アメリカで支持を集める掲示板型SNS「Reddit」のCEO、Steve Hoffmanはこう言いました。
「数ヶ月のコーチングが、Redditに数十億ドルの価値をもたらした」と。
彼が絶賛した、「Mochary Method」をご存知でしょうか?これはOpenAI、Coinbase、Rippling、Notionなど、急成長を続けるテック企業の経営者たちが受けるコーチングメソッドです。
彼らはなぜ、コーチングを受けているのか。そしてそこでは一体、どのようなコーチングが展開されているのでしょうか。
「課題を抱えていた企業が、コーチングをはじめてからたちまち急成長し、成功を収めたケースは多くあります。CEO自身にコーチングの感想を聞くのは、やっていて良かったと思う瞬間ですね。時間と努力を費やし、彼らのビジネスや人生、そして彼らと働くすべての方の人生に、目に見える成果が現れるのですから。これに勝る感情はありません」
2022年11月17日開催の「ALL STAR SAAS CONFERENCE 2022」では、Mochary Method社でChief of Staffを務めるNate Forsterさん(@nateforster_)を招くことができました。ALL STAR SAAS FUNDのマネージングパートナーである前田ヒロが、実際に模擬的にコーチングを受けながら、名だたる経営者に成果をもたらすメソッドについてお聞きしました。
(※この記事は講演内容をテキスト化し、抜粋・再構成したものです)
「テック企業を創る、最高の経営ノウハウを学びたいか?」
前田:Nateさん、今日はよろしくお願いします。このテーマは、僕がずっと取り上げてみたかったことなんです。経験豊かで、熱意を持たれている方とお話しできるのが嬉しいです。まずは、NateさんがCEOコーチになったきっかけからお聞きしたいです。
Nate:紆余曲折があるのですが、Afrajさんという優秀なメンターに出会ったことがきっかけでした。大手テック企業を創業し、売却の経験を持っていて、私はよく彼にアドバイスをもらっていました。
当時、私はOnDeckという会社にいたのですが、6名しかいなかった従業員が300名にまで増えていて、そろそろ自分も次のステージへ進もうと考えていました。そうしたら、Afrajさんが「テック企業を創り上げるための最高の経営ノウハウを学びたいのなら、Matt Mocharyの元で働くのが一番だ」と勧めてくれました。
「Matt MocharyというCEOコーチがシリコンバレーにいる。トップを走るCEOにとっての必読書『The Great CEO Within』を書いた人だよ。OpenAIのSam Altman、CoinBaseのBrian Armstrong、それからSequoiaやAndreessen Horowitz、ParadigmといったVCでもコーチを務めている。ある企業の立て直しを、自らCEOになって成功させたこともある。BrexのCEOも経験して、Naval RavikantとAngelListを成功に導いた実績もあるんだ」
その後、あるイベントで偶然、Mattに会う機会に恵まれたんです。CEOコーチングを学ぶために、参加者12名のみが集まる招待制のブートキャンプでのことです。そこで、Mattから「君とは気が合うし、コーチングもできている。僕のChief of Staffにならないか」と言ってもらえたんです。
前田:日本語で言うなら「僕の“右腕”になってくれ」と言った感じですね。すばらしい。
Nate:それがきっかけで、Mattの元で働き出して1年ほどになります。確かに、私の人生は本当に変わりました。
前田:Mattの実績は実に素晴らしいと思います。僕は投資家であり、コミュニティーを築いて育てる活動をしているわけですが、『The Great CEO Within』は僕の日々の仕事にも応用できることがあって、学ぶところが多い良書です。Mattがコーチングした人たちは目覚ましい活躍を遂げていて、素晴らしいCEOばかりです。中には、デカコーン企業のCEOや数十億ドル規模のファンドマネージャーもいますよね。
Nate:『The Great CEO Within』は、「あの本のおかげで成功した」とソフトウェア企業を創業して資金調達を成功させた友人からも聞きますね。投資家から起業家へ推薦される本でもあるようです。今日は、その本に加えて、私がMattから学んだ知識をシェアできることを楽しみにしてきました。なぜなら、コーチングをした会社の多くが同じような問題を抱えてたからです。
