莫大な費用をかけての新規顧客獲得が難しくなった昨今、新規顧客獲得だけでなく、既存顧客の価値を最大限に引き出し、NRRを向上させることが欠かせません。また、大企業のリニューアル成功事例が増えることで、その事例を他社にも応用できることから、さらなる契約の獲得も期待できます。
高単価顧客のアップセル、クロスセル、エクスパンション......これらを図っていくためには、どのような施策が効果的なのでしょうか。
本記事では、PMF後のフェーズにおいて、初期に獲得した大企業のリニューアルを成功させた経験をもとに、社内でユースケースを作りたいと考えるCSマネージャーやCSメンバーに向けて、効率的なオペレーションとリニューアルマネジメントのメソッドを紹介します。
お客さまのサクセスと自社の収益最大化を目指す上で、国内におけるエンタープライズSaaSのトップランナーであるユーザベースグループの成功法則を見逃すことはできません。今回は同グループからスタートアップデータベース事業「INITIAL」でCCOを務める大沢遼平さんにお話を伺いました。
聞き手は、ALL STAR SAAS FUNDのシニアアソシエイトとして、投資先開拓や投資先支援を担当している佐伯裕人です。
【プロフィール】
大沢遼平
新卒で丸紅株式会社に入社。同社電力本部にて、豪州、米国のIPP事業(投資事業)に従事した後、株式会社ユーザベースに参画。SPEEDAのフィールドセールス・リテンションセールス、マーケティングチームを経て、INITIAL事業のカスタマーサクセスの立ち上げに従事。2022年よりカスタマーサクセスDivisionのリーダーを経て、現在はINITIAL事業におけるCCOを務める。
メンバー全員で対応し、OKRごとにオーナー制をとる
佐伯:INITIALさんの導入事例を見ると、多くの大手企業が利用されている印象ですが、現在どれくらいの企業が利用されていますか?
大沢:はい、現在は500社以上が私たちのサービスを利用しており、そのうちの多くがエンタープライズとされるお客さまに使われています。ちなみに、私たちのサービスはもともとentrepediaという名前で2011年にリリースされまして、ユーザベースとしてリニューアルマネジメントをはじめたのは2020年からです。だから、ちょうど3年ほど経ちました。
佐伯:リニューアルをはじめた頃の主な顧客や状況はどのようなものでしたか?
大沢:INITIALはスタートアップ情報プラットフォームとして、当初は投資家やVC、事業会社のM&A担当者、それからスタートアップに関わってくるような人が使っていて、リテラシーや投資経験のある方が多く、ほとんどリニューアルマネジメントは必要なかったんです。しかし、徐々にスタートアップへの関心が広がり、ユーザー層が広がったため、サポートが必要になりました。
佐伯:それがリニューアルマネジメントのきっかけですね。社内ではいかに「エンタープライズ」の区分を整理していますか?CSチームがエンタープライズの企業さまにアプローチする際は、業界別でチーム体制を分けているのでしょうか?
大沢:エンタープライズは「数千人以上の従業員数を持つ企業群」と認識しています。アプローチについては、現在のチーム体制では分けていません。メンバーは8人いますが、全員の職務内容はほぼ同じです。リニューアルマネジメントからオンボーディング、ロイヤリティマネジメント、リテンション、契約継続まで一貫して対応しています。
僕らは目標値をOKRで整理しています。四半期ごとに5つほどの目標を設定し、それぞれに「Gross担当」や「オンボーディング担当」といったようにオーナーを振り分け、各自でマネージしてもらいます。全体のマネージは僕の担当ですね。
「BANTC」フレームワークで顧客の状況をチェックする
佐伯:次に組織面についてもお伺いできればと。御社では"All for Customer Success"というグループで取り組んでいらっしゃると思いますが、CSメンバーだけでなく、他の部門の方々も含めて、お客さまのサクセスを最大化させることに取り組んでいらっしゃるかと思います。そこで、契約更新時の更新意思のはかり方について、ぜひ伺いたいです。
大沢:そうですね。リニューアルマネジメントでは、積極的にアクションを起こすよりも、日々の業務の中でアラートをキャッチしたり、ヘルススコアがダウンサイドを示すときにコンタクトを取るようにしています。いつも「手前」でリスクヘッジできるようにしようと。
佐伯:営業日ベースで「20日前の自動更新の決定期日」までが勝負所でしょうか。この短い期間で、チャーンの防止やエクスパンションの可能性を探るのは密度が高く、お客さまに向き合いながらリニューアルを進めることになりますよね。
大沢:そうですね。だからこそ、リニューアルにメンバー全員で取り組んでいるんです。ただし、エンタープライズ向けに提供しているものの、全社導入ではなく、部署ごとの契約形態をとっています。そのため、部署での意思決定について1ヶ月前に連絡を取っています。
それとは別に、日々のコンタクトで近況を確認したり、利用率が上がってきたときにも「最近はニーズが高まってきているようですが、何かありましたか?」といった連絡を取ったりと、お声がけするようにはしています。
佐伯:ちなみに、リニューアルの段階で、どんなチェック項目を設けてお客さまの状況を把握しているのでしょうか?
