採用プロセスにおける新たなスタンダードになりつつある「リファレンスチェック(Reference Check)」。意味するところは「経歴照会」や「背景調査」と訳されるように、面接や応募書類だけではわからない採用候補者のことを、これまで仕事を共にした関係者などからヒアリングすることで、さらに理解するための機会といえます。
専門業者も出てきている一方で、特にCxOレベルなどのハイクラス人材においては、採用担当者が慎重を期して実施すべきことでもあります。これから取り入れていこうとする企業、あるいはすでに実施済みで精度をより上げていきたいと考える人のために、今回は「リファレンスチェック」をテーマに複数のインタビューを実施しました。
ALL STAR SAAS FUNDでも、CxOやVP、一般社員の採用に際して、VCの立場からリファレンスチェックを実施するケースがあります。そこで、普段からその機会を持つManaging Partnerの前田ヒロと、Talent Partnerの楠田司に、まずは基本的な役割や配慮すべき点を聞きました。
さらに、現場で実践されているユーザベースのCo-CEO 佐久間衡さん、FondのCEO 福山太郎さんにも具体的なポイントを伺いました。これを読めば、いかにリファレンスチェックが企業側・候補者側の双方にとってメリットのある活動なのかが見えてきます。
ALL STAR SAAS FUND・楠田「リファレンスチェックは入社後のパフォーマンス最大化につながる」
──そもそも、リファレンスチェックには、どういう役割があると考えますか。
楠田:具体的な2つの点を見極める機会だと捉えています。一つは、面接でチェックしたスキルが正確だと把握すること。これは面接中に9割近くが済んでいる前提で、ほぼ確認に近いです。もう一つが、<yellow-highlight-half-bold>候補者のパフォーマンスを入社後に最大化させるための検討。こちらのほうが意味合いとしては大切です<yellow-highlight-half-bold>。
前田:たしかに候補者を活躍させるために、どういうコミュニケーションスタイルがよいのか、どういったことを事前に準備しておくべきか、といったことを理解するために、前職の上司や同僚に聞いてみることが多いですね。よくある勘違いとしては、候補者の過去を探偵のごとく掘り下げて、功罪を見ようとする機会だと捉えられること。
楠田:そうですね。これは企業側でも求職者側でも同様ですが、「完璧な人などいない」とは再認識したいところです。企業側は候補者のウィークポイントさえ見極めたうえで、それでも迎えたいと思うものです。「その人全体」をしっかり見るのが、あくまで大事。
前田:確かに完璧な人はいないですからね。その人の長所が今の組織に合うのか、その長所が会社に求められているのか、といったことに焦点を当てる。それが結果的に、候補者や自社にとって重要な部分の見極めにつながり、時には長所をより見つけられるポイントになってくることもあります。
ハイクラス人材ほどチェックは必須になる
──リファレンスチェックが、特にCxOやVPといった責任者クラスの採用において重要視されている理由は?
