いま、SaaSスタートアップの転職事例として増えているのが、Sler出身者の活躍です。転職希望者との面談を重ねると、システムを司る意味では共通点もあれば、両者には大きな違いもあり、それが不安感にもつながっているようです。また、不安定なスタートアップへの転身はキャリア形成の面でも不利になると考える傾向も見えてきます。
しかし、実際にSIer出身者がSaaSスタートアップで活躍している例が増えているということは、それらの不安や恐れが、現実との見えにくいギャップとして働いているだけかもしれません。
そこでALL STAR SAAS FUNDでは、SIerでの経験やスキルが生かされる場としてSaaSスタートアップが十分にあり得ることを見るべく、元Slerの経験を持ち、現在は法人向けECプラットフォーム「ecforce」の提供を軸にEC/D2Cのトータルソリューション企業として飛躍を続ける株式会社SUPER STUDIOのCOO・花岡宏明さんにお話を伺いました。
花岡さんは大学卒業後、新卒でNTTデータに就職。大手金融系サービスのプロジェクトマネージャーを経験し、SEとして約4年の実務経験を持ちます。NTTデータから独立後、システム開発やWebマーケティングを行う会社を起業した後、SUPER STUDIOを共同創業。現在はプロダクト開発、マーケティング、セールス、カスタマーサクセスといった分野の統括者を務めるほか、会社全体の組織や文化形成、ファイナンスの領域も管轄しています。
Sler出身者は、SaaSでいかに活躍できるチャンスがあるのか。ALL STAR SAAS FUNDのパートナー・佐伯裕人がインタビューしました。
知識があれば、チャレンジできる良い環境が見えてくる
──まずは、NTTデータから転身してWebマーケティングの会社を起業するなどスタートアップにチャレンジしようと考えられたきっかけを、ぜひ聞かせてください。
花岡:Slerはビジネスモデルの特性上、クライアントワークが占める割合が大きくなります。本来的にはエンドユーザーに対して提示したい価値や最適解があったとしても、工数の兼ね合いで実現できなかったり、目指すビジョンと合わなかったりして取り組めないことも多いものです。つまり、エンドユーザーに近い形での課題解決にならないこともあります。
僕もSlerとして4年働いてきて、「もっと自分が共感する課題解決に対して、直接的に意思決定していけるような形で関わりたい」と思ったのが、自社プロダクトを運営していくような会社を自分で立ち上げたきっかけです。
──当時独立されたとき、スタートアップに対する関心を持たれる方々はいましたか?
花岡:僕がいたのはSlerでは最大手の部類でしたから、同僚も大企業志向の人がほとんどで、スタートアップへの転身や起業に臨む人はほとんどいない印象で、転職でもさらに給与面でのアップが望める先を選ぶケースが多かったように思います。
もっとも大手企業は充実した社内研修機会も設けられ、アサインされたプロジェクトを必死に頑張るので、外の世界とのコミュニケーションやコミュニティとの関わりが日常にはあまりないんですよね。だからこそ、スタートアップやベンチャーという選択肢がそもそも浮かばないというのが実態ではないでしょうか。
──スタートアップは不確実、不安定、不透明、といった要素がどうしてもあり、それらはリスクとしてみなされやすいのだろうと思います。「リスクを取ること」について花岡さんはどういった価値観をお持ちですか。
花岡:基本的には「リスクを取らなくて済むならそれでいい」という考えです。ただ、何かを変えたい、チャレンジしたい思いがあるなら、限界までリスクを取ります。そこで考えるべきは「自分にとってのリスクとは何か」になるでしょう。
僕自身としては、現在Slerとして働いている、特に大手Slerに勤める方がスタートアップへ進むのは、一定の価値観が合うならば、とても良い道だと思っています。
安定した環境にいる方からスタートアップを見ると、チャレンジングではあるけれども、やはり「倒産」などを理由に安定的に仕事ができなくなってしまうことがリスクに映るはずです。でもそれは逆に言うと、ちゃんとスタートアップに対する知識を持てば、ある程度の規模で資金調達を行っていて、事業がどれくらいのフェーズにあるスタートアップなら、リスクヘッジされた状態なのかなどの見極めの基準がわかってくる。つまり、知識があればチャレンジできる良い環境が見えてくるわけですね。理解度が深まるほど、チャレンジできる人も増えていくはずです。
問題解決能力の汎用性は活かせるスキル
──花岡さんなりの「リスクを整理するときの思考法」といえば?
