「ピッチ」とは起業家が自らの事業や将来性を伝え、未来の礎をつくる場です。中でも、投資家を相手取る「インベスターピッチ」は、経験者でなくてはわからないことの多いブラックボックスのように映るはずです。
そもそも、ピッチとは何をする場で、何を伝えればいいのでしょう?その目的や重要性を理解し、投資家がいったい何を注視しているのかを知れば、双方にとってより良い時間をもっと生めるのではないか……。
そのような考えから、VCとして投資を続けるALL STAR SAAS FUNDがピッチで見ているポイント、出資の決め手になったことなどを座談会形式でフラットに話し合ってみました。
主には「シリーズA/PFM前の起業家」を想定していますが、企業内の新規事業担当など、これから何かを始めたい人にとっても、有用な部分があるように感じます。
ポイントをお話しするのは、ALL STAR SAAS FUNDのManaging Partnerである前田ヒロ、そして投資先開拓や投資先支援に就くPartnerの佐伯裕人。聞き手はVenture&Enablement Partnerの神前達哉です。
また、記事文末にはピッチ資料の作成に役立つ「目次構成案」を用意しました。記事と併せて、ぜひお役立てください!
ピッチは誰のために、何のためにあるのか?
神前:ヒロさんは年間で、何社くらいのピッチを聞いているんですか?
前田:ざっくり数えると年間150件ですね。問い合わせや紹介で毎日2〜3社と何かしらの接点を持つ機会があって、実際にお話するのは週に2〜3社くらい。そこから投資検討に進むのは月に1社というペースが、ここ数年続いています。
神前:投資家や起業家にとって、ピッチは資金の観点以外にも、異なる意義を持つ場なのでしょうか?
前田:ピッチって、投資家とのコミュニケーションの材料であることはもちろん、実は起業家のためにもなるんです。自分の考えや戦略、市場、プロダクト、顧客に対する理解をまとめる機会になりますからね。
投資だけでなく、採用面でもメンバーを巻き込むトークに活用できる材料になる。考えがまとまっていれば、効率よく他人へ自分たちのことを伝えられます。「ピッチは投資家相手だけのコミュニケーションツールではない」というのが、まずポイントなのかなと。
神前:ヒロさんは事業紹介を受けることが多い立場として、起業家が持ってくる資料が充実していること、あるいは整っていることは重視されますか?
前田:特には。粗々でもいいんじゃないかとは思います。本当に自分が理解できているところを隅々まで落とし込むことは前提ですけれどね。わからないところを取り繕う必要はないです。見た目もそれほどは……本当に汚いピッチ資料なんて世の中にたくさんあるので(笑)。
もっとも投資家向けのピッチ資料をまとめるにあたって、伝えるべきことはシンプルです。
神前:なるほど。先ほど「ピッチは自分の考えをまとめるツールになる」という話もありましたが、準備した資料も応用が利きそうです。
前田:まずは採用で使えますよね。最近は、会社紹介にピッチ資料を流用するところも増えています。会社、組織、プロダクト、市場についてわかりやすくまとまっていれば、候補者の疑問や不安が払拭されることも多いでしょうから。
神前:シリーズAやPMFより前の起業家にとって「未来についての話」はなかなか難しいようにも思うんです。どれくらいの解像度があれば十分でしょうか。
前田:むしろ、「どういう未来にしていきたいのか」を仮説でもいいから知りたいです。SaaSはレイヤーを積み上げて成長させます。レイヤーと一口に言っても、セグメント、機能、プロダクトと様々。それらを積み上げる順番をはっきりとした解像度で見ることは、おそらく不可能だと思います。正直、やってみないとわからないことがほとんど。
でも、「何となくこの順番でやっていきたい」とか、「何となくこの理由で隣接するセグメントを狙いたい」とかは、言えたほうがいいですね。事業の発展性や事業規模、経営者の野心みたいなものが見えてくる部分ですから、僕も気になります。
神前:つまり、明確な仮説が自分の中にあり、その妥当性を見ている感じですか。
前田:そうですね!
投資家がピッチで注視するポイント
神前:さらにピッチや資料をブラッシュアップしていくために、具体的に盛り込んでおくべき要素、投資家が注視しているポイントは、どういったものが挙がりますか?
