こんにちは、日本CPO協会で理事を務めている花井梓です。現在はシンガポールを拠点に、APACで在宅ケアプラットフォームを運営するスタートアップ「Homage」でCPOを務めています。
今回はALL STAR SAAS FUNDにお声がけいただいて、AI探求ラボに寄稿することになりました。
PMの皆さん、日々の業務で、AIをどれくらい活用していますか?
私のチームでも試行錯誤していますが、この数ヶ月でリサーチ、分析、コピーライティング、資料やメッセージの作成、デザインのドラフトなど主要なPM業務は少しずつAIツールによって効率化が進んできました。
PM業務のなかでも、会議進行・出席と並んで大きく時間を割くことが多いのはPRD(Product Requirements Document、プロダクト要件仕様書)の作成でしょう。今回はこの業務をより効率化し、より高度にすべく、OpenAIのGPTs(カスタムGPT)を使った簡単なノーコードソリューションを紹介します。
カスタムGPTを使うための前提
今回紹介するカスタムGPTは、ユーザーのニーズや課題、それを解決するためのソリューションはすでに練られた状態になっていることを前提にしています。もし、これらがまだ明確になっていない場合は、本当に重要な戦略策定をアウトソースしようとしているということになるので、現時点ではAIの力を借りるべきではないと考えています。
そのうえで、AIの力を借りてPRDの形式にし、詳細なKPI、技術的なソリューション、実装予定の機能、GTMの計画、リスクの精査といった内容を書き起こしていきます。
後に詳述しますが、カスタムGPTの精度を上げるためには、カスタムGPTを「新人PM」だと思うこと!基礎的な会社情報、プロダクトの情報、テンプレートなどを親切にプロンプトに書き込んでいくのがポイントです。
活用できる場面
- 競合または他業界で一般的にあるものなど、PRDに起こす機能がシンプルなものについて、各セクションの下書きを書いてもらう
- 新しい機能、または抽象度がある程度高い機能について、ユーザーニーズやそれを解決するソリューションが明らかになっており、それをカスタムGPTにおおまかにシェアし、あとは文章に起こしてもらう。技術的なソリューションや機能、GTMの計画やリスク精査の部分を中心に下書きをしてもらったり、見落としポイントを浮き彫りにしてもらったりする
活用を避けるべき場面
- ユーザー課題の解像度がまだ低く、ソリューションも明らかになっていない状態でPRDを作ってもらおうとすること
- スタートアップのシード期。このカスタムGPTの活用は、プロダクトの基盤がある程度できているグロースステージ以降のチームに向いています
PRD作成にカスタムGPTを用いる目的
PRDは、プロダクトや機能の仕様、目的、要件、成功指標などを整理し、関係者と共有するためのドキュメント。PMが主導して作成し、開発チームやデザイナー、ビジネスチームといった関係者が共通理解を持てるようにする資料です。
今回は、カスタムGPTを活用することで、PMがゼロイチで資料を生み出す時間を削減し、より資料の精度や戦略性を高める時間に充てることを目的とします。カスタムGPTには、自社の業界や競合環境、プロダクトの構造を踏まえたPRDを自社のテンプレートに沿って下書きしてもらいますが、あくまで叩き台であることを前提としておきましょう。
標準のChatGPTではなくカスタムGPTを用いる主な利点は、一定量の社内文書をベクトルデータベースとして取り込み、検索できる点です。既存のPRDテンプレート、製品用語、企業固有のガイドラインやプロダクト構造を参照し、組織にとってより関連性の高い資料を生成することができます。
この記事ではノーコードのアプローチに焦点を当てています。より広範なナレッジを使った精度の高いPRDを作るモデルは、既存データのEmbeddingやLLMモデルとの統合が必要となりますので、今回はスコープから外しています。
まずは、セキュリティに関する考慮事項を確認しよう
はじめる前に、自社の情報・セキュリティポリシーをしっかり理解し、利用するLLMのモデルと適合するか確認しましょう。所属する組織・業界で厳格なデータセキュリティ要件がある場合は、以下のようなアプローチを検討したほうが良いかもしれません。
- ローカルLLMモデルの使用
- 適切なセキュリティ制御を備えたAPIソリューションの実装
- 追加のデータ保護機能を備えたエンタープライズアカウントの設定
この投稿ではカスタムGPTを利用します。モデルによるデータ利用はオプトアウトの設定にしたうえで、アップロードする資料も汎用的なものに限定した方法を紹介します。それでは早速はじめましょう。
カスタムGPTを用い、PRDジェネレーターを作る方法
ステップ1:OpenAIのChatGPTでカスタムGPTを作成する
まずは、GPT Builderの基本設定から。なお、この機能を利用するにはChatGPT Plus以上の契約が必要です。
- OpenAIアカウントにログインし、GPTビルダーに移動します
- 「Create a GPT」をクリックします
