スタートアップ企業が急成長を遂げるために、「採用」が極めて重要であることは言うまでもありません。しかしながら、優秀な人材の確保は多くの企業が苦戦しており、採用が進まないゆえに現場がひっ迫してしまうケースも少なくないでしょう。
では、なぜ採用がうまく進まないのでしょうか。それは、採用を人事任せにしているせいかもしれません。特に、部門責任者のみなさん、採用にどれほどタッチしていますか?
人材要件の策定から面接で見るべきポイント、活躍・定着する人材の条件......現場を預かる責任者が、それらの解像度を高く判断できることがいくつもあるはずです。現場が中心となって採用活動を進める「全員採用」をはじめようにも、いかに社内を巻き込んでいくべきか、人事とのハレーションをどう捉えるべきか、といった別の課題も浮かんできます。
ここでひとつのロールモデルとして取り上げたいのが、ネット印刷・集客支援のプラットフォーム事業や物流プラットフォーム事業などを手掛けるラクスルです。彼らは、部門責任者を中心とした採用活動で、組織や事業を拡大させてきました。
ラクスルの人事を統括するDirector of HRの大原一峰さんと、執行役員でラクスル事業 VP of Growth BUを務める渡邊建さんを招き、ラクスル流の「採用オーナー制」について伺いました。聞き手はALL STAR SAAS FUNDで、投資先企業のハイクラス人材採用支援やキャリア構築コミュニティを運営している、シニアタレントパートナーの楠田司です。
(※2022年11月2日開催のオンラインセミナーの内容を、抜粋・構成しました)
部門責任者が採用にコミットする価値や目的
楠田:ラクスルには役員陣含めて優秀な方が集まっている印象を持っています。名だたるメンバーを、経営者が自身でスカウトして採用したエピソードは有名です。渡邊さんもCOOの福島(広造)さんからのスカウトがきっかけだそうですね。
渡邊:そうですね。2017年当時、福島が自らスカウトを送っていて、そこに私が興味を示して接点を持ったのがはじまりです。
楠田:そういう文化が本当にすばらしいと思っていて。部門責任者はじめ、ラクスルの皆さんが採用にコミットする重要性を理解されている背景があるからだと考えています。まず渡邊さんにお聞きしたいのは、「部門責任者が採用にコミットする価値や目的」をどんなところに感じていらっしゃいますか?
渡邊:「良い事業を作り、早く大きく伸ばしていくため」というシンプルかつ大きな理由です。組織作りや採用は事業の根幹であり、最も重要なテーマであることを疑う人はいないでしょう。部門責任者としてオーナーシップを持つ以上は、組織構築と採用というレバーを自分で取らない理由はないのです。
具体的には、部門責任者が担うことで、オンボーディングの成功率や採用速度が上がります。採用は、採用活動からオンボーディングで組織に定着し、実際に活躍してもらうところまでが一貫したプロセスだと思っています。活躍まで併走する際にオーナーシップが醸成されやすく、結果として良い採用になりやすいと考えています。
あとは、ターゲットを変えたり広げたりすることにはリスクが伴うものですが、自分の裁量で十分にリスクテイクして、早くPDCAを回していけることもメリットです。人事のリソースに制約されずに自分たちでドライブできて、単純に社内の採用を推進するエンジンが増えるようなところもポイントですね。
経営層に上がりたいなら、採用ができることは必須になる
楠田:部門責任者の個人的なキャリアから考えたときにも、採用にコミットする経験は活きてくると考えますか?
渡邊:事業責任者の成果やキャリアは、出した結果から作られるものだと思っていますから、採用活動はそれに直結するのが非常に大きい。そして、個人の能力としては、良いチームや組織を作るレバーを引けるようになることも大切な経験です。
事業開発、プロダクト開発、マーケティングなど、さまざまな能力や強みがある中で、「自分だけでできること」は小さいものです。「いかに強みを補完して、背中を預けられるチームを作れるか」は大きなテーマになってくる。良い事業や会社を作るうえでは必要不可欠ですし、それは経営チームを作れること、ひいては会社を作れることになる。ご自身の強みになるのではないかと感じています。
楠田:経営者の方に「その方の専門性に次いで、経営陣に求めることは?」と質問をすると、絶対に挙がってくるのが「採用」なんです。経営陣など上位レイヤーに入っていくほど必須といえるくらいの能力になってきますよね。渡邊さんがそういったお考えになられた背景はあるのでしょうか?
