ARR $200Mを達成したリーガルテックSaaS Clioのシード投資家の学び
Christoph JanzのMedium「Clio’s Journey to $200」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
先日$900M(約1,350億円)@評価額$3Bの超大型調達を発表した、弁護士事務所特化のバーティカルSaaSユニコーン Clioのシード投資家Point Nine Capital クリストフ・イェンツ氏によるブログ記事より。Clioは2009年創業で、15万人以上の法務専門家に利用されており、ARR $200Mを達成しました。この16年の成長を見守ってきたVCの7つの学びです。
- 世界的なSaaS企業はベイエリア以外からも生まれる
Clioが設立された当時、ベイエリア以外から世界的なSaaS企業が生まれるという考えは受け入れられなかった。当時は欧州やカナダのスタートアップは資金調達に非常に苦労した。良い例がZendeskで、当時、欧州でシリーズAの調達はできなかった。幸い、これ昔の話で、現在は世界中のどこからでも資金調達できる。もちろん、ベイエリアはテックの中心地であり、素晴らしい企業を生み出し続けている。しかし、それ以外の地域のスタートアップの面白い点は、異なる業界や企業に接し、異なる課題に取り組んでいることだ。2008年当時、VCの間でバーティカルSaaSは流行っておらず、ベイエリアで弁護士向けのSaaS事業を立ち上げようと考えた人は1人もいないかった。 - T2D3の道をたどらない優良なスタートアップもある
長年、投資家はT2D3に固執してきた。景気後退が起こった後、バランスを取る見方に変わったが、それでもいまだにハイパーグロースは投資家が興奮する1つの要因だ。しかし、現実には、このような爆発的な成長を長期間維持できる企業はほとんどない。 無理に成長させようとしても、失敗に終わることが多い。近年、高成長SaaSの多くは大きく減速してきている。理由は過剰なS&M投資に頼っていたため、不況時に支出が削減され、成長が急落したからだ。Clioの場合は、最初の数年を除いて、前年比100%の成長を遂げたことはない。 しかし、Clioの成長維持率は異例に高く、規模が大きくなっても成長率はそれほど低下しなかった。 実際、同社はここ数年で成長を加速させており、メンドーザラインの理論を否定している、あるいは少なくとも例外であると言える。 - 最も優れた企業を作るには、強い執念が必要である
多くの起業家が、初期のProcoreの立場だったら、売上$10Mに到達する前に諦めていただろうし、VCは彼らの初期の成長に見向きすらしなかっただろう。これはうまくいかなくても、執念深く続けるべきだと言っているわけではない。明確なチャンスや市場の牽引力がない場合は、諦めても構わない。人生は短い。投資してくれたVCのことを心配する必要はない。しかし、私の知る限り、外からは大成功に見える企業も、創業当初は存亡の危機に直面してたということだ。ある記者から「Clioが成功した要因は何か?」と聞かれた際、私は「創業者2人が適切な時期に適切な洞察力を持っていたことから始まった」、という回答をしました。しかし結局、Clioの成功の一番の要因は彼らの「粘り強さ」だった。数々の困難や危機に直面しても、彼らは決してあきらめなかった。 - バーティカルSaaSは、多くの人の考えてるよりも、遥かに巨大になる可能性がある
ほとんどのVCはTAMの懸念からバーティカルSaaSに興味を示さない。彼らは何を見落としているのか?バーティカルSaaSは、a)競争が少ないために市場シェアが高い、b)レイヤーケーキ戦略によりARPAが増加し続けます。Clioの場合も、時間追跡、請求書作成、文書管理のためのシンプルなソリューションを提供する、一人弁護士のための業務管理ソフトウェアとして始まりました。 16年経った今、真の業界のオペレーティングシステムとなり、クライアントの取り込み、クライアントとのコミュニケーション、裁判所への提出、会計など、法的プロセスのあらゆる面で力を発揮しています。Clioのロードマップはまだまだ長く、ARR$200Mになっても減速の兆しはない。 Clioはケーキの層の増加×グローバル展開で、市場拡大を倍増させるだろう。 - 優れた企業は独自のプレイブックがある
