Chief of Staff(CoS)という役割は、日本のスタートアップでも注目されています。一方で、会社によって大きくその在り方が異なるのも実態です。ALL STAR SAAS FUNDのマネージングパートナーである前田ヒロはそう問いを立て、Rampの元CoS・Sam Buckさんを訪ねました。
Rampは2019年創業の法人向け経費管理フィンテック。評価額は2025年6月の160億ドルから2026年6月には440億ドルへと急拡大、2026年6月時点の年間換算売上は約15億ドルに達し、顧客数は7万社を超えています。そのRampに2人目のSDRとして入社し、SDRからCoS、現在はチャネルセールスのリーダーへ歩んできたのが、Sam Buckさんです。
「すべてに責任を負うのに、自分のものは何もない役割だ」とSamさんは語ります。中核のKPIを持たず、越権の線引きも曖昧で、会社が四半期ごとに別物に変わっていく。そのなかでCoSはCEOの時間を守り、組織の詰まりを取り、カルチャーをスケールさせる。毎週カレンダーを監査し、どの会議にCEOと同席し、どれを手分けするかを組み直す。そして2年という「火の中をくぐる期間」を終えたら、会社の別の機能を率いるリーダーになっていく。
急成長するスタートアップでCEOの右腕はどう機能するのか。正しいCoSをどう選び、どう評価し、どう後任に引き継ぐのか。さらには、Rampの社内AIプラットフォーム「Project Glass」と「Enablement Eddie」が全社にどう浸透したのかまで。日本の起業家が、いま最も知りたいであろうCoSの実態を、Rampの現場から語っていただきました。
\このセッションは、YouTubeでも公開中/
創業者たちは「とてもシンプルな何か」を掴んでいると感じた
Hiro:まずは、Samさんのキャリアを聞かせてください。Rampとの出会い、ジョインから現在に至るまで、どんな道のりだったのか教えてください。
Sam:Rampまでの道のりは、私がファイナンスの世界に入った経緯まで遡ります。学生時代、ボストンにあるサイバーセキュリティ企業でインターンをしました。セールスのカルチャーがとても濃い会社で、優れたGTM組織の力とカルチャーをずっと見てきました。これが最初のテック経験です。
大学3年と卒業後の数年は投資銀行にいました。投資銀行に進んだのは「学ぶため」で、多くを得ましたし、素晴らしい出会いもありました。でも数年で、テクノロジーに戻りたくなったんです。セールスの現場を肌で知っていましたから。
Goldman Sachsにいたころ興味があったのは、特にフィンテックで巨大になりうるビジネスモデルとチームでした。そんな折に大学入学前からのホッケー仲間で、連絡を取り合っていたMax Freeman(マックス・フリーマン)が、Rampのメンバーを紹介してくれたんです。共同創業者でCo-CEOのEric Glyman(エリック・グライマン)とKarim Atiyeh(カリム・アティエ)、それにCPOのGeoff Charles(ジェフ・チャールズ)ですね。ちなみにMaxはいま、RampでセールスのVPを務めていますよ。
彼らに最初会ったとき、「とてもシンプルな何か」を掴んでいると感じました。しかもそれは、誰もが感じている巨大な問題で、普遍的なテーマだと思えました。
MaxはSDRとして最初のセールス採用で、ある日「もう1人必要だ」という話があって。私は飛びつきました。ただ、当時あったのはSDRの枠だけで、ほかのGTMなどのポジションの募集はなかったんです。だから、とにかく泥臭くやって、アポを取り続けて、任される資格を得ようと。そういうつもりで飛び込んだんです。
Hiro:入ったころの組織は、何人くらいだったんですか。
Sam:フルタイムでは私が2人目のSDRで、全体の人数はたしか39人ぐらいですね。いまは1,600人ほどです。
Hiro:1,600人とは、まったく景色が違いますね。会社が何度も変わるのを見てきたと。
Sam:四半期や半年ごとに、まるで別の会社なんですよ。
いまの仕事をやり切っていると、機会が巡ってくる
Hiro:SDRから、どうやってCoSになったんですか。肩をたたかれて「やってみないか」と言われた感じですか。
Sam:私に機会が回ってきた理由は、目の前の仕事をとにかくやり切ったからだと思います。
SDRとしての役割も広がっていましたし、AEとして案件をクローズする機会にも恵まれました。あとは、自分の案件のオンボーディングも担当していました。そのころから、新規の投資家にRampを広げていく動きも。投資家に向けたアップデートや、取締役会のプレゼン資料作りなども担っていました。