渡邊:私はメンバーから入って、マネジャー、部長、事業部長と変遷してきました。部長のときには後継者候補を採用して、オンボーディングしながら当時の私が持っていたミッションを渡し、自分は次なる新規事業や事業責任者にチャレンジしたこともあります。
本部内の幹部採用にも携わってきました。現在のラクスルの本部幹部は、3分の1くらいが自分が採用オーナーとして関わった方です。そうして採用をレバーにして組織を強く、事業を成長させてきた実体験には、やはり大きな影響を受けています。成功体験を一度積むと、採用にコミットすることの重要性は、より大きく醸成されますね。
楠田:採用オーナーの活動は、評価に組み込んでいらっしゃいますか?
大原:評価の水準となるグレード定義に「採用や育成を含む強いチーム作り」が重要ポイントとして入っており、評価もですがそれ以上にマネージャー育成や企業文化醸成の中で非常に重視しています。
採用活動のポイント1:『アクション量の担保をせよ』
楠田:今日は「部門責任者が採用活動で押さえたいポイント3選」を、お二人に先に挙げていただいています。まず、1つ目が『アクション量の担保をせよ』ですね。
大原:アクションすることが全ての基本です。「解像度」と我々は呼んでいますが、事象への正確な理解が改善や企画の成果を出すための大元(おおもと)になるためで、それを作るために必要なのがまずはアクション量です。
ラクスルの中途採用では、部門責任者を「採用オーナー」と位置づけて彼らがオーナーシップを持って採用に取り組みます。6-7年前など初期の頃は特に珍しい体制だったこともあり、うまくアクションが取れず手が止まっていたり、場合によっては消極的だったりする人もいました。ただ、こればかりはやらない限りは、一生できるようになりません。放っておいても解決しない問題なんです。
そういった状況を打破するためには「まずやってもらうこと」を通じて採用の重要さ、難しさ、楽しさを体感していただき、採用市場や採用活動の解像度を上げることが必要です。はじめてのときは「まずは色々考えすぎる前にスカウトを100通送ってみよう」という行動量の水準合わせから行ないます。
効率の改善も当然ながら欠かせませんが、課題の在り処を知るためにも、解像度をまず上げきってもらわないとなりません。さらに言うと、アクションをしていると、次第にみんな楽しくなってくるものなんです。なぜかだんだん「今週、ビズリーチを見ていないなんて、もしかすると、何かのチャンスを見逃しているのでは?」みたいに、手を動かしている人だけがわかるテンションになっていく(笑)。
これは採用以外の仕事でも同様だと思いますが、担当者が常に持っている強力で単純な武器は「行動量を増やす、それをやりきる」だと思っていて。「一定の価値が証明されており、成果が出ると見込まれること」をまずやりきってみることが重要だと思います。そのうえで「まだ実証できてはいないけれど、成果が出そうな企画や改善」にチャレンジしていくとよいのかなと。
楠田:行動量の担保と、そこから来る習慣化は、採用においても確かに大事だと思わされます。渡邊は大手企業からラクスルへ移った経歴がありますが、大手企業では人事担当者が採用を担っていたでしょうから、コミットすることのギャップなどはありませんでしたか?
渡邊:前職ではまったく採用に関わっていなかったんです。人事部主導で新卒を採用して、自部署で選ぶこともありませんし、どんな人が来るかもわからない。ましてや中途社員の採用活動など全く未知の領域でした。
だから、ビズリーチをどう使いこなすか、採用表をどうやって作るか、どういうスカウトメッセージを送ればいいか、どんなテキストや参考URLを含めるべきか、面談でどういう質問をすればよいか……いろんな苦労をしました。そのなかでも一番大きなギャップは、やったことがないせいで成功イメージが湧かないことでしょう。
それを乗り越えるには、マジックモーメントが訪れるまで走りきること。「採用の価値を体感する瞬間」が絶対に来ますから、そこまでは息を止めて全力でダッシュする。特に、1人目の採用ができたら一気に世界が変わります。
楠田:1人目が決まったときの気持ち、覚えていますか。
渡邊:「待ってました!」という気持ちです(笑)。スカウトを送ってカジュアル面談をした瞬間に、その場で直属上司を呼んできて選考を進めて、必死でアトラクトして。出会った瞬間の直感から、入社までの伴走をやりきって、実際に組織は大きく変わりました。そして、私が見える世界も変わった。
