スタートアップ企業が競争の激しい市場で成長するには、「Growthマインドセット(成長志向の心構え)」を持った人材が必要です。Growthマインドセットは、心理学者のキャロル・ドウェックが、その著書で提唱したことで広まりました。個人の能力や知識は固定的なものではなく、努力や経験によって成長・発展する可能性を持っているという信念に基づいています。
スタートアップのコンテキストで考えると、Growthマインドセットは組織全体が共有するべき重要な価値観となります。スタートアップは、常に新たな技術やアイデアを探求し、新しいビジネスモデルを開発し、既存の市場に挑戦することを求められます。これらのタスクは、絶えず学習し、自身の知識やスキルを発展させることを必要とするからです。
しかし、Growthマインドセットの素養を採用で見極めることは難しいとされ、多くの企業が採用に苦戦しているように見受けられます。そこで、3社の成長企業を率いる経営メンバーに、Growthマインドセットを持つ人材の特徴や、いかに社内へマインドセットを波及していくのかをテーマにお話を伺いました。
Fond 福山太郎さん「成長志向だけを見るならば、この質問が一番です」
新しい挑戦がチャンスなのか、面倒なのか
──福山さん、Growthマインドセットの前提として、「成長」をどう定義していますか?
福山:一般的には「できなかったことを、できるようになる」と言えるでしょう。ビジネスに当てはめるなら、それに加えて、会社の成功に必要なスキルを自分から積極的に学び、習得しようとするマインドセットを指します。ただ、このマインドセットを持つ人は、全体でも20%……いや、10%ほどなのでは、と感じています。
──福山さんの周囲にいるGrowthマインドセットが強い人の共通点はありますか?
福山:新しい挑戦に対して、チャンスと捉えるか、それとも面倒だと感じるか。この違いは大きいです。
Fondでいえば、共同創業者で、チーフデザイナーのSunny Tsangが代表的でしょう。彼は元々グラフィックデザイナーで、プロダクトデザインは創業してから自ら学んで、習得したんです。
初期の頃、プロダクトデザインは他の社員が担当していました。でも、Sunnyが「自分でやったほうが早いし、理解も追いつくから」と成長して、現在は全てのプロダクトマーケティングも担っているので、本当にすごいと思っています。
あとは、共同創業者として「会社のためなら何でも引き受ける」という姿勢も感じます。オフィスの引っ越しにしてもCADで図面をおこしたり、施工業者と交渉したり..... フロントエンドも学んだり。感心させられます。
──スタートアップ企業としても、そういったスタンスの人材はありがたいですよね。
福山:自分ではわからないことって、つい採用で解決しようと考えがちですが、まずは自分が一度経験したことがあるだけで、その後のマネジメントもラクになるんですよね。
新しいことへの挑戦は未知ゆえにストレスだと感じることもありますが、一度学びはじめると、プロレベルにはなれずとも、自分で理解できる範囲が広がることが多いです。それにより、組織全体での人員の増加を抑えつつ、会社としての経験値を少ない人数で上げることができます。だから、Growthマインドセットによって、最初の一歩を踏み出してくれることが大切です。
会社としてもありがたいですし、その人自身も大きく成長できる。まさにWin-Winの関係だと思います。
──組織全体での人員の増加を抑えられる、という指摘はユニークだと感じました。
福山:特にスタートアップでは「人を増やし過ぎてしまう」というのが失敗の大きな理由の一つだと思っています。既存社員が「私にまだ余裕があるので、やったことはないけれど、これを私が学びます」と言ってくれると、過剰採用もせず、組織のスケールアップもできる。特に初期の社員にGrowthマインドセットを持つ人がいることは重要だと思います。
「ジョブディスクリプションを超えて、身につけたスキルは?」
──面接や選考のプロセスで、候補者がGrowthマインドセットを持っているかどうかを、どのように見極めますか?
福山:なかなか難しい問題ですが、私はストレートに尋ねます。具体的には「過去18ヶ月で、元々のジョブディスクリプションには含まれていなかったけれど、会社の成功のために新たに身につけたスキルはありますか」といった質問をします。それはリファレンスチェックでも必ず聞きますね。リファレンスは一般的に嘘をつけないので有効だと感じています。
──なるほど、ジョブディスクリプションを超えたスキルや実績は、見極めでは有効なフィルターとなり得そうです。
福山:そもそもこの質問にYesと答えられる数が少ないので、それでいて成果を出している人なんて稀ですからね。
──他に見るポイントはありますか?
