「今週のSaaSxAIニュース」ピックアップ!
マイクロソフトCEO サティア・ナデラの考えるAIによるSaaS新時代の幕開け
Andrea RosalesのMedium「SaaS Is Dead: How Microsoft’s CEO Sees the Future of Business Software」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
SaaSアプリはこの数十年間で、CRM、HR、ERP、プロジェクト管理ツールなど、あらゆるビジネスオペレーションを支えてきました。その成功はデータベース上にビジネスロジックを重ねることに基づいています。しかしAIの出現によって、パラダイムが変わろうとしています。マイクロソフトCEO サティア・ナデラは、BG2 Podの中で、従来SaaSが対応していたビジネスロジックが、AIレイヤーに移行し、AIによって駆動される統合プラットフォームに置き換えられる未来について語っています。この記事では、その内容を解説していますので、今後のSaaS業界に起こりうる未来を考える上で参考になります。
- SaaSのこれまでの歴史
1960年代から歴史的に発展し、90年代後半にはセールスフォース、Gmail、AWS、Dropbox、Slackなどの先駆者によって最新のSaaSが登場しました。コロナがSaaSの採用を加速させ、現在、企業では平均130のSaaSアプリを使用しており、2022年から18%増加しました。 - AIによるSaaSのパラダイムシフト
従来のSaaSはCRUD(作成、読取、更新、削除)データベースをベースとしていたが、AIが現代の技術進歩の新たな基盤となってきています。新しいAIレイヤーは、従来のSaaSアプリからビジネスロジックを引き継ぎ、AIエージェントは複数のプラットフォームを統合し、ワークフローを統合できるインテリジェントなオーケストレーターとして機能します。これは、従来のSaaSアプリがシンプルなデータベースに回帰することを意味します。 - このパラダイムシフトがSaaSを利用する企業にどう影響するのか?
ナデラの見解では、AIエージェントはワークフローをオーケストレーションするだけでなく、現在SaaSアプリ内に存在する従来のビジネスロジックを置き換えると予測しています。このナデラの見解についての筆者の解釈は以下の通りです。- フロントエンドとバックエンドのデカップリング(分離)
従来のSaaSツールのバックエンドシステムは交換可能になるため、AIエージェントは複数のデータ・リポジトリと直接やりとりし、シームレスに更新できるようになります。 ワークフローにおけるこの変化により、組織はツールの管理よりも成果に集中できるようになります。 - ツール中心からゴール中心のワークフロー・オーケストレーション
AIエージェントは、異なるソフトウェア・ソリューション間の仲介役として機能します。CRMやマーケティングキャンペーンの管理など、アプリ間を飛び回るので、AIエージェントはこれらの業務を1つの効率的で統合されたワークフローに自動化し、統合し、ツール中心のプロセスからゴール中心のアクションへのシフトします。 - Software as a Serviceに対する考え方の見直し
企業は従来のSaaSのような単体のツールではなく、意思決定と実行のイネーブラーとしてAIを考えるようになります。この進化は、企業がITインフラと従業員をAIに適応することを優先しなければならないことを意味します。 - あらゆるワークフローにAIが組み込まれる
CopilotのようなAIエージェントは、あらゆるビジネス業務を管理する中心的なハブとなり、専門的なツールを統合し、ユーザーがAIインターフェースから離れることなく複雑なタスクを実行できるようになるとナデラは予測しています。
- フロントエンドとバックエンドのデカップリング(分離)
エージェントによるFintech×SaaSのイノベーション
EMERGENCE「Fintech’s Next Innovation Unlock? More Data Portability」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
これまでのFintechの進化とAIエージェントによって生まれる新たなFintechイノベーションの機会について、予測したEmergence Capitalの記事。AIエージェントが、Fintech×SaaSの金融データのポータビリティ・アクセシビリティをいかに加速させ、新たなFintechスタートアップの可能性を生むかを考察しているので、興味深いです。主なまとめは以下の通りです。
