チーフ・オブ・スタッフ(CoS)という役割への関心が、日本のスタートアップでも急速に高まっています。一方で、その定義や職務は曖昧なままです。実際に何が行われているのか、どんな素養が価値の源泉になるのか。中身がイメージできないまま、判断を保留している経営者は少なくないでしょう。
LayerXでCoSを務める櫻井優さんのキャリアは、公務員からはじまります。その後、デジタル行政プラットフォームを提供するGraffer(グラファー)へ。そこで執行役員まで務め、現在はLayerXでCoSとして、同社CEOの福島良典さんの直下に立っています。入社後はプロダクトマネージャー(PdM)として決済事業を立ち上げ、未経験のままマーケティング部長を経て、そしてCoSへ。見るべき部門が変わるたびにSlackとNotionを深く遡り、何が問題を引き起こしているのかを特定してから動き出す。CoSは「会社の中でいちばん強いエグゼキューターであるべき」と櫻井さん(通称:uさん)は語ります。
基本的にはKPIを持たずに、「よくできました」も存在しない。できて当たり前で、できなければダメ。CoSとはそういう職種だと割り切る櫻井さんに、ALL STAR SAAS FUNDのシニアタレントパートナーの楠田司がCoSについて迫りました。実務の内容、CoSに必要な素養、CEOとの相性という変数を踏まえ、自社に置くべきかどうかの判断軸も教わります。
会社でいちばん強いエグゼキューターであるべき
楠田:uさんのキャリアは公務員、スタートアップ、そしてLayerXではCEOの福島さん直下でチーフ・オブ・スタッフ(CoS)。異色なキャリアの持ち主だと感じますが、配属後を含めた変遷を伺いながら「CoS像」をつかんでいきたいと考えています。そこで、まず「CoSとは何か」をuさんが表現するなら?
櫻井(以下、u):経営者がその時々に必要としていることを、領域問わずに実行できる人。それによって、経営のバランスを取る人、というのが自分のイメージです。なかでも「領域を問わない」ことが大事だと捉えています。CxOがいる領域であっても、それぞれ任せきりにしないで、必要に応じて自ら入っていかなくてはなりません。
一方で、自分は常に、会社の中で「いちばん強いエグゼキューター」であるべきだと思っています。多くの人は「2割の労力で8割のことが進む」と言うじゃないですか。でも、その2割を詰めるのが大変。最後の詰めまでエグゼキューションするのがCoSであると考えて実践しています。あとは全体のバランスを取りながら「今やるべきことをやる」のも大切。長期よりは短期的な目線で物事に向き合うことが多いですね。
楠田:興味深い表現です。特に「全体のバランスを取る」って、ほかの職種ではあまり聞かないのかなと。
u:本来はCEOが担う役割なんですよ。ただ、スタートアップは物事が進んでいくスピードが速い。新入社員がどんどん入ってくる。事業もどんどん伸びて、プロダクトもどんどん増える。それらすべてをCEOがやれるのかというと絶対に無理。役割分担のなかで、より短期的なこと、今やらなきゃいけないことをCoSが引き受けることで、彼らのバランスが取れる。それがすごく良いな、と思っています。
とはいえ実務としては、福島さんよりも、全社COOの広造さんやバクラク事業部COOの牧迫さんとやり取りすることのほうが比較的多いです。福島さんともよくやり取りしますけどね。
マーケティングをやったことがないのに、マーケティング部長になった
楠田:まずは、すごく聞いてみたかった質問からさせてください。最初はプロダクトマネージャー的な立ち位置で入社し、そこからCoSになられた。「最初の半年間」は福島さんと、どういうことをやってきましたか?
