SaaSビジネスに特化したコミュニティとプラットフォーム「SaaStr」の創業者であるJason Lemkinさん。彼はSaaS企業「EchoSign」を共同設立し、Adobeに買収される大きな成功を収めました。この経験を基に“SaaS業界のエキスパート”としての地位を確立しており、現在はSaaS業界の成功事例やベストプラクティスを共有するなど、多くの起業家や企業を支援しています。
そんなSaaStrの創業者兼CEOのJason Lemkinさんが、2024年11月20日(水)開催「ALL STAR SAAS CONFERENCE 2024」に登壇決定!
今回、ALL STAR SAAS FUNDはJason Lemkinさんから許諾を得て、翻訳コンテンツをお届けします。『The Top 10 Mistakes First Time SaaS Founders Make(初めてのSaaS創業者がやりがちな間違いトップ10)』と題した記事では、彼の豊富な経験からSaaSビジネスの立ち上げ時に陥りがちな失敗と回避方法を解説しています。
本記事では、広く日本語圏の読者へご理解いただくことを目的に、彼の文章を意訳・超訳している箇所もあります。SaaSビジネスの成功を目指す方にとって貴重な指針となるコンテンツと信じての編集ですが、疑問点があった場合は併せて原文もご参照ください。
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SaaS起業家は「初めて」より「2回目」のほうが、自身が持つプレイブックを熟知しているからこそ、素早く実行に移せるものです。ただ、前回の経験からくる「健全な懐疑心」があり、ちょっとした「荷物」を持っていることもあります(訳者注:ここで言う「荷物」は、後悔するような失敗体験と言い換えても良いでしょう)。
初めてのSaaS起業家は、ほとんど何も知らないままに創業します。彼らは余計な「荷物」を背負っていません。「荷物」がないことのパワフルさに、私は幾度も驚嘆してきました。初めて起業するSaaS創業者なのに、5四半期以内にARRを100万ドルから1億ドルに成長させるのを見てきたんです(詳細はこちら ※英語のみ)。彼らが私よりも創業者として優れていて、定量的にもうまくやっていることには圧倒されました。
そういった成功体験はあれど、(さまざまな事例を見ている私からすれば)初めてのSaaS起業家は同じようなミスを犯しがちです。だから、私は「あるあるミス」をまとめた10のリストを作ろうと思いました。
初めてSaaSで起業をするあなたは、このうちの1つか2つしかミスを犯さないかもしれませんし、すべてを経験するかもしれません。それは「神のみぞ知る」ところですが……不要なミスを犯さないようにこのリストを使ってみてください。たとえ、先月と先四半期が成功していたとしても、ね。
ミス#1:マネージャーや“VP”に、未熟でジュニアな人材を採用すること
才能やポテンシャルが高く、今後活躍できる見込みのあるVP候補の人材を、ここでは「ストレッチVP」と呼びます。彼らは、うまくいけば驚異的な成果を残します(事例はこちら ※英語のみ)。しかし、ストレッチVPは一つの要素にすぎません。マネージャー経験がない人を管理職に据え、オーナーの役割を任せるのは通常は「やりすぎ」です。
オーナーになったことがなければ、VPにはできません。たとえ、Slack、Yammer、Intercomで働いていたって不十分です。少なくともプロダクトの主要な部分を担当していてほしいものです。
真の“VP of Sales”になるためには、売り上げ目標やノルマを達成したことがあるような、少なくとも数人の営業担当者を雇った経験がなければなりません。本当に。
ミス#2:報酬にケチをつける(ただし例外はある)
「彼女を採用するために15万ドルが必要なんて高すぎる!」
あなたがCEOとして昨年3万ドルしか稼げないのにツラいですよね、わかります。しかし、給与は「市場」が決めるのです。あなたではありません。ここでお金を節約することは、実は、お金を失うことになります。
シニアな経験を持つ彼女というリソースを15万ドルで雇う代わりに、ジュニアなリソースを8万ドルで雇わないでください。(年収15万ドルの)“VP of Marketing”が顧客を2社追加するだけで、それぞれ毎月3万ドルずつの収益を生むのです。ジュニアなコンテンツマーケターでは達成できないことを達成し、給与差以上の価値を生み出すでしょう。
給与は月ごとに分割されることを忘れないでください。12万ドルの年収は(福利厚生や税金は除いて)月々1万ドルにすぎません。最初の90日間でプラスの成果を上げられるのであれば、シニアの採用はそれほど大きな財務リスクではないのです。
ミス#3:あまりにも長期間のマイクロマネジメントをする
あなたの時間のレバレッジを得る唯一の方法を教えましょう。チームに権限移譲をすることです。たとえ、彼らに欠点や制約があるとしても。
