SaaSスタートアップの評価額に大きく影響するもの、それがMRRやARRの成長率です。「トップラインが常に成長しているか」「今後も成長できるか」という問いに対し、SaaSスタートアップは売上拡大戦略を高度化させ、それらの問いに応えなくてはなりません。
そのなかで、日本においてはトラクションを生み出すチャネルのうち、いわゆる「代理店を経由した販売」など、パートナー企業とタッグを組み、販路を広げていくことが重要な手段のひとつとなっています。国内大手SaaS企業の売上構成情報を見ても、その重要度は年々高まっているように感じられます。
しかし、国内SaaSスタートアップからは、「パートナーセールス立ち上げのノウハウがない」という声が上がります。より適したパートナーを求めること、そしてパートナー戦略の解像度を高めることは、SaaSスタートアップの成長に大きく貢献する手段のひとつといえるでしょう。
そこで、ALL STAR SAAS FUNDでは、パートナービジネスをレバレッジするための戦略や体制についてノウハウを取りまとめることが重要と考え、全3回の連載で、この分野について深堀りしていくことにしました。
初回は、「アライアンスをハックする」をミッションに、売れる代理店を増やすPRM(代理店連携管理クラウド)「PartnerSuccess」を提供している、パートナーサクセス株式会社の執行役員COOである秋國史裕さんを招き、そもそもパートナーとはどのような企業や組織体なのか、彼らとどういった関係を結ぶべきか、といった概論から伺います。聞き手は、ALL STAR SAAS FUNDパートナーの佐伯裕人です。
SaaS第二世代から活発になってきたパートナー活用
佐伯:SaaSにおけるパートナー企業はどんな種類があるのか。冒頭の導入として、まずはご紹介いただけますか。
秋國:ALL STAR SAAS FUNDマネージングパートナーの前田ヒロさんのブログなども拝見してみると、「SaaSも第三世代がきている」といった定義がありますね。
第一世代は2000年代、当時はASPと言ったり、クラウドという言葉が出てきたりした頃。まさにオンプレミスの提供方式の変わり目でした。このときのメインプレーヤーは、IT業界にずっといたソフトウェアベンダーたちが、SaaSを提供しはじめており、パートナーとしてもSIerや大手事務器屋メーカーによる、卸売や再販というスタイルが多かったです。
第二世代は2018年くらいから。マネーフォワード、Sansan、freeeといった企業がパートナービジネスを開始しています。これらの企業は基本的に直販で売上を伸ばしてきたと思うのですが、さらにパートナーによって市場を開拓してきたと思います。
第三世代はバーティカルSaaSが出てきたあたりですね。SaaS企業のパートナー開拓に関する相談を私もよくいただきますが、実際のところは成功例もそれほどありません。従来は、SaaSのパートナーというとSIerや士業の方々、銀行や地銀が務めてきた流れがありましたが、IT商材やSaaSを取り扱ってこなかったような業界の方々が、新たにその業界を盛り上げるため、あるいはDXを進めるための手段のひとつとして、パートナーになり得ると思ってます。これが、ホリゾンタルとバーティカルにおける、パートナーの違いと捉えています。
パートナーの種類とポジショニングを知る
佐伯:一次代理店、二次代理店、ディストリビューター、エージェントなど、ポジショニングもさまざまですね。現状は、どうなっているのでしょうか?
秋國:種類としては大きく3つあります。紹介パートナー、取次パートナー、再販(卸)パートナーです。
紹介パートナーは、お客さまにサービスを紹介してもらい「案件のトスアップ」をいただくことでリードを獲得し、その報酬を支払います。
取次パートナーの場合は、クロージングまで行なってきて、申込書だけを渡すような形です。再販(卸)パートナーは、カスタマーサクセスまで担ってもらうパターンが多いですね。
また、パートナーの種別としては、再販(卸)パートナーは「ディストリビューター方式」に近いケースもあります。つまり、顧客に直接販売しないディストリビューターとして、二次代理店を抱えていながら中間に入るような存在です。代表的な企業はSB C&Sさんやダイワボウ情報システムさんがそれに当たるでしょう。
ディストリビューターをSaaS企業が利用するメリットとしては、契約事を一社ごとにせずに済むという点が例として挙げられます。エンプラ系の大手パートナーを獲得しようとしたときに、全て一対一で交渉から実施までしていくと、契約に際しては時間もかかり、その後の請求管理も発生するなど、負担が大きいですよね。ディストリビューターが後の二次代理店になるようなエンプラ系パートナーの取りまとめを担ってくれるので、オペレーションがとても楽になるのです。
佐伯:一概に言えるところではないかもしれませんが、それぞれのパートナーにおけるフィーのモデルには違いがあり、どのように換算すればわかりやすいでしょうか?