こういう瞬間を感じるまでやりきるのが重要で、私自身も採用の重要性を体感した経験でした。採用を能力評価やグレード定義に入れていくのも、積極的に取り組むことへの納得感を生む仕組みといえるかもしれません。
採用活動のポイント2:『「良い採用活動」ではなく、「良い採用を」』
楠田:2つ目のポイントは『「良い採用活動」ではなく、「良い採用を」』です。
大原:「アクション量の担保をせよ」はそれだけでも大変でありまた非常に重要なテーマです。しかしあえて言ってみると、それは初歩が終わった段階であるともいえると思うのです。つまり、「良い採用をすること」は「採用活動をやりきること」の次のレベルにある。
「良い採用活動」とは、スカウト返信率が高い、候補者体験が優れる、採用数が多いといったように、入社から入社直後ぐらいまでに関して、数字に表れる成果で見られると考えています。短中期に区切って数字で見えるからこそわかりやすく、パワフルな改善と実行が可能だというのは採用活動の良い面です。
わかりやすいからこそ、巷にあふれている「採用」の話は、実は「採用活動」の話が多いと感じています。では、「採用活動」ではなく「採用」とは何かというと、人件費増あたりの事業成長など最終的には長期的な事業の成果に跳ね返って評価されるものです。
または我々のように急激に拡大していく組織においては組織がその拡大に耐えられるのか、企業文化は望ましいものに変化しつづけていられるのかといった点でも評価されます。より人事業務の目線で表すなら、入社後の活躍や成長の度合い、在籍期間、組織構築や文化醸成への貢献などなどといったところに向き合いきること。
採用が一枠埋まったという事実は素晴らしい・喜ばしいことです。それは「入社された方の人生の一部を担うこと」のスタートでもあり、しかし、採用へ取り組む強度次第ではあるいは「素晴らしい採用を諦めた」と言える場合も残念ながらあるのかもしれません。
渡邊のようにその人が活躍するだけでなく、入社後にたくさんの良い採用をして組織を強化し、その必要性をさらに皆に伝播して強い会社を作るサイクルを強烈に回してくれる人もいる。本当に会社や事業の価値を高める採用ができたのか。本当に強い組織作りのサイクルを作るための採用ができたのか。今回の採用によって参画してくれた仲間はそのように大きく活躍しラクスルでその可能性を最大化できたのか。それらに向き合うことが大事だと思っています。
複数年活躍いただいて、評価を繰り返し、どんな理由で辞めてしまうのか、その人が辞めた後も未来につづく何かを会社に残してくれたのかも含めて、「採用の成果」がわかるところまで見据えて「良い採用」ができるのか。それが「採用のアクション量」をやりきった次のステップだと思っています。
楠田:とても深い言葉です。「良い採用」とは採用がゴールではなく、結果までを考えて着手することだと理解しましたが、そういった採用を推進するために気をつけるべき点はあるでしょうか?
大原:2つの観点を大切にしています。一つ目は「ちゃんと選ぶこと」。人によっては「選ぶとは会社側の上から目線ではないか」という気持ち悪さを感じる方もいらっしゃると思うのですが、良い採用をしていきたいと考えると、マインドチェンジが必要だと私は思います。
先ほどの話と重なりますが、その人が入社することを言い換えれば、「別の会社での人生の可能性を絶って、大切な時間を投資してくれる」ということです。その意思決定に対してきちんと我々は価値を返せるのか。
その人の価値観から心から楽しい会社だと思えるのか。入社後に機会を得て成長し役割や報酬が上がっていくのか。いつか去ってしまうときにもラクスルでの経験によってその方のキャリアがちゃんと豊かになってるのか、その方はラクスルという環境を活かしてそれらを得られる方なのか……それらに向き合いきることができれば「良い採用」になるはず。
強度をもって「選ぶ」または「選び合う」というのは決して上から目線や一方的な目線ではなく、相手にとって本当に幸せな機会になるかということにお互いが真摯に向き合うことです。
これらを妥協すると、内定辞退も増えるかもしれないですし、採用効率も上がっていかないので「採用活動」にとっても重要なことです。自分たちが「良い採用」をするためには候補者のキャリアの視点に100%ダイブすることは、非常に大事なポイントだと思っています。
