変動の激しいマーケット環境でレジリエントなSaaSビジネスを作る7つのポイント
Bessemer Venture Partners「Seven SaaS resiliency lessons for doing business in a volatile market」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
過去2年間は、マクロ環境の不安定さやIPOマーケットの凍結など、SaaSを含むテック業界全体にとって「嵐」とも言えるような環境でした。しかし、最近では暗いトンネルを抜けて明るい兆しが見えつつあります。それでも、今後も嵐のような環境が訪れる可能性が十分にあると言えます。では、SaaSスタートアップはどのようにこの「嵐」を乗り切るべきでしょうか?Bessemer Venture Partnersが振り返り、以下の7つのポイントをまとめています。
- 「エキスパンジョン」力を持続的な成長エンジンとして高める
不況時には、新規顧客の獲得コスト・時間が増え、CAC Paybackが長期化します。そのため、既存顧客からの追加受注(エキスパンジョン)が持続的な成長のカギとなります。 - 価格戦略を見直し、「ヘッドライン価格」で断れないようにする
IT予算が縮小すると、顧客の意思決定者は高額なSaaSを避けます。新規顧客の購買「摩擦」を減らすために、エントリープランやフリーミアムを組み込んだ柔軟な価格戦略が重要です。 - 顧客とその顧客のマーケット環境を深く理解する
一口に不況と言っても、企業規模やセクターにより影響は異なります。例えば、インフレ時にはB2B企業よりB2C企業の方が影響を大きく受け、民間セクターへのダメージがあっても公共セクターへの影響がないこともあります。 - 「ミッションクリティカル」なストーリーで顧客を惹きつける
ソフトウェア支出を厳しくチェックする時期に、意思決定者はそのSaaSが「Nice to Have」か「Must Have」かを判断します。顧客側のチャンピオンとの指標のつかみや、具体的なROI計算を提示することが必要です。 - ベンダー統合に対抗するためにプラットフォーム化する
景気後退時には、最適なポイントソリューションを集めるよりも、支出削減のためにSaaSベンダー数を減らす動きが見られます。ポイントソリューションは削減対象となりやすいため、プラットフォーム化の加速がカギとなります。 - 成長だけでなく、マージンの質も指標にする
この1年で成長から利益重視へと一気にシフトが起きました。マージンの質と将来の利益創出の道筋を示すことは、嵐を乗り切る企業経営の能力として重要で、投資家からの評価にも影響します。 - 企業の「心臓」である従業員に改めてフォーカスする
不況下では、SaaSスタートアップの最大のコスト項目である「人件費」は削減せざるを得ません。レイオフや報酬の変更は、チームの士気に大打撃を与えることが多いため、一度にコストカットを行なうか、丁寧なコミュニケーションプランと実行が大切となります。
2024年に起こるBtoBマーケティングの8つのトレンド
OV BLOG内の記事「B2B Marketing in 2024: 8 Trends That Are Changing the Game and What They Mean for Your Business」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
2023年も残すところ1ヶ月となりました。2024年に向けた目標や戦略を立てはじめるこの時期、ソフトウェアスタートアップに投資をするVC OpenView Venture Partnersより、2024年のBtoBマーケティングトレンド予測がリリースされていましたので、ご紹介します。BtoB領域におけるマーケティングチャネルの多様化、競争激化に伴う差別化の必要性などから、読者の皆さまも施策にさまざまな工夫をされているかと思います。本記事を通して、2024年に更なるお客さまやユーザーの数の増加を目指す方々の参考になれば幸いです(DeepLで翻訳後、一部修正)。
- B2BマーケティングにおけるAIの短期的な過大評価と長期的な過小評価
Forresterのリサーチによると、安易にカスタマイズされた生成AIのコンテンツは、BtoBバイヤーの購買体験を70%低下させると予測しています。しかし、今後は、キャンペーンに適したオーディエンスを自動的に特定するようになったり、A/Bテストやセグメンテーションを効率化することで既存のキャンペーンの効果を高めたりすることができるようになります。真の全自動マーケティングが実現するようになれば、マーケティング担当者の役割は、モデルのトレーニングやチューニング、戦略的なマーケティングの目標設定や、課題の特定に集中することに軸足を移すことになります。AIがBtoBマーケティングに与える長期的なインパクトは、既存のプラクティスの強化にとどまらず、マーケティングの仕組みを完全に再発明することになります。 - Emailマーケティングの進化