花岡:僕は「石橋を叩いて渡るタイプ」なので、リカバリーが利くかどうかをよく見て、考えます。経営の意思決定も同様ですが、リカバリーが利く範囲なら取ってよいリスクだと判断しますね。
それで言うと、Slerからスタートアップへの転職は仮に失敗しても、リカバリーが全然利くキャリアだと思うんです。正直なところ、そこのリスクはほぼないと言っていい。今はどこもIT人材が枯渇しており、スタートアップに限らず、エンジニアやPMといった職種なら転身先はまず困らない状況です。それに能力の高い方ほど、SlerよりもSaaSのほうがキャリアの幅も広がりますし、評価されやすい環境にあるはずです。
──Slerで活動して得られたスキルセットで、転身後にも活かせたものはありましたか?
花岡:僕はファーストキャリアのNTTデータでいろいろなことを学ばせてもらって、ほんとうによかったと思っています。総合的に、今でも活躍しているスキルで挙げるなら「問題解決能力」ですね。
SlerでPMやSEとして働いているなら、問題解決フレームワークなどを何かしら学んでいる方が多いのかなとは思うのですが、問題解決能力の高さは応用が利きやすいんです。<yellow-highlight-half-bold>課題や問題を見たときに、「現状分析をし、原因を深掘り、真因を特定する」や「PDCAを回す」といった思考プロセスになれるのは、あらゆる場面で共通してきます。<yellow-highlight-half-bold>
人によってスタートアップの定義は分かれるかもしれませんが、SUPER STUDIOは前回のラウンドまでほぼ自己資金で続けてきた会社です。受託開発などで食いつなぎながらサービスをつくってきましたから、何でも自分たちでやらなければならない状況でした。
開発は当然ながら、マーケ、セールス、カスタマーサクセスといった各セクションの業務、組織づくりやファイナンスに至るまで、どんどん自分の領域を広げていけたのは、質問力や問題解決力といった基礎力があったからだと思うんです。あとは、スケジュール進行やタスク管理といった、いわゆるプロジェクトマネジメント能力も。
そういった意味では、Slerのキャリアは基礎力が身につく仕事が多いですし、それらが汎用的な能力になってくれました。
──逆に、スタートアップで生きていくうえで、新たに身につけなくてはならずに苦労したスキルやマインドもあれば、聞いてみたいです。
花岡:マインド面としては自分の守備領域を決めないこと、たとえば、「システムエンジニアで入社したからシステムの設計しかやりません」とはいかない。どういったフェーズのスタートアップに加わるかでも変わりますが、設計だけでなく開発まで手を動かしたり、テストも自分でやったりする必要も出てきます。
つまり、自分の守備領域を決めないでいるということは、いろんな領域の仕事に手を出すことでもあり、それによって身につく能力も多々あります。変化そのものを自分の成長として楽しんでいけるマインドがあるほうが強いですね。
Sler→SaaSはうまくいくが、SaaS→Slerはうまくいかない
──ここからは「今、Slerにいる方が、スタートアップのSaaS業界でいかに活躍できるのか」を見ていきたいです。花岡さんにはどういった活躍のイメージが浮かびますか。
花岡:結論から言えば、活躍はできます。ただ、条件を一つ設けるなら、これはSlerとSaaSの差そのものではあるのですが、仕事の目的意識を「計画を滞りなく遂行する」ではなく「ユーザーのためにより良いサービスをつくりたい」に置くことです。
例として、Sler出身のシステムエンジニアと、ファーストキャリアでSaaSに入ったシステムエンジニアを比較すると、システム開発を0から10まできっちりやりきる能力があるのは、僕は100%Sler出身者だと思います。
Slerはクライアントワークだからこそ、お客さまに一つひとつの設計書やソースコードも含めて納品しますから、他者が客観的にわかるような形でアウトプットを提出しなければなりません。システム開発を正しく行う上でやるべきことを学べて、必然的に作るものが「かっちり」としていく。
一方でSaaSは納品する必要がないからこそ、アジャイル開発で効率高く作り続けていくスタイルで、ある意味では「適切に手を抜くのが正解」です。おそらくSaaSの方に「Slerのように仕事をして」と伝えても、おそらく難しいはず。ただ、Slerの方は0から10まで知っているからこそ、適宜手を抜くというスタイルにも合わせやすい。言い換えると、大は小を兼ねるという感じですね。