そんなふうに活動の幅を広げていたあるとき、EricがCoSを探すことになったんです。外部の候補も何人か面接していましたが、同時に社内からという線も出はじめて、「よければ、私が引き受けます」と申し出たんです。
私はすでに会社の内部にいて、顧客のことも、チーム全体のこともわかっていましたからね。そこから、本当に良いパートナーシップを築くことができました。
Hiro:絶好の機会に飛びついたとき、何を得られると思っていましたか。それが将来どう生きると捉えていましたか。
Sam:考えていたのは、学ぶ機会を最大化して、事業全体への露出を増やし続けること。私はいつか自分で事業を回したいと思っているので、全機能の動きを理解して、大きな目標にどんなチームが必要なのか、システム目線で検討することを経験したかったのです。だから全身で飛び込んで、いちばん難しそうなところで貢献しようと。
尖った人を、採る
Hiro:CoSに就いてまず手をつけたのは、どんな仕事だったんですか。時間とともに、解くべき課題や目標はどう変わっていきましたか。
Sam:まず言えるのは、私のCoSは「よくある姿」とはかなり違いました。
創業者のEricとKarimのすごいところの一つでもあるのですが、彼らはその人のアンフェア・アドバンテージ(その人だけが持っている強み)に賭けさせるんです。2人はよく「尖った人を採る」と話します。何か1つのことで世界水準の人を探して採用する。
私の場合、社内でも社外でも、人との関係をつかむことが強みでした。だから、最初のミッションは、Ericとセールスチーム全体をつなぐことでした。より大きな企業にセールスをかけるフェーズに入ると、顧客やパートナーを訪ねて回る場をつくることにも多くの時間を使いました。セールスとGTMの領域における「右腕」としての動きに徹していましたね。
それから、CoSになった当初は、各リーダー間のコミュニケーションの取り方を再設計することにも多くの時間を費やしました。リーダー会議の頻度は適切か、そこで正しい議論が起きているかを確かめました。
カルチャーのスケールにも時間を注ぎましたね。私がCoSになったときは200人ほどの規模になっていて、ポジションを離れるころには700〜800人になっていました。組織が大きくなっても、初期にあったスピードと透明性のカルチャーを、そのままスケールさせたかったんです。EricやKarimと同じく、新入社員のオンボーディングに時間を割き、Rampのアンフェア・アドバンテージについて伝えていました。
CEOの「詰まりを取ること」が重要
Hiro:どこからがCoSとしての越権になるのでしょうか。KarimとEricにやってもらう仕事と、つなぎ役として引き取る仕事の線引きはどうしていましたか。
Sam:Ericにしかできない仕事に時間を使えるように、詰まりを取ることが重要でした。たとえば、彼の得意領域ではないこと、トップ3の優先度に入らないこと。そういうものは私が社内の専門家を見つけて任せ、進み具合をまとめて彼に返すようにしていました。
だから、会社のあらゆる階層の人と良い関係を持っておくことが大事です。いざ、「これを何とかしたい」という話が来たとき、私は社内でいちばん詳しい人を見つけて、解決を任せて、見せ場をつくる。逆にEricのトップ3の優先事項は彼がやる。その線引きは明確です。
一方で、どちらが担うか迷うようなものは、過剰なくらいに話してはっきりさせましたね。
Hiro:CoSがCEOの代わりに話したほうがいい会議や場面はありますか。逆にCEO本人から直接のほうがいい場面も。
Sam:ええ、もちろん。GTMまわりの会議が多いですね。
たとえば、顧客に経営陣とのつながりを感じてほしいけれど、とにかく忙しい時期で都合が合わず、それでも進行を止めたくないとき。Ericがこの件に相当な時間を割いて、必ず形にするつもりだと顧客にわかってほしい。そういう場では、CoSが代わりに入ってその意向を伝えます。
逆に、大きな金額が動く案件や、本当に対立が起きうる決定は、CEO本人から伝えたほうがいい。そうしないと、CoSがただのメッセンジャーになってしまいますから。CEOがわざわざ入ってくることに、相手も価値を感じてくれます。
優先順位を守れているか。カレンダー監査で測る
Hiro:いろいろなプロジェクトの計画づくり、戦略を練ることにも深く関わっていましたか?
