スタートアップ企業が成長を続けるためには、自社にフィットした人材をいち早く採用することが重要です。
そのための手法は数あれど、人材紹介会社などのエージェントと協力すると、自社が持つネットワークの外にいる優秀な人材と出会えるチャンスを掴めるかもしれません。
実際に、CxO候補など希少性が高く、採用競合も多いポジションであっても、採用活動を始めて数ヶ月で入社した事例もあります。一方で、エージェントに依頼しても「1年以上ポジションが決まっていない」「打ち合わせしたものの、人材の推薦があがってこない」という声もよく聞かれます。
私はALL STAR SAAS FUNDのSenior Talent Partnerとして、様々なスタートアップ企業の採用支援を担っています。すると、同じようにエージェントと協力していても、希望ボジションが早期に決まる企業と、そうでない企業があることが見えてきました。
両者を大きく分けているポイントは「エージェントリレーション」です。
私の支援先でも、エージェントリレーションを強化した結果、CxOを始めとする希少性の高いハイクラス人材が数ヶ月で決定した事例もあります。今回は、エージェントリレーションを上手く構築し、早期に成果を上げている企業の共通点を、5つのステップに沿って解説します。
なお、まずは全体像から解説を始めますが、現在の課題が明確であったり、すでに理解していたりするようであれば、各ステップからお読みいただいても構いません。
エージェントリレーションの全体像を知ろう
5つのステップへ進む前に、エージェントリレーションの全体像をお伝えします。一連の流れで行われる活動ですが、大きく5つのステップに分けて考えることで、ステップごとの振り返りや強化ポイントの見直しがしやすくなるためオススメです。
「エージェントへ依頼する際には、決定までの目標期間をどの程度にすべきか」というご質問をよく受けます。
採用したい人材の希少性や、ペルソナ設計の精度にもよりますが、3ヶ月以内の決定を目標に進めるのがオススメです。スタートアップへの転職においては、求職者の書類応募から内定承諾まで約2ヶ月が平均的なので、最短の3ヶ月を目安に集中して採用活動に取り組むのがよいでしょう。
そして、エージェントと連携をスタートした最初の1ヶ月は、幅広く人材を推薦してもらいながら、設計したペルソナの解像度を高くしていく作業を中心に据えるのです。
それでは以下、最初の1ヶ月をより有意義にするためにも欠かせない「事前準備」のステップから解説していきます。
【ステップ1】事前準備:採用活動の前に欠かせない「3つの準備」
実は、5つのステップで最も重要なのは、この事前準備です。ステップ2以降は、優秀なエージェントに出会いさえすれば、早期決定に向けてエージェント側が上手くリードしてくれるのです。
ただ、ステップ1の項目は、自社で事前に取り組まなければなりません。下記の「3つの準備」は優秀な人材を採用するための必須条件です!
1. 「エージェントと向き合うスタンス」の準備
エージェントは、採用活動を成功させるための重要なパートナーであることを忘れてはいけません。彼らは求職者の転職を成功させることを第一に考えます。そのため、優先的に紹介される求人情報は、エージェント自らが信頼でき、深く理解している企業のものです。
会社の人事やメンバーと同様に、採用活動を成功させるためのパートナーとして、エージェントから信頼してもらえる関係性を構築していくスタンスが重要です。
2. 「魅力的な求職者に応募いただくための会社情報」の準備
求職者の志向に合わせて、エージェントから自社の魅力や情報を抜け漏れなく伝えてもらうためにも、採用ピッチ資料の準備をお勧めします。
採用ピッチ資料の作り方については、ポテンシャライト代表の山根一城さんが書かれたnoteが参考になります。スタートアップの採用ピッチ資料を分析し、魅力的な資料のポイントをまとめてくれています。
プラスアルファで準備できるならば、エントランスブックの準備も推奨します。採用ピッチ資料が「広く浅く」自社の魅力を打ち出していくものに対し、エントランスブックは「狭く深く」伝える資料です。
