顧客からの学び以上にスタートアップを前進させるものはない
Bessemer Venture Partners「Why learning from customers will get your startup farther than any best practice or playbook」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
SaaS業界は、その特性から急成長企業の数も多く多種多様なパターンがあるため、プレイブックやベストプラクティスが多く流通しています。しかし、「どんなSaaSスタートアップでも成功できる万能なアプローチ」は存在しません。ただ、SaaSの「正しい」アプローチの原点には、共通した徹底した顧客志向があります。このBessemer Venture Partnersの記事では、Zoom、Twilio、Blacklineなどの創業者が「徹底した顧客志向」を大切にしてきた、5つのエピソードを紹介しています。
- 顧客のことを知り尽くしていると決して思い込んではいけない
ウェディング・プランニングプラットフォームを提供するZola創業者シャンリンは、「結婚の贈物は新婚カップルにとって嬉しい体験であり、現状に満足しているのでは」という思い込みを持っていました。しかし実際には、多くのカップルにとって受け取りの対応や置き配による盗難などによって最悪の体験だったという意外な事実を顧客フィードバック分析から突き止めました。そこで、カップルが自分達で受け取りたいタイミングでプレゼントを贈ることができるようにするため『Zola』を設計しました。
- 顧客に寄り添う習慣をつける
建設特化SaaS『Procore』創業者トゥーイは、自分達の住宅を建てる際に、旧態依然とした建設業界の課題感からProcoreを立ち上げました。トゥーイは起業してから、チームをできるだけ課題に直面している、建築家、請負業者、下請け業者、サプライヤーなどの人々のそばにチームを一緒にいさせるようにしました。現在でも、Procoreの研究開発チームは、営業以上に世界中の建設現場を飛び回っており、毎年のカンファレンスでは業界の専門家1,000人以上を集めて、建設業界の未来について共にに議論しています。Procoreのビジョンは、建設に関わるすべての人の生活を向上させるためにあるからです。
- プロダクトの方向性は顧客にゆだねる
『BlackLine』創業者テレーズは、地方銀行からとあるシステム開発を依頼された。それは、1万以上ある銀行口座のどの口座が誰のものかを特定したいというものでした。この開発案件をはじめて、彼女は、既存の銀行向けERPシステムで、こんなシンプルな機能がないことに困惑しました。テレーズ達は、これが誰も触れていない顧客のペインがあることを明らかにして、全く新しいカテゴリーを立ち上げることになったのです。
- チャーンから学ぶ
『Zoom』創業者エリックは、チャーンしたユーザーにフォーカスしたことで成功を実現した人物です。彼は多くのユーザーが、ビデオ会議のために前払いでお金を払った上で、10クリックしないと使えないシステムに不満を持っていることを突き止めました。しかもビデオはうまく機能せず、音声も安定していない。そこでエリックは、超簡単にすぐ使えることと、音声・ビデオの品質の向上に集中して開発リソースを投下しました。この2つが、コロナ禍の中で個人でもZoom利用が一気に広がった主要因になりました。
- 顧客が感じる摩擦を徹底的に取り除く
『Twilio』創業者ジェフは、創業直後にCiscoやAT&Tに事業連携の提案しました。しかし彼らの答えはノーでした。そこでジェフは、既存の電話会社がやらないこと - 徹底的に顧客に向き合うこと - をやると決意しました。素早くリリースし、顧客の声に耳を傾け、作り直すイタレーションを永遠に繰り返し続けることです。この精神は、透明性の高い価格や公開文書にも表れています。Twilioを使う開発者が24時間いつでも、問い合わせ無しで開発作業を進められるようにするためです。
Rule of 40の見落としている3つの欠点
Sammy Abdullahのmedium「Stop with the Rule of 40」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
Rule of 40は、SaaS企業の成長と利益のバランスを評価するのに、非常にシンプルでわかりやすい一方、価値を過剰にシンプル化し過ぎている
と指摘する記事です。例えば、「成長率20%+利益率20%」と「成長率40%+利益率0%」は同じ評価で正しいのでしょうか?このRule of 40の限界に関する指摘は、ここ最近のRule of Xをめぐる議論などでもアメリカではよく見られます。ここではRule of 40の考え方が見落としている、3つの欠点について解説しています。