もうひとつの観点は「採用活動の質は、放っておくと良くない方向に下がっていく」ということです。私は「重力」と呼んでいます。例えば採用すること自体が評価されすぎると採用の質より量に目が向いてしまうこともあるでしょう。
または採用活動は携わる本人も大変ですし、事業目標を達成するためには早い採用がベターですから、早く採用を終わらせたい力学がかかる側面もあります。渡邊の言うマジックモーメントの体験のように、採用にこだわりきる必要性に気づく強烈な体験がないままだと、重力がかかって採用の質は下がっていく。これは当然で抗いがたいことなので、まず我々はその重力が万人にかかるのだということを自覚しておくことが必要です。この自覚が持てないと当然にかかる重力に抗うことはできず、結果として候補者様にも会社にもハッピーではない採用になってしまうかもしれません。
「採用の重力に負けていないか」と自問自答する他にも、採用に関わる人達がお互いにそれを問いかけることも大切だと思います。私も人事部門の採用においては採用オーナーですから、他の役員や面接者に指摘していただいて、はじめて気づかされることもあります。
採用活動のポイント3:『「活躍を描く」ここまでやりきろう』
楠田:3つ目のポイントは『「活躍を描く」ここまでやりきろう』ですね。これも意味深なフレーズに感じます。
渡邊:「良い採用」のところで話した成果も大切ですが、入社後のジャーニー設計と伴走にも取り組みきることが大切だと考えています。これらは、ラクスルが採用オーナー制を取るポイントと言ってもいいでしょう。解像度とオーナーシップを持つ責任者が、採用をトータルで設計し、実行する部分も含めて担うのですから。
本人のキャリアに関する志向を理解したうえで、ラクスルで得られるキャリアパスを示すのも重要です。たとえば、私が先ほど話した後継者採用の事例で言うと、その人はサプライチェーン系の部署の部長になっていただきましたが、本人は事業責任者を目指すキャリアを歩みたいと考えていた。そのままでは彼のキャリアが満たされるわけではありませんから、どこかのタイミングで事業責任者へ向える機会を提供しよう……といった大枠のキャリアを設計します。
その大枠の次に来るのが、具体的なオンボーディング設計です。「入社後1ヶ月でどうクイックウィンしてもらい、会社にフィットするか。そのためにどういった区切りのミッションを渡して、どういうふうに併走するか」といったことを考える。その次に、「6ヶ月で会社にインパクトを与えて、外部からも活躍が認められるようなミッション」を実際に渡したりして、成果を出してもらう。そうして、転職が正解だったと本人も会社も思ってもらえるようにする。
そして、我々の予想を超えるようなチャレンジに、いつから取り組んでいただくのか。こういった事柄を具体的に設計し、活躍イメージを描く必要があります。このあたりがアバウトだと、定着や活躍もせず、採用の成功率が低くなってしまうんです。お互いにとって不幸な結果になってしまいますから、採用オーナーがコミットするべきですし、トータルで採用からのジャーニーを作り、強度を高めて伴走していくことが非常に重要だと捉えています。
楠田:そのジャーニーは、どれくらい細かく書いていらっしゃるんですか?
渡邊:まずは大きなキャリア感をベースに、入社後1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月といった単位ですかね。「1ヶ月ではライトなミッションを渡して、実際に手を動かして事業・組織・業務解像度を上げてもらいながらこういったアウトプットを出してもらおう」といったように、それぞれでインパクトを出せるテーマを設定する。そのほうが会社内からの評判も上がりますし、本人も入社したことを喜べるはず。
細かく書くというよりは、OKRで言うところのオブジェクティブに近いでしょう。「何を達成したら、どういった状態になれるか」を具体化するイメージです。
ラクスルの「採用オーナー制」を構成する、3つの役割
楠田:ありがとうございます。ここまで3つのポイントを見てきましたが、ここからは「部門責任者が実践すべき、人事との最適な連携方法」についてお話を伺います。
というのも、部門責任者と人事の連携の質が高いからこそ、「良い採用活動」も「良い採用」もできるのではないかと考えたのです。それを推進するのが、ラクスルの採用オーナー制という仕組みなのでしょうか?