ちなみに、求職者が意思決定を進めるタイミングでは、会社を理解する解像度が高い状態であるほど、内定承諾率は上がります。
「採用ピッチ資料」と「エントランスブック」を活用し、資料として伝えられる情報を前もって提供する。そして、面談では公にされていない情報や、求職者の思考に合わせて適切な情報を提供する。このように情報提供の仕方を変えるだけでも、内定承諾率は向上するのです。
3.「経営者が採用活動に向き合う時間」の準備
たとえば、責任者の採用を想定した場合、面接で必要になる時間はざっと見ても、これくらいです。
さらに、書類選考、求職者への面接ごとのフィードバックの共有、日程調整なども入ってきます。そして、もちろん一人の求職者に内定を提示し決定するとは限りませんので、この3〜5倍くらいは時間がかかります。
競合企業が上記のような時間をしっかり確保し、求職者と向き合うなかで、自社だけ採用活動の時間を準備できていないと、エージェントとのコミュニケーションが手薄になったり、求職者との接点も他企業と比較して少なくなったりします。
経営者が採用責任者を兼任するような初期フェーズでは、エージェントとリレーションを構築し、求職者の方とじっくり向き合うためにも、重要ポジションの採用活動を進める際には最優先でフルコミットすることが重要です。
【ステップ2】初回打ち合わせ:エージェントを知り、自社のことを伝える
つぎに、エージェントリレーションを効率よく進めるために、初回打ち合わせですべきことをまとめます。
エージェントとの初回打ち合わせでは、自社の本気度がちゃんと伝わるように、代表もしくは採用責任者が同席することを強くオススメします。
その際の流れは、下記3点を基本としましょう。
- エージェントを知る
- 必要な会社情報を伝える
- 定例ミーティングのセット
1. エージェントを知る
初回打ち合わせでありがちな失敗は、いきなり会社紹介を始めてしまい、そのまま求人説明に入ってしまうケースです。
たとえば、「CTO採用の緊急度が高いため、かなり丁寧に説明していたものの、実はビジネスサイドの採用に強いエージェントだったことを、打ち合わせ終了直前に知った」といった失敗が、意外に多いです。
特にハイクラス採用などで活用する両面型エージェント(企業と求職者の両方の窓口をひとりのコンサルタントが担うモデル)には「得意領域」があります。
セールスや事業開発などのビジネス職に強い方や、エンジニアやバックオフィス系求人に強い方など様々です。
まずは、エージェントの会社説明や、直近の決定実績を聞かせてもらい、今回依頼する求人内容と伝えるべき自社情報を選定することが重要になるのです。
【エージェントを理解するためのオススメ質問】
・御社のデータベースにはどんな求職者さんが多いですか
・有料媒体でスカウトするとき、どんな媒体をメインに使われていますか
・決定している求職者の年収レンジ、役職、ポジションを教えてください
・得意なポジションや職種、最近決定した事例を教えてください
2. 会社情報を伝える
エージェントが得意とする領域、職種のアトラクトができそうな要素を中心に、あなたの会社の魅力を伝えていくのがオススメです。ポイントは、カジュアル面談で求職者さんに自社の魅力を伝えるように、まずは目の前にいるエージェントにファンになってもらうことです。
エージェントの得意領域や、大切にしている価値観を汲み取りながら順番に伝えていきましょう。そして、採用ピッチ資料やブログにまではまとめられていない、自社ならではの面白い取り組みなどをお伝えすると、求職者の意向を高める際にも活かせるため、エージェントから喜ばれます。
求人が伝わりやすい順序の工夫
- 会社のビジョン/事業説明
- 今後の事業計画について
- 中長期的に目指したい組織図
- 現在の組織体制と課題について
- 採用実績
それぞれで伝えるべき内容は、以下の通りです。
1)会社のビジョン・事業説明
会社のビジョンを伝える際は、「なぜ、そのビジョンに至ったか」の自社ならではの背景を具体的に伝えると、より意味や重要性を理解してもらえます。この場での事業説明は概要を理解いただくものなので、3〜5分程度で簡単に説明しましょう。
