■「今週のSaaSxAIニュース」ピックアップ!
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米SaaS大手の創業者はAIによるSaaSへの影響をどう見ているのか?
SaaStr「How AI is Really Changing SaaS From the CEO of Procore, co-CEO of Monday and Chair of HubSpot」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
Procore、HubSpot、Monday.comの3社の創業者にSaaStr Jason Lemkinがインタビューした「AIによるSaaSの変化」についてのまとめ記事。SaaSのリーダー企業の優位性やチャレンジがどういったところにあるか、AIによる変化について知ることができます。
- Procore創業者兼CEO Tooey Courtemanche氏
「AIは建設業界を根本的に変える。単に十分な人材がいないから」- ProcoreではAIがまだ導入段階にあるものの、すぐに業界を変えるだろうと考えています。私自身もDeepSeekを使ってハッキングし、何年ぶりかにPythonを使うようになりました。
- 建設業界は慢性的な人材不足で知られています。AIを活用することで、Procoreは顧客がより少ないリソースでより多くのことを達成できるよう支援する準備を整えています。AIは、反復的なタスクの自動化や予測分析による意思決定の改善に役立ちます。
- Procoreは、少なくとも現時点ではAIを独立した収益源として活用する予定はありません。「業界は、AIによるインサイトが収益に与える影響を目の当たりにすれば、そのための予算を確保するようになるでしょう」
- HubSpotの会長兼共同創業者(現 Sequoia Capital Partner)Brian Halligan氏
「大手企業もスタートアップも両方勝利する」- 最高のスタートアップと大企業の両方が勝利すると見ています。HubSpotのような企業はB2B AIを効果的に機能させる膨大な顧客データを持っています。彼らがイノベーションを続ける限り両者とも成功するはずです。
- B2BソフトウェアにおけるAI革命は、「スタートアップはイノベーションを起こして流通を獲得しようと競争する一方、大企業はすでに流通を持っていてイノベーションのために競争している」という古典的な構図があります。今回の特徴は、スタートアップがデータを取得または蓄積することが非常に難しい点にあります。
- HubSpotやSalesforceのような既存企業は、1)独自データへのアクセス、2) エンジニアリングリソース、3)既存の流通チャネルを持つ点で優位性があると説いています。
- Monday.com Co-founder & Co-CEO Eran Zinman氏
「非構造化データの活用が今日のAIの大きな勝利」- Mondayは顧客ベース全体にAIを展開しはじめ、すでに1,700万のアクションをMonday.com上で実行しています。
- 今日のトップユースケースは、何千もの履歴書の確認です。また、請求書からPDFなど、大量の非構造化データを分析できることもあります。これはB2Bの基本的な部分です。AIがなければ、これらのデータの検索や分析はほぼ不可能です。
AIで複雑性が増すSaaSプライシングの未来
OnlyCFO's Newsletter「The Future of Software Pricing」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
AIによりプロダクトの提供価値が大きく変わる中、AIプロダクトのプライシングで考えるべきポイントを解説したOnlyCFOの記事。いかに優れたAIプロダクトでもプライシングモデルが不適切だと失敗する可能性があり、プライシングは戦略の中核に位置付ける必要があると説いています。
- AIプライシングの現在
Kyle Poyar氏の分析によると、AIプライシングは以下のようになっています。従来のSaaSではIDベースのサブスクリプションが大多数でしたが、AIでは使用量ベースの従量課金(Usage Based Pricing)が急速に普及しており、割合が多くなっています。- 従来のサブスクリプション課金:46%
- サブスクリプションと使用量ベースの従量課金のハイブリッド:22%
- 使用量ベースの従量課金:25%
- アウトカムベース課金:7%
- AIに最適なプライシングとは?