楠田:最も大きいのはスキルの正確な把握が必要だからでしょう。ハイクラス採用では、組織が向かう大きな課題や、今後の方向性を決めるような重要なタスクを任せることが多いものです。ただ、ここでも採用側で勘違いが起きやすいのは、その候補者が入社さえすれば「課題が全て解決する」と盲目的に思ってしまうこと。何より怖いところです。
その勘違いを避けるためにも、ハイクラスになるほど、責任の多いミッションを任せるほど、あえてリファレンスチェックで第三者の意見をもらうのが大事になるのでしょう。また、入社後にパフォーマンスを発揮する意味でも、当人は早く結果を出したいと気負う部分も少なからずあるので、やはり先行してコミュニケーションを取りやすくするのが大事。
特に入社当初は、任された仕事の経験が多くても、周りに相談しづらい環境です。ハイクラス人材であっても苦手なこと、既存社員にフォローしてもらったほうが活躍できるポイントはあるもの。そこをメンバーが先手でサポートできるように、チェックしておくんです。
前田:その意味では、特にハイクラスになってくるほど「ミッションの設定」は重要ですね。設定を少し間違えるだけで、その人のモチベーションが変わったり、ポテンシャルも活かせなかったりする。リファレンスチェックに限らず、面接プロセスを通じて、その人に合ったミッションやお題の設定と、それらの認識合わせが欠かせません。
もちろん、苦手な部分やサポートすべきことだけでなく、当人が得意や好きに感じている分野、あるいはパッションも引き出しておきたい。そして、それらが会社の持つ課題とマッチするかどうかを、僕がリファレンスチェックをするときは、よく尋ねています。
「どういうところにこだわって、これまでは進めていたんですか?」といったように、要素を引き出す会話やディスカッションを中心にすることが多いです。そこから、この人がいかなる熱量や考えを持ち、過去のミッションをやり遂げ、成果を得ていったのかを見ます。
VCがチェックに携わると、採用のPDCAがより早く回る
──VCという立場からリファレンスチェックを行われるメリットは、何でしょうか。
前田:第三者として、候補者がどういった「自覚意識」を持てているのかを見られるのは、とても良い機会だと思っています。つまり、「自分は他者からどう見えているのか」や「どのように評価されているのか」を、第三者の目線から確認するのが重要なのかなと。
というのも、本人が持っている自覚意識と、第三者が感じたことにズレがあると、入社後のミスマッチにつながるケースが多いようなのです。VCとしても、採用ミスマッチはかなりの痛手です。特にスタートアップはチームが少数であるほど、一人ひとりが抱えている役割も大きいため、発揮されるパフォーマンスによって業績に与えるインパクトが大きい。ミスマッチによって計画が3カ月後ろ倒しになる、といったケースもあり得ます。
もちろん完璧な精度で予測することは難しく、仕方のない部分も一定あります。ただ、リファレンスチェックの実施が、ミスマッチの確率を下げることには貢献すると思います。
楠田:投資先からのご相談でよくあるケースを一つ挙げましょう。たとえば、「CFOを採用したいので、候補者と一度会ってもらえますか」と依頼されて、実際にお会いしてみると、その方が意外にもフィットしていないことも多いのです。
おそらくそれは情報のインプットが足りないせいでしょう。「CFO候補者」と言っても、いろいろなパターンがあるものです。ところがインプットが少ないと、目の前に現れた人こそが「良きCFO像」だと思えてしまうことがある。あるいは、採用の緊急度が高すぎて、カルチャーマッチなどの重要な基準を甘くして通過させてしまう。
そこで正直にフィードバックをすると、経営者は一つ学習機会を得ます。すると、よりフィットしてくる人を探してきたり、アプライしてきたりすることが増える傾向にあります。採用のPDCAを早く回す手段としても、リファレンスチェックは使えるといえます。
前田:確かに緊急度が高いと、妥協点を増やしたくなる気持ちが出てきやすいですよね。あとはスタートアップだと、「うちの会社にわざわざ応募してくれた」というファクトだけで候補者を好きになって、ボーナスポイントを与えてしまうことも……。
それは自戒を込めて僕自身にも起き得ますし、企業家や経営者で採用経験が少ない方ほどよくあるのかな、と思っていて。妥協点が多い状態での採用は、やはりミスマッチにつながってしまうので気をつけないといけませんね。
フィードバックには透明性を
──リファレンスチェックは、採用のどのタイミングが多いですか?