- GPTに名前をつけます(例:「[企業名] PRDジェネレーター」)
- 追加の設定から、「OpenAIのモデルトレーニングのためにデータを利用する」のチェックをオフにします
ステップ2:システムプロンプトを定義する
今回の作業で最も肝になるのがシステムプロンプトです。

以下は私が実際に使っている英語版とそれを日本語訳にしたプロンプトです。企業によってPRDの形式は違うため、参考にしながら自由にカスタマイズしてみてください。また、日本語で実行する場合は、特に精度の確認と改良を適宜行うことをおすすめします。
【プロンプトはこちらをご覧ください】
ステップ3:参照文書を収集してアップロードする
こちらも、非常に重要なステップです。繰り返しになりますが、カスタムGPTを新人PMだと捉えて、「初めてPRDを作ってもらうとしたら、どんな資料を読んでから臨んでほしいか?」を考えてみましょう。
たとえば、以下が代表例です。
- 会社概要とビジネスモデル:投資家向けピッチデック、プロダクト・デザインアーキテクチャの概要、新入社員向けオンボーディング資料など、会社や事業の概要とプロダクトの構造を説明する資料
- テンプレートとなるPRD:標準化されたPRDの形式がある場合は説明を加えてアップロードする
- 過去のPRDの例:これまでの「秀作」をピックアップしてみてください。事業や領域、プロダクトが広範囲にわたる場合は、なるべく異なる種類のPRDをたくさん選びましょう
これらの文書を「Knowledge」のセクションにアップロードすると、ベクトルとして保存され、GPTがコンテンツ生成時に参照できるようになります(※原稿作成時は20個までファイルをアップロード可能)。

ステップ4:カスタムGPTをテストして精度を上げていく
このステップは多くの人が見逃しがちですが、やるかやらないかでGPTの精度が大きく変わります。必ず精度を上げてから公開するようにしましょう。
カスタムGPTのテスト方法:
- プレビューモードを使用する:GPT Builderのプレビュー/チャットパネルを使ってGPTを実際に使ってみます。
- シンプルなプロンプトからはじめる:「XXのユーザーにYYを通知する機能のPRDを作成して」といった基本的なリクエストからはじめて、アウトプットを検証します。
- 徐々に複雑なプロンプトを試す:「ユーザーの行動と購入履歴に基づいてXXのサービスを提案する機能のPRDを作成して」など、より複雑なシナリオをテストしていきます。
- 既存のPRDと比較する:完成済みのPRDを探して、その機能をイメージしたプロンプトを入れてみましょう。実際に使われたPRDと比べることにより、GPTの精度の程度や、想定とのギャップがわかりやすくなります。
テスト中に注目すべきポイント:
- 知識のギャップ:GPTが特定の会社固有の用語や概念で苦戦していないか?
- 構造上の問題:テンプレートで指示したPRDの構造通りに従っているか?
- セクションの品質:技術仕様やユーザーストーリーなど、特定のセクションが他よりも弱くないか?
- 完全性:GPTがすべてのPRDに含まれるべき重要な要素をスキップしていないか?
- トーンとスタイル:資料の文体が会社のコミュニケーションスタイルと一致しているか?
改善プロセス:
テストに基づいて、以下のような調整を加えていきましょう。
- システムプロンプトの改良:GPTが十分に機能していない領域についてより詳細な指示を追加。
- 不足している参照文書の追加:知識のギャップに気づいた場合、それらの領域をカバーする追加の社内文書を探してアップロード。
- より良い例の提供:特定のセクションが弱い場合、既存のPRDからお手本を見つけて、ナレッジベースに追加。
- 再テスト:各重要な変更の後、GPTを再テストして調整が出力を改善したかどうかを確認。
カスタムGPTが生成するPRDの品質と一貫性に満足するまで、このテストと改良のサイクルを続けます。まずは1時間でもよいので、しっかりとこのステップに時間を使いましょう。
ステップ5:GPTを公開して共有する
カスタムGPTのパフォーマンスに満足したら、公開します。自分だけが使うために非公開にするか、チームと共有するかを選択できます。公開後も、定期的にシステムプロンプトやナレッジを改良することで精度を高めていきましょう。
PMも「AIのセンス」を磨き、顧客向けのプロダクトへ活かしていこう
冒頭にも書いたように、今回紹介したカスタムGPTで出力したPRDは、機能の複雑性にもよりますが、あくまで叩き台です。ここを出発点として、PMの本来の役割である戦略面のブラッシュアップ、コンテンツの拡張、そして検証をしっかりしていくことで、より良いPRDに仕上げていきましょう。
最近、社内でAIツールの活用を進めることで、生産性が上がってきたのも嬉しいことですが、実はもっと大事なことにも気付かされました。それは、PM一人ひとりが色々なツールを活用し、試行錯誤することで「AIのセンス」を磨き、ひいては顧客向けのプロダクトにも活かしていく力をつけることです。
みなさんの企業でも、いろいろな活用をしてみて、ぜひ感想を教えてください!
※この記事は2025年3月初旬時点の投稿です。