「今週のSaaSxAIニュース」ピックアップ!
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BPOのアンバンドル化:AIがアウトソーシング産業をディスラプトするか?
Andreessen Horowitz「Unbundling the BPO: How AI Will Disrupt Outsourced Work」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
現状の企業活動は多くのBPO(アウトソーシング)によって成り立っており、AIがこの巨大な市場を大きく破壊的に創造する可能性があると解説したa16zの記事。日本においては、労働法の制約でいかにAI・SaaSが生産性を向上しても、人員整理がしにくい市場特性のため、本質的に企業支出を削減することが難しいと考えられます。そのため、企業支出の削減・AIによる代替のし易さで考えると、多くのアウトソーシングが最も有望な領域の1つであることは間違いありません。その観点で、BPOのAIによる代替について考える良い記事です。
- BPO市場の可能性
BPO市場は産業全体の時価総額合計は$300B(約45兆円)を超え、2030年には$525B(約79兆円)に達すると予測される超巨大産業です。代表企業にはCognizant、Infosys、Wiproなど売上1‐2兆円を計上しており、金融、医療、ホスピタリティ、物流、小売など幅広い産業で活用されています。 - 現在のBPOの課題
現在のBPOには、長い処理時間、人的ミス、業務による文脈理解の欠如、顧客体験の質の低下、季節変動による急激な需要変動による対応の難しさ、産業として非常に高い離職率などの数多くの問題点があります。AIはデータ抽出、調査、複雑な推論が得意で、音声AIも実用段階に達しており、これらの課題を解決できる可能性が見えています。 - 有望な分野1. カスタマーサポート業務
BPO支出の最大セグメントであり、AIスタートアップにとって最も明確な機会があります。AIエージェントは24時間365日稼働可能で、多言語対応、即時応答が可能であり、人材の採用・研修・維持の必要性を軽減できます。代表例はDecagon、自動車ローン特化のSalient、ホームサービス特化のAvocaなどがあります。 - 有望な分野2. バックオフィス業務
請求書の照合、医療費の請求管理など、従来BPOが担当していた業務をAIで自動化する動きが進んでいます。代表例では、運輸業界での請求書照合の自動化のLoop、医療費請求管理のJuniperなどがあげられます。 - 既存のBPO企業の対応と課題
既存のBPO大手各社はAIを適用することで対応を進めています。例えばInfosysは100以上の生成AIエージェントを導入したり、アクセンチュアは$1.2Bの生成AIプロジェクトを受注しています。しかし、時間料金制のビジネスモデルとAIモデルの相性の悪さ、最新AI技術への適応の遅れ、組織文化の変革の難しさなど多くの課題があります。 - AIスタートアップの成功要件
AIスタートアップが既存BPO大手との闘いに勝つためには、以下のようなサービス要件を満たすことがカギになります。これを実現している例として、自動運転向けのデータアノテーションを提供するScaleは、既存BPOでは対応できない高度な技術要件への対応などでパイオニア的なポジションを確立しています。- 明確なROIの証明
- 初期顧客に対する手厚いサポート
- 導入プロセスの段階的な最適化
- 業界特有の規制要件への対応
- カスタマイズ可能なソリューションの提供
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Intercom CEOが語るAI、リーダーシップ、ビジネス変革
The Logan Bartlett Show「Intercom CEO Shares AI Predictions, Bold Leadership Lessons, and Unfiltered Views」を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
IntercomのCEO兼共同創業者であるオーウェン・マッケイブ氏が、大規模なビジネス変革のリーダーシップ、AIがカスタマーサービスに与える影響、そして経営に復帰して学んだ教訓について語りました。本インタビューでは、Intercomが急成長するスタートアップからAI駆動のエンタープライズへと進化した過程や、創業者としてのマッケイブ氏の個人的な経験、企業文化やリーダーシップに対する考え方について掘り下げています。以下、主なポイントをご紹介します。