Sam:まさにそうです。
毎週のリズムは、私とEric、Ericの当時のEA(秘書)と「週、月、四半期の予定」を見ていました。私たちはカレンダー監査をよくしました。
優先事項を書き出し、カレンダーを見て色分けして、「優先だ」と言ったことに実際どれだけ時間を使えていたのかを確認するんです。これは、組織のどの階層にいてもできることです。いまの役割でも、ずっとやっています。驚くほど簡単に、中心からずれてしまうんですよね。
そのうえで毎回戻ってくるのが、担当者の人選は正しいか、という問いです。その人には、何かを作り切って正しい結果まで持っていく時間があるか。機能をまたいでCBO、CPO、CFOと組み、全員が同じ方向に漕げているかを確かめます。
CoSからPEパートナーシップへ
Hiro:いま現在の役割にどうたどり着いたのか、ぜひ伺いたいです。CoSの時期に何が起きて、この役割につながったんでしょうか。
Sam:CoSになって2年目のころ、プライベート・エクイティから問い合わせが来はじめたんです。「投資先の何社かがRampを使っていて、残りの投資先にも広げたい」という話でした。「PEパートナーシップの担当と話せますか」と聞かれるわけですが、担当者はいませんでした。だから、電話に出るためだけに、メールの署名をCoSからPE担当に書き換えたんです。
PEファームと組めば、チームもチャネルも丸ごとつくれると考えました。買収のクロージング時にRampを入れて、投資先にもRampを勧めてもらう。支出管理と可視性を高めるためです。PEの保有期間を通して支出管理を続ければ、EXITのときに効いてきますからね。
しばらくは片手間でやっていて、案件はセールスチームに渡していました。でも、すぐに気づいたんです。PEの誰もが、投資先へのオペレーション支援を求めていると。そして、PE経由の案件は大きかった。トップダウンで動いて、全体の価値を見られます。
当時、EricやCBO(Chief Business Officer)のColin Kennedy(コリン・ケネディ)、経営陣と話していて、社内にもっとプロセスとストラクチャーを入れようとしていた時期でした。そのとき、自分がやろうと思いました。
前にいたパートナーシップに戻って、PEファームと組むチャネルをつくって、もとからの銀行やベンチャーの仕事も束ねる。PE、ベンチャー、銀行、アクセラレーター。これらと組む金融機関グループをつくりました。ほかの金融バーティカルでも新しい施策を進めています。パートナー経由でRampを一気に広げる狙いです。
私がこの役割に移ったのは、2024年3月のことでした。
Hiro:その機会を見たとき「これはやるべきだ」と強い確信を持って入ったんですか。「このチームを率いたい」というモードでしたか。
Sam:PEのパートナーと電話で話すようになって、私は投資銀行出身で友人の多くもファンドにいたこともあり、それで気づいたんです。みんな「保有期間が延びている」と言っていると。投資したあとの価値創造に、ずっと重みが置かれるようになっていました。Rampの仮説とコスト削減の提案がとても強かったんです。それならば自分でつくりにいきたい、GTMに戻りたくなってきたんです。
Hiro:いまその組織はどのくらいの規模ですか。
Sam:チャネルセールス全体で数百人います。金融機関グループもその中です。PE全体を担当するチームがありますし、PEと一体で動く共同購買組織(GPO)にも専任の担当がいます。ベンチャーファンドと銀行だけを見る専任チームもあります。PEの戦略と深くつながった市場として、スポーツ業界の開拓も進めてきました。
Hiro:CoSでの経験のどの部分を、新しい役割に持ち込めましたか。
Sam:すべて、ですね。
バーティカルを率いて、Rampに新しいチャネルをつくるのは、起業家と同じようなものです。仮説があり、市場に持っていくプロダクトがある。この場合は、Rampを広げることです。パートナーにとってのバリュープロポジションを突き止める仕事です。GTMチームに加えて、プロダクト、エンジニアリング、財務、法務、マーケティング。新しい領域を支える機能を正しく組んで実行します。
CoSのときも、新プロダクトや戦略を端まで見て、立ち上げも手伝いました。だからここでも同じことができました。会社レベルで一度やっていると、全員を巻き込むのがずっと楽になります。
CoSの2つの役割と、特命プロジェクトが食うもの
Hiro:日本では会社ごとにCoSの定義が異なっているんですよね。ただ、主な役割は2つあって、一つはコーディネーターとしての役割です。いろいろな機能とやり取りして意思疎通を良くし、組織のあいだのボトルネックを取り除く。もう一つは、CEOが進める特命プロジェクトです。この整理は適切だと思いますか。そのほかに入れるべきものや、外すべきものがあれば教えてください。
