スタートアップの成長を促すためにも「採用」は切っても切り離せません。さまざまな手法がとられるなかで、エージェント採用を検討したり、実施したりする企業も多いもの。しかし、人事の現場からは、こんなぼやきが聞こえてくることも……。
「エージェントから紹介が来ない」
「紹介はあるが、優先されていない感じがする」
「施策はやり切ってしまって、もう打てる手がない」
そこで、元エージェントとして活動し、現在はスタートアップ企業向けの採用に携わる2名に、自らの経験を踏まえた「エージェント採用でやるべきこと」を語ってもらいました。
ポテンシャライトCEOの山根一城さんは、新卒でネオキャリアに入社。人材紹介の営業とキャリアカウンセラーを兼務し、マネージャーとして従事した後、2011年にはIT/Web業界に特化した人材紹介会社の立ち上げに参画。さらにベンチャー/スタートアップ企業に寄り添った採用支援を実現すべく、ポテンシャライトを2017年4月に創業。現在は、ベンチャー企業に特化した活動で、創業4年にして180社超の採用支援に携わってきました。
そして、ALL STAR SAAS FUNDでTalent Partnerを務める楠田司は、2015年よりJAC RecruitmentにてIPO前後のWEBスタートアップ特化の人材紹介チーム立ち上げに参画。VCキャピタリスト、エンジェル投資家と連携し、CXO、BizDev、セールス系ミドルアッパー層の転職をサポートしてきました。2019年9月からは現職に就き、投資先企業の人材紹介や採用広報支援などを担当しています。
2名がたっぷりと本音で語ったウェビナーをもとに、(言葉をすこしやわらかくして)記事にしました。エージェント採用でお悩みの方は、ここで明かされた「大前提」や「アクション」から、自分たちの活動を点検してみることで、光明が見いだせるかもしれません。
ロードマップで、フェーズごとに取り組みを分けてみる
山根:ポテンシャライトがスタートアップ向けに採用代行をすると、よく聞くのが「エージェントさんから人材を紹介してもらえない」という悩みです。そのときに私は「そもそも希望職種はエージェントに依頼すべきポジションですか?」と質問しています。
エージェント内にも有効求人倍率はあるものです。つまり、適切な職種に対して、適切な媒体やエージェントを選ばなければなりません。
たとえば、エンジニアと言っても、いろんな方がいます。プロジェクトマネジャーやインフラエンジニア、AIエンジニアならばエージェントからの紹介はあり得るけれど、実装など手を動かす役割の“エンジニア”であれば難しいかもしれません。
下記はポテンシャライトにおける「エージェントマネージメント」の流れで、フェーズで取り組むべき内容が異なることを示しています。マネジメントという言葉は、少しおこがましいかもしれませんが、要は「エージェントといかにコミュニケーションを取るべきか」をまとめた図だとお考えください。まずは、このフェーズごとのポイントを見ていきます。
フェーズ4までは、ある意味では「当たり前」と思われるかもしれませんが、意外と見落としのある部分です。フェーズ1、フェーズ2は、採用したいポジションに強みを持つエージェントに求人を依頼できているかどうかが非常に大事です。業界別、職種別、企業のフェーズ別に、必ず認識したいところです。
IT、ウェブ、SaaSセールス、CS、管理部門、スタートアップ、第二新卒、営業、エグゼクティブ、コンサル、クリエイティブ、ゼネラル……得意分野はエージェントさんによって全く違うものです。
先ほど例に挙げたエンジニア採用でも、ある超大手のエージェントであっても、エンジニアの営業はそれほど得意でないこともあります。あるいは、小規模でもSaaSの営業に非常に強いところもある。分類が細かく違うと、まずは認識しておきましょう。
そんな求人票で大丈夫か?