- カスタマーサービス技術の進化
AIはカスタマーサービス全体を根本的に変革する可能性を持っており、単なるソフトウェアの進化にとどまらず、人間によるサービス業務そのものにも影響を与えると考えられています。Intercomはこの変革の最前線に立ち、自社のAIエージェント「Fin」を通じて、スピード、一貫性、多言語対応、フォーマット適応の面で人間のオペレーターを上回る成果を実証しています。同社は、ビジネスモデルや組織構造を抜本的に適応させることで、この変革をリードしようとしています。 - ビジネスモデルの抜本的変革
Intercomは、従来の「シートベース課金」から「成果ベース課金」へと大きくシフトしました。現在は、1件の問い合わせ解決ごとに$0.99を請求するモデルを採用しています。これは、カスタマーサービスソフトウェアの収益モデルを、「アクセスに対する課金」から「実際の業務成果に対する課金」という新しいモデルへの移行です。この価格設定は、人間のオペレーターが1件の問い合わせ解決にかかる$6~$15というコストと直接競合する形になっています。 - AI統合戦略
同社はAI開発に大規模な投資を行い、OpenAIやAnthropicのClaudeを含む複数の言語モデルを活用しています。AIエージェント「Fin」は複数のLLMが連携して動作しており、従来のソフトウェア開発手法を超えた科学的アプローチによる開発が進められています。 - 市場理解
AIソリューションの初期導入企業は増えていますが、市場全体の理解を深めるための教育が依然として必要です。特に、以前の世代のチャットボットは単なる電話の自動応答のようなものであったため、多くの企業がAIエージェントの本当の能力を理解していません。この誤解を解くことで、AIエージェントの普及は今後12~18カ月で加速すると予測されています。 - 創業者のアイデンティティと個人的成長
マッケイブ氏は、創業者としてのアイデンティティとリーダーシップにおける「自分らしさ(Authenticity)」の重要性について語っています。多くの創業者は「何かを証明したい」という深い不安から会社を立ち上げることが多く、成功が自己の価値と強く結びつく傾向があります。彼自身も、企業の業績と自己価値を切り離し、もっと自分らしいリーダーシップを発揮する重要性を学んだと述べています。 - 組織構造と人材管理
Intercomは、組織の知見の蓄積と長期的な視点を重視し、特定のポジションにおいては外部の専門家を採用するよりも、社内での昇進を優先する傾向があります。特に、人事や価格設定といった領域では、ドメイン知識よりも企業文化や価値観の理解が重要視されています。 - 財務の透明性と社員のモチベーション
マッケイブ氏は、社員を単なる従業員ではなく「ビジネスパートナー」として扱うべきだと考えており、企業の財務目標や評価額について透明性を持って共有するようになりました。この透明性が社員のモチベーションを高め、企業の成功を「共同所有」する意識を生み出しています。 - 収益成長の軌跡
かつて5四半期連続で減速していた収益成長が、AI戦略と文化変革の成果によって、7四半期連続で加速しています。この劇的な成長の回復は、新たな戦略の成功を示すものです。 - 未来の展望
マッケイブ氏は、今後1~2年以内に、すべての企業がAIエージェントをカスタマーサービスに導入し、その後は営業やマーケティング領域にも広がると予測しています。ホワイトカラー業務の単純なタスクから変革が始まり、徐々により複雑な業務へと拡大していくものの、人間の関与は少なくとも今後10年間は不可欠であると考えています。
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カオナビTOBは偶然か必然か
村上誠典さんのnote「カオナビTOBは偶然か必然か」を紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
- カオナビへのTOBが公表されました。特に、終値1,980円に対して4,380円と相当のプレミアムをつけた価格での公開買い付けであり、評価されるSaaS企業の要素や今後の成長ポテンシャルなど、日本のSaaS市場において非常に注目すべき出来事であると感じます。よって、今週は詳細に解説されている村上誠典さんのブログをピックアップいたしました。
[海外]
エンタープライズ
- Fal - 企業向け画像、動画、音声、オーディオなどのコンテンツ生成AI。シリーズBで$49Mを調達。投資家はAndreessen Horowitz、Bessemer Venture Partnersなど(Yahoo! Finance)
