2022年Q2の米上場SaaSの評価と従業員1人当たりARR(APE)分析
Battery Ventures「The Cloud Quarterly Q2 2022」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
米Battery Venturesの米上場SaaS企業の現状分析。現状のマーケット環境での米上場SaaS企業の経営方針のシフトが読み取れる優れた内容です。今回の分析レポートでは、新たに従業員1人当たりARR(APE=ARR per Employee)をノーススター指標(NSM)として経営の舵取りをすべき、という提言をしています。個人的に興味深かったインサイトは、以下の通りです。
- 米SaaS企業の成長予測はスローダウン:「今後12ヶ月(NTM)の売上成長率は+30%以上」のSaaS企業数は31社と大幅に減少(前Qは40社)。コロナ禍の追い風は無くなりつつある。
- 一方で企業価値(TEV)が$5B超のSaaS企業数は増加:前Qの70社に対して、2022年Q2は79社
- 売上成長率より”Rule of 40”:「高成長だがRule of 40を満たさない」SaaSは、「低成長だがRule of 40を満たす」SaaSよりマルチプルが30%も低い。この結果は前Qと同じ。
- 未上場SaaSのバリュエーションの調整はまだ途中:上場マーケットのSaaSのバリュエーションは2年前と比較して、約半分(47%)。一方で、シリーズA~Dのバリュエーションは2年前の2-3倍で推移している。
- ARR20億円を超えたあたりから、従業員1人当たりARR(APE)は1,300万円/人が一つの基準:ARR $20-50MでのAPEは、$100-150K(1,300-2,000万円/人)。ARR $50-100MでのAPEは、$150-175K(2,000-2,300万円/人)
ARR$800M達成したToastから学ぶ5つの教訓
SaaStr「5 Interesting Learnings from Toast at $800,000,000 in ARR」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
「ToastはSaaS企業と言えるのか?」確かにトップTierの成長率ではないかもしれないし、トータルでの粗利率も高くない。しかし、私はToastが素晴らしいVertical SaaSの一社であり、今後のSaaS起業家に勇気を与える企業だと確信している。
その理由は、利益率がそこまで高くなく、IT予算も限られている飲食・レストラン業界のお客様に、SaaSを切り口として決済などの様々なビジネスによる業務効率化や経営改善を実現し業界全体の底上げを志向している点にある。本来、テクノロジーの恩恵を享受すべき方々にSaaSで事業課題を解決し価値を届け続ける、まさに「SaaS冥利」に尽きるような企業経営に敬意を表せざるをえない。
今回はSaaStrの記事より「ARR約1000億円を達成したToastから学ぶ5つの教訓」について書かれているのですが、特にVertical SaaSにおけるマーケティングやセールスのあり方について気づきの多い内容になっています。
- 成長率は、$800Mで59%を維持(IPO時点での成長率は118%で1年で減速)
この規模感でもこの水準の成長率を維持できている。 - 営業担当者の効率を高めることが、利益率を高める鍵
SMBセールスが大半であるToastでは効率性がKSFとなる。Toastの営業担当者の生産性は横ばいを維持している。営業担当者が新しい領域でのセールスがうまくなるにつれて、効率と生産性が向上します。現在は対象領域が拡大し、未開拓の地域は市場浸透が進むにつれて徐々に生産性が上がっていくことを示唆している。 - 新規顧客の20%がリファラル
マーケットリーダーとしてのブランド力や圧倒的顧客体験の高さがうかがえる。 - インバウンドのお客様が66%、アウトバウンドのお客様が33%
中小企業(SMB)をターゲットとするSaaSは、アウトバウンドが得意である必要がある。しかしToastのように業界内で強力なブランドを構築できるとインバウンド比率が高くなる。 - 売上構成のうち決済サービスが大半を占める
Toastの決済サービスは20%とマージンが低いが、ARR $800Mで60%近い成長を牽引するエンジンでもある。
厳しい市況下でウォッチするべきセールス指標8選
Battery Ventures「Eight Leading Sales Metrics to Watch」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
