経営者・Rob Bernshteynが生まれるまで
前田:まずはこの質問からしたいのですが。Robさんはエンタープライズソフトウェアの世界で素晴らしい経歴を30年築いてこられました。Coupaの具体的なお話に入る前に、CEOまでの道のりで経験された転機や学びについて聞かせていただけますか?
Rob:ターニングポイントはおそらく大学時代です。大学を卒業したら仕事を見つけなければならないことはわかっていましたが、私の専攻分野を考えると、選択肢はアカウンティングかITしかありませんでした。
COBOLやC言語、BASICの授業をいくつか受けているうちに、コードを使って情報を移動させたり、メッセージを送ったり、世の中の効率を高めたりできることに胸が躍ったことを覚えています。ITの分野こそ、自分がやりたいことなんだとわかったんです。
1994年、Accentureでインターンシップを経験し、そこでB2Bのアプリケーションがいかに複雑で混沌としているかを目の当たりにしました。クエリ、バッチ処理、古いコードに書類の証跡、それらが至るところにありました。
そこで私は、その分野でキャリアをスタートさせることを決意して、エンタープライズソフトウェアの世界で経験を積むことにしました。まずはプログラマーとしてキャリアをスタートして、世界中でSAPの導入に携わりました。
その後、MBAを取得し、Siebel Systemsで、CRM分野のプロダクトマネージャーとして働き、人材管理のソフトウェアを提供するSuccessFactorsというスタートアップ企業に入社、会社を成長させ、上場もできました。
その後は約14年間にわたってCoupaを率い、サプライヤー管理や支出管理など「ビジネス支出管理」というカテゴリを確立させました。振り返ると、私にとっての転機は、さまざまな領域でできるだけたくさんのことを、大小問わずいろいろな会社でトライしたことと言えるでしょう。
今、30年近いキャリアを経て、エンタープライズ・ソフトウェアの世界で何がうまくいき、何がうまくいかないのかを広く深く理解できるようになったと思います。そして、これからも一人の学び手として、AIやマーケットで起こるあらゆることを学んでいこうと思っています。
いかにCoupaは「ビジネス支出管理」を見出したか
前田:Coupaでの14年間について聞かせてください。
当時、エンタープライズソフトウェアの世界はSAPやOracleのような企業が席巻していました。そのなかでRobさんは、多くの人がまだ手掛けていない分野に機会を見出し、「ビジネス支出管理」というカテゴリを生み出しました。当時のことを振り返って、何を見て、どのように考え、どうやって成長させたのかを聞かせてください。
Rob:SAP、Siebel Systems、SuccessFactorsで経験を積んだことで、私はビジネスロジックのレイヤーには4つの要素があることに気がついたんです。そして実は、どのビジネスにおいても実際には、この4つの要素を管理しているだけなのです。
CRMでの顧客管理、サプライヤーへの支出管理、資金の管理、人材の管理。
私自身のキャリアでも、このうち3つの分野に尽力してきました。そして、最後に残ったのが支出管理の分野だったのです。企業がどのようにお金を使うかを見たとき、そこには、かなり難解なテクノロジーがありました。決して、使いやすいものではなかったのです。
サービスモデル、または、オンデマンドモデルとして展開されていなかったので、顧客である企業は多くの効率性と機会を失っていました。90年代後半には、この支出管理のカテゴリにはSAPやOracle以外にも、Commerce OneやAribaのような企業がありましたし、Chemdexなどのマーケットプレイスが注目を集め、高い時価総額を誇っていました。
でも、ITバブルがはじけて、Pets.comのような消費者向けブランドが崩壊するとこれらの会社も衰退していきました。そこで、このマーケットに参入するなら、非常に使いやすく、導入が容易なものを作らなくてはいけないと考えたのです。
Coupaが「Value as a Service」と呼んだサービスモデルとして展開すれば、かなり実質的なビジネスモデルを構築できると考えました。そして、私たちはビジネスを構築するなかで「ビジネス支出管理」という言葉を生み出したのです。極めてシンプルな考えですよね。
企業には支出が必要で、Coupaのソフトウェアはその支出を最も効果的に管理することを支援します。アナリストたちはこのビジョンを支持してくれました。顧客たちも支持してくれました。そして、最も重要なのは、顧客に対して測定と定量化が可能な「価値」を提供するビジネスを構築できたことです。結果として投資家や自社にとっての価値も生み出すことができました。
多くの企業が「支出の事前承認」で問題を抱えていた
前田:Coupaは包括的なソリューションで、段階的に発展していったのだと思います。どんなプロダクト戦略があったのか、どのように成熟させることができたのか、お話しいただけますか。

Rob:まず、組織内で広く普及するようなプロダクトを作らなければなりません。そしてそれを、世界で一番のプロダクトにする必要がありました。そこで「調達購買」「請求処理」「支払い」「支出分析」という4要素の中から、まず「調達購買」の要素に着目しました。