大沢:セールスでも用いられるBANTCというフレームワークに近いです。
Budget(予算)、Authority(決裁権)、Needs(必要性)、Timeframe(導入時期)、Competitor(競合)の5つです。これら全てがOKであれば、基本的にリニューアルしていただけます。逆にNeedsがなくなったり、Authorityで決裁権限が変わったりすると、整理を図ります。
佐伯:ありがとうございます。このBANTCフレームワークで、BudgetやAuthorityの情報をリアルタイムに密度高く共有していくためには、信頼関係が大事だと思います。いかにクライアントの担当者とコミュニケーションを図っていますか?
大沢:特別なことはありません。カスタマーサクセスの基本として、お客さまの成功を自分たちがイメージして一緒に実行できることが大事です。顧客の視点に立って物事を理解する。契約更新やエクスパンションといったこちら都合ではなく、いかに相手目線で考え、どのようなサービスが最適かを伝えられるのかが大事だと考えております。
例えば、お客さまのアウトプットから見て、SPEEDAといった別のプラットフォームが適切だったり、ミーミルというプロダクトでインタビューを発注するほうが良い場合もあります。ニーズに応じて提案できることが、信頼関係を築く上では大切だと捉えています。
朝会の「フランクな30分間」で、みんなで解決を図っていく
佐伯:お客さまの視点にいかに立つか、いかにお客さまに“憑依”するかは、難しいと思いますが御社ではどのような工夫をされていますか?例えば、ユーザー会を開いてみたりすることも考えられます。具体的なエピソードなど教えていただけると嬉しいです。
大沢:2つ、ありますね。一つは毎日、朝会を開いて状況や悩みを共有し、みんなで解決策を考えるんです。我々のチームにはもともと、INITIALのユーザーだったメンバーもいます。その経験も活かしながら、ブラッシュアップした回答をお客さまにお返ししていきます。
もう一つはマインドとして、積極的にギブし続けることです。お客さまからすればカスタマーサクセスが何をしてくれるのか分かりにくいかもしれません。そこで、我々からギブし続けることで、将来的に双方ギブできる関係になれたらいいなと考えています。まずは我々がギバーとして接し続けることが、INITIALユーザーの成功を加速させることだと捉えています。
佐伯:朝会については、どういったアジェンダや時間設定をしていますか?日々の対応に忙殺されていると、CSのメンバー自身が業務を振り返ったり、課題の整理に当てる時間が取れなかったりするのではないかと。メンバーが悩みを吐き出しやすくする工夫はありますか。
大沢:持ち寄り型で、アジェンダがあれば話し合いますし、特になければ早めに解散する、といった「フランクな30分間」を常に設ける建て付けです。だから、話題を投げ込んだ人に何かしらの得があるような仕組みともいえますね。
あとは心理的安全性への配慮でしょう。一人で悩んでいても解決できないと一瞬でも思ったのなら、朝会に投げ込んでみる、という行為を良しとする。それだけで意外と解決してしまうことだってあるんです。
やはりお客さま側と比べても、僕らはCSチームとして集合知を持ちやすい構造になっています。INITIALはスタートアップ情報プラットフォームになっていますので、それらの情報を取得する方法についても、僕ら以上のプロはいないと自負しています。
お客さまが情報収集に課題があるのではないか、時間軸を問わずに契約後に達成したいことは何か、といったようにそれぞれの課題や目標に対して、どんどん提案していく。自分たちの能力範囲内でスモールウィンを作り、お客さまにとって喜ばれるサービスを提供し続けることが重要ですね。
チャーン対策は「ヘルススコア×定性的な判断」の掛け合わせ
佐伯:利用頻度が少ないお客さまに対して、チャーンを防ぐというところで、リニューアルマネジメントの腕が試されると思っています。INITIALさんにおいて、チャーンの懸念や解約の進み具合をどのようにチェックしているのか教えていただけますか?
