成長し続ける会社は、現場が強い。当たり前のことですが、その強さは一朝一夕では得られません。そこで、具体的な施策や工夫、改善を続けてきた人たちにスポットライトを当てるように、ALL STAR SAAS FUNDはもっと「チームメンバー」の取り組みにも目を向け、現場を強くするための学びを探るべきだと考えました。
それらの取り組みが積み重なってパワーとなり、会社をたくましくドライブさせる推進力になっている。そんなパワーの源となる「立役者」にお話を聞き、スタートアップ全体のための応援歌のような記事つくりたい──!
その想いから始まったのが、本連載の『ALL STAR TALENTシリーズ』です。第1回は、ノンデスクワーカー向けの現場業務効率化を実現するサービス「カミナシ」を運営する、カミナシの河内佑介さんにお話を聞きます。
2020年4月に入社され、事業づくりから採用に至るまで、その成長にコミットし続け、現在ではCOOを務めています。入社後の歩みを振り返りながら、今回は特に採用やジェネラリストとしての仕事について伺いました。聞き手は、ALL STAR SAAS FUNDの楠田司です。
人事からエンジニアまで、プロダクトとビジネスを経験
楠田:最初に、これまでのキャリアや入社背景から教えていただけますか。
河内:大学新卒でインテリジェンスに入社して、2年ほど自社の人事を務めました。その後はテック領域のグループ会社へ異動してSIのセールスやSaaSの立ち上げでBizDevを2年間。SalesforceをインテグレーションしてSIで提案するようなことをしていました。
この2年間で自社サービスだけでなく、お客さまの新規サービス立ち上げにも携わるようになり、自分自身でもサービスを作りたい気持ちが強くなりました。そこで、エンジニア組織に異動させてもらって簡単な技術を学び、「HRテックのBtoB SaaSプロダクトマネジャー」という形で、また2年ぐらいゼロイチの立ち上げをやってました。
楠田:そのゼロイチの立ち上げでは、どのようなことを?
河内:ワイヤーフレームやテストケースを書いたり、仕様を定めたり……いわゆる「ものづくり」をガッツリですね。それから、そのプロダクトも含めた3つのSaaSプロダクトの責任者として、当時50人ぐらいの組織をマネジメントしつつ、全体のプロダクト管掌役を務めていました。
セールス、マーケティング、カスタマーサクセスは、マネジャーが不在だったので、自分がそれらを兼務していたんです。ここでSaaSのビジネスサイドを幅広く経験できました。
直近までは、カヤックの新規事業を担っている子会社のスタートアップ企業でウェブサービスの立ち上げのプロダクトマネジャーや開発組織の責任者を担当しました。ここでは、再度ものづくりを中心に経験してます。そして、2020年4月にカミナシへ。まずは副業で関わりながら、7月に正式入社しました。
楠田:ここまでのキャリアをまとめてみると、プロダクトが半分、ビジネスサイドが半分で、SaaSに関わられて約7年といった感じですね。役職も相当に横断されて。
河内:そうなんです。「自分は何屋なんだろう」と結構悩んでましたけどね(笑)。そういう点では、いわゆるジェネラリストタイプだとは思います。
楠田:「好きな業務は?」と問われたら選べますか。
河内:うーん……特定のスキルが求められる仕事よりは、プロダクトマネジャーや事業責任者といった、いろんな領域のプロフェッショナルと一緒に組んで、その中で全体最適を取ったり、意思決定したりするロールが、楽しかったし向いているのかも、とは感じています。
カミナシのフェーズ0:すべての前提となる土台作り
楠田:カミナシにジョインされた頃は、従業員数では何人くらいの規模でしたか。
河内:自分が9人目の社員です。今は内定者も加えると24名ですから、9ヶ月で約3倍か……自分で言っておきながら、なかなかすごいですね(笑)。
楠田:すごいです!入社後にはどんなところから着手されていったんですか。
河内:このあたりは僕のnoteでも書いているので重複もあるかもしれませんが、ざっくりと4つのフェーズに分割できるかなと思います。土台となる“フェーズ0”から、3段階というイメージです。
“フェーズ0”は副業期の4月〜6月で、すべての前提となる土台作りですね。CRMに使っていたHubSpotの混沌としたデータを整えたり、重複している会社情報をマージしたり……あぁ、GoogleアナリティクスのカスタムやFacebook広告のタグの正規化などもしました。
データの基盤づくりを終えたら、HubSpotを用いた業務フローの設計は経験があったので、営業ステージの定義に着手しました。マーケティングなら、リードマネジメントを定義して仕組みを作り、ある程度の形になってきたら、自動化などのニーズに応えていく。APIから自動でデータを取得し、予実集計できるようにスクリプトも自分で書きました。
当時は、データを可視化する文化が全くなかったんですね。だから、エンジニアと協力しつつ、SQLを実際に自分でも書いて基盤を作っていきました。
楠田:それらの整備はCEOの諸岡(裕人)さんとディスカッションしながら?