u:常に一緒にやる、ということはあまりないんですよ。プロダクトマネージャーとして決済事業を立ち上げて、その部署の責任者もやっていたんですけど、当時はマーケティング部長が不在だったので「それもやるよ」みたいな感じでした。マーケティングは未経験でしたから、自分にとってはチャレンジでした。自分には特化した業務スキルがない分、「起きていることを構造的にどう整理するか」に頭が寄っているんですね。そのうえで、まったく未経験の領域でも自分のスキルを生かせるのか、という挑戦だったんです。
結果としては「それなりに形になるな」と。汎用的なスキルといえるのであれば、何かあったときに対応する能力、いわば「問題解決の能力」。だから、CoSもいいよね、みたいに役割が変わっていった。なので、福島さんと最初の6ヶ月で何かをやった、という感じでもないんです。6ヶ月かけて「マーケティングチームを良くしてほしい」といった話が出てくる。そこで「では、6ヶ月くらいでこういう状態を作りますけど、どうですか」と提案して、お互いに合意がとれたら後の進め方などは任されていますね。
楠田:かなりのスピード感で、しかも重要な役割をどんどん任されるじゃないですか。そこに対する不安って、なかったですか。
u:不安はないですけど、毎回すごく勉強しなきゃいけないので、大変さはあります。ちょっと脱線するかもしれないですけど……よく「同じ仕事ばっかりしてたらつまらない」って話、あるじゃないですか。自分は、CoSとしては同じ仕事をやっていて、テーマが違うだけなんですよね。目に見えて問題が起きていて、何か行動しなければいけないことは確実にある。「その問題はどうして起きているのか」を過去3ヶ月から半年の情報の中からひたすらキャッチアップする。Slackのチャンネルのやり取りやNotionの情報をつぶさに見て、問題の原因らしきものを見つけ、どうやったら取り除けるのかを整理する。
整理の結果としてのアプローチは、組織の形を変えることもあれば、KPIを設定し直すことも、やり方は根本的に変えずに業務への強度を上げることもある。何かしらを選んで、うまくいかなかったらやり方を変えて試す。うまくいけば終わり。このサイクルを、異なるテーマで毎回挑んでいるだけなんですね。なので、プレッシャーは当然ありますけど、領域や仕事が変わることに対する不安はあまりない。毎回勉強している、という感じですかね。
楠田:いや、意外でした。
u:LayerXのCoSは、そうやってさまざまなテーマを学び続けながら、試行錯誤を重ねて改善のサイクルを回せる人に適しているのでしょう。もちろん「今週中になんとかできないか」といった単発のタスクもありますけど、それは各ジャンルの専門家や、組織のリソースがあれば、ほかの人でも解決できますから。
元公務員、そしてアルバイトからの再スタート
楠田:その動き方はLayerXで身につけたものなのか、それともキャリア的に変わらずなのか、どちらなんですか。
u:おそらく前職の経験が大きいですね。公務員のころから役立っているのは体力くらい(笑)。前職はアルバイトで入ったんですよ。
楠田:そうなんですか!
u:高卒の35歳で元公務員って、ジョブディスクリプションに当てはまるものがないので、仕事がないんですよ。4ヶ月ほどの失業期間を経て、「3ヶ月で物にならなかったら契約延長なし」という条件で入ったのが、Grafferでした。
そこで初めて「問題解決」とか、スタートアップで飛び交う横文字のワードがたくさん出てきて、何を言ってるかわからない、というところからはじまって。問題をどうやって解決するかということを、前職の上司に教えてもらったんですよ。「どんなテーマであれ、問題解決は同じである」と。そこで教えてもらったものを生かしているところが大きいと思います。
「お前がやってるのはHowだ」──問題を解くとはどういうことか?
楠田:前職時代の教えが、uさんの中で形になっている、ということですか。
u:言語化は難しいけれど、実務面は特にそうなっている気がします。前職は行政手続きの効率化を手がける会社だったのですが、自分が在籍していた当時は、コロナ禍で「三密の禁止」が敷かれていました。自治体に補助金を申請する人がたくさんいて、現場が処理しきれないという案件の相談をもらったんです。
そんななか、自分は「それなら電子申請にすれば窓口業務が減るだろう」と考えていました。ただ、当時の上司に「それは電子申請というHowの検討にはなっているけど、いまは三密さえ回避できればいいんだ」と言われて。三密でなければいいなら、密にならないように窓口や会場を広くするという選択肢もあるでしょう?と。電子申請にして窓口に来ないようにする方法を取ろうとしているけれど、来たとしても1分で帰りさえすれば三密には当たらない。解きたい問題は三密であって、電子の実現ではない。その話をされたときに、めちゃくちゃハッとして。
ついつい、「問題」というのはずれて議論されていく。そのときに「ピンを絶対に外すな」と言ってもらえたことが、いまも忘れられないくらい衝撃でした。問題を解くとはこういうことなんだな、と。「君がやっているのは問題をどう解決するかの仕事であって、何を問題・課題として設定するかがまったくできていない」とも言われました。そこから、人生レベルで物事の考え方がガラッと変わった。まさにアハ体験でした。
自らnoteに「CoSとしての仕事」を書いた理由
楠田:LayerXでCoSを任された当初は、どういうふうに価値を発揮していこうと設定されたのですか?
