ソフトウェアの変遷の歴史からみる、生成AI時代に特化型ソフトウェアが勝つ理由
Emergence「Specialized Software Will Win in the Age of Generative AI」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
SaaSの黎明期からソフトウェアの歴史を見続けてきた米VC Emergence Capitalによる記事。2000年代前半のホリゾンタルSaaSの登場、2000年代後半のバーティカルSaaSの登場など、過去20年間のプラットフォームシフトから、生成AIの時代においても、業界や対象とするJob to Be Done(JTBD)に深く根差したソフトウェアが勝つと予測しています。主なポイントは以下の通りです。
- ホリゾンタルSaaSの登場
最初のプラットフォームシフトは、オンプレミスからクラウドへのシフトでした。このシフトはセールスフォースの誕生が原点となりました。初期のクラウド化の大きな特徴は、再販業者などの長年のソフトウェアの流通チャネルを破壊したことです。その後、WorkdayやServiceNow等の急成長プレイヤーが出現し、SaaSがオンプレミスを塗り替えていきました。それに加え、セールス分野では、JTBDでより細分化され、ZoomInfoやSalesLoftなど、更に特化したホリゾンタルSaaSの成功事例が生まれてきました。 - バーティカルSaaSの登場
2つ目のプラットフォームシフトは、Veevaに代表されるような業界特化型SaaSの登場です。バーティカルSaaSシフトの大きな特徴が、複数のプロダクトを重ねながら”ディープ・データ”が得られるようになった点です。これにより、顧客は価値のあるインサイトを得られる可能性が大幅に高まりました。 - そして生成AIの時代へ
生成AIの時代においても、過去のプラットフォーム同じ点が重要になると予想されます。業界やJTBD特有のコンテキストが重要になればなるほど、フォーカスされた特化型SaaSのモデルやプロダクトが賢くなります。 - 生成AI時代のMoatの築き方
既存大手に対して、Moatを築けるチームは2つのタイプしかありません。1つ目は、生成AIの技術力の高いチームが、ニッチな課題にフォーカスしてソリューションを構築するタイプです。2つ目は、ドメインに深い知見と市場での人脈のあるチームが、その後に技術力の高いメンバーを加えていくタイプです。
企業のCIO目線で評価する、スタートアップの良いセールスピッチ / 悪いセールスピッチ
Work Bench「A Formula For Pitching CIOs — Work-Bench」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
OktaやBMC Software (KKRが2018年に買収)などでCIO (Chief Information Officer)を務めたMark Settle氏の記事をご紹介します。特に大企業向けにSaaSプロダクトを開発するスタートアップであれば、企業側の導入検討の場に現れるCIOの攻略が必須になってきます。この記事では、Mark氏が受けてきた数々のスタートアップのセールスピッチの中から、CIOの目線で考えたときにスタートアップがやるべきこと / やるべきでないことを纏めています。
特定のCIOと繋がりたい場合、当該人物と繋がりのあるCIOや信頼できるVC、そのCIOが所属する企業のITチームのメンバーの推薦などからアプローチすることをお勧めします。
もしコールドメールしか選択肢がない場合、そのメールはよく調べ上げられており、且つパーソナライズされたものであるべきです。単にメッセージをコピー&ペーストして特別感のないものにしないでください。
もしCIOと会議を行う場合、クロージングを急ぎすぎてはいけません。下記のルールを守りましょう:
- ルール1:これはセールスミーティングではなく、関係性づくりをするミーティングであること
- ルール2:最終目標はCIOやそのチームと2回目のミーティングをすること
- ルール3:会議でCIOに持ち帰ってもらいたい学びを事前に2~3個決めておくこと
- ルール4:会議で自社が得たい学びを事前に2~3個決めておくこと
- ルール5:たくさんのスライドに囚われてはいけないこと。スライドを使うと、技術的な話や長ったらしい話で頭がいっぱいになり、会議の時間や人間関係の管理というポイントから目をそらしてしまうことがあります
スタートアップ側は「ペインポイント」や「企業が今使っているツール」「そのツールに対する満足度合い」「他のツールの検討をしているかどうか」などを知りたがりますが、CIOは傾向として下記のことを知りたがっています:
- そもそもどのような会社なのか?つまり調達状況、導入した顧客、チームなどを知りたがっています
- どうやって自分 (=CIO) までたどり着いたのか?組織の他のメンバーと会話したことがあるか?
- 既存顧客がプロダクトをどのように使っているか?
- ITベンダーの中で、このスタートアップはどのような位置づけにあるのか?
- プロダクトが実際にどのように機能するのか?どう違うのか?CIOまでの役職になると細かい技術レベルの話というよりも競合他社と比べて何が差別化になるのかを理解してもらうことの方がインパクトがあります
- プロダクトを導入するためのビジネスケース (社内オペレーションなど) をどのように構築すればいいか?
- プロダクトを導入すると、現在、あるいは将来的に何が解消されるのか?