Redditも、Coinbaseも、Robinhoodも、直面していた問題がみんな似ていたんです。会社がある程度の規模になると、必ず発生するパターンとも言えるでしょう。ですから、偉大なリーダーやチェンジメーカーをさらにレベルアップさせることで、多くの人々、そして世界に影響を与えることができるはずです。
前田:僕もすごく楽しみです。CEOコーチとして経験したこと、目にしてきた問題について、ここから深く掘り下げていきたいと思います。
高成長率のテック企業を経営するオペレーティングシステム
前田:まず、Matt Mocharyさんのこと、そして彼が創業したMochary Methodという会社のこと、そして伝授されているメソッドについて、あらためて教えていただけますか。
Nate:もちろんです。まずはMochary Methodの創業ストーリーからお話ししましょう。
Mattは以前にTotalityという会社を創業し、Verizonへ5億ドルで売却したことがあります。その後はサーフィン三昧の生活を送っていたのですが、ある時に「友達が自分の話を聞いてくれなくなったし、誰も付き合ってくれなくなった」と気が付いたそうなんです。
ある友人に尋ねてみると、「Mattは旅行や冒険三昧の生活をしているだろう?ビーチだ、サーフィンだって……そんなふうに電話で話されても、必死に働いているほうは惨めな気持ちになるよ」と話してくれた。Mattは「自分も何かをはじめなければ」と思ったそうです。
まず、彼は映画製作をスタートさせました。サンダンス映画祭などの有名な映画祭にも出品したといいます。その後はCEOコーチとして、Totalityの経営で学んだノウハウをシェアすることにしたんです。Boltなど、数十億ドルの大企業を3社も立ち上げたRyan Breslowさんは「その成功の多くはMattのおかげだ」と、彼のコーチングを評価してくれたそうです。
ClearbitのCEOコーチを務めたことで、その後に『Great CEO Within』を共著で出版しました。この本がシリコンバレーで評判になり、Mattはそのメソッドをさらにシェアするようになりました。
前田:Mattさんのメソッドは、何が特徴なのでしょう?
Nate:一言で表すと「成長率の高いテック企業を経営するためのオペレーティングシステム」です。社内に導入すべき特定のカルチャー、効果的な1on1のやり方、効果的な取締役会の運営方法、管理職を採用する方法、ビジネスOpsの設定まで、多くを網羅しています。
Mattのメソッドはシリコンバレーではとても有名で、トップのテック企業のほとんどが採用しています。OpenAI、Coinbase、Rippling、Retool、それからNotion。彼らのミーティングは、Matt Mocharyが培った方法を基盤にして、みんな同じような構成ですよ。
前田:なるほど。RedditやCoinbaseなど、どの企業も似たような問題に直面するのですね。Nateさんの場合、CEOコーチの初回セッションでは、どういった範囲をカバーするのですか?
Nate:最初のセッションは、実は2回あるんです。CEOが私に連絡してきた時と、初めて顔を会わせる時です。CEOと会うと、だいたい私に対して「なんだ、子供みたいじゃないか。君みたいなヤツが何を教えられるんだ?」と思うようです。そうした“意識の壁”を崩すために、私はすぐに本題へ入ります。自分の知識を伝えるための最良の方法は、そこに価値を見出してもらうことですから。
まずは「今、あなたが直面している最大の課題は何ですか?」と聞きます。「解決方法が見つからないかもしれない」という不安や恐れの原因を聞き、そこから問題を紐解いていきます。そして、そのほとんどは何度も見てきた問題と同じなのです。
そこで「この問題に悩んでいる人は、たくさんいます。この問題に直面しているならば、あなたの会社は成長率の高いテック企業であることを証明していますよ」と伝えると、みんな安心してくれます。そして、問題を解決するためのドキュメントを活用しながら、コーチングを進めていきます。
そうそう、これは忘れないうちにお伝えしておきたいのですが、Mochary Methodの多くは、コーチが「CEOのマネージャー」になるような感じで進行します。ですから、このメソッドを体験したCEOは、「自分の不安や恐れを見極め、思いを聞いてくれる」というマネージャーとはどのような存在なのか、経験を通して知ることができます。結果として、CEOはこのメソッドを自社のマネージャーやチームにも応用できるのです。
Mochary Methodカリキュラムには何が書かれているのか?