u:まずはCoSとしてのアサイン理由を全社向けにまとめるところから。それをnoteにも書かせてもらったんです。CoSとしての自分の仕事はこれです、みたいな。

u:自分なりに取り組み方やバリューの出し方を考えて、初めに直属の上司になる福島さんに持っていきました。できること/できないことを整理し、役割としての仕事内容はその時々で変わるけれど、基本の考え方としてはこれでどうでしょうか、と。任命後、1週間ほどで持っていきましたね。
楠田:自分で設定して、最初の数ヶ月でどんなことをしていたんですか。
u:マーケティングチームのメンバーが兼務だらけだったので解消したかったのですが、すぐには難しそうでした。当時は事業もすごく成長していた反面、未熟な面も多く、KPIの設計なども問題だらけで、何から着手するかは悩みましたね。マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセス、それぞれで部長に求められていることと現場でズレがあるとか。「いまの社内は、自分にこういう状況に見えています」という話を率直にさせていただいて。
アサインされた直後の7月から8月は、まず部署への理解度を上げたり、月間でどのぐらい、何の仕事をするかの概算をやったり。あとは、指標の悪化が露出していたけれど誰も原因解明できていなかったので、経営が見えていない問題としてレポートしたり。ほかにも、定期的にレポートは出していました。CoSとして見える組織・事業に関わる問題の原因をまとめて、よく経営メンバーに提出していましたね。
楠田:抽象度の高い課題設定は経営がアサインし、あとはレポートを上げつつ自分で走っていく、という感じなんですか。
u:基本はそうでした。「何が問題か」は、すでに見えているんですよ。数字が悪い、退職者が多い、やらなきゃいけないタスクが滞っている……。これらは別に探さなくても、もともと見えているものだと思うんです。ただ、その見えている問題が「なぜ起きているか」のほうは、見えていないことが多い。
楠田:なるほど。
u:CEOがそこまでの解像度で課題を見ることは、絶対に無理なはずなんですよ。でも、「なんだかヤバそう」は数字をモニタリングすれば見えるので。それに、課題は時間軸によって解決するものもあるじゃないですか。すでに組織が対応してくれていて、あと2ヶ月待てば正常化するよ、ということもあれば、放っておくことでさらに悪化するものもある。放置しても良くならないことを見つけて、「自分がやります」とレポートする。そういうイメージですね。
動き出す1ヶ月前に、全社にアナウンスしてもらう
楠田:さきほどのお話で印象的だったのが、前職時代の学びで、突き詰めれば課題の特定が大事だ、という話。起こっている問題に取りかかるときに、課題の特定のために習慣化している動きはありますか?
u:あまり飛びつかないようにはしています。目に見えた問題、たとえば「オペレーションが良くない」といったことはたくさんあると思うけれど、それって局所的な解決にしかならない。それを引き起こしている問題は何なのか、本当に解くべきはそのオペレーションなのか、まではわからないじゃないですか。ある程度は大きな問題、時間がかかりそうなものに関しては、1ヶ月くらいは原因調査に時間を割くようにしています。ほかにも、部署ごとで起きている問題に対しては、問題に関連する部署のSlackやNotionを半年分くらい遡って深く見るようにしています。どういう議論がされてきて、いまは何が起きているか。
自分の場合、そもそも仕事自体も、用語の意味がわからない状態からスタートすることもある。マーケティングなら「SEMとは?SEOとは?」みたいなところからはじまるので、基本的な勉強も要ります。本に頼るときもあれば、メンバーに教えてもらいに行くこともある。SlackやNotionを見て、その部署の人に「いまどんな仕事のやり方をしているんですか?」と聞いたりして。
物事を整理するのって、パズルを組み立てるのに近いと思っているんです。ピースがまずテーブルに出そろっていなければ、組み立てても変な形にしかならない。その整理に1ヶ月くらいはかけるようにしていて。だから、自分の担当が変わるときは、会社の通常の異動よりも1ヶ月早くアナウンスしてもらっているんですよね。
楠田:準備期間や調査期間を、ちゃんと事前に持っておくんですね。
u:そうしないと「突然、CoSが動きはじめて、よくわからない」とみんなが戸惑います。なので、「櫻井は再来月からカスタマーサクセスを見るので、ヒアリングに行きます」という周知をできるだけ早めに行なってほしい、と経営陣にお願いしています。
明確な指示は来ない。ボールが永遠に投げ続けられる
楠田:uさんが過去に福島さんからもらったオーダーで、いちばん印象に残っている相談はどんなものですか。
u:明確に「これ」というものではないのですが、「これは組織を変えたほうがいいんじゃないか」「ここに問題があるようだが、何か手を打つべきか」というような相談、問題提起はよくもらいますね。福島さんは普段から、社内のVPクラスのメンバーを信頼してくれているので、「これって何かおかしくない?」と思ったことがあれば率直に問いかけてくれるんですよね。
福島さんの言うことは、「先を見る力」が長けている人ゆえに意味を持つものもたくさんある。一方で、問題が起きている原因まではその時点で特定できていないことも多いので、福島さんの言葉を鵜呑みにせずに、自分の見解をはっきり伝えることも大事です。そういう意味では、「一緒に走っている」という感覚かもしれないですね。
部門長に任せるか、自分が入るかの線引き
楠田:セールスやカスタマーサクセスにはそれぞれ責任者がいらっしゃるわけじゃないですか。福島さんから「部門にこういう問題があるよね」と投げられたときに、CoS側で注目すべきか、部門に任せるべきか。どうやって切り分けているんですか?