2023年に注意するべきSaaS指標
Dave Kellog「Slides from the Balderton Version of Metrics That Matter in 2023 - Kellblog」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
HostAnalyticsの元CEOで、数々のSaaS企業に投資をしているDave Kellogが「2023年に注意するべきSaaS指標」を発表。以下がその指標です。
- FCFマージン (高い方がマルチプルが高い)
- Rule of 40のスコア (高い方がマルチプルが高い)
- Burn Multiple (2以下がGood、1.5以下がGreat、1以下がAmazing)
- ARR / FTE (米上場SaaSだと$305Kが中央値、ARR 30億円以下は$160Kが中央値)
- GRR (エキスパンンションを含めない売上継続率。ENTだと約93%、SMB/MMだと約85%が中央値)
- ARR 成長率 (20%以下は要注意)
- Growth Endurance (70〜80%が水準)
セキュリティ・コンプラアンスSaaSのリーダー企業 Vanta、CrowdStrikeとの戦略パートナーシップとシリーズBで大手SaaS 3社からの戦略投資を実施
Vantaは、企業がSOC2、HIPAA、ISO 27001などのセキュリティコンプライアンスを満たすことを自動化するSaaSを提供するスタートアップ。今回、クラウドセキュリティのリーダー的SaaS企業であるCrowdStrikeと戦略パートナーシップを発表しました。これによりあらゆる規模の企業でのコンプライアンスとセキュリティ運用を改善するインテグレーションの提供を開始します。これに加えて、シリーズBでAtlassian、HubSpot、Workdayの3社からの資金調達と、プロダクト提携に関する協業を進めていくことも発表しています。
EC事業者向けに資金計画・管理SaaSとFintechを提供する8fig、シリーズBで総額$140M(約190億円)を調達
2020年創業の8figは、EC事業者の持続的な成長のために資金繰りの計画作りと資金提供の両方を行うSaaS×Fintechスタートアップ。これまでEC事業者に$500M以上の資金提供を行っており、2022年だけで顧客数は900%、年間売上を800%増加しています。8figは迅速な資金提供のみならず、サプライチェーン管理、財務計画、物流調整のための財務管理ツールを提供しています。今回のシリーズBは、Koch Disruptive Technologiesがリード投資家。既存投資家のBattery Venturesなども参加しました。
南米市場のニーズに合わせた決済ソリューション-南米版Stripe Liquido、$26M(約35億円)を調達
南米ではクレジットカード保有率は28%と、まだまだ普及していません。また、クレジットカードを利用している人たちの間でも、詐欺はかなり蔓延しています。Liquidoは、企業はクレジットカードやデビットカード、銀行振り込み、デジタルウォレット、そして現金に至るまで多様な決済形態に対応でき、支払の受け入れ率を向上するだけでなく、カスタマイズ可能な金融詐欺対応のソリューションも提供しています。また、企業が給与の支払いや銀行振り込みによるサプライヤーや関連企業への支払いを支援する代替ソリューションも提供しています。本ラウンドはIndex Venturesがリードしました。
金融業向け金融犯罪への対処有効性テストAll-In-One SaaS Cable、シリーズAで$11M(約15億円)を調達
Cableは、銀行、フィンテック企業などに、金融犯罪へのコンプライアンスを確保するために、技術的に有効なリスク評価、自動保証、品質保証、管理情報、報告など、目的に応じたSaaSツールを提供するスタートアップ。銀行モデルの進化と共に、金融犯罪のリスクは増加の一途をたどっており、規制当局は監視を年々強めています。加えて、消費者や企業側も、金融犯罪リスクに対する安全性と説明責任を第一に考える金融サービスプロバイダーを選ぶようになってきています。本ラウンドは、Stage 2 Capitalがリード投資家です。
■ 資金調達
材料開発の革新を支援するMI-6、シリーズAで総額6.5億円調達
マテリアルズ・インフォマティクス(MI)をコア技術とした材料開発を効率化するSaaS「miHub」、MI活用を支援するプロフェッショナルサービス「Hands-on MI」、MIとロボティクスによって実験の自動自律化を実現する「MIロボティクス」の3つを提供しています。「miHub」は、これまで勘と経験に頼って試行錯誤していた材料開発において、最適な組成やプロセス条件の設計が可能となります。出光、京セラ、AGCなど、素材・化学メーカーを中心に取引先社数は100社を超えています。本ラウンドに参画した投資家は、下記の通りです。
- ジャフコ、DEEPCORE、みずほキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル
3次元データで建設業を変革するDataLabs、プレシリーズAラウンドにて4.3億円調達
