■「今週のSaaSxAIニュース」ピックアップ!

ビジョンAIスタートアップが狙える巨大市場
Bessemer Venture Partners「Vision-native AI opportunities: a precursor to intelligent robotics」の一部を日本語で紹介したものです。全内容はリンク先をご覧ください。
Bessemer Venture Partnersが執筆した記事で、最新のビジョンAI技術がロボティクスだけでなく、幅広い業界で新たなビジネスチャンスを生み出している現状を解説しています。日本でも製造、建設、物流など画像情報を扱う産業が多く、ソフトウェアとハードウェアの融合による新市場創出のヒントが満載です。記事の要約は以下の通りです。
- ビジョンAIの技術的ブレークスルー
Meta社のDINOv3やSAM3など、最新のビジョン言語モデル(VLM)は従来の教師あり学習を超える性能を達成しました。Perceptronのような企業は、わずか数例の入力で新しい視覚タスクを学習できる20億パラメータのモデルを提供しており、再学習不要でエッジデバイスに展開可能です。これにより、ロボティクスだけでなく、物理世界を理解する「ビジョンネイティブソフトウェア」の巨大な市場機会が生まれています。 - 収益に直結するユースケースを狙え
成功するビジョンAIスタートアップの条件は、安全性やコンプライアンスだけでなく、生産性や処理能力といったコアビジネスKPIに直接影響を与えることです。すでにカメラが導入されている環境に自然に統合でき、手作業でエラーが発生しやすい視覚的ワークフローをインテリジェントな自動化で置き換え、チーム全体のパフォーマンスを測定可能な形で向上させるツールが求められています。 - 建設・修理・ヘルスケア市場での可能性
建設分野では、モバイルカメラやドローンによる品質保証、進捗管理、変更注文の自動化により、遅延とコスト超過を防ぐシステムが有望です。自動車、屋根、災害修復などの修理分野では、視覚的損傷評価、不正検知、自動意思決定が機会となります。ヘルスケアでは、高齢者の自立支援や手術室の稼働監視による患者フロー改善、請求処理、安全性向上が期待されています。 - 製造・物流・インフラ市場での可能性
製造ラインの監視、欠陥検出、プロセス遵守の検証により歩留まりを改善し、ダウンタイムを削減できます。倉庫やフルフィルメントセンターでは、固定カメラやモバイルカメラを使った進行中の作業追跡、ラベル・梱包の確認、視覚的品質保証の自動化が可能です。公共インフラでは、道路、公共空間、公益設備の監視により安全性と運用効率を向上させ、穴や障害物の検出、コンプライアンス報告の自動化などが実現できます。
上場市場では売上成長の「持続力」こそが真の評価基準
OnlyCFO’s Newsletter「Are Public Market Valuations "Brutal"?」の一部を日本語で紹介したものです。全内容はリンク先をご覧ください。
OnlyCFOによる、上場企業と非上場企業のバリュエーション格差の本質を解説した記事です。記事の要約は以下の通りです。
- 上場市場は残酷なのではなく現実的
現在の上場マーケットのバリュエーションは「残酷」なのではなく、非上場企業のバリュエーションが非現実的な期待に基づいた「幻想」であることが多いです。投資家は適切なリスク調整済みの将来価値に対してのみプレミアムを支払うべきで、これは本質的にDCFモデルに基づいています。 - 売上成長の持続力が真の評価指標
売上成長持続力とは、売上成長率の持続可能性(スタミナ)を測る指標です。計算式は「次年度の売上成長率÷今年度の売上成長率」で表されます。今日の高成長率は、数年後に急落するなら意味がなく、長期的な複利効果こそがソフトウェア企業の価値を生み出すのです。 - CloudflareとFigmaの2倍のバリュエーション差
Cloudflareは27%成長(Figmaより1%高いだけ)でFCFマージンもFigmaよりも小さいにも関わらず、Figmaの2倍の売上高マルチプルで取引されています。この巨大な差は、長期的な売上成長に対する投資家の期待の違いを反映しており、近似した成長率でもバリュエーションに大きな差が生まれる理由を示しています。 - PagerDutyの厳しい現実―売上高マルチプル2.1x
ARR5億ドル、まともなFCFマージンを持つPagerDutyが売上倍率2.1倍で取引されている理由は、売上成長の持続力が最悪レベルだからです。5%未満の成長率と高い株式報酬は「死の宣告」であり、M&Aの関心もゼロに近い状態です。このバリュエーションは、成長が鈍化した非上場企業のベースラインと考えるべきです。 - ServiceNowの驚異的な成長持続力
ServiceNowは10年以上にわたって圧倒的な成長持続力を示してきました。2012年のIPO時に15倍の売上倍率を「高すぎる」と批判されましたが、現在は売上が52倍になり、株価は2,100%上昇しています。127億ドルの売上規模で15%成長を維持する68%の成長持続力は依然として驚異的です。 - AI企業の成長率は2026年に壁に直面する