u:部門の仕事に向かうものに関しては、基本的にその部門長が担うべきだと考えているので、ほぼ関与しないです。ただ、グラデーションの話だとも思うんです。いまの部署が持っている仕事のやり方に対するアプローチであれば、関わる必要がない。でも、このままの仕事の仕方では方向性からずれていくよね、という場合は、組織の形を根本から見直す必要がある。それだと、自分が関わることが多くなります。
楠田:福島さんと一緒に、それこそもう構造自体を変えるぞ、みたいな。
u:そうですね。たとえば、SaaS時代のオンボーディングって、お客さまにはまずプロダクトを利用してもらうことが重要で、受注したら伴走していくのが一般的でした。でもいまは、LayerXもそうですが、海外の会社でも成果課金という形になり、課金モデルも変わってきています。シート課金であれば、ユーザーがちゃんと使ってくれれば成立している。でも、成果課金は、ある仕事が自動化によって完了したとか、そういったものに対してチャージされるモデルです。
そうなると、プロダクトを使ってもらうこと自体よりも、使った結果としてお客さまが得られた成果に対してチャージしてもらうので、カスタマーサクセスという概念が明らかに変わってきている。「真のカスタマーサクセスとは、お客さまの業務がなくなった状態だ」といったように。そうすると、お客さまが自分で操作できるようになって日常の運用にどれだけ入ったとしても、自動化が進まずにお客さまが手修正に時間を費やしているようなら、全然価値が出ていない。だとしたら、カスタマーサクセスのオンボーディングのあり方から変えたほうがいいよね、という議論が出てくる。
ただ、カスタマーサクセスでオンボーディングしている人たちは、今やっていることはそれはそれでやらなきゃいけないのに、未来に向けて変えていくこともしていかなきゃいけない。同時にやるのは難しいので、そのあたりは自分が関わっていって、どうやってトランジションしていくか。変化量に応じて、CoSとして関わるべきかどうかを決める、という感じですよね。
楠田:端的に大変な仕事ですよ、これ。
u:大変です。まさにエグゼキューターですね。
楠田:いまの話で、なぜ1ヶ月から2ヶ月も下調べが必要なんだろうと感じていたんですけど、すごく納得しました。
u:あともう一つ、自分のポリシーに関わることもあって。新しくアサインされたときにすぐ「旗を振る人」っているじゃないですか。これ、自分は反対派なんですよね。「部署の何を知ってんの、君」と自分でも思うので。指示を出す相手、依頼する相手には、組織で何十人と動いてもらうことになる。それなのに、彼らの仕事を理解しないままフレームワークにはめ込んで「こうすべき」「ああすべき」というのは、アンチパターンだと感じるし、人はついてこないでしょう。
ある程度は理解し合って会話できるレベルまでこちら側のキャッチアップが終わるまでは、何も言わない。でも、何も言わない期間を四半期のはじめから取ると、1ヶ月何も言わない期間がどうしても生まれちゃうじゃないですか。そうしないために、助走期間としてしっかり時間を取る、という考え方でやってます。
楠田:納得です。いきなり来て言われたら、やっぱり嫌ですよね。
u:正しいか正しくないかというより、感情的に嫌ですよね。それはやっぱり考えていますかね。
CoSには、見ていいデータの範囲が決まっていない
楠田:noteにも書かれていた内容ですけど、データのアクセスは、どこまで公開されていたんですか。
u:基本的に、CoSって専任の役職を持っていないんですよね。HRの仕事だったら人事のデータにアクセスするとか、カスタマーサクセスや事業部の人間であればお客さまに関するデータにアクセスするとか、職に応じたデータアクセスがある。でも、CoSにはそれがない。だから、別の人格として持っている「事業部の櫻井」としてのデータアクセス権しかなかった。あとは執行役員としてのアクセス権ですかね。経営会議の議事録みたいな話はありましたけど、特に人事データに関しては一切なかった。
楠田:それ、結構難しい問題じゃないですか。
u:そもそも見る権限・職責ではないよね、というのが一つ。あとは、人事データって意外にセグメントが分かれていて。人事データと一言で言っても、人事の人が見られる・見られないがいろいろ決まっているじゃないですか。その辺の整備も含めて追いついていなかったのもあって、まったく見られなかったですね。
CoSがKPIを基本的に持たない理由
楠田:uさんのnoteを読んで印象的だったのが、KPIを基本持たないことだ、と。それはなぜなのでしょう?
