ベンチャー企業の採用ブランディング・人事採用支援に取り組むポテンシャライトと、ALL STAR SAAS FUNDは共同で「スタートアップ向けエンジニア採用」をテーマに、ウェビナーを開催してきました。採用企業の規模感を問わず、取り組むべき施策についての理解を深め、自社を魅力的にアピールするための術を考えています。
今回は、そのウェビナー内で「今後の採用トレンドの一つにきっとなる」と、株式会社ポテンシャライト代表取締役の山根一城さんが伝えた、インバウンドリクルーティングとエントランスブックの制作について、その言葉をまとめました。
「インバウンド」リクルーティングの戦略
採用ピッチに使う資料は、皆さんの会社でもお持ちかもしれません。ポテンシャライトの定義としては、採用ブランディングにおける自社の「魅力の因子」を”広く” “浅く”伝えられる、ビジネス採用もエンジニア採用も、全職種で共通して使えるスライドを目指しています。
まずは、「魅力の因子」を一つひとつ狭く深く、3000文字ぐらいでPRするのが採用広報。その魅力を、広く浅くPRしているのが採用ピッチの資料、という分け方ですね。
加えて、Podcastや動画、インフォグラフィックといった手段もありますが、これらはまた異なる文脈です。もっと気軽に雰囲気を楽しめるのがPodcast、熱量込めて臨場感を伝えるのが動画、わかりやすく表すのがインフォグラフィックと役割や目的が違います。このあたりの使い分けが大前提にあることはご承知置きください。
さて、ここから今日の本題です。自社の魅力の因子を反映した情報を、どのように採用選考で活用していくのか。これを考える前に、一つ見ておきたいのが「インバウンド/アウトバウンドリクルーティング」です。やや理想論も含まれますが、アメリカでも注目されており、今後おそらくSaaS企業を始めとしてトレンドになる観点だと私は思っています。
インバウンドリクルーティングは採用企業として求職者から選ばれることを目標に、積極的かつ継続的に候補者を惹きつける「待ち、選ばせる」長期的な採用戦略。アウトバウンドリクルーティングは、特定の新しいポジションが空いたときに候補者を検索して連絡する「探し、スカウトする」短期的な採用戦略です。アウトバウンドのほうは、ダイレクトリクルーティングという言葉が馴染む方もいらっしゃることでしょう。
特にアウトバウンドは、ビズリーチさんが積極的に推し進めてきた背景もあり、各社ともにスカウトに出ることは珍しくなくなり、まさに群雄割拠の時代で難易度も上がっています。Wantedly、Forkwell、Findyなどが拡販戦略を強めていますし、スカウトメールへの返信率は疑いなく下がっていきます。いずれはスカウトを見ない時代が来るかもしれない。
だからこそ、インバウンドリクルーティングにつながる採用マーケティングや採用広報の重要性も高まっていくのだと思います。
採用広報のコンテンツは「カジュアル面談前」に活きる
採用活動は大まかに、認知、興味、応募、カジュアル面談、1次面接、2次面接、内定、内定承諾と流れていきます。すると、「採用広報の効果はどこで出るの?」というご質問をものすごくいただくのですが、基本的にはすべての職種とプロセスです。
採用広報は一種のブランディングに近く、じわじわと成果が出てくるものです。SEMやコンテンツマーケティングでいきなりは成果が出にくいのと同じく、継続的に取り組まなくてはなりません。採用広報で認知度が一気に上がることもありません。ただ、興味を持ってもらえる材料になる可能性は高い。
採用広報のコンテンツが一気にパワーを発揮するのは、カジュアル面談前です。採用広報や採用マーケティングの資料は、基本的には対象の幅広さや情報の網羅性が求められる「上流」であればあるほど大事になります。逆に言えば、フェーズが進むにつれて、細かな情報の重要性が高まってくるわけです。
提供する資料のなかでも、ポテンシャライト社内でもトレンドで、顧客へ提案しても高評価をいただけるのが「エントランスブック」です。会社や仕事のどこに興味を持ち、どこで動機づけされるのかは、候補者によってまちまち。その人たちへ網羅的に、情報を整備して提供するという意味を込めて「入り口」にあたる言葉を冠しています。
エントランスブックはすぐに効果を発揮しますし、ぜひ制作を勧めたいですね。
「広く浅く」で興味を汲み取り、「狭く深く」情報を提供する
ポテンシャライトでは、カジュアル面談前にエントランスブックを提供しています。
でも、そもそも採用ピッチ資料の目的って、何なんでしょう?
何となくSmartHRさんが流行らせて、他社が作っているからウチも作らなければ……という理由は、少なからずあるんじゃないかなと思っています(笑)。
採用ピッチ資料は広く浅く打ち出していくもので、狭く深く伝えることはできません
ここで一度、整理しましょう。採用ピッチ資料は広く浅く打ち出していくもので、狭く深く伝えることはできません。採用ピッチ資料の弱点は、候補者が興味を持ったところについての深掘りは、1項目1スライドだけでは到底できないはずです。狭く深くを考えるならnoteなどで深掘ったコンテンツを多数出したほうがよい。
そこで、組み合わせを志向したいところです。エントランスブックで候補者の興味やニーズを汲み取り、そこに採用広報の狭く深い記事が連なっているような構図にしましょう。つまり、採用ピッチ資料だけを事前に提供するのは、僕は正ではないと考えています。
ポテンシャライトでは、エントランスブックをNotionで作成しています。以下、大まかな構成の例です。
これをお渡しするときには、「私たちは、皆様を一方的に選考することはいたしません。面談時にはポテンシャライトのことを見極めていただきたいですし、そのうえで、皆さんのこともより知りたいと思っています。双方に有意義なお時間とするために、ご覧いただきたい内容をまとめております」とご案内することも大切です。
エントランスブックで、質問の解像度が大幅にアップする!
