Abridge、Canva、Zapierに学ぶ、SaaSに競争力のあるAIの力を与えるヒント
Bessemer Venture Partners「Abridge, Canva, and Zapier share insights on AI innovation to SaaS leaders」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
生成AIと言語モデルがヘルスケア、デザイン、エンタープライズのSaaSをどのように変革しているか、をまとめたBessemer Venture Partnersの記事。生成AIの進歩は、AIを積極的に採用しようとするSaaS起業家に大きな機会を与え、そうでない起業家にはリスクにもなりえます。
ここでは、Abridge、Canva、Zapierが生成AIと言語モデルを搭載したプロダクトを構築し、ローンチしたかを解説しています。
- データによる堀(Moat)を深めたAbridge
医師は患者を診察するとき、治療だけでなく、患者、他の医師、保険会社という3つの聴衆を同時に満足させるために、注意深くメモを取らなくてはなりません。医師はこれに疲弊し、燃え尽き症候群につながります。この問題に対し、Abridgeは医師と患者の会話を正確に要約し、コーディング、請求、リスク評価に必要な構造化データを抽出することができるプロダクトで、医師が取り組む事務作業を自動化することに成功しました。チームは、何年もかけて収集した150万件の医療データセットを使って、既存のAIモデルをトレーニングしました。
Abridgeはモデルそのもの以上に、「データの堀」が大きな競争優位性を生んでいます。そしてAbridgeは、患者と医師との会話で作成されたメモに関するフィードバックを共有できる独自アプリを開発しました。Abridgeでは、ユーザーを巻き込んでモデルを改良し続けることが、市場特有のニーズに応え、AIの防御力を強化し続ける最も効果的な方法にしています。
- 一般的なAIとのハイブリッドシステムで既存プロダクト体験を高めたCanva
Canvaは、ChatGPTリリース後、わずか3.5ヶ月で新プロダクトMagic Designをリリースしました。Magic Designは、Canvaユーザーの最大の問題の1つである「最初の白紙ページへの恐怖」を解決するプロダクトです。
Canvaが素早くMagic Designをリリースできた背景には、第一にChatGPT以前から数年にわたりAI・機械学習への取り組みをやってきたこと、第二にAIサーチとパラメトリックデザインのハイブリッドシステムを使い、Canvaの既存のプロダクト体験を変えなかったことがあります。このアプローチによって、Canvaのデータセットにフィードバックするユーザーからのインプットを得ることが可能にしました。Canvaのアプローチは、必ずしも独自AIでなくとも競争力のあるAIプロダクトを作れることを証明しています。
- AIで何ができるか?ではなく、ユーザーがAIで何をするか?に着目したZapier
AI・LLMの専門家ではないZapierが、LLMの可能性を知った時にまず取り組んだことは、ZapierエコシステムにAIファーストのアプリを増やすということです。特にOpenAIとChatGPTのZapierアプリは、爆発的な人気を博し、Zapierの歴史の中で最も急成長したアプリカテゴリーとなりました。次に、Zapierは、AIの恩恵を受けるだけでなく、それに貢献したいと考え、数ヶ月のうちにNLA APIを作り、開発者がZapierの30,000以上のアプリ・アクションを自社製品に組み込むことができるようにしました。
そしてOpenAIがプラグインを発表した際に、Zapier自身がNLA APIを使い、Zapierプラグインをたった6週間弱でリリースしました。Zapierは、AIが何をできるか?という研究に費やす時間はAIの可能性の発見を遅らせるため、「速く学び・速く出荷する-learn fast and ship quickly method」を適用し、短期でエキスパートになりました。彼らは、本当に差別化されたAIプロダクトとは、「AIテクノロジーで何ができるか?」ではなく「人がテクノロジーで何をするか?」から生まれると考えたからです。
AIスタートアップには、過去25年間の技術革新の時のような戦略は使えない
A Smart Bear「AI startups require new strategies: This time it’s actually different」の一部を日本語で紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
