「今週のSaaSxAIニュース」ピックアップ!
2024年12月 海外AIエージェントエコシステムの現在地
INSIGHT Partners「The state of the AI Agents ecosystem: The tech, use cases, and economics」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
AIによるB2Bソフトウェアエコシステムが大きく進化する中で、最も注目されている「AIエージェント」について、設計や技術的なコンポーネント、現状の分野別AIエージェントスタートアップを非常に丁寧にまとめたInsight Partnersによる記事。日本でもバーティカルAI、AIエージェントの話題が昨年後半から注目される中で、最もよくまとまった記事の1つだと思います。2025年は日本でも、既存のSaaSプレイヤーのAI実装や、シード・アーリーステージのAIエージェントスタートアップが増えてくると思いますので、今後のプロダクトの方向性を検討する上ではとても参考になる記事だと思います。主なまとめは以下の通りです。
- AIエージェントの定義
AIエージェントとは、タスクを推論し、独立して実行できるソフトウェアを指します。実務的には、LLMとアプリケーションロジックを組み合わせた新しいアーキテクチャで構成されており、ユーザーとの対話を重視した設計が重要になります。 - AIエージェントの技術的なコンポーネント
AIエージェントは、1.データ取得、2.インターフェース、3.パフォーマンス管理の3つの構成要素があります。- データ取得:RAG、メモリ管理システム、長文コンテキスト処理
- インターフェース:関数/ツール呼び出し、コンピュータ操作機能、外部システムとの連携
- パフォーマンス管理:段階的テストと評価基準、ユーザーフィードバックの活用、ガードレールによる制御
- AIエージェントの4つのタイプ
現在までに展開されているAIエージェントには大きく4つのタイプが存在しています。- 特定業務に特化したバーティカルエージェント
- 複数のワークフロー対応できるホリゾンタルエージェントプラットフォーム
- マルチモーダルエージェント
- 既存SaaS統合型エージェント
- AIエージェントの主なユースケース
- ソフトウェア開発ライフサイクル(SDLC):IAM自動化、テスト自動化、コード生成など
- 顧客体験向上:小売店員トレーニング、プロダクトディスカバリー支援、カスタマーサービスAIエージェントなど
- バックオフィス(財務、調達):サプライチェーン在庫管理、請求書処理の自動化、監査自動化など
- データ分析:クラウド使用率分析、テキストからSQLへの変換など
- オペレーション運用:ネットワーク診断、経営陣向けレポート作成
Brian Cheskyの逆説的なリーダーシップインサイト:Airbnbの未来と経営哲学
Fortune Magazine「How Airbnb’s CEO uses an Unconventional Management Approach to Drive the $85 Billion Brand」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
850億ドル企業Airbnbの創業者兼CEOのBrian Cheskyが、従来の常識を覆す独自の経営哲学についてFortuneのインタビューで語りました。以下が要点です。
- 完全な自律性は誤り
Chesky氏は「従業員が完全な自律性を求めている」という一般的な考えに異を唱えます。仕事の進め方について一定の裁量は必要ですが、完全な自律性はかえってチームの分断を生みます。従業員が本当に求めているのは、効果的なチームワークと協働なのです。 - 「ファウンダーモード」による経営改革
Y Combinatorの創業者ポール・グレアムが提唱した「ファウンダーモード」は、スタートアップ創業者のように現場に深く関与する経営スタイルを指します。Chesky氏がこのアプローチを導入した結果、Airbnbは3年間で500以上のプロダクト改善を実現し、シリコンバレーでも屈指の収益性を誇る企業へと成長しました。 - グループミーティングによる情報共有の促進
Chesky氏は1 on 1の定例ミーティングよりも、グループでの議論を重視します。この方法により、組織全体での情報共有が促進され、より効果的な問題解決が可能になります。個別のコミュニケーションは、短時間の通話やメッセージで補完する形を取ります。 - 革新的な2年間ローリング戦略