大沢:チェックには主に2つの方法があります。1つ目はヘルススコアを取ることです。これはアクセス数やどの機能を使っているのか、利用料の変化率などをメーターとして、総合的にグッド、ノーマル、モアなどの判別をしています。ただ、スコアはデジタルなアウトプットなので、実際の状況と異なることもあります。
そのため、2つ目はセールスフォースでお客さまのステータスを確認し、過去のコミュニケーション履歴を総合的に判断してアプローチを決めることです。これにより、すぐにコンタクトするか、2〜3週間後に状況を聞くかなどを定性的に決定します。現状では、デジタルにわかる情報とカスタマーサクセスチームが収集した情報を掛け合わせて判断していますね。
佐伯:セールスフォースの情報チェックは、カスタマーサクセスチームのカルチャーとして確立されているのでしょうか?それとも、定期的な振り返りを設けてチェックする機会を仕組み的に設けているのでしょうか。
大沢:仕組み化しています。セールスフォースには、面談の情報を記入するボックスが用意されており、面談が終わったら必ず記入するようになっています。記入がない場合、面談日が過去の日付なのに空欄になってしまうため、すぐに記入するように促します。
佐伯:ヘルススコアを見て、使いこなせていないお客さまや満足していないお客さまがわかってくると思いますが、まずはチャーンを防ぐためにもプロダクトを使いこなせるようになっていただくことがゴールですよね。リニューアルマネジメントの期間や、その前のタイミングで、どんなアプローチや働きかけをして利用頻度を増やす工夫をされているのでしょうか?
大沢:特にエンタープライズのお客さまに関しては、ハイタッチが重要だと思っています。例えば、スタートアップの情報を取得するユーザーが1人の場合ならオンボーディングがスムーズですが、10人を超える場合はオンボーディングの時間に不在な方もいます。そのまま1年後の更新機会まで会えないこともありますから、ハイタッチにこだわらず、メールや電話でコンタクトを取ります。
また、INITIAL内にはチャットツールを入れていますから、チャットで声をかけたり、次のログイン時にポップアップで最近の調子を尋ねたりして、コミュニケーションをいろんな方法から探ります。
逆に言うと、僕らの強みは、対面で話せばお客さまがコミュニケーションをしっかりしてくれて、課題が何かを教えてくれるので、そこまでいけば後はどの順番で解決に向かうかを整理していくことができます。
プロダクトチームとCSチームは週4でミーティングする
大沢:プロダクトチームとCSチームは、週2~4回程度話し合い、密にコミュニケーションしています。「今日の商談で、この機能が役立っていると言われた」といったフィードバックをすることもあれば、「この画面の表示スピードが遅いのでは?」と指摘してチューニングすることもあります。お互いの景色がそろうことで、改善もしやすくなるんです。
あとは、カスタマーサクセスの商談にも、コンフィデンシャルなものは除きますが、基本的にオンボーディングや2回目の商談にプロダクトチームも参加してもらうようにしています。プロダクトチームも、大事な機能をユーザー目線から理解する際の参考になっています。
緊急性と重要性が高いものについては、私やCPO(Chief Product Officer)が意思決定を行ない、すぐに対応します。例えば、ユーザーへの影響度が高いバグが発見された場合は、開発スケジュールを変更して直ちに修正に取り組むことがあります。基本的に、お客さまの体験に関わることから、優先度は高くなりますね。
佐伯:その他も、チャーンを防ぐための工夫はありますか?