福山:あまり思い当たりません。特に成長志向については、これ以上のポイントはないですね。もちろん他に聞く定番の質問や評価基準はありますが、成長志向だけを見るならば、これが一番です。
最近は、リファレンスチェックの際に「最後にその人がアップセットになった(怒ったり、エモーショナルになった)のはいつか」と尋ねています。直接的には成長志向とは関係ないかもしれませんが、人の本質は感情的になる時に見えることが多いと感じていて。例えば、他のチームと揉めた時に激怒した、フィードバックを受けた時に怒った、としたら、おそらく赤信号なのではないか、といったように見ています。
──フィードバックに対する反応や、コーチャブル(指導を受け入れることができる)かどうかは重要ですね。
福山:過去にあったことで、面接がすごく上手な人がいたんです。その人に「今一番足りてないスキルは何ですか?」と尋ねたところ、その人はよくよく考えてから「ない」と答えました。「じゃあ、あなたはパーフェクトなんですか?」と聞いたら「パーフェクトだ」と。採用したのですが……過去最強にまずかったです。
その点では、成長志向にはセルフ・アウェアネスも重要です。自分の成長余地を理解できていることですね。
Growthマインドセットは入社初日から見えてくる
──福山さんがGrowthマインドセットを持った人を増やすために、会社で特に大切にしていることは何ですか?
福山:まずはGrowthマインドセットを持つ人は会社にとって大事な人材である」という考えを明確に社内で発信することが重要だと思います。具体的には、昇格のスピードが速い人や全体会議で特定の行動をとった人を褒めるなど、他の人たちに対しても明らかにわかるように称賛することは、結構大事なんじゃないでしょうか。
──実際のところ、Growthマインドセットは入社後からも育てることが可能だと考えますか?
福山:可能性は2割程度あるとは思いますが、基本的にGrowthマインドセットはネイチャーなもので、社会人になった時点で一定で培われているんじゃないでしょうか。Fondの場合は、最初から持っている人が9割9分でしたね。
──Growthマインドセットを持っているかどうかは、入社してすぐに分かりますか?それとも、一定の期間が経過した後でしょうか?
福山:入社初日でわかりますね。初日は具体的なデータポイントがないので、確かなことは言えませんが、初日に感じる直感、あるいは様々な場面での行動から見えてきます。例えば、初日のオンボーディングで、ちゃんとメモを取っているか。どんな質問をしてくるか。振られたタスクにどう応えるか。フォローアップが送られてくるか……そういったところから垣間見えてきます。
Growthマインドセットを「持ってそうだけど、持ってなかった人」は結構いるものですが、「持ってなさそうで、持っていた人」って、ほぼいないです。
LayerX執行役員 石黒卓弥さん「あなたが過去に受けた“手痛い指摘”は何ですか?」
CEO自らがGrowthマインドセットを体現している
──石黒さん、Growthマインドセットの前提として、「成長」をどう定義していますか?
石黒:カジュアル面談で「LayerXにはどんな人が多いですか」とよく尋ねられるのですが、「学ぶことが好きな人」とお伝えしています。単に勉強好きというわけではなく、不確実な状況を乗り越えなければならない時に、その学びを楽しめることと言ってもいいですね。
例えば、LayerXはもうすぐ社員200名(2023年6月時点)になりますが、バクラク事業に関わる全員が経理のプロフェッショナルではありません。Fintech事業ならばデジタル証券といったように、それぞれの事業領域を学んでキャッチアップしなければ、お客さまの役に立てないわけです。
スタートアップは、どんどん新しいことに直面していきますが、それを楽しんで新しいこととして学べる。それができる人をGrowthマインドセットがあると考えています。
──社内から具体的な人物像を一人挙げるとしたら?