多くの企業が年次予算と戦略を同時に策定する従来型の手法を取る中、Airbnbは異なるアプローチを採用。戦略立案を予算から切り離し、6ヶ月ごとに更新する2年戦略とすることで、市場の変化により柔軟に対応できる体制を実現しています。 - 階層を超えた現場との直接対話
Chesky氏は経営陣以外に30-50人の現場メンバーと直接的な関係を維持。さらに、直属の部下のチーム採用にも積極的に関与します。このアプローチにより、意思決定の速度向上と従業員のモチベーション維持を両立しています。 - 全員参加型の会議運営
会議には明確なリーダーシップと具体的な議題が必須です。Chesky氏は「全員が発言する会議」を原則とし、傍観者を作らない運営を実践。これにより、より活発な議論と効果的な意思決定を実現しています。 - テクノロジーと人間味の両立
テクノロジーの進化に伴い自動化は進めつつも、Chesky氏はホスピタリティの核心である人間同士の交流を最重視します。効率化と人間的な体験の提供という、一見相反する要素の最適なバランスを追求しています。 - 事業領域の戦略的拡大
Airbnbは、単なる短期賃貸プラットフォームを超えた展開を計画中です。5月には新プロダクトの発表を予定しており、より包括的なホスピタリティ企業としての進化を目指しています。 - 現場参加型のリーダーシップ実践
Chesky氏は「委任して距離を置く」従来型の経営手法を否定し、現場との密接な関係構築を重視します。この手法により、意思決定の迅速化と組織の一体感醸成を実現しています。 - 明確な基準による組織統合
組織の成長には、明確な基準設定とチーム間の効果的な連携が不可欠です。特に新入社員に対しては、会社固有のルールやチーム連携について、より丁寧なガイダンスを提供しています。 - メリットベースの情報共有戦略
Chesky氏は年2回の戦略会議に、役職ではなく実力で選抜した80-100人のメンバーを招集します。この方法により、重要な戦略情報を、最も影響力のあるメンバーに確実に伝達する仕組みを確立しています。 - 経営者の現場参加がもたらす相乗効果
一般的な予想に反し、経営者の深い現場関与は組織の効率性を高めました。現場により近いマネジメントスタイルの採用により、意思決定の迅速化と従業員のエンゲージメント向上という相乗効果が生まれています。
完全成果課金モデルの落とし穴
Kyle Poyar’s Growth Unhinged の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
Kyle PoyarのPostの考察が、SaaSにおける完全成果課金モデルの注意点について考察されていたので共有いたします。
- Salesforceの元共同CEOが創業したAIスタートアップSiera(評価額45億ドル)が、アウトカムベースプライシングの全面採用
- Intercom(他のZendeskなど)が昨年導入したAI解決策1件あたり0.99ドルという課金モデルの流れを汲むものです。
- メリット
顧客側において新製品の導入リスクがゼロ
使用量に比例してROIが向上
ベンダー側が100%成果にコミットできる
収益の上限がない
- 現実的な課題
ハードルは「帰属」です。つまり成果は誰に帰属するのかという点。
成功報酬型の課金を開始すると、必ず次のような議論が生じます。「この成果は本当にツールによるものなのか?」「それとも、私たちの努力が大きかったのでは?」特に、製品がユーザーの行動変容を必要とする場合はより深刻な課題となる。
そのため、1.製品がサービスの全工程を確実にコントロールできる 2.成果測定の方法について事前に明確な合意を得る、ということがないと、現時点でワークさせることは難しい。
[海外]
バーティカル
- Aiwyn - 会計事務所向けの包括的な会計業務管理プラットフォームと税務に特化したAI。KKR、Bessemer Venture Partnersなどから$113Mを調達(TechCrunch)
- Haber - 工場プロセスの自動化に焦点を当てたAI駆動ロボットサービス。シリーズCで$44Mを調達。投資家はAccel、BEENEXTなど(Tech in Asia)
- Basis - 会計士の仕事の反復的な部分を自動化することで、会計士の生産性を向上させるAI。シリーズAで$34Mを調達。投資家はKhosla Ventures、BoxGroupなど(Silicon Angle)
