■「今週のSaaSxAIニュース」ピックアップ!

Google DORA 2025レポートからみるエンジニアのAI利用状況
Google The Keyword「How are developers using AI? Inside our 2025 DORA report」の一部を日本語で紹介したものです。全内容はリンク先をご覧ください。
Google Cloudの研究プログラムDORAが世界約5,000名の技術者を対象に実施した2025年版の結果です。日本のソフトウェアスタートアップにとって、開発生産性向上とAI導入の組織的成功要因を理解することは、競争力獲得に直結します。記事の要約は以下の通りです。
- AI採用率が90%に急増、開発者の日常業務に完全定着
ソフトウェア開発に携わるプロフェッショナルのAI利用率が前年比14%増の90%に達しました。開発者は1日中央値2時間をAIツールとともに作業しており、もはやAIは新奇なツールではなく必須の開発基盤となっています。65%が開発においてAIに「強く依存」しており、業界全体でAIが標準装備化していることが明らかになりました。 - 生産性と品質の両面で明確な効果を実証
回答者の80%以上がAIによって生産性が向上したと報告し、59%がコード品質にポジティブな影響があったと回答しています。この数字は、AIツールが単なる補助ではなく、実質的な開発パフォーマンス向上に貢献していることを示しています。 - 「信頼のパラドックス」が存在
AIを活用しながらも、完全に信頼している開発者は24%に留まり、30%が「少ししか信頼していない」または「全く信頼していない」と回答しました。これは開発者がAIを人間の判断を完全に代替するものではなく、生産性向上を支援するツールとして位置づけていることを示唆しています。 - リリース速度向上も品質課題は継続
今年の調査では、AI採用がソフトウェアデリバリーのリリース頻度の増加と相関することが判明し、前年のネガティブな結果から転換しました。しかし、ユーザーに届ける前にソフトウェアが意図通り動作することを保証する課題は依然として残っており、スピードと品質のバランスが重要になっています。 - 単なる導入では不十分
今年の調査では、AIの効果を最大化するための7つの必須ケイパビリティを示す「DORA AI能力モデル」を新たに発表しました。これは技術的要素と組織文化的要素の両方を含む包括的なフレームワークで、組織がAIを効果的に活用するためには、文化、プロセス、システムを進化させる必要があることを示しています。
直近10年間のSaaS企業のマルチプルの変遷
Aventis Advisors「SaaS Valuation Multiples: 2015-2025」の一部を日本語で紹介したものです。全内容はリンク先をご覧ください。
M&AアドバイザリーファームAventis Advisorsによる、2015年から2025年にかけての上場・非上場SaaS企業1,000件以上のバリュエーション分析レポートです。日本のSaaSスタートアップにとって、グローバル市場での適正評価額の理解と、成長と収益性のバランス戦略を学ぶことは、資金調達やM&Aの成否を左右します。記事の要約は以下の通りです。
- 上場SaaS企業の評価倍率が2021年ピークから60%下落
Aventis独自のSaaSインデックスは2021年初頭に700ポイント超(2015年1月=100)でピークを迎えましたが、2022年の米金利引き上げ以降、急激に下落しました。売上高倍率(EV/Revenue)の中央値は2021年の約20倍から2025年7月には6.0倍まで低下しており、将来キャッシュフローの現在価値が大幅に減少したことを示しています。2025年1月に一時7.3倍まで回復したものの、市場の不確実性と関税政策の影響で再び下落しました。 - 成長率の持続的低下が評価下落の主因
2020年第3四半期に20%だった売上成長率の中央値は、COVID期に31%まで急上昇しましたが、2025年第1四半期には13%まで低下しました。LTVがCACを上回る限り成長投資を続けるというSaaSの基本原則が通用しにくくなっており、売上拡大が困難になっていることがマルチプルの下落を加速させています。今後も少なくとも2025年第3四半期まで成長率の低下が予測されています。 - SaaS企業のEBITDAマージンが初めてプラス圏へ
2015年から2019年にかけて改善していた収益性は2019年以降停滞し、2020年から2022年にかけて中央値で8〜14%の純損失を計上していました。しかし2023年第4四半期以降、大規模なレイオフとコスト削減により状況が一変しました。2024年第3四半期時点でEBITDA率の中央値は6%、純利益率は2%とプラスに転じ、ゼロ金利時代の「成長至上主義」から「収益性重視」への明確なパラダイムシフトが起きています。 - 「Rule of 40」がバリュエーションと相関