u:持つときもあるんですよ。いまも、あるプロジェクトの立て直しをするにあたってKPIを持っています。KPIって、プロセスやファンクションに対して当てるものなんですよね。「プロセスが正常に機能しているか」を測るためにあるじゃないですか。たとえば、ある仕事をはじめて終わるまでに100時間かかっているものを減らそうとするなら、プロセスを細分化して計測していく。
「箱を開ける作業は5分で済ませるべきなのに7分かかっている」ならば、ここを5分にするというKPIが置かれることによってプロセスが正常化する。KPIは、あるプロセスが正常化しているかどうか、より良くするために置かれる重要な指標、というイメージです。それに、KPIを置くと引力がすごく働く。KPIを達成することが目的になるというのは、良くも悪くもある。目標の達成が目的化してしまうと、長い目で見たときに、正しいアプローチを考えられなくなる。あるいは、短期的になってしまう。基本的にはCoSとしてのKPIは持たないほうがいいかなと思っていますね。
経営会議では、ほとんど発言しない
楠田:uさんの仕事ぶりを聞いていて思うのが、会社がどういう方向性を目指していて、数値的にどうか、現状と未来のギャップを一定押さえながら、「ここは自分が入るべき、入らなくてもオッケー」と判断されているのかなと。見えたほうがいい数値ってあるんですか?
u:数字で見たほうがいいことは、基本的に事業が主軸ですからP/Lですね。ほかにも、顧客数や売り上げ、プロダクトの利用状況、あとは事業計画とその実績あたりでしょう。ただ、自分が一人でP/Lのギャップを見るようなことはありません。そこは経営やCOOがメインで見てくれています。「絶対にギャップが生まれている」「このままじゃ到達できないよね」といったことを議論して、ギャップをどう埋めるかのフェーズに入ったら、自分もすごく関わるようにしています。COOがやっていたP/L全体の管理から見に行くことのほうが、少ないかもしれないですね。
なので、経営会議で自分はほとんど発言していないんです。もちろん意見は述べるんですけど、基本的には、何をするかが決まってからが自分の勝負。何をやるかを決めるフェーズは得意な人に任せる。その過程で「こういう観点もあるのでは」という意見を出すことはしますが、最低限にとどめています。
楠田:それはあえて言っていないわけですよね。
u:あえて言っていないし、言ってもそこまで自分の得意なところじゃない。一方で、経営合宿などで「これをどうやっていく」という話をするときには、たくさん発言するようにしていますね。具体的な部長会議や「今月どうする」という話なら、やっていくことが決まっているなかでどう達成するかなので、かなり出ることが多いかなと。
楠田:CoSとして必ず入っている会議体はあるんですか。任されるミッションにもよるはずですが。
u:CoSとしてはないですね。VPの一人として経営会議やレベニュー系の会議に出るということはありますし、CoSという仕事の中の一つでHR組織を管掌しているので、HR組織の定例に出ることはある。でもそれは、あくまでHRのヘッドとして出ているので、CoSとしてのみで出る定例は基本ないですね。あとは新しい論点が生まれてくるので、どちらかというと主催者になることが多いですかね。「この会議をやるので集まってください」と。
「チームで経営する」から、代表にも遠慮なく意見を言える
楠田:福島さんと意見が食い違う場面、ぶつかる場面って結構あるんですか。
u:会社が進むべき大きな方向性に関しては、基本的にズレはないはずです。やっぱり、企業経営に関しては福島さんのほうが自分の100倍くらい優秀だと感じているので、信じてついていきます。ただ、もっと現場レベルの課題に目を向けるときは、立場の違いややり方の違い、物事を見る解像度や角度の違いもあるので、意見が食い違うこともありますね。
そこで徹底的に議論したあとにハッとさせられて、「福島さんの言う通りだった」と思い直すこともありますが、意見を言うこと自体に遠慮する必要はないと考えています。「思ったことをちゃんと言う」というのは、意識的に実践していますね。
楠田:逆に、uさんの意見が通ることもあるんですか。
u:もちろんです。「uさんが言うんだったら、多分その通りだからやっとくよ」とおっしゃっていただいています。
楠田:素晴らしい。
u:福島さんの方針でしょうね。「チームで経営するんだ」というのを、よくおっしゃっていて、福島さん自身も「チームの一員」という感じなんです。「独立した意見を持て」と各々が出し合って、それが最適だと考えれば、すんなりと賛同する。そのフラットさが良いところかな、とも思います。
楠田:自分の意見を持つ組織、素晴らしいなと感じました。でも、uさんの立場上、それぞれ意見を持っている人たちの間に入って何かを解決しに行くわけじゃないですか。取りまとめるのがすごく大変じゃないですか?