前田:「ほとんどは何度も見てきた問題」とのことですが、どういった問題や不安がよく出てきますか?
Nate:CEOが直面する最大の不安や恐れは、社員数が40~50人ほどの段階で生まれてくることが多いんです。「CEOなのに社員全員の顔がわからなくなってきた」という規模になったときですね。
組織の全員を信じられない。みんなが何をやっているのか把握できていない。自分と社員の間にマネージャーができて、結果を出せるリーダーを育てる立場に変わっていく。社員が互いを信頼できていない。組織内にチェンジメーカーがいない。意思決定が遅れる……そういった急成長の過程で必ず生まれる問題が、いくつかあります。
結果としてCEOは「常に問題が持ち込まれているのに、誰も解決方法は持ってこない」と感じるようになります。優先順位の高い要件が溜まっていって、オーバーワークにもなります。目標に向かって積極的に行動させようとしても、会社がある規模を超えると、物事は複雑化していきます。
マネージャーごとにリーダーシップのスタイルが異なっていて統率が取れていないとか、社員が「やる」と言ったことをやらないとか、会社のビジョンにみんなを合わせることができないとか……そうした問題を解決することが、私たちの専門なんです。
前田:とても興味深いです。そうした問題に対処するために、どういったセッションを実施しているのか、ぜひプロセスを教えていただけますか。
Nate:「Mochary Methodカリキュラム」と呼んでいます。『Great CEO Within』の改訂版とも言える内容がまとまったもので、私たちコーチ同士で共有する方針について、すべての項目が記載されています。
今回も、そのドキュメントにある各トピックについて簡単に触れたいのですが、CEOとトレーニングをしている時は、もっとニュアンスまじりの話も含まれるので、この場ですべての要素を伝えるのは難しい点だけ、先にご理解ください。
まず、「On Time and Present」トピックは「時間を守ること」について書かれています。他人の時間を厳守するという考え方について明確に説明し、時間を守れない時の対処法が書いてあります。「お互いに約束を守れるかどうか」は、組織の基盤になります。この最も基礎的な約束が守れないなら、すでに信頼関係は崩れているのです。他人と仕事をするには信頼関係が基本ですから、このトピックでは「どのように約束を交わし、それを守るのか」といった「信頼」に関することが多く語られています。
次は「Top Goal」トピックで、忙しいスケジュールの中で「目標を達成するために、どのように時間を作るべきか」が書かれています。たとえば、「一日の始まりに最優先事項に取りかかる時間を2時間作る」ようにして、気持ちがいたずらに苛立つことがないようにするのです。
「不安と怒りが判断を誤らせる」ということを伝える「Fear and Anger give bad advice」トピックは、Mochary Methodの最重要項目の一つでもあります。不安や怒りを感じている時、脳の扁桃体が活性化します。扁桃体は脳の他の部位に比べて、問題解決に効果的な力は発揮しません。人は、自分の問題に対して不安や怒りの感情を持ってしまいがちです。CEOは経営に関しても、そうした感情に常に振り回されています。
そういった大きなストレス事項に関して、友人から「こうすれば良いんじゃないかな」とアドバイスされて、視界が開けたことがある人もいるでしょう。あるいは、友人に助言する自分も同じように考えがクリアになったり。そうして、自分でなんとかしようとするよりも、ずっと簡単に解決できるのです。このトピックでは不安や怒りの対処法と判断を誤らない方法が書かれています。それは自分を守るために必要なんです。
そして、最後のトピックは「Heard: How to make people feel it」です。「自分の思いをどのように聞いてもらうか」という内容です。相手の不安や怒りを解決して、そこから脱出させ、効果的な意思決定に向かわせるのか。もしくは、相手が苛立っている時に、相手の気持ちに共感していることをどのように伝えるべきか。そして、いかに再び信頼関係を築くことができるのか、といったことが書かれています。