Sam:事業の規模によると思いますし、達成しようとする目的にもよると思います。ただ、特命プロジェクトで見てきたのは、結局のところ各事業ユニットやコア機能のリソースを食うということ。
だから、役割同士が深くつながっていることが何より重要になるのです。各事業ユニットを動かす人と深い関係を持ち、事業戦略や、計画の柱に据えているものと矛盾する依頼をしないようにね。これは新しいGTMの施策でも、新プロダクトでもよく見かけます。
Rampが好例ですよね。中核のプロダクトを持ちながら、新しいAIプロダクト群やRamp Labsチームができました。GeoffとKarimの働きのおかげで、うまくやれていると思います。全員の目を、大事なことに向けてくれました。
そんなとき、チームをまたいで調整し、ボトルネックを外す役割は欠かせません。CEOやCTO、共同創業者の代わりに、必ず誰かが担ったほうがいい。そこで、CoSの出番になります。
「すべてに責任を負うのに、自分のものは何もない」
Hiro:「正しいCoSの選び方」という観点で、何をすり合わせ、何を見るべきでしょうか。CoSを育てるために、時間もリソースもかなり注ぎ込みますよね。その人が、将来ほかの部署で別の役割のリーダーになれるかも見通せないといけない。
Sam:その人が正しい理由でその役割を担おうとしているのか、何がモチベーションになっているのか、です。
すべてに責任を負うのに、自分のものは何もない役割なんです。中核のKPIを背負わない。だから成果を出すには、チームで動くことに喜びを感じる人で、自分以上のもののために戦える人であること。スポーツでよく言いますよね、「ユニフォームに刻まれた名前のために戦え」と。これは本当に見るべき資質です。
そして、組織全体で信頼を築き、それを根づかせてきた人であること。CoSとして力を発揮するには、組織図の上から下まで関係が必要ですから。さらに社内で「この人は、自分の専門領域で自分を立ててくれる人だ」と思われていなくてはなりません。全部を自分で抱えるのではなく、その人にもっと任せる場を渡すということです。
私もCoSだったころは、リスクや財務、法務の複雑な話を自分で調べたくなりました。でも、いちばん詳しい人を見つけて組んで、必要な準備を渡し、本人に持たせるほうが速いんです。
火の中をくぐる2年間を経て、別の領域へ移っていく
Hiro:Rampから見た期待値としては、CoSを数年経験したら、チームや機能を率いることができる、ということがあるのでしょうか。
Sam:いま実際にそうなっていますね。私もそうでしたし、この先もそうなっていくと思います。
Rampの1人目エンジニアのCalvin Lee(カルビン・リー)は、共同創業者KarimのCoSを長く務めました。彼は、難しい問題に積極的に取り組んできました。オンボーディングやCS、パフォーマンスマーケティングを率いて、いまは多くの特命プロジェクトを見ています。
マーケティング側のCoSだったAnne Kong(アン・コン)も、いまはブランドマーケティングの責任者です。Ericの現在のCoSであるCJは、Ramp StackなどAIプロダクト側に手を広げています。そうやって、数年間CoSを務めたら事業の別の領域へ移るんです。良いリズムができています。
Hiro:数年間というのが、適切な在任期間だと思いますか。長すぎる場合もあるのでしょうか。
Sam:大きな上場企業では、CoSがエグゼクティブオフィスを構えて、CoSとして6〜10年在籍することもあります。ただ、うちの規模でいえば、コア機能に戻すのにちょうどいい期間だと思います。いわば、火の中をくぐるような、鍛えられる2年間の任期なんです。
後任の選び方は「見立てを持っている人」
Hiro:後任を探すプロセスには、Samさんも関わったんですか。
Sam:はい。私はいまCoSを離れてチャネルセールスの一部を見ていますが、最初の仕事は自分の後任を探すことでした。社内で探すのは本当にやりがいがありましたね。最終的にストラテジックファイナンスからCJを迎えました。候補者探しも、面接プロセスも設計しました。そしてオファーを出したんです。
Hiro:CoSを選ぶとき、チェックリストには何が入りますか。
Sam:まず、事業戦略を深く理解していること。どこから来て、どこへ向かうのか。CFO、CPO、CBO、ジェネラルカウンセル、エンジニアリング責任者たちと的確にわかりやすくやり取りできること。そして、会社のボトルネックがどこにあるかをわかっていること。
Rampが探しているのは、すでにその見立てを持っている人です。たとえば、選考の場で「ここはこう組めば、もっと効果的に動ける」と言える人です。「誰が何に困っていますか」と聞きにくる人ではなくてね。CJにはそれが確かにありました。ここを直せば会社はもっとよく回る、という見立てをはっきり持って来ていた。
Hiro:外に求めるより、すでに社内にいる人のほうがCoSには向いているのでしょうか?
