最近、こんな声を以前より見かけるようになりました。「コロナ禍でリモートワークになったのはいいけれど、人に会わないせいか、メンタルがどうも不安定で……」など。
多くの人にとって、かねてよりの課題であったはずですが、孤独の状態が人にもたらす影響が、じわじわと大きくなっているかのようです。
その孤独と、常に向き合い続けるのは、経営者やリーダーの宿命ともいわれます。では、最前線で経営や組織をリードする人々は、誰しも自分なりの“メンタルヘルス術”を持っているのでは?
そんな問いから、ALL STAR SAAS FUNDでは「10分直球インタビュー」として、5名に下記3点について尋ねてみました。
- 精神を安定させるための習慣はありますか?
- ツラいとき、どのように乗り越えていますか?
- あなたにとっての「精神安定剤」はなんですか?
今回ご協力いただいたのは、Goodpatch・土屋尚史さん、dely・堀江裕介さん、hacomono・蓮田健一さん、READYFOR・米良はるかさん、Sansan・山田ひさのりさんです。
彼らはいかなる術を持ちうるのか。5名に聞いてみると、図らずも共通点を感じます。どのような感想を抱いたか、あるいはみなさんのメンタルヘルス術も、ぜひSNSなどを通じて教えてください!
Goodpatch 土屋尚史さん
1:精神を安定させるための習慣はありますか?
僕は精神がタフなんで、あまり必要としないところもあるんですが、「笑う」っていうのはすごく大事だと思います。バラエティーでも映画でも構いませんが、エンターテインメントで気を紛らわす。最近だったら、TikTokがいいですね。相当、ぼーっとなれますから。
2:ツラいとき、どのように乗り越えていますか?
もし、他の起業家からこんなふうに聞かれたなら、その人が決定的な鬱に入っていない状態であれば、コーチングを勧めるかもしれません。頭の整理をしてもらった方がいいですね。
僕はエグゼクティブコーチを1年間受けていたことがあるんですが、自分の頭の状態を、いかにメタで捉えるかが大事です。僕も経営メンバーには、その時にちゃんとアセスメントでフィードバックをもらったのですが周りからすると、コーチングを受けた前後でめちゃくちゃ変わったらしいです。
3:あなたにとっての「精神安定剤」はなんですか?
やっぱり、家族。一番大きな存在ですね。
どの起業家も24時間365日、常に事業のことを考え続けて、休みなんてないじゃないですか。マインドの中にも、ずっと仕事が存在している。それを強制的に頭の外へ出すためのきっかけが必要で、僕にとってはそれが家族だったんですよね。
会社が組織崩壊している頃、ボロボロになりながら帰ってきたら、子供が駆け寄ってきて。抱きついてきたり、寝かしつけたりするタイミングに、どうあっても仕事を強制的に忘れさせてくれた。家族の時間に、当時、かなり助けられたと思いますね。
dely 堀江裕介さん
1:精神を安定させるための習慣はありますか?
基本的な考え方としては、メンタル系の問題が起きるのは会社が停滞しているとき。結局は、会社や自分のパフォーマンスを上げるために、改善につながる「何か良いこと」を少しでも積み重ねることが重要かな、と思っていて。少なくとも前進をしている実感を得られると、寝る前の充実感やメンタルヘルスに影響が出てきます。
僕はアプリで「10分の習慣管理」をしています。自分なりのToDoリストを作って、スマホのホーム画面の一番上へ常に置いていますね。たとえば、木曜日なら「有酸素運動」で、日曜日には「腕の筋トレ」とか、健康だけでなく英語力改善やビジネスのインプットまで、ジャンルはいろいろと分けています。
ジャンルは何にせよ、実行することで満足感を得られたり、成長できる可能性が高いと思われたりすることを登録しますね。達成感を味わいやすいように、あまり大きな目標にせず、小まめに切るのがポイント。「英単語40個を覚える」だけでも、「今日も進んだなぁ」って思えることは、経営者にとっての本質的な精神を安定させる習慣かなと思います。
2:ツラいとき、どのように乗り越えていますか?
問題は「改善が可能なもの」と「考えても仕方のないこと」に分かれると捉えていて。前者なら改善の積み重ねを習慣化して、着実に進めていく。でも後者の問題は、開き直った方が時間効率が良いと思うんです。
後者のようなネガティブなループから離れるために、僕はサーフィンや筋トレによく行きますね。波に乗っていると、ふと東京で仕事していることが、どうでもよいことのように思えるときがあるんですよ。「あぁ、自分のしていることは、ちっちゃいなぁ。どうでもいいか、しょうがないよな。人間、いずれ死ぬんだから」みたいに、自然の中で割り切る。
そのリフレッシュが済んだら、解決するためには本質に向かわないといけませんから、何か改善のために積み上げられるものを探すために、本を読むか、人にたくさん会います。僕は過去の経験上、この2つ以外で問題解決のきっかけを得られたことは、あまりないですね。
自分の頭で考えても何も解消しない。詰まっているときは、新しい刺激を入れていきます。特に読書なら、スティーブ・ジョブズでも、イーロン・マスクでも、孫正義でも、すぐに本を通じて話を聞けますから。人に会うのは良い面もあれど、不確実性が高いともいえます。コントローラブルな方法で解消したいと考えたときに、ぴったりなのが、本なんですよ。
3:あなたにとっての「精神安定剤」はなんですか?