秋國:紹介パートナーの場合だと、リードを創出するアポイント取りを目的にすることが多いのですが、「商談設定」と「成約時」でフィーの発生が違うパターンがあります。商談設定ならリード獲得のコストなのでCPAに相当しますし、成約時ならばCACで換算をすればいいのかなと思います。
取次パートナーは契約前にフィーが発生するので、CAC換算で見ていただくパターンと、場合によってはストックビジネスでレベニューを求められるパターンもあります。再販(卸)パートナーの場合だと、たとえば「単価1万円のものを7,000円で卸す」という形ですから、ベンダーからすると売上のトップラインは下がってしまいますね。
乗り出すのはPMF後のタイミングから。構築には数年かかると思っておくこと
佐伯:日本国内でも、SaaSのパートナーのリレーション強化が近年見られてきていると個人的には思っています。上場会社の決算資料を見ても、パートナー経由の売上も高まっており、今後の取り組みを強化するような発表がなされています。日本におけるパートナーの存在価値が高まってきた背景や理由など、どのようにお考えですか?
秋國:パートナービジネスに取り組むタイミングからお話しします。
プロダクトのライフサイクルにおいては、立ち上げ期から成長期へ向かっていくという段階において、SaaSベンダーは立ち上げ期に苦労しながらPMFを目指し、その間にもメッセージや売り方も変わってきます。そこでは型が決まっていないので、まず直販で型を決めます。
そして、成長期に向かって、一気にシェアを広げていくタイミングでは、パートナー経由での販売もひとつ考えたほうがいい選択肢です。理由としては、成長期からさらに拡大していくときにあたって、マジョリティ層に対するアプローチ獲得は超えないといけないキャズムとなります。
SaaSスタートアップの人たちは、イノベーターやアーリーアダプターに対するマーケ事例は得意だと思うのですが、マジョリティ層へのマーケティング活動にあまり目が向いていないところがあります。パートナー経由で受ける情報をインプットされることで初めて認知され、検討されることも多いのです。
たとえば、サイボウズさんは現状で60%以上がパートナーセールスの売上になっていますが、彼らは10年以上もパートナービジネスに取り組んでいます。HENNGEさんも直販中心の体制から、約7年をかけてパートナービジネスへ完全にシフトされ、年間売上のほとんどがパートナー経由に移り変わってきた。
HENNGEさんのケースをもう少し見ると、仮にIDあたり500円で販売しているところが、IR資料を見るとARPUがその半値くらいの値段で記載されています。つまり、基本的には60%から70%で卸しているから、ARPUを見ると低く出るのですね。
成功例が周りでも出てきたところで、SaaS企業の間でも話題に上ることが増えてきた印象です。これまではThe Modelを中心に直販体制を整えることが主流でしたが、パートナービジネスにおいても、ホリゾンタルSaaSから一定の型が生まれてきたんです。
佐伯:代理店さんもどんどんオープンになっていったり、SaaSスタートアップ側がコンテンツマーケティングで働きかけて、インバウンドでパートナーから問い合わせを受ける仕組みも充実していっています。そういったお互いの変化があるのですね。それこそZoomが積極的にパートナービジネスを仕掛けたことなど、変化のきっかけはあったのでしょうか?