過去25年に起こったインターネットやスマートフォンのような技術革新の際は、「スタートアップが既存大手を倒す方法」で示すような、スタートアップならではの優位性がありました。しかし、現在のAIにおいては、ほぼ利用することは難しいと解説している記事です。日本では、既存大手が必ずしも同じような動きをしていない市場も多そうなので、裏を返すと、スタートアップに大きなチャンスがあるとも考えられます。
その大きな理由は、以下の通りです。
- AI・LLMでは破壊的イノベーション理論は通用しない
通常の破壊的テクノロジーでは、既存大手は実績がなく、過去のデータから予測できない新技術や新市場を避けるために、「イノベーションのジレンマ」に陥り、スタートアップに譲る現状がみられました。しかし、AIにおいては、マイクロソフトなどが歴史的な巨額の資金と時間を使って新しいテクノロジーや不確実な市場の獲得を競っています。
- 既存大手がAIによるイノベーションを怠っていない
通常、スタートアップが大手に勝つには「大手がイノベーションを手に入れる前に、スタートアップが優れたプロダクト流通方法(Distribution)を手に入れる」必要があります。AIにおいては、大手がイノベーションを既に手に入れており、スタートアップは優れた流通方法を見出していません。また、AIスタートアップブームで、競争が激しいことが、更にこれを難しくしています。
- 既存大手の方がデータ量を持っている
「データ戦略なくしてAI戦略なし」という格言の通り、AIモデルの訓練、テストなどには、データが必要です。既存大手はすでにデータを持っています。
- 優秀な人材は、既存大手のポジションに満足している
小さな会社を好む優秀な人材は常に存在しますが、世界トップクラスの技術力を持つ人に囲まれ、高額な給与で、最もエキサイティングなプロジェクトに取り組み、潤沢な予算とデータを活用でき、余計な雑務に追われることなく、多くの顧客に迅速に影響を与える環境が大手にはあります。このような環境を好む、優秀な人材の方が多く存在します。
- いわゆる「AI市場」は、あなたが考えているようなものではない
AI市場は何兆ドルにもなるだろうから、大きな機会があると言われます。しかし、OpenAIと直接競合しない限り、「AI市場」など存在しません。チャットボットやSEOツールの市場は、以前と同じ市場であり、今は競争が激化しています。
NPSはお客さまの満足度を図る最適な手段か?
Mostly metrics「Is Net Promoter Score the Ozempic of Metrics?」の一部を紹介したものです。全文はリンク先をご覧ください。
「果たしてお客さまは本当にプロダクト / サービスに満足しているのか?」という問いを常に投げかけながら進化をし続けることが永遠のベータ版であるSaaSの宿命であると考えています。今回ご紹介する記事は、満足度を図る指標の1つ「NPS」が十分でない点を指摘しつつ、代替策として重点的にウォッチするべきメソッドを提案します。
NPSが十分なメソッドではない理由
- 実践的なインサイトの欠如
NPSは推奨者や非推奨者の数を教えてくれますが、お客さまがそう感じる理由を明らかにできないことが多いです。 - 空約束
真のカスタマー・アドボカシーは仮定の話で進めてはなりません。誰かがあなたを「誰かに薦めたい」と言ったからといって、実際に「薦める」とは限りません。 - タイミングのズレ
NPS調査の送信タイミングはスコアに大きな影響を与える可能性があります。お客さまは、気分や私生活での出来事など、企業とのインタラクションとは無関係な外的要因に影響されて、実際に体験した時の感覚とは異なる評価する可能性があります。 - スコアに対する認識のズレ
最初のコアとなるICPを超えて顧客ベースを広げながら成長するにつれて、スコアはしばしば落ちていきます。しかしながら、NPSに依存しているチームは最初期の高スコアを維持しようと努力しますが、それは誤っています。 - サイロ化されたフィードバック
NPSスコアは、ソーシャルメディアやカスタマーサポートとのやりとり、プロダクト利用データなど、他の形態のフィードバックを統合することなく収集・分析されることが多く、顧客体験の理解が制限されます。
NPSの代わりとなる方法案
- カスタマー・エフォート・スコア(CES)の測定