SlerからSaaSはうまくいくけれど、SaaSからSlerはたぶんうまくいかない。設計書をしっかり整えるのに工数をかけるのがつらくなっちゃうでしょうし(笑)。仕事の特性の差だと思うので、Slerはスキルとしては要件を満たしていると思うんです。
あとは、このスキルを気持ちよく使い、いかに達成感を得ていくか。それがモチベーションになるかが結構大事ですね。Slerだと「決まったものを決まったとおりに納品する」と「パーフェクト!」になるわけですが、SaaSは朝令暮改もある世界です。それをストレスに感じてしまうのは、「決まったことを決まったとおりにやりたい」という期待値があるからなんです。
──なるほど、そういう意味でも目的意識の差も表れてきそうです。
花岡:そうですね。それが「ユーザーのためには変えるべきだ」と腹落ちしていたら、優先度が変わることはストレスにならないはずなんですね。その環境に慣れることにやや時間はかかるかもしれないですけれど、<yellow-highlight-half-bold>Sler出身者でも根本的にエンドユーザーに与える価値を高めることを目的にモチベーションを持てる方であれば、SaaS領域は楽しいと感じるはず<yellow-highlight-half-bold>です。
SIerもSaaSも「お客さまの価値を高める」というマインドは共通して持っているはずですが、前者は比較的「顕在化した期待値の範囲で、頼まれたことをやり切る」ケースが多いのに対し、後者は「ユーザーの潜在的なイシューも考えながらソリューションを提供し続ける」ことが特徴だと思います。
SIerは、クライアントやユーザーと握ったスコープの範囲内で、確実に期待のものを提供していく。SaaSは、クライアントやユーザーが持っている期待を超えて進化しながら価値提供をしていく。そこに両者の違いがあるように感じます。
コードを書けるか否かで、活躍の仕方が変わる
──Slerと一口にいってもキャリアは異なるものかと思いますが、どういった経験を持っているとより望ましいですか?
花岡:キャリアの幅という観点で見ると、Slerの中でも分岐があると思います。それは、コードを書けるか否か。コードを書けないと活躍できないというわけではなく、SaaSに飛び込んだ後の「活躍の仕方」が変わるんです。
というのも現状の業界として、日本国内ではPMとエンジニアの給料が逆転していますよね。エンジニアのほうが相場が高いはずです。でも、昔の日本のSlerは、いわゆる上流工程をやるPMのほうが給料は高く、下請けの「プログラマー」のほうが給料が低かった。キャリアの給料のトップラインがそれで決まってしまう。ところが、スタートアップはこの環境が全然変わってきていて、エンジニアでもしっかりと高給が払われるようになっています。
この背景の一つは、昔のSlerの仕事では、言わば「設計書が命」でした。厳密な設計書をつくり、下請けのプログラマーはそのとおりにコードを書けばいいという構図だった。僕もかつて、オフショア先でプログラマーとして研修を受けたときに「誰が作っても100%同じものができるレベルの設計書」が納品されてきた経験があります。つまり、上流工程の重要性が凄まじいからこそ、PMも高給だったわけです。
これがスタートアップになると、設計から実装は密に結合していて、さらにQAや品質保証までエンジニアで完結するような思想になっています。PMと下請けプログラマーが担っていた領域の8割方をエンジニアが手掛けるようになっており、スペシャルな人材がいれば、それこそ一人でプロダクトを作りきってしまうことも可能になっています。
そういった意味で、キャリアの分け目がどんどん変わってきていると思うんです。だからこそ、エンジニアには高い価値がある。特にコードを書けるPMは、エンジニア側に寄り添えますから、チームビルディングの観点でもワークします。
今までみたいに上流と下流が完全に分離していない環境では、「コードを書けないけれど設計はできる」という人だと、エンジニアとのコミュニケーションが合わなくなってきて、パワーバランスも崩れているので、ワークしにくいイメージがあります。
そういう方の場合は、プロダクトのマーケティングに関するスキルを伸ばし、いわゆるPMMの領域でキャリアを発展させていくことを考えてもいいでしょう。ビジネスサイドに寄っていくのは、それはそれでSaaSでは価値が高いですからね。
Slerの頃にどういう経験をしたかで、SaaSの世界に飛び込んだあとに、どういう仕事でより良くワークしていくのかが分かれる、というのが僕のイメージです。
──PMMとPdM以外にもSlerの方が活躍できそうなポジションはありますか?