点群・三次元モデルをベースとしたクラウド型コミュニケーションツール「LinkedViewer」、配筋検査自動化ツール「Modely」を提供しています。建設業界における労働人口不足などの課題に対して生産性向上が求められており、国土交通省がBIM/CIM原則化を開始しています。この三次元モデルを活用の市場トレンドを捉え、今回資金調達を行い、プロダクト開発を加速させます。今回は、JR東日本スタートアップとの資本業務提携も開始し、加えてBCG元日本代表の杉田浩章氏をシニアカウンセル(顧問)に迎えて事業開発の加速、経営体制の強化を行なっていきます。本ラウンドに参画した投資家は、下記の通りです。
- SBIインベストメント、JR東日本スタートアップ、DEEPCOREなど合計6社
プロジェクト型業界における業務負荷を削減するシービーティー、シリーズAラウンドで約2.2億円調達
プロジェクト収支管理が可能なクラウドERP「プロカン」、スマホアプリ連動型スタッフ管理システム「プロキャス」およびクラウド管理システム「プロキャス警備」を開発・提供しています。制作会社や広告代理店、人材派遣業界など案件単位で仕事を行う「プロジェクト型業界」にプロダクトを展開しています。これら業界において、未だに営業や経理業務がExcelで管理されていながらも、電子帳簿保存法などの法改正によってExcelでは対応し切れない状況に着目して、プロダクトを提供しています。本ラウンドに参画した投資家は、下記の通りです。
- エアトリ、Orchestra Holdings、アクトなど
企業のESG分析を実現するaiESG、シードで約1.5億円調達
強制労働・児童労働などの人権関連の指標も含めた全方位網羅型・包括的なESG分析サービスを提供しています。製品・サービスに使用している材料コストあるいは使用量データを入力するだけで、aiESGが保有するサプライチェーンのビッグデータに基づき、製品・サービス単位でESG評価を可視化・数値化できます。九州大学の研究チームがハーバード大学などの国際的に権威のある学術機関と共同開発した信頼あるデータベースをもとに、aiESG独自開発のAIを組み合わせてプロダクトが開発されています。近年、企業におけるESGへの取組みの重要性が増していますが、人権を含む社会影響を製品レベルで評価するにはグローバルサプライチェーンを通した広範にわたる試算が必要となり、この複雑性に着目してプロダクトを提供しています。本ラウンドに参画した投資家は、下記の通りです。
- ジャフコ、みやびベンチャーズ
スモールビジネスのお金にまつわるストレスをなくすペイトナー、資金調達を実施
受け取りから振込まで自動化する請求書受領サービス「ペイトナー 請求書」、フリーランス向けに資金繰り改善をサポートする請求書前払いサービス「ペイトナー ファクタリング」を提供しています。フリーランスをはじめとするスモールビジネス事業者向けに、収支把握や迅速な資金調達を実現させることを目的にプロダクトを提供しています。インボイス制度や電子帳簿保存法への対応が求められる中で、経理業務が煩雑になることに着目し、さらにプロダクト機能拡充や組織を強化するために資金調達を実施しました。本ラウンドに参画した投資家は、下記の通りです。
- 識学
- Googleが生成AIを組み込んだ新製品をグーグルI/Oで多数発表。(MIT Technology Review)
- OpenAIが3Dモデルを生成するAI「Point-E」を公開。(TechCrunch)
- Scale AIがエンタープライズ向けにLLMを活用できるフルスタックプラットフォーム「Scale EGP」等をリリース。(Scale AI Blog)
- セールスフォースとアクセンチュアがCRM向けの生成AIの展開加速化に向けて事業提携を発表。(Accenture)
- Hewlett Packard Enterpriseが、独Aleph Alphaの生成AIを用いて産業用ロボットを対話で操作するシステムデモを実施。(IT Media)
- IBMが基盤モデルと生成AIのための新プラットフォーム「watsonx」を発表。(IBM)
- ソフトバンクが生成AI活用の新会社を設立。(日本経済新聞)
- バイデン大統領がOpenAI、Google、Microsoft、Anthropic4社の代表との会談でAIの安全性確保を要請。(テレ東BIZ YouTube)
- 画像・動画向け生成AIスタートアップRunwayが$100Mを調達。Valuationは$1.5B。(Insider.com)
- 個人の全データを横断検索できるAI×SaaS RewindがシリーズAで$12Mを調達。今回ラウンドでの投資オファーは異例の170件。リード投資家はNEA。(The Information)
- 生成AIでヒトの繰り返しプロセスを自動化するためのAIプラットフォームを提供するOrby AIがシードで$4.5Mを調達。Pear VCとNew Enterprise Associates。(Finsmes)
- AI・機械学習でウェブページのCVRを改善するBurnerPageがプレシードで$2Mを調達。投資家はLDV Capitalなど。(Finsmes)
- コールセンター向けに、リアルタイムで音声アクセントを強調するAIを開発するInToneがシードで$1.7Mを調達。投資家はYellow Rocks!、A.Partnersなど。(Tech Funding News)
- ノーコードのアプリ生成プラットフォームを提供するBuilder.aiに対して、Microsoftが戦略的投資を実行。出資額は非公開。(TechCrunch)