お客さまがあなたのビジネスと接するためにどれだけの労力を費やしたかを測るサービス指標。顧客は手間のかからない体験を高く評価するため、これはロイヤルティの強力な予測因子となります。 - 厳密性と無作為性を担保したサンプリングの収集
お客さまのフィードバックの仕組みに、厳密でランダムなサンプリング方法が含まれていることを確認する。これにより、偏りが少なくなり、最も声の大きい顧客だけでなく、お客さま全体を代表するデータになります。NPSを使うかCESを使うかにかかわらず、無意識のうちに最も幸せで成功したお客さまをターゲットにしてしまいがちなので、調査対象はランダムにしましょう。 - 定性的なフィードバックの収集
定量的指標を定性的フィードバックで補います。お客さまの感情の全体像を把握するために、自由形式の回答を促し、インタビューを実施すること。 - カスタマージャーニーの分析
カスタマージャーニー全体を理解し、お客さまが苦労する点やハッピーになる瞬間を特定しましょう。この全体的なアプローチにより、お客さまの行動や嗜好に関する深い洞察が明らかになり、より的を絞った改善を導くことができます。 - NRRの測定
この指標は、アップグレード、ダウングレード、チャーンを考慮し、既存のお客さまからの収益維持と成長を測定できます。財務パフォーマンスに直結し、顧客満足度とロイヤルティをより具体的に測ることができます。
バーティカル
- Applied Intuition - 自動車・運送トラック・建設・農業などの産業特化の車両の自動運行支援AI×SaaS。シリーズEで$250Mを調達。評価額は$6B。投資家は(TechCrunch)
- CodeMatrix - AIを活用してヘルスケア業界の売上サイクルマネジメントを支援するSaaS。シリーズBで$40Mを調達。投資家はTransformation Capital、SignalFireなど(FinSMEs)
- HiLabs - 医療変革に必要なデータをクレンジングするAI。シリーズBで$39Mを調達。投資家はEight Roads、Denali Growth Partnersなど(FinSMEs)
- Lily AI - EC・小売事業者向けECプロダクト・ディスカバリーSaaS。シリーズB-1で$20Mを調達。投資家はConductive Ventures、NEAなど(Global Newswire)
- Fermat - EC事業者向けにMLを活用してソーシャルコマース体験を向上させるSaaS。シリーズAで$17Mを調達。投資家はBain Capital Ventures、Greylock、QEDなど(BusinessWire)
- Big Sur AI - EC事業者がAIセールスエージェントで売上アップを支援するAI。シードで$6.9Mを調達。投資家はLightspeed、Capital F(Yahoo! Finance)
フィンテック
- Perfios - インド発のB2B与信意思決定支援SaaS。プレIPOラウンドで$80Mを調達。評価額は$1B以上。投資家はOntario Teachers’ Pension PlanのグロースファンドTVG(Fintech Global)
- PPRO - ロンドン発のローカル決済ソリューションSaaS。€85Mを調達。投資家はEurozone、JPMorgan、BlackRockなど(Fintech Global)
サイバーセキュリティ
- Wiz - イスラエル発のクラウドセキュリティSaaSユニコーン。評価額約$10Bで、$800Mを調達実施中。投資家はThrive Capital, Lightspeed, G Squared, Sequoia Capitalなど(Globes)
- Nozomi Networks - 産業向けIoT、IT機器AIサイバーセキュリティSaaS。シリーズEで$100Mを調達。投資家は三菱電機、シュナイダー・エレクトロニクスなど(Crunchbase)
- Todyl - SMB向けのオールインワン・セキュリティ&ネットワークSaaS。シリーズBで$50Mを調達。投資家はBase10 Partners、Anthos Capitalなど(Yahoo! Finance)
- Reach Security - AIを活用したセキュリティオペレーション最適化SaaS。$20Mを調達。投資家はBallistic Venturesなど(FinSMEs)
エンタープライズ
- Luminary Cloud - デスクトップPCの最大100倍の速度でシミュレーションを実行できるコンピュータ支援エンジニアリング(CAE)SaaS。シリーズで$115Mを調達。投資家はSutter Hill Venturesなど(Silicon Angle)