2024年第3四半期の分析では、Rule of 40スコアが10%向上すると売上高倍率が約2.2倍上昇する傾向が見られました。成長と収益性のバランスを取ることが評価向上の鍵となっており、Adobe社やDescartes社などの高スコア企業が高い評価倍率を獲得しています。 - 非上場SaaS企業のM&A評価は5倍前後で安定
2015年から2025年にかけて、非上場SaaS企業の売上高倍率の中央値は約5.0倍で推移し、上場企業ほどの変動は見られませんでした。2023年には3.3倍まで低下しましたが、上場市場ほど極端ではありません。 - 低金利環境とAI統合が評価プレミアムの鍵
2025年にはSaaS M&A市場の復活が予測されており、その主な要因は低金利環境への移行とPE/VC業界の記録的な投資余力です。現在の売上高倍率中央値7.6倍は2024年の最高水準であり、反発の兆しを見せています。ただし、単なるChatGPT統合では評価プレミアムは得られず、独自のAI技術やエンドツーエンドのAI強化ソリューションを持つ企業が高い評価を受けると予測されています。クロスセクターのM&A活動も増加する見込みです。

2025年のSaaS価格上昇の包括的な分析〜インフレ負けしない値上げ
SaaStr「The Great SaaS Price Surge of 2025: A Comprehensive Breakdown of Pricing Increases. And The Issues They Have Created for All Of Us.」の一部を日本語で紹介したものです。全内容はリンク先をご覧ください。
今週はSaaStrの記事より価格上昇についての論点を整理します。2025年はB2Bソフトウェアの大幅な値上げが特徴的な年となりました。2024年同期比で平均11.4%上昇(G7諸国の平均インフレ率2.7%の約5倍)に相当しています。こうした背景には、成長への圧力や効率性の最大化などが挙げられますが、売上成長の約50%は値上げによってもたらされています。日本においてはマクロ環境上、値上げへの抵抗感が潜在的に存在しますが、インフレ環境やNRR(Net Revenue Retention)がB2Bビジネスの成長源泉である以上、プライシング戦略が今後より一層重要になってくると思います。
- 各社の値上げの概要
Salesforceは6-9%の値上げを実施し、成長の大部分を「値上げ」に依存。Slackは20%の値上げを行う一方、政府機関には最大90%の割引を提供。MicrosoftとGoogleは月額課金に5%の追加料金やAI機能を強制的にバンドルする戦略を導入。Atlassian、HubSpot、Adobeもそれぞれ5-17%の値上げを実施し、特にAdobeは同じ製品に「AI」を追加して17%値上げするという手法を採用しています。 - 価格上昇とIT予算のジレンマ
従業員1人あたりのSaaS支出は8,700ドルに達し(2年で27%増加)、組織の総支出の12.5%を占めています。SaaSの価格上昇はIT予算の成長率を3-4倍上回り、Gartnerによれば企業IT予算の成長率は年間2.8%にすぎないのに対し、SaaSベンダーは9-25%の値上げを実施しています。この差は持続困難な状況に陥っています。
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Web2.0からAIへ:True Venturesが描く“次の波”
Crunchbase News「From Web 2.0 To AI: How True Ventures Is Backing The Next Big Shift」の一部を日本語で紹介したものです。全内容はリンク先をご覧ください。
Web2.0の時代に誕生したベンチャーキャピタル「True Ventures」は、APIやマッシュアップを活用した革新的なプロダクト群にいち早く着目し、2005年に当時最大規模のシードファンド(1億6500万ドル)を立ち上げました。現在、彼らはAIを“次の技術レイヤー”と位置づけ、再び大きな波に乗ろうとしています。
- AIは「すべての産業を変える基盤技術」
True Venturesの共同創業者Jon Callaghan氏とマネージングパートナーPuneet Agarwal氏は、AIを「すべての業界に浸透する基盤技術」と捉えています。2015年以降、すでに80社以上のAIネイティブスタートアップに投資しており、対象領域はエンタープライズ、消費者向け、バイオ、ロボティクスまで多岐にわたります。 - AIインフラ投資は数兆ドル規模に
Callaghan氏によれば、AI関連のインフラ投資はすでに2〜3兆ドル規模に達しており、2030年までにさらに3〜4兆ドルが投じられる可能性があるとのこと。これにより、アプリケーション層が5〜10倍の市場価値を生み出すと予測されています。 - VCの本質は「時間軸」への投資
True Venturesの投資哲学は、現在のトレンドではなく「5〜10年後の世界」を見据えること。AIは、開発サイクルの高速化、小規模チームでの構築、大企業への販売可能性など、過去の技術波とは異なる特徴を持っています。 - 注目のAI投資先(一部抜粋)
