消費者の”サブスク疲れ”と利用量ベース課金(UBP)へのシフト
TechCrunch「The subscription pie is getting bigger: How to leverage usage-based billing」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
米Tech Crunchの記事。アメリカのテック業界では、消費者の”サブスク疲れ”を囁かれることが多くなった。代表例がNetflixの失速だ。Netflixは2022年Q1決算で20万人、Q2では100万人のサブスクライバーの減少を伝えている。主な原因はDisneyやHuluなどとの競争激化により、顧客の獲得と維持が年々難しくなっていることだと伝えています。
SaaSのようなB2Bの場合、企業運営の業務で利用されるため、消費者向けのサブスクリプションより、スイッチングコストが高く、今のところ影響は目に見えて大きくはありません。しかしSaaSは参入障壁が相対的に低く、(Netflixが置かれた状況のように)競争環境が年々厳しくなるリスクは高まる可能性は十分にあります。
そのような背景もあり、ここ数年、SaaS業界ではサブスクリプション課金から利用量ベース課金(Usaged Based Pricing)に移行する動きが活発化しています。2023年にはSaaS企業全体の56%は利用量ベース課金(UBP)になると予測されています。シード/シリーズAでもPLGモーションと共に、利用量ベース課金のスタートアップの調達案件が増えています。
今後日本でもSaaSの普及に伴い、競争が激化することも考えられるため、このような戦略シフトが進んでいくかどうかは注視すべきトレンドだと思います。
SaaSの売上高マルチプルは何によって決まるのか?
Alex Oppenheimer氏「The Revenue Multiple」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
元モルガンスタンレーIB部門、New Enterprise Associate出身のAlex Oppenheimer氏による、SaaSの売上高マルチプルについて、ファイナンス観点での解説記事。SaaSモデルと言っても、同じ売上高マルチプルが当てはまるとは限りません。飲食店向けSaaS Toastとエンプラ向けサイバーセキュリティSaaS Crowdstrikeの2社は、大体同じ売上規模($2.65B vs $2.21B)、同じ売上成長率(56% vs 52%)ですが、Crowdstrikeの方が売上高マルチプルは6倍以上も上(3.4x vs 20.5x)です。
この違いが何から来るのか?
それはプロダクトと顧客マーケットの特性からくる、利益創出力、顧客のリテンション力、成長力が大きく影響しています。例えば、エンプラ企業は、より予測性・拡張性が高い傾向にあるため、SMBより売上の価値が高くなります。顧客数が少ない、または展開市場が限られている場合は、成長が鈍化し、非効率になるリスクがあるため、これも売上の評価は低くなります。また、プロダクトがソフトウェア主体なのか、ハードウェアとの組合せかも、粗利率に大きな差を生むため、売上の価値に差を生みます。
バリュエーション(企業価値評価)の基本は、その企業が**「長期的に予測性の高いキャッシュフローを生み出す能力」**により決まります。そのため高成長企業であっても、低リスクによるディスカウントの低さと高いマージン比率が、高い売上高マルチプルをつけるには必要不可欠であると記事では解説しています。
ネットワークをクラウドのように柔軟に拡張できるSaaS DriveNets, シリーズCで$262M(約356億円)を調達
2015年イスラエル発のDriveNetsは、特定のベンダーの提供するルーターのようなネットワーク機器に依存しない「ホワイトボックス」化によって、ソフトウェア企業やネットワーク提供企業が需要に応じて柔軟にルーティングを拡張できるSaaSを提供するスタートアップ。インターネットの利用急増により、ネットワークデバイス市場は年率+10%で成長している。しかし、半導体の供給問題とJuniperやCiscoのような既存プレイヤーの寡占により、ネットワーク拡張のコストが上がっていることが課題になっている。DriveNetsは、AT&Tのような大手ネットワーク・サービスプロバイダ―など100社近くの大手顧客を抱えている。今回のシリーズCは、D2 Investmentsがリード投資家。既存投資家であるBessemer Venture Partnersも追加出資している。バリュエーションは$2B(2,700億円)を超えている。