u:どうなんでしょう。いろんな人がいますが、事業を圧倒的に成長させてお客さまに価値を提供したいというところが共通しているので、そこは誰もブレていないんですよね。そのうえで、やり方とかクオリティとか、いろんなところに摩擦が起きる、というだけなので。だから、間を取り持つというより、「実際にどうしていくか」という議論に自分も関わって、組織体制やアプローチについて提案をするようなイメージ。摩擦はあっても、目指すゴールは一緒なので、対立は起きないですね。
「その話、いま社員に響きません」と代表に告げた
楠田:福島さんとuさんで意見が分かれ、結果としてuさんが提案した方法を取ったことでうまく進んだ事例はありますか。
u:最近のことですが、LayerXには毎週、代表が全社向けに話す週次定例の時間があります。カルチャーやAIなど、いろんな話題をしゃべる。とても良い場なんですけど、自分から見ていると、今この瞬間は「足元の事業をどう伸ばすか」「ここからの半年や1年間でいかに事業計画をフィットさせるか」「この製品をどうやってお客さまに届けるか」という議論が社内で注目を浴びている。部長たちを筆頭に、みんなのアテンションがそこに向いているんですよね。
そのなかで「AIによって10年後どうなるか」みたいな話を毎週されても、響かない。だから「単純に空気を読めていない人になってますよ」という話をしたんですよ。そうしたら、「確かに」と感じたようで、会社全体向けに話す内容をガラッと変えてくれたんです。
楠田:まさに提案から行動が変わったわけですね。
u:そういうレベルなんですけど、意外とそれが効いてくる。LayerXの社員数はいま700人を超えましたが、それくらい社員がいると「代表の発信が自分ごとにならない」人も出てきてしまうと思うんです。代表の発信って、みんなが自分ごとになるからカルチャーがより強くなるとか、やる気が出るとか、理解がアラインされるとかいう類のものじゃないですか。そのときに、自分ごとにならない話ばっかりしていても自己満足ですよね、という話をしました。それを真剣になりすぎず、笑いながら言える関係性です。
信頼関係の構築につながる2つのこと
楠田:次に聞きたかったのが、部門をまたぐことが結構あるから、信頼関係がとても大事かなと。どうやって作っているんですか。
u:一つは、言葉の重みって、過去の自分の実績に引っ張られるところがあると思うんです。着任して1ヶ月で騒ぎ立てても意味がないのと近い。「誰が何を言うか」とは、どういう肩書きの人かではなく、「どういうことを考えていて、何ができる人が言うか」が結構大事になる。自分は決済事業をずっと担当してきて、運が良かったのもあり、それなりの事業としての形になりました。そのなかで「うまくいくように組み立ててきたことを転用しているのであれば、言うことを聞いてもいいかな」と考える人がいる。だから、初速を出すのに何かしらの実績は必要でしょう。
もう一つは、どれだけ他人のために時間を使うか。自分は厳しいことも結構チームメンバーにも言うんですよね。特に直下・直属の直レポ、いまだとVP以上の人たちにはストレートにフィードバックします。嫌だな、と感じている人もたくさんいるはず。でも、できていないことを指摘するんじゃなくて、フィードバックとして「こうしたら良くなる」という具体的な、Howのティーチングも含めてやる。「こうしたほうが、あとで問題が起きないよ」みたいな。
人って、どこまで行っても、自分に対して時間を使ってくれたり何かしてくれている人のことは、そんなに嫌いにならないじゃないですか。その結果、アドバイスを聞いてうまくいったという経験があったら、「この人のアドバイスは聞いてみようかな」となる。その蓄積が物を言います。自分のマネジメントスタイルは、たまたまうまく効いているのかな、という実感はあります。めっちゃ厳しいけど、めっちゃ時間を使う。自分がやってもらったことを、やっている感じですかね。
楠田:僕がもしuさんの部下だったら、見てるだけで忙しい人が、めっちゃ厳しいことを言うけれど、自分のために時間を割いてくれたら、もう「やるか」ってなりますよね。
u:言われているときは多分、嫌ですけどね。
CoSに必要なスキルは、まず体力
楠田:CoSに最も重要なスキルって、改めて何だと考えますか。
u:体力かなと。結構、フィジカルが大事。あとは、構造的に物事を捉える力が、有利に働く気がします。物事に対して反射的に高度なテクニックでアプローチするというのは、確かに方法の一つですが、汎用性がない。それに、扱うテーマが大きくなればなるほど、人によるボラティリティは収束していく。だから、たくさんの人がいたり、大きなことをやったりしているなかで起きている問題は、構造的欠陥があるほうが多いと考えています。