バーティカルSaaSのプレイブックは、現在では世の中でよく知られています。Clioが創業した時、そのようなプレイブックはありませんでした。Zendeskが設立された時は、PLGに関するプレイブックはありませんでした。これは今日の起業家にとってどういう意味があるだろうか?起業家は全世代の成功の指針となったプレイブックを理解し、活用すべきです。しかし優れた起業家は確立されたプレイブックを超えて、次世代のためにプレイブックを書くだろう。これはすべてを再発明しろ、というアドバイスと思わないでほしい。ESOPや報酬の仕組みに関して、イノベーションを試みてはいけない。プロダクトGTMのイノベーションに集中することです。 - 最高のスタートアップ投資は、コンセンサスは取れない
Benchmark共同創業者アンディ・ラクレフは「伝説的なものを生み出すには、コンセンサスにはならないが、正しい洞察を持たなければならない」と語った。間違っていれば、何があっても失敗する。しかし、正しいだけでは不十分だ。最高の投資は、非合意だが正しいものです。2009年に私がClioに投資した時、誰も投資したがらなかった。その結果、競合が現れるまで数年を要した。アンディが言うように、これがClioが生き残り、適応し、試行錯誤の末に、市場を支配するまでの時間を与えたのだ。 - 高い技術力を持つ起業家が、最高のテクノロジー企業を作る
Clio創業者のジャックは2008年にリアンと共にClioを設立した。それから16年。ジャックは今もCEOとして会社を率いており、今後も続ける構えだ。例外もあるが、Clio、Zendesk、Jobberなどの投資経験から、私たちはa)創業者が何年も何十年もリードでき、b)優れた技術者である企業に投資することを目指している。その理由の1つは、優れたスタートアップは時代を先取りしているため、10年以上たっても、当初のプロダクトビジョンのほんの一部しか実現していないということだ。進歩し続けるためには、創業者のビジョンが重要なのだ。もう1つの理由は、LLMのように市場やテクノロジーが突然シフトした時、テクノロジーとその意味を深く理解し、素早く適応できるリーダーが必要だからだ。IntercomがChatGPTが登場した時にほぼ一夜にしてAIに全振りする判断をした、デス・トレーナーのようなことは、雇われCEOでは難しい。
最初のエンプラ顧客を獲得する上で知っておくべきこと
Nilam Ganenthiran氏「The Snowball: Getting Your First Enterprise Customers」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
元Instacart社長で、現在はBeacon Software創業者兼CEOを務めるNilam Ganenthiran氏による、エンプラ顧客を獲得したい起業家へのアドバイス。特にSMBで初期のトラクションを作って、将来エンプラを狙いたいSaaS起業家の方にはおすすめです。
- クジラ・魚・小魚の群れ
いきなりエンプラを狙うことよりも、まずは小さくても有料顧客を獲得することに集中しよう。顧客はリファレンスや成功事例となり、エンプラ案件の長い営業サイクルに取り組むコスト負担を助けてくれる。 - Instacartの「魚雷戦略」
Instacartでは初期2つの顧客獲得戦略を取りました。段階的なアプローチは、小魚をクローリングで捕獲し、のちに魚、そしてクジラを獲得するのに役立った。
魚雷1. 地域(オースティン)を絞って地元の小さな食料品店(SMB)をクイックに契約する
魚雷2. ミッド・エンプラのチェーンと定期的に直接対話し、Instacartが注目すべき存在であることを証明するために、SMBでの進捗を常に報告する - エンプラ固有の契約への対応
Instacartは取引において1‐2個譲れない点を明確にし、そのほかの個別交渉で出てくる100の点については柔軟に対応することで契約獲得することが得意でした。起業家は、投資家が例外的な取引をどう見るか心配することが多い。しかし投資家が重視するのは、取引の一貫性ではなく、顧客の存在だ。またほとんどの個別の条件は、その後の契約で再交渉することができる。長期でその顧客とうまく仕事をすることで、将来の契約交渉は有利にできる。エンプラとの契約は常にカスタマイズされたオーダーメイド。 - 顧客をパートナーとして見る
Instacartは、顧客とのパワーバランスの非対称性を認識することによって成功した。Instacartの長期的な成功には、小売業の顧客も勝利する必要があることを私たちは知っていました。そのため、発生する契約タイミングで、自社の利益を最大化することではなく、小売業者が健全なビジネスになることにフォーカスしました。 - 獲れない顧客に固執せず、獲れる顧客にエネルギーを注ぐ
あるエンプラの小売業者からパートナーシップを拒絶された際、私たちはとてもいら立ちを覚えました。しかし、「すべての(顧客の)幹部は交代する」ことを意識することで忍耐強くいることができた。その顧客企業も数四半期の低迷により、幹部が交代し、結果、新たな幹部との変革を起こすパートナーシップを構築することができました。