大沢:実際のところ、たくさんのことを実行しているとは思うんです。でも、やっぱり飛び道具が一番効くといった結論にはならなくて。お客さまのやりたいことを正確に理解して、真摯な提案をすることが、何より大事だと考えています。それを間違って理解していると、どんな提案をしても成功しないでしょう。
また、エンタープライズのお客さまに対しては、INITIALとの関わりを通じて、その会社がどれだけポジティブな方向に進めているか、ユーザーがどれだけワクワクできるようになっているかなどを気にかけています。
例えば、ある部署で使っているお客さまがいた場合、他の部署でも使えるようになればさらに効果が上がるのではないかと考え、そういった提案を行なうこともあります。お客さまに対しては、その会社の社員以上に考えてアプローチする姿勢が大切だと思っています。「大沢さんはうちの社員みたいだね」みたいに言われたら勝ち、というか(笑)。
何かの縁で関わらせてもらった以上は、最大限のお返しをしていくことを頭の片隅にいつも置いて、行動していく。その姿勢は言葉にしなくても、おそらく相手に伝わると信じています。
アップセルが成功しやすい顧客の条件
佐伯:リニューアル前から相手の状況を掴んでいき、自動更新前に本格的にエクスパンションの可能性を探っていくのだろうと思います。その過程で、アップセルの確度やエクスパンションの確実性をチェックしながら、お客さまにアプローチをする方法について教えていただけますか?
大沢:そうですね。大前提としてアプローチは柔軟に取っていますが、アップセルが成功しやすいお客さまの特徴としては、圧倒的なキーマン、推進者がいること、決裁者と直接コミュニケーションが取れる関係を築いていること、そして将来の目標に対する設計がしっかり描けていることです。これらの条件が揃っていると、前向きな話が多くなります。
そして、INITIALに関しては、お客さまの人数が増えた際には、ぜひご検討いただくようお願いしています。このアプローチは営業的な雰囲気を感じさせず、お客さまも前向きに検討してくださることが多いです。あえて言うのであれば、こういった条件を見逃さないことでしょうか。
佐伯:INITIALさん側からキーマンを育てるような取り組みは行なっているのでしょうか?
大沢:ありますね。スタートアップと連携することに慣れていない人もいるので、我々はそのサポートをギブの精神で行なっています。世の中を良くするために、スタートアップと連携して何ができるかという情熱はあるものの、具体的な方法が分からない場合が多いからです。方法を伝えれば積極的に動いてくれますし、結果を出すまでの距離も短いものです。
例えば、最初は遠慮して参加していたユーザー会で、回を重ねるごとに積極的に名刺交換をするようになるなど、成功体験をもとにINITIALの利用を推奨してくれるキーマンになってくださることはありますね。
コミュニティの話にも関連していきますが、結果的には全ての顧客体験が良いものであることが、お客さまがINITIALを長く使いたいと思ってくださる理由の一つです。INITIALに関わることで、スタートアップに関する大半の情報が入手できるブランドとして認識されることが理想です。
カスタマーサクセスを最大化できる人の、3つの能力
佐伯:御社のINITIAL事業は、IR情報なども拝見すると、ユーザベースグループでも高成長フェーズの位置づけだと認識しています。アップセルやクロスセルといったエクスパンションを行なっていく上で、CSチームはどのようなKPIを設定し、工夫されているのでしょう?
大沢:難しい問いですが、まず高成長を測る指標としては、基本的に売上だと捉えているために、グロスとチャーンをKPI/KGIとして追っています。その中で、独自に推進している指標としては「新機能の浸透率」がありますね。
SaaSは年間を通じてプロダクトが進化していくはずですが、ユーザーにとって進化した点が分かりにくいことも多いです。それはINITIALにおいても同じです。例えば、最近は「ステータス管理機能」をリリースしたのですが、使う人が現れなければ意味がありません。そこで、ユーザーに使い方を伝え、ニーズに合わせて使ってもらうよう促します。
その結果、使いこなせるユーザーもいれば、機能が使いにくいと感じるユーザーも出てきます。そこからプロダクトのブラッシュアップができ、より良いものが作れるようになる。良いものが作れれば、浸透率も向上する。こういった流れから、新機能の浸透率を設定するのは効果的だと考えています。
佐伯:なるほど、ありがとうございます。他にも、エクスパンションを進める工夫や、リニューアルを最大化させられるカスタマーサクセス人材の特徴があれば、教えていただけますか?
