これからさらなる成長を求めていくベンチャー企業にとって、「採用」は最大のミッションとも言えるでしょう。事業を拡大していこうとするならば、自分たちのカルチャーにあった優秀な人材を増やしていくことは不可欠です。
そのプロセスを担うのは、人事部だけではありません。“社員面談”という形で、全員が採用にコミットしていくことが重要になってきます。ただ「面談ってたまに入るけど、どういう姿勢で相手と接したらいいのか、イマイチよくわからない……」と感じている方は、意外と多いのではないでしょうか。
なかなか誰も教えてくれない「求職者との採用面談で意識するべき“型”」について、ALL STAR SAAS FUNDの楠田司が解説します。エージェント歴6年余り、担当した注力求人の採用決定率は90%以上を誇っていた楠田が、一生使える採用面談スキルをお伝えします。
採用面談のキモは「見極め」と「引きつけ」
採用面談の機能は、大きく2つに分けられます。それは「見極め」と「引きつけ」です。
前者の「見極め」は、求職者(=面談相手)の持っているスキルや性質が、自社が必要としている要素とマッチしているかどうかを判断することです。後者の「引きつけ」は、見極めの結果、「ぜひウチで働いてほしい」となった求職者に自社の魅力を伝えていくことです。
前者については、面談慣れしている採用担当が何人かいれば、彼らの見極めの結果を全体に共有することでカバーできます。そのため、面談をする全員が精度高く修得していなくても、大きな問題にはなりません。
一方で後者については、現場で働く皆さんが、それぞれに訴求できるエピソードを持っています。自社の魅力を、社員一人ひとりが多角的に伝えることで、「引きつけ」の効果はグッと上がっていくものです。
今日はこの「引きつけ」のスキルに焦点を当てて、お話していきたいと思います。
3ステップで押さえる、面談の基本フロー
よく、採用面談に慣れてない方々から「何をどんな順番で聞けばいいのか?」「どんなポイントを押さえるべきか?」と聞かれることがあります。
難しく考える必要はありません。採用面談では、以下の3つのステップを念頭に置いておきましょう。
面談はまず「~Step1~ 適切な場作りをおこなう」ことがスタートラインです。“適切な場作り“とは「心理的安全性を担保する」とも言い換えられます。相手に「ここはなんでも安心して話せる」「変なことを言ってしまっても大丈夫そうだ」と感じてもらえるよう、丁寧にコミュニケーションを立ち上げていきます。
次にやるべきは「~Step2~ 求職者の気持ちを深く理解」すること。表面的な志望動機ではなく、相手が大切にしている価値観、中長期的なキャリアビジョンを把握するため、質問を投げかけていきます。
そして最後に行なうのが「~Step3~ 魅力を自分の言葉で伝える」ことです。これが冒頭に挙げた「引きつけ」の部分に当たります。
大事なのは、Step3に当たる「引きつけ」を急いで押しつけすぎないこと。一方通行のコミュニケーションにならないように、Step2で引き出した相手の情報を参照しながら、「どんな伝え方をすれば受け取ってもらいやすいか」と考えましょう。その方法については、後ほど詳しく説明しますね(※「Step3」のポイント解説にて後述)。
ここからは「Step1~3」の各フェーズで、それぞれ何を意識すればいいのか、具体的に解説していきます。
Step1:共感はしなくてもいい、まずは肯定的に受け止めよう
「~Step1~ 適切な場作りをおこなう」のフェーズでは、以下の3点がポイントとなります。
1つ目は「相互理解の場と伝える」。
「今日は、私と貴方がお互いを知るための場です」と、面談の最初に言葉にしてしっかりと伝えましょう。面談の目的が共有されていないと、相手は「何を言ってよくて、何を言ってはいけないのだろうか」と不安を覚え、話がしにくくなってしまいます。
先に目的をはっきりさせて「何を言っても大丈夫ですよ、安心して話してくださいね」と伝えておくことで、面談はお互いにとってより有意義な場になります。
2つ目は「全肯定で関わる」。
相手の発言に対して無理やり共感する必要はありませんが、頭ごなしに“否定”はしないよう心がけましょう。自社や自分とは異なるスタンスであったとしても「その考え方、ユニークですね」「その視点は私になかったです」と、肯定的に受け止めること。