河内:いや、諸岡さんからは「任せる」と。社員数も少ないですし、ほぼ一人で手を付けていくような日々でした。
楠田:一人で手掛けるとなると、どのように優先順位を決めていったのでしょう。
河内:特にはないんですよね……ゼロイチのフェーズって、この後で施策を回せる前提を作るわけですから、正直言うと、全部が優先度最高みたいなことだったのかもしれないです。
カミナシのフェーズ1:問答無用で「全部やる」
楠田:そして、正式入社の7月から“フェーズ1”に入っていったと。
河内:プロダクトを正式ローンチしたのが6月末で、それと共に正社員になりました。“フェーズ1”は入社した7月から12月くらいまでにかけての段階です。
まずは、マーケ施策。それまでのカミナシは、マーケ施策にお金をかけていなくて。「そもそもオンラインマーケで、ノンデスクワーカー向けサービスのリードなんて取れるのか?」と半信半疑でした(笑)。
そこで、僕が全体像を描いて動かす役割としてマーケをメインでやりつつ、他にセールスに1人、カスタマーサクセス兼サポート兼総務が2人いる体制をつくりました。でも、とにかくいろんなところに課題があったんです。まずは全体的に「やってみないとわからないこと」がすごく多い状態でした。
それをわかるためには、まずはサンプルが必要です。セールスでもリードがなければプロセスの検証ができないし、カスタマーサクセスならお客さんが増えないと施策は改善できません。そういう意味でも、まずはマーケから施策を検証して、それからセールスやカスタマーサクセスのプロセスの検証と改善に移っていきました。
楠田:インテリジェンスでの経験が生きた格好ですね。ただ、BtoBマーケで、しかもカミナシさんの領域には成功事例も少ない中で、どのように順位付けて試されたんですか?
河内:社内にドキュメントシステムがあるのですが、トラクションチャネルの検証ページをまずは作ります。そこへ、社内の人とディスカッションをしながら、考えられるターゲット企業のリードにタッチポイントを取れる施策を、実現度合いや予算も一旦は無視して、全部洗い出したんですよ。
その中で、リードが効率的に取れそうかどうか、施策を回すのにどれくらいの工数が必要かという二軸をもとに、優先度を決めていきました。そして、考えられる中でも最小限の単位で優先度順に試していく。
そもそも、試す前の「これって有効なんですか?意味あるんですか?」みたいな議論って、本当に意味がない。やってみないとわからないのだから、その議論をするくらいなら、とにかく手を動かして「全部やる」です(笑)。
楠田:「考えるよりも、まずはやってみる」が大事だと。
河内:大事です。「方法は?意味は?目的は?」と人によっては言われることもありますが、僕としてはそれらは初期フェーズでは全く意味がなくて。やってみたほうが絶対に早いし、学べるものもあると思うから、問答無用で上から「全部やる」。
楠田:泥臭いですね!
河内:めちゃくちゃ泥臭いですよ。解像度を上げるために、自分もセールスのひとりとして数値を作ったり、カスタマーサクセスでオンボーディングもやってました。
あとは、“フェーズ1”には「体制の構築」も含まれています。複数の施策を打つにしても、マーケターが自分だけでは足りませんから、業務委託で担当者を置きました。
過去にインサイドセールスの立ち上げは経験していましたが、カミナシのターゲットユーザーに同じプロセスが通用するのかが見えなかったので、それをまず検証するために、知り合いでフリーランスの方に手伝ってもらう形で、3カ月ほどお願いしました。そこで期待していた成果が出たので、実際にインサイドセールスを正社員で採用することに決めたんです。
他にも、3カ月ほどで10人以上の副業の方に関わってもらいながら、正社員採用も続けていきました。その結果、12月までにセールスとインサイドセールスに2人、カスタマーサクセスで1人、広報を1人採用できました。
楠田:副業人材の活かし方について、意識されているポイントは?