ビジネスの形態(SLG or PLG, SMB or エンタープライズなど)によってチェックするものは変わるものの、Bill Binch氏(現Battery Ventures, 元Marketo EVP of Sales)が考える自社ビジネスの行き先を、より正確に予測するための指標は、下記の通りです。
- 週次のインバウンドデモリクエスト数 | Inbound Demo Requests (IDRs) by week
- 週間デモ実施数 | Demos delivered each week
- マンデー・モーニング・ミーティング・ルール | Monday Morning Meeting Rule
- モジョ・メトリクス | Mojo Metric
- 1商談あたりコスト | Cost Per Opp
- 1社あたりの平均セールスサイクル | Average Sales Cycle (ASC)
- 四半期内(or 月内)案件生成&受注数 | In-Quarter (or month) Create and Close (IQCC)
- 1従業員あたりARR | ARR Per Employee
SaaSでMoatを構築する10の方法
Saastrの記事「What's Your Moat?」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
B2B SaaSでMoatを構築する10の方法をJason Lemkinが解説
- Brand: ベンダーがたくさん存在する中出、お客様には一つ一つのベンダーをを調べている時間はない。80%のお客様は一番認知されてたり信頼されているブランドを選ぶ。
- Data: データのロックインはSaaSでは有効的。たとえエキスポートができたとしてもそのデータを他のベンダーが活用するのは難しい。
- Structured Data: 自社のサービスでしか実現できない分析や、ダッシュボードのデータ構造にすると他社サービスに乗り移られにくい。
- Partners + Ecosystem: HubSpotやShopifyは、パートナー経由でのリードが多い。パートナーやエコシステム構築は強いMoatになる。
- Integrations: SlackやShopifyが選ばれてきた理由は、サードパーティーの接続が多いから。連携できる先が多いことが選ばれる理由になる。
- Agencies and Implementation Partners: コンサルやSIerなどのインプリメンテーションのパートナーは、特に大手が選ぶ理由の一つになる。
- Long Term Contracts: 3年など長期契約はMoatの一つになる。ServiceNowは基本的に3年単位でしかサービスを契約、購入できない。
- Capital: 資本力を使って自社の勝率が低いセグメントに参入する。さまざまなセグメントに入っていると「どこにでも名前を聞く」状態を作ることができ、競合の周辺を抑えることができる。
- “Most Enterprise” Vendor: 2FA、HIPAA、SOC-2など大手のセキュリティーニーズを一番対応しているSaaSになると選ばれる理由の一つになる。
- No Contract: Canvaのように無料で使える、小さくスタートできる、ユーザー体験を作る。
プロセスマイニングSaaSの雄 Celonis、シリーズDエクステンションで総額$1B(約1,400億円)を調達
ドイツ・ミュンヘン発のCelonisは、デスクトップ、IT、メールアプリ、ワークフローなどのシステムからデータを取得し、生産性の根本原因を特定することで自動化を支援するSaaSデカコーン企業。11年前にミュンヘン工科大学からスピンアウトした、ドイツで最も企業価値の高いスタートアップ。現在2,500社以上のエンタープライズ企業に導入されており、2,000社、1万人の専用コンサルティング会社やIBMやアクセンチュアのようなテクノロジーパートナーを抱えている。今回のラウンドは、カタール政府系ファンドがリード。既存投資家のT. Rowe PriceやAccelなども参加した。$400Mがエクイティ、$600が融資で調達。バリュエーションは$13B(約1.8兆円)。
英国発中小企業向け法人カード×支出管理SaaS Capital on Tap、£200M(約324億円)を融資で調達