物件の短期レンタル特化 All-in-one SaaS Guesty, シリーズEで$170M(約231億円)を調達
2013年イスラエル創業のGuestyは、民間物件を短期レンタルしたい個人・事業者が、Airbnb、Vrbo、Expediaなど複数のサイトで文献を管理するSaaSを提供している。最近では、短期賃貸物件以外に、シェアハウス、アパートホテル、グランピングなど多様な宿泊施設に拡大。それに合わせてプロダクトも、ゲストとのコミュニケーション管理や、チャネル分析、決済、会計など18種の機能を拡充。来年上半期にはARR $100Mを突破し、黒字化の見込み。今回のシリーズEは、Sixth Street Growthなどがリード。バリュエーションは$690M(約940億円)。
トラック業界特化 決済Fintech×SaaS AtoB, シリーズBで$155M(約211億円)を調達
AtoBは、2019年に米・サンフランシスコで創業したトラック業界に特化したFintech×SaaSスタートアップ。トラック運送業者向けに、法人カード、燃料分析、即時口座振り込みができる給与支払、決済プラットフォームを提供している。AtoBは、世界経済の原動力であるトラックドライバーの生活を向上を目指しており、ドライバーが扱いやすい金融商品の提供も行っている。今回のシリーズBは、米国有数のソロ・キャピタリストElad GilとGeneral Catalystがリードした。
中小向けHR SaaSのイノベーター HiBob, シリーズDで$150M(約204億円)を調達
2015年イスラエル創業のHiBobは、従来の給与計算をコアに置いたHR SaaSと異なり、中小企業のHRチームが組織を管理することをコアに置いた、HR SaaSのイノベーター。具体的には、新入社員のオンボーディングや、リモートの勤怠管理、アンケート実施等の数多くのツールを提供している。6年連続で3ケタ以上の成長、つまり毎年2倍以上の売上成長を継続している。本シリーズDはGeneral Atlanticがリード。既存投資家のBessemer Venture Partnersも追加出資した。バリュエーションは、前回の1.5倍の$2.45B(約3,300億円)。
マーケティングのクリエイティブの質を分析するSaaS VidMob, シリーズDで$110M(約150億円)を調達
2014年米NY創業のVidMobは、マーケティング担当者向けに、TikTok、Snap、Instagram等の広告プラットフォーム上でのクリエイティブの作成・効果分析を支援するSaaSスタートアップ。ロレアルやジョンソン&ジョンソンなどの大手企業を顧客に抱えている。不況下では、一般的にマーケティングへの投資は下火になるため、向い風になりやすい。しかし同社CEOによると「予算削減の時こそ、マーケターは業績に打撃を与えないよう、パフォーマンスを改善する必要がある」と強気な姿勢だ。今回のシリーズDは、Shamrock Capitalがリード投資家。バリュエーションは、$$500M(680億円)近い。
米SaaS企業創業者スター軍団が投資する、社内ツールのローコード開発SaaS Superblocks, シリーズAで$37M(約50億円)を調達
2021年米NY創業のSuperblocksは、ソフトウェア企業のエンジニアが簡単に管理者用ダッシュボード、レポート生成システム、データパイプラインなどの社内ツールを開発できるSaaSを提供するスタートアップ。テクノロジー業界のCTOは、より少ないエンジニア数でより多くの仕事をこなすことを余儀なくされてる。エンジニアの時間の大部分は社内ツールの開発に現状費やされており、これを解決している。競合としては$3.2BのバリュエーションのRetoolがあるが、Superblocksは高いカスタマイズ性、パフォーマンス、システム統合性が売りだ。今回のシリーズAでは、Kleiner PerkinsやGreenoaksのような著名投資家の他に、Airtable、Twilio、Okta、Fivetran、Box、Docusignなど米国の著名SaaS企業の創業者が出資している。
EC事業者特化カスタマーサービスSaaS Gorgias, シリーズCで$30M(約41億円)を調達