秋國:それに関しては観点が2つあるかなと思います。1点目が、従来の第一世代といわれるオンプレミス時代のパートナーは「売り切り型」が多いので、単年ごとの売上をいかに作れるかがパートナーにとっても重要でした。ただ、それだと先細りが見えてきて、SIerの経営層も「ストックビジネスやリカーリングに移っていかなければ」という意識が見えてきた。それが私の経験上でも、2010年くらいから変わってきた肌感覚があります。
ただ、まだクラウド全盛までいっていませんし、目先の数字を作らなければ予算の達成もできませんから、変化は一気には起きなかった。それが、顧客もクラウドを求めはじめたところで、SIerの人たちも「パッケージライセンスを売っている場合じゃない。ちゃんとクラウドに取り組まなければ」と変化を求められたのは大きいでしょう。
そうしてSIerさんが変わってきたことに加え、ここからは2点目として、クラウド型のSaaSだとシステム構築を不要にして提案できるようになり、システムを深くは知らない士業の方々などが顧客へ提案できるようになってきたことです。
去年、プレスリリースを打たれていたイベント管理プラットフォームの「EventHub」さんが面白いなと思ったのが、パートナーに結婚式場で有名な八芳園さんがいらっしゃることです。ITとは縁のない、従来ではSaaSの取り扱いがないような企業であっても、自分たちの事業ドメインにかかわるサービスを扱うようになってきたのは、ここ数年の変化です。
最近はSaaSベンダーが市場を自分たちで作ってきて、お客さまからも求められてきている。昔ながらのソフトベンダーやソフトパッケージを手掛けてきた企業も、従来のパートナーネットワークの先にいる顧客に対しても売らないと機会損失になってしまう。マジョリティ層もSaaSを求めてきたことが、オンプレミスからSaaSへの切り替えが推進される理由といっていいでしょう。
売ってもらうのではなく、パートナーといかにビジネス関係を構築するか
佐伯:日頃、SaaSベンダー・パートナーの双方と接する機会が多い秋國さんにぜひ聞きたいところで、まだまだSaaSのパートナービジネス市場は黎明期にあると思いますか?感覚値でいくと、今まさに盛り上がってきたところなのか、一定で整ってきたのか。
秋國:まだまだですね、まだまだ。新しいSaaSが次々に出てきているところもありますし、SaaSに置き換わるものは世のなかにたくさんまだあると思うんですよ。パートナーさんたちもお客さまに対して、もっと良いものを提供していきたいと考えていますし、新しい取り扱い商品もさらに増やしていきたいところでしょう。
市場でSaaSが売れているにもかかわらず、パートナー経由で思うように伸びていないという不一致があります。直販は伸びていても、パートナービジネスはそうなっていない。逆に言えば、さらにパートナービジネスが伸びる可能性もあるので、もっとポテンシャルがあるのだとパートナー側も感じているはずです。
佐伯:代理店、パートナー目線で見てみると、市場の盛り上げも考えていきながら、成功事例を作っていくのが大事なのかもしれない、と思いました。
秋國:そうですね。あとは、立ち上げ期において、いきなりパートナービジネスに取り組んで成功する場合もあるんです。逆に、成長期に向かっているにもかかわらず、失敗する場合もある。そこが難しいところですね。結局はプロダクトの成熟度よりも「プロダクトの地力」みたいなものが重要かなと思っていて。
たとえば、立ち上げ期でパートナービジネスがうまくいってる企業例で、沖縄にあるIoTのスタートアップの「LiLz」さんがあります。社員はまだ数人ですが、パートナーは20社以上。IoTカメラでデータ管理ができるSaaSで、「メーターの目視検査」などを省力化でき、人員の管理コスト削減につながります。課題が明確で提案しやすいこともあり、バーティカルで事業ドメインに深い業務システムの開発企業、プラント向けの販売業者、高圧バルブ製造業者など、業界に明るいパートナーを多く得ているのが特徴です。
あとはセーフィーさんも成功例です。セーフィーさんは資金調達においても事業会社を中心に得ていて、それらがパートナーにもなってくれています。両者Win-Winで伸びていくモデルが見えますから、好例のひとつと言っていいでしょう。
佐伯:まさに「パートナーといかにビジネス関係を構築するか」という観点での取るべきアクションとしても良い例ですよね。パートナーセールスに取り組むことで結果が出やすい企業を、あらためて伺うと、どういったポイントがあるのでしょう?
