模でしたから、組織の違いによるたくさんの壁にもぶつかってきたように思います。
神前:現在はどういった職務に就かれていますか?
阿部:まずは、エンタープライズ向けの営業として、KPIの策定や営業戦略の立案、それらを実行に落とし込むところまで実施しています。
それから、組織間連携として、組織の間に「落ちてしまった業務」の遂行。これは「スタートアップあるある」だと思いますが、そういった課題や業務を自ら拾いに行っています。主体的に誰もボールを持っていない業務を取りにいくことは、かなり大事だと思っています。それを続けることで、いろんな仕事も舞い込みやすくなります。
具体的には、エンタープライズ向けの営業をする傍らで、私1人でインサイドセールスもすべて担っていたり、ユーザー向けミートアップの企画から実行も務めたりしてきました。「営業」という枠に囚われないかたちで、いろいろな業務を担当していますね。
あとは、高橋さんとも重複しますが、弊社も「現場社員が採用する」といった考えのもとで、求人票の作成、スカウトの送信、実際の面談といった採用関連の動きもあります。
神前:hokan入社の決め手は何でしたか?
阿部:私も「人」に重きを置いていたかな、と思っています。きっかけこそ元同僚から誘ってもらったことでしたが、彼は私にないものをかなり持っている人間で、「この人と一緒に働けたら面白いだろう、自分も成長できるはずだ」という思いから転職を決めました。
神前:前職の経験や体験が生きた場面はありましたか?
阿部:ワークスアプリケーションズは営業力が高く、製品を問わずに通用する営業マニュアルといったものも用意されていますから、それらの学びがhokanでも一定で通用しているとは感じます。
前職では1,000名以上の大企業をターゲットに、対面するのは部門長や執行役員、課長といった担当者の方とやり取りさせていただくケースが多かったのですが、hokanは初回商談から社長や取締役であるケースがほとんどです。最初はそのあたりに戸惑いましたかね。
異なる成功体験を積めるのがキャリア形成においても魅力
神前:hokanは保険代理店に特化したバーティカルSaaSですが、そこで生かされているスキルであるとか、「それならではの面白さ」は感じますか?
阿部:保険はレガシーな業界で、顧客管理一つとっても、基本的には紙やExcelで管理していたり、レガシーなシステムを入れていたりするケースがほとんどです。それゆえに、システムをhokanに切り替えていただいた際の業務改革インパクトが大きくなります。お客さまの反応も前職とはまったく違うものを得られるのが魅力ですね。
神前:バーティカルSaaSにチャレンジされる方から、業界の知見がなく、コミットに対して不安になるという声を聞きます。阿部さんはその不安を払拭されたのか、あるいはどういうふうにキャッチアップされたんですか。
阿部:その不安は僕も強くて、入社当時は3ヶ月ほどまったく結果が出ませんでした。おそらくその理由は業界知識がないことだと考え、社内には保険業界の出身者や業界に強く関わっていたメンバーが多かったので、彼らに聞き回ってキャッチアップしていきました。当時20名くらいの会社でしたから、キャッチアップするためのドキュメントなどもそろってはいなかったので、ヒアリングして整備しつつ、周りに聞きまくるやり方で進めました。
正直なところ、hokanに入社する前は保険業界にそれほど興味もなかったですし、保険加入者でもありませんでした。ただ、転職時に、手掛けるものが市場に対して「どれくらいの価値が提供できるのか」を重要な指標として見ていたところがあり、実際に入ってみても、hokanが提供できる価値がとても大きいことがわかったんです。そういったイメージを選考段階から持てていると、業界を変えようとする覚悟が芽生えやすくなるのではないかと思います。
神前:営業としての汎用的なスキルを持ちつつ、業界知識や商材のキャッチアップをしていくことで適応させていくイメージを持ちました。ただ、やはり経験のある単価感というのも自己分析や転職軸を整理していく中で重要になるのだろうと、阿部さんのお話から思いました。
阿部:ありがとうございます。実は、私も単価の低いものを売っていきたいという考えもあったんです。単価が高くなるほど営業サイクルがどうしても長くなってしまうと思います。前職も1年から2年の検討が当たり前で、なかなか成功体験が積みづらい環境ではありましたから。単価は低くとも数多く売るという成功体験を積めるのは、hokanに移って期待できる魅力の一つだったといえます。
大手企業で得た経験、SaaS企業でも生かせる?
神前:ここからはテーマ別に、みなさんに聞いていきたいと思います。まずは一部重なるところもありますが、転職を振り返って「大手企業の勤務で得た経験やスキルで、SaaS企業で生かせるもの/生かせないもの」というテーマです。まず高橋さん、いかがですか?