- Voyantis - 何千ものデータから顧客の将来の傾向や生涯価値(LTV)を予測するAI。Intel Capital、Square Pegなど$41Mを調達(TechCrunch)
- Moderne - 企業のコードのリファクタリングプロセスを自動化するSaaS。シリーズBで$30Mを調達。投資家はAcrew Capital、Intel Capitalなど(TechCrunch)
- Antithesis - 本番システムに影響を与えることなく、自律的にソフトウェアのバグを探索するソフトウェアテストSaaS。Amplify Partners、Spark Capitalなどから$30Mを調達(VC News Daily)
- Lucidity - AWS、Azure、Google Cloudなどのマルチクラウド上のストレージ最適化を自動化。シリーズAで$21Mを調達。投資家はWestBridge Capital、Alpha Wave Globalなど(TechCrunch)
- Finmo - リアルタイムの決済プロセスの合理化、キャッシュフローの可視性の向上、為替リスクの管理、コンプライアンスの徹底、手作業による財務業務の自動化を支援するSaaS。シリーズAで$18.5Mを調達。投資家はCiti Ventures、Paypal Venturesなど(Fintech Global)
- ConverzAI - 採用候補者と音声、テキスト、Eメールで自然な会話を行い、リアルタイムで回答を分析し、データドリブンな採用プロセス支援エージェントAI。シリーズAで$16Mを調達。投資家はMenlo Ventures、Left Lane Capitalなど(Yahoo! Finance)
- Plain - APIファーストで既存システムとシームレスに統合するように設計されたカスタマー・サポートSaaS。シリーズAで$15Mを調達。投資家はBattery Ventures、Index Venturesなど(Tech.eu)
- Koala - 営業チームが顧客のコンテキストに合わせて最初の商談から成約までパーソナライズしたアプローチを実現し、自動化よりも高いコンバージョンを実現するCRM。シリーズAで$15Mを調達。投資家はCRV、HubSpot Venturesなど(Koala)
- Phase - UI/UXデザイナーが完全にインタラクティブなプロトタイプを作成するのに役立つノーコードSaaS。Gobi Partnersなどから$13Mを調達(TechCrunch)
- Tofu - マーケティングチャネル別にマーケティングコピーを自動的に修正/異なる顧客タイプ向けにコンテンツをパーソナライズするB2BマーケティングAI x SaaS。シリーズAで$12Mを調達。投資家はSignalFire、HubSpot Venturesなど(TechCrunch)
- Integrail - 誰でもAIエージェントを数分で作成・導入できるノーコードAI作成AI×SaaS。シードで$10Mを調達。投資家はRatmir Timashev氏など(Yahoo! Finance)
サイバーセキュリティ
- Tines - セキュリティとITオペレーションの重要なワークフローの構築・実行・監視するSaaS。評価額$1,125BのシリーズCで$125Mを調達。投資家はGoldman Sachs Alternatives、Softbank Vision Fund 2など(Yahoo! Finance)
- Sardine AI - コンプライアンスチーム向けに詐欺の防止、マネーロンダリングの阻止、リスクオペレーションの合理化のためのリスク管理AI×SaaS。シリーズCで$70Mを調達。投資家はActivant Capital、Andreessen Horowitzなど(Business Wire)
- SGNL - IDがアプリなどにアクセスするためにどのように使用されるかを保護するサイバーセキュリティSaaS。シリーズAで$42Mを調達。投資家はBrightmind Partners、Costanoaなど(TechCrunch)
- Andesite - セキュリティオペレーションの合理化を支援するAI。General CatalystとRed Cell Partnersから$23Mを調達(Fintech Global)
リーガルテック
- Harvey - 契約分析、デューデリジェンス、コンプライアンス、訴訟などの法務ワークフローに特化したAI。評価額$3BのシリーズDで$300Mを調達。投資家はSequoia Capital、Coatueなど(Fortune)