私たちのコーチングセッションでは、CEOが最初に問題を語ってくれるように導くため、まずは「Fear and Anger give bad advice(不安と怒り)」と「Heard: How to make people feel it(自分の思いを聞いてもらう)」というドキュメントから読んでもらうことが多いです。そして、リアルタイムで相手の話を引き出すテクニックを応用して、「不安と怒り」を聞き出し、そこから抜け出すためのサポートをしていくんです。
※本コンテンツの最下部に、「Mochary Method」の一部を抜粋し、翻訳したものを配布しております。ぜひみなさんの会社でも活用してみてください。次は、ライブコーチングです。最後まで本コンテンツをお楽しみください。
ライブコーチングで実践する「聴くテクニック」
前田:なるほど。どんなふうに会話が進むのか、シミュレーションしていただくことはできるのでしょうか。たとえば、不安を抱えるCEOに、どんな会話をするのでしょうか。
Nate:もし良ければ、ヒロさんが直面する問題を、ここで共有していただくことはできますか。それを紐解きながら、私たちの「Heard Technique(聴くテクニック)」を応用して、ライブコーチングしてみるのはいかがでしょう?
前田:ぜひやってみたいです!でも、緊張しますね。
Nate:では、はじめましょうか。
効果的なフィードバックのための「5つのステップ」
前田:双方向のフィードバックテクニックについても聞かせてください。先ほど、僕の話に対してフィードバックをくれましたね。これは、優秀なコーチとして最も大事なことだと思っています。その他にも効果的な方法はどんなものがありますか。CEOが直属の部下にフィードバックしたり、逆にフィードバックを受け取ったりするにあたって。
Nate:フィードバックは、経営でも最も重要なポイントであると同時に、与えたり受けたりするのが本当に難しいことです。不安や怒りの感情が湧いて、効率的に行動できなくなったりもします。
スピードと質を上げるためには「フィードバックのループ」を社内で持つことが、何よりも大事でしょう。効果的なフィードバックのためには5つのステップがあります。
ステップ1は、頼むこと。積極的にフィードバックを求めるんです。機会を与えないと自分の考えや感じていることを正直に言えない人も多いので。
ステップ2は、フィードバックを認めること。ここで「Heard Technique」を使って、自分が相手の話を聞いていることをわかってもらうんです。フィードバックを真面目に考え、理解する努力をしたことを示します。
ステップ3は、感謝です。フィードバックそのものが難しいことですから、真のギフトなんです。感謝をしましょう。特に、あなたと一緒に仕事をしている人たちは、他の多くの人たちが見ていない形であなたを見ています。あなたが次の大きな成長のステップを踏むための鍵を持っているかもしれません。
ステップ4は、受け入れるかどうかです。「素晴らしいフィードバックをありがとう」と言えるかどうか。「これとこれをやってみます」や「フィードバックを理解しました、ありがとう」と肯定したり、一方で「こういう理由があるからフィードバック通りにすることはできない」と返したり。
ちなみに、私は同意しやすいので、もらったフィードバックをちゃんと生かしたいと思うタイプです。ただ、身の回りがフィードバックだらけになって振り回されるのは嫌ですよね。それから、不安や恐れに基づくフィードバックをする人もいますが、それはあまりいいものとは言えません。
ステップ5は、行動です。フィードバックに基づいた行動があると、とても深い信頼関係が生まれます。フィードバックをきちんと聞いて、受け入れ、実際に行動へ移したことを示すのです。そして最後に「やってみたよ」と伝えれば、仕事上の関係が築けます。
効果的なフィードバックのための5つのステップをしっかり実践して、チームにもこの方法を教えてあげると良いでしょう。そしてヒロさん、あなたはもう勘づいていると思いますが
今回のコーチングセッションに対して、私へのフィードバックもお願いしたいのです。全セッションを実施できたわけではないので、あくまで模擬的ではありましたが、今回のミニコーチングを体験してみて、どうでしたか?