高橋:トップバッターありがとうございます(笑)。大手企業「だから」得られた経験なのか、それをSaaS企業「だから」生かせているのか、という観点ではないかもしれませんが、僕はスキマ時間を使うテクニックはとても身につきましたし、役立っています。
キーエンスの教えとしては「朝8時から夜17時までは絶対にお客さまのところに居なさい」と。そして帰ってきてから顧客対応をするのですが、勤務は週40時間以内にまとめないといけない。そうなると、メールを空いた10分で返し切るなど、とにかく先回りでタスクをスキマに埋めていくような進め方が欠かせません。
生きなかったスキルは実際たくさんあるのですが、僕は商談経験がほぼオフラインだったのですが、ログラスでは逆にほぼオンラインになっているところ。それまでの「立ち寄って関係構築をしていく」といったスキルは残念ながら生かせなかったです。
吉田:ミルボンは研修期間が長めで9ヶ月ほどありましたが、大手企業はそういった研修体制が整っており、それらをフル活用できる環境だと思います。私はそこでビジネススキルや営業の基礎をたたき込まれたので、それらが生きていると思います。あと「根回し力」の経験を積めたのも役立っています。
生きなかったところは、スピード感が全然違うことですね。私の体感では今は3倍速で仕事をしているような感覚です(笑)。大手企業にありがちな承認ルートをたどるスピード感や組織編成、戦略面についても考え方を変えていかないと本当に取り残されてしまいそうになります。
阿部:育成面は、私も生きたところでしたね。大企業で研修制度もしっかりしていますし、かなり丁寧に教えてもらいました。今度はそれを自分が考える側になったとき、似たようなかたちでhokanの後輩に提供しようとしているのも、生きている点だと思っています。
マネジメント経験がなくとも挑戦の機会がある
神前:この質問は吉田さんにまず伺ってみたいと思うんですけれども、かなりのスピードで昇格されてきているわけですが、SUPER STUDIOはどういった評価サイクルになっているのでしょうか。昇格を実現したご自身のパフォーマンスについても聞きたいです。
吉田:評価のタイミングとしては年2回ですが、弊社は状況に応じて、組織がどんどん変わります。本当に3ヶ月に1回、新しい組織が生まれたりとか、リーダーに昇進したりといったことが頻繁にある環境なんです。
私自身もマネジメントの経験が前職であったわけではまったくなかったのですが、プレーヤーとして成果を出せているところを評価していただき、上長からマネジメントのノウハウを現場で教えてもらいつつ、今の職務につながっていきました。今はマネージャーとしてフィールドセールスも含めた全体の営業統括を任せていただいているため、この1年間ほどで一気に変わりました。
神前:このスピード感って、大手企業ではなかなか難しいでしょうね。
吉田:そうですね。私は今年28歳になる年ですが、20代で事業部長といったレイヤーを経験させてもらえるのは私のキャリア形成においてプラスになっていますし、大きな財産です。
神前:シリーズAからシリーズBくらいのフェーズで、50人から100人規模の会社でパフォーマンスを発揮し、裁量権をどんどん取って、マネジメントや企画に携われるのは魅力的ですよね。ただ、それだけに学ぶべきことも増え、なかなか成果が出せなくなる人も結構いるようです。成果を出すために、吉田さんが意識されていることはありますか?
吉田:一つあるのは、フェーズごとに起きる困難はさまざまですが、新入社員のオンボーディングの仕方は意識しています。実は2名体制のセールスから5名ほどに増えたとき、離職が続いてしまいました。当時は早く現場に出て活躍してほしいという思いが勝り、今思えばトレーニングの組み方や現場のフォローが適切ではなかったと思います。
この出来事をきっかけにオンボーディング期間が重要だと気づき、トレーニング制度を作ったり、入社後の1ヶ月間は毎日1on1の時間を設けてその日にわからなかったことはその日に解消できるようにしたりと試行錯誤しました。マネージャーレイヤーの予定が詰まりがちで現場からの相談を受ける時間が取れないことは、最もよくないことです。いかにオンボーディング体制を整えられるかを意識して、そこからはセールスも一気に13名ほどにまで拡大しました。
10年在籍しないとできなかったことが、入社9ヶ月で体験できた──転職して感じた「よかったところ」
神前:改めて、大手企業から転職して感じる「よかったところ/悪かったところ」をあえて挙げるとすれば、どういった点になりますか?