Adobeのレポートによると、56%のバイヤーがBtoBのオファーをメールで受け取ることを好み、DMやソーシャル、その他のマーケティングチャネルを大きく上回っています。しかしながら、バイヤーは多すぎるメールや迷惑メールに不満を漏らしてもいます。2024年は、いかにメールの受信量を減らし、パーソナライズされた体験が提供されるかがテーマになりそうです。 - 伝統的なBtoBのデマンドジェネレーションにおける有効性の低下
短期的な成果につながるものだけではなく、長期的に身を結ぶ施策にも目を向けること。また、バイヤーに訴えかけるようなブランドづくり、バイヤーが関心を持つタイミングを予測するためのインテントデータやAIの活用、新規パイプラインの創造。そしてエクスパンションに対するマーケティング活動の実施、全ての営業ステップにおけるマーケティング活動との連携、など。 - 独自の調査やデータに基づくコンテンツの増加
質の高いコンテンツとソートリーダーによるブランド構築は依然として不可欠です。レベニューインテリジェンスプラットフォームを提供するGong.ioは、Gong Labsと称して営業に関するコンテンツを独自で調査、提供しています。これにより、自社のブランドを強化し、ターゲットセグメントの信頼を高めるより良いポジションを築き上げています。 - オウンドメディアとコミュニティへの投資・自社ブランドの構築
単なる視聴者づくりを超えた、ファンや支持者のコミュニティを作り、ブランドの認知度を高め、ビジネスを成長させること。バイヤーは「企業」よりも「人」を信頼する傾向が強く、BtoBでは特にエキスパートを信頼する傾向が強いです。 - 新たな〇〇-Led Growthの台頭
Go-to-Market戦略の手段として、これまでProduct-Led Growth(PLG)やCommunity-Led Growth(CLG)などの方法論が登場しました。重要な点は、1つのグロースモデルに固執するのではなく、これら体系化された方法論を参考にしながら、独自の市場環境やお客さまの規模、プロダクトの性質に合わせてGo-to-Marketのアプローチをブレンドして使用することです。 - サードパーティクッキーの終焉に対する備え
BtoBの世界におけるサードパーティクッキーの対策例としては、ファーストパーティデータやUnified ID 2.0の活用が考えられます。一方、それらの対策やソリューションはBtoCの領域では適用されやすいものの、BtoBでは嵌まらない可能性があります。 - 購買の意思決定に関わる個人・グループを狙う
アカウント・ベース・マーケティングはアカウントをあまりに広く扱いすぎることで、1つの組織内の購買シナリオの多様性を見落としています。購買プロセスに関与する組織内の個人の集まりを捉える活動が増えると予想します。
Instacartからの学び
Elad Gil氏のYoutube「Founder Journeys: Apoorva Mehta, Founder of Instacart w/ Elad Gil」の一部を日本語で紹介したものです。全内容はリンク先をご覧ください。
今年NASDAQで上場したInstacartの創業者から学ぶべきいくつかのポイントを紹介します。
- 常に第一原理で考える。1996年に設立され、10億ドルを調達して消えたWebvanの失敗から学び取るべきです。しかし、Instacartの状況は、Webvanの時代とは異なり、iPhoneの存在が大きな要素となりました。以前うまくいかなかったからといって、今もそうであるとは限りません。
- 問題を最も速く解決する方法は、自分で解決するのではなく、問題を解決できるチームを構築することです。
- スタートアップは成長に焦点を合わせる傾向がありますが、自社のMoat(防御的な堀)をどのように構築するかも考えるべきです。InstacartのMoatは、スーパーや、商品に関する多くのデータを保持し、サプライヤーと独占的な提携を進め、パートナーのためのエンタープライズ機能を構築することです。
- 最大の競合であるAmazonが、Whole Foods(当時Instacartの最大のパートナー)を買収したとき、経営陣は戦争モードに入り、全ての主要な小売業者と提携し、Instacartエクスプレス会員(サブスクリプションプロダクト)の急拡大に焦点を合わせることを決定しました。この決定により、InstacartはAmazonに倒されることなく生き残ることができました。
- 主要な小売業者パートナーとの提携を加速するためにエンタープライズ向けの機能を拡充し、それぞれのパートナーと一気に全国展開する方法を見つけました。
- スタートアップの初期には、シニアな人材でプレイヤーとしても活躍できる人を見つけることが重要です。このアプローチの利点は、会社が規模を拡大するときに新たなマネージャーを探す必要がないことです。
- アイデアを選ぶために、そのアイデアがうまくいかない10の理由を見つけ、できるだけ早くそれを証明しようとする。多くの起業家は間違ったアイデアに時間をかけすぎる傾向があります。
スタートアップに影響を与える5つの主要マクロテーマ