- 金融データ・ポータビリティによって起こったFintech×SaaS
これまでのFintechでは金融データ・ポータビリティでイノベーションを起こしてきました。代表例は、銀行データの共有を容易にするPlaidで、Plaidの存在によってChimeやRobinhood、BREXの様な新生代Fintechサービスが誕生しました。 - AIエージェントによる金融データ・ポータビリティの民主化
AIエージェントは、これまで人手による介入が必要だったデータ処理が事実上無制限のスケールで可能になり、あらゆるデータセットのポータビリティを実現する可能性があります。これによって、会計、調達、リスクオペレーションなどのカテゴリーにまたがる、新たなインフラやアプリレイヤーのFintech企業が新たな波を巻き起こす可能性があります。 - 金融規制による金融データ・ポータビリティの追い風
最近の法規制の変更、特にCFPB 1033規則により、金融機関は消費者データの共有を可能にすることが義務付けられ、金融データ・ポータビリティはさらに加速しています。 - 金融データポータビリティの高まりにより生まれる2つのビジネスチャンス
ここではAIエージェントが金融データポータビリティに革新を起こすことで生まれる、Fintechの新たなビジネスチャンスを事例企業と共に解説しています。- データロックインの減少による既存ソリューションの置き換え
ローン、会計サービス、税務サービスなど - これまでSaaSでは不可能だった新たなソリューション
リアルタイム決算、与信のための代替データ分析、資材調達のためのリアルタイムのベンダー集約・価格可視化、AIエージェントによるデータ抽出と統合など
- データロックインの減少による既存ソリューションの置き換え
オリンピック金メダルを獲得した「リーダーシップ」
Glue Guys Podcast「Coach K’s Standards That Built a Basketball Dynasty | Full Interview」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
デューク大バスケットボール部の監督として5度の全米制覇を果たし、さらにUSAバスケットボール代表チームの指揮官として3度のオリンピック金メダルを獲得した伝説的コーチであるコーチKが、Glue Guysポッドキャストでリーダーシップ、コーチング、そして個人の成長について語りました。以下が主なポイントです。
- 個人のスタンダードの重要性
コーチKは、彼のコーチング・キャリアを導いた2つの基本的なスタンダード - お互いの目を見て話すことと真実を語ることを強調します。これらのスタンダードによって信頼と責任の基盤が築かれ、本物の人間関係と効果的なリーダーシップが実現されます。コーチKは、選手からサポートスタッフまで全員がこれらのスタンダードに従うことで、優れたチームカルチャーが築かれると説明しています。 - リーダーシップにおける適応性
デューク大学での42年間のコーチング・キャリアを通じて、コーチKは卓越した適応力を示しました。固定的なシステムにこだわるのではなく、各チームの特性に合わせたアプローチを取り、時代の変化に柔軟に対応しました。特にカレッジバスケットボールが大きな変革を遂げる中で、この柔軟性と核となる価値観の維持が、持続的な成功につながりました。 - サポート体制の重要性
コーチKは、優れたプログラムを築く上でのマネージャー、トレーナー、サポートスタッフの重要な役割を強調します。デューク大のバスケットボール部マネージャーたちは「困難なことは簡単に、不可能なことはちょっと時間がかかる」というモットーを掲げ、独自のチームワークを築き上げました。これは、組織の成功には強力なサポート体制が不可欠であることを示しています。 - 経験を通じたリーダーシップの育成
ウェストポイントでの経験とボビー・ナイト監督の下での経験から、コーチKは、リーダーシップのスキルが成功と失敗の両方を通じて育まれることを強調します。失敗は終着点ではなく、適切なサポート体制があれば、それは成長の機会となると説明しています。 - 共有される基準の価値
コーチKは、USAオリンピックチームでレブロン・ジェームズ、コービー・ブライアント、ドウェイン・ウェイドらと共にチームの価値観を創り上げた経験を共有します。この協力的なアプローチで基準を設定したことが、USAバスケットボールの前例のない成功の基盤となりました。 - 自己疑問と逆境への対処