石黒:まさに、CEOの福島良典が代表例ですね。noteでの発信や連続起業家としてのイメージがあるかもしれませんが、近くで働いていると常に壁にぶつかりながら学び続けている一人であることを実感します。その姿勢はまさにGrowthマインドセットを体現しています。学びへの貪欲さについて背中で示してくれていますね。
例えば、私たちが取り組んでいる支出管理やBSM(ビジネス・スペンド・マネジメント)の領域では、海外に先行プレイヤーが存在しますが、彼らの一次情報を福島自らが積極的に取りに行きます。グローバルの先行事例や海外のPodcastから自身で情報を収集して、「今ならこれを参照してみたらいいと思うよ」と社内slackでカジュアルに共有する。そういうシーンが多いですね。
また、自身の経験のみに頼るのではなく、新しいトレンドのキャッチアップや、一次情報を取りに行くために常に情報を求める姿勢があります。経験に固執せず、Fact Baseに情報を集め、Be Animalに自身のコンフォートゾーンを超えて進むための取り組みを続けています。
「Be Animal」と「Fact Base」
──そういった代表の姿勢が、LayerX社内にも波及しているのでしょうか。
石黒:そうですね。私たちが「バクラク請求書(旧LayerX インボイス)」を立ち上げた時、SaaSビジネスの経験者が一人もいない中で、9名ほどのプロジェクトとしてはじまりました。
ALL STAR SAAS FUNDさん、SmartHRさんから発信されるブログを読んだり、Podcastを聞いたりしながら、自分たちで学んでいきました。同時に経理の知識も必要でしたから、知人を通じての企業ヒアリングや社内の経理メンバーやCFOに実務を教わりつつ、ビジネスを開拓していきました。
お客さまの役に立つ、ミッションを達成する、といった大きな目的を果たすために必要なことを、手段を選ばず学んでいく。福島を筆頭として、その遺伝子が全社へ広がっていると感じますし、採用業務を続けていても感じることです。
──今、伺ったようなお話は、LayerXの経営指針などに生かされていますか?
石黒:我々の社内では、「Be Animal」と「Fact Base」という行動指針に表れています。「Be Animal」は、コンフォートゾーンを超えて進むことを表しており、「Fact Base」は、一次情報を収集することを強調しています。
「Be Animal」と「Fact Base」は一見相反するように思える指針ですが、これらはビジネスの本質を反映していると感じます。ビジネスとは、基本的に不確実なものに挑戦し、事実を取りに行くことや先行事例を確認することで、その不確実性を下げていく営みだと思うのです。福島自身がそれを貪欲に、人に任せずに取りに行くところを素直に尊敬しています。
──石黒さんが見てきた中でGrowthマインドセットを持つ人材の共通点があるとすれば、何でしょうか?
石黒:私が感じる一番の共通点は、「アンラーン」や「アンバイアス」が可能であり、「自分が正しい」といった固定概念を捨てられることです。一定の成功体験はもちろん自信につながるのですが、世の中はどんどん変化していますから、もっと良い方法はないか、もっと面白いアクションはないかという思考プロセスを繰り返す能力が重要。これを当社では「思考の多寡」と呼んでいます。思考を繰り返そう、という意味です。
共通して見られる特徴としては、一次情報を取りに行き、新しいものを学ぶ姿勢があること。そして、それを楽しんでいる様子もあります。「こんな新しいものを見つけたよ」「これが面白かったよ」と新しい発見を共有してくれます。
また、学んだことを言語化することも得意ですね。自身の学びや新しい発見を、他者に対して還元していこうというマインドが強いです。おそらくは、自身の学びの整理でもありながら、他者から自身が学んでいるからこそ、自分からも発信していこうとするマインドがあるからかもしれません。他者の成功から学ぶという段階を超え、他者に成功してもらうために自分の経験をシェアしていく、というマインドが強いのだろうと感じさせます。
LayerXを形作る、フィードバックと勉強の文化
──社内にGrowthマインドセットを持つ人材を増やすために、石黒さんの工夫や大切にしていることがあれば教えてください。
石黒:いろいろな工夫をしていますが、Growthマインドセットの一つは、痛みを伴うような経験をポジティブに乗り越えようとする考え方です。自分へのフィードバックを「自分が攻撃されている」と受け取るのではなく、「自分の成長のために何かをしてもらっている」と前向きに捉えることが大切だと考えています。
一例ですが私達は面接の時に「手痛い指摘」について質問します。「あなたが過去に受けた手痛い指摘は何ですか?その指摘をどのように乗り越え、自分の成長につなげていますか?」といったことを聞きます。特に「手痛い指摘」は、まだGrowthマインドセットが確立していない時に受けるとまっすぐに受け止めにくかったりします。
LayerXでもフィードバック文化を重視していますが、フィードバックの際に個人の性格を指摘するつもりはありません。改善可能な行動やアクションに焦点を当てたいのです。だからこそ、「手痛い指摘」に対してどのように学び、行動を変えてきたかということに興味があります。ただ、往々にして大きな指摘で一度に直るものではありませんから、いかに小さな改善を積み重ねて、問題を解決していったか、というエピソードをお聞きしますね。
──社内の仕組みとして実施していることはありますか?