多くのAI企業が現在、実験需要とAI導入の義務化により売上の大幅な前倒しを経験していますが、この状況は間もなく変化します。顧客はツールを購入して定着し、競争が激化するため、多くの企業が2026年に売上成長の壁に直面し、高い成長持続力を期待していた企業と投資家にとって厳しい現実となるでしょう。

セールス組織の拡大に近道はない。急成長するか否かを分けるのは”意図”である
Crunchbase News「The Relationship Accelerator: How Visibility Shortens M&A Timelines」の一部を日本語で紹介したものです。全内容はリンク先をご覧ください。
Vertical SaaSへの投資やサポートに特化するFractal Softwareの記事。SaaSスタートアップの成長戦略において重要な示唆をもらえます。自社のマーケティング戦略に明確な意図はあるか。高成長を追求するあまりHow論に終始していないか。ぜひSaaSのマーケティングやセールス組織の拡大に悩まれている方に読んでいただきたい記事です。
アーリーアダプターを超えてスケーラブルなセールス組織へ
- PMFを超えてスケーラブルな営業を目指すにあたって、ボトルネックになるのはCEOである。ここで重要なのは権限委譲できる担当者をしっかりと採用することである。
- CEOと初期のセールス担当者が実施しなければいけないのは、商談機会を絞り込み精査すること。これは直感的に反するが、不可避なサービス利用に至るまでのハードルを乗り越えて優先的にプロダクトを活用してくれるアーリーアダプターをしっかり見つけてくる必要がある。
- 次に重要なのはパターン認識。学習曲線をいかに高めるかが、急速な成長を可能にする上で最も重要なスキル。再現可能なセールスモーションとは理想的な顧客プロファイルを絞り込み、それらの顧客自身の言葉を使用して、より似たような企業を引き寄せること。
ボリュームベースの勝負は問題がある
- 意図的に見込み客開拓は重要だ。アウトバウンドメールは、受信者に対して次の2つのことを証明する必要がある。
- なぜ彼ら(そして彼らだけ)が受信者である必要があったのか
- なぜ彼らが(または近くにいる)転換点にあるという確信があるのか。
- 正しい顧客に正しい製品を正しい時期にターゲットを絞れずに効率の悪いセールス活動になってしまうリスクが発生する
すべてを測定する
- 現在のセールスエグゼクティブが受注率が低い場合や、継続的にチャーン発生する場合、セールスプロセスが根本的に壊れているため、セールス担当者を増やしても解決しないケースがほとんど。CEOがプロセスを磨く前にアカウントエグゼクティブを雇うと、問題が悪化し、失敗につながる。
- 明確な意図を持ってセールスデータや指標を計測していくことは、推測に頼った成長を防ぐ。意図とメトリックに基づく文化は、CEOとセールスリーダーが問題を正確に診断し修正することを可能にし解決策自体が持続可能であることを保証する。
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M&A成功の分かれ道──創業者の“顔の見えるネットワーク”が出口戦略を早める
Crunchbase News「The Relationship Accelerator: How Visibility Shortens M&A Timelines」の一部を日本語で紹介したものです。全内容はリンク先をご覧ください。
スタートアップのM&Aは、数字やプロダクトだけで決まるわけではありません。Crunchbase Newsの記事によれば、創業者自身のネットワークと業界での存在感が、買収プロセスを大きく左右するといいます。
◾️同じ条件でも結果は大きく違う
- 似たような規模・収益の2社があった。
- 業界で顔が知られているCEOの会社は、わずか数週間で複数の買収オファーを獲得。
- 一方、知名度の低いCEOは買い手探しに苦戦。
- 違いを生んだのは「人脈」と「信頼性」だった。
◾️“知られている”ことが交渉を加速する
- イベントやカンファレンスで発信しているCEOは、買収側にとって「すでに知っている人物」。
- 初期のコンタクトがスムーズで、社内承認も得やすい。
- 人物への安心感が、交渉スピードを早める要因になる。
◾️信頼は短期ではなく「長期」で積み上げるもの
- 買収企業はプロダクトや数字だけでなく、リーダーシップやカルチャーフィットを重視。
- 業界で長年信頼を築いてきたCEOは、検討の初期段階から優先的に扱われる。
- VCや幹部との関係構築は、将来の選択肢を広げる投資になる。
◾️ネットワーク構築は“副業”ではなく“本業”
- プロダクト開発に集中する創業者は多いが、ネットワーク形成は経営者の必須業務。
- 発信や登壇を日常的に行う必要はないが、意識的に信頼を築く努力は欠かせない。
- 苦手なら、業界で認知度の高いオペレーターをチームに迎えるのも有効。
◾️日本の起業家への示唆
- 「何を作るか」だけでなく「誰が語るか」が企業価値を左右する。
- IPOやM&Aを視野に入れるなら、早い段階から業界でのプレゼンスを築くべき。
- ネットワークは短期的な成果ではなく、長期的な戦略資産になる。
■ 資金調達ニュース
[海外]
エンタープライズ