アプリの1.0バージョンを書いたのも、初めて“10万ドル級”の契約を結んだのも、あなたであることはわかっています。あなたが最高のカスタマーサクセスマネージャーであることも。それでも……手放してください。
このトランジションは、誰にとっても難しいことかもしれません。それでも、経験豊富な最高の人材を雇い、彼らに任せてください。あなたにはレバレッジが必要で、スケールする必要があるのです。マイクロマネジメントをやめないと、遅くとも売上が400万ドルから500万ドルに達した時点で人的資本の壁にぶつかります。
そして、前述のような人材採用でミスをすると、この罠から抜け出せなくなります。
ミス#4:マネジメント層に十分に補充しないこと
マイクロマネジメントをやめた後は、適切なタイミングで、適度に補充する方法を学ばなくてはいけません。
UI/UXに優れていないVP of Productでも。リード生成は上手だけどケーススタディが下手で提案がつまらないVP of Marketingだとしても。計画は遂行できるけど、量産型すぎたり、または質を求めすぎるVP of Salesだったとしても。そんな理由でイライラしないでください。
完璧なスキルセットを持つVPはいません。仮に完璧に見えたとしても、以前の経験に基づく偏りがあります。あなたの役割は、彼らの「弱さ」を補充し、必要な支援を提供することです。
CEOや創業者の役割は、VPやリーダーシップチームの既知へ干渉することではありません。彼らの弱点を補充し、必要な支援を提供することです。正しいディールへ入って、必要な時に、必要に応じて支援をすることです。
優れたチームを補充することで、ARRを200万ドルから1,000万ドルに、さらにその先へとスケールアップできます。
ミス#5:採用候補者の社歴に惚れ込む
Box、Datadog、Shopify、それからSalesforce……そんな人が面接に来たら、魅力的に見えますよね。だからと言って「採用すべきだ」という理由にはなりません。
役職に対する経験がない場合でも、社歴は偽の安心感を与えてくれます。そして多くの場合、今のあなたの会社にとっては、それらの企業は成長段階がレイターすぎるのです。
経験豊富なマネージャーやディレクター、VPを求めるべきですが、社歴に惑わされて彼らの欠点やリスクを見逃してはいけません。特に注意すべき人材を挙げましょう。候補者を直接採用したことがない、数字管理やプロダクト、プロジェクトの責任者になったことがない、セールスリードにコミットしたことがない人材です。
たとえば、Boxのコア機能を担当したことがある社員はどれくらいいるでしょうか?リードにコミットしたことがある人は?自分のもとで営業チーム全体を採用したことがある人は?
いずれも、そう多くはないはずです。ただ、それでも多くの人々がスマートに働いてきたことも事実です。誰もがこの点を誤解しがちです。起業経験の多さは関係がないのです。とにかく、社歴に惑わされないようにしましょう。
ミス#6:地理的にビジネスをオールインしない
特にエンタープライズ向けSaaSの場合、最も重要なのは、収益が上がる国と本社の所在地を一致させることです。収益の大部分がアメリカの顧客であれば、何らかの形でアメリカに本社を置く必要があります。社員すべてがアメリカにいる必要はありませんが、本社は米国にあるべきです。
必要がないなら、どこかへ行くのは避けてください。必要だと考える場合は、正しい選択をしてください。
四半期に一度に「立ち寄る」ような場所ではいけません。つまり、地理的な意味を説明してください。ロンドンにフィールドセールスチームを追加する「必要」があるなら、そうしてください。必要があるなら、やりましょう。
ミス#7:無慈悲になれない(ただし、非人道的になれ、というわけではない)
良い人材を(結果的に)採用できなければ、常にあなたの責任です。特に従業員50人以下の場合で、採用プロセスにも直接関与するのであれば、なおさらです。
採用だけではありません。あなたは今すぐに変化を起こさなくてならない立場なんです。そこで大切なのは「容赦をしない」ということです。たとえば、以下のように。
- アップマーケットへの進出に妥協しない
- 値上げする。プライシングの引き上げに妥協しない
- 最初はトップの営業担当者しか達成できない目標を設定する
- マーケティングから「最善の努力」ではなく、真のリードコミットを求める
- セキュリティとプロダクトロードマップに妥協しない
- エンタープライズ顧客から最高のNPS(ネットプロモータースコア)を得ることを徹底する
慈悲の心は大切です。それに、多くの失敗をすることにもなるでしょう。でも、会社を必要な場所へ導くことに関しては、容赦なく取り組むべきです。
ミス#8:アップマーケットへの進出が遅すぎる
ACV10万ドルの顧客が1社いるなら、同じように2社目も獲得できるでしょう。きっと10社目だって。でも、考えてみてください。その状況なら、ACV15万ドルの顧客だっていると思いませんか?