秋國:まずは、経営層がちゃんとパートナービジネスを理解して、コミットできること。失敗する例から言うと、事業計画のもとで直販による予測売上が足りないためにパートナー経由で今期の売上を立てようと算段してしまうケース。「時間軸が経営陣とマッチしない」といった悩みを、経営層とパートナーとの板ばさみになっている現場担当からよく聞きます。
先ほども話したようにパートナービジネスの成功には時間もかかります。だからこそ、直近の事業計画は直販で基本的に達成し、数年後から中長期を見据えて、パートナービジネスに取り組んでいく、ストレッチ要素のひとつとして捉えておくといいでしょう。
佐伯:最低見積もっておくといい期間は?
秋國:3年は見ておきたいところです。1年目は仮説検証として、適しているパートナーや、相性が良いセグメントの企業を探します。最低でも20社ほどのパートナーと出会って見ていくのがおすすめですね。この期間は、法改正などの外的要因や市場環境がよければ短縮できるかもしれません。顕著なのがZoomで、2018年に日本法人ができ、2019年に新型コロナウィルス感染症という外的要因がありましたが、ちょうどその直前くらいにSB C&Sさんと取引を開始していたんですね。
SB C&Sさんは取り扱い初年度で、Zoomの代理店販売を垂直立ち上げしています。市場からの強い引き合いがあったときにパートナーのネットワークがあると、パートナー経由での売上も一気に上がるという好例ですね。あるいは、個人情報保護法やグローバルでいうGDPR制度などの法改正やガイドラインの変更では、全員が「やらざるを得ない」という状況になったので、セキュリティ系の商材は売上が大きく伸びた。やはり、パートナーとしても商材を取り扱う強い説得力になるんですね。
佐伯:「なぜ、自分たちがこの商材を取り扱うのか」という理由付けができると。
秋國:そうですね。「パートナーが商材を取り扱いたくなる理由」を複数のパターンでまとめてみたことがあります。まずは、既存顧客や既存ビジネスがあって、そこに付加価値をつけていきたいパターン。次に、既存ビジネスがシュリンクしていて、新たな柱を立てていきたいパターン。
それから、市場のトレンドに対してニーズのある商品を扱うことで、顧客へのエンゲージングを高めたいパターンです。これは、まさにZoomですよね。「オンライン商談ツールを導入します」という既存のお客さまがいて、その時点でZoomを取り扱えていなかったら機会損失になるわけです。
あとは、既存ビジネスの利益率が低いため、利益率を上げるために高利益のものを販売するパターンもあります。例としては「スタンド型の検温器」です。これも新型コロナウィルス感染症で店舗などからの引き合いが非常に多く、商材を扱いたいというパートナーからの問い合わせが急増したものでした。
佐伯:検証期間を3年に見据えたとき、自分たちがどういったモデルでビジネスを立ち上げていくべきかを検討し、それを試すという作業が欠かせないですね。ただ、一方で秋國さんが相談を受けるなかで「まだパートナービジネスに乗り出すのは早すぎるのでは」と感じるような企業も、やはりあるものでしょうか?
秋國:立ち上げ初期でPMFしてない状態で、いきなりパートナービジネスやろうとするのは、基本的にタイミングが早すぎるとは思います。ただ、その段階からパートナーを巻き込んで開発していく、という手法を採る企業も出てきました。
あるクラウド型のビジネスチャットツールを扱う企業では、プロダクトの立ち上げの段階からパートナーさんと組んで、「どういったプロダクトにしていけば売れるのか」といった議論を重ねたそうです。プロダクトの壁打ち段階からパートナーが参画している状態は、その後の販売を考えても強みになると感じましたね。
どこに自社のパートナー候補はいるのか?
佐伯:パートナービジネスに携わる人材についても聞かせてください。どういった人材が活躍しやすいかなど、どのようにお考えですか?