- 投資家が求めているものは同じではない
小規模なPEであれば、成長資金を十分に持っていないので、利益率の方を圧倒的に重視します。一方で、セールスフォースのような大規模な戦略投資家や大手PEの場合、そうではありません。つまり、魅力的だと考える、成長 vs 利益の重みは、投資家(買収相手)によって全く異なりますが、Rule of 40はこのニュアンスを無視しています。
- 売上規模と複利効果を過小評価している
ARR10億円で成長率20%+利益率20%のSaaSビジネスがあったとします。このSaaSの10年後のARRは62億円です。もし成長率40%+利益率0%だったらどうでしょうか?10年後のARRは289億円にもなります。あなたはどちらの方が投資対象として魅力的でしょうか?後者の方ではないですか。Rule of 40は、売上のコンパウンド性(複利効果)と規模を無視しています。
- 大規模な投資家ほど、バーンに敏感ではない
ARR100億円で成長率20%、年間のバーンが50億円のビジネスは、このバーンの高さによりRule of 40は魅力のない事業だと判断します。しかし、大手PEや戦略投資家などは、時間をかけてバーンを抑えることが得意です。彼らの場合、計画の一部として、シナジーを想定しています。例えば、彼らが毎年10億円バーンを下げられるとしたら、150億円あれば、5年で黒字化まで持っていけます。ARRの10xで買収したとしたら、買収金額の15%にしか過ぎません。Rule of 40は面白いコンセプトですが、投資家・買い手の気にするものによって簡単に崩れてしまいます。
アーリーフェーズにおけるマルチプロダクト戦略
First Round Review「From Flagship Back to Fledgling: Lessons on Going Multi-Product From an Early Stripe PM」の一部を紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
マルチプロダクト戦略の中でスタートアップ企業として取り組む上では「いつ適切なプロダクトをローンチするのか」「何を開発するのか」「マルチプロダクト戦略を遂行する適任をどう採用するのか」という問いがつきものです。今回は、StripeのアーリーフェーズでPMを担っていたTara Seshan氏のレッスンから仮説を考えていきます。
複数あるプロダクトアイデアから、慎重に開発するべきものを採用する
Stripeがセカンドプロダクトについて考えていたとき、簡単な切り口のひとつは、「我々のバイヤーは誰なのか」を問うことでした。同じ顧客で同じ買い手なのか、同じ顧客で異なる買い手なのか、完全に新しい顧客なのかでニーズが異なります。
ビジョンを明確にし「Why Now」に集中する
第二のプロダクトということになれば、作ることができるものは非常にたくさんあるので、そのタイミングと機会が適切に交差していなければなりません。もちろん、会社のステージもここで重要な役割を果たします。Stripeの場合、会社がどんどん大きくなるにつれ、疑問は「なぜ今なのか」ということだけでなく「このアイデアにはどんなチャンスがあるのか」「これによってStripeに100億ドルの企業価値が加わるのか?」ということになっていきました。
分析と直感を活用する
新プロダクトをいつ発売するかという問題をさらに掘り下げると、2つの異なるアプローチがあります。1つは分析的なアプローチ。つまり、企業成長に関わるマーケットサイズや競争優位性、バイヤーの状況を分析するアプローチです。2つ目は直感的なアプローチ。Squareの中でCash Appを構想したJack Dorseyは、直感的に伝統的な銀行のシステムをなくし決済を行なう方法を考え出しました。マルチプロダクトに移行するタイミングを見極める大きな原動力となり得ます。
仮説に対して絶対的な楽観を持ち込む
本当に初期の発展途上のフェーズにいるとき、重要なことは「将来どうなりたいか」という展望を持つことです。(Tara氏が属する)Watershedでは「10年後には、すべての上場企業がある程度の炭素会計を実施し、脱炭素化計画を策定する。企業が脱炭素化を進める最善の方法は、サプライチェーンを通じて、クリーンエネルギーを購入すること」という未来を構想しプロダクトを作り上げています。あなたは波に乗っていると同時に、波を作り出しています。目先の目標を達成するために賭けだけでなく、ビジョンの長期的な成果を養うために賭けをしているのです。
無駄を省く