Sam:私たちの場合は、社内から登用してうまくいったことが多いですね。外部ではいけないという話ではありません。素晴らしい人はたくさんいます。ただ、社内の人には、土地勘とコンテクストの蓄積がありますし、関係もできていますから。人によるとは思うのですが……Rampとしては、社内からの登用が好みですね。
目標と評価。ファネルの上・中・下で事業を採点する
Hiro:CoSの目標設定と評価について聞きたいです。ミッションが毎回異なる柔軟な役割だけに、どう評価され、どう目標を置いていたんでしょうか。
Sam:大事なのは、会社にとって最重要の目的を前に進める目標を置くことです。
私自身はGTM組織の出身で、スキルの多くもそこにあります。だから、自分の仕事が会社の目標にどうつながるかを示す指標を立てました。
GTM側の先行指標であるデマンドジェネレーションや新規リード獲得。ファネルの中段はどうか。コンバージョンは測れているか。貢献利益の目標を上回っているか。クローズまわりの数字ですね。
そして、大口顧客の利用拡大について。NDRを伸ばせているか、導入プロダクト数は増やせているか。顧客が伸びるほど、取引も広がるはずですから。
このように、ファネルの上段・中段・下段の3つの指標で、事業の成果を評価してきました。私が取り組むことはすべて、このGTMの目標に積み上がるようにしていました。
Hiro:どれも一人ではできない目標ですよね。ほかのチームと連携する話になる。一つはアウトカムで評価されるということでしたが、アウトカム以外に、プロセスで評価されるものはありましたか。
Sam:もちろんあります。
社内コミュニケーションという成果物について、経営陣からフィードバックをもらうことがとても重要でした。私がやっていることで、全員がより効果的にやり取りできていると感じてもらえたか。
Rampでは「議論を促すこと」をよく話します。考えを底まで突き詰めてもらうことも。意見が違っても頭から突っ込んで、打ち手を見つけにいく。だから常に定性的な評価もありました。この回し方で速く動けているか、判断も良くなっているか。
実験の要素もあります。この四半期に効いたやり方が、次の四半期には効かないこともある。測り方そのものにも手を入れ続ける必要があったんです。
会議の出席、同席 or 非同期は「毎週組み直し」
Hiro:Ericの動きにどこまで合わせていましたか。Ericのいる会議もメールもSlackもすべて入るのか、それとも非同期で動くのか。
Sam:時間と共に変化していきましたね。
役割の初期は、同じ会議に入ることが多かったです。でも、役割に長くいるほど、手分けする比重が増えていく。重なった2つの会議で「何を取りにいくか」が完全にわかっていれば、そっちは任せる、こっちは私が出る、といったようになります。
ただ、いちばんうまくいく組み方は、1つのやり方が常に最善だと決めつけないことです。毎週すり合わせて、「これは一緒に出よう」というものを洗い出していく。逆に別々に出るべきものもあります。優先事項がどこにあるか、市場で何が起きているかで変わります。
資金調達で慌ただしい時期は、手分けする比重が特に増えました。フルタイムのIR責任者を採る前は特に。私がこまめに話していたのは、エンジェル投資家や、経営陣まわりのロングテールのパートナーです。Ericが大企業を追い、大型調達も進めていた時期なので、そうした会議を彼の手から外せたのは大きかったですね。
Hiro:毎週、調整し直していたんですね。
Sam:まさにそうです。これができたのも、Ericに優秀なアドミンチームの支えがあったからです。素晴らしいEAの方たちがいますから。だから私はGTMのテーマを見ることに、もっと時間を使えました。
Hiro:情報にはどこまでアクセスできましたか。ボード資料やP&Lも含めて、すべて見られたのか、渡されない情報もありましたか?