経営者は「俺は孤独だ」とか「俺しかこの問題を考えていない」とか、自己嫌悪や孤独感を勝手に覚えてストレスを抱えるケースが多いと思っていて。でも、僕はそういうのは仲間に共有しちゃいます。「今、こういうところがツラくて、こんなところが不安でイライラしてる」みたいに。
普段は現実的な話が多いから、あえて業務時間外や休みの日に、オフィスでないところで。メンバーとアジェンダを持たずに話して共有できると、僕が不調な理由も相手は理解してくれるし、自分ひとりではなくみんなでこの問題に向き合っているんだ、と再認識できる。話す相手は、創業期から近くにいて、僕のバックグラウンドもよく知るメンバーが多いです。
不調なことだけでなくて、「ありえない夢」も作ります。ベンチャーなのに、どうも悩みが現実的になっちゃうんで、それがつまらないんですよ。目標ができれば意外とワクワクするし、目標さえできれば達成の補助線を引いて解像度を上げていくだけ。目標ができれば、8割はもう完成したも同じです。ワクワクする目標を仲間と共有するのは大事ですね。
hacomono 蓮田健一さん
1:精神を安定させるための習慣はありますか?
10年ほど続けているランニングは、精神安定剤になっていますね。
hacomonoを立ち上げる3年ほど前、私は潰れかけの会社を継いで経営に当たっていました。東日本大震災で会社の一部門が全く売上も出なくなり、継続が難しくなるほど厳しい状況。その会社は周りが畑ばかりの田舎にあって、自分はもともとIT企業でエンジニアでしたし、文字通りの“畑違い”でわからないことだらけ。孤独でもあり、わからないことが多く、社員とも現場の話ができない状況で。
そんなとき、ふと、ランニングでもしてみようと。ゆっくり走り出したら、呼吸が整うし、なんだか脳もすっきりする。これはいいぞ、と習慣化して、せっかくやるなら目標を持ったほうが面白いと思って、地元のロードレースに定期的に出場するようにもなりました。
今も平均的には週4回ほど、毎月最低100km、多い時で200kmは走っています。友達同士で走行距離も見られるランニングアプリで記録しているから、モチベーションが上がります。
あとは、毎月必ず「会社・個人の目標」と、毎朝に「今日やること」を書きます。毎朝、40分くらいかけて、仕事、会社、チームビルディング、プライベート、家族みたいに項目ごとに分けて設定しますね。達成感があることを5つでもやれると、ストレス解消も含めて、精神安定剤みたいな習慣になっていると思いますね。
2:ツラいとき、どのように乗り越えていますか?
以前の会社を経営していて、人生最強につらい時期がありました。月末になると、本当にお金が足りないんです……自分のお金は当然入れ、妹に頼んでカードローンで借りてもらったり、銀行の借り入れも延滞して……もう自己破産しようか、と思うほどでした。
私の妻はすごく明るい性格で、子供たちとテレビを見て、いつでも楽しく大笑いするような人なんです。妻は経理を務めていましたから、会社の窮状は知っているはず。私は頭の中がいっぱいいっぱいで、「よくこんなにツラいのに笑っていられるね」と言ってしまったんです。すると妻から「そんなにツラいんだったらやめちゃえば」って、返されたんですよ。
その一言に、自分は、めちゃくちゃやめたくないな、と思いました。社員は40名いて、仕事に責任感もあるし、仕事も介護業でしたから、地域の中での社会的意義もある。妻のシンプルな一言が、これは絶対にやめてはいけない仕事で、自分は経営者という仕事も好きなのだと気づかせてくれた。ピンチのときには、あの妻の一言を思い出す習慣ができましたね。
3:あなたにとっての「精神安定剤」はなんですか?
子供です。幼い頃は、朝起きたら必ず抱っこしていました。やっぱり、無償の愛は大切なのだな、と思っていて。期待され、嘘のない、安心できる中で生きてほしいという想いを寄せること。それから、自分も子供もデザインや想像が大好きなので、一緒に何かを考えている時間は、本当に精神安定剤になっていますね。
メンタルが落ち込む悪い原因って、つい人に向けがちなものです。自分は心の中で、常に実績につなげるためにも、良い意味で「あまり人に期待しない」マインドを持つようにしています。前提として、チームやメンバーには大いに期待しています。ただ、その人がパフォーマンスを発揮できないプロセスや状況、それこそ運なんかも影響してきてしまう。
「人」ではなくて、それらの「周辺」に目を向けるようにすると、人に対するストレスがあまり高まらずに、自分がすべきことが見えてくる。そのほうが、人を巻き込んで解決にも向かいやすいと思うんです。相手に期待するのではなく、自分から与えることを心がけています。
READYFOR 米良はるかさん
1:精神を安定させるための習慣はありますか?