楠田:「最終選考が終わる前」か「終わった直後」の実施が一般的でしょう。個人的にもベストだと考えます。
タイミングについては、SaaS事業の経営者ほど陥りやすいのかもしれない注意点を一つ……採用をすべてオペレーティブに仕組み化して回そうとする意識が働きすぎて、こんな問題によくぶつかるのです。
候補者は、まだ現職への気持ちもある。ただ、興味は惹かれる会社なので最終選考まで進んでみようとしている。このタイミングでリファレンスチェックの案内がメールで届くと、候補者の心理的なハードルがグッと上がって、離脱につながることが、ままあるようです。その場合は、十分にアトラクトして、転職意志が固まるまで握ったほうがいいでしょう。
前田:それから、リファレンスチェックの結果を通じて、仮に採用へつながらなかったとしても、きちんとプロセスを踏んで、しっかりとフィードバックを返すことが大切。「なぜそうなったのか」について透明性を持って共有すると、面接のプロセスそのものが、当人のためになるようにつなげていけるのが理想ですね。そうすると、今回は縁がなくても会社のファンになってくれるかもしれませんし、またどこかで交わるかもしれないわけですから。
楠田:そうですね!あと、ハイクラス人材であれば、リファレンスチェックは「内定を出す」というタイミングで構わないと考えます。なぜなら、チェックを走らせることで、候補者の転職活動が社内へ漏れる可能性がゼロではない、というリスクも抱えているからです。
前田:ハイクラスになってくると、落選理由もスキル問題ではなく、カルチャーマッチなどが多いはずですからね。その際も透明性を持って、理由を率直に共有しましょう。
協力者にもメリットのある情報提供をする
──リファレンスを依頼する側として、気をつけるべきことはありますか?
楠田:前提として、<yellow-highlight-half-bold>候補者の弱みを見つけるためではなく、パフォーマンスを最大限発揮してもらうための準備である<yellow-highlight-half-bold>、というメッセージを丁寧かつ意識的に伝えることですね。誤解も招きにくいですし、依頼された側の心理的安全性も担保されるはずです。良いところも悪いところも含めて、候補者を理解してくれている人に出てもらえるのがベストですから。
前田:リファレンスチェックに協力してくださっている方は、わざわざ時間を作って話してくださるわけですから、できる限り気持ちよくコミュニケーションを取りたいところです。その方の時間を無駄にしないためにも簡潔に、さらに提供できるメリットがあれば積極的に渡すことは意識しています。
たとえば、同じくSaaS業界の方なのであれば、事業としてご一緒できる部分を会話を通して探ってみたり、知り得る情報をお伝えしてみたりするのも良いでしょう。
ユーザベース・佐久間さん「採用に失敗してきた分、その大切さが今はわかる」
──リファレンスチェックは、どれくらい実施されていますか?
佐久間:ほぼ全採用で行っています。私が直接チェックするというよりは、協力会社を利用するかたちで、仕組みとして導入されていますね。ただ、ハイクラスの採用に関しては、自分たちでリファレンスチェックをします。
──リファレンスチェックを大切にされている理由は?
佐久間:この質問への答えは、きっとみなさん同じになるかもしれませんが……(笑)。採用にたくさん失敗してきたからです。採用って、本当に難しいじゃないですか。面接を10回したからといって、その人のことはわからないものです。
──まったくです。ちなみに、佐久間さんが面接時に重視しているポイントは?
佐久間:いくつかあります。まずは「明確なスキル」。デザイナーやエンジニアといった証明可能かつ再現可能なスキルは、絶対的なポイントです。
それに加えて、やや抽象的ではありますが「自己認識の高さ」も見ます。自分のことを手垢のついた言葉ではなく、いかに語れるのか。自己認識の高さとは、うそなく生きてきた証でもあると思っています。ここがクリアできると、オープンコミュニケーションでもそれほど苦労しないのです。
そして、<yellow-highlight-half-bold>転職を「その人自身の意思決定にする」というのも大事<yellow-highlight-half-bold>です。自社に興味を持ってもらうために、私たちの課題などを伝えて「あなたが必要です」と説明するのは当然としても、そのスタンスを最後まで続けてはいけない。最後の最後の意思決定のフェーズでは、マイナスの情報もしっかり共有する。例えば、我々の会社でも短期で退職してしまった人の事例もたくさん話して、それでもその人自身がちゃんと選択するようにしています。他人の意思決定ではなく、自分の意思決定なら入社後も揺るがないので。
「リファラル採用」に潜む罠を回避する
──CXOや責任者採用のリファレンスチェックにおいて、特に気をつける点といえば?
