「どうやって口説いたの?」──ナレッジワークの採用リリースを見るたびに、そんな疑問を抱く人は少なくないはずです。
GMOペパボ、セールスフォース、ユーザベースなど、様々な企業で要職を務めた人物がジョイン。スタートアップ企業なら誰もが「欲しい」と思える希少人材を、次々と採用しています。その裏側には、インハウスヘッドハンターとして活躍する江良亮人さんの、泥臭くも戦略的なアプローチがありました。
江良さんは現在、ナレッジワークで人材の採用から活躍支援までを一気通貫で行う「タレントマネジメント」部門の専門役員を務めています。
しかし、そのキャリアの8割は「営業」畑を歩んできました。セールスマネジメントや事業責任者として、数字を追いかける日々から人事の世界に転身。そのきっかけは、前職で共に働いたナレッジワークCEO・麻野耕司さんから渡された言葉だったそう。
「それだけ営業ができるなら、強いタレントを採用して圧倒的に活躍できる環境を作る、徹底的に人に向き合うような仕事をしてみないか?特にハイクラスの採用はナレッジワークの大きな課題なんだ」
この言葉に呼応した江良さんは、営業出身だからこそのアプローチで、ハイクラス採用に挑戦。「転職顕在層を追うのではなく、自分たちが採りたい人を探す旅」と語る江良さんに、採用活動の全体像から具体的なノウハウまで、余すところなく語っていただきました。
聞き手はALL STAR SAAS FUNDで投資先企業のハイクラス人材採用支援などを担当する楠田司です。
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「毎日」30分の採用会議と、定期的な候補者面談
楠田:ナレッジワークさんの採用リリースを見ていると、「どうやって口説いたの?」と思うような採用がたくさんあります。最初に、江良さんにとって印象的だった採用事例を教えていただけますか?
江良:ある部門の責任者を採用したケースですね。ナレッジワークのエグゼクティブリクルーティングの雰囲気を感じていただくには十分な事例かなと思います。
楠田:その方へのアプローチはどのようにしていったのでしょうか。
江良:接点は、社員が繋がりを持っていて、きっかけを作ってくれました。彼が持っているケイパビリティと、当時の経営課題が非常にマッチしていたんです。私たちは「対象部門のPDCAを回していく力を強化したい」という課題を抱えていて、解決できる人材を死ぬ気で取りに行こうと、経営全体でフルコミットすることにしました。
具体的には本当に泥臭いんですが……まず社内で毎日ミーティングをしたんです。CEOの麻野も含めて、主要な部門の幹部やHRの幹部たちと、毎日30分ミーティングし続けました。
楠田:毎日30分!
江良:毎日30分ミーティングし、私が窓口となって彼とも頻繁に面談しました。日程調整をするのが負担になってきたのもあり、私から「面談を定例で実施しませんか?」と。「そのほうがお互いに楽だろう」と提案したら、快く受けてくれたんです。
そこから私が話を吸い上げ、経営との毎日ミーティングへ繋いで、新しいアイデアや論点が出てきたら、それをまた面談でフォローしていく──。これを2ヶ月間ぐらいやっていましたね。
楠田:気になるのが、その方はナレッジワークへ入社したいご意向があったのですか?
江良:私たちのことを見知ってくださっていました。次のキャリアを考えはじめたときに、ナレッジワークもスコープには入っていたので、入社意向はゼロではなかったはずです。
ただ、いくつかの選択肢があったなかで、いかに競り勝っていけるのか。だからこそ、いかなる機微も見逃さずに即対応できるようにしようと、経営としては重要視していました。
タレントリクルーティングは「4つのフェーズ」で向き合う
楠田:ナレッジワークの採用活動における全体像について、まず教えていただけますか?
