データで見る海外SaaSスタートアップのいま
Bessemer Venture Partners「Data trends: Visualizing the global cloud industry in 2023」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
アメリカのVC Bessemer Venture Partnersが、SaaSスタートアップ405社を対象に行った、財務実績、AIの活用状況、経営課題などに関するサーベイレポート。このレポートの主なハイライトは以下の通りです。
- カリフォルニアがSaaS業界の中心地
SaaSスタートアップの52%はカリフォルニア州にあり、サンフランシスコに本社を置く企業は21%を占める - 海外SaaSスタートアップの82%がAIベースの機能を開発
調査対象となったクラウド企業の86%が、年末までにAIを活用した機能を導入する予定 - 創業者がCEOであるケースが主流
86%のはCEOが創業者のパターン - 海外SaaSスタートアップでは競合との差別化が最大の成長課題
「プロダクトとGTMにおける差別化」を最上位の課題として挙げた割合が38%に上った - 「プロダクト周り」の採用が最優先
SaaSスタートアップの58%は、プロダクト、エンジニアリング、デザイン部門で最も多くの採用があったと報告した - 財務面での最大の課題は、資金調達ではなく、利益を上げながらの成長
36%が、利益を上げながら成長することが最も優先順位が高いと回答。一方で、資金調達が最優先と回答した割合はたった1.6%。 - SaaSスタートアップの70%以上がRule of 40未満
上場企業でRule of 40を超えている割合も約3分の1である状況とほぼ変わらない - 海外SaaSスタートアップは潤沢な資金あり
対象となったSaaSスタートアップの1/3は、総額$100M以上を保有しており、$1B以上調達しているSaaSスタートアップの70%以上が$300M以上を保有
SaaSユニコーンPantheon CFOのARR $10Mから$100M+までの5つの学び
OpenView「From $10M to $100M+ ARR: Five CFO Learnings」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
ウェブサイト運営(WebOps)SaaSの代表的なスタートアップPantheonにPMF前のステージで参画し、ARR $100Mを超えるステージまで牽引したCFO Mark Khavkin氏による5つの教訓を解説した記事。PLG SaaSスタートアップの例ですが、ファイナンス視点で、スケールする上では非常に重要なポイントがまとめられていると思います。
- スケールするには、顧客セグメンテーション="戦略"
成長投資を行う前には、組織全体で顧客セグメンテーション戦略を実施し、チームにシンクロさせることが重要です。プロダクト、マーケティング、営業から投資家に至るまで、ストーリーを同期できていれば、組織はオーケストラのような魔法を生み出すことができます。 - データ文化をアーリーステージから作る
データ文化は、企業文化同様に、非常に重要です。特に即効性のある投資対効果が無いので、よく見過ごされます。顧客ライフサイクルデータを押さえていない戦略の運用は、識者無しにオーケストラを演奏させるような、非常に困難な状況になります。 - カスタマージャーニーに沿って組織をデザインする
実行(エグゼキューション)を成功させるには、組織設計が重要な役割を果たします。そのためには、お客様のワークフローと自社のユニット・エコノミクスを同期させ、従業員のスキルをマッチさせなければなりません。 - 顧客セグメント毎に価値と獲得を最大化させる、価格設定とパッケージングを開発する
価格設定とパッケージングは企業全体の戦略的整合性が最も現れます。成功しているかどうかを確認するには、ACVに関する議論内容、社内の契約承認状況、請求に関する問い合わせ、顧客セグメント別での使用量予測などのワークフローをしっかり確認する必要があります。 - 財務チームを強くし、Chief Performance Officeに進化させる
SaaS企業がスケールするにつれて、財務機能もスケールさせることが不可欠です。GTM部門とプロダクト部門は、財務部門とFP&A(財務分析・予測)部門に専任担当者を置くべきです。成功の最も明確な尺度は、財務モデルと業務モデルの共生です。
ターゲットを絞り確度高くトラクションを生み出すVertical GTM Motionのススメ
Sara Du氏「Dancing with Vertical GTM Motions」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