山根:フェーズ3には「求人内容の整理」が来ます。僕もスタートアップの採用支援をしていると、職務内容が2行だったり、必須要件が1つしかなかったりする求人票を見ることがあります……いえ、別に悪いことではないのですが、ありがちな例なんです。
ちなみに、こちらはfreeeさんの求人内容の抜粋です。僕が知る限り、日本の会社でトップ5に入るくらいに、freeeさんの求人票は素晴らしいと思っています。エンジニア以外の採用においても参考になりますから、ぜひ自社と比べてみてください。
フェーズ4の「身の丈に合った要件設計」は、とても大事です。言い換えると、採用ハードルを満たす候補者が、御社に惹かれるだけの魅力を準備できておりますでしょうか、という問いです。
人事の方であれば、ご理解いただけると思うんですけれども、現場から出てくる募集要件が案外にハードルが高く、またそれを満たすだけの魅力に乏しく、結果的に採用できないケースも多いはずです。
スピード、スピード、スピード!
山根:フェーズ5では選考や連絡のスピードアップに取り組むことを挙げています。以前に「どうしたらエージェントからの応募を増やせますか」と、エージェントへアンケートを取ったことがあります。第1位は「スピードを速くする」でした。僕もエージェントでしたから、この答えには納得するところもあります。
では、なぜスピードが求められるのか。どの程度のスピードが重要なのか。僕が前職や現職でアンケートを取った結果をもとに、書類選考を例にすると以下のようになります。
書類選考「0日」以内、つまり応募の当日に結果を出しているのが3社に1社くらいです。翌日で半数、3日以内で8割でした。もし、御社が書類選考をした日を起点に72時間後に結果を出しているならば、10社中8位というわけです。その頃には他の会社は書類選考を終えていて、面接調整が入ってしまっているタイミングかもしれませんね。
エージェントからすると「書類選考に1週間もかけている会社であれば問題外と言っていいほどに厳しい」というのが本音です。スピードに関してのオペレーションを改善するだけでも応募数が増える理由にはなり得るのです。
楠田:書類選考の返答は、遅くとも1日以内が現実的ですか。
山根:そうですね。まず3日以内は絶対といえそうです。以前に、僕が採用支援に加わり、スピードの重要さを力説したある企業では、「24時間以内に結果を提示しない現場担当がいた場合は、基本的に書類選考通過させる」というルールを作った会社があって。
楠田:すごいですね。見る側も必死になれそうです。
山根:フェーズ6には「会社」の魅力化を置いています。会社の魅力について、ポテンシャライトは魅力の中身を8つに分け、それぞれの頭文字を取って「5PCGM」で分析します。philosophy、product、profession、person、privilege、そしてculture、growth、market。この8分類の伝え方次第で、エージェントからの紹介数も変わってくると捉えています。
また、5PCGMのそれぞれを5段階評価してみると、「魅力の度合い」をグラフに表せます。こういったことは主体的に取り組んでいただくと、会社の強みや魅力が見える化できますから、取り組んでみるといいでしょう。
フェーズ7の「求人」の魅力化では、求人票作成に必要な「PIMQ」を見直しましょう。persona、insight、messaging、questionです。求人票では必ずターゲットやペルソナを設定すると思いますが、彼らのインサイトに刺さるような魅力を設計しなければ、採用の心は傾きません。
インサイトの上での魅力の設計は、一求人ずつ取り掛かるとパワーを使うものですが、スカウト返信率が大きく高まったりもします。ポテンシャライトとしても、“2021年の目玉ノウハウ”に挙げているくらいのポイントですから、ぜひ参考にしてみてください。
最後はエージェントにファンになってもらおう
山根:フェーズ8まで来ました。ここには「フィードバックの詳細化」を据えています。面接や書類選考のNG理由をお伝えするといったことを含めた、エージェントへのフィードバックですね。エージェントが求職者へ面接の合格・不合格をお伝えするときの材料になります。