江良:私は今、タレントマネジメントという部門を見ています。主には、外部から希少性の高いタレントを獲得する「タレントリクルーティング」と、人材が入社した後に活躍し続けられる状態を支援する「タレントサクセス」の両方を担っています。

江良:タレントリクルーティングは、プランニング、サーチング、エンゲージング、クロージングの4つのフェーズに分かれています。

江良:今回は、「タレントリクルーティング」についてお話しますね。
まず、プランニングで採用の方針を決めます。最初に立てた仮説を前提に、サーチングでその仮説検証をしていきます。そこで「この人だ」と思ったら、その人のエンゲージメントを高めて、最終的に内定承諾を取っていく、という流れです。
楠田:この体制は何人ぐらいで回されているんですか?
江良:今は私含めて正社員で5人、業務委託の方を入れると7名ですね。リクルーティング側に5名、サクセス側に2名という配分です。
楠田:この体制は、どれくらいの従業員規模から作りはじめたのですか?
江良:明確に設けたのは今四半期からです。それまでは私の個人活動に近いものだったのですが、当時は「HRBP(HRビジネスパートナー)」として、エグゼクティブをリクルーティングして採用した後に、その方が活躍しやすい環境をつくる支援を1年間ほど続けていました。私が入ったタイミングでは従業員規模は70名でしたね。
楠田:HRBPはどういった活動なのでしょうか。
江良:入社したエグゼクティブがマネジメントをする部門に入り込んで、その方のチームのマネジメントを支援する活動をします。たとえば、メンバーマネジメントの領域で見えにくい領域を巻き取ったり、マネージャーとの1on1で彼らのWill・Can・Mustを言葉にしたり。マネージャーの配下にいるメンバーマネジメントの支援もしていました。
楠田:江良さんが属人的に進めていたものを、組織化しようと動いたきっかけは何でしたか?
江良:中途採用のチームを統合していった結果として、人数が増えたというのが正しいですね。ナレッジワークは採用人数を多くするフェーズを経て、今はエグゼクティブや、エキスパートと呼べるような経験豊富で高い技術を有している方をピンポイントで採用しに行くフェーズなんです。
そうなると、希少人材の採用は私がタレントリクルーティングとして動いてきたことと同じになりますから、チームとして統合することになったのです。私が採用ナレッジを展開したり、メンバーの能力を引き上げたり、といったことも会社からは期待を受けています。
最重要フェーズは「サーチング」
楠田:タレントリクルーティングの4つのフェーズだと、特にどれがポイントですか?
江良:やはり「サーチング」がポイントだと思います。
自社の採用でも難しいと感じるのが、経営の要望として「こういうCanがある方を採用したい」と言っても、その方が必ずしも私たちの会社で提供できる価値にWillがあるとは限りません。だからこそ重要になるのは、<yellow-highlight-half-bold>僕らが求めている能力を持っていて、かつ私たちが提供できる価値に、共感してくれる方を探索すること<yellow-highlight-half-bold>なんです。
この探索がしっかりマッチすれば、後工程のコストは大きく下がります。まさに営業活動と似ていますよね。自分のサービスを買ってくれやすい方を探すことができれば、高い確率で受注することができます。
ちなみに、人材を推薦していただき、その方に対して自社の魅力づけをしていくとなると、推薦された方は最初から私たちのことを欲しがっているわけではありませんよね。この場合、エンゲージメントの醸成を短期間でやるのは結構難しいんです。
だからこそ、「この人」を探して、できるだけロングショットで徐々にエンゲージメントを醸成し、気づいたら私たちしか見てない状態を目指していく。そのアプローチが、今は良いのではないかと思っています。
3ヶ月で105人に会うから、ベストマッチの採用ターゲットが見える
楠田:サーチングに比重を置きつつ、この全体が一つにつながったときに、入社意欲につながっていくということなんですね。ではここから、プランニング、サーチング、エンゲージング、クロージングそれぞれについて解説をしていただきたいと思います。まずプランニングからお願いします。
江良:タレントリクルーティングを一定のワークフローに落とし込んで運用しています。ゴールは、希少性が高く事業を成長させる人材を継続的に獲得できている状態。ゴールに「希少性が高い」という言葉を置くか置かないかで、続くフェーズやステップの考え方が大きく変わります。