多くの企業が支出の事前承認で問題を抱えていたからです。もし間違ったものに間違った金額を使えば、会社は困ってしまいます。でも、彼らは必ずしも適切なサプライヤーから購入しているとは限らなかったのです。
そこでワークフローと承認機能を備えた直観的に使える調達購買体験モジュールを作りました。これが私たちの最初期モジュールで、今でもCoupaの主力プロダクトとなっています。
購買における事前承認を効率化させることができたら、その次は事後承認の支出管理にも進出できます。同じワークフロー、同じユーザビリティ、同じスケーラブルなプラットフォームで、経費精算ができるようになるわけです。
それができたら、請求処理にも活用できます。商品を注文したら請求書が届きます。そして、商品の注文が完了したことを確認したら支払いを行いますよね。だから私たちは支払い機能も作りました。
基盤となるイノベーションの領域において、Coupaは世界中のあらゆる言語で、あらゆる通貨で、何百万もの取引を処理することができる非常に使いやすいプラットフォームを開発できるようになったのです。
最終的に、私たちは多くのデータを追跡していることに気がつきました。企業が、どこに、いくら使っているのか、どのサプライヤーが適切か適切でないか、どのくらいの在庫を所有しているのか?こういったデータを私たちは持っていたのです。
そこで私たちは、こうしたデータとインサイトに関するコミュニティを構築することにしました。これら3段階のプロセスを経て「ビジネス支出管理」というカテゴリを生み出せたのです。
Coupa Payで支払い分野へ参入した狙い
前田:Coupaには2つの点で非常に興味深いところがあります。
1つ目は「Coupa Pay」で、とてもユニークだと感じました。エンタープライズの領域で、同様の支払管理を手掛ける企業は聞いたことがありません。なぜ「Coupa Pay」を構築することになったのか、ぜひお伺いしたいです。
Rob:SAPの実装や、SAP R2メインフレーム、SAP R3クライアントサーバー向けにABAPでユーティリティを書いていた経験から明確にわかったことがあります、それは中規模から大規模の企業ではGL(元帳)を廃止することは極めて困難なことです。
SAPやOracleといった大規模ERPを一旦導入したら、長期間にわたって使われ続ける。そういった環境のなかでビジネスを展開するためには、特定のユースケースを抽出して、その領域を握りつつ、最後には必ずERPと統合させる必要があったのです。
だから私たちは「調達購買」の事前承認からスタートしたわけです。次に、「請求処理」に取り組みました。「あなたはこれを注文しましたね、請求書を受け取りましたか」の問いに「はい」、「請求書と注文は一致していますか」の問いに「はい」となったら、ファイルをERPに送信して「処理完了、支払い準備OKです」とERP側が返答する。これは調達から支払い承認までのプロセスですよね。
ただここで、支払いプロセスにも多くの問題があることがわかったんです。多くの大企業では、支払い処理を月に一度、一括で行います。毎週や臨時といった臨機応変な処理はできません。
そこで私たちは、「ERPからこれらの機能の一部を取り出したら良いのではないか」と考えたのです。まずはMID市場向けに構築し、それから段階的に大企業向けに展開していこう、と。実のところ、この考え方こそ私たちがすべてのモジュールで採用してきたものなのですがね。
その結果、私たちはERPからさらに多くの価値を引き出し、OracleやSAPなどが提供する機能をよりコモディティ化させることができました。Coupaはこの分野で、大きな進展を遂げたのです。
前田:当時の戦略は、顧客との接点を増やすという点で重要だったのでしょうか、それともほかの競合他社よりも選ばれる理由を増やすためですか。あるいはマネタイズを目的にしていましたか?
Rob:顧客から求められたことが大きいですね。事前承認から事後承認、請求書、在庫管理に加えて、契約管理や在庫管理、サプライヤーリスク管理などの機能を提供していくと、「これらの分野で提供しているような柔軟性を支払いにも広げてくれないか」と求められるようになりました。
このおかげで、一件あたりの年間契約金額(ACV)を大幅に上げることができました。
私がCoupaを経営していた約14年を振り返って誇りに思うことの一つは、一件あたりのACVが毎四半期ほぼ確実に上昇していたことです。2009年第1四半期には年間約3,000ドルだったのが、2022年第4四半期には年間約40万ドル近くの規模に成長していました。
その時点で私たちは、Midからエンタープライズ、そして大規模戦略アカウントまで、すべてのセグメントをサポートしていました。約14年間連続で一件あたりのACVを上げることができた理由は、コードの価値を高め、顧客により幅広いサービスを提供したからです。
私たちはそれを「Value as a Service(バリュー アズ ア サービス)」と呼ぶようになりました。定量可能な価値を提供し、その対価として、正当な金額を請求する。これが「支払い」分野に参入した理由でした。
CEOよ!「自らが最高のセールスパーソンとなるべし」
前田:ほとんど収益のない状態から10億ドルを超える収益を上げるまでに成長する過程で、セールス部門をどのように管理しましたか。Coupaにとって最適な成長率、あるいは積極的な成長率を、どのように目標設定したのでしょうか。