大原:ラクスルの採用活動には、大きく3人の登場人物がいます。
まずは採用オーナーで、多くの場合は「採用枠の上司」が務めます。採用オーナーは、会社に採用の必要性を説き採用枠を取る。実際にスカウトやエージェントも含めたソーシングをして、面談、ジャッジ、アトラクト、オンボーディングと伴走していく、採用における主役です。
次に「HRBP」です。採用オーナーが採用枠の責任者だとすれば、HRBPは事業の採用全体に関する責任者です。採用予算の策定やバーレイザー(採用の基準を高めるために選任される人)の役目なども担います。
そして、ラクスルでは「採用チーム」と呼びますが、採用オーナーの併走者です。候補者とのやり取り、採用チャネルの開拓や管理、採用に関する情報整理などを行ないます。採用チームは「辞退率が高い」や「アトラクトのストーリーが甘い」といった採用オーナーや採用活動のGood/More仕上がり度合いが最もよくわかる立場です。採用の質が低いと感じれば、採用オーナーの面談に同席して、所感を指摘することもあります。採用レベル全体の引き上げ役ですね。
この三者が絡み合って、ラクスルの採用オーナー制は成り立っています。
楠田:採用オーナー制はとても良いと思いますが、みなさんの業務は採用だけではありませんよね。通常業務の傍らで回していくには、どうすればうまくいくのでしょうか。
渡邊:確かにそれぞれ忙しいので、先送りにしがちなんですよ。だからこそ、採用の重要性を感じてもらうのが非常に重要なんです。
採用は価値があり、当たり前にリソースを割くものであるという認識のもとで、「スカウトを毎日1時間送ると決める」とか、「エージェントに採用オーナーとしてポジションの魅力を語る」とか、「採用面談を優先するためにスケジュールを予めブロックしておく」とか。予定のブロックは、人事との連携で採用面談を入れてよいという意思表明の意味でも効きます。
楠田:具体的に、日々のスケジュールはどのように?
渡邊:一時期は、毎日2時間を採用面談枠として常にブロックしつづけていました。採用面談が入らなかったら、スカウトを打つ時間にしたり、採用メンバーで戦略を考えたりする時間に当てていました。とにかく「時間を採用のために使う」と決めてしまうのが大事です。週5日稼働だとすれば、そのうちの1日分は採用に割り振るくらいの比率でしたかね。
楠田:ラクスルを参考にして、採用オーナー制を導入するとしたら、どういったことが課題になりそうでしょうか?
大原:まずは経営陣の覚悟というかコミットメントです。経営陣が採用の価値を心底信じて、背中を見せられないと、なかなか難しいでしょうね。人事が採用のほとんどをしている会社で人事からそれを言い出しても、「自分たちの仕事を他人にやらせるつもりか」みたいにどうしても思われがちですし。
渡邊が福島から学んだように、これが経営者として最も大切なことのひとつなんだと伝える側がまず腹落ちしてしていることが大事です。
あとは採用オーナー制を取ると、採用に関わる人数が圧倒的に多くなります。それだけにクオリティコントロールが欠かせませんし、常にレベルアップを図り、品質を維持向上していくことが難しいポイントだろうな、と思います。
人事がコミットするべきは、「10年後の組織強度と組織風土」
楠田:確かに「人事の役割」は疑問視されかねないかもしれません。「人事はいったい何にコミットしているのか」を問われる、といいますか。
大原:そうなんですよね。僕も入社したときに結構迷ったんです。
まず大きなことから言ってみると、人事がコミットしているのは「10年後の組織強度と組織風土」です。例えば採用数が達成されれば評価に反映はされるかもしれませんが、それらは「採用活動」への評価であって、さらに重要視すべきは「採用」の結果である社内の人材ポートフォリオの充実や、採用強度が進化しつづけているか、企業文化が望ましくありつづけるかなど他にあると思っています。
本当に見えづらいし、評価されづらいし、それを意識していない部門との軋轢も起きやすい。だからこそ誰かがここに真剣に向き合わないと企業は重力に勝てないのではと思います。
あとは「採用活動」の変化点をいかに作れるかです。新しく設けたダイレクトスカウトのプールにみんなを巻き込める仕組みを作る、採用に関する分析や示唆出しができる仕組みを充実させていく、面接のクオリティを全体として上げる……それらのラクスルが「良い採用」をできるための変化点を作るのも大事な仕事です。
それから、バーレイザーの役割は、どうしても事業部とハレーションが起きやすいものです。そのうえで、事業部の採用がうまくいっていなかったら、しっかりと反省を促すのは人事の義務だと思っています。
バーレイザーの意見がありながらうまくいかないケースは、往々にして採用者たちが「良い採用とは何か」を知らないことに起因しています。業務においても、マネジメントに手を取られない世界や、自分以上の人を仲間にして大きく権限移譲することを想像できていないんです。
人事は、時に社内でのハレーションもあえて起こしながら、「10年後の組織強度と組織風土」にコミットすることが必要だと思います。同時に、人事だけでできることなど何もないに等しいので、必要なハレーションを起こしたりそれを乗り越えきるためにも社内で強い信頼関係を作っていくことが大切ですね。