- Boon - 貨物輸送業者向けに車両管理のシステム統合・AIプラットフォーム。Marathon、Redpointなどから$20.5Mを調達(TechCrunch)
- Bluenote - ライフサイエンス企業向けに規制・コンプライアンスのワークフローを合理化するAIプラットフォーム。シリーズで$10Mを調達。投資家はLux Capital、Anthropicなど(PR Newswire)
フィンテック
- Zest AI - AIを通じてより高度で正確なスコアリング手法を提供することで、信用引受を変革する融資特化Fintech×AI。Insight Partnersから$200Mを調達(Yahoo! Finance)
- Parafin - 中小企業の資金調達や経営管理を支援する組込型Fintech。シリーズCで$100Mを調達。評価額は$750M。投資家はNotable Capital、Redpoint Venturesなど(Yahoo! Finance)
ソフトウェア開発支援
- Anysphere - コーディングアシスタントAI「Cursor」を提供。シリーズBで$100Mを調達。評価額は$2.6B。投資家はThrive Capital、Neoなど(TechCrunch)
- Sitemate - コード不要のソフトウェア開発プラットフォーム。シリーズAで$18Mを調達。投資家はBlackbird Ventures、Shearwater Capitalなど(Yahoo! Finance)
エンタープライズ
- Vultr - セキュアさが売りのAIクラウドインフラ。評価額$3.5Bで$333Mを調達。投資家はAMD Ventures、LuminArx Capital Managementなど(Crunchbase News)
- Keepit - クラウドネイティブのデータ保護・バックアッププラットフォーム。One PeakとEIFOの共同リードで$50Mを調達(Silicon Angle)
サイバーセキュリティ
- Sublime Security - AIによる検知機能とプログラム可能なルールエンジンを融合し、フィッシング、マルウェア、標的型ビジネスメール詐欺(BEC)の脅威に対する強固なセキュリティを提供するEメール特化セキュリティ。シリーズBで$60Mを調達。投資家はIVP、Index Venturesなど(Fintech Global)
ヘルスケア
- AnatomyFinancial - 全米の医療機関にデジタルバックオフィスとAIを活用した財務業務自動化サービス。シリーズAで$19Mを調達。投資家はCanapi Ventures、Lightspeed Venture Partnersなど(Yahoo! Finance)
その他
- Perplexity - Googleに対抗するAIサーチエンジン。評価額$9Bで$500Mを調達。投資家は Institutional Venture Partnersなど(TechCrunch)
- Decart - AIの効率性にフォーカスしたAI開発を行うリサーチラボ。シリーズAで$32Mを調達。評価額は$500M。投資家はBenchmark Capital、Sequoia Capitalなど(TechCrunch)
- Backflip - AIによって生成された約1,000万個の3Dパーツからなる大規模なデータセットを基に訓練した3Dデザイン特化の生成AI。シリーズAで$30Mを調達。投資家はAndreessen Horowitz、NEAなど(TechCrunch)
[国内]
- Craif - マイクロRNAとAIを活用したがんの超早期発見技術を開発・提供。シリーズCラウンドの1stクローズでX&KSKから10億円を調達(PR Times)
- アローサル・テクノロジー - AIツール特化型のeラーニングサービスを提供。プレシリーズAでVision Platform、識学ファンド、および金融機関から総額2億円の資金調達を実施(PR Times)
- Starley - ユーザーとの会話を通じて成長する音声会話型おしゃべりAIを提供。X&KSK、W fundなどから約2億円を追加調達(PR Times)
- FOOD AI Lab - 飲食店向けの音声AI接客サービス「LUNA」を提供。Food Innovators Japanなどから4,000万円の資金調達を実施(PR Times)