Rob:2つの点についてお話ししましょう。1つ目は、私はエンタープライズ・ソフトウェアの世界で、プロダクト開発、プロダクト管理、マーケティングといった部門に従事してきましたが、セールスに携わったことはありませんでした。
私がCoupaのCEOになったとき、ビジネススクール時代の友人がこう言いました。「本当に成功したければ、自分が最高のセールスパーソンにならなければならない」と。私はその言葉を、深く心に刻みました。
最近出会う多くの起業家もプロダクト志向の人が多い。それは素晴らしいのですが、彼らは、セールスは雇う必要のある"魔法"のようなものだと考えているのです。でも私は、CEOになって会社を経営する人へのアドバイスとして、「自分が最高のセールスパーソンにならなければならない」ということを伝えたい。
あなたが本当にうまく自社のプロダクトを売れるようになったら、どのような人を雇うべきかがわかるようになります。あなたができることの90%ほどを実現できる人材を見分けて雇い、スケールさせるのです。これが1つ目のポイントです。
2つ目は「成長率の設定」について。実は私たちは成長率の目標を設定していませんでした。約14年間にわたって私がしてきたことは、セールスとマーケティングにおける効率性の「ガードレール」について、同僚や取締役会と合意することでした。セールスとマーケティングにどの程度ガソリンを使うか、つまりは経常収益を上げて「ガードレール」のなかに留まるために、どの程度アクセルを踏めば良いかを理解するのです。
SaaSビジネスを効果的に管理する指標である「SaaSマジックナンバー」でいえば、Coupaのマジックナンバーは、0.5から0.8の間でした。アクセルを踏んでセールスとマーケティングを行う範囲から得られるものは、すべて受け入れました。ある四半期に効率が上がったとしても、次の四半期でより多くのガソリンを使えば効率は下がるでしょう。
特定の四半期に、私たちを押し戻す市場の力があれば、アクセルから足を離しました。この「ガードレール」を決めることで、成長率はある年は年間100%、ある年は50%、ある年は100%を超えるような機会を得ました。
セールスの成長はアクセルを踏んだ結果なんです。アクセルを踏んだから車のスピードが出ることと同じことですね。もちろん私たちには、最初の約6年間は、およそ年間100%という成長目標がありましたが、意志の力だけで売上を発生させることはできません。それは支出の結果です。
新しい市場やセグメントに参入するときは慎重に
前田:マジックナンバーという基準は、経営判断の指標になると思いますが、それを破っても構わない領域はありましたか。より高い成長率を目指すとしたら、組織やセールスKPIの一部を変更するようなこともあったのでしょうか。どのようなラインを定めていましたか。
Rob:私たちは事業を「オーガニックに」成長させてきました。新しい市場やセグメントに参入するときは非常に、慎重に、行いました。たとえば、私たちが最初に取り組んだ米国ミッドマーケットでは、セールスとマーケティングの効率が非常に高くなっていました。そのため、セールスとマーケティングに一定額を投資すれば、だいたい一定の効率性を生み出せることがわかっていたのです。
ARRやARRのリニューアルレート、LTV/CACの比率も見えていました。これによって、より安定したビジネスを展開できていました。この事業が効率化したおかげで、新たな市場への参入では非効率なこともできたわけです。
つまり、ビジネスの周辺領域では効率性が低下しますが、より安定した主力事業の効率性を活用してそのコストを賄うのです。そして、セグメントや地域ごとにマジックナンバーを集計することで、全体としてガードレール内に収めることができるのです。
Coupa流「パートナー&プロフェッショナルサービス」の掟
前田:Coupaが驚異的な成果を上げているパートナーやプロフェッショナルサービスについて聞かせてください、Coupaには素晴らしいパートナーがいますね。導入パートナーには、大手コンサルタントが名を連ねています。どこかで読んだのですが、導入の70%はこれらのパートナーによるものだそうですね。まずパートナーとの協業をどのように成功させたのですか。Coupaとパートナーの役割分担も教えてください。
Rob:パートナーと協業するというアプローチはコンサルタント時代の苦い経験に基づいています。私は当時、ある通信会社向けのプロジェクトに携わっていました。その会社は、某ソフトウェアに数千万ドルを支払っていたんです。SaaSではなく、ソフトウェアに数千万ドルを支払ったのです。
さらに、ソフトウェア導入に際して、私を含む多くのコンサルタントに時給450ドル近くを支払っていました。でも結局のところ、誰も本当の意味で顧客のことを気にかけてなどいませんでした。
また、ソフトウェアの代金はすでに受け取っていたわけですから、導入に際してお客さまのことをどれほど気にかけていたのかと問われると、私にはよくわかりませんでした。彼らは時給でコンサル料を受け取っていたのですから、長時間働くほど多くの料金を受け取ることができる仕組みだったわけですよね。
そこで私は「本質的に顧客へ焦点を当て、顧客にとって正しいことをする方法は何か」ということを考えたのです。SaaSビジネスを展開するうえでの目標は、ライセンスを販売することではなく、顧客を永遠に維持することです。できるだけ長く、できれば永遠に、顧客を維持することが重要です。