- Ocient - ハイパースケールできるデータ処理・分析SaaS。$49.4Mを調達。投資家はGreycroft、OCA Venturesなど(VentureBeat)
- Nanonets - AIを活用してビジネスプロセスを自動化させるSaaS。シリーズBで$29Mを調達。投資家はAccel、Y Combinatorなど(VC Circle)
- Remofirst - 企業が現地法人を設立することなく、180カ国以上の従業員や契約社員を雇用ができるSaaS。DeelやRipplingの競合。シリーズAで$25Mを調達。投資家はOctopus Ventures、QEDなど(TechCrunch)
- Prescient AI - AIを活用したメディア効果測定、予算最適化SaaS。シリーズAで$10Mを調達。投資家はHeadline、CEAS Investmentsなど(SaaS News)
- TheyDo - オランダ発のカスタマー・ジャーニー・マッピングSaaS。シリーズBで$34Mを調達。投資家はBlossom Capitalなど(tech.eu)
AIファースト
- Together AI - NVIDIAのGPUへのアクセス提供と開発者向けのオープンソースAIモデル構築支援プラットフォーム。$106Mを調達。評価額は$1.25B。投資家はSalesforce Ventures、Coatueなど(Reuter)
- Unstructured - 大規模言語モデル(LLM)の取り込みと前処理を支援するAI SaaS。シリーズBで$40Mを調達。投資家はMenlo Ventures、Databricks Venturesなど(Yahoo! Finance)
- Defense Unicorns - 国家安全保障システム向けのオープンソースソフトウェアとAI。シリーズAで$35Mを調達。投資家はSapphire Ventures、Ansa Capitalなど(SaaS News)
- Adaptive ML - 企業向けカスタムメイド生成AI。シードで$20Mを調達。評価額は$100M。投資家はIndex Ventures、ICONIQ Capitalなど(shifted)
- Tavus - 企業がパーソナライズされた動画キャンペーンを作成するための動画生成AI。シリーズAで$18Mを調達。投資家はSequoia Capital、Scale Venture Partners、Y Combinatorなど(TechCrunch)
- Axion Ray - 製造業が技術的な問題や品質問題を検知してダウンタイムを減らすAI。シリーズAで$17.5Mを調達。投資家はBessemer Venture Partners、RTX Venturesなど(Silicon Angle)
- Kaedim - ゲーム開発者向けの3Dコンテンツ作成支援AI。シリーズAで$15Mを調達。投資家はAndreessen Horowitzなど(VentureBeat)
- Pienso - ノーコードでテキストからインサイトを抽出できるAI。$10Mを調達。投資家はLatimer Venturesなど(FinSMEs)
フィンテック
- DraftWise - 法務専門家向けにAIを活用した契約書のドラフト作成・交渉を支援するSaaS。シリーズAで$20Mを調達。投資家はIndex Ventures、Earlybird Digital East Venturesなど(Reuter)
- SoftRoid - 建築工事の全工程を網羅的に記録するクラウド型AIサービス。プレシリーズAで2.2億円調達。投資家はUB Ventures、インキュベイトファンド、個人投資家。(PRTimes)
- ジザイエ - 建設土木現場・製造業工場向け遠隔就労支援プラットフォーム。シリーズAファーストクローズで約2億円調達。投資家はサムライインキュベート、15th Rock(PRTimes)
- Malme - 土木業界向け設計自動化アプリケーション。シードで1.7億円調達。投資家はジェネシア・ベンチャーズ、DEEPCORE (PRTimes)
- テープス - EC特化ノーコードツール。シリーズAで1.3億円調達。投資家はNew Commerce Ventures、横浜キャピタル、横浜銀行 (PRTimes)
- ゼスト - 在宅医療・介護の訪問スケジュールを自動作成するクラウドサービス。1億円調達。投資家は吉村英毅・ミダスC有限責任事業組合。(PRTimes)