SaaSやエンタープライズソフトウェアマーケットの現状
Saastr「Sapphire Ventures: Public SaaS Companies Are Growing the Slowest Ever, But Unicorn Production Has Ramped Back Up」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
シリコンバレーの著名なSaaS投資家であるSaaStrのJason Lemkin氏が、SaaS市場に関する直近のアップデートを共有しました。以下がその要点です。
- 5億ドルのARRで年度34%成長しているOneStream社が、60億ドル以上の評価額でIPOを成功させました。
- クラウド支出全体は低迷から回復しています。AWSは現在、1,050億ドルの年間売上ペースで19%成長しています。昨年は12%でした。
- しかし、すべてが好調というわけではありません。133社の上場およびレイトステージのエンタープライズソフトウェア企業を見ると、全体的に成長が鈍化しています。
- 新しいSaaSユニコーン企業の数は2024年には増加する見込みです。2023年は28社の新しいSaaSユニコーンが誕生しただけでしたが、今年の上半期だけで25社に達しています。
- ベンチャーキャピタルのエンタープライズソフトウェア投資は増加していません。実際に2%減少しています。
AI×SaaS:AIが次世代のセールステクノロジーを変革する理由
andreessen.horowitz「Death of a Salesforce”: Why AI Will Transform the Next Generation of Sales Tech」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
a16zによるAIが既存のSaaSをどのように変革していくかについて、セールステックに焦点を絞って書かれた記事を紹介します。この記事の内容に全面的に賛同するわけではないものの、AIの可能性や既存SaaSプロダクト与える影響についてインサイトが多かったです。
- RDB(Relational Data Base)とクラウド
既存企業は新しいプラットフォームの変化に適応できるが、アーキテクチャを完全に再考できることは稀。Salesforce (1999 年設立) と Hubspot (2006 年設立)の躍進はRDBとクラウドという技術発展による。既存SaaSがもたらした変革とは、行と列で構造化されたデータベース上でOpportunityやそれに関連する基準をテキストベースで表せるようになったことにある。 - 生成AIはSaaS開発の脱構築を促す
LLMはCRM/SFAに非構造化かつマルチモーダルなデータを取り込める可能性がある。例えば、社内の誰かとの会話の録音とトランスクリプト、電子メールと Slack メッセージ、販売促進資料、製品の使用状況、顧客サポート活動、公開ニュース、財務レポートなどのデータをUpdateな状態で取り込めるようになる。さらに、プラットフォームを強化する LLM は、最新のコンテキストを作成するために、常にデータを取り込みます。 - 既存SaaSにAIを搭載したものと生成AIネイティブのアプリケーションは大きく異なる
例えば、インバウンドリードの対応とアウトバウンドキャンペーンの管理を同時に実行できるなど、AIエージェントがあらゆるファネルでのセールス活動をマネジメントできるようになる可能性がある - 営業フローの再構築を促す
マーケ・セールス・CSの業務融合。知識の共有が不十分で、チーム間の引き継ぎプロセスが不完全なため、サイロ化されている職種同士でも、顧客に関する情報が包括的に統合され、営業活動が AI によってガイドされるようになると、職務が融合する可能性がある。
エンタープライズ
- Altana - 企業のグローバルサプライチェーンにおけるコンプライアンスと信頼性を分析するAI×SaaS。シリーズCで$200Mを調達。評価額は$1B。投資家はUS Innovative Technology Fund、March Capital、Salesforce Venturesなど(Yahoo! Finance)
- Osapiens - ドイツ発のESG規制へのコンプライアンス維持を支援するSaaS。シリーズBで$120Mを調達。投資家はGoldman Sachs Alternativesのグロースファンド(Silocon Angle)
