逆風のマーケットでも力強い米SaaSスタートアップの資金調達状況
Sillicon Valley Bank「State of Software-as-a-Service H2 2022 SaaS Report」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
米シリコンバレーバンク(SVB)による米SaaSスタートアップの資金調達状況に関する最新レポート。米VC投資はこの第3四半期(Q3)は、壊滅的な打撃を受けていることは様々なニュースで報じられています。しかし、ことSaaSに関しては、企業にはまだ絶好の時期であることが本レポートから分かります。いくつかのポジティブなニュースを以下にまとめます。
- 今後3年で米クラウド支出は+56%で増加する
2021-2024年にかけて、米国企業のソフトウェア支出は$285Bから$336Bと18%で成長する見込み。クラウド支出はさらに速く、同期間に$171Bから$267Bと+56%拡大すると予測されている。 - 米SaaSスタートアップの資金調達件数は減っていない
米国でのSaaSスタートアップの資金調達件数は、2013-2020年まで年平均3,000件半ばあった。2021年は4,600件まで急増した。今年は昨年よりは減少しているが、3,800件近くと例年より多い。 - 米SaaSスタートアップのバリュエーションは高値安定している
SVBのデータによると、シード、シリーズA、シリーズB、シリーズCにおけるバリュエーションの中央値は、2021年と比較しても上場傾向にある。資金調達には絶好のタイミングと言える。 - ダウンラウンドは減少している
予想に反して、米国SaaSのダウンラウンドは減少している。米国のSaaS調達案件のうち7.9%がダウンラウンドで、昨年の11.7%から実は減少している。ベンチャーデットなど、他の資金調達手段が増えていることも影響していると考えられる。
Freshworksに学ぶSMB SaaSの教訓
Blossom Street Ventures「SMB SaaS Insight from Freshworks」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
2021年に上場したインドを拠点とするFreshworksの軌跡と戦略はSMB向けのSaaS、とりわけ市場のリーダーがいる領域で事業展開する上で重要な教訓が得られます。
- Freshworksのキャッシュ効率は良くない。
成長スピードは高いが資金効率は芳しくない。zendeskやhubspotなど市場のリーダーとの競争を余儀なくされていることがIR資料や未上場時の調達状況を見ても確認できる。そういう戦略を取る意思決定をし応援してくれるIRが重要だ。 - 導入ハードルの低さ(無料トライアルにはクレジットカード登録不要)
インバウンドマーケティングを中心にFreshworks をオーガニックに見つけた企業が、自社のニーズに最適なソリューションを迅速に判断できるようにリソースを整備。 21 日間の無料試トライアルを可能にし、企業が支払い情報を提供する必要がない。また、サブスクリプション契約の条件は、通常、年次または月次のいずれかであり、顧客の好みに応じて、柔軟に全期間または月単位で請求される。 - アップセルで勝利する
「お客様の約 18% が Freshworks 製品を 2 つ以上購入しています。(2021年6月時点。)これらの顧客は、2021 年 6 月 30 日現在の ARR の約 45% を占めており、成長を促進する大きな余地があることを示している。強力なPLG の動きによって支えられているため、ユーザーが製品にすばやくオンボーディングすることをシンプルかつ簡単にすることを志向している。また、ユーザーの特定のユースケースに対応するために 2,900 以上のカスタム アプリケーションを構築。さらにマーケットプレイスでは、企業が Freshworks ソリューションにプラグインして製品をさらに拡張できる、サードパーティによって開発および公開された 1,100 を超えるアプリケーションへのアクセスを提供。 - 『レガシー』なSaaSへのアンチテーゼ
従来の SaaS ソフトウェアは、多くの場合、購入するのに費用がかかり実装までに数年かかることもしばしば。そして承認とオンボーディングの時間をさらに延長する必要がある。これはほとんどの中小規模の組織をDXの過程で事実上置き去りにし、これらの高額なソリューションを採用して維持する余裕のある少数の組織に利益を集中させてきた。Freshworksはソフトウェアから価値を引き出せる時間を最大限に短くすることを志向し、販売から利活用までの体験にこだわることで十分なリテンションと成長を維持している。
大企業を攻略する10のTips