- Handshake:大学生向け採用プラットフォーム。AI事業だけで年商1億ドル超に成長。
- Moderne:コードのバージョンアップを自動化。金融・保険業界で大手顧客を獲得。
- Veza:データアクセス権限を可視化するIDセキュリティ企業。
- Enveda:AI創薬スタートアップ。評価額はすでに10億ドルに到達。
- Basecamp Research:自然界のDNAを解析し、薬効成分を発見。Nvidiaも出資。
- Bible Chat:AIによる祈りと聖書学習アプリ。Apple App Storeで上位ランク入り。
- Audos:ソロ起業家がAIでビジネスを構築できるプラットフォーム。
- ZIRP時代との違い
パンデミック期のゼロ金利政策(ZIRP)による資金集中とは異なり、現在のAI投資ブームは「技術革新」が主因。とはいえ、業界全体が“同じテーマ”に集中しすぎることへの懸念も示されています。 - まとめ
True Venturesは、Web2.0の波を乗り越えた経験を活かし、AIという新たな技術レイヤーに挑んでいます。彼らの投資哲学は「時間軸」「基盤技術」「アプリケーション層の価値創出」に根ざしており、今後のスタートアップエコシステムに大きな影響を与える存在となるでしょう。
■ 資金調達ニュース
エンタープライズ
- Cerebras Systems - 世界最大・最高速のAIプロセッサー「Wafer Scale Engine 3(WSE-3)」を開発し、GPU比20倍の推論速度を実現するAIインフラ。シリーズGで$1.1Bを調達。評価額は$8.1B。投資家はFidelity Management & Research Company、Atreides Management、Tiger Globalなど(TechCrunch)
- Tipalti - 買掛金、グローバル決済、調達、経費管理などを統合するAI搭載の財務自動化プラットフォーム。$200Mを調達。投資家はHercules Capitalなど(Yahoo! Finance)
- MAI - GoogleAds管理を24/7自動最適化するパフォーマンスマーケティング自動化AI。シードラウンドで$25Mを調達。投資家はKleiner Perkins、Gaorong Ventures、UpHonest Capitalなど(FinSMEs)
- GoodFit - GTM戦略向けのAI駆動データプラットフォーム。シリーズAで$13Mを調達。投資家はNotion Capital、Salica Investments、Inovia Capitalなど(FinSMEs)
- Zania - リスク評価、証拠収集、統制テストを自動実行するセキュリティ・リスク・コンプライアンス向けエージェントAI。シリーズAで$18Mを調達。投資家はNEA、Palm Drive Capital、Anthology Fundなど(FinSMEs)
- Alex - 音声AIが自律的に初回面接を実施するAI採用アシスタント。シリーズAで$17Mを調達。投資家はPeak XV Partners、Y Combinator、Uncorrelated Venturesなど(TechCrunch)
- AdPipe - 企業向けに未使用映像を個別化・ブランドセーフなコンテンツに変換するAI動画プラットフォーム。シリーズAで$12Mを調達。投資家はLGVP、Emery Wells(Frame.io創設者)、Atlanta Venturesなど(FinSMEs)
ソフトウェア開発支援
- Vercel - OpenAI、PayPal、Nike などの大手企業が利用するAIネイティブ・アプリケーション構築プラットフォーム。シリーズFで$300Mを調達。評価額は$9.3B。投資家はAccel、GIC、BlackRockなど(Yahoo! Finance)
- Modal Labs - AI開発者向けのサーバーレスクラウドプラットフォーム。シリーズBで$87Mを調達。評価額は$1.1B。投資家はLux Capital、Amplify Partners、Redpoint Venturesなど(Silicon ANGLE)
- Flox - Nixベースのソフトウェアライフサイクル統一プラットフォーム。シリーズBで$25Mを調達。投資家はAddition、NEA、D.E. Shaw Groupなど(SiliconANGLE)
- Polars - Rustベースのオープンソースデータ処理フレームワーク。シリーズAで€18M(約$21M)を調達。投資家はAccel、Bain Capital Venturesなど(TechCrunch)
サイバーセキュリティ
- Descope - ドラッグ&ドロップでユーザージャーニーを構築できるノーコード/ローコードの認証・IAMプラットフォーム。シードエクステンションで$35Mを調達。投資家はNotable Capital、Lightspeed Venture Partners、Dell Technologies Capitalなど(Yahoo! Finance)