2)今後の事業計画について
今後控えている大きなイベントを中心に、簡潔で構いません。
・1年後にIPOを目指したい
・6ヶ月後に新規サービスリリースを控えている
・3ヶ月後にサービス連携を予定している
といったように、時期を含めて案内します。
3)中長期的に目指したい組織図
採用計画については丁寧に伝えましょう。
・1年後、3年後に目指したい組織図
・将来的に必要となりそうな人材像
・今回依頼する求人に関する、継続的なニーズ
エージェントも継続的なお付き合いができる企業を喜びます。
4)現在の組織体制と課題について
ここも丁寧にお伝えするべき箇所です。
・現状の組織体制
・今回依頼したい求人はなぜ必要になったのか
・具体的にどんな目標を持つのか、どのチーム/レポートラインに入る人なのか
・課題の具体例(「この部署がこういう理由で目標を達成できないでいる」「この部署のリーダーがこういう理由で退職してしまった」など)
課題をお伝えするのはハードルがあると思いますが、包み隠さずお話しすることで、採用に詳しいエージェントであれば、その課題を解決するために相応しい人材を提案してくれます。
5)これまでの決定実績
エージェントも、決定実績のある積極的に採用を進める企業に注力したいものです。具体的にどんな人材が、どんな背景で入社しているのか、具体的に伝えましょう。
・これまでどういう経路で採用してきたか
・どういう経歴の人が在籍しているか(もともとIT業界の人たちばかりなのか、異業種もいるのかなど)
・既存メンバーの内定承諾理由、入社理由
・入社した方が転職活動時に受けていた企業やバッティング企業
・これまでの内定辞退理由、選考辞退理由
3. 定例のミーティングをセットする
初回打ち合わせで忘れがちなのが定例ミーティングのセッティングです。人材紹介契約書の締結、求人作成、そして人材の自社データベースでのサーチ作業。ここまで一通り完了するのに、早い企業だと1週間。やや時間がかかる場合でも、2週間ほどで完了することが多いようです。
ですので、2週間を目安に次回ミーティングを設定し、そこまでに人材のフィードバックなどを丁寧におこないつつ、連携を深めていくことが重要です。連携が慣れてきたら、定例ミーティングは「1ヶ月に一度」など徐々に期間をあけるのが時間的なコストを節約するためにもオススメです。
【ステップ3】エージェントからの紹介活動開始:3つの心がけを大切に
エージェントから紹介活動が始まる段階で心がけてほしいことが3つあります。「面談フィードバック」「合否連絡」「面談ハードル」です。これらを意識していただくと、エージェントとのリレーションが上手く進みます。
1. 「面談フィードバック」は具体的かつ丁寧に
書類選考や面接のフィードバックは丁寧にお伝えするのがエージェントリレーション構築の鍵です。具体的にフィードバックすることで、エージェントの求人理解も進み、早期決定につながります。
求職者と面談して、魅力に感じたポイントや、逆に魅力に映らなかった理由もあれば、率直かつ具体例を交えてお伝えください。次回の推薦をいただく際に、よりマッチした候補者を紹介してもらえるようになります。
フィードバックでお伝えすべきポイント
- 具体的にどんな経験が、会社のどんな課題を解決できそうで魅力を感じたのかを記載する
- 「カルチャーマッチを感じた!」といった抽象的な言葉ではなく、具体的にコメントする
- 面談を通して気になった点も記載し、必要に応じてエージェントからフォローしてもらう(今回は縁がなくとも、将来的な入社候補になったり、口コミでの評判醸成につながったりするため)
エージェントリレーションが上手い企業のフィードバック例を挙げてみましょう。これは、ある採用担当者がエージェントへ送ったメールをもとにしています。
2. 「合否連絡」は極力48時間以内に伝える
「第一志望だった企業の選考の進みが遅く、選考結果を待っているうちに求職者が第二志望の会社から内定をもらう」「第二志望の企業は選考が早く、積極的に接点を持ってくれるため、意向が変わって内定辞退される」
これらは、よくある失敗です。魅力的な求職者ほど、他企業からもお声がけが多いことを忘れてはなりません。