Digital Native「The Five Pillars of Startup Impact」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
今回は、少し視点を変えた形になりますが、スタートアップに影響する5つのマクロテーマについての記事が刺激的でしたので紹介します。新規事業や拡張戦略、エクイティストーリーの構築などにも活用できる内容になっています。
美容&ウェルネス業界の売上アップ自動化SaaS RepeatMD、シリーズAで$50M(約73億円)を調達
2021年設立のRepeatMDは、美容整形、歯科、スパなどの美容・ウェルネス業界向けに、インバウンドでの売上増加に向けた様々なSaaSソリューションを提供するスタートアップ。具体的には、クリニックやエステサロンのEC販売、会員管理、顧客向けのファイナンス、リワードプログラムなどを提供することができます。全米50州、2,500以上の施設で利用されており、同社のプラットフォームには約70万人の登録ユーザーがいます。直近12ヶ月は爆発的な成長を遂げ、GMVは+2,519%、SaaS売上は+130%増加しました。最近では大手の医療・美容レーザーメーカーとのパートナーシップを発表しました。本ラウンドは、Centana Growth PartnersとFull In Partnersが共同でリードしました。$50Mの調達の内、$10Mはシリコンバレーバンクからの借入枠によるものです。
企業の調達プロセスをカンタンにするSaaS Candex、シリーズBで$45M(約66億円)を調達
Candexは、企業の調達活動におけるベンダー・決済プロセス管理を簡素化するSaaSを提供するスタートアップ。2011年創業当時は、人材紹介業者からの購買プロセスに焦点を当てたソリューションからスタートしたが、2017年にスコープを広げ、幅広いベンダーや支出項目に対応するようにしました。Candexの面白い点は、ほとんどの「テール支出(少量で大量にある管理されていない支出)」に着目してカバーしている点です。顧客には、HSBC、Dell、ロレアルなど約100ブランド企業を抱えています。本ラウンドは、ゴールドマン・サックスとWiLから調達しました。WiLは、Candexの日本でのGTMの成功支援を目的に参加したとのことです。
地方自治体・政府機関向けSaaS Second Front、シリーズBで$40M(約58億円)を調達
Second Frontは、元海兵隊の退役軍人たちによって設立されたGovtech SaaSスタートアップ。公共セクターでは、国家安全保障を向上させながら、セキュリティや透明性を担保しなければいけないため、ソフトウェアの購買担当者にとって複雑で、コストも時間もかかるプロセスです。Second Frontは、Second Frontはこの課題を解決し、公共機関が数日でソフトウェアを調達することを可能にするソリューションです。前年比で売上は3倍以上の急成長をしており、米軍全体、イギリス、オーストラリア、北大西洋条約機構(NATO)で利用されています。本ラウンドは、NEAがリードしており、Moore Strategic VenturesやAE Industrial Partnersも参加しています。
クラウドインフラのプロビジョニングSaaS DuploCloud、シリーズBで$32M(約47億円)を調達
DuploCloudは、Google Cloud、Azure、AWSといったパブリッククラウドのプロビジョニングツールを提供するSaaSスタートアップ。プロビジョニングとは、「将来必要なネットワークやコンピュータリソースを提供できるよう予測し、準備しておくこと」をさします。AmazonとAzureでは、セキュリティ、スケール、可用性のための約1000人のエンジニアが何百万ものワークロード管理をしているのに対し、平均的な企業では50台以上のサーバー毎に1人のエンジニアが最低でも必要で、この社内の開発運用担当者を支援するSaaSです。現在までに100社以上に利用されており、2021年以降からARRは7倍に成長しています。本ラウンドには、WestBridge CapitalやStepStone Groupが参加しています。
拡張現実(AR)で製造現場のワークフロー管理を支援するSaaS Squint、シリーズAで$13M(約19億円)を調達
Squintは、スマートフォンやタブレットのカメラを作業環境にある物理的なオブジェクトに向けることで、それらの機械を使用するための詳細でステップバイステップの指示や、メンテナンスやその他の作業を記録するためのログシートなどを見ることができる作業現場のワークフローSaaSを提供するスタートアップ。ボルボ、シーメンス、ミシュランなどの大手メーカーの現場で利用されています。ARにとどまらず、作業に必要なワークフローや、質問してプラットフォームから適切な回答を得るために、生成AI技術にも投資しています。本ラウンドは、セコイア・キャピタルがリードし、Menlo Venturesも参加しています。
■資金調達
仕事のイネーブルメントを実現するナレッジワーク、シリーズBで45億円調達