まず、プランニングのフェーズですが、ステップとしては仮説の設計から入ります。経営から出てきた人材の要望に対して、「つまり、こういう能力を持っている人ですね」と言語化し、擦り合わせていく。そうすると、その能力を持った方は、どういう会社の、どういう役割を担い、どのぐらいの年代なのか……という採用ターゲットに落とし込めます。

その後の計画策定では、どう採用していくかを設計します。一般的な採用手法を設計し、マイルストーンを引き、管理帳票や会議体といったPDCAの回し方を設計していきます。
この後、サーチングというフェーズに入るのですが、「サーチというフェーズがあること」を理解すること自体が重要です。最初に設定したものは仮説に過ぎないので、検証していく必要がある。その検証によって、私たちが欲しい人は、私たちのことを求めてくれる人なのか──この精度を高めていきます。
サーチングの検証準備では、主にアウトバウンドリクルーティングを行っています。自分たちで、仮説にあった方をリストアップして、個別にアプローチを決めて接触していく。会ってみなきゃわからないので、ひたすら会うんです。
たとえば、セールスのエグゼクティブやハイスキルのエキスパートを採用しようとしたときは、3ヶ月で105人ぐらいに会いました。105人に会って、「この方なら私たちの求めている要件もあるし、私たちのことも求めてくれるだろう」と見えてきて、そこでようやく採用ターゲットをかなり高精度で設定できたんです。
次に、エンゲージングのステップに移ります。サーチングの段階では、まだ「うちの会社に来たい」とはなっていないので、「この人だ」とわかったら、徐々に関係を構築していく。どういうシナリオで関係構築するかを設計し、継続的に接点を創出しながら、その方の個別ニーズを把握していきます。
それから私たちの場合、ご経験や役職にかかわらず、「絶対に選考をする」と決めています。選考なしに入ってくる方は誰もいません。選考に乗せていくにあたって、選考体験をどう作っていくかを設計し、提案して選考を案内して、実際に案件を推進して内定承諾につなげていく。
私の認知だと、リクルーティングではクロージングというフェーズが非常に重要視されているように思えます。もちろんそれも大事ですが、<yellow-highlight-half-bold>サーチングがしっかり実施できているからこそ、私たちが求めていて、かつ候補者も私たちを求めているというベストマッチな相手を見つけ出せる<yellow-highlight-half-bold>んです。
プランニングの肝も「とにかく話し、とにかく会う」に尽きる
楠田:具体例を伺いたいのですが、どういったプランニングをしていますか?
江良:エンタープライズセールスを例に挙げましょう。私たちの事業活動上、とても大事な方たちです。
最初は要件が3〜4つ出てくるんですよね。「大型のお客さまに対して大型の商談を進行できる能力がある」とか、「顧客のエグゼクティブと適切なリレーションを構築できる」とか、「中長期のアカウントプランニングをしながらシナリオを作り、ロングスパンで顧客進行ができる」とか。
それらを最初に作ると、適合しそうな人材像がいる場所が見えてきます。たとえば、スタートアップのエキスパートプレイヤー、外資系IT企業、外資系IT企業とスタートアップを相互に経験している……といった形ですね。次に、その方たちのペルソナに沿って、彼らの感情に対して仮説を作ります。そして、たとえば外資系IT企業に数社の候補を絞った場合は、LinkedInなどで調べて該当者をピックアップして、アクセスしていくんです。
楠田:ペルソナがパッと浮かばない場合、プランニングがうまく進む工夫や社内の連携方法はあるでしょうか?
江良:採用したがっている責任者たちと密に対話するということ。そして、作ったペルソナや人材要件を、密に擦り合わせること。この2点がとても大事です。
あと、定期的な振り返りも重要です。実際に候補者と会ったとき、「この要件に合っていたのか」、「むしろ要件自体が正しかったのか」という確認を日夜続けます。経営と膝を突き合わせて、頻度高く、擦り合わせることですね。
ここでも「とにかく会う」ことです。会わないとやはりわからない。いち早く転職顕在層で自分たちの会社に来てくれそうな人を探すという短期スパンの採用を続けていると、この「会う」ステップに重要性を感じにくいかもしれません。ただ、やはり会わないと、私たちとあうかどうかまでわからない。そこが採用でもポイントになるわけですから。
楠田:現場責任者や経営者と擦り合わせるときに、江良さんがよく聞く質問はありますか?
