「State of the OpenCloud 2023」からみる2023年のSaaS
Battery Ventures「OpenCloud 2023: Software’s AI-Driven Watershed Moment - Battery Ventures」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
米Battery Venturesのレポートでは、2023年の米SaaS・クラウド市場のトレンドをデータに基づいて解説してくれています。今年のテーマは何と言っても「赤字でも高成長から効率的な成長へのシフト」、そして「生成AIによるSaaS市場の拡大と変革」です。特に日本のSaaSスタートアップにも注目すべき内容としては、効率的な成長を実現する上で、AIの社内実装により、いかにコスト効率の良いGTM組織、開発組織にしていけるかのか?について解説されています。ぜひ参考にしてみてください。ここでは、注目する主なポイントを以下にまとめます。
- マクロ環境の圧力でSaaS企業は効率的な成長(Rule of 40)へ
金利上昇に反比例して米SaaS企業のマルチプルは5.8xに停滞。2019〜2021年まで、SaaS企業の評価は売上成長率でほぼ決まってましたが、2022年〜現在までにRule of 40の影響が大きくなっています。 - SaaS企業のIPOのバーが上がった
2022〜2023年にIPOしたSaaS企業はKlaviyoの1社のみ。売上規模、売上成長率に加え、利益が黒字化していることが求められています。 - AIがクラウド消費を急拡大する見込み
2027年までに、クラウド市場はCAGR +25%で成長することに加えて、AI市場が+75%で急成長する見込みです。 - AIによって、SaaS企業の組織体制が効率化されて利益体質を強化
営業&マーケティング(S&M)、開発(R&D)、バックオフィス(G&A)の業務フローに適合したAIソリューションが増えており、より少ない人員体制で運営が可能になります。結果、S&M ▼~20%、R&D ▼~30%、G&A ▼~20%削減できると、同じ売上$200M(YoY +30%)でも、企業価値は$1.4B→$2.3B(+~65%)まで上げられる可能性があります。 - (注目)開発の効率性に関する7つの指標とベンチマーク
スライド22ページ目に、開発の生産性を測る上での指標(アップタイム等)とそのベンチマーク指標が掲載されています。日本の場合、開発の生産性が測られていないケースもありますが、日本でもプロダクト主体の成長が競争優位性になっていく中で、この計測と評価は今後重要になっていくと考えられます。
評価されるスタートアップのベンチマーク指標(2023年版)
Growth Unhinged「Your guide to 2023 SaaS benchmarks」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
OpenViewによる2023年版のSaaSスタートアップベンチマークレポートです。2023年を振り返りながら、スタートアップの評価軸の変化についてうまくまとまったレポートになっています。レポートはコチラからダウンロードできます。今回は、OpenViewによるレポートのまとめのうち、特に気になる点を3つピックアップします(NotionAIにて翻訳後、一部修正)
- 収益性をいつから考えるべきか?
レイターステージの資金調達が難しくなる中、いつ収益性(Profitability)を追求すべきでしょうか?考慮すべき主な要素は2つあります。(1)高い成長性(YoY 50%以上)を持つ企業では、収益性を追求することは非常に稀です。健全なユニットエコノミクスを持つことが重要ですが、顧客獲得とプロダクトアップデートへの投資に高い意欲があることが伺えます。(2)成長率が50%未満になると、特にARRが500万ドル以上の企業では、黒字または収益性を達成している企業の割合が急増します。 - 効率性を追求する“ARR per FTE” の採用
SaaS企業は、より少ないリソースでより多くを成し遂げています。ARRに対して非常に効率的であり、特に500万ドルから5,000万ドルのARRの間で、ARR per FTE(従業員あたりのARR)は増加しています。ARR per FTEを考える上で、2つの点について考慮するべきです。(1)上場SaaS企業を模倣したい場合は、ARR per FTEを250,000ドル以上、理想的には300,000ドル以上を目指してください。(2)ARR per FTEは「シンプルさ」から来る魅力がありますが、現実はすべてのFTEが同じではありません。グローバル企業は地域ごとに人材を雇用しており、FTEのメトリクスが歪んでしまいます。“ARR per Compensation (報酬ごとのARR)” は、生産性の向上をより正確に測定する上で有効な代替手段です。 - エクスパンションの追求について