前田:特に注視するのは「顧客理解」に関すること。顧客の解像度への高さはプロダクトの質に直結するからです。薄い顧客理解ではPMFの達成なんて不可能だと僕は思っています。
「市場理解」もポイント。マーケットをどのように攻略していくのか、いかなる競合が存在しているのか、どういう順序でシェアを穫りにいくのか……そういった問いに答えるのは、攻めるべき市場の理解が欠かせません。特にシードやシリーズAでは、顧客、市場、チームについてのセクションこそ深堀りすべきでしょう。
「この課題は、この起業家でなければ解決できない」と思わせる要素を投資家は探している
起業家の「イシューへのコミット」も見ています。「ファウンダー・マーケットフィット」とも呼ばれますが、「この課題は、この起業家でなければ解決できない」と思わせる要素を投資家は探しているし、求めてもいます。要は、その事業を担うための適性や情熱があり、他の誰もが「絶対勝てない!」と思えるかどうか。ただ、これはピッチよりも全体的な会話から判断していることが多いです。
そして、僕らはミッションに「起業家とともに、100年続くSaaS企業をつくる」を掲げていますから、長期的にものごとを考えられるか、長期的にやり続けられるか、その覚悟があるか、といった点も重要視しています。
説明だけで終わるピッチは不十分
神前:起業家のステージからして、ピッチが初めてという人も多いかもしれません。理想的な時間配分はあるのでしょうか。
前田:ピッチした後の会話にこそ、本当の「その人」が見えてきたりもします。だから、60分間あるのであれば、前半30分はピッチに、後半30分は会話できるのが理想。
最も良くないのはピッチだけで終わってしまうこと。消化不良になってしまいがちなので、ディスカッションできるような時間を設けたり、プレゼンの合間にそういった機会を差し込んだりすると良いと思います。
なぜ会話が大切かといえば、ピッチにおける第一目的が「巻き込むこと」だからです。セッションを通して、投資家が好きになる、気になる存在になること。僕も半年後や1年後も連絡したいと思うような経営者は、顧客への高い解像度やイシューへのコミットといった要素が揃っている人です。まずはそれを伝えきってほしい。
神前:投資家とのセッションは、異なる観点からのフィードバックを得られる機会とも捉えられそうです。
前田:まさに第二目的は「事業のブラッシュアップ」になるからです。せっかくの機会なので、投資家からのフィードバックを経て、より自分を理解し、顧客への解像度を高める。次なる展開に活かせる情報を得る機会だと捉えればいいのではないでしょうか。
神前:目的がフラットに整理され、すごくわかりやすいです。最初のピッチがうまくいかなかったとしても、事業内容やチームがポジティブに映れば、次のラウンドなどの機会に投資することもあるのですか。
前田:もちろん!全然あります。半年後に行なった2回目のミーティングで投資を決めたり、1年後にした4回目のミーティングで決断したこともある。ピッチは一発勝負だと思わないでほしいです。
結局は、関係構築が重要。何より、その時点での関係性は「お互い様」じゃないですか。投資家からの期待を得るのは大切だけれど、起業家にとっては目の前の投資家やVCが信頼に足るか否かを見極める機会でもあるんです。
神前:1回目で出資を決める企業と、2回や3回と重ねる企業では、どちらが多いですか?
前田:肌感だけれど半々くらいだと思います。
神前:ちなみに、ALL STAR SAAS FUNDの投資先では?
前田:例を挙げると、ログラス、アセンド、hacomonoは1回目、Recustomerは2回目でしたね。Recustomerは、僕が初回で「足りていない」と指摘したことへの解答がちゃんとできていて、考えも整理された状態で挑んできたので「すごいな!」と感じました。
中には2年間がかりの会社もありましたが、その都度に「次回はこういった観点が見たい」と宿題を出しながら、一緒にブラッシュアップしていきました。
VCにコンタクトを取るための「2つの前提条件」
神前:ここまではヒロさん中心に聞いてきましたが、見る人が変わればポイントも変わるかもしれません。裕人さんがピッチを見る中で「望ましい構成」があるとすれば、どういったポイントが挙がりますか?
佐伯:ヒロさんとも重なりますが、顧客解像度は欠かせませんね。導入を検討する担当者の方や、システムを導入した利用者のペインを解消したときに、経営者がどういった効果を感じ、会社としてベネフィットを得られるのか。それが「実際の声」としてあると、よりイメージが湧きやすくなると思います。
たとえば、ユーザーヒアリングをして、仮説のペインに検証が済んでいる。そういった情報があると、今後の構想やプロダクトの発展に対する僕らの納得度も高くなるはずです。
神前:ピッチの相談もよく受けると思うのですが、ALL STAR SAAS FUNDの場合は、どうすれば面談が組みやすいですか?