コーチKは、困難な状況に対処するための4段階のプロセスを確立しました。それは、自己とチームへの信念の再確認、前向きな姿勢の維持、問題が発生した理由の分析、そして解決策の実行です。このシステマティックなアプローチにより、課題を成長の機会へと転換することが可能になります。 - 成功を適切に祝うこと
コーチKは、成功を祝うことの重要性を強調しながら、それに固執しないことを提唱します。単にチャンピオンシップを獲得すること以外にも、「勝利に値する」パフォーマンスを示すことが、重要な評価基準になると説明しています。 - オーナーシップの文化の創造
コーチKは、選手とスタッフがプログラムのために働くのではなく、プログラムの一部として主体的に関わることの重要性を強調します。この考え方により、組織全体でより深いコミットメントとより良い結果が生まれています。 - コミュニケーションの進化
社会と選手が変化する中で、コーチKは基本的な原則を維持しながら、コミュニケーションスタイルを継続的に進化させてきました。この基本的な価値観を保ちながら変化に適応する能力が、彼の長期的な成功につながりました。 - 本物のリーダーシップスタイルの確立
コーチKのキャリアにおける重要な転機は、ディーン・スミスとミスター・アイバから「他のコーチのようになろうとするのではなく、自分自身であれ」というアドバイスを受けた時でした。他者から学びながら自分らしさを保つというこの気づきが、彼のコーチングアプローチを大きく変えました。 - 長期的な関係の価値
コーチKは、70年来の親友モーや元選手たちとの継続的なつながりに示されるように、長期的な関係を築き維持することの重要性を強調します。これらの持続的な関係性は、バスケットボールを超えて、人生を豊かにする支援、率直なフィードバック、共有された経験をもたらしています。
ソフトウェア評価の未来〜高いのか、安いのか、それとも適正なのか〜
OnlyCFO's Newsletterの「Buy the dip? | Future of Software Valuations」一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
SaaS企業の売上成長率が大幅に低下していることは事実であり、成長率とその持続性がテクノロジー企業の評価を決定する主要因です。今回はOnly CFOのブログよりソフトウェア企業のValuationの現在地についての考察を紹介します。
- 長期的なPSRだけを見ると、評価額はそれほど高くないように見える。2021 年は異常値だったが、より長期的な視点で見ると、今日のPSRは、ある程度適正な水準であると言える。
- 問題はこれらの倍率を成長率に合わせて調整した(Growth Adjusted Multiple)ときに割高に見えるという点。これに対しての反論は投資家が今後収益成長が加速する or 継続しているということが背景として考えられる。
- 一方で、企業が収益性を重視し始めたため、FCFは過去数年間で大幅に改善した。このことは、比較的高いPSRをサポートする。
- 2021 年のピーク (2021 年 11 月を使用) から今日まで、QQQ ETF を上回るパフォーマンスを達成した SaaS 企業はわずか 9 社でした。最も苦戦したのは、収益成長の低下に比べて FCF サポートが最も少なかった企業です。
[海外]
バーティカル
- XOcean - 高解像度の水深や海底地形、地下堆積層や地質構造データなどの海洋データを、無人水上船舶(USV)を使って取得・提供。投資家はモルガンスタンレーの1GTファンド、S2Gなどから$119Mを調達(TechCrunch)
- Gridware - 電力業界向けにグリッドアセットの監視・グリッドの健全性に関するリアルタイムのインサイトを提供するSaaS。シリーズAで$26.4Mを調達。投資家はSequoia Capitalなど(Yahoo! Finance)
- PrettyDamnQuick - EC事業者向けに異なる配送とチェックアウトのフローをカスタマイズし、テストできるSaaSを提供。シリーズAで$25Mを調達。投資家はPeakspan Capital、TLV Partnersなど(TechCrunch)
- t'order - 韓国の外食産業向けでテーブルオーダー市場シェアの60%以上を占めるSaaS。シリーズBで$23Mを調達。投資家は韓国開発銀行、LB Investmentなど(Yahoo! Finance)