- Dash0 - AIネイティブなSREチーム向けのAIエージェント。シリーズAで35Mを調達。投資家はAccel、Cherry Ventures、DIG Venturesなど(TechCrunch)
- Oneleet - ペネトレーションテスト、コードスキャン、クラウドセキュリティ、攻撃面管理などを統合するセキュリティコンプライアンスプラットフォーム。シリーズAで33Mを調達。投資家はDawn Capital、Y Combinator、Frank Slootmanなど(TechCrunch)
- Mondoo - クラウド、オンプレミス、SaaS、エンドポイント全体の脆弱性を検出・優先順位付け・自動修復するエージェント型脆弱性管理プラットフォーム。シリーズAエクステンションで$17.5Mを調達。投資家はHV Capital、Atomico、Firstminute Capitalなど(SiliconANGLE)
バーティカル
- Alvys - 運送会社向けのAI搭載輸送管理システム(TMS)。シリーズBで$40Mを調達。投資家はRTP Global、Alpha Square Group、Titanium Venturesなど(Crunchbase)
- Scorability - 120万人以上のアスリートと3,000以上の大学スポーツプログラムをマッチングする、大学スポーツ採用向けソフトウェアプラットフォーム。$40Mを調達。投資家はBluestone Equity Partners、Silverton Partners、Next Coast Venturesなど(Yahoo! Finance)
フィンテック
- Paid - AIエージェント向けの成果ベース課金ソリューションを提供。シードラウンドで$21.6Mを調達。投資家はLightspeed、FUSE、EQT Venturesなど(TechCrunch)
- Gelt - 高所得者向けに年間通じたAI税務最適化するAIネイティブ税務サービス。シリーズAで$13Mを調達。投資家はZvi Limon(Rimon Group)、Vintage Investment Partners、TLV Partnersなど(FinSMEs)
リーガルテック
- Eve - 訴訟管理の全プロセスを自動化し、医療記録の分析から証拠開示、訴状作成までを数分で処理する原告側法律事務所向けAIプラットフォーム。シリーズBで$103Mを調達。評価額は$1B超。投資家はSpark Capital、Andreessen Horowitz、Lightspeed Venture Partnersなど(FinSMEs)
- Lexroom - イタリアとEU法規制に特化したリーガルAIプラットフォーム。シリーズAで$19Mを調達。投資家はBase10 Partners、Acurio Ventures、View Differentなど(FinSMEs)
ヘルスケア
- Assort Health - 患者電話対応、予約調整、処方薬補充などを自動化する医療特化エージェントAIプラットフォーム。シリーズBで$76Mを調達。累計調達額は$102M。投資家はLightspeed Venture Partners、Felicis、First Round Capitalなど(Fortune)
ハードウェア×AI
- Phaidra - AIデータセンター向けに冷却システムや電力管理、ワークロード管理を最適化するAIエージェント。シリーズBで50M超を調達。投資家はCollaborative Fund、Index Ventures、NVIDIAなど(FinSMEs)
[海外]
- Tres Alchemix - 人体内のあらゆる事象を予測する「ヒトin silicoモデル」を開発し、新薬の薬効・副作用を直接予測。マルチモーダル・マルチオミクスビッグデータと独自の量子化学計算手法を統合。シリーズAで6.5億円を調達。投資家はDNX Ventures、早稲田大学ベンチャーズなど(PR TIMES)
- Univearth - 物流DXプラットフォーム『LIFTI』を運営し、「SaaS×実運送M&A」モデルを展開。すでに智商運輸・三之丸通商の2社をグループ化し、多温度帯(常温〜冷凍)の輸送体制を構築。プレシリーズAで3.6億円を調達。投資家はTheta Times、千葉道場ファンド、GREE Venturesなど(PR TIMES)
- Personal Health Tech - 企業健康管理支援サービス『けんさぽ for business』を運営。SaaSとBPOを組み合わせ、健康管理システムと健康診断業務代行をセット提供。総額3億円を調達(創業手帳)
- クオンクロップ - 食品のサステナビリティ指標分析SaaS『Myエコものさし』を提供。商品・原材料単位での環境負荷可視化と生成AIによるレシピ開発支援を実現。プレシリーズAで1.2億円を調達。累計調達額は2億円超。投資家はOne Capital、農林中金キャピタル、インクルージョンジャパンなど(PR TIMES)