メンバーの成長サポートは、マネージャーにとっての重要な役割の一つです。まずは一般的な研修を経て、基本的な育成ナレッジを身につけた後は、実務を通じた成長の支援が求められます。
その際、気をつけるべきポイントは、メンバーそれぞれの「学習スタイル」を踏まえたコミュニケーション。誰もに「強み」や「弱み」があるように、実は学習スタイルも様々であり、特徴に合わせるべきだといえます。
そこで、今回は「成人学習理論」をもとに、学習スタイルの特徴、よくあるマネジメントにおける過ちについて、海外B2B SaaSの日本チームでマネージャーなどを務めてきた私の組織開発の経験を交えながら、ポイントを整理してみました。
リモートワークが常態化する中、オンライントレーニングの機会や業務マニュアルをしっかり整備し、場所を選ばない学習環境をつくることが大切ですが、そこでも役に立つ考え方です。
主な学習スタイルは「分析思考型」「行動型」「観察型」
マーカス・バッキンガムが著書『最高のリーダー、マネジャーがいつも考えているたったひとつのこと』(日本経済新聞出版)で提唱した成人学習理論によると、主な学習スタイルは3種類に分類できます。「分析思考型」「行動型」「観察型」です。特性は独立したものではなく、組み合わせる人もいます。
まずは、3つのスタイルを把握しておくことで、マネージャーはメンバーに合わせてサポートしやすくなるでしょう。
①分析思考型
<特徴>
・物事を要素分解し、自ら時間をかけて理解しようとする
・念入りにミスを最小化するために準備する
<育成のポイント>
本人の業務や役割を丁寧に要素分解し、論理的なコミュニケーションが重要です。次第に粒度の大きな仕事を任せることで、自ら細かくタスクを分解し、パフォーマンスを発揮してくれます。
ポイントとしては、必要な情報と時間をしっかりと与えること。1on1の際には、特に細かい指示を与えず、マネージャーは高い視座からアウトプットに対して不足している観点や改善点を提案することで、エンゲージメントを高められます。
②行動型
<特徴>
・とにかく実践し、試行錯誤しながら理解を深めていく
・未知の状況でも勇気をもって対応しようとする
<育成のポイント>
最低限の知識やスキルを獲得したら、すぐに役割の範囲内でチャレンジできる機会を創出し、対応させてみましょう。間違いやミスも学習の一つだと考えて果敢に取り組むため、裁量権を与えて仕事を任せることで、自ら成功の確度を高めることができます。
1on1などでは、すぐに行動に移せるような具体的なアドバイスを求めていますから、抽象度を落としたフィードバックがポイント。
目立つため、周囲から可愛がられることが多いタイプです。ただ、商談や企画の「詰め」が甘かったり、コンプライアンスやセキュリティ周りでのリスクに注意。
特にSaaSのような分業型のビジネスモデルの場合は、カスタマーサクセスなどの後工程からクレームが発生するなどして、全体のパフォーマンスを下げないように確認することがマネージャーには求められます。
③観察型
<特徴>
・全体像や一連の流れを観察し、理解を深める
・他の社員の取り組みを観察し、模倣しながら学習する
<育成のポイント>
観察タイプは、一方通行型の研修やロールプレイ、マニュアルなどの一般的なプログラムだけだと自立までに不十分なことが多くあります。マネージャーとして最も避けなければいけないのは、ポテンシャルを過小評価してしまうことです。
分析思考型や行動型のように、実践の場や抽象度の高いタスクを与えてもアウトプットできないケースも多くあります。結果として自己肯定感が下がり、不本意な形で転職や休職することも……。
このタイプにもっとも効果的なアプローチは、ハイパフォーマーとの商談や会議の同席です。職種がセールスやカスタマーサクセスであれば、オンライン商談の録画データを見せるのも良いです。
1on1では、同席した会議や商談を振り返ることに加えて、ハイパフォーマーの言動を題材に思考プロセスを追ってみましょう。つまり、「なぜそのような言動をするに至ったのか」の解説を加えてあげるのです。理解がより深まり、立ち上がりが早くなります。
学習スタイルを見極めるには「フィードバックの活かし方」に着目する
メンバーの学習スタイルを瞬時に見極めることは難しく、マネージャー自身で一緒に仕事を進めながら感じ取っていかなくてはなりません。
見極めの方法のひとつとして、私自身の経験則を共有すると、メンバーがフィードバックを受けた後に「どのようにそれを活用しているか」に着目いました。
一例として、分析思考型タイプは、抽象的な内容でも自分なりに解釈し直して、資料のブラッシュアップに繋げていました。
一方で観察タイプは、フィードバック後の商談で修正点を意識しようとする姿勢が見られました。
このようにフィードバックの活かし方の違いに注目することで、メンバーの学習スタイルの解像度を高めていくことができます。
また、人の成長は複雑で多様ですから、こうした枠組みを当てはめすぎないことも忘れないようにしたいところです。本人のスキルや態度だけでなく、「成長を妨げている要因は外部にあるのかもしれない」と、取り巻く環境にも気を配ることが、成長につながります。
メンバーの「強み」を共通言語にする
メンバー同士で成長をサポートし合う環境を実現できれば、さらに組織全体の成長が深まります。そのためには、マネージャーと個別のメンバーだけでなく、メンバー間でも強みや学習スタイルを共通言語として捉え、共有していくことが必要です。
そこで、私が2020年に、B2B SaaSの日本チームで、実際に取り組んだ事例として、ストレングスファインダーを使用した、オンライン飲み会の企画をご紹介します。
【事例】「ストレングスファインダー飲み会」
企画背景
リモートワークが続き、対面のコミュニケーション量が減っている弊害として、「既存社員と中途社員間での隔たり」と、「中途社員が会社への貢献に不安を抱えていること」がわかりました。
そこで、アメリカのギャラップ社が開発した、人の「強み」を可視化するテスト「ストレングスファインダー」を用いて、結果に基づくエピソードをこれまでの取り組みからメンバー同士で伝えてもらいました。それにより、「強み」の共通言語化と、メンバーのエンゲージメント向上が目的です。
当日の流れ
あらかじめ、個々人でストレングスファインダーを受験(所要時間40分程度)してもらい、結果をチームメンバー全員に共有しておきます。私が使用したのは「クリフトンストレングスの上位資質(トップ5)」というテストになります。
テストを受けると、「強みの洞察ガイド」が提示されますので、これを主には用います。たとえば、下記のような結果が出ます。
・上位5つの資質
・それぞれの資質について解説
※GALLUP社HPよりサンプルイメージを転載
当日は、この会の企画趣旨を説明した後、それぞれの受験結果について画面を共有しながら、以下のような形で進行しました。
1.受験結果に対して自己評価する
2.他のメンバーが、その人の「強み」に紐づくエピソードを語る
3.マネージャーからコメント
4.これからの意気込みについて共有
これを全メンバーで実施していきます。注意点としては2のエピソードを語る際に、否定的な発言をしないように予め伝えておくことです。安心・安全な場の醸成につながります。
<結果>
初めは、自分のことを語らなければなりませんから、少しの恥ずかしさや緊張感が残ります。しかし、自己開示と他者からのフィードバックが自然にできますので、一気に「関係の質」を高めることができたと思います。
また、ストレングスファインダーという、すでに体系化された「言葉」と「その解説」を参照できるため、他のメンバーも安心して発言がしやすいようです。マネージャーはその後のマネジメントに役立てることもできます。
リモートワークが長期化する中でも、学習スタイルを理解し、マネージャーが率先して成長環境の構築することで、皆様のチームのエンゲージメントを向上させていきましょう!