Sam:Rampはそもそも非常にオープンな社風ですから、個人を強く信頼して裁量を渡しています。
取締役会のプレゼン資料は社員全員に共有されますし、毎四半期、EricとCFOのWill Petrie(ウィル・ペトリー)が出てきて取締役会の振り返りをやるんです。もちろん伏せられる部分はありますが、GTMとプロダクトの実績、そしてこの先どこに賭けるかなど、コアなアップデートはほぼ共有されます。Rampの情報のうち98%は共有されていると言えるでしょう。
ただ、当然CoSは、ほかの社員には伏せられる経営層の採用や退職などのセンシティブな情報も見ることになります。それに、会社がどこへ向かうかという話も、複数のチームや部門に影響することがあれば、CoSはどうしてもセンシティブな会話に入ることになります。
だから、これはカルチャーの話なんですよね。Rampでは全員がオーナーです。Rampで働いているなら、あなたは事業のオーナーでもある。できる限り多くの情報を、全員に持っていてほしい。
日本の起業家へ。CoSを置くべきか、どこで失敗するか
Hiro:CoSを採用するか検討している日本の起業家に向けて、教えてください。起業家たちが考えるべき問い、どういった答えがあれば動いたほうがいいのか。
Sam:まず一つは、まだ専任チームがつく前の施策で、調整がうまくいっていない問題が会社にあるかどうかです。
もう一つは、その人が機能をまたいでレバレッジを効かせられるか。その結果、来年以降の採用や目標設定がもっと進むようになるか。
これら2つが当てはまるなら、私の経験ではCoSは合うと思いますよ。
Hiro:CoSを置くときに、よくある落とし穴や失敗は何でしょうか。
Sam:1つ目は、特命プロジェクト、コアチームの戦略、そして実務の調整に使う時間と力の配分が曖昧なことです。
「調整はEAがやるので、戦略側でこういうことをやってほしい」とか。あるいは、EAや調整役がいない場合は、実務や調整役までこなすことをいとわない人を探さなくちゃいけません。
よくある落とし穴としては、CoSが何に時間を使うのかを詰め切らないまま置いてしまうこと。とにかく、本人にはっきり伝えるのが大切です。
2つ目は、みんなの何でも屋にしてしまうこと。EricとKarimが本当にうまかったのは、私が何を担うのかを組織にしっかり示したことでした。「Samはこの領域を加速する人だ」と社内に打ち出してくれました。人のあいだの詰まりを取って、会社を速くする。それが私の役目だと明確に伝えてくれました。
だからCoSの採用は、その人にすべてを投げることではありません。CEOや創業者は変わらず前に出て、社内にも自分から関わり続けます。そうしてはじめて、周りがその人をレバレッジとして受け入れてくれます。
Hiro:1人のCEOにCoSが2人という形はありえますか。それとも1人だけか。
Sam:ありうると思います。ただ、それはもうCoSというより、全社の戦略とオペレーションの部門です。大きな会社なら、COOが見ていることが多いですね。絶対にないとは言いませんが、目線を揃え、周りの混乱を減らすためにも、1人のほうがいいと感じます。
CoSが機能するために譲れない3つの条件
Hiro:すでに触れていただいた点が含まれるかもしれないのですが、日本の会社がCoSを置くとき、譲れない条件は何になるでしょうか。
Sam:1つ目はカルチャーフィット、つまり信頼です。この人は、功績を独り占めするためにやるのか。それとも事業に深く根を張り、チームの目標に結びつけるためか。譲れないのは、チームを最優先にできる人です。
2つ目は、指摘を素直に直せること、そして打たれ強さです。Ericにはいつもこう頼んでいました。「私に直してほしい点は、はっきり言って」と。早くもらえるほど、早く直して前に進めますから。
3つ目は、強みと弱みを深く知っていること。その人がいちばん活きる場をつくれますから。忙しいCEOに、CoSをマネジメントする時間はありません。だから、CoSがCEOをマネジメントできなくてはいけない。自分を深く知っていて、経営陣に「私はここの領域を任せてもらうのが、いちばん活きます」と言える必要があります。
「Silicon Valley Bank」のあの週末に、Ericがしたこと
Hiro:話題をCoSから少し変えて、Rampについて聞かせてください。Ericのことは、いちばん近くで見てきたわけですよね。彼のどんな特徴が、あるいはどんな出来事が、Rampのカルチャーをつくったと感じますか。
Sam:いくつか思い浮かびます。