新しい賭けに対して資金を出しすぎないこと。何かを確立しようとする初期段階では、資金が多すぎるとかえって足かせになります。新しいプロダクトを担当する組織には、E2Eで複数の機能を担える人材が必要です。自身でセールスイネーブルメントができる創業者タイプの営業担当が必要であり、プロダクトマネージャーもセールス活動を行なうことがあり得ます。いわば会社の中にスタートアップを作るイメージです。
高度に構造化されたプロダクトレビューを実行する
Stripeのリーダーが、すべての製品レビューで質問する12の質問があります。この質問は、1つ目の質問に十分に答えられない限り2つ目の質問には進むことができないという非常に厳しい指導があります。あなたは勝つものを作ろうとしている。ソフトウェアは決して完成することはないし、最初のバージョンは常に悪いもの。しかし、何の脈絡もなくそれを評価するのは非常に難しいです。Stripeで実行しているプロダクトレビューの12の質問は、本文のLesson6のセクションの最後をご覧ください。
顧客からレビューをもらえるような顧客の接点づくりを行う
重要なのは、聞こえのいいレビューばかりに集中してしまうハッピーイヤー問題を避けることです。あなたがユーザーに売り込むのではなく、ユーザーがあなたにプロダクトを売り込むことを期待してミーティングに臨むことです。つまり、ユーザー側からフィードバック(ネガティブも含めて)を獲得するように仕向けていくことです。
ポテンシャルのあるダイアモンドの原石を採用する
新しいプロダクトに投資するときは、必ずしも経験ではなく、ポテンシャルのある人材を重視します。ハングリーでポテンシャルが高く、急成長に専念できる人材は、地位のある人や経験豊富でポテンシャルがそれほど高くない人よりも、ビジネスの価値を高めることができます。Tara氏は下記の基準から採用を行っています。
- ハングリー精神
過去の経験の中で、彼らがどのようにハングリーさを示してきたかを探してみましょう。おそらく、変わった方法で過去の仕事を手に入れたり、何もないところからチャンスを実現させたり、自分で何かをはじめたりしていることでしょう。 - 馬力の高さ
何らかの形で馬力の高さを示さなければ、即座にノーです。素晴らしいサイドプロジェクトを持っているか。鋭い分析力を示す非常に優れたブログ記事、文書、記事を書いているか。 - メンバーと比較した勝利数
この人物は、同じスペックを持つ他の人物よりも良い成績を残しているか? - 最後までやり遂げること
頭のいい人の多くは、物事をゴールまでやり遂げる意欲やフォロースルーが苦手です
新しい賭けの成功を測るために、別の物差しを引き出すこと
新プロダクトのアイデアがうまくいかない場合の原因の1つは、他社と同じ物差しで判断してしまうことです。その間違った判断基準は経営陣だけではなく組織全体に悪影響が連鎖されます。
2023年に150%の株価上昇を果たした、Weaveから学べること
Only CFO's Newsletter「Biggest Winners in Cloud | Lessons from Weave」の一部を紹介したものです。全内容はリンク先をご覧ください。
Weaveは、歯科医院向けのall-in-one SaaSを提供しているVertical SaaSです。2021年11月というSaaSが最も高く評価されていたタイミングで15億ドルの評価額でIPOを果たしましたが、その後6ヶ月で時価総額は1億4500万ドルまで落下。しかし、FY2023においてWeaveはソフトウェア株のパフォーマンスで5番目に優れた成績を収め、回復を果たしました。その背景には、年度売上成長率の着実な成長と、粗利率の改善(11%)とFCFポジティブな事業構造に適切に転換できていることが背景にあります。
- Clumio - クラウドデータのバックアップとリカバリーをするSaaS。シリーズDで$75Mを調達。投資家はSutter Hill Ventures、Index Ventures、Altimeter Capitalなど(TechCrunch)
- Fabric - 遠隔診療と医療事務業務の自動化を支援するSaaS。シリーズAで$60Mを調達。投資家はGeneral Catalyst、Thrive Capital、GV、Salesforce Venturesなど(Inside.com)
- Simetrik - コロンビア発の財務データ自動化SaaS。シリーズBで$55Mを調達。投資家はGoldman Sachs、FinTech Collective(TechCrunch)
- Higharc - 住宅建設業界の建築業者、建材メーカー、流通業者をつなぐSaaS。シリーズBで$53Mを調達。投資家はSpark Capital、Pillar VC(PR Newswire)