人によるボラティリティの収束がうまくいかないということは、何かがゆがんでいると捉えます。CoSの特性としては、そういったことを見極めるスキルが重要だし、それがないと難しいかもしれません。
楠田:どういう経験者がCoSにフィットしそう、という見立てはありますか。
u:役職の捉え方は難しいんですけど……CxOたちは経営という仕事に対して、分野ごとにアプローチしていますよね。Howの違いでしかなくて、経営という能力をそもそも持っていなければ、CPOもCFOもできない。どういうバックグラウンドがあり、どういった職種か、というのは、蒸留されていくと結局あまり残らない。結局、CoSとしての思考性を持った、そういう物事の捉え方をしている人間が、たまたま専門職としてプロダクトマネジメントに置かれているだけかもしれません。
「よくできました」が存在しない仕事
楠田:CoSとして、定性的な目標はどんなものを設計されているんですか。
u:自分は、経営課題をとにかく解決し続けるべし、みたいな定性的な目標しかないです。いまの自分の仕事や定義からいくと、達成や未達がないんですよ。解決するしかない。芯を食っていれば1ヶ月で良くなるかもしれないし、何回もやり直して半年かかるかもしれない。とにかく早ければ早いほどいい。「できない・できた」の二択で評価できるものではなく、それが許されていない仕事だと思うんですよね。「できた」しかない。
だから自分は、まず評価がいらない、評価されなくていい。できて当たり前、できなかったらダメなので、「よくできました」は絶対にあり得ない。よくできたかどうかは、自分の仕事ぶりを見たほかのVPが「櫻井さんがやったおかげで、はるかに良いクオリティで仕上がった」とか、「より早く終わって助かったから感謝しています」とか、他人からの言葉で測る。
自分の中では「普通通りにちゃんとできたか」「みんなの期待よりもできなかったのか」の二択しかない、と割り切ってるんですよね。CoSはそういう職種でしょう、と考えているがゆえに、目標もふわっとしている。それが実態かなと。「早くして」と急かされるようなことをみんなに言われたら、期待を下回ったということ。「早くしてくれてありがとう」と言われたら成功で、何も言われなかったら普通だった、という感じなので。
「外野のコンサルっぽいよね」と言われて
楠田:エグゼキューターという言葉がすごくしっくりきていて。社内の方から受けた、いちばん厳しいフィードバックってどんなものがありましたか。
u:CoSはそのときどきでフォーカスする仕事がコロコロ変わるので、それが切り替わるタイミングでとあるメンバーに「何が助かって、何が楽で、何が物足りなかったか言ってみて」と聞いてみたことがあります。当時は、組織が生み出すアウトカムをどう変えるかにフォーカスして仕事をしていたので、部署のメンバーと深く関わりを持てていないタイミングでもありました。そんななか、メンバーから「自分はuさんがいてくれて助かったし、いろいろ勉強になったけれど、外野のコンサルっぽいなと感じた」と言われて。ああ、そういう感じに見えていたのか、と反省させられたことがありました。
楠田:なるほど。
u:その人から見たら、自ら手を動かして課題を解決する人というよりも、横から来て指示出しだけしてきているように見えていたんだろうな、と。それは反省しましたし、今後の関わり方を見直すきっかけにもなりました。
楠田:フィードバックを積極的に受けるのは、何か理由があるんですか。
u:自分の仕事を自分で客観視するって、結構難しいことだと思うんです。だから、「できていなかったら、できていないと言ってほしい」とずっと言ってはいますね。年を取ってくると、フィードバックってやっぱり得にくくなりますよね。年上、役職、いろんなしがらみのなかで「言いにくい」というのがあるじゃないですか。だから、できるだけ周囲の人には「意見やフィードバックをください」と伝えるようにしています。福島さんに対しても、「遠慮せずに要求してください」とよく伝えています。福島さんも立場上、部下に気を遣うこともあると思うので。
福島さんが好きな人を選べばいい
楠田:今後、CoSを採用したいという企業は、福島さんとuさんの間柄だからこそ、この役割が成り立っているものだ、と考えてしまうのではないかと。相性の良さは、やはり関係しますか?