アーリーステージにおいては、成長を推進するために最も重要なのは「顧客獲得」です。しかしながら、持続的な成長をするためには、エクスパンションを加速させることが重要なのは言うまでもありません。ARRが2,000万ドルから5,000万ドルの企業においては、新規ARR成長の38%がエクスパンションから生まれています。強力なエクスパンションの動きを持つ企業において、3つの特徴があります。(1)エクスパンション対象の顧客に対して、複数の価格帯のオプションを設けること。これにより、顧客側にて人員減少によるシート課金やコストの最適化圧力による従量課金の収益減が発生しそうな場合に、それを防止することが可能です。(2)WTP (Willingness-to-Pay) に基づいて設計されたプロダクト開発のロードマップがきちんと準備されていること。(3)個々のユーザーからチーム、そして企業全体へプロダクトが採用される上で、発生する摩擦を最小化できていること。
バンドル化される時代における、SaaSスタートアップの競争戦略
The Information「How SaaS Startups Can Compete in a Bundled World」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
Theory VenturesのTomasz Tunguz氏による寄稿です。多くのSaaSは、中央集権的なIT部門にアプローチするのではなく、個々のワークフローに焦点を当ててエンドユーザーをターゲットにすることで拡大をしてきました。Slack、Zoom、Dropboxなどが挙げられる例です。しかしながら、SaaSの数が増え、部門ごとに異なるツールを導入できる自由さが複雑性を増す結果を招き、企業目線では効率性やコスト、1つのベンダーから互換性のある複数のプロダクトが好まれるような結果となりました。まさにマイクロソフトがSlackに対抗するためにTeamsをExchangeやOneDriveといった他のプロダクトにバンドルして無料で提供したり、コンパウンドスタートアップのような複数プロダクトを提供する戦略が好まれるようになったりする時代にスタートアップはどう対処すればいいのか、本記事では考察されています。有料記事になっていますが、ご一読されることをお勧めします。
エンタープライズ事業を前進させるAccount Managerへの挑戦
宮城徹也さんのnote「エンタープライズ事業を前進させるAccount Managerへの挑戦|宮城徹也」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
カミナシ執行役員の宮城さんによる、SaaSにおけるエンタープライズ開拓を前進させるための組織体制づくりに関するnoteを紹介します。この組織体制が共通プラクティスとして全ての企業に当てはまるわけではないですが、少なくともポストセールス全体でどのような組織構築を組むかは非常に重要な観点だと思います。
SaaSはリカーリング収益が基幹である → 契約後の能動的なサポートが大切 → CSの重要性、が認識されてきた段階を経て、顧客セグメントごとにどう体制を組み、コンサルやテクニカルサポート、カスタマーセールスをチームとして組織化していく段階へと変化しています。
企業間取引のリベートを中央管理するSaaS Enable、シリーズBで$120M(約182億円)を調達
Enableは、メーカー、流通業者、小売業者が企業間取引の際に設計するリベート(手数料や謝礼金)を共同で作成・提案・追跡できるSaaSを提供するスタートアップ。例えば、総支出額が一定額に達した場合や顧客紹介を受けた場合などに権利を持つ全てのリベートを受け取ることができます。また、このツールでは監査を含む自動ワークフローも組み込まれています。顧客に1万以上のブランドを抱えており、過去4年連続で毎年2倍に増加しています。今回、Lightspeed Venture Partners、Menlo Ventures、Norwest Venture Partners、Insight Partnersらから調達しました。評価額(Pre Money)は、$1B(約1,500億円)でユニコーン入りを果たしました。
レガシーな金融ビジネス向け決済組込みSaaS Volante、シリーズBで$66M(約100億円)を調達
Volanteは、レガシーな金融サービスをモダンなFintech技術を導入するためのSaaSを提供するFintech×SaaSスタートアップ。Volanteのカバー範囲には、リアルタイム決済、米国内の電信送金、企業対銀行の統合、組み込み前処理(取引時間の短縮)などがあります。現在、CitiやBNY Mellon、Goldman Sachsなどの150の大手銀行や金融サービスを提供する企業で利用されています。競合にはすでに上場しているTemenos、Thought MachineやMambuなどのユニコーン企業が存在します。本ラウンドでは、Sixth Street Growth、Wells Fargo Strategic Capitalなどが参加しています。
会計士・会計事務所向けフィンテックAI Black Ore、シリーズBで$60M(約91億円)を調達
2022年に設立されたBlack Oreは、AIを活用して公認会計士(CPA)や会計事務所の連邦税・州税のコンプライアンス・プロセスを自動化する「Tax Autopilot」を開発するスタートアップ。2024年初めに本格リリースを予定しています。将来的には、ウェルスマネジメント、ファイナンシャル・アドバイザリー、保険サービスなど向けにもプロダクトを展開する予定です。今回のラウンドでは、a16zを筆頭に、General Catalyst、Founders Fund、Khosla Ventures、SV Angelなどアメリカの主要VCが参加しています。
未上場株の投資管理Fintech×SaaS Arch、シリーズAで$20M(約30億円)を調達