私たちの目標は、定着し続けるソフトウェアを提供すること。プロフェッショナルサービス企業の目標はソフトウェア導入の料金を請求すること。そこで私は、早い段階でいくつかのブティック型の小規模SIer企業を起用することを決めました。
そして彼らには、最初から次のことをとても明確に伝えるようにしました。「導入のためのプロフェッショナルサービスで儲けることには関心がありません。私たちにとって、導入時のサービスには価値がありませんから」と。
プロフェッショナルサービスで最初に100万ドルの収益を上げたとしても、それは企業価値としては100万ドル程度でしょう。サービスに対して、せいぜい0.5から2倍の評価倍率です。しかし、同じ100万ドルでもSaaSの収益であれば、それは8から40倍の価値になるわけです。もちろんその年のマルチプルにもよりますがね。
私たちがリカーリングレベニューを追うことは明らかでしたから。でも当時、多くのブティック企業は私の話を疑っていました。「せっかくの収益機会を断るということなのか?」と。私は「そうです。導入のためのサービスで上げた収益は、あなたたちのもので、シェアしてもらう必要はない。ただし、私たちの顧客にソフトウェアを導入するのなら、確実に定着し、顧客にとってしっかり機能させるようにしてください。私たちはあなたたちの仕事をしっかり監修させてもらいますよ」と伝えていました。
Coupaには、サービス品質の監修をするための「エキスパートサービスチーム」があって、導入パートナーが顧客をしっかりサポートしているかどうかを確認するだけでなく、彼らにその資格があるかどうか、彼らが十分に準備できているかどうかを認証し、確認するようにしていました。
ですから、パートナーの拡大はゆっくり進んでいきました。Accenture、Deloitte、KPMGと関係を築いたことは、高く評価されましたし、事業を売却したときには世界中に1万人の認定コンサルタントがいましたが、ここまで辿り着くのに実に長い時間をかけてきました。
多くのブティック系SIer企業にCoupaを知ってもらい、Coupaの導入実績を作ってもらうこと。そして次に中規模の導入支援企業へと範囲を広げる。そのころには「Coupaは導入のプロフェッショナルサービスでは収益を上げないらしい」という評判を得ていました。その後、KPMGやDeloitte、最終的にはAccentureとも仕事をするようになってグローバル展開に乗り出したのです。
Accentureは世界中でCoupaのグローバル展開をはじめて、その領域における標準化を進めました。ここに到達するまでには10年の年月がかかりましたが、早すぎることはないと思います。顧客に何を望むのか?そして顧客が何を求めているのか?これらを理解することが重要です。
顧客は、自分たちに利益をもたらすようなソフトウェアを導入したいと考えています。私たちは、その実現のために自分たちの領域に集中すべきです。Coupaの場合、自分たちの領域とは価値をもたらすSaaSを提供すること。そして導入パートナーの領域はそのソフトウェアの価値を高めるサービスであり、これら2つが重なることはありません。
多くの起業家の最大の過ちは、収益を求めてサービスを提供し、それを合理化しようとすることです。パートナーを信頼できないことは、つまりビジネスが大幅に拡大する能力を制限することになるのですよ。
フェアなパートナーシップを組むための料金設定
前田:導入パートナーの料金設定はどの程度コントロールしていましたか。たとえば、パートナーはACVの3倍を請求できる、など。あるいは上限を定めていましたか。導入サービスとプロダクト収益の間には黄金比率のようなものはあったのでしょうか。
Rob:比率を作るうえで、2つの要素が影響します。1つは顧客自身のパワーです。ときに「これにはいくらまで、あれにはいくらまでしか出せない」といったベンチマークを顧客側が示すこともあるかもしれませんが、一般的には「今後5年間でいくら支払う意思がある」という予算を提示してくることのほうが多いです。
すると、導入パートナーとソフトウェア企業のセールスチームが、その予算のシェアをどれだけ獲得できるかを競いはじめる……私たちは、そのような状況を避けるために、パートナーと共同ビジネスプランを立てることにしました。
年の初めに、パートナーと膝を突き合わせて……たとえば、Deloitteと、これは実際の数字ではありませんが、こんな話し合いをします。
「私たちは今後3年間で自社に1億ドルのリカーリングレベニューをもたらすビジネスを構築したい。それは、Deloitteにとって、3年間でおよそ2億ドルのサービス収益になるようなビジネスになる。ただし、そのためには共同でマーケティングを行う必要があるので、イベントやフィールドマーケティング、広告のコストとして、3,000万ドルをスポンサーしてほしい。もちろん私たちも収益に比例した割合で出資します」
こうすれば、フェアなパートナーシップを組むことができます。そして毎月、または四半期ごとに状況を追跡しながら、チームに必要な人員を配置し、みんなが協力して動きはじめ、それぞれが最も得意とする方程式を描きはじめます。
ただし、絶対に両者の領域が重なることはありません。以前に導入パートナーの何社かがソフトウェアの構築を考えたこともありましたが、それは絶対に許しません。そしてもし、Coupaが導入パートナーの提供するサービスの領域に入り込んだら、それは関係の終わりを意味するも同じです。