フィードバックの質や濃さを見るだけで、会社の良し悪しもだいたいわかってきます。面接でのNG理由に「スキル不足」としか返答のないところもあるのですが、エージェントとしては「一生懸命つないだのに」と、次に紹介する気持ちが萎えてしまう理由につながりやすいので……。
そして、フェーズ9では「面談/面接の体験設計」の強化をします。当社では“Interview Experience”の頭文字を取って「IX」と呼んでいますが、未だに圧迫感を与える面接を課す会社もあるようです。丁寧に面談や面接をするだけでプラスの効果が発揮されます。
最後のフェーズ10は「感動の域への突入」です。この領域まで来ると、エージェントは採用企業のファンとなり、求職者を紹介したい意欲に駆られてきます。ここまで辿り着きさえすれば、各エージェントの注力企業として設定される可能性は高くなるでしょう。
これはコーポレートブランディングの観点にも近しいのですが、御社のファンになっていただくのであれば、実利的な価値だけでは不十分です。感性的な価値も打ち出さないと、応援したくなるほどの感情移入はできないのだと思います。これで、フェーズ10までのエージェントマネジメントのロードマップが出来上がりました。
とるべき「11の好ましいアクション」
山根:次に、採用企業からエージェントに対しての「アクション」に着目してみましょう。好ましいアクションを“Good Action”、好ましくないアクションを“Bad Action”としてまとめ、それぞれについて見ていきます。
今回は11のGood Actionを揃えてみました。意外と重要で、僕自身も重要視しているのが1つ目で、「メール以外のコミュニケーション手法の確立」です。細かい連絡のやり取りにはFacebook MessengerやSlackを用いるのが好まれます。メールと比較してスピード感があり、特に内定直近のフェーズについては効果が大きいと感じます。
2つ目に挙げた「フィーアップ」は、身も蓋もなくて、諸刃の剣で、採用できない可能性も大いにありますが、パワーを発揮する可能性も。推奨する理由としては、御社の認知度が上がります。期間限定でもフィーアップにより認知を獲得し、その後に通常価格へ戻して紹介数が減るかもしれなくとも、知ってもらうための投資はアリではないかとは考えています。
フィーアップの上げ幅ですが、紹介料率50%くらいではないでしょうか。40%だと、規定料率から5%アップしただけなので、悪くはないのですが、インパクトには欠けますかね。期間は「紹介日を起点として2〜3ヶ月」の想定で良いはずです。
楠田:あとは、採用するポジションにもよりますよね。CTOを取るのか、セールスのVPを取るのかによっても変わりそうです。
山根:そうですね。ポジション次第では、半年から1年かかりますもんね。
楠田:あくまで参考値ですが、僕は前職時代に「依頼を受けてから自社データベースをフィルタリングしてサーチする」まで、どれだけ長くかかっても2週間でした。それも踏まえながら、もしもデータベースにいない人の場合はスカウトが前提になりますから、期間を3ヶ月から半年まで長めに設定するのはも効くと思います。
説明する機会は積極的に
山根:3つ目のGood Actionは「エージェント向けのメルマガ」です。大手のメガベンチャークラスの人事の方は本当に毎週送ってくるケースが多く、すべてを開ききれないほどではありますが、「どこの会社の求人がクローズして、ニーズが上がっていくポジションはどこなのか」を知る意味でも重要な情報源です。
4つ目は「エージェント向けの説明会」。説明会の効能は、同じ情報がちゃんとエージェントさんに行き渡ることが一つ。それから、当日の質疑応答によって情報が更新されることが一つです。懇意にしているエージェントさんに、事前に質問してくれるようにお願いするのも手です。その回答のために資料も用意され、採用力のアップにもつながります。
エージェント向けの説明会の説明会では、自社のことを語るよりは、自社を取り巻く周辺業界の話を盛り込むこと
エージェント向けの説明会の説明会では、自社のことを語るよりは、自社を取り巻く周辺業界の話を盛り込むことです。エージェントの多くは、御社を何かしらにカテゴライズして候補者に紹介します。レガシーテックなのか、マーケティングテックなのか、HRテックなのか。1次受けなのか、1.5次受けなのか、2次受けなのか……。そのため、カテゴライズができなければ、エージェントとしては紹介がしにくい会社ともいえるわけです。