否定をされない場では、相手も安心して「そういえばあの話も、この話も」と、コミュニケーションの積極性が上がっていくはずです。
そして3つ目は「+1アップ」。
面談する側も緊張しますから、気づかぬうちにいつもより顔がこわばっていたり、話し方も固くなっていたりするものです。なので、普段のテンションや気配りの度合いが10だとしたら、それを「+1」上げるくらいの気持ちで臨んでみましょう。
たとえば、「面談担当の××です、どうぞよろしくお願いします」と始めるところを、一言プラスしてみる。「○○さん、今日こうしてお話できるのを楽しみにしてました! 面談担当の××です、よろしくお願いします!」と。
後者のほうが、「悪い人じゃなさそうだな」「話しやすいかも」と思ってもらえそうですよね。
Step2:紋切型のフレーズでの質問を避け、具体のエピソードを引き出そう
「~Step2~ 求職者の気持ちを深く理解」のフェーズも、ポイントは3つです。
まず1つ目は「転職理由の理解」。転職理由の深堀りは、求職者の価値観、行動のモチベーションの源泉を短時間で把握するために、最も効果的な方法です。
転職理由の聞き方には、コツがあります。単純に「転職しようと思った理由は?」と質問しても、「もっと裁量権がある環境でチャレンジしてみたいと思ったから」などと、よく耳にする回答しか返ってこないことが多いです。
なので、少し角度を変えて「これまでにも転職の機会は何度かあったと思うのですが、今このタイミングで具体的に動き始めた理由って、何なんでしょうか?」と質問してみてください。この聞き方をすると、具体的なエピソードが引き出せます。どんな出来事に心と身体が動いたのか。そこにこそ、人のリアルな価値観、こだわりが見えてくるのです。
2つ目のポイントは、「転職軸の理解」です。ここでも、聞き方にコツがあります。前述の質問のやり取りをした後で、「その理由を踏まえて、今どんな軸で転職先を探しているのですか?」と、話を繋げながら問いかけましょう。
なぜ、こうした聞き方をするのがいいのか。転職軸は、本人もちゃんと言語化できていなかったり、揺らいでいたりすることが少なくありません。具体的なエピソードから行動原理を整理していくと、この軸が見えやすくなるはずです。
また、相手の中ですでに軸が定まっている場合でも、具体のエピソードに紐づけて聞くことで、転職軸が形成されていった背景を理解しやすくなります。
3つ目は、「応募動機の確認」です。ここでも聞き方に要注意。「弊社への志望動機は何ですか?」という直球の言い回しは避けましょう。これだと、紋切型の回答が返ってきがちになります。
少しニュアンスを付与して「数ある企業のなかで、なぜ弊社の面談に参加しようと思ったのですか? どんなきっかけがあったのでしょうか?」と、きっかけにフォーカスしてみましょう。
そうすると「あのnoteを読んで、こういうポイントが気になりました」「御社の△△さんと偶然お話する機会があって、それで興味を持って」などと、心の動いた瞬間の具体的なエピソードが見えてきます。これこそ、引きつけのために押さえるべき要素ですね。
Step3:自社の魅力は、実体験とひもづけて具体的に伝えよう
Step1で心理的安全性を担保して話しやすい場を作り、Step2で求職者の価値観の理解を深めました。
ここまで積み上げてこそ、「~Step3~ 魅力を自分の言葉で伝える」が、効果的に展開できます。Step2で聞いた相手の軸に合わせて、自社の魅力を語りましょう。
Step3での大事なポイントは、2つあります。
ひとつには「自分の入社理由を言語化しておくこと」です。求職者からほぼ確実に聞かれる内容ですね。
転職活動を始めたきっかけ、どんな転職軸で会社選びをしたのか、最終的に何が決め手となって入社を決断したのか──これらをひとつながりのストーリーとして語れるとよいでしょう。つまり「Step2で聞いたことを、自分でも話せるようにしておこう」というわけです。
入社理由を端的に述べるだけではなく、実体験に基づいたストーリーとして伝えることで、相手はより具体的に「どんなタイプ、どんな思いを持っている人なら、この会社で生き生きと働けそうか」をイメージできます。
もうひとつは、「自社の魅力を言語化しておくこと」です。「うちの会社、めっちゃいい人が多いんですよ」って、よく言いがちではないですか?