河内:副業は大きく2つの目的で運用しています。ひとつは、プロパーでの正社員採用へのリスク検証。もうひとつは、正直言うと、その副業人材を採用するチャンスです(笑)。
やっぱり良い人を口説きたい。カミナシはオープンなカルチャーや優秀なチームメンバーに自信がありますから、下手に採用フローで口説くよりも、実際に入ってもらったほうが勝算あるなと。
外部パートナーと組むときの2つのマインド
楠田:外部パートナー活用について、実務レベルで気をつけているポイントなども教えていただけますか。
河内:マインドとしては2つありますね。
まずは、お願いしたいことだけを伝えるのではなく、目的や意図も含めてしっかり伝えること。それから、成果や感謝を欠かさずフィードバックすること。基本的なことではあるのですが、とても意識してきたと振り返ってみても思います。
楠田:たしかに、僕たちVCに対しても、対応がいつもすごく丁寧だなぁ、と感じます。私たちがご紹介した人材に対してのご回答とかも。
河内:たぶん気持ち悪がられてるんじゃないかな、というくらいに長文のフィードバックを書いてますよね……(笑)。
楠田:とんでもないです、ありがたいです(笑)。
河内:最初のキャリアが人事だったから、社内の人に候補者の口説きをお願いしたり、セミナーへの登壇をお願いしたりと、人へお願いするシーンが多かったんですよね。そうなると「実施する意味と背景」や「依頼したい内容」などをしっかり伝えないと、他人はなかなか動いてくれないという実感があって、それが習慣として染み付いているのでしょう。
カミナシでも「感謝を伝える」という点では、副業人材や今後入社される方に向けて、2カ月に1回の「事業進捗報告会」を開催しています。現状のカミナシの事業進捗をアップデート・共有して、その副業の方のパフォーマンスによって何が起きているかを伝えて感謝する機会ですね。でも、そういう基本的なことばかりですよ。特別なことをやっているように見えるかもしれませんが、自分たちは基本的なことだという認識です。
楠田:noteで『副業入社者向けガイドライン』も公開されていましたが、副業人材を大事にされているのが伝わってきました。
河内:そうですね。ガイドラインをつくったのも、副業社員が増える中で、どうしたらその人たちがパフォーマンスを出してくれるのか、そして僕らも採用につなげられるかを考えた結果です。Googleでもいろいろと検索してみたんですよ。でも、全然出てこなくて!
きっと他の会社でも取り組んでいるんでしょうけど、公開されていないなら、自ら作ってしまおうと考えて、やりました。そのほうが、カミナシのカルチャーや大切なことは、なお伝わるかなと。
楠田:それでいうと、初期のスタートアップが優先して採用すべきポジションはありますか?
河内:事業がある程度うまくいっている前提では、経営陣は中長期的にレバレッジが効くようなことを、意識的にどんどんやっていったほうがいいと思います。
現場では目の前の売上など短期の視点でものごとが進みやすいなかで、どうやってそれを中長期に物差しを戻せるか。そういう意味では、たとえば「広報」をカミナシでは10人目の社員で迎えましたけど、メディアとのリレーションや自社発信って、経営者は後回しにしがちなものです。
カミナシでは、シリーズAの資金調達をするだいぶ前から、発信文化を作ったり、様々なメッセージを出したりしたことが、現在の採用やイメージ作りに効いてきています。あえて広報を早めに採用する決断ができたのは、非常に良い意思決定だったと思います。
カミナシのフェーズ2&3:カルチャーを重視するマネジメント
楠田:そして、“フェーズ2”に移られたのでしょうか。
河内:“フェーズ2”は、12月くらいから始まった資金調達のための動きです。やはり、その前後は事業計画を立てたり、投資家の方々へ説明したりといった仕事であふれます。手を動かす部分は抑え気味にして、企画系の業務や数値の計画をメインにしました。
資金調達が内定して、年明けからは“フェーズ3”ですね。そのタイミングで組織がまた大きくなり、「3人単位のチーム」ができはじめてきたので、マネジメントを考えるようになりました。僕の感覚だと、「1チーム2人まで」だとコミュニケーション不全は起きにくいのですが、3人になってくると、コミュニケーションを円滑化するようなロールが必要になる。
そこで、“フェーズ3”では全ビジネスチームのメンバーと1on1を始めて、いわゆるマネジメントらしい動きを取り入れはじめました。全メンバーは、その頃で18名ほどです。
楠田:組織の成果を最大化するために意識していることはありますか?
河内:経営陣も含めてカルチャーへの投資を重視しています。最近はよく「カミナシっていいカルチャーしてるよね」とか、「みんな楽しそうに働いてるよね」とか言われるんですが、注力しているところだけに嬉しいですね。
たとえば、オフサイトミーティングで、自分たちのバリューを丸二日かけて考えてみたり。コロナ禍ではオンラインで、丸一日かけてバリューの正しさをいま一度考えたり、「これからの自分たちがどうありたいか」を話し合ってみたり。そのあたりは時間をかけています。
楠田:僕もSaaS企業に人材を紹介する立場として、カミナシのカルチャーに好感を持つ求職者さんが増えている印象です。カミナシの社員は、統一感がありますよね。
河内:本当ですか! どんな統一感ですか?
