組織のパフォーマンスを最大化するためには、2つの重要なポイントがあります。メンバーが自分自身の役割を理解していること。それが会社全体に貢献しているという自信を持てる環境をつくることです。
これらを実現するために、「1on1」ミーティングは大切なツールです。しかし、スタートアップが事業を急拡大するなかでは、マネージャー未経験ながらチームのマネジメントを担わなればならない場面は数多くあるものです。
そこで、マネージャー未経験ながら、海外B2B SaaSの日本チームを立ち上げ、2年目でARR400%成長を達成できた私が、試行錯誤する中で気づいた「初めての1on1のポイント」を振り返ってみました。
実践例も交えていますので、初めてマネ―ジャーになる方や、その上司の方に読んでいただき、何か一つでも参考になる部分があれば、幸いです。
1on1は目的によって2つに分ける
月曜の朝はビジネス、週末夕方はモチベーションに集中
マネジメントは、業績や数値管理といった「ビジネスマネジメント」と、メンバーのモチベーションや成長を促す「ピープルマネジメント」に大きく分けられます。
ビジネスマネジメントでは、チームの業績を数値で正確に管理し、PDCAサイクルを回していくことが重要です。そのため見込みと実績の差異をなくすために、細かなステータスや数字を用いたコミュニケーションが求められます。
一方で、ピープルマネジメントでは、メンバーのキャリア観と組織の方向性をすり合わせ、モチベーションを高めていくことが主な目的になります。メンバーの心情に配慮した気配りといった感覚的なコミュニケーションも重視されます。
多くのケースでは、評価に直結しやすく、経営層へレポートするタイミングが決まっているビジネスマネジメントを優先しがちです。
ただ、マネジメントは、これら2つから成り立っているのであり、その目的も大きく異なるわけですから、1on1も目的ごとの分解が大切だと考えています。
そこで私は、1週間のうちに実施していた1on1の時間を、「月曜日の朝」と「週末の夕方」に、目的ごとに30分ずつ実施するようにしました。
具体的には、月曜の朝は数値や見込み管理を確認する時間、週末の夕方はメンバーのモチベーションを高める時間として設定。
これによって、後回しにしがちであった、メンバーのモチベーションを高めたり、成長をサポートしたりする時間を、しっかり確保できました。メンバーも、それぞれの1on1の時間に対して目的意識をもって参加できるようになりました。
ピープルマネジメントを怠ると、メンバーの離脱やオンボーディングの遅延などが後々大きな負担になるので、意識的に時間を割くのがポイントです。
フィードバックの質を決める「タイミング×時間配分×ジョハリの窓」
メンバーの成長を促すためにも、適切なフィードバックは欠かせません。その質を高めるには、大きく3点を心がけると良いように思います。
1:タイミング
「鉄は熱いうちに打て」という意識は大切です。
例えば、商談や打ち合わせに同席して、気づいた課題や違和感があれば、定例の1on1の時間を待つのではなく、「15分以内」にフィードバックするように心がけました。
また、重要な改善点がある時はニュアンスを伝えるためにも電話で、褒めることが多い場合はSlackでコメントするなど、伝え方にも気を配ります。迅速なフィードバックは下記の点でも効果があると言えます。
① 自分の課題を俯瞰的にとらえる癖が身に付く
② 改善サイクルをより早く回すことができる
③ 褒めることで成長実感が持て、モチベーションが高まる
そして、改めて1on1では、1週間を総括しつつ課題と成長ポイントを伝えられるので、より有意義に時間を活用できます。
2:時間配分
時間配分については、前田ヒロが書いた最高の組織をつくるための必須ツール『1 on 1』の記事を参考に、以下の構成で組み立てていました。
・ メンバーが話したいことを自由に話す・・・10分
・ マネージャーが話したいことを話す・・・10分
・ 未来について語る・・・10分
最初の10分はメンバーに話してもらいましょう。「自由に話せていない」と感じられたら、具体的な商談での取り組みや、内省を促す質問を行うことで話すきっかけを作ってあげるのも大事です。「今週の商談で良かったポイントは?」「いま課題に思っているポイントってある?」などですね。
先にメンバーから話してもらうことによって、課題をどの程度自己認識できているのかという範囲と癖を知ることができ、その後のコメントのピントが合いやすくなります。
次の10分はマネジャーのパート。伝えるべきことは、「承認(感謝)」と「メンバー自身が認識できていなかったGood Practice」です。この2点を踏まえることで、その後の改善ポイントも伝わりやすくなります。
そして、最後の10分は未来について語り合いましょう。中長期的なキャリアの話はもちろん、マネジャー自身に取り組んでほしいことや、チームの全体の課題のヒアリング、それらの解決策のアイデアを一緒に考える時間にすると、メンバーの主体的な活動に結び付きやすいと考えています。
3:フィードバックの内容
効果的な1on1のためには、「ジョハリの窓」を取り入れるといいでしょう。
心理学のモデルである「ジョハリの窓」は、他者との関係から自己への気づきを促し、コミュニケーションを円滑に進めるためのツールとして提唱されています。
下記は、そのモデルをベースに1on1の関係性を体系化した図です。マネージャーとメンバーそれぞれを、「知っている/知らない」という視点で四象限マトリクスにまとめました。
まず、①の「開放の窓」の領域を広げていくことが、組織の安定的なコミュニケーションにつながります。そして、①から③の「秘密の窓」をタテに広げることが「自己開示」であり、①から②の「盲点の窓」をヨコに広げることが「フィードバック」です。
また、①から④の「未知の窓」へナナメに広げることは、両者が気づいていなかった領域を捉えるので「成長」といえます。
つまり、効果的な1on1コミュニケーションは、「開放の窓」を、他の領域にもどれだけ広げることができたか、と言い換えられそうです。
ここに、先ほど書いた目的や時間配分をかけあわせて考えてみます。
・ メンバーが話したいことを自由に話す⇒自己開示の時間
・ マネージャーが話したいことを話す⇒フィードバックの時間
・ 未来について語る⇒成長の時間
このように分けて捉えるのも、1on1の意義がはっきりしやすくなるポイントです。
1on1のスキルを高めるインプット3選
良い1on1を行うためには、安心安全な場を日々いかにつくるか、傾聴力といったコーチングスキルの研鑽が重要になります。
最後に、それらの参考になりそうなインプットを紹介しますので、ご参考に。
前田ヒロ Startup Podcast『1on1を語る』
金田宏之氏(株式会社インプリメンティクス代表取締役)による1on1についてのインタビュー。1on1の目的はアウトプットである、成果にレバレッジをかけるべしといった、1on1を始める前に身につけておきたい考え方や具体的な取り組みまで学べます。
成人発達理論による能力の成長 加藤 洋平 (著)
ハイブローなタイトルですが、比較的読みやすい本です。意外と知られていない、社会人の成長について理論的に整理をされている良書です。「どのようにしてスキルは高まるのか?」という成長のメカニズムについて、プロセスと実践例を交えて学習できます。より効果的なフィードバックを伝える場面で効果的な書籍です。
「学習する組織」入門 ― 自分・チーム・会社が変わる 持続的成長の技術と実践 小田理一郎 (著)
ナイキ、ユニリーバ、インテル、VISAなど世界的企業がそのエッセンスを組織改革に取り入れる、ピーター・センゲによる世界的名著「学習する組織」の入門書。その難解な概念がわかりやすく丁寧に解説されています。
組織の持続的成長のポイントを具体例とともに学ぶことができ、マネージャーとしての視座を高めることができます。