高橋:いいところはたくさんあります。まずは、大手企業にいたら10年はいないと経験できないようなことを9ヶ月でいろいろ経験できること。それに、ログラスというまだ誰も知らない会社のサービスを、みんなが知っているような企業に導入してもらい、名前を轟かせていくのは大きなロマンを感じますから、シンプルに楽しいんです。
悪かったところ、というより前職との比較で難しいところで言うと……売れなかったときやうまくいかなかったとき、人数が少ないのもあって会社へダメージを与えやすいので、責任感を持って取り組まないといけない。それが苦しい局面も正直ありますね。
吉田:よかった点は、率直に言って給与面も大きいです。転職時に年収をグッと下げて未経験で入りましたが、結果的に今は当時の倍近い年収になっています。自分の頑張りをきちんと評価してくれる会社ということも嬉しいですしね。
大変だなと感じるところは、高橋さんのお話にも共感するのですが、本当に泥臭く、案件ごとの重みを感じながら日々のセールスに当たらないといけないことですね。大手企業だと目標が未達であっても会社が傾くようなダメージにまで至るケースは少ないですが、スタートアップでは未達のインパクトは大きいというか(笑)。数字を作ることの責任は大きいですし、自分の価値を自分で作っていくこともとても大事です。
一方で、「自分がやりたいこと」を発信し続けると、専門部署ができたりポストを用意してくれたりというアクションにもつながりやすい。逆に、何も発信しなければ自身の価値を十分に発揮できないともいえます。自分の存在価値をどんどん生み出していける感覚があり、全てが自分次第であるのは、よし悪しといってもいいかもしれません。
神前:チャレンジできることはよさもあれど、失敗するリスクもあります。SUPER STUDIOとして、失敗に対しての許容度はどのように考えられていますか?
吉田:「何かやってみよう」というとき、弊社の場合はデータをちゃんと見ます。そして役員などにもアドバイスもらいながら、「本当に効果的な策なのか」を壁打ちして進めます。もし一度失敗したとしても方向をチェンジすればいいだけの話ですから、経験を積んでいって「次へ次へ!」と向かうスピードを速めることを意識しています。
神前:ログラスさんはどうですか?
高橋:チャレンジに対する失敗に対しては、許容度はもちろん高いです。失敗に何か言われることはまったくないのですが、「ドンマイ、次を頑張ろうぜ」とはならず(笑)、なぜ失敗してしまったのか、次はどうしたらいいのかを、しっかり話し合います。許容はされるけれど見過ごされない、ということですね。
BtoB SaaS企業に向いている人のマインドセットは?
神前:最後に、視聴者の方からみなさんの企業がどういったマインドセットの人を求めているかという質問が来ていますので、ぜひお答えいただければと思います。ではここまでと順番を逆にして、阿部さんからお願いできますか。
阿部:採用でいうと、やはり主体性が最も大事かと思います。「組織の間に落ちるボール」が多いですから、そこをメンバーと連携しながら、主体的に巻き取っていくようなマインドセットは、hokanが求めているようなスキルになると思っています。
hokanはレガシーな業界を変えていける可能性が大きい会社だと信じていますから、テクノロジーでそれを変えて発展させていきましょう!
吉田:私が選考書類を見るときのポイントとしては、継続性が大事だと思っています。短期的な単発の達成は頑張ればできても、継続して成果を出し続けられるか否かはまた別の話ですからね。あとは自発性です。自ら情報収集できたり、開拓していけたりする意欲があるのかは注視します。
SUPER STUDIOはフィールドセールス、エンタープライズセールス、パートナーセールスを積極的に採用しています。自分の提案したブランドのECサイトがオープンしたときの喜びはとても大きいですし、まだまだ弊社としてもさまざまな企業のECを改善していきたいです。ぜひカジュアル面談から気軽にお話しできたら嬉しいです。
高橋:ログラスにいて感じるのは、やはりアンラーンできることに尽きますね。業界知識はなくてもまったく問題ありません。知らないけれど、そこから知ればいいだけです。それよりも自分が今までやってきた過去の営業を消化して、しっかりインプットできることのほうがよほど大切でしょう。
あとは、人の意見で成長できること、それをしっかりアウトプットできること。アウトプットしないと、自分の仕事を整理できませんから。そして、会社を愛し、プロダクトを誇りに思って説明できる方と、一緒にログラスを成長させていきたいと思っています。
ログラスは基本的にエンタープライズ向けで、誰もが知っている会社へ営業します。CFOなどの経営層や経営企画という、社内の実情を知る方たちと視座の高いお話をしながら、ログラスを埋め込んでいく。それによって企業が成長し、またログラスも成長していくというのは、楽しい経験になっています。僕もMeetyやTwitterにいますので、カジュアル面談から気軽にお話しさせてください!