佐久間:一緒に働いた人からのリファレンスをダイレクトに聞くことですね。これ、なかなか難しいんです。最近では「リファラル採用は成功確率が高い」とよく聞くかもしれませんが、私たちは結構な失敗を過去にしてきているんです。
理由としては、リファラル採用はチェックが甘くなりがちになるからです。一口に「リファラル」といえども、その関係性は10段階くらいあると考えるべき。「3年間、密に一緒に働いた人」からなら信用に足り得るかもしれませんが、「飲み友達」くらいのレベル感でもリファラルに該当してきてしまうのが困りもの(笑)。
ですから、本当にその人と一緒に働き、一緒に成果を出した人からのリファレンスをどう取るか。そして、そのリファレンスを取る人自身も、われわれが信用できる人か。この2点がリファレンスの質を左右しますね。
──チェックの際に、必ず聞く質問項目はありますか?
佐久間:決まったものはないように思います。ジェネラルな質問よりは、その人の特徴が表れるような掘り下げをしますね。そして、面接ポイントに挙げた「自己認識の高さ」にもつながりますが、どこまで自分をジェネラルでない言葉で語れるのか。
──その人の本質や性格を理解する、ということでしょうか。
佐久間:そうですね。よく、最初に私から「あなたはどんな人ですか」と聞きます(笑)。
すごく雑な問いかけですが、その答えをきっかけにして、対話で掘り下げていく流れが多いですね。要するに、自己認識の高さとは「他己認識と自己認識を一致させられている」状態を指すので、その観点で見ています。
──リファレンスチェックの実施時に、協力者へ配慮すべき要素や大切すべき点は?
佐久間:ともすれば、いろんな人の友情や人間関係を壊してしまいかねないので、そういうことがないようにするのは絶対として……やはり、いかに「本音」を拾えるかでしょう。
関係性が薄い人からリファレンス対象者についての感触を聞いても、おそらく95%は「いい人だと思うよ」と言うはずです(笑)。だからこそ、リファレンスを聞く人と私自身の関係性が薄いと感じれば、社内でもっと濃い関係性を持つ人から聞いてもらうことは、よくあります。
リファレンスチェックは「ハッピーな引き継ぎ」でもある
──これからリファレンスチェックを始める企業へ、ぜひアドバイスやメッセージをください。
佐久間:まず、リファレンスチェックを始めるのは、本当にすばらしいと思います。よい人を採用するためだけでなく、実はリファレンスチェックは、それを受けて入社する人のためにもなります。
採用のミスマッチは、言い換えれば「お互いの目的の違い」であり、それをなくしていくためにもリファレンスチェックは有効です。
また、「引き継ぎの要素」も含んでいます。これまでの活躍や苦労を事前に知ることで、転職先でも任せる仕事や整えるべき環境を把握しやすくなります。リファレンスを、職場に早く馴染める「ハッピーに働くための引き継ぎ」だと捉えてみると、その価値も見えやすくなるのではないでしょうか。
Fond・福山さん「真意を悟られることなく聞き出すのが、腕の見せどころ」
──リファレンスチェックは、どれくらい実施されていますか?
福山:必ず実践していますね。事務的なところで言うと、アメリカではITサービス企業における内部統制の監査として、「SOC 2 Type 2」というセキュリティ評価があります。その中の一つに「全従業員のリファレンスチェック」が挙げられているのです。その前提の上で、面接で見抜けなかったものを確認するためにも、チェックの場は必要です。
──よく聞く質問や、見極めるべきポイントは?