石黒:私たちは年に2回、会社全体で「TTFB(Trustful Team Feedback)」と呼ばれるフィードバックサーベイを実施しています。これは「Trustful Team」という行動指針に基づいています。
実施時期は5月と11月なのですが、なぜその時期かというと、4月と10月が評価査定の時期なので、意識的に1ヶ月ずらしています。「評価査定には使わない」という前提で、ストレートかつシンプルにフィードバックする機会としている背景には、若手メンバーが「自分のフィードバックが他者の給与に影響を与えるのは恐れ多い」と感じてしまいがちな問題を避けるためでもあります。
他にも「リーダーシップサーベイ」という形で経営チームへのフィードバックも実施しており、最近では「マネージャーサーベイ」も導入しました。
さらに、Growthマインドセットを育てるためには、学ぶ環境の整備が必要と考え、勉強会文化を推進しています。ドメインエキスパートに教わる法令対応の学習、会計についての知識を社内の公認会計士から学ぶ、といったこともあります。他にもトップセールスのマインドセットについての勉強会、プロダクトマネジメントやマーケティングに関するセミナーなど、様々なテーマで勉強会を開催しています。
最近では「Sales Enablementチーム」が学んだことを実践へ移すための支援を行なっていました。勉強会終了直後に「今日の感想と、明日からどのような行動を起こすかを、このSlackのスレッドに書き込んでください」と促すなど、学びが定着する仕組みを工夫しているなぁ、と感じたんです。勉強会って、参加しておしまいになりがちですから。
──成長志向を持った人材の育成、フィードバック文化の構築に向けた多面的な取り組みがあり、メンバーが自己成長に向けて積極的に行動するための仕組みがあることがうかがえます。
石黒:それがLayerXの特徴の一つだと思います。それにしても、今日はこうして深掘りしていただいて感じたのですが、当社はとにかく「勉強文化」がありますね。
株式会社SmartHR 代表取締役CEO 芹澤雅人さん「その人を突き動かしている原動力とは何か?」
SmartHRの基礎を作った、驚異的な吸収力
──芹澤さんがGrowthマインドセットを持つと感じる人は、誰が思い浮かびますか?
芹澤:パッと思いつくのは、名前を出すのが悔しい気もしますが(笑)、SmartHR創業者の宮田昇始です。私とは異なるタイプのGrowthマインドセットを持つ人物ですね。
宮田さんとはSmartHRがはじまった当初から一緒に働いてきて、彼の驚異的な吸収力を目の当たりにしたんです。経営者としても未経験のところから、プロダクトや組織を大きく育てていく過程で、彼が様々な情報を吸収し、自身をアップデートしていく様子は、高い成長角度を感じさせました。
──どういった時に、それを強く感じましたか。
芹澤:彼の思考プロセスで言うと、多様な人々からの意見をフラットに聞き入れ、それを自分自身の中で咀嚼してから、自身の意見として取り入れる力があります。そして、そのスピードが異常に速いのです。
話を聞く時は、その人物が誰であれ、まずは話をしっかりと聞き入れ、解釈します。固定観念を持たない感覚や、考えが誤っていると気づいた時には朝令暮改も厭わない姿勢があるんです。その柔軟性は、やっぱりすごいですよ。
職務経歴書では分からないプロセスを重点的に聞く
──芹澤さんから見て、Growthマインドセットを持っている人の共通点は?
芹澤:宮田さんの話を引き継ぐと、一つ目は傾聴力といえるでしょう。固定概念や持っている知識に縛られず、人の話を公平に、深く聞き入れる力です。二つ目は好奇心です。新しい知識を吸収したいという強い気持ちがあり、その学びを楽しいと感じることです。
──傾聴力と好奇心は、面接などで見極められますか?
芹澤:自分も面接の際には、これらの要素を意識して聞くようにしています。例えば、その人がどのような思考プロセスを経て判断を下してきたか、という部分です。「この人は意外と、こういったところで傾聴力を発揮してきたんだな」「この人の原動力には好奇心があるようだぞ」と。
「その人を突き動かしている、深層にある原動力とは何か」を通して見ていくと、意外と成長志向が分かってくると思っています。
──それらを引き出すためには、どのように話を進めていきますか?