前田:どのようにNateさんへフィードバックをお返しすると良いですか?
Nate:このフィードバックの与え方にもフレームワークがあって、1から5の間でレーティングを付けてみてください。期待以下なら「2」、期待通りなら「3」、期待を超えたら「4」を付けてください。「5」はパーフェクトですが、滅多にありません。
ちなみに、レーティングが低ければ低いほど、それはより信頼できる評価です。なぜなら、低い評価を付けるのはとても難しいことですが、多くの場合、そこには最高に価値のあるフィードバックが眠っているからです。社員に対して、CEOが辛口のフィードバックを推奨するのは良いことだと思います。そうすることで、フィードバックを感謝して受け取るという行動の模範になれるのです。
では、ヒロさん。レーティングを付けるとしたら、どうしますか?あとは、良かったことや、「もっとこうして欲しかったこと」などはありますか?
前田:全部をカバーしたわけではない中で、強いて言うなら「4」ですね。「僕が最も恐れていることが何か」を見極める手助けをしてもらいましたし、能力に対する不安に関する話もできました。自身の能力が不足している分野において、どう対処するべきかが少し見えた気がします。チームの時間の使い方とか、自分の時間の使い方とか、色々なアイデアが溢れてきますから。これはすごく良い体験でした。
あとは、もっとこうして欲しかったこと、ですよね……。
Nate:そう、そこに価値があるんです。もし、私に対して嫌だと感じた点をシェアしてくれなかったら、私の成長機会を抑えてしまっていることになりますから。
前田:個人的な好みかもしれないのですが、僕は進み方の速いディスカッションを好むんです。コンサルティング的なコーチングだと、そもそも難しいのかもしれないのですが、僕自身の好みから言えば、進行のテンポが気にかかる点ではあったと思います。
Nate:なるほど。限られた時間の中でのコーチングセッションなので、進み方が早い会話のほうが良いと。もっと早く進めることで、より多くの情報を渡せるし、より「ジューシーな部分」にもっと触れることができる。最初のパートに時間をかけすぎなければ、抱えている問題を解決することだってできるかもしれない。合っていますか?
前田:そうですね。その通りです。
Nate:ヒロさん、ありがとうございます。とても質の高いフィードバックをいただきました。どこまで不安を掘り下げるべきかについては、私もよく頭を悩ませるんです。いただいたフィードバックを、しっかり受け入れたいと思います。ヒロさん、ぜひまたセッションをしましょう。
前田:ぜひ、お願いします。楽しみにしています。
人生は「無能、有能、優秀、天才」の4ゾーンに分けられる
前田:先ほど紹介いただいた「Mochary Method」カリキュラムの中に、「Zone of Genius」というパートがあるのを事前に拝見しました。僕はあのパートが一番好きだったのですが、どういう内容で、どのように役立つのか、プロセスなどを含めて説明してくれますか?
Nate:もちろんです。ちなみに「Zone of Genius」を気に入ったと言ってくれる人はあまりいないんですよ。さすがですね。このパートがお気に入りなトップコーチもいますよ。
まず、人生には4つのゾーンがあるんです。「無能」「有能」「優秀」「天才」です。自分より他人の方が良くできることが「無能ゾーン」に入ります。私の場合は、車の修理はからきしダメで、いつも父やプロに頼みます。やっても楽しくないですし。
「有能ゾーン」は、まあまあの部分です。特に優れてもいないけどできる、みたいな感じですね。「優秀ゾーン」は、極めてよくできること。スーパースターになれるけれど、面白いとは思わないこと。「天才ゾーン」は、自分だからこそできることで、達成感が得られるものです。
「Zone of Genius」は、すべての行動を「無能ゾーン」から「天才ゾーン」へできるだけ近づけるためのものです。
前田:どのような点に注意すべきですか?