- Planity - フランス発のヘアサロン向けSaaS。シリーズCで$48Mを調達。投資家はInfraVia Capital Partnersなど(TechCrunch)
- PermitFlow- YCom発の建築業界の承認プロセスを自動化するSaaS。シリーズAで$31Mを調達。投資家はKleiner Perkins、Initialized Capital、Y Combinatorなど(TechCrunch)
- Scribe -社内ナレッジを文書から自動抽出するSaaS 。シリーズBで$25Mを調達。投資家はRedpoint Ventures(TechCrunch)
- HealthSnap - 医療機関向けにリモート患者モニタリングと慢性疾患ケア管理を提供するSaaS。シリーズBで$25Mを調達。投資家はSands Capitalなど(PR Newswire)
- Alembic - エンタープライズ向けにマーケティングROIや売上予測を支援するSaaS。シリーズAで$14Mを調達。投資家はMXV Capital、Liquid 2 Ventures(Yahoo! Finance)
- Rehab - デイサービス向け介護ソフト。シリーズDエクステンションラウンドにて10億円調達。投資家は東京ウェルネスインパクトファンド、SMBCベンチャーキャピタル、JPインベストメント地域・インパクトファンド、小野デジタルヘルス投資(PRTimes)
- Facilo - 不動産仲介会社と顧客のやりとりを整理・可視化するコミュニケーションクラウドシリーズAで12億円調達。投資家はグロービス・キャピタル・パートナーズ、Coral Capital、Angel Bridge(PRTimes)
- M-INT - 医療連携システム。プレシリーズAで約9000万円調達。投資家は三菱HCキャピタル、Cygames Capital、インキュベイトファンド(PRTimes)
- アイクリスタル - AIを活用した製造業向けプロセスインフォマティクス。2.7億円を調達。投資家は、SBIインベストメント、ディープコア、STATION Ai、エンジェルナビ・グループ(PRTimes)
- アウトラウド - BtoB営業支援AIサービス。プレシードラウンドの調達を実施。投資家はYazawa Ventures(PRTimes)
- Moonshot AI - 生成AI駆動のチャットボットKimi Chatの生成AIを開発。$1Bを調達。評価額は。$2.5B投資家はAlibaba、HongShan(TechCrunch)
- Magic AI - startup building an AI software engineer,。$117Mを調達。投資家はNat Friedman、Daniel Gross、CapitalG、Elad Gil(Voicebot.at)
- Recogni- 生成AI、自動車産業向けのAIチップ開発。シリーズCで$102Mを調達。投資家はCelesta Capital、GreatPoint Ventures, 、HSBC(Crunchbase News)
- Bioptimus - フランス発のバイオ分野特化のユニバーサルAIモデル開発。シードで$35Mを調達。投資家はSofinnova Partners、Bpifrance Large Venturesなど(TechCrunch)
- Qloo - 世界の消費者の行動データからインサイトを抽出するAI。シリーズCで$25Mを調達。投資家はAI Ventures、AXA Venture Partners(PR Newswire)
- BRIA - 倫理的な問題の無いビジュアル生成AIプラットフォーム。シリーズAで$24Mを調達。投資家はGFT Ventures、Intel Capitalなど(CTech)
- Clarity -ディープフェイクを検知するAIサイバーセキュリティ 。シードで$16Mを調達。投資家はWalden Catalyst、Bessemer Venture Partners(CTech)
- Loora - 英語学習者向けの生成AIプラットフォーム。シリーズAで$12Mを調達。投資家はQP Venturesなど(CTech)
- Novity - 製造業など向けのメンテナンス予測AI。シリーズで$7.8Mを調達。投資家はWERU Investment(Silicon ANGLE)
- Guardrails AI - AIリスクを診断・モニタリングするオープンソースフレームワーク開発。シードで$7.5Mを調達。投資家はZetta Venture Partners、Bloomberg Beta、Pear VC (The SaaS News)