芹澤:過去の仕事でアウトプットに対して、どのような思考と行動を経て、そこに至ったのかを聞きますね。特にそのプロセスの中でもチームとして出した結論に対して、いかに情報を得て、考え、行動したのかが重要です。
職務経歴書には「参画したプロジェクトと、その成果」がよく書かれているものですが、それだけでは過程が見えません。正直に言って、その人が具体的にどういった貢献をしたのか、どういった思考プロセスを経たのかはわかりませんから。
要するに、面接では職務経歴書では分からないプロセスを重点的に聞く、ということですね。
──芹澤さんとしてはGrowthマインドセットを持っている人を基本的に採用したいのか、あるいは必ず全員が持っていなくてもいいのか。どういったスタイルですか?
芹澤:確かに全員が全員そうでなくても構わないとは思うのですが、全体の割合として、SmartHRではGrowthマインドセットが非常に重要だと考えています。
なぜかと言えば、スタートアップは急速に変化し、事業や組織が拡大していくため、その変化に対応できるだけの成長志向が求められるからです。Growthマインドセットにもグラデーションはあるとは思いますが、基本的には必要だといっていいでしょう。
経営層がGrowthマインドセットを発揮して、社員に示すことが大切
──Growthマインドセットは持って生まれたものか、それとも会社の制度や取り組みで教えられるものでしょうか?
芹澤:難しい質問ですね。Growthマインドセットがどのような形で現れるかは「人による」と考えています。
最初に「宮田さんと僕ではGrowthマインドセットのタイプが違う」と話したのは、僕自身が傾聴力を重視する傾向もありつつ、学習欲が強いタイプで、新たな知識を求めて本や文献に当たることが好きだからです。このような性格からくる違いは、人生の初期段階で形成されているのだろうと思います。
ただ、おそらく、すべての人は一定のGrowthマインドセットを持っていると思うんです。それは生物としての本能、すなわち種を保存し、環境の変化に適応するための学習と変化に関連しているからです。ただ、発揮のされ方は、人それぞれで異なってくるのですね。
──SmartHRとして、それを把握するための取り組みは行なっていますか?
芹澤:パーソナリティ診断のようなツールを使っています。ストレングスファインダーや、コーチングで用いられる「4つのタイプ分け」などを通じて、まずは各人の傾向を把握しておくのは大切でしょう。
例えば、僕なら本を読むことが好き、宮田さんは人の話を聞くことが好きといったように、それぞれの強みを理解し、伸ばすことが成長の近道だと思います。
──それで言うと、宮田さんは「むしろ、本を読むのが苦手」と公言されていましたね。
芹澤:そうそう。本の代替として、いろんな人の話を聞くようにしているのでしょう。同じように、あるメンバーが人の話を聞くことが得意なら、その人に対してマネージャーは「この本を読んだほうがいい」と言うよりも、「こういった人と話してみたらどうですか?」とアドバイスするべきでしょう。各人の強みを把握し、どのようなマネジメントを行なえば、その人が成長するのか。それを理解する一助として、パーソナリティ診断が役立つのです。
また、経営層が自身でGrowthマインドセットを発揮して、それを社員に示すことがとても大切でしょう。「魚は住んでいる水槽や池の大きさが、その成長度合いを決める」とも言われます。水槽で飼っていた小さな金魚を、広い池に移したら大きくなった、というように。それは同様に、人間の成長志向にも表れてくる。経営層の思考や行動に影響を受けて、社員も成長するのだと思います。
成長している人と一緒にいれば、自分も成長できると思えるかもしれない。あまり成長していない人たちの環境にいれば、「自分もこれでいいか」と感じてしまうかもしれない、ということです。経営層が自己の成長を示し、社員に伝えることで、「成長することが良い」というメッセージが強く伝わって共鳴していく。これが組織全体のGrowthマインドセットを高める一つの方法だと考えています。
──芹澤さんご自身は、どのように経験や学びを社員と共有していますか?
芹澤:社員と話す時は、「最近こんな本を読んで学んだんです」「こういった考えが面白いと思ったんです」といったことを積極的に伝えていますね。
最近だと、私がエグゼクティブコーチングを受けた経験や、それから何を学んだのか、どのように自分の考え方や行動が変わったのかを共有しました。CEOの変化や弱みを話すということに驚かれる方もいると思うのですが、前提として、僕は「完璧な人間なんていない」と思っています。僕はギリシア哲学が好きなのですが、ソクラテスが「無知の知」を説いたように、「何も知らないということをちゃんと知ること」が大事なのです。
経営層だから完璧であるといった前提を示していく必要はないはずです。むしろ、自分も未熟ながらも勉強して成長しているんだよ、と知ってもらうことは、社員にとってもすごく良いのではないかと思っています。