楠田:「優しさ」や「人を大事にする」という雰囲気は、とても感じます。
河内:統一感の理由は、採用基準にあるかもしれませんね。CEOの諸岡自身もそうなのですが、特に“Why カミナシ?”という問いかけは重視しています。「なぜ、カミナシで仕事をするのか?」ですね。
つまり、求職者の「将来やりたいこと」を聞いたうえで、その人のWillと、カミナシを選んでもらう理由と、お願いするポジションや仕事内容がフィットしていることを、かなり重視しています。
それらを踏まえて、バリューを体現できる人が入社してくれて、なおかつ自分らしさを発揮したり、のびのび仕事に向かえたりする環境を提供できているのが、要因かなと思います。
楠田:「個人のビジョン」と「会社のビジョン」の一致を、まず丁寧に判断してから加わってもらうと。
河内:そうですね。だから、求職者ご本人に対しても、「スキル面では申し分ないけれども、自分たちの今のフェーズだと内容はこういうものしか提供できない」と素直に伝えて、それでも合うかどうかを考えてみてもらったり。
僕自身はスキル面のヒアリングをして、CEOの諸岡がキャリア面を中心に聞くといったように、それぞれでフィルタリングの棲み分けは意識しています。ビジョンを含めて少しでもズレがあると「思っていたのと違うなぁ」ってなってしまいますよね。そう感じながら働いてる人がいる組織って、どうしても熱量が下がってしまいますから。
ただ、“Why カミナシ?”にも注意点があって、下手すると「カミナシが好きな人ばかりを採用するリスク」もあるかなと思っています。自己応募してくれた人は、ある程度はカミナシを知っていて好感も抱いているものですが、スカウトサービスを通じて面談する人は、まだ温まっていないだけのこともある。
現時点の興味度合いや、“Why カミナシ?”への合致度合いだけで判断しないようにしなければとは、自分の頭の中にも置いていますね。
「ジェネラリスト」という専門性もある
楠田:あらゆる職種を横断されている河内さんを見ていると、優れたジェネラリストだと感じますし、ご自身でもそれを認識されているのが良いところだと思いました。
河内:それ、昔はちょっとコンプレックスでしたけどね。「器用貧乏」なんて、よく言うじゃないですか。インテリジェンスでエンジニア組織に異動したのも、自分に専門性をつけたかった背景があるんです。でも、いざやってみると、「自分は特定領域で一番になることはできない人間だ」と気づいて。逆に、何かを深堀りできる人を尊敬するようになりました。
でも、特定領域の一番を諦めたときに、「いろんなことをできることも専門性だ」と思えるようになったんです。プロダクトマネジャーや事業責任者といったロールを担う中で、いろんなことをわかるからこそ担える役割や見える景色があると知ったからです。「そうか、自分にとってはジェネラリストとは専門性なのだ」と腹落ちしたんですよ。
僕は新卒のとき、ビジネスをやりたくてインテリジェンスという会社を選んだのに、配属が人事になって、実はふてくされていた(笑)。でも、後にマネジメントとして採用や組織に関わると、その人事経験がすごく生きるわけですよ。ジェネラリストである役割を担うと、これまでに経験した点が線になる瞬間がくるというか。
専門領域で強い人にはその領域で全然叶うわけもないと思っているので、いまの僕の役割は全体を俯瞰して、そのとき組織にとって最も重要なバケツの穴をふさぐこと。形になったら、そこに最高の人材を採用して、その人が気持ちよくパフォーマンスできる環境を作る。
他にも必要なことがたくさん出てきているはずなので、次はその穴を埋めていく。穴が埋まったら、またそこに最高の人材を採用して、パフォーマンスを発揮してもらう。それを繰り返していくだけです。
楠田:ジェネラリストという意味ではCOOは向いているポジションの一つではないかと思います。COOに付かれた経緯は?
河内:本音は「言われたから」が結論です(笑)。
僕は全くそのキャリアは思い描いてもいなかったですし、直近5年はプロダクトやビジョンを作る仕事をしてきたわけですから。いざCEOの諸岡さんから「佑介はCOOに向いてると思うんだけど、どう?」って言われて。
そこで、よくよく考えたら、今は枠にハマらないようなことばかりやっているし、人がやりたがらない「ボールを拾う」役割も引き受けているな、と。時にCOOは「その他全般を担う人」という意味で“Chief Other Officer”なんて呼ばれることもありますよね。
あぁ、ジェネラリストな自分にはぴったりかもしれないと思って、すっきりしました。
▶︎ ポッドキャストでは、カミナシ流の「採用」にフォーカスをあてて、カミナシ 河内さんに聞きました!