Nete:実は「優秀ゾーン」を特に避けるようにしないといけないのです。なぜなら、「優秀ゾーン」には、本当は「天才ゾーン」に行けるのに進ませないような、怖い魅力があるからです。
プロダクトやビジョンについて語らせたら「天才ゾーン」にいるCEOと話すことが多いのですが、彼らは企業の経営は苦手だと感じていたりします。そして、罪悪感を抱くんです。「役員たちと1on1をし、彼らに委任することができていない。自分はCEO失格だ」と言う人が多いのです。でも、それは違います。そういう仕事を「天才ゾーン」とするChief of Staffや、COOを雇えば良いのですから。
CEOは、自分の得意な分野に集中すればいい。楽しんでやっている人と競争することは難しいですからね。これによって、競争に勝つことができるかもしれないとしたら、やらない手はないでしょう?
前田:とても興味深いです。誰がどのカテゴリーにはまるのかを見分けるということなのでしょうか。それは、どのようにすれば可能ですか。たとえば「昨日や先週、その人が何をしていたのか」をディスカッションするなど?
Nate:「天才ゾーン」は、あなたが感覚でわかることであり、自分で判断することができます。「やっていて楽しくて仕方がないことは何か」を考えてみるんです。
他者へ聞いてみることもできますね。「私が一番優れていることは何だと思いますか」「あなたから見て、私が楽しく、達成感を感じながらやっていると思うことは何ですか」「私が嬉しくて仕方なさそうに見えるのは、何をしている時でしょうか」みたいに。あとは「私が人より下手だと思うのはどんなことでしょうか?正直に教えて欲しいです」とか。
それから「得意そうだけれど、好きそうには見えないことは何だと思いますか?」と最後に聞くのもいいですね。こうして、職場の全員を4つのゾーンに振り分けてもらうんです。組織としての盲点を見つけるために。
前田:同僚や仕事で一緒になる人からのフィードバックをもとに、「天才ゾーン」などを振り分けるということですね。
Nate:その通りです。トップ起業家の多くが、身近な人のフィードバックは成長につながる「金」の価値があると言います。
優秀なコーチと優れた経営者には、類似点がたくさんある
前田:創業者のMattさんについて、近くで見てきたNateさんに聞いてみたいのですが、なぜ彼はずば抜けて他のコーチとは違うのだと思いますか?
Nate:彼は謙虚で「たまたまラッキーだっただけ」とよく言いますが、それに加えて「たった一つ優位性があるとすると、嘘をつかないことだ」と。ただ、私からすると、Mattの優れている点はたくさんあると思っています。
まず、常に基本へ立ち返ること。会社経営の成功に必要なことを、はっきりと理解しています。そして、キラキラ輝くうわべだけのもの、高度すぎるテクニックに人々が囚われないようにさせます。優秀なバスケットボールのコーチが、ベストプレーヤーにも基本を教えるのと同じです。Mattは基本に戻って、しっかりそれをマスターさせるのが偉大な点ですね。
そして「問題領域」に入ったら、基本的な視点で考えてみる。もうその時点で、彼には答えが見えているんです。さらに、Mattはストーリーテリングの力がとにかく凄い。相手の行動に変化を起こさせることができる才能です。人間は、感情レベルに合わせて行動を変えたがる生き物です。Mattは話が上手いので相手の心を掴み、いつの間にか話に夢中になります。
「今、教えてもらっていることを行動に移さなければ」と相手は必ず考えるんです。コーチングでは、CEOが問題を抱えていて行動を変えられないでいる時、その考え方を瞬時に変えてしまえるような話をします。Mattがずば抜けていることに関してはいくらでも話せますが、まず思い浮かぶのは、こういった点ですね。
前田:なるほど。今まで多くのコーチングをしてきたNateさんからすると、「優秀なコーチの資質」は何だと考えますか。オンボーディング中の相手が、優秀なコーチになれるとわかるきっかけのようなものはありますか。