AIに最適なプライシングモデルは一概には言えず、プロダクトがどのように価値を提供するかによって理想的なモデルは異なります。プライシングモデルを選ぶ際の重要な基準は、「提供される価値との相関性が強いこと」です。プライシングモデルが複雑すぎると、セールスが明確に説明できず、顧客も理解できない問題が生じます。 - AIプライシングによるCFOのチャレンジ
サブスクリプション課金に比べ、CFOは売上・コストを予測する難易度が上がるため、予測するための明確なロジックやツール整備が必要になります。この観点からも複雑なプライシングモデルは避けるべきです。 - プライシングは真のMoatを持つAIプロダクトのテスト
AIによりソフトウェア価格の下げ圧力は高まっています。しかし、本物のMoatを持つ企業は高い価格水準を維持できます。
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HubSpot CEO:AI時代で勝つために
The Logan Bartlett Show「HubSpot CEO: Sales and Marketing Frameworks That Win in the Age of AI」を日本語で紹介したものです。全内容はリンク先をご覧ください。
このポッドキャストエピソードは、Logan BartlettとHubSpotのCEOであるYamini Ranganとの対談です。急速に変化する市場に対応する取り組み、AI化の3ステップ、マーケティングの変化など、彼女の先見性とリーダーシップから多くの気づきがありました。特に僕が興味深いと思ったポイントが以下になります。
- 大きく考える
HubSpotでは年に一回「think big season(大きく考える季節)」と呼ばれる特別期間を設けています。この期間中、リーダーシップチームは会社の3年後のあるべき姿を考えます。市場の変化が予測困難なため、計画の精度は高くないことが多いですが、この取り組み自体に大きな価値があると考えています。
チームが取り組む重要な問いかけは2つ:
①「今後3年間で競争力を高め、より多くの価値を提供するために今必要な決断は何か」
②「今日決めなければ、今後3年間で会社に混乱をもたらす可能性のある事項は何か」
このような先を見据えたアプローチにより、HubSpotは急速な市場変化にもしっかりと対応できています。 - HubSpotにおけるAI変革
ChatGPTが2022年11月に登場した際、HubSpotは素早くプロダクトロードマップ全体をAI対応に転換しました。2023年1月には計画を完全に見直し、同年3月には最初のAI機能をリリースしています。
プロダクトのAI化は3つの段階で進行します:
- 基本機能(基本的な要約やコンテンツ作成)
- 差別化(競合が真似できない独自の価値創造)
- 再構想(CRMの根本的な再考)
現在、HubSpotは差別化段階にあり、豊富なデータ資産とカスタマージャーニーの深い理解を活かして、独自のAI機能を開発しています。 - CRMにおける構造化データと非構造化データ
HubSpotのAIによる主要な強みの一つは、構造化データと非構造化データの両方を活用できる点です。従来のCRMは顧客情報や取引データなどの構造化データを扱うのに長けていますが、顧客とのコミュニケーションの80%はメール、Slackメッセージ、電話、会議の議事録などの非構造化データとして存在しています。
AIによって、こうした非構造化データからもリアルタイムで洞察を得られるようになりました。毎週180万人のアクティブなCRMユーザーがさまざまな会話データを生成している環境で、HubSpotは両方のデータタイプをコンテキスト理解と組み合わせ、優れた顧客体験を提供できる独自のポジションを確立しています。 - CRMの未来
CRMがより直感的で手間のかからないものになる未来を描いています。20年以上にわたり、営業担当者に基本情報をCRMに入力させることは大きな課題でした。AI搭載のCRMは、メールやミーティングの内容を自動的に理解し、手動データ入力の必要性をなくします。
さらに、進化したUIにより、ユーザーは「パイプラインの状況は?」といった自然な質問をするだけで、地域別の分析や具体的な提案を含む実用的な回答を得られるようになります。これにより、CRMシステムとの関わり方が根本から変わることになるでしょう。 - AIと共存する人間の役割
HubSpotは、AIと人間が協力して働く「ハイブリッドな働き方」が未来の姿だと考えています。セールスは「アートとサイエンスの両面を持つ」活動です。サイエンスの側面(調査、情報収集、管理業務)はAIによって強化される一方、アートの側面(信頼構築、顧客課題の理解、価値の伝達)は引き続き人間が担う役割として残ります。