前田:お話を聞くと、案件自体がだいぶ大きくないとパートナーに参画してもらうのは難しいのでは。
Rob:そうですね、この方法はブティック企業には適しません。だから、早期にはじめるのがいいのです。私がよく覚えている初期の案件は、ソフトウェアで年間1万3千ドルを稼ぐ一方、導入パートナーは6ヶ月の調達購買システムの導入期間中に、約1万8千ドルを稼ぎました。最初はそれで良いのです。
やがて大口案件を手掛けるようになり、年間10万ドルの案件を締結して、プロフェッショナルサービスで15万ドルを稼いで......こうしてどんどん規模を拡大していきます。
すると大手のSIerは、その領域で何が起こっているかに気付き、導入時のプロフェッショナルサービスで収益を上げられることを知り、自社の人材を投入したり、コンサルティング会社を買収したりなどして、自分たちもそのゲームに加わりたいと考えはじめるでしょう。
実際、Accentureは2023年、15年ほど前からCoupaのパートナーだったThe Shelby Groupを買収しました。彼らはサービスの専門知識を求めていたのです。買収金額こそ公開されていませんが、これは両社にとって、非常に価値ある取引だったことは明らかでしょう。つまり、段階的に進めていくことが重要ではあるが、早期にはじめることも重要ということです。
前田:なるほど。それにはどのくらいの忍耐が必要でしょうか。創業者の多くはパートナーからすぐに結果を求めたいと思いがちです。とはいえ、簡単な話ではないですよね。
Rob:事業を立ち上げるのは簡単ではないし、簡単なことなどないとCEOは全員わかっているはず。ただ現実に、あなたがエンタープライズソフトウェアの世界にいて、SaaSプロダクトではなく「サービス機能」の構築をしているとしたら、一定規模以上に拡大するのは間違いなく難しいのです。
お客さまに日々接しているのは誰でしょうか。接し方はともかく、それは「コンサルティング会社」です。大手コンサルティング会社のパートナーたちは、顧客企業のCIO、CFO、CEOと定期的にゴルフをして、「どの新しいテクノロジーを導入したら良いか」とアドバイスを求められています。
この会話すべてにあなたが入り込むわけにはいかないですよね。PLGの考え方は重要です。でも、ある時点から、人間関係や変化に抗うことをやめて、そして、あなたを新しい軌道領域に押し上げるエコシステムが必要になる。私たちのビジネスを通して見る限り、これらを回避する方法はありません。
顧客満足ではなく、「顧客の成功」だけに焦点を当てよ
前田:大企業のお客さまからはカスタマイズの要望を受けることも多いと思います。この要望に対して、どのように対応していましたか。スケーラビリティとプロダクトの間にはトレードオフがあって、「簡単に得られる利益」とまでは言わずとも、ニーズに応えるのにもトレードオフがありますよね。そのあたりはどのようにお考えですか。
Rob:これはすべてのエンタープライズ・ソフトウェアにとっておそらく最も重要な問いですよね。私たち全員が望むのは一つの非常に普遍的な機能でしょう。参入障壁が高く、あらゆる企業が求めるもので、高額な料金を請求できるようなものです。でも、そんなものを見つけるのは極めて難しい。
現実は、どの企業も「自分たちは違う」と考えています。どの企業も、独自のカラーボタンや独自のカスタマイズを求めています。そこで私たちが取った方法は、会社のコアバリューを重視することでした。極端な言い方をすると、私たちは顧客満足には関心がなかったのです。顧客を満足させることを重視していなかった。
一見すると、そんな考え方に誰も同意しませんよね。私たちは、顧客を満足させることではなく、「顧客を成功させること」だけに焦点を当てていたのです。カスタマイズは、顧客を長きにわたって苦しめることになりかねません。プロダクトがサポートされず、持続不可となればビジネスも機能しなくなるからです。
私たちにとってもプラスにはなりません。コードが増殖して解決しなくてはならない問題だって発生します。だから最初に「ビジョン・ロック」が重要です、ビジョンを明確にするのです。
特に初期の顧客と話をするときは、「私たちは、このプロダクトをカスタマイズし構築しますが、ベストプラクティスに倣って構築します。あなたは、ベストプラクティスを望んでいるはずです。カスタムシステムから抜け出したいはずでしょう?」と伝えるのです。
そうでなければ、彼らは私たちのようなベンダーを求めたりしないはずですから。自社のIT部門に構築を依頼すれば良い話です。それでも、私たちに依頼しているということはベストプラクティスを求めているのです。
もしかしたら、初期顧客にはより良い条件を提供するかもしれません。でもそうするとしても、80:20の法則でやろうとするでしょう。ところが規模が大きくなればなるほど、プレッシャーが常に出てきます。カスタマイズのために彼らが準備した金額を考えるとね。
そして、実際にカスタマイズをしたときもありました、ただし非常に慎重に。行きすぎだと判断した場合には、顧客との取引自体を解消したこともありましたね。当時、私たちの最大の顧客はサブウェイでした。ACVは110万ドルで年に3回……確か44万ドルほどを支払う契約でした。