福山:いかに主観的ではなく「客観的情報を聞くか」が肝になりますね。
面接を経て、リファレンスチェックの段階になると、たいていは候補者へ何かしらの違和感や不安感を抱いていることと思います。まさに、そこを掘り下げなくてはなりません。うそのつけない客観的情報をどれだけ集められるかが勝負です。
たとえば、候補者が「感情的になりやすそう」だと思い、それがネガティブなのであれば、リファレンスチェックで「この従業員が、最後にあなたへ怒ったのはいつですか?その時はどんな怒り方をしましたか?」と聞いてみる。
チェックをする側としては「具体的に聞きたいこと」を決め、いかに事実ベースの答えを拾ってこられるかがポイントですね。
──懸念点にまつわるエピソードとファクトを語ってもらうと。
福山:そうですね。だから、最も避けるべきは、先ほどの仮定であれば「この従業員が感情的なところを見て、あなたはどう思いましたか?」といった意見を尋ねてしまうことです。求めるのは客観的情報ですから、「何が起きたか」をひたすら聞く。そして、こちらが候補者へ抱いている不安を、いかに悟られることなく聞けるか。それが腕の見せどころですね。
たとえば、マネジメント能力に対する裏付けが取りたいなら、「過去にこの方は何人くらいをマネージしてきましたか」とまずは聞く。そして、「10人です」と答えたのなら、「その10人に今電話をして、10人中何人がこの方を勧めてくれると思いますか」と問う。おそらく相手は「10人です」とは言わないでしょう。答えは「6人〜9人」に収まるはずです。これが「6人」なら、危険フラグが立ったと見ていいです。
面接で「準備ができないこと」を、いかに突けるか
──リファレンスチェックでは、どのような方法を取ることが多いですか。
福山:主な方法は2つです。一つは、候補者から紹介された人に聞く、一般的な方法。ただ、こちらはあまり意味がないとは感じています。紹介された人が、候補者のネガティブなことを、あえて言うインセンティブはありませんからね。ただ、ゴールを「候補者を早く理解するため」に置けば、一緒に働いた人からの声は参考になります。
その時も、漠然と「一緒に働いたことのある3人を紹介してください」と依頼するのではなく、紹介してほしい人を具体的にするのが大事です。CxOクラスなら「過去に一緒に働いたCEO1人、同じCxOレベルかVPレベルで1人、過去マネージしたことのある1人」が最もわかりやすい例ですね。
あるいは、面接時に「過去に大変だった従業員とのエピソード」を聞いて、そこで挙がった人に当たるのも手です。たとえば、「前田さん」という人のマネージに苦労したのであれば、リファレンスチェック時に「前田さん」と話すことを依頼するんですね。そういった自分にとっての問題児はまず紹介して来ないでしょうから。拒否されるかもしれませんが、その時は「紹介してくれない理由」をちゃんと聞いて、判断材料にしましょう。
面接は、準備ができるものです。だからこそ、いかに準備できていないところを突けるかが大事だともいえます。
もう一つの方法に「バックチャネルリファレンス(※)」があります。本人に気づかれないように、つながっている人を裏で見つけて連絡するのですね。こちらの方が本音を聞きやすく、採用に直結するという意味においては、実施の意義も大きいといえるでしょう。
バックチャネルリファレンスをする際には事前に伝えます。「あなたに任せたい役割からいっても、バックチャネルで何人か知り合いにお話を聞かせてもらいたいのですが、問題はありますか?」といったように打診します。「現職は避けてほしい」と言われたら、それは約束しつつも、「では、どの会社ならいいですか」と掘り下げる。そこでも拒否されたら、怪しいポイント一つが増えたと捉えられますね。
(※ バックチャネルリファレンスは、アメリカなどで先例が増えていますが、日本ではまだ事例や経験が多いとはいえないため、候補者との信頼関係に悪影響が及ぶ可能性があります。現状の日本においては、候補者と事前に合意を結んだうえで実施しましょう。)
質問には「得点形式」を取り入れる
──チェックの際に、必ず聞く質問項目はありますか?