あと、意外と実施されていない施策としては、5つ目の「カウンセラー向けの説明会」。僕は、懇意にお話を聞いてくださる会社様には自分で出向いて、説明会をしっかりと組んでしまいます。各エージェントさんの営業担当を集めての説明会が効果を発揮しにくいときは、自ら行脚してしまったほうがいいですね。
ポジティブな事例として、コロプラさんは僕が前職のときに、3ヶ月に1回は副社長が僕らの会社まで出向いてくださって、クオーターに一度説明してくださる機会がありました。僕としては非常に有意義で、聞いている全員がコロプラさんのファンになったように感じました。ただ、実施の際には、何かしらの理由を設けていく必要があるかな、とは思います。
「書類選考権限の付与」で3倍の効果が出ることも
山根:Good Actionの6番目は「ブラインドレジュメ」ですね。候補者様のレジュメをマスキングして選考し、面接確約をして、求職者の方へご連絡していただく施策です。先に書類選考を済ませるイメージで、通常の応募催促よりも、応募が集まりやすい傾向にあります。
それから、信頼しているエージェントさんには、7つ目の「書類選考権限の付与」も効果的です。エージェントからするとこの権利はとても効率的でして、めぼしい候補者に自分から働きかけやすくなります。2〜3倍の効果を発揮するケースも過去にはありました。もちろん、ミスマッチになってしまわないように注意は必要です。
8つ目に挙げたのは「エージェント向けの採用ピッチ作成」です。2018年頃からSmartHRさんが取り組んでトレンドになった施策ですね。一般的な採用企業が出す資料と比べて、エージェント向けの採用ピッチ資料には「求めるスキル・要件」「募集ポジションのミッション・フロー(仕事内容)」「選考ポイント(評価軸)」といった項目を盛り込みます。
また、採用ピッチ資料のなかでも、さらに会社の魅力に絞った資料として「attract book」を制作するのも、9番目のGood Actionですね。網羅性のある資料より魅力項目を深く、具体的に記載することで、エージェントに活用してもらうことを狙います。
10番目と11番目には「入社決定者からカウンセラー向けのメッセージ/動画」を置きました。エージェント経由で入社した求職者から、キャリアカウンセラーに向けてメッセージを送っていただくのです。「入社して早3ヶ月が経ち、改めてお礼を伝えたいです。あなたはこんなところが素敵でした」といったフィードバックを含めるのも良いですね。
エージェントによっては非常に喜んでくれ、社内に共有してくださった方もいます。本人のモチベーションにも、会社の認知度アップにも貢献するはずです。言葉や動画で思いを伝えていただくのは、僕としては良い施策の一つだと捉えています。
とってはならない「7つの好ましくないアクション」
山根:一方で、採用企業からエージェントに対しての好ましくないアクション、“Bad Action”についても見ていきましょう。
楠田:基本的だけれど抜けがちな、失敗しやすいポイントを7つにまとめてみました。これらを押さえるだけでも、明日からエージェントさんのリレーションがちょっと変わる部分もあると思いますから、ぜひ実践していただければ嬉しいです。
1つ目は、Good Actionにも通じる話ですが「フィーが低い」。エージェントへ依頼するときに渋ってしまう企業は多いもので、「各社統一しているため紹介料率30%でお願いします」と告げることも珍しくないようです。フィーの低さが理由で採用が遅れるケースは案外あるものです。
山根:通常時が35%ですから、言っても5%の差ですけれど、それによって事業の成長が遅れてしまうのであれば、もったいない!
もっとも、大量採用や募集要件の低さ、未経験採用といった市況の変化があったときは、フィーを下げる流れも無くはないんです。リーマンショック時代には25%ということもありました。そのときの感覚が残ってしまっていないかは、注意したいですね。
楠田:ちなみに、希少性の高い人材募集をかける前提だとしたら、山根さんは適正なフィーはどの程度だと考えますか?