u:相性よりも信頼ですよね。彼がやりたい事業に、自分の人生をベットするという思いでLayerXに入社しているので、そもそも信頼はしています。入社当時はVPでも何でもなかったけれど、新規事業の立ち上げ時期だったので、それなりに関わりもありました。福島さんの本音はわからないので多分ですが、相性も良いとは思います。
だからこそ、率直に「全社向けの話が滑ってる」みたいなことも彼に伝えることができる。自分の伝え方やキャラクターなど、いろんなことを含めて「あなたが言うなら」と思えるぐらいには信頼関係を築けているかなと。そういう関係性は必要ではないでしょうか。日常的に意見を言い合うのに「言い方が腹立つな」と感じていたら、本質的な議論に至らないまま、永遠に、かみ合いませんからね。そういう意味では、CoSを外から採用してくる難易度は高いかもしれません。なので、手はじめは内部から信頼できる人をアサインするほうがいいと思います。
楠田:uさん側から見た視点だとどうですか。CoSのオファーをもらっている人が、経営者との相性が良いかどうかを見極めるとしたら。
u:スタートアップという文脈においては、創業者が自分の人生をベットしているわけじゃないですか。自分の信用で資金調達をしているわけなので。だから、一般的で大きな会社よりは特殊ですよね。そういう人生をベットしている人間に対して、自分も人生を賭けられるか。そう信じきれるかどうかが肝心だと思います。
CEOとは一心同体。CoSというロールをやりたいか/やりたくないかも大事だと思いますが、「この人と沈むときは一緒に沈みます」と言えるような人である、ということが大事なのかなと。自分も本気で人生を賭けているからこそ、「おかしい」と感じることがあれば真摯に「おかしい」と伝えられるんだと思いますね。
「燃やせる瞬間は意外に短い。ここが最後だ」
楠田:「人生をベットする」って、なかなか衝撃的な言葉で感動しました。福島さんと出会って「この人に賭けたい」と思えた、最終的な決め手は何だったんですか。
u:自分にとってスタートアップ2社目ということもあって、「スケーラブルであること」の重要性を体感していました。初速が出そうだけれど陥りやすそうなパターンが見えたときや、壁にぶち当たったときのコンフリクトをいかに解消するか、といった話は、経営者の方と話すときにはよくするんです。そこでの福島さんの返答や考え方が、ものすごくシャープだった。内容は年単位で変わりはするけれど、めちゃくちゃ考えている。常にスケールし続けることを頭に置いた前提で物事を考えている人だな、と。
「この人は本当にやりたいことをやるための方法を、すごく深くまで考え続けている人なんだな」と。一方で、自分はそこにそれほどセンスがないというか、発明はできないけれど、今見えている世界の延長線上にこんなコンフリクトが起きる、という予測は結構得意です。自分の年齢が40歳を超えて、仕事に割ける時間や体力、知能の回り方も含めて、人生で燃やせる瞬間は意外に短い。それをスタートアップで燃やせる働き方は次が最後だろう、と決めていたので、LayerXにその場を求めた、という感じでしたね。
相談されたら「誰を置きますか」と聞く
楠田:最後に、CoSを置こうか迷っている経営者に向けて、uさんが仮に相談を受けましたと。uさんだったら、どういう言葉をかけたり、質問したりしますか。
u:バイネームで「誰を置きますか」と聞きますね。多くの相談は「CoSのロールが必要ですか」という相談のはずです。でもそれは多分、良い問いじゃない。「この人をCoSにするのをどう思いますか?」という質問がおそらく正しい。だから「誰を置きますか」が最初に来る。そのうえで、候補に挙げた人と「バチバチにケンカできますか」と聞く。そこで「ケンカできないんだよな、なんでも二つ返事でやってくれるから……」と言ったら、その瞬間に「きっと適切じゃないですよ」と返すでしょうね。「怒ったら怖いから気を遣うんだよね」というのも、CoSにするのはきっと間違い。「あの人となら、本音でぶつかり合える」と言える人を置けるんだったら、うまくいくかもしれません。
楠田:ここまでお聞きした話が全部つながりますね。
u:それが正しいのかどうかわかりませんが……自分はでも、福島さんとは遠慮なくぶつかって、本音で言い合えます。
楠田:今日はCoSについて知るための、良い時間をいただきました。ありがとうございます。