Nate:いい質問ですね。コーチングチームをスケールさせる中で、この点について考えていたことがあったんですよ。
優秀なコーチになるにはトレーニングが必要ですが、トレーニングしにくい人もいます。特に難しいのが、コミュニケーション力です。コーチング相手に話を聞いてもらっていると思わせられるかどうか。相手に「話を聞いてもらえている」と思わせるのは高度なスキルなんです。自分が相手の立場に立てないとできません。相手の感情を受け取って、それを表情で示し、相手に見せられないといけません。
相手が言ったことをよく覚え、自分が理解したことを文章にまとめて伝えられる能力も必要です。相手に自分の意見を押し付けていると思わせてもいけないし、理解されていないと感じさせてもいけません。共感力やEQが高くないといけないんです。カリキュラムや基本項目、会社を創業するためのフレームワークや方法、経営理論は教えられますが、共感力やEQは教えられませんから。
前田:なるほど、優秀なコーチになることと、優れたマネージャーや経営者になることには、類似点がたくさんあるんですね。信頼を得るには信頼されなければならないので、共感力も大切。とても重要なエッセンスに感じますし、類似点があるのはとても興味深いです。
Nate:そうなんです。Mochary Methodはコーチングのテクニックでありながら、非常に強力なマネージメントテクニックでもあり、効果の高さも証明されていると思います。また、教えることで効果的に広められるものでもあります。
CEOがそれを学習すれば、役員も管理職も学べる。そして、個別の投資家たちも学習できます。それにより、組織全体に統一感が生まれて、成功に向かって進めるのです。
前田:今日は本当に素晴らしいセッションになりました。ありがとうございます。もう一つだけ質問させてください。CEOが、今日からでも取り組めることは何でしょうか。より良いCEO、かつコミュニケーターになるために、アドバイスをいただけたら嬉しいです。
Nate:私たちのカリキュラムを開いて、今すぐ読んでみてください。まずは「On Time and Present」のパートです。そして、「Fear and Anger give bad advice」「Heard: How to make people feel it」「Top Goal」を読んだら、「自分は生活の中でこれらを意識できているのか」と自問してみてください。
「On Time and Present」と「Top Goal」は、ドキュメントが提案するレベルで実行できていないことがほとんどなんです。それらを実行できれば、ドキュメントが示す多くの成果が見込めるはず。次に、フィードバックのパートから、ミーティングのパートへと読み進んでみてください。効果的なミーティングは会社経営における最も重要なことの一つですから。
最後に、意思決定のパートです。読むだけでも丸一日以上かかると思うのですが、重要な順に項目を並べてあります。CEOがテキストの各項目を読めば、たちまちリーダーシップの質が大転換すると思います。
前田:素晴らしい!リンクを貼って、みんながすぐにアクセスできるようにしますね。最後に、今日このカンファレンスに参加している皆さんへ、メッセージをお願いします。
Nate:私たちは会社を創業し、育てるための応援をしています。これは世界で最も困難なことの一つです。これほどの困難を乗り越えて、世界を良くしようとしています。あなたの成功に私も熱い気持ちを持って向き合いますから、いつでも連絡してください。
私のTwitterアカウントは、@nateforster_です。気軽にDMを送ってください。いつでもサポートしますよ。ソフトウェア企業をはじめ、非常に困難な問題を見てきたので、私には恐れるものもありません。いつでも力になれるはずです。
前田:今日はコーチングを受けられて光栄です。長い時間ありがとうございました。
Mochary Methodカリキュラム資料抜粋[翻訳版]は、こちら