2012年イギリス・ロンドン創業のCapital on Tapは、中小企業向けのクレジットカードと支出管理のオールインワンSaaSを提供するスタートアップ。イギリスは歴史的なインフレに直面しており、今後不況が起こると予測される中小企業のクレジットアクセスを支援している。欧州で最も急成長しているスタートアップの1社であり、20万社以上の中小企業で利用されており、総額£4B(約6,500億円)の支出を管理している。今回の融資は、JP MorganとTriple Pointから調達。
カリフォルニア大学バークレー校発のAI×SaaS Anyscale、シリーズCで$99M(約136億円)を調達
カリフォルニア大学バークレー校教授 Ion Stoica氏ら研究者グループによって、3年前に創業されたAnyscaleは、オープンソースソフトウェア「Ray」を商用化するスタートアップ。Anyscaleのツールは、顧客の需要予測、オンライン広告のターゲット設定、商品レコメンドなど、さまざまな機能を実現するソフトウェアの開発プロセスを効率化することができる。Meta、Uber、Instacartなどのテック大手企業は大量のデータを日々生成しているため、「データをどう読み解くための水晶玉」としてAnyscaleを利用している。創業者のStoica氏は、Databricksの共同創業者でもある。本シリーズCは、Andreessen Horowitzがリード。バリュエーションは$1B(約1,400億円)超え。
デバイスメーカー特化アフターサービス管理SaaS Servify、シリーズDで$76M(約105億円)を調達
インド・ムンバイ発のServifyは、Appleやサムソンなどのデバイスメーカーと提携し、損害補償や延長保証などのアフターサービスをホワイトレーベルで提供するSaaSスタートアップ。現在、Appleやシャオミなど75以上のデバイスメーカーは、Servifyプラットフォームを利用し、40ヵ国以上の消費者に対して、下取りやアップグレード、融資などのプログラムを提供している。世界第2位のスマホ市場であるインドでは、Servifyの市場シェアは60%を占めている。今後、家電や電気自動車にも展開をしていく。現在のARRは$130M(180億円)を記録。数年後のIPOに向けて、黒字化(利益率18-20%)を目指している。本シリーズDはSingularity Growthがリード。
All-in-oneカーボンマネジメントSaaS+コンサルティング Carbon Direct、$60M(約83億円)を調達
2019年米・ニューヨーク創業のCarbon Directは、カーボン会計SaaSとコロンビア大学やカリフォルニア大学バークレー校出身で、森林や土壌、炭素捕捉などの専門家を揃えた幅広いアプローチのコンサルティングを提供するスタートアップ。純粋なSaaS企業と言うより、SaaSで強化されたコンサルティング会社の方が近い。創業者のJonathan Goldberg氏曰く、「カーボンマネジメントは、石油・ガス取引よりもはるかに大きな潜在市場がある」とのこと。本ラウンドは、世界最大の資産運用会社BlackRockとシンガポールの政府系ファンドTemasekのJVである、Decarbonization Partnersがリード。
Web3プロダクト特化ノーコード開発SaaS Thirdweb、シリーズAで$24M(約33億円)を調達
2020年米・サンフランシスコ創業のThirdwebは、ゲーム、NFT、DAO、マーケットプレイス等のWeb3プロダクトの構築と立ち上げを簡単に行える開発ツールキットを提供するSaaSスタートアップ。現在約10の開発者向けツールキットを、5万5,000人の開発者に提供している。本シリーズAはHaun Venturesがリードし、CoinbaseやShopifyも戦略投資家として参加。Shopifyが運営するストアフロントにWeb3を導入したいという顧客の需要が増えており、今回の出資により両社は緊密に連携していく予定。
食肉サプライチェーンを革新するAI×SaaS Lumachain、シリーズAで$19.5M(約27億円)を調達
豪・シドニー創業のLumachainは、コンピュータ・ビジョンを活用して、牛肉や鶏肉などの食肉産業のサプライチェーンにおける安全性、歩留まり、品質、効率、トレーサビリティを管理するスタートアップ。今後30年間の急激な人口増加により食糧生産が追い付かない一方で、食肉は生成品で消費期限が短いため管理が難しいが、食肉工場のオペレーションは50年前から変わっていない。同社は工場内にカメラを設置し、AIでリアルタイムに監督者にアラートを送信してオペレーション改善を支援している。すでに8ヵ国に展開しており、アメリカの食肉供給の50%弱をカバーしている。本シリーズAはBessemer Venture Partnersがリード。