Alloy AutomationのCo-founder & CEOであるSara Duさんの記事をご紹介します。Alloy AutomationはAndreessen HorrowitzやBain Capitalなどから出資を受けているワークフロー自動化のiPaaSを提供するスタートアップです。現在は提供サービスをeコマース領域に絞って事業展開していますが、そこに至った背景を含めて、Vertical GTM Motion(特定の市場に焦点を当てたGo-to-Market)をとることによる恩恵や、マーケットを見極める点について整理されています。Alloy AutomationのようなHorizontal SaaSでも、自社のプロダクトが最もフィットする市場を見極めることでアーリーフェーズで投下できる限られたリソースの分散を防ぐことができ、その結果としてトラクションも生み出す確度が向上することができるものと考えます。これからPMFを超えてGTMを目指していく起業家の方におすすめの記事です。
Vertical Go-to-Marketのメリット
- 鋭いメッセージングとアウトバウンディング:誰(どのようなユーザーやペルソナのタイプ)に売るのかを明確にすることで、彼らにアプローチするチャネルを見つけやすくなり、マーケティングキャンペーンの仮説検証がしやすくなる。
- チーム内の規律:インパクトのある仕事が何か整理でき、重要でない仕事をカットしやすくする。
- フィードバック・ループの迅速化:特定の市場に特化することで、迅速なエンジニアリングとより多くのサポートリソースをレバレッジできる。そうすることで、フィードバック・サイクルを迅速に進化させることができる。
- 顧客からの信頼:口コミがより小さな市場で早く広がる
最初の市場の選び方
- 「引き」があるか:ウェブサイトの訪問者を業種別にセグメンテーションしたり、Eメールの送信待ちリストを調査したりすると、いくつかのパターンが見えてくるかもしれない。理想的なのは、すでにツールをリリースしているか、見込みユーザーがユースケースについてあなたにメッセージを送り始めているような十分な担保があることだ。
- 最適なタイミングか:どの業界/ユースケースが最も早く最も収益を上げることができるか、大まかな計算をしてみましょう。そうすることで、後続の業種にも優先順位をつけることができます
- ローロデックス:あなたのネットワークで誰が特定の業種に精通しているかを把握すること。バーティカルGTMにおける最大の利点は、その市場の中におけるパートナーシップ、ひいては主要な人間関係を使いこなせるかどうかにかかっている。
次の市場(Unverticalize)を目指す見極め
- チーム構成 :チームはどの程度業界に特化しているか、つまりそのチームのスキルは新しい市場のICPに対応できるケイパビリティを持っているか
- 製品の拡張性:提供するプラットフォームは他の業種のニーズを満たすことができるか
- Alloy Automationの場合、顧客がERPや会計、その他の財務関連の統合を求め始めました。それぞれ業界は通常独立して生きているわけではなく、境界線が曖昧になり、システムやデータの連携が有機的に起こり始めるものです
- 顧客とパートナーの紹介:ユーザーが他の市場の顧客やパートナーを喜んで紹介してくれるか?
- 企業からは、「Alloy Automationのような統合プラットフォームはあるが、eコマース領域ではないもの」について、考えを求めてきました。そのような企業は、私たちが非常に簡単に満たすことができるニーズを持っていることが多く、Alloy Automationはeコマースのユースケースを中心にマーケティングを行っていたものの、そのような企業にサービスを提供できることを何度も説明しなければなりませんでした。つまり、営業メンバーはは、eコマース特化でブランディングしていたが故に、マーケティングの制限と戦っていたのです
- 多角化:現在の市場が縮小していないか、あるいは卵がひとつのカゴにすべて入っていないか(すでに特定の市場のニーズを満たしきれていて、アップセルやクロスセルが効かない状況に陥っていないか)
System of Recordの置き換え〜SaaSのリプレイスの歴史〜
Missives「Displacing Systems Of Record: Systems Of Action As A Wedge To Integrate And Surround」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
今後のSaaSスタートアップ企業が既存のITベンダーや巨人に対してどのような競争優位性を発揮していくのか、戦略を検討する上で非常に参考になる記事です。
- SaaSの巨大システムであるSalesforce、SAP、ServiceNow、Workdayは多くのデータを記録し、他社からの高い切り替えコストを有し、そしてその記録されたデータが非常に長期的(CRMで12ヶ月~24ヶ月)な価値を有している
- その結果高いEBITマージンと成長率を持っておりスタートアップが攻め入る隙がほとんどないように見える
- 偉大な先駆者たちを超えていくためには、そのステムの記録と同等の製品を開発し、さらにその近接領域のアクションの自動化領域へと踏み出していく必要がある