決して間違いではないと思いますが、おそらくほかの多くの会社の方々も同じ表現を使っているので、相手の印象には残らないでしょう。
では、どんな風に伝えればよいのか。
「魅力を“実体験”とひもづけて話す」のがコツです。先ほどの「いい人が多い」というメッセージも、たとえばこんな風に伝えたらどうでしょうか。
「入社前の面接がオンラインで完結していて、リアルな会社全体の雰囲気が掴めずに不安があった。でも入社後、まだ話したことのない方も含めてたくさんの人がSlackで個別にメッセージをくれて、新しい仲間の一人ひとりにここまで配慮できるのかと感動した。そんなエピソードがあるから、“いい人が多い”と感じている」
ただ「いい人が多い」と伝えることと、具体のエピソードを伴って伝えること。その違いは歴然としていますよね。こうした「魅力の具体」をどれだけ相手に伝えられているかが、最終的な求職者の意思決定に大きく影響してくるものです。
「人が組織に共感する要素」を表した4Pを踏まえる
そして、「自社の魅力を言語化しておくこと」において、大切となる観点があります。
それは、ベンチャー企業の採用ブランディングなどを手掛けるポテンシャライト社や、経営コンサルティングファームのリンクアンドモチベーションでも採用されているもので、「4つの惹きつけ視点(=4P)」と呼ばれています。
求職者が知りたいテーマに沿って、自社の魅力をさらに具体的に話すことができれば、自社の魅力はもっとわかってもらえます。そこで効くのが4Pであり、人が組織に共感する要素である4つのタイプを指します。
Philosophyは、「何のために」が重要なタイプ。自身がその会社で働くことで、何が成し遂げられるのかに関心が強い。スタートアップを志望される求職者のなかでは最も多いタイプかと思います。
続いて、Professionについては、「何をやるか」が重要なタイプ。仕事のダイナミックさや、難易度の高さに関心が強いです。コンサルティング会社出身者などに多い印象です。
次は、Person。先ほどのProfessionとは真逆で、「誰と働くか」が重要なタイプ。バックオフィス業務などに従事される方に多く、仲間の助けになるなら仕事を選ばず、遂行できます。特にアーリーステージのスタートアップでは重宝される存在ですね。
最後は、Privilegeです。リモートワークや時短勤務の制度など「働き方」に関心が強いタイプ。スタートアップでよくあるニーズとしては、保育園の送迎です。一時的に、お子さんの送り迎えで仕事を抜けたりすることに対する寛容さなど、働き方の柔軟性が必要な方々です。
4つのタイプに明確に分けられないこともありますが、どの要素が強いか意識しながらStep2までの面談をおこなっていただき、実体験や具体的な事例を用いて自社の魅力を伝えることをオススメします。
最初は、いきなり具体例を話すのは難しいかと思いますので、スライドのように実体験を言語化しておくと良いと思います。入社したばかりの方は、まだ経験されていない点や知らない情報もあると思うので、社内で事例を出し合ってみたり、実体験した内容をシェアしたりする機会を作っておくのを推奨しています。
押し付けない「Iメッセージ」で後押しする
最後にひとつ、面談する上で、忘れてはいけない大事な前提をお話します。
それは「他人の気持ちは、小手先のテクニックでコントロールできるものではない」と弁えることです。だから「貴方は絶対にうちに入るべきだ」といった強引な採用クロージングは大抵うまくいかないし、仮にその場ではうまくいったとしても、後々にズレが生じて早期退職に繋がりやすくなります。
ただ、話を聞いて求職者のことを理解して、「相手にとって自社に入ることがベストではないか」と心から思えるのであれば、それを伝えることは決して間違いではありません。
その際に注意するべきは、伝え方です。「私はこう思う」と主語が自分であることを明確にする、すなわち「Iメッセージ」として話すように心がけてください。
「○○さんは絶対にウチが合うから、入ったほうがいい」ではなくて、「私が○○さんと同じ立場だったら、うちに入るのがベストな選択じゃないかと感じました」と伝える。些細な違いではありますが、求職者からすると、前者は「なんで勝手に決めつけるの?」と思われて、距離感が生まれてしまう可能性があります。
対話を重ねて、熟慮した上での「Iメッセージ」だということが話しぶりから伝われば、「ウチが合うかも」という後押しも、そこまで押し付けに取られないはずです。