- Brevo - 顧客エンゲージメントプラットフォームを提供するフランスのCRMユニコーン。€500M(約$583M)を調達。投資家はGeneral Atlantic、Oakley Capital、Bridgepointなど(TechCrunch)
- Eon - AWS災害復旧チームの元メンバーが創業した、クラウドバックアップデータをAIトレーニングや分析に活用可能なデータレイクに変換するプラットフォーム。シリーズDで$300Mを調達。評価額は$4B。投資家はElad Gil、Sequoia Capital、Lightspeedなど(SiliconANGLE)
- Gradium - 超低レイテンシーかつ多言語対応の音声合成AI技術を開発するフランスのスタートアップ。シードラウンドで$70Mを調達。投資家はFirstMark Capital、Eurazeo、Eric Schmidtなど(TechCrunch)
- Yoodli - 営業、リーダーシップ、面接対策などのシナリオで即座にパーソナライズ可能なAIロールプレイを活用したコミュニケーション練習プラットフォーム。シリーズBで$40Mを調達。投資家はWestbridge Capital、Madrona、Neotribeなど(GeekWire)
- Gradial - エンタープライズマーケティング業務を自動化するAIエージェントプラットフォーム。シリーズBで$35Mを調達。評価額は$350M。投資家はVMG Partners、Madrona、Pruven Capitalなど(GeekWire)
- Simular - マウス操作やクリックを自動化し、人間の作業を再現する、macOSとWindows向けAIエージェント。シリーズAで$21.5Mを調達。投資家はFelicis、NVentures、South Park Commonsなど(TechCrunch)
- Raindrop - AIエージェントの本番環境での障害を検出する監視プラットフォーム。シードラウンドで$15Mを調達。投資家はLightspeed Venture Partners、Figma Ventures、Vercel Venturesなど(Yahoo Finance)
- Supper - SaaSツールとデータウェアハウスに直接統合し、データをクレンジング・正規化して人間が読める形式に変換するエージェンティックデータプラットフォーム。シードで$11Mを調達。投資家はUnion Square Ventures、BoxGroup、Inspired Capitalなど(Yahoo Finance)
サイバーセキュリティ
- Zafran Security - サイバーセキュリティへの脅威への露出管理を行うAIネイティブプラットフォームを提供。シリーズCで$60Mを調達。投資家はMenlo Ventures、Sequoia Capital、Cyberstartsなど(SecurityWeek)
- 7AI - AIエージェントでセキュリティ業務を自動化するサイバーセキュリティプラットフォーム。サイバーセキュリティ史上最大のシリーズAで$130Mを調達。評価額は約$700M。投資家はIndex Ventures、Blackstone、Greylockなど(SecurityWeek)
- Multifactor - エージェンティックAI時代に対応したポスト量子セキュリティプラットフォーム。シードラウンドで$15Mを調達。投資家はNexus Venture Partners、Y Combinator、Taurus Venturesなど(Yahoo! Finance)
- Lumia - ネットワークレベルで展開し、従業員とAIエージェントのAI利用を監視・制御するなど、AI利用を可視化・管理するセキュリティガバナンスプラットフォーム。シードラウンドで$18Mを調達。投資家はTeam8、New Eraなど(SiliconANGLE)
フィンテック
- Sokin - 70以上の通貨での送金・両替と26通貨での残高保有が可能とする国際決済と多通貨口座プラットフォーム。。年間売上高が前年比100%増加。シリーズBで$50Mを調達。評価額は$300M。投資家はPrysm Capital、Watershed Ventures、Morgan Stanley Expansion Capitalなど(Business Wire)
- Nevis - ウェルスマネジメント業界向けAIプラットフォーム。ファイナンシャルアドバイザーの管理業務を自動化し、顧客面談準備から口座開設まで対応。シリーズAで$35Mを調達。投資家はSequoia Capital、ICONIQ、Ribbit Capitalなど(Business Wire)
- Fin - ステーブルコイン基盤の高額グローバル決済プラットフォーム。企業と個人が即座に数百万ドルを移動可能にし、銀行口座、国境を越えた送金、Finユーザー間での決済を実現。Series Aで$17Mを調達。投資家はPantera Capital、Sequoia Capital、Samsung Nextなど(FinSMEs)
バーティカル
- PermitFlow - 建設業界の申請準備から承認追跡まで自動化するAI許認可プラットフォーム。Lennar、Amazon、IKEAなど大手建設会社が採用。シリーズBで$54Mを調達。投資家はAccel、Kleiner Perkins、Felicisなど(Business Wire)