デジタルデトックス的な意味でも、本を読むことですかね。できるだけ、古い本が良いです。事業をやっていると、意思決定を毎日しなければいけないし、大変なこともたくさんある。どうしても近視眼的になりがちだなぁと、モヤモヤしていたんです。
それで、自分という存在を遠くに置いてくれるような時間を無理やり作ろうとしていて。哲学にハマったり、理系の本を読んだり、自分が抗えない考え方と向き合うと、自分がモヤモヤしていたことが、すごく小さく感じてきて。
旅行も、自分の環境を変える効果がありますけど、取り入れやすい方法なら読書ですね。
2:ツラいとき、どのように乗り越えていますか?
言語化されていれば家族とかに言ってしまうことが多くて、モヤモヤしているままだったら書き出してみます。「こういうことで自分は戸惑っているんだ」と確認するようにしている感じですかね。
起業家はイシューがわかれば解決できることが多い気もするので、原因を特定することが大切。これだけ資本主義が膨らんでいる社会の中で、スタートアップの差別化要因は「集中力」だと思います。自分の状況を把握することを何らかの方法で実現するためにも、コーチングを受けるのもいいかもしれません。
3:あなたにとっての「精神安定剤」はなんですか?
問いかけに何でも返してくれる夫が精神安定剤なのかな、と感じています。本当にいろいろ学べて、気づきが多いです。会社の事業についてというより、問いに対して「何を考えたのか」を聞けるのが良いですね。
Sansan 山田ひさのりさん
1:精神を安定させるための習慣はありますか?
コロナ禍に限らず、僕は「早く寝る」がメンタルヘルスの秘訣なんです。22時には寝て、8時間以上は睡眠をとって、朝6時ぐらいに起きるスタイルです。
他で言うと「無意味に外に出る」ですかね。電車のローカル線が近くに走っていて、終着点まで乗って、その間は本を読んだりPCで仕事したり。日常的な風景になんだか気持ちが安定させられる感覚があって、人が行き交う場所に行くと寂しさが紛れる気がしてるんですよね。自転車に乗って近くの商店街にあえて行ってみるのも週に何度かしています。
人の流れを見て自分も社会の一員と感じること、それからNHKの朝のニュースを見て社会が動いていること。そういうふうに社会の中で自分を意識するのが大事かもしれません。
僕は合気道が趣味なんです。週に一度は勤しむのを習慣化していて、そこで人と話したり、体を追い込んだりすることは徹底してます。あとは、体操します!起きたら体が硬くなっているので、ストレッチポールでゴロゴロと……。
あとは買い物は月に一度くらい、無印良品に行って、自分の生活に支障をきたさないレベルで目いっぱい買い物しているのが、よく効いていそうです。部屋着や靴下、タオルといった消耗品、定期的に新しくする買い物で発散をしています。
2:ツラいとき、どのように乗り越えていますか?
お気に入りの漫画を読みます。井上雄彦さんの『バガボンド』7巻はピンチになると必ず読みますね。嫁が言うには、半年に1回ぐらいは読んでるらしいです(笑)。7巻って、ちょうど(主人公の)宮本武蔵が絶望しているシーンなんですね。修行して、絶望の最中で意味を見いだせずに頑張る心に同情しているんだと思います。
3:あなたにとっての「精神安定剤」はなんですか?
合気道を続けています。武道において大事だと教わったのが、失敗したことを引きずると負けてしまうから、なるべく忘れる。それが武道家の強さの一つで、むしろ一番大切と捉えています。忘れないけど忘れる。ちょっと禅問答みたいですけど。
僕の座右の銘は「人は『恥』のために死ぬ」です。要は、後悔の念を持ってしまうと、人は敗北に追い込まれるということだと思っています。なぜ、僕はこうしなかったんだ、と捉われると前に進めなくなってしまう。自分自身を追い込んでしまうのはよくあることだと思うので、はまりこまないように気をつけていますね。
-----------------------------
SPECIAL THANKS TO:
インタビューへのご協力ありがとうございました!
株式会社グッドパッチ 代表取締役社長 土屋尚史さん(@tsuchinao83)
dely株式会社 代表取締役 堀江裕介さん(@yusuke_horie)
株式会社hacomono 蓮田健一さん(@kenhasuda)
READYFOR株式会社 創業者兼代表取締役CEO 米良はるかさん(@Myani1020)
Sansan株式会社 カスタマーサクセス部 カスタマーサクセスストラテジスト 山田ひさのりさん(@hisyamada)