佐伯:それはもうどんな連絡方法でも構いません!TwitterのDMでも、Facebookでも、ALL STAR SAAS FUNDが実施しているオフィスアワーでも。コンタクトしていただければお返事ができますから、ぜひお気軽に。
神前:投資の相談ではなく「フィードバックが欲しい」みたいな相談でも?
佐伯:全然、問題ないです。
前田:もし、僕らからお願いができるとしたら、少なくとも2つの条件だけ設けさせてください。「アイデアを持っていること」と「顧客ヒアリングを実施したこと」です。アイデアがないと僕らもお話がしづらいですし、顧客ヒアリングがないと「まずは話を聞いてきてね」という答えになってしまうので。
この2つの条件はALL STAR SAAS FUNDに限らず、どのVCへ連絡するときも同じだと思います。
神前:顧客ヒアリングを実施する会社数に目安はありますか?
前田:規模も業種も業界も同じで、「セグメントが定まっている」なら2〜3社ほどでよいでしょう。企業規模や業種がバラバラであれば、10社は聞いたほうがいいと思いますね。
どうすれば「顧客を理解している」とみなせるのか?
神前:重要視している「顧客理解」を深堀りさせてください。「顧客への解像度が大切」とは、おそらく全てのVCが口にすると思うのですが、いったい何をもって「知っている状態」と言えるのか。ペインなのか、それへの解決策なのか、業務ワークフローなのか……何を証明すれば「理解している」とみなせるのでしょうか。
前田:まずは、顧客の頭にある課題の優先順位が理解できているか。たとえば、<yellow-highlight-half-bold>対象としているペルソナの「トップ10の課題は何か」と尋ねたときに、ちゃんとトップ10が言える。それは解像度が高いと思わせる経営者の共通点です<yellow-highlight-half-bold>ね。
それから、顧客の業務が理解できているか。セールス業務を例にすると、データ入力からテレアポを経て、商談の後には何をすべきで……といったステップがありますね。業務を要素分解して細かく見えている状態にすることです。
さらに、その分解した内容が、業界の中ではどれぐらいのレベル感にあるのか。最先端の会社がAIを取り入れてほぼ自動化できている状態だとしたら、そうでない会社はおそらくレベル感がまちまちのはず。全くデータ入力していない会社、データ入力はできていても有効活用されていない会社など、細かなグラデーションがある。そういった現場のレベル感が理解できているのかも大切です。
神前:確かに、業務のワークフローがステップで整理されていることに加えて、僕がグロース支援体制の構築に携わっている観点からすると、「行動の変容」と「意識の変容」をどう捉えられているかも、その理解の一つといえそうです。
業務に対してどういう思いを持って臨んでいるのか、サービス導入で意識や行動がいかに変わるのか。そこまで言語化できているのも大事でしょうね。それがターゲットとなる企業群に共通するような、普遍性のある課題なのかも見定めなければなりません。
前田:まさに、その通りです。
佐伯:サービス導入時には、ステークホルダーの抱えている悩みや困りごとがわずかずつ異なっていたとしても、その「違い」がクリアにわかっていて、どうすれば導入後サポートで顧客への価値を最大化できるかがわかっていると良いですよね。
神前:確かに!ユーザーだけでなく、決裁者や管掌役員、部署ごと持つ課題、想い、やりたいことが整理されていなければ、解像度が高いとはいえませんから。
「なぜ、その課題が今まで解消されてこなかったのか」を言語化すると業界構造の問題にも気づける
もう一点つけ加えるとするならば、時系列や時間軸の観点も挙げられます。「なぜ、その課題が今まで解消されてこなかったのか」を言語化できていると、業界構造の問題にも気づけるはず。これらが説明できる状態が「顧客理解が進んでいる」とみなせますね。
「市場理解」を分解する
神前:もう一つ重視されている「市場の理解」についても深堀りしましょう。おそらく観点としては競合の存在、マーケット成長に関する全体観、どういった顧客群が望めるのか、といった要素があると思います。
前田:一つは「刺さっているセグメントとその社数はどれくらい存在しているか」ですね。たとえば、「バージョン1.0が刺さる対象は3000社ある」としたら、次のセグメントでは4000社、その次では5000社と見込んだとして、どうすれば展開していけるのかを、市場を分解して把握できていると頼もしいですよね。「バージョン1.0でPMFする対象と社数」について、「バージョン2.0では……」と説明できる状態です。
よくないパターンとしては「市場規模何兆円の何%」みたいな見せ方。これでは全然、実感が湧かない。
神前:競合はどう捉えられています?