- Ema - コード不要のユニバーサルなAIエージェント。シリーズAで$36Mを追加調達。投資家はAccel、S32など(Venture Beat)
- Trio Mobil - AIとIoTで職場の安全性と効率性向上を支援するSaaS。グロースラウンドで$26.5Mを調達。投資家はNewspring、TIBAS Venturesなど(PR Newswire)
- Credo AI - エンタープライズのAI導入のためのAIガバナンスSaaS。$21Mを調達。投資家はCrimsoNox Capital、Booz Allen Hamiltonなど(Silicon Angle)
- Checkly - ドイツ発のコードエラーを検出するソフトウェアテストSaaS。シリーズBで$20Mを調達。投資家はBalderton Capital、Accelなど(tech.eu)
- Haus - マーケティング費用を最適化し、より良い意思決定を支援するSaaS。シリーズで$20Mを調達。投資家は01 Advisors、Baseline Venturesなど(PR Newswire)
- Rillet - 国際的な事業拡大に伴う財務を簡素化し、ERPソリューションで会計に革命を起こすSaaS。シード・プレシード合計で$13.5Mを調達。投資家はFirst Round Capital、Creandumなど(Fintech Global)
- Sybill - 提案依頼書の記入や社内データベースの更新など、営業担当者の煩雑な作業を自動化するAI×SaaS。シリーズAで$11Mを調達。投資家はGreycroft、Neotribe Venturesなど(TechCrunch)
バーティカル
- Revi - 地元の飲食店の発見、注文、支払い、インセンティブの獲得といったプロセスを合理化するSaaS。シリーズAで$14.5Mを調達。投資家はRuna Capital、Volition Capitalなど(CTOL Digital Solution)
- Gradient AI - 保険業界のリスク評価の高度化と業務効率化を支援するAI×SaaS。シリーズCで$56.1Mを調達。投資家はCentana Growth Partners、Sandbox Insurtech Venturesなど(Fintech Global)
- Perchwell - 住宅用不動産の最新データおよびワークフローSaaS。シリーズBで$25Mを調達。投資家はLux Capital、Stellar MLSなど(PR Newswire)
- Leaf - 農業向けデータ管理SaaS。シリーズAで$11.3Mを調達。投資家はSpero Ventures、S2G Venturesなど(AFN)
セキュリティ
- Rhombus - セキュリティカメラ等の物理的なセキュリティを守る端末を統合管理できるSaaS。シリーズCで$45Mを調達。投資家はNightDragon、Caden Capitalなど(VC News Daily)
- Axiad - IDファーストのサイバーセキュリティSaaS。$25Mを調達。投資家はInvictus Growth Partners(Fintech Global)
- Lineaje - ソフトウェア・サプライチェーン特化のサイバーセキュリティSaaS。シリーズAで$20Mを調達。投資家はProsperity7 Ventures, Neotribe Ventures、Hitachiなど(TechCrunch)
ヘルスケア
- Spring Health - 企業の従業員向けのメンタルヘルスSaaS。シリーズEで$100Mを調達。評価額は$3.3B。投資家はGeneration Investment Management、Northzoneなど(Crunchbase News)
- ログラス - クラウド経営管理システムを提供。シリーズBで70億円を調達。Sequoia Heritage、ALL STAR SAAS FUNDをリード投資家として、国内外の投資家 計14社が参加(日本経済新聞)
- カタグルマ - 保育・教育・療育業界向けHRテック事業を展開。プレシリーズAで1億7,200万円を調達。Archetype Ventures、ユナイテッド、モバイル・インターネットキャピタル、Gazelle capitalからのエクイティ・ファイナンス及びスタートアップ創出促進保証制度によるデッド・ファイナンスを実施(PR Times)
- WonderPalette - 「食品廃棄ゼロ」を目指す需要予測AIを開発・提供。シードラウンドで2,100万円を調達。投資家はKUSABI(PR Times)