SaaStr「How Can Anyone Start a Big Business by Small Startup」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
SaaStrによる記事をご紹介します。大企業のお客さまを攻略することは時間も労力もかかる取り組みですが、1つ1つ地道に丁寧に挑むことが重要だとわかる内容に纏まっています。
- 今よりも10倍充実したプロダクトの機能や特徴(10x Feature)で、大企業が満足するものを思い描く
- 上記で思い描いた機能や特徴を利用するに相応しいお客さまに、ABMを活用しながらアウトバウンドのアプローチをかける
- イベントに参加し、上記で定めた提供価値を自社のTシャツや名刺に掲載し、アピールする
- 対外的な発信を積極的に行う(Podcastなど)
- 大企業が利用するプラットフォームやマーケットプレイスを活用する
- 質の高いブログ記事を書く
- 試験導入などを活用しながら、大企業側のリスクを軽減する
- 例え自社が取り組みたい顧客課題とは異なっていても、お客さまが一番解決したい課題の解決に取り組む
- テクノロジーパートナーを見つける
- SMB市場から始め、時間をかけて大企業の市場へ参入する
サイバー攻撃シミュレーションSaaS NetSPI、KKRから$410M(約597億円)を調達
米・ミネアポリスに本社を構えるNetSPIは、エンタープライズ企業がサイバー攻撃のシミュレーションを行い、サイバー攻撃からの防御を支援するサイバーセキュリティSaaSスタートアップ。2001年創業の同社は、2022年内で売上成長率+61%と好調。今年に入ってからやや減少傾向のサイバーセキュリティ分野のベンチャー投資の中にあって、本案件は目立っている。本ラウンドは、大手PEファーム KKRから資金調達。
UiPathのライバル Automation Anywhere、全額融資で$200M(約291億円)を調達
米・サンノゼのAutomation Anywhereは、RPA(Robotics Process Automation)業界でUiPathに肩を並べる自動化ソフトウェア・スタートアップ。今回の資金調達は、SVB CapitalとHercules Capitalから全額デットによる調達。同社ライバルであるUiPathは2021年4月に上場。今年に入って、株価は71%も下落した。この株価急落の時期に、株式に頼らない資金調達方法によって、新たな評価額を設定することを避けることができた。今回のデットファイナンスによって、同社は黒字化することを求められている。
イギリス発メタバースのインフラ構築SaaS Improbable、$100M(約146億円)を調達
2012年英・ロンドンで設立されたImprobableは、ゲーム開発者、学術機関、企業、その他の企業が独自の仮想世界を作成できるようにするメタバースインフラを開発・提供するスタートアップ。Financial Timesによると、Improbableは2021年に152英ポンドの損失を計上し、2012年の起業以来、投資家から集めた資金をほぼすべて使い果たしたことになる。一方で、同社CEOは2022年売上は3倍の$100M(146億円)以上になると語っている。本ラウンドは、ブロックチェーン技術企業 Elrondがリード。バリュエーションは、前回($2.5B)から上昇しており、$3B(約4,400億円)以上に達した。
商取引のサプライチェーンデータインフラSaaS Altana、シリーズBにて$100M(約146億円)を調達
米・ニューヨーク発のAltana Technologiesは、グローバルコマースのサプライチェーン全体にわたる数十億ものデータポイントを生きたAIモデルにレンダリングし、企業や政府に信頼できるネットワークのインフラを提供するスタートアップ。気候変動、富の不平等、サプライチェーンの安定、国家の安全といった世界的な課題の解決を支援している。今回のシリーズBは、コロナの流行や昨今の地政学的リスクの高まりにより、Altanaの売上とデータネットワークが飛躍的に成長したためだ。顧客には、海運大手Maersk、米税関・国境警備局、BMW、メルクなど業界のトップ企業が名を連ねている。本シリーズBは、Activate Capitalがリード。
EC事業者向けSaaSアグリゲーター Carbon6、シリーズAにて$66M(約96億円)を調達