2015年米・サンフランシスコ創業のGorgiasは、Eコマース企業向けに買い物客が問合せに使う全てのチャネルを1つにまとめてカスタマーサービス対応できるSaaSを提供するスタートアップ。原材料の高騰とFacebookなどの広告コスト高騰で、消費財企業は収益性の板挟みにあっている。そのため、既存顧客の体験を向上し、より多くの収益を上げることが至上命題になっている。前回ラウンドから顧客数もARRも2倍以上に成長している。今回のシリーズCは、ShopifyとTransposeがリードしており、SaaStrのJason Lemkinなども参加。バリュエーションは$710M(約970億円)。
IoT在庫や発注管理SaaSを提供するスマートショッピング、10億円調達
IoTを使った在庫・発注管理のためのDXソリューション「SmartMat Cloud」および「SmartMat Lite」を展開。B2B向けに展開するSmartMat Cloudは医療業界や製造業界に導入されており、様々な現場において実在庫管理や発注の自動化ソリューションとして活用されている。今回調達した資金は、セールス・マーケティング活動、プロダクト開発、人材採用に充てられる。本ラウンドに参画した投資家は、下記の通り。
- スズケン
ギフトプラットフォームでDXを支援するギフトパッド、シリーズCで総額10億円調達
販促キャンペーンや顧客リレーション構築に向けたノベルティ・ギフト・クーポンのDX化を支援するギフトプラットフォームを提供。セールスプロモーションやマーケティング、株主優待、福利厚生などの場面で活用されており、全国300社以上の企業・自治体に導入されている。今回調達した資金は、企業連携やマーケティング活動、サービスの機能拡充に充てられる。本ラウンドに参画した投資家は、下記の通り。
- JICベンチャー・グロース・インベストメンツ、関西テレビ放送、ダイレクトマーケティングミックス、および金融機関
ITインフラ領域で事業展開するスリーシェイク、シリーズBエクステンションラウンドで総額約8.48億円調達
SREコンサルティング事業「Sreake(スリーク)」、クラウドネイティブデータ連携プラットフォーム「Reckoner(レコナー)」、フリーランスエンジニア特化型人材紹介サービス「Relance(リランス)」、セキュリティサービス「Securify(セキュリファイ)」などを提供。ITインフラ領域をはじめとした企業の課題を総合的に解決できる。今回調達した資金は、SRE及びセキュリティ領域でのブランディング強化、Securify、ReckonerのPSFに向けた開発とカスタマーサクセス人員の確保、マーケティング、セールス部門の組織体制強化に充てられる。本ラウンドに参画した投資家は、下記の通り。
- 三菱UFJキャピタル
AIで医療現場のDXを推進するカルディオインテリジェンス、シリーズAファーストクローズで総額4.3億円調達
長時間心電図解析ソフトウェア「SmartRobinシリーズ」、およびAIを活用した「SmartRobin AIシリーズ」を提供。心電図をはじめとする医療検査の領域でディープラーニングを用いることで、AIによる解析サポート能力を高め、医療者の負担を減らすデジタルトランスフォーメーションを推進する。今回調達した資金は、プロダクトの改良・改善および新機能の開発、事業の海外展開、社内体制の強化に充てられる。本ラウンドに参画した投資家は、下記の通り。
- 大和企業投資、ANRI、SMBCベンチャーキャピタル、Gemseki、静岡キャピタル
デザインワークスペースをSaaSで提供するリベリオ、第三者割当による資金調達を実施
サービスのアイデア、企画、設計などのシーンにおいて、作図やボードなど様々なフォーマットでスムーズなドキュメント作成を実現するコラボレーションサービスを提供。英語、日本語の2言語対応で、海外からのアクセスおよび国境を越えたプロジェクトでも利用で可能。今回調達した資金は、サービス拡張や人員拡充、プロモーション活動に充てられる。本ラウンドに参画した投資家は、下記の通り。
- 薛悠司(ソルユサ)氏(個人投資家)
飲食店向けモバイルオーダーアプリを運営するファンフォ、第三者割当による資金調達を実施
非接触かつセルフオーダー型の店内モバイルオーダーを簡単に実現させるモバイルオーダーアプリ「funfo」を開発、提供。iPad+数枚の紙(QRコード印字)で飲食店の店内モバイルオーダーを簡単に実現することができ、基本使用料は無料。手軽にモバイルオーダーを開始可能。導入店舗は、中小規模の飲食店が多い。今回調達した資金は、人材採用及び開発推進に充てられる。本ラウンドに参画した投資家は、下記の通り。
- ジェネシア・ベンチャーズ、栖峰投資ワークス、個人投資家