秋國:コンサルティング営業の経験があると頼もしいですね。事業開発の目線を持ったパートナーとの協業開発といったことも手がけなければなりませんから。そういった点ではかなり泥臭い仕事も多いです。
SmarHRのかたに聞いたのですが、SmartHRのパートナーサクセスチームの人たちは自分自身を「SmartHRで一番スマートじゃない部署」と言っていたんです。それくらいイメージとかけ離れていることは自負されています。銀行や地銀にも足しげく通っていたり、パンフレットの配布をお願いしたりと、そこまでしないとならないんだと思わされましたね。
佐伯:スタートアップがパートナーサクセスチームを立ち上げるとき、何からはじめていったらよいでしょうか。アウトバウンドでパートナーにアプローチするところもあれば、インバウンドで引き合いを作っていくやり方もあるのでは、と考えますが。
秋國:基本的にプロダクトの力が重要なので、一定のプロダクトの優位性があれば、取り扱いの問い合わせは入ってくると思っています。まず、ウェブに掲載してみて、どういった事業会社から問い合わせが来るのかを検証できるでしょう。あとはイベント出展からの資料問い合わせや、インサイドセールスが対応してるリードのなかにもパートナー候補はいます。過去の履歴を見直したほうがいいでしょう。
あとは、自社ページに情報を掲載するのに加えて、パートナープログラムをはじめることをプレスリリースとして発信することもできます。既存ユーザーに対してそのプログラムを紹介したり、ウェビナーとしてパートナープログラムの説明会を開くのもいいでしょう。
導線を貼っておくだけで、月に10件から20件といった問い合わせがくることもあります。私も前職までの経験で、自社の商品に対する問い合わせ窓口につながる導線を設けたページをつくることで、それまで月に数件だった問い合わせが、10倍以上も上がりました。そこでは「販売パートナー企業例」といった掲示をするのも効果的ですね。
勉強会やアプローチのための資料を用意しておく
佐伯:では、実際にパートナー候補の企業と対面するときに「すべきこと」といった観点では、何が挙げられますか?
秋國:そもそもパートナーさんの事業、経営方針を理解しなければいけません。ウェブサイトやIR資料、中期経営計画などを見ながら、どういった方針で進んでいるのか、そこに対する貢献が自社の商品で可能なのかといった観点をクリアするのもひとつのアピールポイントになります。
その次は、事業部など組織ごとのミッションを理解し、ふだんのセールスマーケ手法を確認するのも大切です。セミナーを頻繁に開いている、セールスパーソンが足しげく通っているといった動きを知り、パートナーさんにどのような動きかたを望むのかを明確にします。そして最後が、共有できるスキルの提案になるかなと思っています。
パートナープログラムから契約締結まで進むと、たいていは勉強会を開催する流れになるはずですので、勉強会向けの資料も必要になってきます。既存の市場認知、競合プレーヤー、競合優位性といったところを網羅し、売り文句を認識してもらうわけですね。それから販促物も必要です。事例集、チラシ、リーフレット、サービス資料といったコンテンツを用意しておきましょう。最近では動画コンテンツを用意しておくのも、よく見られますね。要は、パートナーが見込み客に案内する際に、それらのコンテンツを事前に送付するだけで、製品知識がなくてもアプローチしやすくなるものです。
ここで失敗しがちなのが、パートナーのなかでも「特定の人」にしかアプローチしないことです。組織が大きな企業の場合、窓口担当の人にいろいろと話を聞くのは当然としても、その人がネガティブなことを言っていたら、会社の総意として受け取られがちですが、そんなことはありません。契約後にもしっかりとコミュニケーションを取って関係性を更新していきましょう。その際、プロダクトをアピールしすぎて、自社の誇大広告にならないように注意を。
また、四半期や半期ごとにトレンドが変わることもありますから、パートナーの事業理解も欠かせません。
佐伯:話を聞いていて、シード期の直販やPMFを目指した動きに似ているとも感じました。それくらいにハードなことですから、そこに投資しなきゃいけない、コミットメントや覚悟も持ち合わせていないとならないのですね。
秋國:本当にそうですね。以前、ある会合でパートナービジネスにおけるPMFならぬPPF、「プロダクト・パートナー・フィットが大切だ」みたいな言いかたがあって(笑)。
佐伯:いいですね、それ!PMF後のPPFですね。使っていきましょう(笑)。
秋國:直販は「4P」がマーケティング的にもベーシックですが、PPFにおいては、そこにプラスして「人」が絡んできます。ここがやはりキモになる。「誰が絡むのか」で大きく変わるからです。担当者に推進力がちゃんとあるのか、パートナーが持つ顧客基盤や営業力といった要素も見なくてはなりません。
佐伯:その意味では、SaaS企業側としては、誰を筆頭に推進するとよいでしょう?