ただ、これはほぼカスタム開発タイプの契約だったのです。そのおかげで、Coupaはプラットフォームの拡張に投資をする余裕ができました。でも、レタスやターキーの再注文といったサンドイッチ固有の機能が強く出てきたところで、「契約の打ち切り」を伝えました。
この取引で得た数百万ドルを元手に、プラットフォームに投資し、成長を続けましたが、これを続けるのは、「このままではカスタム開発会社になってしまう」と考えるまでです。撤退する自制心や規律も必要です。そして、この規律を身につけると、それは私たちの会社のカルチャーにもなりました。
ある企業の買収をしたとき、彼らの最大の顧客は、私たちに年間450万ドルを支払っていました。当時、私は最初にその会社のCIOと話をしたのですが、彼はこう言いました「我が社を買収してくれて本当に嬉しく思ってる。私たちがやりたいと思っていることの実現のため、支援してください」と。
でも私は「あなた方が望むことは何もしませんよ」と伝えたのです。「はっきり伝えておきますが、私たちは岐路に立っています。今ここで、さようならを言うか、新しいアプローチに合意するか。新しいアプローチとは『ベストプラクティスの方法で構築をする』ことです。これに賛同するなら、案件を継続します。そうでなければ今すぐキャンセルして目標のずれを生じさせないようにしましょう」そう伝えたことを今でも覚えています。
ラッキーなことに、このときは私たちは意見が一致し、多くのカスタマイズ機能を解きほぐしてよりベストプラクティスに近づけることができました。その後、この会社を売却したときも、彼らは「顧客を満足させる会社」ではなく「顧客を成功させる会社」であり続けていました。
これは伝えておきましょう。顧客は、決して満足することはありません。消費者は、何でも無料で手に入れたいと思いますし、私たちはプロダクトに対してお金を支払ってもらいたいと思うものです。私たちは、絶対に満足しないのです。でも、成功は測定することができます。定量化することで私たちはビジネスを構築できました。
勇気が、SaaSエンタープライズソフトウェアには必要だ
前田:「No」と言うのは勇気のいることだと思います。目の前に400万ドルとか500万ドルを積まれたら、なおさら勇気がいります。そう考えると「No」と言える背景にはどのような考えがありますか。勇気を与えてくれるものは何なのでしょうか。
Rob:「勇気」というのはまさしく的確な表現ですね。意義のあるスケーラブルなSaaSエンタープライズソフトウェア企業を築くためには、勇気はとても大きな要素です。どのCEOも何かを立ち上げて存続させるには勇気が必要だとわかっています。勇気というのは本当に的確な言葉です。勇気が必要だと思います。
不自然な行為をするには勇気が必要ですから。スケールするエンタープライズソフトウェアビジネスを構築することは自然な行為ではありません。そして、世界にはそれをうまくやれる多くのプレイヤーがいます。彼らは、間違いなく優位な立場にいます。
だからまさに勇気が必要なのですが、その勇気は自分が正しいという信念に根ざしています。「正しい」とは、顧客に測定可能な価値をもたらすということです。顧客に測定可能な価値をもたらし、ほかの誰よりもはるかに成功させること。そのためには、ベストプラクティスの開発に関する勇気と信念が必要なのです。
いま、エンタープライズソフトウェアの世界に何が起きている?
前田:エンタープライズソフトウェアの世界は、オンプレミスからクラウドへ、そして今、AIへと変化しています。Robさんは、現在投資家としてたくさんのスタートアップと話すなかで、エンタープライズソフトウェアでは、何が変わったと思いますか、そして、その戦略と実行手法も変わったと思いますか。
Rob:多くのことが変わり、また多くのことが変わっていないと言えますね。私たちが話したいくつかの原則は、ほぼ変わっていないと思います。エコシステムへの投資の必要性。80:20の法則でプロダクトを構築する必要性を理解すること。自分が宇宙の中心にいると思わないこと。自分は、ほんの一部にすぎないということを知っておくこと。自分がいるエコシステムを理解すべきこと、この辺りは変わらないでしょう。
でも、先ほどのセッションで(SaaStr CEOの)Jasonが話していましたが、顧客の期待は大幅に高まり、選択肢も大幅に増え、競争環境はかつてないほど熾烈になっています。だからこそ、測定可能な価値の実現に、さらにフォーカスする勇気を持つことが必要なのです。
焦点を当てるべき星は「顧客に提供する価値が、彼らから得る収益よりも大きいかどうか」でしょう。もしそれができているのなら、あなたは正しい方向にいると思いますよ。
もし顧客を「満足」させるビジネスを構築しようとしたり、顧客の声に耳を傾けて、小さなあれこれを叶えようとするのか。または、彼らの言うことを聞いて、「彼らにはこれが必要だ」とあなたが信じることをするのか。それはどれだけ時間が経っても価値を失わないでしょう。差別化の要因になるはずです。
AIの勝ち筋は、アルゴリズムよりも独自データから考えるべき
前田:AIに関する見解と投資基準について教えてください。
Rob:やはり最も重要なのは独自データへのアクセスです。これが一番大切だと思います。今私たちが手にしている素晴らしいチャンスの一つは、さまざまなLLMを活用できることです。それらの開発に何十億ドルもの資金が注ぎ込まれていますが、あなたがLLMとの対話に利用するものは何ですか?LLMとの相互作用で利用するものは何でしょうか?