江良:大前提として、Canの部分と採用ターゲットは分けて話したほうが良いですね。
採用できるかできないかは別にして、「どういう能力がある人が欲しいか」を明確に質問するのが一つです。この整理がうまくないケースがよくあり、「何々の経験がある」とか「あの企業に属した人」みたいな条件がいきなり出てきたりもしますが……それは、採用ターゲットの話なんです。
<yellow-highlight-half-bold>人材要件として、どんな能力がある人が欲しいかを明確にしていく。それも、できるだけ3〜4つに分けて、キーワード化していく<yellow-highlight-half-bold>ことが大切ですね。
「5年後を見据えた時に…」WillとCanを一致させる問い
楠田:プランニングの段階で、採用する現場責任者や経営者と「これは絶対に求めたい」というCanの擦り合わせをしっかり行い、いきなりペルソナに走らないこと。そしてサーチングをしながら、人材像やペルソナの解像度を上げていくこと。そして、このPDCAがとても大事なんだなと感じました。
見立てを立てて会いに行くという話がありましたが、江良さんが実際に会いに行った時に、面談のなかでよく聞く質問や、意識しているポイントはありますか?
江良:最初に会うときは、リクルーティングとは伝えていません。あくまで情報交換やディスカッションという形です。
そこで聞くのは、「5年後を見据えた時に、どんなキャリアが形成されていると良いか」とか、「この5年間で、どんなことを成し遂げていきたいか」といったことです。10年だと結構長いのですが、5年で区切ると解像度の高いものが出てきやすい。「何をしたいか」が自分たちと一致していないと、転職は難しいですからね。あとは、そこに至るにあたって、「どんな能力を培っていきたいか」といった話を聞いています。
WillとCanが一致するのが大切なんですよね。たとえば、エンタープライズセールスで言うと、定めた人材要件に適合するペルソナは「スタートアップにいるのでは」と考えて会ってみる。ただ、話を詰めていくと、私たちが求めている要件とペルソナがずれているのが見えてくる。それを修正していくんです。
そのときに、Canはスキルアセスメントしてみないと、どこまでいってもわからない。だから初手のサーチングの段階でお会いして話していくなかで、どんなことができるのかを根掘り葉掘り聞く必要があります。そのうえでWillが、私たちが提供できるものと合っているかを見に行くという感じですね。
他社が見逃す人材を発見するには?「戦略は戦術で覆せない」
楠田:とはいえ、「転職顕在層をすぐ狙いたい」という思いもわかるのですが……サーチングやプランニングは、やはり必須ですか。
江良:希少人材の採用とは、言い換えると「転職マーケットには少ない人材」を採用することが大前提です。「転職したい層」だけを狙っていたら絶対に出会えないんですよ。
一方で私たちは「採用したい方は誰なのか」を軸に活動しているので、その方が現状でどういう転職意向があるのかは一旦考えていません。そうなると、自ずと長期的なアプローチになってしまう。どうしてもサーチングが必要になるんです。
楠田:なるほど。これはエグゼクティブやハイレイヤーに限らず、希少人材全般に言えることですね。たとえば、「エンタープライズセールスとして活躍できる人材が見つからない」という声をよく聞きますが、サーチングのプロセスをしっかり踏むことによって、意外と他社が目をつけていない人材に出会えたり、そこから優秀な希少人材を採用できたりする可能性がある。
江良:その通りだと思います。他社さんが目をつけていないかどうかで言うと、大体似通ってはくるんですが、やはり私たちで提供できるものにヒットする層が見えてくるんですよ。
たとえば、すでに部長をやっている方なのか、セールススキルとしては卓越したものを持ちながら部長職やマネジメントは未経験なのか……さまざま見えてきます。一方で、自分たちがロールとして提供できるものといっても、会社組織ですから無限ではありませんからね。
転職はお互いの期待値が合ったうえで、より良い状態で活躍してもらうことがゴールなので、無茶なことを言ってロールを渡して、本人も実力も出せないという状態になってはいけません。たとえ限定的であっても、その確かなロールに価値を感じてくれる層を見つけることが大事なんですね。
まさに「戦略は戦術で覆せない」というのが言い得て妙だなと思います。人材戦略としてターゲットに定めた人がシャープな状態であれば、その後のシナリオや戦術論はコストはある程度下げることができますが……逆はやはり難しいのです。
報酬やロールだけでは口説けないなら「エンゲージメントポイントをずらす」
楠田:「戦略は戦術で覆せない」は、とても納得感があります。ただ、提供できる報酬やロールには限りがあるなかで、どのように口説いていくのでしょうか?