- 単なる静的なリレーショナル データの保管場所ではなく、ワークフローを自動化するため、これらの行動システムへの関与が高まります
- 新世代の経営層は、ベスト・オブ・ブリード・ソリューションを優先する傾向にあるため、レガシー・システム・オブ・レコードを保護しているMOATを崩すためには、専門性も同時に重要である
クラウドデータ統合・分析デカコーンDatabricks、生成AIへの投資のために数百億ドル規模での資金調達を検討中
エンタープライズ向けにビッグデータ・プラットフォームを提供するDatabricksは、新世代のAIアプリ開発のための信頼性の高いデータエンジニアリング・プラットフォームへ投資するために、投資家と新たな資金調達を協議しています。最近では、ChatGPTのような生成AIへの企業の熱量の高まりにより成長が後押しされています。今年に入って、ChatGPTと競合する独自のオープンソース生成AIモデル「Dolly」を発表しています。過去2年の業績では、合計で約$900M(約1,300億円)もの損失を計上しましたが、直近では黒字化間近で、売上も$1B(約1,450億円)、年率+70%で成長をしています。近々IPOが噂されていましたが、今回の調達を踏まえると、IPOは少し先になると予測されています。
公共セクター特化の購買・経費精算SaaS ClassWallet、グロースラウンドで$95M(約138億円)を調達
ClassWalletは、教育機関・政府機関・財団などに特化した購買や経費精算フローの自動化・デジタル化を支援する「デジタル・ウォレット」を提供するSaaSスタートアップ。独自のデジタル・ウォレット技術により、大規模な資産配分を合理化し、購買や経費精算の全てのライフサイクルを法令に遵守しながら自動化することができます。現在までに、アメリカ32州の州政府機関や学校で利用されており、$2.7B(約4,000億円)もの公的資金に利用されています。今回のラウンドの投資家は、Guidepost Growth Equity(リード)、Education Growth Partners (EGP) 、Lazard Family Office Partnersです。
アイケア特化のバーティカルSaaS Ocuco、グロースラウンドで€60M(約95億円)を調達
Ocucoは、眼鏡メーカー・小売などのアイケア業界特化の世界的なソフトウェア企業。同社のプロダクトには、診療管理ソフトウェア、検査室管理システム、eコマース・ソリューションなどにより、オムニチャネルによる顧客体験向上や臨床システムを管理を一貫して行うことができます。欧米を中心に、世界88ヵ国6,750カ所以上で利用されています。今後の成長戦略でM&Aを柱としており、今回テクノロジーに特化したPEファームであるAccel-KKRから全額資金調達を実施しました。
セキュリティの脆弱性診断SaaS ProjectDiscovery、シリーズAで$25M(約36億円)を調達
ProjectDiscoveryは、4人のセキュリティ・エンジニアが協力して、オープンソースの脆弱性診断ツールを開発したことから設立されたスタートアップ。同社は、ウェブ、アプリ、API、クラウド環境のエクスプロイト(セキュリティ欠陥を利用した不正プログラム)を監視し、テンプレートから作業することで、ITチームが脆弱性や設定ミスを発見・修正することを支援しています。現状のツールは、誤検知が多く、脆弱性に優先順位もつけ難く、組織のアーキテクチャーに合わせたカスタマイズがしにくいことが課題になっています。本シリーズAの投資家は、CRV(リード)、Accel、Lightspeed Venture Partners、Point72などです。
消費財ブランドの製品テストを支援するSaaS Highlight、シリーズAで$18M(約26億円)を調達
消費財ブランド企業は、通常、新製品のテストを行う際に、複数のベンダー、300通以上のEメール、多くの月日と数万ドルもの費用がかかります。しかし、毎年3万以上の商品が新発売されますが、その95%は失敗に終わります。Highlightは、この消費財ブランド企業の新製品のテストプロセスを1つのプラットフォーム上で、リアルタイムで可視化、データ分析などを行う支援をするSaaSスタートアップです。現在、P&G、ネスレ、エスティ―・ローダーなど数百ものトップブランドが顧客です。今回のシリーズAでは、Acre Venture PartnersとHearstLabがリード投資家で、Ingeborg InvestmentsとGS Futuresも参加しています。
■資金調達
企業のコーポレートガバナンスの構築・運用を支援するUniforce、プレシリーズAで約5.3億円調達