もちろん、できるんです。怖がらないでください。臆病にならないでください。市場の拡大は、できるだけ早く、そして強く。要求を伝えて、行動あるのみです。
需要もないのに新しい価格カテゴリを作り出すべきではありませんが、エンタープライズ向けの大きな取引に進むときには、臆せず、感謝と尊敬の念を持って顧客に対応し、アップマーケットでは容赦なく取り組みましょう。
すべてのアプリケーションがエンタープライズ向けであると言っているわけではありません。もし、フリーミアムやセルフサービスでARR500万ドル、1,000万ドル、2,000万ドル以上に到達できるなら、それを目指しましょう。
完全なSMB向けのプロダクトであれば、アップマーケットに進出する必要はありません。たとえば、KlaviyoはARRが数億ドルに達するまでアップマーケットへの進出を待ちました。なぜなら、彼らのコアな顧客はSMBだったからです。
しかし、アップマーケットへの進出が自然にはじまっているなら加速させましょう。「エンタープライズ市場が好きではないから」なんて言って、待ってはいけません。その過ちを犯す創業者は多いのです。
ミス#9:「既知の成功」より未知に賭ける
ARR100万ドルから1,000万ドルへ成長する途中には、「新しいカテゴリ、新しいタイプの顧客、新しいプロダクトを見つけたい」という大きな誘惑があります。でも、それはやめましょう。小・中・大の自然な顧客パターンを見つけて、それぞれの比率を理解し、販売を続けてください。限られたリソースを適切に割り当てることが重要です。
もし、収益の90%がSMBからもたらされているなら、そこへ集中するのが最速です。エンタープライズの実績を獲得したいのもわかります。それでも、ARR1,000万ドルを達成できる一番早い道はSMBであることが多いのです。
ARRが200万ドルで、60%がエンタープライズからの収益だったとしても、セールスサイクルが遅いことを気にしないでください。短縮する方法を見つけるのです。市場の下層で魔法のような解決策を探すのは逆効果です。現状で効果のある方法に倍の努力を注ぎましょう。たとえ時間がかかっても。
最も抵抗の少ない道を進み、ARRを200万ドルから1,000万ドルに引き上げられますか?ほとんどの場合、最速の方法は、既にやっていることをさらに改善して、チームを戦略的に強化することです。
ミス#10:アドバイスを受けすぎる
ここまで読んでくれてありがとう。今回挙げた10のアドバイスを吸収してくれたら嬉しいですが、注意も必要なんです。たとえば、以下のようなものには気をつけて。本当に。
- 自分の成長フェーズに合っていないアドバイス
- 契約額(ACV)に合っていないアドバイス
- 時代遅れのアドバイス
- 偏りや、隠れた意図があるアドバイス
- 実務経験に基づかないパターンマッチングによるアドバイス
- プロダクトを作ったことはあっても、実際に成功していない創業者からのアドバイス。少なくとも2〜3フェーズ先をいく人のアドバイスを聞くようにしてください。
GOOD LUCK.
このオリジナル記事を執筆したSaaStr のJason Lemkin氏が、ALL STAR SAAS CONFERENCE 2024で来日登壇決定!詳細・登録は以下より公式サイトにアクセスしてください↓