このビジョンは「AIによる完全な人間の代替」という恐れとは対照的で、AIが日常業務を処理することで人間がより価値の高い関係構築や戦略的な仕事に集中できるようになる未来を示しています。 - AIによるマーケティングのパーソナライゼーション
AIのマーケティングへの影響は、単にコンテンツ量を増やすことではありません。無差別なコンテンツ生成は「スパム」を生むだけです。HubSpotは代わりに、パーソナライゼーションと深い洞察に注力しています。
訪問者の行動、企業情報、役割、意図を分析し、ユーザーの関心に合わせたコミュニケーションを実現しています。この取り組みによりコンバージョン率が82%向上しました。AIの価値は量ではなく、お客さま一人ひとりに響くパーソナライズされたコンテンツ作成にあるのです。 - AI時代におけるコンテンツ戦略の進化
検索エンジンの結果が「10個の青いリンク」からAIが生成する要約へと進化するなか、コンテンツ戦略も変革が必要です。企業はもはやSEO最適化されたブログ記事だけでトラフィックを獲得することはできません。
これからは、YouTube、LinkedIn、ポッドキャスト、メールニュースレター、オンラインコミュニティなど、複数のチャネルを活用した総合的なアプローチが必要です。お客さまがどこで情報を得ているかを理解し、そのすべての接点で関係構築を図ることが重要になってきています。
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CFOを採用すべきタイミング
Andreessen Horowitz「When to Hire a CFO」の一部を紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
CFOの採用は、単なる財務部門の責任者という側面以外にも、企業の戦略的成長に直結する重要な意思決定となります。理想的なCFOは、財務の専門知識のみならず、ビジネス全体を見渡せる戦略的視点と、組織を導くリーダーシップを兼ね備えている必要があります。
今回の記事は、Andreessen Horowitzが出しているブログを紹介していますが、特に今後の日本のスタートアップにはFP&Aの重要度が高まり、求められるフェーズも早まっていると感じます。
■ 資金調達ニュース
[海外]
エンタープライズ
- Mercor - 履歴書のスクリーニングと候補者のマッチングを自動化し、AIを活用した面接と給与管理を提供するAIエージェント×SaaS。評価額$2BのシリーズBで$100Mを調達。投資家はFelicis、Benchmarkなど(TechCrunch)
- Hightouch - データサイエンティスト向けに設計されたCDP SaaS/エージェントAI。評価額$1.2BのシリーズCで$80Mを調達。投資家はSapphire Ventures、NVCなど( TechCrunch)
- Arize AI - AIプロダクトを構築する際のプロダクト評価や稼働後にエラーや問題を監視することを支援するAIオブザバビリティSaaS。シリーズCで$70Mを調達。投資家はAdams Street Partnersなど(TechCrunch)
- Sanas - カスタマーエクスペリエンス改善に特化したリアルタイム音声理解AI。シリーズBで$65Mを調達。投資家はQuadrille Capital(Yahoo! Finance)
- SmartSuite - 直感的なノーコードの柔軟性、コラボレーション、自動化を組み合わせたビジネスプロセス管理SaaS。シード・シリーズA合計で$38Mを調達。投資家はCanapi Ventures、Sorenson Capitalなど(Yahoo! Finance)
- Relish - ユーザーファーストのB2Bアプリ開発SaaS。シリーズBで$25Mを調達。投資家はBase10 Partnersなど(FinSMEs)
ソフトウェア開発支援
- Together AI - オープンソースモデルを利用した、最新のAIアプリケーションの構築を支援するAIアクセラレーションSaaS。評価額$3.3BのシリーズBで$305Mを調達。投資家はKleiner Perkins、NVIDIAなど(Yahoo! Finance)
- Baseten - 大規模言語モデルやその他のAIアプリケーションのための高性能推論AI。シリーズCで$75Mを調達。投資家はIVP, Spark Capital(Yahoo! Finance)