- Eudia - AIと人間の専門知識を融合させることで、最高法務責任者(CLO)が問題解決にとどまらず、企業戦略を積極的に推進・リスク管理を強化するAI×SaaS。シリーズAで~$105Mを調達。投資家はGeneral Catalyst、Floodgateなど(Yahoo! Finance)
- SpotDraft - 企業の法務チームが契約書作成、交渉、モニタリング、コンプライアンスなど契約のすべての段階の管理できるAI搭載型CLM SaaS。シリーズBで$54Mを調達。投資家はVertex Growth、Trident Partnersなど(Silicon ANGLE)
バーティカル
- Pathify - 高等教育機関向けのデジタルエンゲージメントハブSaaS。Five Elms Capitalから$25Mを調達(VC News Daily)
- Boostly - レストラン向けの自動SMSマーケティング・顧客フィードバックSaaS。シリーズAで$22Mを調達。投資家はPeakSpan Capital、Y Combinatorなど(Yahoo! Finance)
- Comulate - 保険会社の請求および収益業務の管理を支援するSaaS。シリーズBで$20Mを調達。投資家はSpark Capital、Workdayなど(TechCrunch)
ヘルスケア
- Harrison.ai - 放射線科医や監察医のためにCTスキャン、X線、病理スライドを分析する医療診断AI。シリーズCで$112Mを調達。投資家はAware Super、ECPなど(TechCrunch)
- Candit Health - 請求書提出を自動化し、請求チームの手作業をなくすことで医療請求を簡素化するAI x SaaS。Oak HF/FTなどから$52.5Mを調達(TechCrunch)
- Collate - ライフサイエンス業界向けに文書自動作成。シードで$30Mを調達。投資家はRedpoint Ventures、First Round Capitalなど(Forbes)
フィンテック
- Rapyd - 決済、モバイルウォレット、送金、カード発行、詐欺防止など様々なFintechSaaSをAPI経由。評価額$3.5Bで$300Mの調達活動を実施中。2021年時点の$9Bから大幅なダウンラウンド(TechCrunch)
- Zeta - 銀行向けに最新の技術とクラウドインフラでクレジットカード、当座預金口座、ローンを立ち上げ・管理を支援するSaaS。評価額$2Bで$50Mを調達。投資家はUnitedHealth社の子会社 Optum(TechCrunch)
- Validus - PE、不動産などのプライベート・キャピタル部門向けのマーケットリスク管理SaaS。FTV Capitalから$45Mを調達(Fintech Global)
その他
- Lingopal.ai - 音声対音声翻訳AI。シリーズAで$14Mを調達。投資家はDCM Ventures、Scrum Venturesなど(Yahoo! Finance )
[国内]
- MODE - IoT技術に生成AIを組み合わせることで、複雑化する現場業務におけるリアルタイムデータを活用し、業務の質を向上させるソリューションを提供。シリーズB追加ラウンドで約8億円を調達。投資家はKDDI Open Innovation Fund、キヤノンマーケティングジャパン、KIRIN HEALTH INNOVATION FUND、セーフィーベンチャーズ(PR Times)
- Eco-Pork - 養豚事業者向けDXソリューションの開発・提供。慶應イノベーション・イニシアティブより2億円を調達(PR Times)
- Josan-she's - 「産前産後ケア」を軸に事業を拡大し、少子化対策・産前産後DX・女性活躍推進を支援。プレシリーズAで1.5億円を調達。投資家はNext Blue、FFG、POLA ORBIS CAPITAL、SMBC、UNITED(PR Times)
- DrumRole - 町工場向け販売管理システム「DrumRole」を展開。GazelleCapital、ANOBAKAよりシードラウンドで4,000万円を調達(PR Times)
- mign - 不動産および建設業界向けに、生成AIを活用した次世代ソリューションを開発。サムライインキュベート、アニマルスピリッツ、その他個人投資家・起業家から資金調達(mign)
- Boston Medical Sciences - 非侵襲的大腸がんスクリーニングAIの研究開発および実用化を推進。明治安田未来共創投資事業有限責任組合、TAKANAWA GATEWAY地球益投資事業有限責任組合から資金調達(PR Times)