それはインターネット上ですでにアクセス可能なデータではありません。そのデータの大部分はすでに処理されてしまっていますから。LLMが今取り組んでいるのは、最後の2%の特異性や、ハルシネーションの抑制です。
RAG(検索拡張生成)の原則で考えるなら、専用のデータベース上で実行したいはずですよね。でも、私がより重要だと考えるのは、「継続的にデータを収集し続けられる、専用のデータベースである」ということです。毎日、毎時間、毎分、継続的に独自データを収集し続ける、情報技術プラットフォームを構築すべきなのです。
そうすればLLMが文脈に沿った洞察を提供する際の先端部分は、ユーザーにとって今、この瞬間に、最も関連性の高い情報、彼らが直面している課題や状況に基づいたものになるでしょう。
こういったタイプのユースケースは、エンタープライズソフトウェアの至るところに存在します。特定の業界(バーティカル)にも業種横断的(ホリゾンタル)にもね。だから投資先を見るとき、私が着目しているのは、ユニークな方法でデータを収集し、そのデータを構造化して、さらにそのデータを分析し、新たな洞察や価値を生み出している企業です。
前田:常に独自の最新の情報を取得できる立ち位置にあるべきということですね。どこからでも取ってこられるような情報では意味がなく、また簡単に古くなるような情報でもダメだと。
Rob:まさにその通りです。もし、その情報を収集する能力の周りにMOATを築けるなら、本当に特別なものを手に入れたことになります。データ収集の周りにMOATがあって、そのデータ収集は一貫性があり、簡単に構造化できたら。そしてそれが知性や世界中のデータと組み合わさったら、LLMは文脈に沿った洞察を提供できるようになります。これは非常に突破が難しい参入障壁となるでしょう。
ですから今の段階では、アルゴリズム自体よりもデータから考えるべきだと思うのです。この段階で独自にLLMを構築するのは、もはや価値のある取り組みではないと思います。
M&Aは、1+1=2ではなく「1+1=2.5」になるものを
前田:次に、Robさんが携わった買収案件についてお聞きしたいと思います。Coupaはこれまで多くの企業を買収してきて、大きな案件もあったと思いますが、その経験から学んだことは何ですか。得られた教訓があれば教えてください。
Rob:最初の教訓は、ビジネススクールで学ぶようなシンプルなことです。自社のコアコンピタンスが何かを知り、そのコアコンピタンスに忠実であることです。もし何かを買収するなら、自社のコアコンピタンスではないものを買うのです。つまり、自分たちが最も得意とすることには引き続き、自社のなかで投資を続けるべきです。
Coupaの得意分野は、ユーザビリティです。そして、どの言語でも、どの通貨でもグローバルに稼働する、大規模なトランザクションエンジンを構築することにも長けています。一方で、大口顧客のための複雑な調達アルゴリズムの構築は得意ではありませんでした。
そこで私たちは自社のコアコンピタンスではないが、私たちの事業と相乗効果を生み出せる会社を買収しました。1+1=2ではなく、1+1=2.5になるようなものですね。これが1つ目のポイントです。
もう一つ、非常に重要なのは、買収先企業のカルチャーを深く理解すること。買収を検討している企業の価値観があなたの会社と異なるなら、対立が生じるでしょう。完全に同じということはあり得ませんが、新しく迎え入れる従業員や同僚が、あなたの組織の価値観を受け入れられる可能性を見極める必要があります。そうでなければ、買収はうまくいきません。これが2つ目の教訓です。
そして3つ目、これは少なくとも私がCEOだったときの私たちの話ですが、可能な限り迅速にすべてを統合するようにしていました。私は、買収した会社の名前さえもう覚えていないほどです。取引完了のその瞬間からその会社はもう存在しないからです。
戦略的ソーシングのために買収した会社は買収した瞬間から「Coupa Strategic Sourcing」となったのです。そして統合計画が立てられます。UIは2ヶ月以内に共通化され、ホスティング環境も一定期間内にすべてAmazonかAzureに移行する。ビジネスロジック層が統合されます。
つまり顧客は、買収前は別々だったプロダクトの機能間を統合後はスムーズに行き来できるようになる。すべてのサポートチケットは、集中ヘルプデスクに入り、適切にルーティングされる。すべてのデータが迅速に統合され、財務要素も迅速に統合される。統合が早ければ早いほど、より多くのシナジーを引き出せます。
ここ数年で大型買収が実行されたものの、業績が振るわない上場企業を見てみると、多くの場合、買収した事業を、自社のサービスと本当の意味で統合できていないと感じています。単に別々の事業として管理し続けただけだったため、買収先の優秀な人材は離れていき、収益も鈍化し、結果的に、事業を加速させるはずだった買収がむしろ足かせになってしまっているのです。