セールスの効率化と生産性向上を支援するセールス職向けナレッジ領域のプロダクトを提供しています。営業資料・動画や営業ノウハウがスピーディに発見でき、営業向けの学習プログラムが簡単に作れる機能を提供し、営業力強化を支援します。トヨタ自動車やKDDIなど、大手企業向けに展開しており、今後は3年で10個の新プロダクトの開発・提供するマルチプロダクト戦略を本格的に進めます。今回のラウンドにはWorld Innovation Lab、グロービス・キャピタル・パートナーズが参画しています。
AIインフラの創造を目指すFastLabel、シリーズBで11.5億調達
AIデータプラットフォーム「FastLabel」とアノテーションサービスを提供しています。アノテーションツール、教師データ作成サービス、MLOps構築を包括したオールインワンソリューションとなっています。これまでデンソーやソニー、ブルボンなどの大手企業を中心とした100社以上のAI開発における課題解決を支援してきています。2021年10月の正式リリース以降、FastLabelにおける累計アノテーション数は3,200万件超、利用ユーザー数は6,700人超となっています。今回のラウンドにはMPower Partners Fund、Salesforce Ventures、DBJキャピタル、ジャフコ グループ、NTTドコモ・ベンチャーズが参画しています。
在庫効率向上を実現するフルカイテン株式会社、3.5億円を調達
在庫分析クラウド「FULL KAITEN」を提供しています。売価のシミュレーションや店舗ごとの基準在庫の予測などが可能で、既存在庫での売上・粗利・キャッシュフローの最大化を支援します。アパレル、雑貨、スポーツ用品、メガネ、靴、食品などの小売業界を中心に利用されており、導入企業ではEC売上の増加(昨対比11%)、粗利額の増加(16%増)、在庫回転率の改善(前年比1.5倍超)などの業績を達成しています。今回のラウンドは、日本政策金融公庫からスタートアップ支援資金の新株予約権付融資によって実現したものです。
競走馬の調教とケガ予防の実現を目指すABEL、7,400万円調達
競走馬管理クラウド「EQUTUM」を提供しています。「EQUTUM」では、これまで調教師の経験と感覚、経験が重視された馬作りにおいて、競走馬のスピードやストライド、心拍数などのデータを提供しデータドリブンな意思決定を可能にします。ABEL代表の大島さんは、サイバーエージェントやログラスで開発領域でキャリアを築き、2021年にABELを創業しています。今回のラウンドにはニッセイ・キャピタル、DIMENSIONなどが参画しています。
- OpenAIが、新たな経営体制を発表(X)
- 生成AIで初の包括ルール、G7で合意へ 利用者にも「責務」求める(Yahoo!ニュース)
- アマゾン、生成AI用の新半導体「Trainium2」を発表(Yahoo!ニュース)
- Google DeepMind、音楽の自動生成AI「Lyria」および実験的な2つの取り組みを発表(@IT)
- OpenAI、「GPT Store」 リリースを2024年初旬に延期(TechCrunch)
- 国産生成AIの開発進む「豊富な日本語の学習データが強み」(NHK)
- Together - オープンソースで生成AIモデル開発のためのインフラを開発するスタートアップ。シリーズAで$102.5Mを調達。リード投資家はKleiner Perkins。その他にNvidia、Emergence Capital、NEA、Prosperity 7、Greycroft、137 Ventures(TechCrunch)
- Pika - スタンフォード大学博士の同級生2人が立ち上げた、動画編集向け生成AIスタートアップ。シード・シリーズA合計で$55Mを調達。シードは元GitHub CEO ナット・フリードマン氏が2回リード。シリーズAはLightspeed Venture Partnersがリード。評価額は$200M-$300Mの間(Forbes)
- PhysicsX - 英・ロンドンベースの自動車・航空宇宙・材料科学分野のエンジニアのためのAIシミュレーション・スタートアップ。シリーズAで$32Mを調達。リード投資はGeneral Catalyst。その他にStandard Investments、NGP、Radius Capital、KKR共同創業者兼会長のヘンリー・クラビス氏(TechCrunch)
- Cradle - 生成AIを活用したタンパク質設計プラットフォームを提供するバイオテックAIスタートアップ。シリーズAで$24Mを調達。リード投資家はIndex Ventures。その他にKindred Capitalなど(TechCrunch)
- Kognitos - ERP、CRMなどのB2Bソフトウェアと連携して、ユーザーとの対話に基づいて、自動化を継続的に改善する生成AIを活用した自動化ソフトウェアスタートアップ。シリーズAで$20Mを調達。リード投資家はKhosla Ventures。その他にClear Ventures、Engineering Capital、Wipro Ventures(PYMNTS)