決算開示業務を効率的に行う「クラウド決算開示管理サービス」、IPO準備による内部統制(ガバナンス)構築を支援する「IPO準備クラウド」を開発、提供しています。IPO準備に本腰を入れたN-2,3期の企業様や、これから上場を目指したいと考えているN-4,5期前後の企業様を対象に、これまでブラックボックスだったIPO準備業務をオープンにし、DX化を実現するSaaSとコンサルティングサービスを併せて提供しています。それぞれのサービスの導⼊社数は約70社を超えています。今回のラウンドは、ティーケーピー、ベンチャーラボインベストメント、MS・HAYATE1号投資事業有限責任組合(MS-Japan、ハヤテインベストメント)、ベクトル、AGSコンサルティング、Iceblue Fund、90s、エアトリ、クリーク・アンド・リバー、その他投資家14名に対する第三者割当増資により調達をしています。
経営管理プラットフォームを提供するDIGGLE、3億円のデットファイナンスを実施
予実管理のクラウドサービス「DIGGLE」を開発、提供しています。財務会計データを取り込むだけで各種レポートを自動集計できる予実突合機能や、予算の着地予測ができる見込管理の機能を搭載しています。JR九州やアイシンデジタルエンジニアリングといった大手企業からChatwork、SmartHRなどのスタートアップに採用されています。DIGGLEはプロダクトに加えてコンサルティングサービスを提供しており、予実管理ツールを導入し浸透させるための障壁を取り除く支援もしています。今回のファイナンスを支援したのは、あおぞら企業投資と日本政策金融公庫になります。
クラウド型ワークフローを提供するkickflow、プレシリーズAを実施。HENNGEと業務提携
kickflowは中堅・大企業向けに開発されたクラウド型稟議・ワークフローシステムです。300社以上のヒアリングを通して、「エンタープライズ企業が一番使いやすい次世代型ワークフローシステム」として誕生しています。購買や支払稟議に加え、契約書レビューなどの作業指示やアカウント発行申請などのIT申請まで幅広い業務をカバーしています。今回の業務提携では、HENNGEがkickflowの販売店となり、HENNGE Oneのお客様に対してkickflowを販売する予定です。
■IPO / M&A
ファーストアカウンティング、東証グロース市場に新規上場承認
ファーストアカウンティングは会計分野に特化したAIソリューションを提供するスタートアップです。請求書や領収書の入力・確認の自動化、ERPやワークフローとのAPI連携などにより経理業務の効率化を支援します。サントリーや花王、日清食品などの大手企業に採用されています。9月22日に東証グロース市場に新規上場する予定です。
- Amazonが大量のカスタマーレビューを生成AIで要約する機能の導入を発表。今年8月14日からアメリカの一部ユーザーを対象に提供開始 (Amazon)
- AI戦略策定のための人工知能・機械学習・生成系AIに関するAWSの新たなガイドライン(AWS)
- Google、生成AI検索「Search Generative Experience(SGE)」でWeb記事要約など新機能(Impress Watch)
- OpenAIがAIデザインスタジオ Global Illuminationを買収(TechCrunch)
- エンタープライズ向けAI開発プラットフォームを提供するDataRobotが、生成AIのサポートに本格的に取り組み(Venture Beat)
- オープンAPIでカード発行を支援する米Fintech×SaaS上場企業Marqetaが、生成AIを活用した顧客からの質問対応ツール「Marqeta Docs AI」を発表(Yahoo! Finance)
- 日本政府が年内に生成AI学習データに関する事業者に開示指針の骨子案を策定(Nikkei)
- Anthropic - 生成AI・LLM開発スタートアップ。$100Mを追加調達。投資家は韓国テレコム最大手SK Telecom。SK Telecomは多言語対応サポート向けのLLMの共同開発をAnthropicと合意(The Korea Herald)
- Modular - NVIDIAが独占するGPUの代替手段を開発するスタートアップ。シリーズAで評価額$600Mでの調達を実施中。投資家はGeneral Catalystなど複数の投資家(The Information)
- Chai - 英・ケンブリッジ生まれのAIチャットボット・スタートアップ、評価額$205Mと好評。すでに500万人ユーザーを獲得(TFN)
- DynamoML - エンタープライズ向けLLM活用プラットフォーム・スタートアップ。シリーズAで$15.1Mを調達。リード投資家はCanapi VenturesとNexus Venture Partners(TechCrunch)
- Voiceflow - 会話型AIを開発するスタートアップ。$15Mを調達。リード投資家はOpenview Venture Partners(TechCrunch)
- Grit - エンジニア向けに技術負債の解消・メンテナンスを生成AIでアシストするスタートアップ。$7Mを調達。投資家はFounders Fund, Abstract Venturesなど(Venture Beat)