2021年カナダ・トロント創業のCarbon6 Technologiesは、アマゾンマーケットプレイスで販売するEC事業者が使用するSaaSを買収し、必要なSaaSツールを一気通貫で提供するスタートアップ。創業以来すでに16社を買収し、アクティブユーザー数は20万人を超えている。EC事業者は、在庫、広告管理など8~15のSaaSツールを使っており、年間数百~数千万円のコストをかけている。SaaSアグリゲーターは、BeamyやParagonなどの競合が存在しているが、多くは小規模EC事業者をターゲットしているのに対して、Carbon6は急成長するEC事業者の成長段階に合わせて最適なツールを提供できることに強みを持っている。本シリーズAは、White Star Capitalによる株式による調達と、MidCap Financialからのデットによる調達による組合せ。
セキュリティチーム特化ノーコード自動化SaaS Tines、シリーズBにて$55M(約80億円)を調達
2018年アイルランド・ダブリン創業のTinesは、過大な業務と人員不足に苦しむセキュリティチームが、業務を自動化できるSaaSを提供するスタートアップ。ノーコードであるため、誰でも数時間あればTinesでワークフローを自動化できるようになり、その結果、開発者やエンジニアはより重要なプロジェクトに専念できる。CEO Eoin Hinchy氏は、Deloitteでフォレンジック専門家、eBayでシニアセキュリティエンジニア、DocuSignでサイバーセキュリティのシニアディレクターを歴任した専門家。本シリーズBは、Felicis Venturesがリード。
小規模物流会社向け輸送管理ソリューション(TMS) SaaS MVMNT、シリーズAにて$20M(約29億円)を調達
物流業界はスピードと正確性が譲れない条件であるため、大手物流会社では輸送管理ソリューション(TMS)ソフトウェアを導入していますが、小規模物流会社には高額すぎるため手が届きません。米・シカゴ創業のMVMNTは、小規模物流会社向けに貨物業務を単一プラットフォームで自動化するTMS SaaSを提供するスタートアップ。プラットフォーム上で荷主を見つけ、業界の賃金レートを分析し、ドライバーやトラック運送会社に支払いを行うことができる。本シリーズAは、Andreessen Horowitzがリード。
医療プラットフォームの構築を目指すUbie、シリーズCで27.6億円を追加調達(総額62.6億円)
生活者向け 症状検索エンジン「ユビー」、医療機関向け「ユビーAI問診」、生活者とクリニックをつなぐ「ユビーリンク」など、問診にフォーカスした複数のサービスを開発・提供。生活者・患者・医療機関・製薬企業との連携を強化し、情報や科学的知見が適切に共有される医療プラットフォームの構築を目指す。今回調達した資金は、製薬企業向け事業および「ユビーAI問診」の導入とサクセスを担う医療機関向け事業の人員増強、システム開発、マーケティング施策に充てられる。本ラウンドに参画した投資家は、下記の通り。
- 第三者割当増資:総合メディカル、AAIC Investment、新生企業投資(日本インパクト投資2号投資事業有限責任組合)、楽天グループ(楽天キャピタル)
- 融資:商工組合中央金庫、日本政策金融公庫、みずほ銀行
キャンセル料の請求業務をデジタル化するPayn、シードで総額9,000万円調達
ホテルやレストラン等のキャンセルポリシーを規定する事業者向けに、キャンセル料の請求業務を簡易に運用することができるデジタル請求ツール「Payn」を開発・提供。請求情報の一元管理や消費者への請求リマインドなどの機能を搭載。初期費用や月額費用など導入にかかる費用は発生せず、回収できた場合の手数料でマネタイズする形でプロダクトを構築。今回調達した資金は、プロダクト開発や営業、サポート体制構築のための人材採用に充てられる。本ラウンドに参画した投資家は、下記の通り。
- ジェネシア・ベンチャーズ、Gazelle Capital
人事データの分析ツールを提供するパナリット、シリーズAファーストクローズにおいて、マイナビと資本業務提携
企業の持つ人事システムと連携し、ノーコードで人事データの分析・可視化を可能にする「パナリット」を開発・提供。経営や人事、現場の意思決定時に瞬時に参照できる人事データ活用基盤の構築を支援する。今回のシリーズAファーストクローズを経て、累計調達金額は7.3億円に到達。マイナビとの提携により、マイナビの持つネットワークやノウハウにアクセスすることが可能になる。また、営業・マーケティング面でも連携を強化し、顧客からのインサイトをプロダクトに反映していく。
医療機関向け業務支援SaaSを提供する3Sunny、帝人による子会社化を実現
入退院マネジメントシステム「CAREBOOK」を開発・提供。2020年時点から約2年で利用病院数は10倍以上に増加し、東京と大阪においては全病院の3割が利用。今回の帝人グループ参画により、帝人の経営資源を最大限活用し、医療・介護従事者への提供価値を最大化する。3Sunnyの創業メンバーで現経営陣の志水文人氏、矢澤慎之介氏、榎本順彦氏は引き続き組織に残り、CAREBOOKの事業成長に携わる。