江良:相手が求めるWillが、私たちで提供できる価値の限界を超えているパターンはありますよね。
たとえば、その方が求める報酬を満額出すことはできなかったり。あとはロールの問題もあるでしょう。最初から「VP of Salesのポジションを求めている」と言われても、そのポジションは一つしかない。CROやCOOのポジションも同様で、武器としては使えません。
そうなったときに大事になるのが、<yellow-highlight-half-bold>エンゲージメントのポイントをずらすこと<yellow-highlight-half-bold>なんです。
楠田:ずらす、ですか。
江良:報酬は大切ですし、一定の高い水準を担保する一方で、「今後、会社をどう大きくしていくか」に共感してもらったりとか、私たちでいうと「人の成長を支えていくようなプラットフォームや機構でありたい」というイネーブルメントへの思いとか。あるいはハイスキルのメンバーが多いので、そういうメンバーと一緒に仕事をしていくことの楽しさとか。
つまり、働く理由は「報酬やロールだけではないですよね」と話をしていく必要があるのです。ただ、この話が届くには信頼関係がないと合意できないと思うのです。会ったばかりの人から言われても納得しにくいのではないか。私は難しいと感じます。
そうなると、長いスパンで一緒にいることに意味が出てくるんですよ。1ヶ月では無理でも、半年や1年かけると、エンゲージメントポイントを適切にずらせることがある。それは転職潜在層の方に対して、先んじて会っていくメリットになるんです。
楠田:納得です。人と人との信頼というものが、役職とか報酬を超える瞬間って、キャリア支援をしていて感じる場面がよくありました。このフェーズでは、密度と頻度みたいなものが大事ですね。
江良:そうですね。何でも渡せるわけではないので、一定限定された条件のなかで戦っていかなきゃいけない。そのなかでも最大限戦い切れる方法は、時間が短いなかで戦うという前提条件だけだと難しくなるというのが体感です。
楠田:「採用の時間軸」はレイヤーによって意識して分けて考えなければ、再現性が落ちるのかもしれませんね。
エンゲージングは「しつこさ」が勝負を分ける
楠田:エンゲージングについて工夫している点があれば、ぜひ伺いたいです。
江良:エンゲージングで大切なのは大きく2点。一つは、頻度の担保。どれくらい接点を持っているか、どれくらいその方のマインドシェアを取っているか。もう一つは、要望を把握して、懸念があれば即時対応すること。
特に後者は接点を持てる状態を作っておかないと、クイックに対応できません。だから双方が相関してきます。また、「最初に接点を多く持ったほうが良い」というお話をした理由にもなりますが、他社さんと比べても「私たちってしつこいな」と思うときがあるんですよね。
それが結構、候補者の方にも伝わったりする。限られた時間のなかで接点を重ねることで、候補者の方がナレッジワークについて考える時間そのものが、実際に増えていきます。すごく単純で泥臭いのですが、大事だなと思っています。
私がエグゼクティブでリクルーティングした方は、みんな入社後に口を揃えて「めちゃくちゃしつこかった......」と言われますね(笑)。
楠田:江良さんの気持ちとして、断られるという不安や怖さはないのですか?