大沢:抽象的になってしまいますが、僕らはINITIALそのものを売っているわけではなく、INITIALを使った成功体験を提供していると考えています。だから、枠にとらわれず提案することがとても重要だと思っています。
カスタマーサクセスという職種は、コーチングに近いと考えています。相手のやりたいことに合わせて提案しないと的外れになってしまうので、一つは原点思考が大切です。「そもそも何がしたいのか」を突き詰めて、相手の言葉から進むべき方向性を深堀りして、コミュニケーションに曖昧さを残さない人が良いですね。そして、「一つの案として、私はこう思うのですが」といったように、未来志向の発想ができることも重要です。
原点思考と未来志向があると、その過程の部分を埋める作業が必ず発生します。だからこそ、提案した後に逃げないことも大切だと思います。提案した内容を、しっかりと責任を持って進められる。もし提案がうまくいかなかった場合、再度提案していくことができる。
これら3つの能力がある人が、カスタマーサクセスを最大化できる人だと思います。
顧客接点のない部署にも働きかける。同じKPIを持つのも有効
佐伯:視座を高く持つことが良い一方で、他の部署の方々からすると、なかなかお客さまと接点を持つことができない方もいます。そうなると、INITIALの提供価値や、利活用に関する解像度も高めにくいのではないかと。お客さまと相対していない部署であっても、前向きに顧客解像度を高めていけるような風土づくり、そのための働きかけは何かしていらっしゃいますか?
大沢:すぐできることとしては3点あります。
先ほどもお伝えしましたが、1つ目はCSの商談や面談に同席すること。これが最もリアルで楽です。提案内容に対する相手の反応が全て見られますから、わかりやすいでしょう。
2つ目が、全社ミーティングで解約ユーザーの振り返りをすること。全社全員が集まっているところで行なって、質問があればその場で受け付けるようにもしています。
3つ目が、大きな新規開発はユーザーと一緒に行なうこと。僕らがイメージするペルソナに数人加わってもらって、モックに対しての感想をフィードバックしてもらいます。おおよそ3回ほどのミーティングを重ねます。その過程で、プロダクトチームも理解できないと話についていけませんから、自ら知ろうと前向きになりますし、機能面での使い勝手や利用頻度などを、CSに質問してくれるようにもなります。
こういった取り組みをしていると、「自分のプロダクトはこうして役に立っているんだ、自分たちのデータはこのように使われているのか」と見えるようになるので大事ですね。
佐伯:CSの商談は、録画も残すのですか?
大沢:ケースバイケースです。もちろん撮るときは相手に確認しますし、残してほしくない方もいらっしゃいますから。
佐伯:CS以外の方にも、カスタマーサクセスに関するKPIや目標値を持たせてもいるのでしょうか?
大沢:持っています。プロダクトチームとCSが持つKPIが一緒なんです。例えば、新機能の浸透率もその一つといえますね。
解約の体験も成功にする
佐伯:最後に、これまでの経験をもとに、リニューアルマネジメントをされている方へ、ぜひアドバイスをください。例えば、昔に戻れるとしたら何を改善していたか、といった観点からのお話も嬉しいです。
大沢:昔の自分に戻れるとしたら、やはりプロダクトの枠に縛られない提案ができる人を集めていくでしょう。「御社とせっかく関わり合いが持てるのであれば、僕らはどこまで一緒にできますか」といった、それこそ対等なスタンスで自分から仕掛けにいく。これこそすごく面白い活動なので、ぜひやってみてください。
佐伯:エンタープライズの契約更新に臨む方にも、アドバイスをぜひ。
大沢:1つ目は、とにかくリニューアルマネジメントの前に、お客さまの解像度を高めていく活動が何よりも大事ということ。それがあって、初めてリニューアルマネジメントが成り立ちます。もし、「どのようにサービスを使っているのか、イメージが全くつかない人」が契約更新対象にいれば、今すぐ会いに行ってください。
2つ目は、カスタマーサクセスが成功のイメージを最も持つためにも、とにかく考えぬくこと。たしかに実行するのはユーザーですが、自分たちも考えに考えを重ねて、ディスカッションを経て、「やってみましょう」と実践していく。最後までトライし続けてください。
3つ目は、あえて逆のことを言ってみますが、全ての契約を解約させないようにするアプローチは間違いである、と捉えること。お客さまにはそれぞれのご事情があって、いろいろ試した結果、契約を継続しない意思決定をされています。そう決まったのであれば、「解約の体験も成功にする」という働きかけをしてほしいと思うんです。
INITIALでも、解約時のコミュニケーションがストレスレスだからこそ、あらためて必要な時期に再契約に至ったケースがあります。SaaSプロダクトに限らず、みなさんの身近な体験からいっても、解約の体験が悪いサービスを、二度と使いたいとは思わないのではないでしょうか?
解約も、体験設計の大切な一つです。リニューアルのタイミングを機に、ぜひ考えてみてください。