- Codeium - ARR $40M越えのコーディング・アシスタントAI。評価額$2.85BでKleiner Perkinsなどから資金調達を実施中(TechCrunch)
- Antithesis - 自律型ソフトウェアテストAI。シリーズで$30Mを調達。投資家はAmplify Partners(PR Newswire)
ヘルスケア
- Abridge - 医師の臨床文書作成ワークフロー自動化AI。シリーズDで$250Mを調達。投資家はElad Gil氏、IVPなど(Yahoo! Finance)
- OpenEvidence - 医師が治療の時点でより良い決断を下せるように支援するAIコパイロット。評価額$1BのシリーズAで$75Mを調達。投資家はSequoia Capitalなど(CNBC)
- Millie - 妊娠から分娩までのエンド・ツー・エンドの臨床ケアに加え、産後の自宅訪問やドゥーラによる1対1のコーチングなど、テクノロジーを駆使した産婦人科クリニック。シリーズAで$12Mを調達。投資家はTMV、Foreground Capitalなど(Yahoo! Finance)
サイバーセキュリティ
- Verkada - ビデオセキュリティカメラ、ドアベースの入退室管理、環境センサーなどを含むビデオセキュリティSaaS。評価額$4.5BのシリーズEで$200Mを調達。投資家は General Catalyst、Eclipse Venturesなど(Crunchbase News)
- Blockaid - ブロックチェーン取引のセキュリティSaaS。シリーズBで$50Mを調達。投資家はRibbit Capital、GVなど(CTech)
- Gomboc AI - クラウドセキュリティ修復に特化したAIソリューション。シードで$13Mを調達。投資家はBallistic Venturesなど(Yahoo! Finance)
フィンテック
- 73 Strings - オルタナティブ資産運用分野のデータ抽出、監視、評価に特化。シリーズBで$55Mを調達。投資家はGrowth Equity at Goldman Sachs Alternatives、Blackstone Innovations Investmentなど(BusinessWire)
- CredCore - 債券市場特化のディール管理支援AI。シリーズAで$16Mを調達。投資家はAvataar Venturesなど(PR Newswire)
- DiligentIQ - プライベート・エクイティのデューデリジェンス特化AI。シリーズAで$12Mを調達。投資家はFINTOP Capitalなど(Yahoo! Finance)
バーティカル
- Spyne - インド発の自動車小売業に特化した車両マーチャンダイジングAI。シリーズで$16Mを調達。投資家はVertex Venturesなど(DealStreet Asia)
- Nodes & Links - 建設業の大規模なインフラプロジェクトのためのスケジューリングSaaS。シリーズAで$12Mを調達。投資家はZigg Capital、Wsterly Windsなど(TechCrunch)
リーガルテック
- Luminance - 「審査員パネル」と呼ぶAIシステムを使って、契約書の作成、交渉、締結後の分析など、ビジネスにおける契約へのアプローチを自動化するAI。シリーズCで$75Mを調達。投資家はPoint72 Private Investments(TechCrunch)
ハードウェア×AI
- ClustroAI - クラウドコンピューティングに依存せずにローカルデバイス上でAIモデルを実行できるエッジAI。シリーズAで$12Mを調達。投資家はForum Venturesなど(PA News)
その他
- xAI - Elon Musk氏が設立したAIスタートアップ。シリーズで$10Bを調達。投資家はSequoia Capital、Andreessen Horowitz(TechCrunch)
- Safe Superintelligence - OpenAI 元Co-founder/Chief ScientistのIlya Sutskever氏が設立したAIスタートアップ。評価額$30Bのシリーズで$1Bを調達。投資家はGreenoaks Capital Partnersなど(TechCrunch)
- Thinking Machines - 元OpenAI CTO Mira Murati氏が設立した、より広く理解され、カスタマイズ可能で、より有能なAI。評価額$1Bで資金調達を実行中(TechCrunch)