Archは、税務に関わるK-1ワークフローを近代化し、業務を自動化、財務専門家の報告を簡素化する個人投資管理のSaaSを提供するスタートアップ。顧客には、KKR、Tiger Global、Sequoia Capitalなどの有名ファンド運営企業を抱えています。同社のプラットフォームでは、新規投資機会、キャピタルコール、分配金など、ポートフォリオの更新情報を確認し、効率的に管理するための直感的なツールを提供しています。あらゆる投資案件のデータや書類が集約されるため、ユーザーは第三者のポータルにアクセスする必要がなく、レポート作成に適したデータを投資家、会計士、アドバイザーに直接配信することができます。本シリーズAでは、Menlo Ventures、Craft Ventures、Cartaなどが参加しました。
建築・建設・エンジニアリング分野の設計に特化した “Figma” Snaptrude、シリーズAで$14M(約21億円)を調達
2017年設立のSnaptrudeは、建築家、設計者、開発者、請負業者が、リアルタイムで共同かつ相互運用可能な環境で建物を設計・建設できる業界特化型「Figma」のようなツールを提供するスタートアップ。Autodeskのようなレガシーツールと異なり、ユーザー間で共同作業したり、相互運用する機能を備えています。今年1月以来、ユーザー数を6,000人以上から20,000人以上に急増しており、アメリカ、イギリス、インドなど30カ国以上で利用されています。Snaptrudeは、より効率化を促進するためにAI機能を追加しています。通常、設計や建築には著作権が絡むため、LLaMAやGPTといった既存のベースモデルを利用し、企業のレガシー・ナレッジに加え、データプライバシーの確保しています。本シリーズAでは、Foundamental、Accelなどが参加しました。
■資金調達
支出管理サービスを提供するLayerX、シリーズAファイナルクローズで20億円調達
LayerXが提供する支出管理サービス「バクラク」では、請求書処理や経費精算、法人カードなどの企業支出関連業務をAIのサポートによって簡素化し、効率化することが可能です。主に企業や行政にて、業務効率化とデータ活用を志向する業界を中心にサービスは展開されています。2023年2月にシリーズAファーストクローズで約55億円、6月にセカンドクローズで26.8億円、そして今回の調達によりシリーズAラウンドでの累計調達額は約102億円となりました。今回のラウンドにはKeyrock Capital Managementが参画しています。
モビリティSaaSを提供するニーリー、資金調達を実施
ニーリーが提供するモビリティSaaS「Park Direct(パークダイレクト)」では、駐車場の募集から契約業務、契約後の月額使用料の収納代行や顧客管理まですべてをオンラインで実現し、不動産会社や借主の駐車場契約・管理にまつわるムダなコストを削減することが可能です。今回の資金調達は、主に三菱地所グループが管理する月極駐車場・住宅付随の駐車場活用や「Park Direct for Business」との取り組み実施を目的としており、中長期的にはモビリティデータの活用などを通じてスマートシティの実現に向けた駐車場ビジネスのデジタル化・高度化を目指しています。尚、三菱地所グループでは駐車場事業を運営するほか、三菱地所パークスなどにおいて駐車場の管理運営受託事業やコンサルティング事業を展開しており、両社の総管理台数は23万台に及んでいます。
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- IBMがエンタープライズAI促進のための$500Mのベンチャー投資ファンドを設立(Inside.com)
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- 01.AI - ベストセラー『AI Superpowers』著者 Kai-Fu Lee氏が設立した中国版OpenAIスタートアップ。Sinovation Ventures、Alibaba Cloudなどから資金調達。評価額は$1Bでユニコーンに(TechCrunch)
- Aleph Alpha - 政府機関向けにEUのデータ規制に適合したAIを開発するスタートアップ。シリーズBでBosch Venturesなどで構成されたコンソーシアムから$500Mを調達(TechCrunch)
- Tabnine - ソフトウェア開発者を支援するコード生成AIスタートアップ。シリーズBで、Telstra Ventures、Atlassian Venturesなどから$25Mを調達(TechCrunch)
- Ritual - 分散型AIプラットフォームを提供するスタートアップ。Archetypeなどから$25Mを調達(CoinDesk)
- DeepInfra - シンプルなAPIで安価で高速な機械学習インターフェースを提供するスタートアップ。シードでA.Capital、Felicisから$8Mを調達(VentureBeat)
- Protecto - エンタープライズの安全なAI利用を可能にするデータ保護プラットフォームを提供するスタートアップ。シードでBetter Capitalなどから$4Mを調達(Yahoo! Finance)
- Eilla AI - 財務分析のための生成AIを提供するスタートアップ。シードで$1.5Mを調達(tech.eu)