- Jones - 不動産・建築業界向けに保険ロジック、保険文書などを活用することで、ルーチン業務を自動化し、自律的な意思決定を可能にするスマート・アシスタントAI。シリーズBで$15Mを調達。投資家はCamber Creek、NewSpring Capitalなど(Yahoo! Finance)
- Fermata - 農業事業者向けの、気候や害虫の課題から農作物を守るコンピュータビジョンを活用した自律的管理SaaS。シリーズAで$10Mを調達。投資家はRaw Venturesなど(CTech)
ヘルスケア
- Innovaccer - ヘルスケアに関連する保険会社、製薬会社、政府機関向けに、バリュー・ベース・ケア、集団健康管理、CRMのためのアプリケーション・スイートを提供。シリーズFで$275Mを調達。投資家はB Capital Group、M12など(TechCrunch)
- Hippocratic AI - 安全性を重視したPolaris Large Language Model (LLM)アーキテクチャを活用したヘルスケア特化AIエージェントプラットフォーム。シリーズBで$141Mを調達。評価額は$1.64B。投資家はKleiner Parkins、NVIDIA、Andreessen Horowitzなど(Yahoo! Finance)
- Fire1 - 米国食品医薬品局(FDA)から画期的医療機器の指定を受け、臨床試験完了を目指す、心不全管理システム。Polaris Partners、Elevage Medical Technologiesなどから$120Mを調達(Yahoo! Finance)
- Anatomy Financial - 保険会社と医療提供者の間の紙ベースの給付金説明書(EOB)を、標準化された835の電子送金通知文書に変換する、ヘルスケア業界特化の財務自動化AI×SaaS。シリーズAで$19Mを調達。投資家はCanapi Venturesなど(Fintech Futures)
エンタープライズ
- OnPay - 全米2.5万社以上の中小企業に導入されている、給与計算、人事、福利厚生のソリューションを提供。シリーズBで$100M超を調達。投資家はCarrick Capital Partners、B Private Credit Investorsなど(Fintech Global)
- Buk - チリ発のHR管理業務を自動化し、従業員の能力開発を促進し、福利厚生へのアクセスを容易にする人材管理SaaS。シリーズBで$50Mを調達。評価額は約$850M。投資家はHeadline、Greenoaks、Workdayなど(FinSMEs)
- Air - 画像や動画の収集、承認、共有の自動化を支援するクリエイティブ・オペレーション管理SaaS。シリーズBで$35Mを調達。投資家はAvenir Growth、XFundなど(FinSMEs)
フィンテック
- Nomupay - 主にアジアと中東の加盟店向けのクロスボーダー決済Fintech×SaaS。評価額$200Mで$37Mを調達。投資家はFinch Capitalなど(TechCrunch)
- Infinant - 銀行がデジタル・ファイナンスやエンベデッド・ファイナンス・プログラムを独自に立ち上げ、管理することを可能にするFintech×SaaS。シリーズAで$15Mを調達。投資家はFINTOP Capital、JAM FINTOP BankTechなど(Fintech Global)
その他
- Anthropic - OpenAIのライバルAIスタートアップ。評価額$60Bで$2Bの調達実施中。リード投資家はLightspeed Venture Partners(TechCrunch)
- Sapient Intelligence - シンガポール発の複雑な問題解決のために設計された自己進化型AI。シードで$22Mを調達。投資家はMinerva Capitalなど(EIN Presswire)
[国内]
- estie - 日本最大級の商業用不動産データ分析基盤「estie マーケット調査」や、不動産売買業務の案件創出を支援する「estie 所有者リサーチ(旧:estie 物件売買)」など、不動産業界のDXを推進。シリーズB追加ラウンドを実施。シリーズB累計資金調達額は30億円越え。投資家は三菱UFJ信託銀行、SuMi TRUSTイノベーションファンド、ゼンリンフューチャーパートナーズ(PR Times)
- Legal Agent - 生成 AI と弁護士の協働により、「即納品・固定金額・高品質」を特徴とする法務支援を提供。 J-KISS 型新株予約権により5,000万円の資金調達を実施。投資家はANRI と BoostCapital(BRIDGE)