江良:営業と重ねて話すのはあまり良くないかもしれないのですが、私が大企業さま向けに営業活動していたときと同じような感覚で、いつも捉えています。理由もないので会ってくれないわけですよ、基本的には。だから、「会う理由」を作る感じです。
「会う理由」の最もシンプルなものは情報提供ですね。その方に対して価値のある情報を提供する。ビジネスサイドの責任者であれば、営業のマネジメントの方法やセールスの育成方法について話す。経営の方であれば、採用は絶対に重要なので、採用の成功体験を話す。何かしら、その方が求めている情報を与えるのが大切ですね。
あるエグゼクティブの方に言われて肝に銘じようと思ったのは、「三顧の礼」です。だいたい、初手のコミュニケーションを取った時に「またすぐ来てほしいです」なんて言われるんだけれど、その後に梨の礫ということが結構多いもの。でも一番に重要なのは、2回でなくて3回、3回でなくて4回……もう何度でも熱意を伝えてくるのが大事だと言われました。
私の先輩でも6年間口説かれ続けて、思いもよらない転職をしたという事例があります。こういうスタンスで臨んでいると、相手も嫌な気はしないという感覚はありますね。
ナレッジワークの経営メンバーのカレンダーを見ると、1ミリの隙もないくらいスケジュールが埋まっているんですが、それを一回、全部カットしちゃうんです。冒頭でお話をしたケースのように優先順位が高いものを置いたら、何があっても絶対に時間を空けて挑む。採用に対する一種の狂気的な強度を発揮できることも差を分けると考えています。
採用は経営の最重要課題──文化に組み込む重要性
楠田:経営者のリーダーシップや、カルチャーも強く影響するのでしょうか?
江良:それは当然あります。CEOの麻野は、リクルーティングを矮小化して捉えていません。リクルーターも、リクルーティングも、技術職だと位置づけています。
良い人材がいなければ、会社は成長しません。特にソフトウェアのビジネスでは、その人が考えていることが価値になり、売上や利益になっていく。であれば、これは極めて重要な経営課題です。だからこそ、相応の人材がここに当たるべきだという矜持を持っています。
また、創業初期の人事制度では、<yellow-highlight-half-bold>等級を上げていくための要件として「採用」を組み込んで<yellow-highlight-half-bold>いました。たとえば、マネージャークラスはメンバーを採用できること、部長はマネージャーを採用できること、役員は部長を採用できること……これらが要件に入っており、それが満たされなければ等級が上がりません。そうした制度設計を通じて、採用を文化として根付かせていったのです。
過去在籍していた会社で、リファラル採用一人につき高額な報酬を出すという施策を試みたことがあったのですが、なかなか機能しませんでしたね。一方、私たちはそういった報酬は1円もありませんし、作るつもりもありません。それでも、みんな採用に積極的です。これはおそらく、制度と経営からの発信が有機的に作用しているからだと考えています。
採用が経営の最重要課題だとすれば、ここに強い人材がいるかどうかで、会社の成長は大きく変わります。ということは、その人のキャリアは、エンタープライズセールスやソフトウェアエンジニアと同じように、技術職として捉えられていくべきだと考えています。
楠田:有名な話ですが、ビズリーチでトップセールスの方が採用人事に配置されるという事例や、SansanもCHROにトップセールスだった方を大胆に配置して、採用がうまく進んでいたりする。事例はどんどん出てきていますね。
江良:そうですね。事業が理解できている、経営としっかりシンクできる、といった観点も重要です。人材の要望は、曖昧な状態のままだと進め方に悩みます。それをお互いにしっかり合意形成できる距離感や関係性にいないと、なかなか進展していかない。そういう人が経営に準ずるような役割を担う、いわゆる「アウトバウンドリクルーティングのタレントアクイジション」という職務ですね。
クロージングは「転職軸を把握し、シナリオを描く」
楠田:確実に入社していただくために、クロージングで工夫されているポイントや、意識されていることはありますか?