訪問看護ステーション向けSaaSを提供するeWell、動画配信プラットフォームSaaSを提供するファインズ、東証グロース市場にて上場承認
- 2012年創業のeWellは、訪問看護ステーション向け電子カルテSaaS「iBow」や、診療報酬請求業務を代行する「iBow 事務管理代行サービス」などを提供。2021年12月期の売上11.9億円(前期比 +51%)、当期純利益率 28%ですでに黒字化。2022年9月16日上場予定。
- 2009年創業のファインズは、動画配信プラットフォームサービス「Videoクラウド」、動画制作サービス、DXコンサルティングを提供。2021年6月期の売上22億円(前期比 +14%)、当期純利益率 11%で既に黒字化。2022年9月28日上場予定。
自由診療向けオールインワンSaaSを提供するメディカルフォース、シリーズAで6億円を調達
medicalforce(メディカルフォース)は、予約、問診、カルテ、会計などの日常現場業務、そして経営や集患の強化につながる経営管理ダッシュボードやCRM機能も搭載した自由診療向けオールインワンSaaSを展開。近年の美容医療の需要が高まりから、急成長している美容医療業界を中心に展開を進めており、リリースから約1年で導⼊院数は110院を超えている。今後、美容医療のみならず自由診療を提供する医療の現場にサービスを提供し、自由診療の新たな経済圏の形成を目指している。
- ALL STAR SAAS FUND, ANRI
クラウドの資産可視化及びセキュリティサービスを提供するLevetty、シードで1.3億円を調達
社内の膨大なクラウド資産を全て可視化し、安全なクラウド運用を実現するセキュリティサービス「Cloudbase」を提供。AWS・GCP・Azureをはじめとしたパブリッククラウドの国内市場規模は1兆円を超え、今もなお急速に拡大を続けている一方、セキュリティインシデントが後を絶たず、大企業における大規模な情報漏洩や不正アクセスなどが絶えず発生しており、この課題解決に挑んでいる。3月のベータ版リリース開始から一部上場企業の金融機関や製造業を中心に利用されている。本ラウンドに参画した投資家は、下記の通り。
- ベンチャーキャピタル:Arena Holdings、DNX Ventures、Delight Ventures、East Ventures、京都エンジェルファンド
- 個人投資家:さくらインターネット CEO 田中氏、ユーザーローカル CEO 伊藤将雄氏、Paidy CEO Russell Cummer氏、SmartHR Founder 宮田昇始氏、ラクスル CFO 永見世央氏、スターフェスティバル CTO 柄沢聡太郎氏、マキナレコード CEO 軍司祐介氏、Moloco 坂本達夫氏ほか
クラウドサービス事業者向けにセキュリティチェックを効率化するコノリス、約7,500万円を調達
クラウドサービスのセキュリティチェックシートの回答にあたり、過去の回答を簡単に検索・流用できるようにする完全無料のクラウドサービス事業者向けのサービスを提供。7月より提供を行っているクローズドベータ版を既に10社以上のクラウドサービス事業者に利用している。本ラウンドに参画した投資家は、下記の通り。
- ジェネシア・ベンチャーズ
物流業界向けにCO2排出量の算定結果を共有するSaaS「CAMOTSU(カモツ)」を提供するAdded、プレシリーズAで資金調達を実施
輸送事業者とその顧客である荷主向けに、CO2排出量算定に関する情報集計、可視化、共有を効率化するSaaS「CAMOTSU(カモツ)」を提供。今回調達した資金は、輸送事業者が必要とするCO2排出量算定に関する機能向上とサービス拡大に伴う人材採用強化に充てられる。本ラウンドに参画した投資家は、下記の通り。
- FINOLAB、三井住友海上キャピタル、三菱UFJキャピタル株式会社
メールなどのコミュニケーションチャンネルを統合管理できるWebサービスを提供するZenmetry、プレシードラウンドで資金調達を実施
Zenmetry(ゼンメトリー)は、メールや複数のチャットソフト、ワークスペース、チャンネルを統合的に管理できるWebサービスを提供。それぞれが持つ独自の機能を統合、1件あたりのメッセージ処理時間と通知の頻度を低減することで、人間らしい創造力や集中力を取り戻すことを目指している。本ラウンドに参画した投資家は、下記の通り。
- MIRAISE、デジタルハリウッド