私たちの買収戦略がうまくいった理由は、その筋肉を非常に早い段階で鍛えたからだと思います。14年間で13社の買収をしましたが、最初の4~5社は厄介なものでしたよ。最初の買収は、その企業には三人の従業員しかいませんでした。その企業のプロダクトは切り捨てて、重要な機能をCoupaプロダクトにあわせて作り替えました。
私たちは社内でその筋肉を鍛えてきたんです。魚釣りに例えると、魚を釣って、ウロコを取り、内臓を取り出し、焼いて、提供する。Coupaには再現可能な買収の組み立てラインができていたのです。
すると公開市場の投資家たちも私たちに対する自信を持ちはじめ、最後の買収には10億ドル以上、ほかの買収にも数億ドルを使うことを許可しました。社内で筋肉を鍛え、シナジーを探し、統合ロードマップを作成してください。そして、最初からカルチャーの統合に注意を払ってください。
あなたは宇宙の中心ではないことを理解してください
前田:統合プロセスに一定以上の時間がかかると価値がない、と判断することもあるのでしょうか。
Rob:ペイバック次第ですね、シンプルな財務計算です。計算をして、仮定を立てます。失う顧客数はこれくらい、買収コストはこれくらい、残る従業員と離職者の確率はこれくらいというように。モデリングと意思決定ツリーを作成します。
もし、すべての仮定のもとで数学的に相乗効果があるなら、進み続けるでしょう。そうでなければ撤退します。しかし、成功する買収の可能性を高めるのは、常に周囲の状況を調査することです。
当時からCoupaには素晴らしいチームがいたんです。1名からはじまり、上場時にはかなりの規模でしたが、そのチームは常に市場を調査し、注目すべきカテゴリや買収したい会社について仮説を立て、それらの企業のリーダーたちと関係を構築していました。だから、彼らが売却を決断するタイミングが来たとき、私たちはすぐに対応できていたのです。
私たちはベンチャーファンドも立ち上げ、これらの初期段階の企業に投資し、もし売却を望むならいつでも買収できるようにしました。投資部門でもお金を稼ぐかもしれませんしね。
どんなに大きな会社にも共通して言えることは、「理解すること」の大切さです。私が退任した当時のCoupaは10億ドル近くの収益がありましたが、それでもエコシステムでは小さな会社です。ARRが1,000万、2,000万、3,000万ドルほどの会社なら、あなたは宇宙の中心ではないことを理解してください。自分のエコシステムを理解してください。
直感を信じ、「0と1の間」にあるチャンスを見つけ出せ
前田:最後に、今後10年間でいかなる方向へ進むと思いますか。また、最も誤解されている側面は何でしょうか。
Rob:特にAIについては大げさに騒がれすぎですね。AIという言葉を頭の中で「独自データストア」に置き換え、最小限のエントリーで専用データをキャプチャする能力に置き換えて考えるなら、その考えは正しいと思います。
それから最近は、後を追う人が多すぎると思います。「あの人たちにできたのなら、自分はもう少しうまくできるかもしれない」と考える人が多い。私は起業家として、Peter Thielの「ゼロ・トゥ・ワン」のような考え方をしろと言うつもりはありません。
ビジネスアプリケーション層のエンタープライズソフトウェアの世界では、(0→1のような)完全に新しい発明の機会はそれほど多くないでしょう。しかし、「0と1の間」の何かがあるはずです。
つまり、ほかの誰かがすでにやっていることに少し工夫を加えるだけではなく、「まだ標準以下の水準にとどまっているが、多くの業界や部門に適用が可能なホリゾンタルなユースケースで、大きな価値を引き出せる機会」を本気で探すべきです。
私なら、直感的でシンプル、そして十分に再現性のあるユースケースを探します。それこそが市場参入の足がかりとなり、そこから左右に事業を拡大していくことができるでしょう。これが私の考え方です。
単に他社の後追いをする傾向が強すぎると思います。私がこれまでの30年間、皆さんと同じようにたくさんのカンファレンスに参加してきた経験から言うと、事業拡大のアイデアは私のような外部の人間からは生まれません。カンファレンスからも、ほかの誰かからも生まれません。あなた自身から生まれるのです。
起業家やCEOの皆さんは、すでに一歩を踏み出してビジネスを構築しています。チャンスを見つけるには内側を見つめてください。自分の直感を信じて、何ができるかを考えてください。
洞察や情報は外部からではなく、顧客や見込み客とのやり取りから生まれます。市場に存在する不満から生まれるのです。もし、そういった不満を解消する方法を見つけ出し、リカーリングレベニューモデルで適正な価格を設定できれば、そこには、素晴らしいビジネスを構築するチャンスがあると思いますよ。
前田:Robさん、本日はありがとうございました。
Rob:こちらこそありがとうございました。
(※この記事は「ALL STAR SAAS CONFERENCE 2024」のセッションから抜粋・再構成しています)