福山:ひと通り普通の話でウォームアップしたあとに、得点形式で聞くのが僕は良いと思っています。NPSと似ていて、うそがつきづらくなるんです。
そこのポイントとして、「分析能力に不安がある」と感じているなら、「この従業員の分析能力は10点満点で何点ですか?」と、いきなり聞いてしまわないほうがいいです。「コミュニケーション能力は何点ですか」「営業力は」「マネジメント能力は」……と順に聞いていくと、人間はやはり全てに「10点」をつけないものです。そこで、おおよそ3〜4個目くらいに「本当に聞きたい項目」を入れてみてください。
もし、10段階評価で「9、8、9」と相対的に答えているところに、不安項目だけが「6」と来たら、やはり要注意なのだと見えやすくなる。
──なるほど。本当に確認したい項目を悟られにくくすると。
福山:そうですね。協力者もうそはつきたくない思いがあるでしょうから、全て「9」とは答えないなかで、相対的な評価の中から本音を表したのが「6」だと見る。これが出たらチャンスです。「10項目聞かせもらって、一つだけ6だったのは、なぜですか?」と深堀りしてみましょう。
あるいは、「他の方にもリファレンスチェックのお願いをしているのですが、この従業員が過去にマネージした10人の中で、最もよくないリファレンスを返しそうなのは誰だと思いますか?」と聞いてみる。誰か挙がるようなら、その理由を深堀りするのも手です。
ただ、バックチャネルリファレンスはやりすぎに注意です。候補者とリファレンス協力者がつながっているわけですから、「転職候補先の質問がしつこくて、あまり良い印象を受けなかったよ」なんていう話が共有されると、そもそものクロージングに影響する可能性があるからです。
面接の不安は99%が顕在化する
──リファレンスチェックがあったからこそうまくいった成功事例、あるいは失敗事例はありますか?
福山:「面接で不安を覚えたことは、採用した後に99%顕在化する」が持論です。ただ、不安そのものは決してなくならないものでもある。だから、不安が顕在化しても耐えられるのか、あるいは不安が払拭されないと採用できないのかを考え、後者なら見送るべきです。
リファレンスチェックは候補者を早く知るのに役立ちます。僕も過去に「感情的になりやすい」という不安点があり、リファレンスチェックでも点数が低かった人を結果的に採用したことはありますが、その人が「感情的になりやすい」と事前にわかっていたから、マネジメントの仕方を変えることで対処できました。
また副次的な効果として、役職が高い人であればあるほど、リファレンスを依頼する人も同じように上級職であるケースが多くなります。これは言わば、そのクラスの方と知り合い、関係性を築けるチャンスであるともいえるでしょう。
面接は、採用ではなく「不採用」のために行う
──これからリファレンスチェックを始める企業へ、ぜひアドバイスやメッセージをください。
福山:面接のそもそもの目的は“disqualify”、つまりは「資格がないと見なすこと」にあると思います。平たくいえば、採用よりも「不採用」とするために行うものです。
リファレンスチェックは候補者にとってポジティブな情報が集まりやすい場ですが、そこから不採用にする理由を探さなければならないという矛盾がある。それをかいくぐるには、普通の質問をしているだけでは得られるものは少ないでしょう。
<yellow-highlight-half-bold>明らかにすべきことを事前に把握し、そのためにどういった質問をすれば、真実を探り当てられるのか<yellow-highlight-half-bold>。それをシミュレーションしなければ無駄骨折りになりやすく、実りがあれば価値のあるプロセスに変えていけます。リファレンスチェックこそ準備に力を割くことを勧めたいですね。
佐久間 衡
株式会社ユーザベース代表取締役 兼 グループ執行役員 Co-CEO
2013年にユーザベースに参画し、SPEEDA日本事業担当、FORCASとINITIALのCEO、SaaS事業担当取締役を経て現職。ユーザベース参画前は、UBS証券投資銀行本部にて、M&Aや資金調達などの財務戦略アドバイザリー業務に従事。
福山 太郎
Fond, Inc. CEO / Co-founder
慶應義塾大学卒業。2012年 Fond (旧AnyPerk)を米国にて創業。同年、シリコンバレーのインキュベーターのYcombinatorに日本人として初めて参加。Salesforce, Visa, Facebookを含む会社に、福利厚生のアウトソーシングサービスを提供。同社はDCM, Ycombinator, Andreessen Horowitzから合計$30Millionの投資を受け、2015年にはFastCompanyのMost Innovative Company 50に、Google, Apple等と並んで選ばれる。