- Duvo - 小売業務向けに、SAP、ポータル、メール、スプレッドシートを横断して作業を自動化するAIネイティブプラットフォーム。シードラウンドで$15Mを調達。投資家はIndex Ventures、Credo Ventures、Northzoneなど(SiliconANGLE)
フィジカルAI
- Tutor Intelligence - MITのCSAILから生まれた倉庫向けAIロボットワーカー企業。リアルワールドの視覚モーターデータから学習し、Fortune 50のサプライチェーンで稼働。シリーズAで$34Mを調達。投資家はUnion Square Ventures、Fundomo、Neoなど(SiliconANGLE)
- Lemurian Labs - あらゆるハードウェアで動作するAI開発プラットフォーム。シリーズAで$28M(転換社債含む)を調達。投資家はPebblebed Ventures、Hexagon、Oval Park Capitalなど(SiliconANGLE)
リーガルテック
- Harvey - 法律業界向けAIプラットフォーム。契約レビュー、文書分析、リサーチを自動化し、AmLaw 100の50%以上が採用。$160Mを調達。評価額は$8B。投資家はa16z、T. Rowe Price、WndrCoなど(TechCrunch)
ソフトウェア開発支援
- Antithesis - 数時間で数年分の本番環境をシミュレートし、分散システムの問題を発見する、決定論的シミュレーションテストプラットフォーム。シリーズAで$105Mを調達。投資家はJane Street、Amplify Venture Partners、Spark Capitalなど(PR Newswire)
ヘルスケア
- Angle Health - 中小企業向けにカスタマイズされた福利厚生とパーソナライズされたヘルスケア体験を提供するAIヘルスケアベネフィットプラットフォーム。シリーズBで$134Mを調達。投資家はPortage、Blumberg Capital、Mighty Capitalなど(Fortune)
その他
- Black Forest Labs - Latent Diffusionのパイオニアが設立し、Adobe、Canva、Metaなどに採用される高品質な画像生成技術を提供する、ドイツのAI画像生成モデルスタートアップ。シリーズBで$300Mを調達。評価額は$3.25B。投資家はAMP、Salesforce Ventures、a16zなど(TechCrunch)
- Pine AI - 一般消費者の電話、メール、ソフトウェア操作を自動化し、請求交渉、返金、サブスク解約などのデジタル雑務を代行するAIエージェント。平均93%の成功率で$3M以上の節約を実現。シリーズAで$25Mを調達。投資家はFortwest Capitalなど(Business Wire)
[国内]
- Mujin - 産業用ロボット向けの世界初のAIネイティブOS「MujinOS」を開発。フィジカルAI技術により、ティーチング無しでロボットの自律的な認識・判断・行動を実現。シリーズDラウンドのファーストクローズで364億円を調達。投資家はNTTグループ、カタール投資庁、三菱HCキャピタルリアルティなど(Impress Watch)
- カナリー - 不動産業界向けVertical SaaSとマーケットプレイス「カナリー(CANARY)」「カナリークラウド(CANARY Cloud)」を提供。シリーズCで約40億円(株式による約30億円+融資等による約10億円)を調達。投資家はAngel Bridge、WiL、みずほキャピタルなど(PR Times)
- エナーバンク - 電力調達DXと脱炭素化を支援するエネルギープラットフォーム「エネオク」「エネパーク」を提供。シリーズB累計で8.2億円を調達。投資家はSMBCベンチャーキャピタル、みずほキャピタル、三菱UFJキャピタルなど(PR Times)
- Melon - マインドフルネスを活用した組織のエンゲージメントとウェルビーイング向上支援サービスを提供。シリーズAで累計約4.5億円を調達。投資家は東京ウェルネスインパクトファンド、SMBCベンチャーキャピタル、アイテック阪急阪神など(PR Times)
- Nehan - 生成AIで全国の自治体・官公庁の入札情報を収集・精査し、案件発見から提案書作成まで一貫支援する公共営業特化のAIデータプラットフォーム「Labid」を提供。シードラウンドで総額約1億6,000万円を調達。投資家はDNX Ventures、mint、ユナイテッドなど(PR Times)
- Helios - 衛星(光学、SAR、ハイパースペクトルなど)、ドローン、GIS、気象情報といった多種多様なデータを統合するリモートセンシングデータ解析プラットフォームを開発。シードラウンドで総額5,000万円を調達。投資家はインキュベイトファンド(PR Times)
- Doup Robotics - 製造・物流現場向けの次世代自律搬送ロボット(AMR)と制御ソフトウェアを開発。シードラウンドで資金調達を実施。投資家はIDATEN Venturesなど(PR Times)