エントランスブックでは、上記例でいう2番目、「面談前に見ていただきたいウェブの記事」がポイントです。ポテンシャライトはビジョン採用を重視しているため、ミッションやビジョンを必ず見て、共感していただくとこを最上位に置いています。事業戦略やスタートアップを支援する理由に目を通してもらうことは必須といえるのです。
ここでどのような記事を案内するかについては、考えどころです。多ければよいというものでもありません。ミッションやビジョンにまつわる記事は一つは含めたいところですが、多くても3〜4つほど。Privilege、Philosophy、Profession、Market、Culture、Tech あたりのテーマを、バランスよく案内できるといいでしょう。
候補者の中には「もっと知りたい!」と思ってくださっている方もいらっしゃいます。そこで、僕らのほうでは、ポテンシャライトのPodcastを案内したり、面接官メンバーのラフな自己紹介をしたりとか、社員の真面目な入社エントリー記事を並べたりしています。
たとえば、Podcastは1次面接、2次面接に挑む前あたりの方に聴いていただけるようなイメージです。Wantedlyで展開していまして、ながら聞きに最適。内容は「担当企業の選定方法」「ポテンシャライトでの一日」といったテーマごとに19項目に分けて設定し、それぞれで録音しました。
これが生まれたのは、貴重な1時間の面談で「あと10分しかない」というときに、候補者の方が「こんな質問していいのかな?」と感じて遠慮してしまうことが、きっとたくさんあるはずだと考えたんです。そういう「質問するまでもないけれど、ちょっと知っておきたいこと」を伝えられるようにしようと思って、Podcastは始まりました。
エントランスブックをはじめとした施策に1年弱くらい前から取り組んできましたが、だいぶよい効果が見られています。カジュアル面談の解像度がものすごく上がって、候補者様からいただく質問のレベルが断然変わったんです。
予想外の副次効果として、私たちの支援先もエントランスブックに取り組むことで、その支援先が「採用に対して真摯に向き合っている」という印象を与えられているようです。
さらに「パーソナルブック」で候補者との距離を縮める
エントランスブックの存在は、実際の面接で話す内容にも変化をもたらします。設立背景、ミッション、ビジョンといったところはカジュアル面談で先に聞いてしまいますし、そのあたりをショートカットして本質的な話ができるようになったり。
提供するためのツールは何でも構いませんが、ポテンシャライトでは現状ではNotionが最も良いであろうと考えています。URLリンク、PDF、音声、動画、ピッチ資料を全部はめ込めるのが魅力ですね。
ここで、すこし話を変えて、採用広報の記事の内容について話します。Wantedlyなんかでよく見るような「5000名の大手企業から4名のスタートアップに入った理由」とかの記事って、もう100回ぐらい見たと思うんですよ(笑)。それくらい「よくある」ようになった今では、むしろ見慣れてしまってクリックしなくなるのではないかと。
「面接や面談に来たときに、事前にその面接官の方の情報があるのはうれしかったんですけど、もっとパーソナルな部分がわかると話しやすいんじゃないか」
これは僕の最近の発見で、候補者や入社者と話してみると、「面接や面談に来たときに、事前にその面接官の方の情報があるのはうれしかったんですけど、もっとパーソナルな部分がわかると話しやすいんじゃないか」と言われたんです。たとえば、趣味や生い立ち、仕事観といったものを文量が少なくていいからラフに情報提供するような資料があってもいいのかもしれない、と。僕なら会社を設立したと同時にウサギを飼いはじめた、とか(笑)。
そこで運用を始めたのが「パーソナルブック」です。人間性やプライベート、生い立ちを公開したくない人もいると思いますから、公開する内容は各々の裁量に任せています。僕が面接や面談する前には、Facebook、Twitter、LinkedIn、note、ウサギがたくさん載っているInstagramなんかを見てもらえるように案内しています。
他にも、学生時代に取り組んでいたこと、社員からの他己紹介、面接スタイル、採用ポリシー、仕事への価値観、一緒に働きたい人の条件などをまとめています。作るのは大変そうに聞こえるのですが、採用広報以上にラフに出来たりするものなので、ポテンシャライトでは面談や面接に出る全社員に取り組んでもらっています。
ひとつ工夫として、ビジネスサイドとエンジニアサイドで、パーソナルブックで重視するポイントを分けるのも手です。
エンジニアであれば、好きな言語や得意なフレームワーク、好きな書籍や憧れのエンジニア、よく読むブログやメディアといったものをアウトプットすることで、距離感もだいぶ縮まるんじゃないかなと。
もっとも面談前に見ていただきたいウェブの記事はエンジニアでも同一ですが、エンジニアならではの気になるポイントはあるものです。開発環境や裁量権、コーディング能力を向上させるための取り組み、情報共有の方法、技術的なカルチャーの有無……このあたりに答えるようなものが事前にあってもいいと思います。
あとは組織図やメンバー紹介も、さらに知りたいと思った方々へ提供してもよい情報です。今日、紹介したエントランスブックなどの施策は、取り入れていただければ採用活動が一歩も二歩も三歩も前に進むのではないかと思います。ぜひご活用ください!
※ALL STAR SAAS FUNDの支援先である「hacomono」「ログラス」が、実際にエントランスブックを制作しました。notionのリンクを参考までに共有します。