「他社より早く、他社より上手く」AIを取り入れたい……そんな願いを持つビジネスパーソンは多いはずです。しかし、具体的にどう活用すれば良いのか、どんなツールを使えば効果的なのか、リアルな成功事例を知る機会は限られています。
そこで本記事では、SaaS業界の最前線で活躍する3人のリーダーたちに、日々の業務におけるAI活用についてヒアリング!劇的な効率化を実現した方法から、AIと共に働くマインドセットまで、すぐにでも実践できるヒントをお届けします。
カミナシ AI事業責任者・松葉亮人さん
Q:どんな業務に使っていますか?
A:議事録まわりが業務インパクトも大きく、他ツールの連携も活用しています。Zapier、tl;dv、SlackのAPIを使った要約システムがめちゃくちゃ便利。生産性爆発します(笑)。
具体的には、あるSlackチャンネルにすべての録画が流れるようになっていて、そこで意見、決まったこと、結論、次のアクションといったことが全部まとめられて出てきます。さらにこれをスレッドのなかでも使えるようにしていて、「meet(Google Meetのアイコン)」という絵文字を押すとGoogle Meetのミーティングリンクが出てきて、さらにそこで話した内容の要約がスレッドのなかで流れるようになっています。
たとえば、Slackで「ちょっと話しましょう」となったとき、二人で話したことをいちいちテキストに起こして共有するほどではないけれど、何が決まったのか知りたいということがよくあります。このシステムなら手間なく共有でき、チームのコミュニケーションも「あそこでこれが決まっている」と気になった人が見に来られるのでとても良いと思っています。
ツールの使い分けをもう少し話すと、tl;dvは文字起こしだけのために使っていて、それをトリガーにテキストを起こしていく流れです。プロンプトはZapierでClaudeを呼んで書いています。tl;dvだけだと現状は物足りなさがありますから。

こんなふうに、Claude 3 Opusを使ってプロンプトを立て、あとは条件づけです。名前に「#」が入っているならこのチャンネル、Slackのメッセージリンクがあったらスレッドに投稿、何もなければデフォルトのチャンネル投稿、といった形ですね。
もう一つの活用方法として、Speechifyという音声読み上げAIを使った読書があります。これは読みたい書籍を全部入れておき、音声で流してくれるものです。私の場合、読書はパッと読みすぎて内容が入ってこないことがあるので、あえて1行1行ちゃんと読んでもらうことで理解度を高めています。英語の文献でも特に効果的です。これとNotebookLMを併用して、聞きながら質問もできるようにしています。
Q:どのくらいの時間が削減できていますか?
A:ミーティング内容をまとめる時間が大きく減りました。話した内容を関係者に共有する際、録画を渡すだけでは「雑すぎる」と思っているので、結論とアクションがまとめられていればすぐに共有できます。
以前は1on1やミーティング後に、チーム共有のために15〜20分かけてSlackに投稿していましたが、それが2分以内で済むようになりました。1ミーティングあたり15分ほど削減できています。商談も多いのですが、お客さまと話した内容も全部まとめられるので、CRM登録も楽になりました。
私自身の業務で言うと、顧客にプロダクトの所感をヒアリングすることが多いので、その結果を自動的にユーザーストーリーへどんどん投げていくことができたらいいなと思っていて。聞きっぱなしで忘れてしまうこと、顧客が求めていたけれど伝わっていないことなどを自動的に連携していくんです。
ヒアリングの場では聞くことに集中し、いろいろと引き出した結果、要望などが全部まとまっていて、あとはそれを整理するだけでいい。そういう状況を作れるようにしています。やはり、ユーザーストーリーの整理にも時間がかかります。顧客が求める重要度や要望の温度感も伝わるように書かなければなりませんし、そのあたりの効率化の恩恵は大きいです。
Q:AI活用におけるアドバイスをください!
A:AIを活用するときのマインドセットとして、「AIの基本」をしっかり学んでおくことが重要だと思います。それができた人にこそ、AIは10倍や100倍の恩恵をもたらすものだと考えています。
たとえばプログラミングなら、基礎がわかっているからこそ、AIが返してきたレスポンスに対して瞬時にインタラクティブに開発できて、結果的に開発スピードが上がる。つまり、自分の反応速度や理解度を上げて、作業的な部分を代替させることで生産性を向上させるという意識が大切なんです。
逆に言うと、理解や判断をAIに任せてしまうと、結局はそこがボトルネックとなり、生産性に頭打ちが来てしまいます。そこは委譲せず、自分のなかに持っておく。学びや判断の部分は自分のなかに持ち、作業だけを委譲することで、「なぜそこをやってくれないんだ」というフラストレーションも生まれません。期待値の調整の仕方が重要です。
(この収録は、2025年3月10日に実施しました)
LayerX 代表取締役CTO・松本勇気さん
Q:どんな業務に使っていますか?