秋國:必ずしも、CxOのかたなどがアライアンス経験まで持っているとも限りませんから、BizDevの経験者がいいのではないでしょうか。ただ、ビジョンや世界観を語れるのは当然経営陣のかたですから、同席することで、先方パートナーの上位層や経営層と合意できている状態を目指すといいでしょう。
取り扱いしてもらうための交渉時には、とにかく3Cが重要かなと思っていて。自社プロダクトが市場環境的にどうなっていくのか。市場動向が拡大していくのかどうか。第三者機関のデータや市場予測データから成長可能性をアピールして、取り扱ってもらうメリットを理解してもらう。私がよく作っていたのはポジショニングマップです。その上で、「御社の得意としているセグメントと合致しますよね」という相性の良さを見ていくのです。
「一人でThe Model全部やる」みたいな感じ
佐伯:最後に、いろいろなスタートアップとお話をされてて、パートナービジネスにコミットしている会社様のカルチャーだったり、マネジメントの体制だったり、直販からパートナービジネス、また部署を作ってやっていく取り組みで、「うまくいってる会社の理由」を伺えればと思います。
経営層のコミットは前提にあり、プライシングに至るまでダイナミックにできているところが、成功の要因なのかなと思ったりもしました。あるいは、社内コミュニケーションの徹底も大事でしょうか。
秋國:あるSaaS企業では最近、役員自らがパートナービジネスの立ち上げから携わり、さらにそれに精通した人材を外部から雇って、うまくいっているという話を聞きました。採用した経験者が、前職で培ってきたパートナーの人脈を最大限活用しているといいます。
立ち上げという意味では、そういった業界に人脈のある経験者の転職はチャンスです。人脈はひとつの武器になります。転職後も「次はこの企業に進んだので、また取り扱いをお願いします」という挨拶まわりに行けるだけでも、一歩違いますからね。
内部からだけ人材を集めてしまうと、チャレンジ精神旺盛なかたは新しい取り組みに意欲を燃やせるのですが、未経験者だと結果がすぐに出ませんから、やらされ仕事化する恐れが出てきます。そこで、やはり役員陣がノータッチだとなおさら、その思いが湧きやすいでしょうから……。
佐伯:ありがとうございます。The Model的な直販の人がパートナービジネスをやるのは、ちょっとまた世界が違うと思わされました。特に立ち上げ期においては、パートナーさんとのおつき合いの仕方だったり、パートナーさんとビジネスをやっていくうえでの心持ち、業界的な慣れのある人がふさわしい。パートナービジネス経験者を引っ張っていきながら、少しずつプロダクト理解だったり、パートナーさんとのおつき合いをするなかで勉強会などをしていくと、立ち上がりとしてはよさそう、みたいなシナリオですね。
秋國:そうですね。向いているのは、そもそもこまめにPDCAを回せて、チャレンジ精神があるようなかたなのだと思いますね。基本的にはマーケターと同じところもあり、パートナー開拓もするし、パートナーさんと一緒にプロモーション企画もするし、リードも作る。まさに「一人でThe Model全部やる」みたいな感じなんですよね。
だから、その時々で、いろんなチャレンジを、どんどん試せるような人じゃないと難しいなと。だから、「パートナービジネスがうまくいかないんです、どうしましょう」っていってる人のご相談を聞くと、そもそも活動量が圧倒的に足りないことがあります。