1つ目は、Silicon Valley Bankが破綻した、あの週末のことです。みんな、自分がどこにいたかは誰もが覚えていますよね。私はEricと一緒に、大企業へのピッチに向かっていました。会議がはじまって1分で、先方のCEOとCFOが「いまは、このミーティングを続けられない」と言い出したんです。あることが起きたため、この会議はキャンセルさせてほしいと。
するとEricは「問題ないですよ」と言って、「何か手伝えることはありませんか」と伝えました。そして即座にその顧客のために動いて、別の銀行の口座のことで手を貸したんです。当時のRampに、銀行口座のプロダクトはそもそもありませんでしたから。
Rampと直接的に関係のないことであっても、顧客に必要なものを迷わず届けにいく。これがEricのずっと変わらない信条です。顧客の痛みを取り除けば、成功はついてくる。彼はそれを毎日、実際にやっているんです。
ほかにも社内でいえば、彼が毎週数時間を割いていることです。月曜と火曜に何時間も使って、Rampに新しく入った人一人ひとりと時間を過ごしているんです。なぜ会社をはじめたのか、どんなビジョンを持っているのか。毎回語り直して、オンボーディングを助けます。
これは彼のカレンダーで、最も大事なスケジュールの一つです。これこそRampのカルチャーについての多くを物語っていると思います。Ericは絶対にこの会議を動かしません。社外の重要な相手にも「動かせない」と伝えます。
だから、Rampにジョインする人はみんな「この人は本気で、人生を懸けているんだ」と感じているんです。彼がそうしていれば、自然と全員に伝わります。だからオーナーシップと、顧客とのつながりの感覚が生まれていく。
毎日1%。Y Combinatorで叩き込まれた日次成長
Hiro:Rampのこのスピード感や切迫感は、どこから来ているんでしょうか。
Sam:一つは、初日から染み込ませたカルチャーだと思います。いまどれだけ多くやれるか。それが物差しです。
もう一つは、EricとKarimが前の会社「Paribus」をやっていたとき、Y Combinatorに参加したことでしょう。Y Combinatorで徹底していたのは、週次ではなく日次の成長を示すことでした。
日々の成長を見せることに集中すると、驚くほど視界がはっきりするんです。毎日1%伸ばせるか。そこに注力することになります。その姿勢を持ったことで、前の会社を一気に軌道に乗せたのだと思います。しかも、それがうまくいった。
Rampでも同じことをしました。人は指数関数的な積み上がりの力を過小評価しているだけだと。だから初日からずっと、全員に叩き込んでいました。「速く動くための壁は取り除こう」と。
プロダクトもそうです。新しいプロダクトも機能も毎日出しています。KarimとGeoff、そして経営陣がすべてをレビューしながらね。そして彼らから何も言ってこなければ、そのプロダクトはそのまま世に出ます。小さな顧客群にでも、まず出して回してフィードバックをもらう。それが基本です。2ヶ月うだうだ迷ったあげく、どのみち直すものを出すよりも、市場に出してしまえばいい。そういう考え方です。
Rampの「社内AI」はいかに駆動しているのか
Hiro:納得です。また、少し違うトピックについてお話ししたいと思います。RampはAIを本当にうまく使うことで知られていますよね。Ramp社内のAI活用で、どこがいちばんレバレッジを感じましたか。
Sam:良いポイントですね。私たちは、このトピックにかなりの時間を使っていますから。
出発点は社内のAIチームRamp Labsだと思います。何年も前から自分たちのツールを作り続けてきたチームです。Ramp Sheetsもそうで、いまや数千人のユーザーがいます。AIラボ各社と並走して限界を押し広げていける、しかも自分たちの手でやれる。そう社内にも見えたと思います。
オペレーション責任者のBen Levick(ベン・レビック)や、社内AI責任者のSeb Goddijn(セブ・ゴダイン)は、社内のデータをきれいにして、Project Glassなど社内のプロダクトからそのデータを引けるようにしたんです。
Rampの全員にUIとワークフローを渡せています。社内で使えるあらゆるモデルを使って、必要なものを何でも作れます。見ていても本当にすごいことですよ。
恩恵を受けているのは、エンジニアだけではありません。EAやリクルーター、セールス、マーケティング、法務、財務。みんなが自分の定常ワークフローや本番で動くアプリを作って、仕事を10倍うまくこなしています。
Hiro:Project Glassで作った例で、共有できるものはありますか。
Sam:もちろんです。
採用チームが作ったソーシングエージェントがあります。ある職種の理想像がどんなものかをエージェントがわかっていて、ウェブ全体やあらゆるデータソースを回って、その人たちを見つけてくるんです。