江良:まず、シナリオを描くことが重要です。シナリオなしでクロージングはできません。エンゲージングの段階で、何が要望なのかをつぶさに把握しておくことが大切です。
まずは、私たちは転職軸と呼んでいますが、次のチャレンジに対して本質的に求めているものをしっかり把握します。それに対して複数のポイントがあるとき、「私たちが提供できるもの」と「提供できないもの」が出てきます。他社と比較したときに「このポイントで勝ち切ろう。これをマイナスからゼロに持っていこう。」──こういった戦略をしっかり立てるのが一つです。
2つ目に大切なのは、アセスメントとアトラクトに対しての体験設定にこだわることです。最後は、より良い挑戦を提供していくこと。「来て欲しい」だけではなく、その候補者の方にとっても<yellow-highlight-half-bold>「歯応えのある挑戦」でなければなりません<yellow-highlight-half-bold>。私たちは「キャリアプロデュース」と呼んでいますが、それをロールのなかで作るにしても、ロールの外にはみ出すにしても、こだわることが大切です。
楠田:「歯応えのある挑戦」、とても良い言葉です。
江良:これは麻野がよく使うフレーズの一つなんです。「候補者にとって歯応えのある挑戦」なのか、僕も厳しく問われますから。
楠田:江良さんのこれまでの経験のなかで、「やり直したいクロージング」ってありますか?
江良:「ここが満たされないと絶対にダメだ」という条件があるはずなのですが、候補者の方が前向きになってくれているが故に、その条件を先に聞けていなかったケースがありましたね。それが報酬などの場合、クロージングの土壇場で会社として調整がきかなくなってしまう。そういう不可逆な状態を作り出してしまう、事前の状況把握が不十分だったということがありました。
楠田:その経験から変えたことは?
江良:「必ず聞かなければならないこと」をポイント化するようにしました。いわゆる申し送りです。次のアセッサーに申し送りをする際のひな形があって、そのなかに埋めなければならない項目を設けるんです。
楠田:申し送りの項目で最も大事なものは何ですか?
江良:やはり転職軸です。この転職軸を押さえられていないケースが、非常に多い。何を求めているかを捉えられない限り、体験の設計などができないので、そこをしっかり抑え切ることが大切です。
少し抽象的になりますが、この転職軸が顕在的なものだけでなく、潜在的なものまで拾えるかが極めて重要です。本人が見えているものではないところに、実は本質的なニーズがあったりもします。それを拾えると、勝てる可能性が高まります。
Willを聞くのはお勧めですよ。「何が転職軸ですか」と聞くと、目の前のものが見えますが、<yellow-highlight-half-bold>「5年後どうしていたいですか」と未来に話を飛ばすと、余白が見えてきます<yellow-highlight-half-bold>。顕在化しているものと、そこに現れていないけれども本人のWillとして語られているものとの「間」を一緒に探しに行く。エンゲージメントも高まるので、ぜひ実践してみてください。
リファラル採用だけでは行き詰まる。サーチをしっかりやれ!
楠田:最後に、江良さんがナレッジワークに入社したタイミングに戻れるとしたら、江良さん自身にハイクラス採用について助言したいことは何ですか?
江良:やはり、「サーチをしっかりやれ!」ということです。
以前は、リファラル経由でも一定数の候補者とお会いできていました。クロージングの精度を高めることに注力していて、それを一定形式化し、結果も出すことができていました。しかし、リファラルではこないような、社内にネットワークがない方たちを採用しに行かなければならないとき、やはり行き詰まったのです。
それを試行錯誤した結果、「希少人材とはいきなりは出会えない」ということを理解し、仮説を検証しながら相応の人数と会い続けることで、実行しながら探索していく。この活動をしっかり実践すると、ネットワークも広がり、結果的にそこから人材も見つかるようになりました。
偶発性に依存しない、継続的なアプローチができるようになる。時間はかかるため早く気づいて実践したほうが良いのですが、筋トレのような作業なので、それほど高度な技術は必要ありません。決めて実行する、ということです。
楠田:重要性を深く理解し、覚悟を決めるということですね。
江良:その通りです。特別なアイデアがあるわけではなく、申し訳ないのですが、やはり泥臭い話なんですよね。
(このインタビューは、2025年8月25日に実施しました)