前田:競合は必ず居ると思います。「全くない」と言われても、やはり疑わしいですからね。「競合はどこに存在していて、彼らの強みは何なのか」がわかっていること。それから、「競合ではなく自分たちが選ばれる理由は何なのか」を、ちゃんと言えたほうがいいでしょう。将来的に競合が参入した際に、自社のどこを強みにしていきたいかの展望です。
あるいは、「時間が味方をしてくれるか」も結構見ていますね。要するに、時間が経過すれば経過するほどプロダクトが狙っている市場が拡大したり、需要が増したりする要素を探しています。その上では「なぜ今、事業を展開するタイミングなのか」も重要です。
佐伯:最近だと、国の政策の動きなどを捉えながら、どうやって自分たちが時代の流れの中でポジショニングしていくかが見えているスタートアップ経営者を見たり、そういったプレゼンを聞けたりすると、中長期的かつ広い視点でものごとを見られているな、と感じます。
たとえば、フィンテック業界で起業するとして、金融庁の動きを把握しているか否かで事業展開の仕方、グロースのスピード感も変わってくるはず。SDGsを官公庁や国際機関が推している状況を知れば、アクションプランに応じてマーケットへお金も流れていくでしょう。政策レベルから市場を捉えられていると、ポジティブに映りますね。
SaaSだからこそ「経営者の器」は評価軸になる
神前:起業家の「イシューへのコミット」も大事という話でした。ただ、中長期的な観点ですから、それを伝えたり証明したりするのも難しいはず。ピッチの中で、どのように判断していきますか。
前田:これ、すごく難しいんだよね……まずは、その人の「パーソナルなストーリー」と「パーソナルなモチベーション」が、どこまで事業との整合性があるかを見ています。プレゼンではなかなか伝わらないと思うけれど、少なくともQ&Aでは「なぜ起業するのか」だったり、「何にこだわり、なぜ働くのか」だったりから、見えるものもあるでしょう。
もうひとつは、「どれくらい思考の量を回しているか」もコミットメントを表すものだと捉えています。市場や顧客への解像度しかり、誰よりも深く考え抜いて、手を進めていることが実感できる状態にあるのか。それはプロダクトでも組織でも、競合関係でもそう。
僕個人としては「その対象に対して、ブログを毎日書けるかどうか」は重要だと思います。それだけ毎日考えられ、毎日その解決に対して行動を取りたい人という覚悟が見える。ALL STAR SAAS FUNDならSaaSについて毎日書けますけれど、それ以外のことで毎日書けるかを問われたら難しい。それはある意味で、コミットメントに差があるからなんですよね。
神前:これまでの投資経験を踏まえて、重視する項目も変わっていきました?
前田:「経営者の器」を見るように変わってきました。特にSaaSは少数精鋭ではいられない面があるので、他者を巻き込めるか、メンバーをマネジメントできるか、一定規模の組織を経営できるか、という力量が問われます。<yellow-highlight-half-bold>少なくとも300人くらいの組織を経営できることが、投資の基準になっています<yellow-highlight-half-bold>。
もっとも最初からマネジメントできる人は、ほとんどいないとも思っていて。まずは経営者としてPDCAを回せる素直さを感じ取れれば良い。あとは、価値のあるものは浸透まで10年や20年もかかることが多いですし、諦めたくなる場面も出てくるからこそ、長期間のコミットが望めるのかは見ます。やり続けるための原動力、それを支えるモチベーションは重要です。
たとえば、「お金」がモチベーションになってくると、やはり飽きてしまうケースが多いと思うんですよね。社会や市場に何か価値を作りたいモチベーションのほうが、野心的であって、長く経営する傾向にあるとは考えています。
言い換えると「経営者が挑戦的であること」が大事。自分や会社のポテンシャルもストレッチさせて、臨んでいきたいと思えているのか。どうしても安全地帯から出られないと、絶対にどこかで負けてしまうものなんです。常に自分や組織をレベルアップさせ、会社をより高みに引き上げようとする挑戦的な姿勢がないと、勝ち続けることは難しい。
テクニカルな話ですが、SaaSは先に規模を大きくしたほうがメリットが多いですからね。ARRに対して営業マーケの割合は3割から4割ほどですが、「ARR10億の3割」と「ARR100億の3割」では、やはり後者が圧倒的にできることが多くなります。早めに規模を大きくして優位性を高め、できることを増やして、勝ち続けるのがSaaSのセオリー。そのためにも「T2D3」は、すごく良い目標設定であり、程よいストレッチなんですよね。