Enablement Eddieというセールス支援のエージェントもあります。このエージェントは、Notionの中で動きます。いわば、Notionに全社の情報を集めた「Rampの脳」をつくったんです。これは決定的な一歩でした。そうしておけば、Glassでやることが、会社にすでにあるパラメータやプロセス、ストラクチャーとちゃんと噛み合います。
Enablement Eddieも良い例で、セールスチームの利用は3万クエリほど。商談中、通話が録音されているあいだ、Eddieは裏で動いています。通話中に必要なトークポイントや、競合のバトルカードを出してくれます。顧客に何か聞かれたときも、Eddieに聞けばすぐ返ってくる。その答えは、実際のセールスデータや勝敗分析にもとづいたものです。すべてGlassでつながっています。
Hiro:そのプロジェクトはエンジニアリングチームが主導したんですか。
Sam:作ったのはエンジニアリングチームと、プロダクトマーケティングのJacob Dahlbeck(ジェイコブ・ダールベック)です。
私のPEパートナーシップのチームでも、同じことが起きています。たとえば、投資先の情報が1ヶ所にまとまっていて、アプリで各社がどんな状況にあるかをすぐに確認できる。すでにRampを使っている会社もあれば、私たちを知らない会社もあれば、ファネルにいる会社もあります。
SalesforceやPitchBookなど、いろいろなシステムの情報をその場ですぐ束ねて、1つの情報源にまとめられるんです。1分後に通話に入ることになっても、エージェントとアプリが関連情報をそろえて、通話の準備をサポートしてくれます。
全社をAIファーストにするために「Ericが画面を共有した理由」
Hiro:実際、多くの会社が組織としてAIファーストになりたいけれど、全員を乗せて盛り上げることに苦戦しています。全員が自分のエージェントを作れるように、Rampは何をしてきたんですか。
Sam:いくつかあります。
まず、Eric本人が全社会議で登壇し、自分の画面を共有したんです。自分で作り、つまずき、失敗して、そこから解き明かすまでを全社に見せた。
AIでうまくいかないとき、人はつい忙しさに逃げるからです。「ほかの仕事もあるし」「これはあとにしよう」となりますよね。でも、彼が本当に見せたのは、逃げずに通り抜けるしかないということ。時間をかけてAIを回し続けて、AIが自分で抜け出すまで持っていく。実際、AIは自分で抜け出します。
だから、Ericはトップダウンで空気をつくったんです。「AIに本当に時間を割いて、解いて学べ」と。ほかの仕事を後回しにしている気がしても、です。「それこそが、私たちがみんなにやってほしいことなんだ」と言いました。みんなにこのシステムを自在に使えるようになってほしい。時間とともに生産性がまるで変わりますから。
そのすぐあとには、非エンジニア向けのハッカソンもやりました。エンジニアはガイド役となって、GTMをはじめエンジニア以外は全員が参加しました。みんなが手を動かして作って、賞も出ますし、優勝アプリを出せば社内での株も上がります。
初期にはAI利用のリーダーボードも置いていました。ただ面白いことに、誰が使っているかが見えるのは役に立ちましたが、そのうち「トークンを使うためにトークンを使う動き」が出てきたんですよね。
Hiro:トークンマキシングですね。
Sam:そのとおりです。
いまでは、AIの使い方を、実際の事業アウトカムのほうへうまく向けてこられたとは思います。GTMにいるなら、作るものは中核の指標を前に進めるものであるべきです。新規顧客の獲得、コンバージョン率、アクティベーション、エクスパンションなど。
ほかのチームなら、本物のインパクト創出を確かめることでしょう。最上位モデルを使ってToDoリストやメールを並べ替えるのは、それこそトークンの無駄遣いです。
もう一つ言っておきたいのが、セキュリティとITのチームです。AIの話をするなら、この人たちの働きは外せません。昼夜なく動いて、私たちの端末がAIの作業に耐えられるようにしてくれた。データはコンプライアンスを満たし、安全に保たれています。顧客の情報を扱っていますから、なおさらです。すべてを可能にしてくれているセキュリティ、DevOps、ITの各チームに、あらためて感謝を伝えたいです。
Hiro:ありがとう、もっと聞きたいこともありますが、時間が来てしまいました。CoSという役割の解像度が高まりましたし、急成長企業に「付き物」といわれてきた悩みの数々から、CEOたちを救う取り組みなのだとも感じます。素晴らしいお話に感謝します。
Sam:こちらこそ。ありがとうございました。