選考のスピードが早いことは、求職者の体験としても好印象を持ちやすいものです。競合企業との差別化にもつながります。選考結果は48時間以内に連絡してください。
3. 「面談ハードル」を上げすぎず、「積極的に会います!」のスタンス
「このエージェントとは密に連携したい!」と感じたエージェントの推薦人材は、ぜひ積極的に会ってみてください。擦り合わせていた人材とは違っていても、お人柄や経験など何かしら突き抜けて「光るもの」を持つ求職者と出会った時、エージェントは積極的にお声がけをします。
私の経験上でも、想定していた人材とは異なるタイプの方が決定することも意外に多いです。ぜひ積極的に会ってみましょう。
【ステップ4】内定:オファー準備と求職者クロージング
オファー内容の準備と求職者に内定承諾いただくためのフォローで大切なのは、エージェントを信頼し、積極的に相談すること。そして、「年収が希望と合わない」といった時にも事前にエージェントへ包み隠さず相談しましょう。エージェントとの信頼関係が深まり、内定を承諾いただける確率を上げられます。
1. 積極的に相談する
よくある失敗は、エージェントに相談せず、自分たちで求職者の内定承諾に向けてアクションをしてしまうことです。求職者の方は年収やポジション、漠然とした不安などを受験企業にはなかなか言いづらく、求職者が感じている懸念事項を企業が正確に把握できていないことはよくあります。また、内定承諾の決め手になる要素を企業に直接伝えていないケースも案外多いです。そういった「直接は言いづらいけれど、内定承諾に関わる大切な情報」はエージェントがしっかり把握してくれていることが多いので、積極的な相談をお勧めします。
2. どんな情報も包み隠さず伝える
提示年収が現在の年収より下がる場合、それが要因で辞退されることを恐れて、エージェントに金額をギリギリまでお伝えしないケースがあります。年収がダウンする可能性がある場合、エージェントから早めに期待値調整をしてもらうほうが、結果的に内定承諾率が上がります。
【ステップ5】内定承諾:今後につながる取り組みを
新しいポジションが発生したら一番にお願いする
エージェントは、1社につき1人のコンサルタントが担当するのが一般的です。会社によっては複数社のエージェントとお付き合いがありますが、以下2つの観点から自社の求人を決定してくれたエージェントには、優先的に求人依頼をすることを推奨します。
1点目は、自社の求人で決定実績のあるエージェントは、自社の魅力を求職者へどのように伝えるべきか、他のエージェントと比較してポイントを理解しています。ですので、必然的に内定承諾率が上がり、効率的に決定しやすくなります。
2点目は、エージェントも決定実績にコミットする営業なので、早期に効率よく決定を出すために、「応募承諾」を獲得しやすい希少性の高い求人を好みます。決定実績がある企業の求人は、エージェントにとっては実績につながりやすく貴重なため、新たな求人決定のモチベーションも高まります。
お礼をちゃんと伝える
基本的ですが、エージェントに決定のお礼をちゃんとお伝えすること。企業のオリジナルグッズなどをプレゼントするような会社もあります。採用活動はファンづくりです。素敵な人材をいち早く紹介してもらうためにも、お礼の徹底をお勧めします。
たとえば、SmartHRでは、日々お世話になっているエージェントへノベルティをお送りしたり、入社した社員の名刺の裏にお礼メッセージを書いてお渡ししているようです。
予算がある時は会食などを実施するのも良いかと思います。お金や時間をかけずに日々のお礼を伝えられる方法もたくさんあるので、自社のスタイルで試してみるのもオススメです。
まとめ
もし、エージェントを活用した採用活動が上手く進んでいない時は、今回挙げた5つのステップに分けて見直し、抜けている点や漏れがないかをチェックいただくと、早期に魅力的な候補者に出会えるかもしれません。
エージェント活用は、リファラルなど自社のネットワークにはいない優秀な人材に早く出会える、間違いなく有効な手段です。ぜひ、エージェントリレーションの重要性を理解し、実践いただけると嬉しいです。