山根:基本は35%じゃないでしょうか。ただ、最近は40%を主軸にするエージェントもいらっしゃるんですけど……僕は規定が40%というのは「ちょっと高いな」と感じはします。
楠田:これは会場からの質問なのですが、「実績の出ていないエージェントさんであっても、フィーアップの依頼を受けたとき、素直に受けたほうがいいですか?」
山根:基本的には受けなくていいと考えます。35%なら基本的には戦えると思っていただいて全くもって問題ないかなと。
楠田:最低ラインが35%で、希少性人材を狙うならば多少は増額も検討できる、というところでしょうか。
山根:おっしゃるとおりですね。
「紹介数」でコミットさせるのは逆効果
楠田:2つ目は「不必要なミーティング(コミュニケーション)」です。ついつい、「1ヶ月に1回は60分しっかり会いましょう」みたいにコミュニケーションを取ってしまいがちなのですが、大前提として優秀なコンサルタントの方々は忙しいものです。そこで、時間を奪ってしまうと、会うことだけでなく距離を置かれがちになってしまうかも……。
山根:ミーティングをすることで新しい情報が出てくれば前向きにもなりやすいですけれど、会うことが目的化してしまってはいけませんね。
楠田:僕がエージェント時代に心がけていたのは、自分から「この2点について話しませんか」と持ちかけることでしたね。まずは、これまで推薦した人材についてのフィードバック。それから、さらに推薦できるように用意できる情報の整備や提供のお願いです。そういったPDCAを回すためのコミュニケーションなら、Bad Actionにはならないはずです。
楠田:3つ目は「謎の紹介数コミット」ですが……この名付けをしたのは山根さんだったことは断っておきます(笑)。ただ、内容としては「あるある」なんです。打ち合わせが終わった後なんかに「楠田さん、月末までに何件紹介してくれます?」みたいに話を振られたりして。
依頼された以上は助けたいとは思うのですが、件数のノルマが出てくると、いくらかマッチングの低い人でも提案するケースは出てきます。そうすると、結果的に決まらず、採用の工数だけはかかってしまい、お互いメリットがない……というのは、結構ある気がします。
山根:そうですね。「山根さん、10件はお願いします」とか「深くコミットしてもらえますか」とか、そういった依頼を受けると、あまり座りは良くないというか。月間200名のご紹介だって、やろうと思えばできるかもしれませんが、楠田さんのおっしゃたように、それでは工数が増えるばかりです。
むしろ、人事のみなさんから会社の魅力を打ち出していただき、メリットを感じられれば、こちらとしても必然的に紹介数は増えるものです。そのあたりにコミュニケーションがないままに、数値を含めたコミットだけを求められてもお応えはしにくい、という話ですね。
人事とエージェントでタッグを組もう
楠田:4つ目は「機械的なコミュニケーション」ですか。
山根:まるで機械と話しているみたいだ、と感じることが、しばしばあるんです。候補者を紹介しても、合格か不合格のテンプレートしか送られてこないとか、面接プロセスを明らかにしてくださらないので進行具合がわからなかったり。僕は、人事とエージェントはタッグを組む関係性だと捉えていますから、それが実現できないと感情移入しにくいです……。
楠田:次の5つ目、これはみなさん、気をつけたほうがいいです。「高圧的な態度」。特に優秀な人事の方に多かったりします。僕もエージェント時代によく経験しましたが、対応はすばらしいけれど、目が笑っていないとか……(笑)。
お気持ちはすごくわかるんですけど、態度に出ちゃうんですよね。なので、そこをちょっと意識していただくだけでも、エージェント側の印象は変わってきます。
山根:そのとおりですね。僕が初めてエージェントを担ったとき、ある人事の方から仕入業者みたいに扱われたのは今でも覚えています。「何人出せるんですか」みたいな(笑)。
楠田:6番目も大事ですね。「採用確度の予想値を教えてくれない」。
山根:最終面接まで進んだ候補者がいた場合は、エージェント側からすると、決定の見込み率などを少しでも伺ったうえで、候補者様へ連絡する参考にしたいわけですね。その予想値が、候補者のモチベートであったり、面接対策をしたりする基準にもなるんです。
楠田:最後の7番目は「選考回数が多い」ですが、これも陥りがちですね。最近だと何回くらいが一般的に感じますか?