花岡:問題解決能力を使った技術営業や、SUPER STUDIOはECサービスを提供していますから、他のECシステムから移行する際の「移行チームのPM」といったキャリアもあり得ますね。
技術的な工数の見積もりがうまいことが大切
──Slerの方は複数のステークホルダーの利害関係を鑑み、うまくハンドリングしながら仕事を進めていくのも特性の一つだと感じます。ミドルマネージャーや、プロジェクト内のリーダーとしてもフィットしていきますか?
花岡:まさにPMMの領域ですが、その能力は生きてきますよね。そこでSler出身者が強いのは、上がってきた要望に対する技術的な工数の見積もりがうまいこと。SaaSは要望に対して、どれが一番インパクトがあるのかを工数とのバランスを見て、優先度を決めていきます。その際の評価軸は2つあり、「解決することでどれだけインパクトを出せるか」という業界への知識と、「実装するために必要な工数を見積もることができるか」という業務への理解です。
前者の業界理解はマーケティングの領域なので、やっていかないと身につきません。一方で技術的な見積もりは、できない方がすごく多いもの。それゆえにカオスな優先度づけになってしまっている会社さんを僕はいっぱい知っています……。
実際に SUPER STUDIOの例で言うと、コードをバリバリと書くよりは設計寄りのSler経験者が今年の4月頭に、カスタマーサポートやカスタマーサクセスを率いる「カスタマーマネジメント」組織のグループマネージャーになったんです。なぜかというと、お客さまの要望を吸い上げてから開発へ落とそうとしたときに、優先度の判断づけができるから適任となったわけです。
──すばらしいですね。Slerの方が大役を任されている、心強い例だと感じました。
花岡:そうですね。SUPER STUDIOはSler出身者が活躍しています。入社後、1年も経たずに事業部長を務めている者も2人いますから。
SaaSの転身は「インパクト」と「キャリアの広がり」が魅力
──Slerの方だからこそ活躍できる領域が見えてきたように思います。ここからは「SaaS業界で働く良さ」を、メッセージとして届けていきたいです。「SlerからSaaSに飛び込むべき理由」がもしあるのなら、花岡さんはどういった点を挙げられますか?
花岡:それはSaaSにはSaaSの良さがあり、SlerにはSlerの良さがある、という話だと思うんです。
まずSaaSは、多くの人が「これは課題である」と感じているような共通の課題に対しては、強力な解決策になると思っています。ITの歴史を見ても、労務管理や会計管理といった、全ての法人がルールのもとで共通してやらなければならない業務があり、それらには明確な正解かつゴールがあります。
そういった共通の課題を解決するには、100社がそれぞれ独自でツールを作っていくのは非効率ですから、その点でSaaSはとても合理的です。多くの企業がスクラッチで作らなければいけなかったものを低コストで使えるのですから。それは、多くの人の共通課題を解決できてインパクトを与える意味では、SaaSに携わることのメリットで楽しさともいえます。
ただ、実際にSaaSで働く側の体感でいうと、多くのお客さまの課題解決ができる楽しさがある一方で、個社ごとの要望はどうしても全ては聞けないところがあります。たくさん寄せられた意見のうち、全体とのバランスで優先順位づけをしますから、一社ごとに向き合って100%の要望をかなえることはできません。社会的インパクトを取るという裏には、小さい声は犠牲にしている、ともいえるわけです。
一方で、Slerはクライアントワークであり、工数という制限はありますが、一社ごとの要望に100%向き合って、解決していくこともできます。働く側として、そこで好き嫌いは分かれていくのではないでしょうか。ただ、SUPER STUDIOに転職してくれてきているメンバーは、誰もが「大きな課題を解決したい」という思いを持ち、自分たちが業界を切り開いていきたい、良いプロダクトにしていきたい、といった環境で仕事をすることの意思を持っていますね。
──SaaSに入ることでキャリアの幅も広がり、共通課題の解決やインパクトを生み出せる可能性はあるかもしれないですが、「誰かのための100%」は難しいかもしれないと。
花岡:もっとも、先ほど話したように、SaaSスタートアップで働くことでキャリアとしての広がりが出ていくのも事実だと思います。総じて、キャリアのトップラインも上がっていきやすくなります。また多くの人の課題を解決できれば、それだけ収益性も高まります。結果として、それに対してビジネス構造上、キャリアの幅や給料の面などでもアップデートされる可能性が、SlerよりもSaaSは高くなるとはいえるでしょう。
時代に合ったキャリア戦略としても、SaaSは推せる
──もし、花岡さんが今もまだSlerとして働いているとして、再びSaaSの世界へ飛び込もうと思いますか?