A:議事録は最近ほぼ生成AIに頼んでいます。ミーティングが多いので、文字起こし用にCirclebackを導入していて。今、作ろうとしているのは、議事録のタイプをLLMに判定させ、タイプごとに欲しい情報の抽出テンプレートでLLMに要約してもらうシステムです。
おかげで、最近は3並列くらいで仕事ができるようになってきました。たとえば、ミーティングの前にDeep Researchを仕掛け、別の作業としてClineやCursorを使ってプロトタイピングをしながら、ミーティングに参加する。ミーティング終了後には、文字起こしと自動生成された開発プロトタイプが待っているという状態です。シングルタスクをこなしているようでありながら、並行して作業が進むので非常に効率的です。
ニュースの収集もすべてAIを使っていますね。n8nというワークフローエンジンを使い、RSSをフックにさまざまなニュースを取得、スクレイピングして要約し、プライベートのSlackに流しています。TechCrunchやHacker Newsなど、一定のクエリに掛かった海外のニュースを日本語の要約で毎日見られるようにしています。
さらに、論文の要約も自動化しています。個人のSlackにBotがいて、そのBotに論文サイトのリンクを投げると、概略、差別化ポイント、背景、手法のステップバイステップ説明、課題点などをフォーマットにまとめてくれます。論文を2〜3分で読めるようになりました。
あとは、組織マネジメントでの活用ですね。1on1のログはCirclebackとGeminiですべて要約しています。ネクストアクションで約束したことなどを整理して、ヌケモレのないコミュニケーションをしていくように使ったりもしています。
Q:どのくらいの時間が削減できていますか?
A:ニュース探索なら1記事読むのに数分かかっていたものが、毎日数十記事を効率的に見られるようになりました。英文記事は読むのに時間がかかるので、もともと5分かかっていたものが短く済むようになり、数十記事では数時間分の時間が節約できています。
議事録も、書き起こして整理するのに毎日1〜2時間かかっていたものが、数分で済むようになりました。リサーチや開発も並行して進められるので、これまでの10時間分の業務で、実質20時間分の仕事ができるようになった感覚です。
Q:AI活用におけるアドバイスをください!
A:まずは触る数を増やすことが大切。日常のいろんなところでAIに触れる習慣をつけましょう。
たとえば、検索も初手からGoogleではなく、まずLLMとやり取りして、どうしてもというときにGoogleを使う。そう切り替えるだけでも、プロンプトやLLMの感覚がつかめてきます。
プロンプトの感覚がつかめるようになると、より高度な活用もできるようになります。最初から自分でプロダクトを作るのは難しいかもしれませんが、DifyなどAI系ツールに投資してみるのも良いでしょう。それらのツールにはさまざまなベストプラクティスが組み込まれており、使っていくうちに感覚がつかめてきます。
Circlebackがどのように文字起こしを要約に変換しているかなど、実際のプロダクトに触れることで学べることも多いです。最近は、私もDevinの設計に感動したところです。そうやって、生成AI時代のツールにどんどん切り替えてみることをお勧めします。
(この収録は、2025年3月11日に実施しました)
ROUTE06 CEO・遠藤崇史さん
Q:どんな業務に使っていますか?
リサーチから企画、思考して情報整理し、アウトプットを出す。そういった社長としての仕事をする際に、Deep Researchも含めて壁打ちやアイデア出し、ワーディングの調整まで、いろんなAIのモデルを使い分けています。
たとえば、特定の会社を調べたいときは、ChatGPTのo1 Proでいくつかの観点から調べてもらった情報をつなぎ合わせ、社内レポートを作ります。インサイトを考える際にもo1 Proで整理してもらいながら、徐々にキャッチコピーやメッセージを考えるときにはClaudeに切り替えたり。最近だとGrokが良いメッセージを結構作ってくれるので参考にしますね。
ほかにも、ROUTE06のコーポレートサイトのコンテンツでは、サムネイルの多くはIdeogramという画像生成のAIを使っています。サイトごとのコンセプトにあわせた共通プロンプトを決めて、それをベースに作ったりしますね。Ideogramにしているのは、ROUTE06の雰囲気や目指すデザインにフィットするから。Midjourneyあたりと使い方は基本的に一緒ですが、おそらく「ちょっとかっこいい画像」が出てくるようにファインチューニングされているんでしょうね(笑)。
依頼する際には、ベースとなるプロンプトを記事テーマにあわせて調整したうえで、さらにChatGPTやClaudeにブラッシュアップしてもらうこともあります。
あとは、コーディングでもAIを活用していて、v0を使ってプロトタイピングしています。ノンエンジニアでもバイブコーディングをして、適当に動かしてエラーを出しながら形を作れるようになってきているのは、大きな変化だと感じます。プロダクトサイドのノンエンジニアでもエンジニアと議論しやすい環境になっていて、デザイナーもフロントを書きやすくなっているなど、領域の越境がAIのサポートによって起きていると感じます。
最近は大企業のお客さまとも、モックを爆速で作って議論するという取り組みをはじめています。元々Figmaでやっていたものをv0のようなフロントエンド環境で作り、そこからデザインをアップデートしたり、バックエンド環境を作ったりといったことを、スタートアップだけでなくお客さまへのサービスとしても提供しはじめています。
Q:どのくらいの時間が削減できていますか?
A:今までできたことが効率化や時短になるという面では、少なくとも2分の1、最大で10分の1くらいのスピードアップになっていると感じます。リサーチだと、コンサル時代にまとめるのに半日かかっていたものが30分くらいで終わるようになりました。それらが専門スキルがなくてもできるようになる、というのも大きな変化です。
Q:AI活用におけるアドバイスをください!
できるだけ上位モデルを使って、経営者や上層レイヤーの人はどれだけのアウトプットが出せるかを自分で触ってみることが大事です。私は「ChatGPTはo1 Proにしたほうがいいよ」と、いろんな人にお勧めしています(笑)。
また、開発周りの進化がすごいので、AIコーディングもぜひいろんな人に触ってみてほしいですね。v0やCursor、Clineなど、役割に応じて使い分けることで効果的に活用できます。
(この収録は、2025年3月11日に実施しました)