山根:3回のケースが多いんじゃないでしょうか。
楠田:たしかに4回だと多く感じますね。3回で結論を出すくらいのイメージで進めていただくと理想的です。
クロージングの秘訣はキャリアプランへの伴走にある
楠田:最後に、参加者の方からの質疑応答をお受けしていきます。まずは「スタートアップなど割けるリソースが限られる場合の最適な戦略は何でしょうか。どんな点を意識し、何を優先すべきでしょうか?」と寄せられています。
山根:まずはご紹介いただく会社様が、再ブランディングであるとか、採用の魅力設計ができていないのであれば、それほどリッチコンテンツがないと仮定できます。その状態でエージェントへホームページから問い合わせをするのは、おすすめしませんね。まず経験の浅い若手がアサインされる確率が上がるはずです。良い担当者と巡り合うためにも、まずは紹介ベースで出会うのがいいでしょう。
楠田:素晴らしい回答だと思います。それこそ、採用がうまくいっている会社の人事の方に、「腕の良いエージェントさんを1人だけ教えて!」みたいにお願いするといいかもしれませんね。
山根:いま、スタートアップで採用がうまくいっている会社の共通点には「情報が整備できていること」が挙げられると思います。昨今の採用市場においては、2016年頃から「採用広報」が流行り、2018年には「採用ピッチ資料」が流行りました。今は、いつでもどこでも情報にアクセスできる時代で、明らかに求職者が情報過多になっています。
ですから、採用広報に取り組んでいる会社で、選考に進んだ候補者にもかかわらず、意外と発信している情報を見ていない、魅力が伝わってないというのが、相応に発生し得るタイミングだと思います。スタートアップに限らず、自分たちの発信している内容をいかに整理して、いかにタイミングよく発信できているのか。それが今こそ大事なんだと思います。
楠田:それこそ、以前にALL STAR SAAS BLOGでも紹介した、ポテンシャライトさんの「Entrance Book」の制作事例は参考になりそうですね。
次は「ダイレクトリクルーティングと、併用時に気をつけるべきポイントは?」と来ています。
山根:エージェントに出すべき内容と、ダイレクトリクルーティングに出すべき内容は、多少なりともギャップあるケースが多いはずです。エージェントに出す内容は、自社を取り巻く業界のことなど、言わば俯瞰視して捉えている内容であるべきだと考えます。
楠田:おっしゃるとおりですね。僕からの注意としては、採用したいターゲットに合わせた媒体選定をすること。
たとえば、「フィーや利用料が安い」と魅力を感じてWantedlyを使い始めるのは、それはそれで良い一歩だと思うのですが、いざハイクラス人材を求めるとなると、工数ばかりかかって採用に至らないケースも多いです。ところが、媒体をビズリーチに切り替えたら、あっさり決まってしまった。そういう事例もとても多いです。
それこそポテンシャライトさんなどとタッグを組み、「どの媒体に掲出すべきか」という選定の相談をしてみると良いのではないでしょうか。
楠田:最後に一つ、すごいテーマを。「クロージングでの秘訣があれば教えてください」。
山根:……どうしましょうか。どこまで語ればいいんだろう。
楠田:朝まで語れるんじゃないですか。
山根:たしかに(笑)。クロージングの大前提で重要なのは、人事の方であれば「自分たちの会社が進路として最適である」と誠心誠意で感じられるのであれば、候補者が「入社したい!」と思えるように、感覚的な価値を高める働きかけをすることでしょう。
楠田:僕からも一つあるとすると、前職でエージェントとしてコミットした求人の決定率は90%で、今も決定率100%のところが何社かあります。でも、共通してできていることって、その求職者さんのキャリアに寄り添うこと。
3年後、5年後のキャリアを一緒にデザインして、自社だったらいかに実現できるのかについて、候補者と同じベクトルを向くこと。意外に、そこまでできている会社は圧倒的に少ないんです。そこがちゃんとフィットすれば、クロージング率は上がるかなと。
山根:本当に良いと思ったときこそ「アイ・メッセージ」が効きます。僕がエージェントや採用人事の方によく言うのが、「著作権を自分にしなさい」です。「この会社は何と言っているかは別として、僕はこう思うんだ」「僕はあなたにこんなふうに思っている」「僕はこの会社のことを、こう思っている」といったように、私を主軸にしたメッセージを送る。そんなに情報制御しなくていいと僕は思います。