2021年に見て、良かったピッチの共通点
神前:すばらしいです。最後に「2021年に見て、良かったピッチの共通点」を話していきましょう。今年も僕らはさまざまな企業に投資させていただきました。ピッチ資料を見直していくことで、何かしらの共通点が見えるのではないか、と。
たくさん紹介したい事例はあって挙げきれないほどですが、いくつかの具体例になんとか絞ってみました。まず、Recustomerは「成長率」がとても大きかったですね。1回目のピッチでは市場規模や今後の展開に関する解像度が、まだ高められる状態だと感じさせたのですが、2回目では海外の事例も含めて市場を研究して、さらにパワーアップしたものを示していましたね。
もうひとつ、Recustomerは「ピボットからの早さ」も感じていたところがあって。もともとはHRテックを攻めていたけれど、コロナ禍を経て、すぐに現在のRecustomerへ行き着けた。成功体験もアンラーンできる早さ、すぐに新しいかたちに生まれ変われる順応性は、とてもポジティブに見えました。市場も競争環境も常に変わっていきますから、SaaS企業にはアンラーンできる力は絶対に求められると思っています。
カミナシのCEOである諸岡裕人さんが「3カ月に1回、新しい問題が起こる」と言っていたのが印象的なんです。3カ月前の課題をクリアしたら、全く別の課題が出てくる。そんな状況で成功体験にこだわっていては、次の課題へアプローチできないはずですから。
前田:その通り!Recustomerの1回目は、市場の解像度とプロダクトの展開が、ちょっとふわっとしていたのが懸念点で、「ARR100億を作るロジック」も説得力に欠けたんですよね。それを直接的に自分たちで解像度を高めていって、ロジックを作って、わかりやすいかたちで説明できる状態に持っていけた。
自分たちをどんどん成長させたい、チャレンジしていきたいという姿勢も、やり取りを重ねて強く感じました。フィードバックを恐れない姿勢もすばらしいですし、そういう人たちは必ず成長すると思うし、魅力的に映りましたね。
神前:続いて、ものレボの資料も印象的でした。どういうふうに業界を切ってレイヤーを積み上げていくか、そこへの解像度が非常に高かった印象を受けました。
あとは初期ターゲットの顧客属性と、その次に狙いたい顧客属性に対しての差分が明確。要は、現在のプロダクトで満足させられる顧客像とその社数がわかっていて、そこへどのような機能を追加すれば、次の市場やレイヤーを取っていけるのか。そのための開発リソースの見通しに至るまでが明らかに示されていました。
資料としては、本質的な内容に重きが置かれ、事業の蓋然性に対しての論理的なアプローチがなされていたのが、ものレボのピッチ資料では特徴的だったと思います。
それから、アセンドのピッチ資料は、業界課題がとてもわかりやすく整理されていたのが印象的でした。今まで課題が解かれていなかった理由と、どういったソリューションを提供すれば解決できるのかが明確で。物流業界への感度が高く、背景知識もあり、論文も書いているような経営チームでしたから、コミットメントの高さも表れていましたよね。業界課題を解くことに対する自分たちの優位性が明らかなのも、アセンドのピッチ資料の良さだと思います。
ふと思うのは、実際に伸びている会社は、ピッチのときからすごかったんでしょうか?
前田:難しいね。僕らが投資するフェーズって、ほとんどがプロダクトを作っている最中か、顧客がそれほどまだいない状況なので。投資してからも助走期間があるケースがほとんどです。でも、ピッチの良さや強さと、その事業の成長は、何かしらの相関性はある気がします。
言えることがあるとすると、顧客と市場の解像度が高い企業は、割にすぐに伸びます。そうでない場合は、やはり紆余曲折していくケースが多いかもしれない。ただ、一つ忘れてはいけないのが、SaaSは全てを指標化できる一方で、「指標が全て」ではないことだよね。
神前:確かに、事業は必ずしも指標だけでは測れない面もあります。特にALL STAR SAAS FUNDは、たとえば情緒的な面も評価して投資判断をしていますから。言わば「エモさ」も判断軸の一つという感じですよね。
資料作成に役立つ「ピッチの必要項目まとめ」
今回の座談会を経て、ピッチ資料の作成に役立つ「目次構成案」を用意しました!ぜひお役立てください。