花岡:事業選定としても、キャリアとしても、SaaSを選ぶでしょうね。
Slerはクライアントワークであるがゆえに、目の前のタスクにしても資料作成などの「仕事のための仕事」が増えていきがちで、それらをこなしている間にはキャリアの成長は鈍いままです。しかしSaaSは、やらなければならないことだらけで、それこそ無駄なことを続けているわけにもいきません。「意味がないならやめよう」と言えてしまうんですね。意味のあることにこそパワーをかけられるので、キャリアの成長も著しくなります。
個人的にはSaaSのほうが仕事をしていて「面白い」と感じる場面が多いです。特にエンジニアリングに携わる人の多くは面倒くさがりじゃないですか(笑)。無駄な仕事を嫌うからこそ、システムにも長けていくわけですよね。無駄を省くことを意思決定して、環境を良くしていけるのは、SaaSという場で仕事をする理由の一つともいえるかもしれません。
技術についても同様のことがいえます。業界的に主流となる技術や新しい技術を用いて、コスト削減や多様性の向上を図り、主体的に変えていくことができる。これは自社プロダクトを自分たちで作っているからこそです。技術者としても、こちらの環境のほうが技術力や技術の幅が自ずとついていくと思うんです。
僕は大手金融系のシステムにも携わっていましたが、実際のところ、とても古い技術が使われているような実情もある。そこにフラストレーションを感じている方は実際に問題として多いはずです。世の中と信じられないくらい技術の差がついている環境にいることは、技術者として通用する自らの将来性を狭める恐れもあるんですよね。要は「そこでしか通用しない人材」になってしまうかもしれない。
実際に、Sler出身者の転職で多い悩みが、「ウォーターフォール開発からアジャイル運用に対応できるか」と「最新の技術に弱い」ということなんです。
──クライアントワークだと技術レベルがお客さまの環境に依存してしまうわけですね。
花岡:Slerだとキャリアのアップダウンも、Slerと呼ばれる中での推移しかありません。究極を言えば、規模の大きなシステムを担った経験があり、対応できるプロジェクトの規模感でキャリアが終息してしまう。
でも、SaaSはシステムを作れたら、売るためにどうするか、売ったあとのサポートはどうするかなど、全てがつながっていく。キャリアとしては横に伸びていくイメージです。今は時代の変化とともにキャリアの需要と供給が崩れていきますから、ある専門性しか持っていないと、リカバリーが難しくなるかもしれない。そこで複数の専門性を持っているほど安定しやすい。時代に合ったキャリア形成の戦略としても、SaaSが推せるポイントですね。
──最初の一歩を踏み出すところに、抵抗を覚える方もいるのかなと思います。
花岡:泥臭いことを言いますが、自分の市場価値はちゃんと見たほうがいいでしょう。
NTTデータには僕より優秀だと思える方がたくさんいました。だから、「この世界から外に出たら、全く通用しないくらいにゼロスタートだ」という気持ちで飛び出したのですが、実はNTTデータで学んだことには大きな価値があって、意外に“強キャラ”だったんです。
それは、一度は外へ出てみないと得られない実体感ですが、まずは自分の市場価値を見つめることで分かってくるものはあるはず。SIerの中で働いている人の中にも、限られた情報源から、自身の価値を定義している人もいらっしゃると思います。そこに客観的な視点を加えて、改めて分析をしてみると、より正確な自分の市場価値がわかるかもしれません。
まずは改めて現在の人材市場を見て、自分の価値を再計算してみることで、踏むべき一歩は何なのかが見えてくると思うんです。繰り返しになりますが、SaaSと相性の良いマインドは、変化に強いこと、エンドユーザーに価値を提供したいと思えること。そこに自分の実力やスキルを使うことを望むなら、SlerからSaaSへのキャリアチェンジは十分あり得ます。
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